★14−4★
朝。鳥のさえずり。客間。全身キスマークの新次郎。隣でニコニコのラチェット。あんぐりな大神、花組、由里、椿。怒りで震える双葉。
「〜〜こんのメリケン女ぁっ!!うちの新君をキズものにしやがってぇっ!!」
「まぁ!誤解ですわ、お義母様。私は新次郎君とお話ししていただけです」
「〜〜これのどこが話だけだぁっ!?っていうか、誰がお義母様だああっ!?」
「いやん、嫁姑同士仲良くしましょうよ〜」
木刀で殴りかかる双葉。笑ってよけるラチェット。切なく泣く新次郎。
「うぅ、一郎叔父ぃ、15で…15で僕は……」
「〜〜お、おめでとう…でいいのかな?」
「そんなことより、アイリスもラチェットもいつの間にいらっしゃって?」
「言ってくれりゃ迎え行ったのによぉ。ラチェットはマイペースだからいいとして…、アイリスは何で夜中に来たんだ?」
「せや。うちらと一緒に来るはずやったやろ?何かあったん?」
うつむくアイリスを見るマリア。ラチェットを見てつんとするかえで。
「ラチェットさん、見つかってよかったですね、キュートなジャパニーズボーイ!」
小声で話し、ウインクするさくら。ウインクし返すラチェット。
「〜〜許さんぞ、メリケン〜っ!!」
「――やぁ、皆、おはよう!今日は絶好の儀式日和だなぁ…ってああ〜っ!!」
ラチェットのよけた木刀が加山の顔に直撃し、倒れる。一緒に来たかすみ、慌てて加山を揺する。
「〜〜か…っ、加山さんっ!?」
「あ、加山君、来てたのか」
「おはようございます、加山さん!」
「〜〜お…、おはよう…」
のびている加山の横から入ってくる先巫女。
「何じゃい、こんな所で寝とると風邪ひくぞい」
「おはようございます、先巫女様!」
アイリスを見る先巫女。不安に見つめるアイリス。
「……あやめは先程、試練の間に入った。米田殿に付き添われてな」
「〜〜っ!!」
「そうか!いよいよ最後の試練ってわけだな!」
「これが成功すれば晴れてあやめさんは巫女に、隊長と夫婦ってわけね」
「お前さんらも見たけりゃ入っていいぞ。くれぐれも邪魔はせんようにな」
「は〜い!」
「ほれ、お前さんもさっさとせんか!藤枝の人間じゃろうが」
「…るっさいわね、いちいち」
さくら達に続いて出ていくかえで。残ったアイリスに近づく先巫女。
「――安心しなされ。儀式は必ず成功する」
「でもアイリス、夢で見たんだもん。このままじゃあやめお姉ちゃんが…!!」
「ただの夢じゃよ。魔を呼び寄せるなど、あやめに限ってあるものか」
アイリスの頭を撫で、去る先巫女。ジャンポールを抱きしめるアイリス。
★ ★
ペンダントを見つめ、握る大神。首根っこ掴まれ、隅まで引っ張られる。
「うわあっ!!〜〜か、かえでさ…むぐっ!?」
大神の口を塞ぎ、チョコの箱をぶしつけに渡すかえで。
「え…?これって…」
「かっ、勘違いしないでよ!?姉さん達がチョコ作るの見てたら、急に食べたくなって…、〜〜それで…余ったから…」
「ありがとうございます。喜んで頂きますね。じゃ、また儀式の後で」
微笑み、立ち去る大神、さくら達と合流。隠れてガッツポーズするかえで。
(渡せちゃった…!――ふふっ、よっしゃ!)
★ ★
試練の間。燃え盛る炎。呪文を唱える神官達。集中するあやめ。火の粉が飛び、耐えるあやめ。少し後ろでペンダントを握り、見守る大神。その後ろで見守る米田。入口にさくら達。踊る炎に倒れる神官。動揺するあやめ。
「集力せい!」
「〜〜はい…!」
再び目を閉じるあやめを炎が撫でる。耐えるあやめ。
「まるで火が生きているみたい…」
「おい、どうなったら終わりなんだ?」
「霊力で火を消せばいいみたいですよ」
不安なアイリス。手を組み、呪文を唱えるあやめ。霊力が集まっていくあやめに火の鞭を打つ炎。
「きゃあっ!!」
「あやめさん…!!」
正座し直して唱えるあやめ。霊力が炎の鞭を弾き返す。感激する薔薇組。
「格好良いです、副司令〜!」
「さすが一郎ちゃんが選んだオ・ン・ナ!」
「もう少しよ、頑張って…!」
ペンダントを握り、祈る大神。
「――臨・兵・闘・者・開・陣・烈・在…全!!」
霊力を放出するあやめ。火が消えていく。
「やった…!」
火が大きくなり、黒い影が現れる。驚く一同。
「な、何なんですの、あれ…!?」
「〜〜あ…、あぁ…」
怯えるアイリス。霊力が消え、驚くあやめ。影が大きくなり、人型になって炎から殺女の影が出てくる。驚く先巫女。
「〜〜こ、こいつは…!!」
漆黒の翼があやめを包む。
「〜〜き…っ、きゃあああっ!!」
「あやめさん…!!」
あやめを抱き、横にダイブする大神。
「大神さん…!!」
駆け寄ろうとしたさくら達を炎が遮る。炎に倒れていく神官達。大神とあやめを睨む殺女の影。殺女の映像を回想する大神。
「お、お前はまさか…!」
炎に襲われる大神とあやめ。先巫女が霊力を放出。影が消え、鎮まる炎。
「おばあ様…」
「〜〜何故じゃ…?何故、お前まで…!?」
息を荒げ、涙ぐむあやめ。
「〜〜今すぐ出て行け!!この悪魔が!!」
「〜〜な…っ!?何を言ってるんです!?」
「今の影は間違いなく最終降魔…、藤枝に伝わる呪いの女じゃ!あやめ、お前もその生まれ変わりなのじゃ!!」
「――!!」
「今までわざと力を抑えていたのか!?〜〜恐ろしい子じゃ…!!お前は破門じゃ!!二度とここの鳥居を潜るでない!!」
「お、お待ち下さい、おばあ様…!」
「〜〜触るな、汚らわしいっ!!」
目を見開くあやめ。雷が鳴る。天気が悪くなり、雨が降り出す。
★ ★
大雨。慌てて帰る帝都の人々。窓を見つめるさくら。大帝国劇場・サロンに集まる花組、三人娘、薔薇組、加山、米田。
「……あやめ君はどうした…?」
「大神さんがずっと付き添ってます…」
大神の腕の中で泣くあやめ。あやめを抱きしめる大神。
「最終降魔…とか言ってましたわよね?」
「何なんだよ、それ…!?あたい達が戦ってる降魔とは違うのか…?」
「藤枝家に伝わる呪われた伝説よ。『100年に一度、藤枝の血を継ぐ者に悪魔の血を継ぐ女が生まれる』…。そいつは藤枝の家を滅ぼし、やがては日本…いえ、世界の全てを滅ぼすと言われているわ」
「かえでさん、ご存知だったんですか…?」
「……邪悪な力を持つ悪魔の子は、赤ん坊の時に密かに葬る習慣があるそうよ。でも、まさか姉さんがそうだったとはね…」
「赤ん坊の時に葬るってことは、赤ん坊の時、すでに力があるのがわかるってことやろ?ほんなら、あやめはんはなして育てられたんや?」
「…さぁね?」
「もっと詳しい情報が必要だな…。月組で調査してみよう」
「あ、あの…、あやめさんはどうなるんですか?まさか殺されるってことはないですよね…!?」
「あのクソババアのことだし、おそらく刺客でも差し向けてくるでしょ」
「〜〜そんな…!」
「儀式は失敗。家の継承も隊長との結婚も…、これでパアね」
「〜〜そんな言い方ねぇだろ!?」
ラチェットに掴みかかるカンナ。
「癪ですが、私もカンナさんの肩を持ちますわ!大体ラチェット、あなたが神社に来る前はこんな調子じゃありませんでしたのよ!?」
「What?どういう意味かしら?私が疫病神とでも言いたいわけ!?」
「〜〜やめましょうよ!今、私達が喧嘩しても仕方ないじゃないですか…」
黙るラチェットとすみれ。ジャンポールをぎゅっとするアイリス。
「〜〜だから言ったのに…」
「アイリス…?」
アイリスの顔を覗き込むさくら。大神に支えられてやってくるあやめ。
「あやめさん…!」
「ごめんなさい、心配掛けちゃったわね…」
「〜〜ぐすっ、私達…、何て言ったらいいのか…」
ハンカチを噛んで泣く薔薇組。
「せっかく応援してくれたのに、裏切るようなことになっちゃって本当にごめんなさい…」
「そんなぁ…!副司令は悪くありませんっ!!」
「ありがとう、椿。その言葉だけで十分よ」
「悪魔の子だか何だか知りませんが、そんなの気にすることありませんよ!」
「あやめはんはあやめはん、うちらの大事なお人に変わりはないで!」
「今日はゆっくり疲れを取って、明日、神社に殴りこめばいいだけですわ」
「すみれ〜!良いこと言うようになったなぁ〜!!」
「〜〜お、お放しなさい!」
泣きながらすみれの肩を抱くカンナ。
「私と新君もしばらく厄介になるよ。こんなもやもやした気持ちで栃木に帰れるかってんだ!」
「そうです!舞台も戦闘も状況は今までと同じなんですし、あやめさんの霊力が戻らなくても、私達で協力すれば黒之巣会だって撃退できますよ!」
「協力、協力…。日本人はいつもそれね…」
「僕達で力になれることがあったら、遠慮なくおっしゃって下さいね!」
「そうよね、大河君!皆で協力すれば、不可能なんてないわよね〜」
「姉さん、新次郎、ラチェット、ありがとう。皆もありがとう!霊力が戻らなくても、悪魔の血を引いてても、俺達のあやめさんに変わりはない。もし、先巫女が刺客をよこしてきても、俺達で返り討ちにしてやろう!」
「おー!」
「よーし、今まで以上に訓練も頑張ろうぜ!」
「早速、鍛錬室でシミュレーション訓練をしましょう!隊長、指揮をお願いします!」
「よし、皆、頑張ろう!」
「賑やかになりますから、舞台とグッズで売り上げを伸ばさないと!」
「お、さすが事務は金銭面に鋭いねぇ!」
「菊之丞、斧彦!私達は舞台の裏方とお料理よ」
「オ〜ケ〜よん!これを機にも〜っとレパートリー増やしましょっと!」
それぞれ行動し始める。ギターを弾いて余韻に浸る加山。
「友情っていいですねぇ〜、米田司令?」
「あぁ、本当にな。――さて、俺も劇場経営に専念するとすっか」
残ってため息つくかえでとうつむくあやめ。?な加山。
★ ★
『海神別荘』で拍手喝采を浴びるさくら達。忙しくグッズを売る三人娘。千秋楽で御馳走を作る薔薇組。喜んで食べる一同。特別公演で歌って踊るラチェットと嘆く女装した新次郎。客席からはっぴを着て新次郎を大声で応援する双葉。新次郎のブロマイドが売上げ1位になり、悔しがる2位のすみれ。隊員に指示して敬礼する加山。訓練を頑張り、犬の世話をするアイリス。エンフィールドの手入れをするマリア。手合わせするすみれとカンナ。光武を整備する紅蘭。剣の訓練する大神とさくら。能力値が上がった全員に驚くかえでと喜ぶ風組。部屋であやめをいたわる大神。中庭で剣の稽古する大神を遠くから見て、寂しく立ち去るあやめ。支配人室。売り上げを見て驚く米田。前に立つかえで。
「こりゃすげぇ!たった1ケ月で3ケ月分の稼ぎだぞ、こりゃ!」
「まぁ…、そうですね…」
「皆、よく頑張ってくれてるからなぁ。これが帝国華撃団の団結力って奴だ!黒之巣会との戦いが決着したら、皆で慰安旅行にでも行くかぁ!」
「……何故」
「ん?」
「何故ここまで頑張れるんでしょう…?姉はあの子達にとって赤の他人なのに…」
「――その答えがわかったら、お前さんを大尉に推薦してやるよ…って言ったら、必死に考えるか?」
「…おちょくってるんですか?」
「とぉんでもねぇ。ただ、仲間っていうのはそういうもんなんだよ。お前さんもわかる時が来るさ、いずれな」
「……答えは簡単です。姉は統率力があって、私にはない…、ただそれだけです。…失礼します」
出ていくかえで。頭を掻く米田。
「……やれやれ。少しはわかってくれたと思ったんだがなぁ…」
廊下であやめとすれ違うかえで。むっとなるが、違う雰囲気に振り返る。
「姉さん…?」
ノックし、支配人室に入る軍服のあやめ。
「おぉ、あやめ君か。どうした?」
黙って少佐の勲章バッジを外し、机に置くあやめ。驚く米田。
「お話が…、あるんです…」
★ ★
大神の部屋。髪を櫛で整える大神。指輪の箱を開ける。ダイヤの指輪。
「給料半年分か…、仕方ないよな」
回想。双葉に喝を入れられる大神。
『――女はこういう時、彼の優しさに弱い!いいか、男ならビシッと決めな!』
回想終了。笑みをこぼす大神。
「まったく、姉さんもおせっかいだよな。言われなくてもわかってるって」
カレンダーをチェックする大神。17日に○がつき、交際6ケ月目とメモ。
「今日でちょうど半年か…。ちょっと早いけど、いいよな」
ノックする音。暗くあやめが入ってくる。指輪の箱を後ろ手に隠す大神。
「今、丁度呼びに行こうと思ってたんです」
「……お願いがあるの…」
「お願い…?何ですか?」
「私を…――殺してほしいの」
目を見開く大神。指輪の箱がスローモーションで落ちる。
第14話、終わり
次回予告
自分が最終降魔と知り、悩み苦しむあやめさん…。
そんな姉を羨み、大神への想いが強まっていくかえでさん…。
姉妹の想いが交錯する時、藤枝家の謎が今、明かされる…!
次回、サクラ大戦『都の花ぞ』!太正桜に浪漫の嵐!
…それにしても大神、何でお前だけそんなにモテるんだ?
第15話へ
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