★14−3★
屋根裏部屋。犬をなでるアイリス。怖いあやめを思い出し、泣く。
「なぐさめてくれるの…?ふふっ、ありがとう」
涙をなめる犬をなで、うつむくアイリス。
★ ★
天雲神社。水浴びで体を清めるあやめ。手伝う女の神官達。仏壇に父とぼたんの写真。合掌する大神と米田。
「いよいよだな…」
「えぇ、遂にこの日が来たんですね…」
「この藤枝の儀式は婚礼の儀と同じようなもんだからな…。俺は今まであやめ君を実の娘のように接してきた。あやめ君の父親に代わって言わせてもらうぜ。大神、幸せにしろよ」
「はい、必ず…!〜〜う…!」
腹を押さえる大神。
「おめぇが緊張してどうすんだ。試練を受けるのはあやめ君なんだぞ?」
「わ、わかってますが…、〜〜うぅ…、す、すみません、失礼します…」
よろけながら出ていく大神。
「ははは、胃腸に来るタイプだったか」
★ ★
真っ青でトイレから出てくる大神。
「そういえば俺、試験の時とかいつもこうだったな…。〜〜情けない…」
廊下を歩く大神。広々した廊下と無数の部屋。
「…トイレ探すのに夢中で帰り道覚えてなかった。これじゃさくら君のこと笑えないよ。ハァ…、えーと、確かここをまっすぐ来て、…ここか?」
襖を開ける大神。書庫。無数の本が棚に並んでいる。
「うわ、思いっきり違うよ…。…でも、ここは洋間なんだな」
本を見つけ、駆け寄る大神。
「すごい!ブラム・ストーカーの原書だ!グリム兄弟の原画も…!それにしてもすごい本の数だな…。〜〜いかんいかん!人の家の部屋に勝手に入るなんていけないことだ!戻ろう」
出ようとするが、古ぼけた背表紙の本が目に入る。
「やけに古い本だな…。これも原書か?――何だろう、この紙…?」
手に取る大神。表紙に封印の紙。同時に現れる隠し扉。
「え…!?か、隠し扉…!?」
心臓が高鳴りつつ、ゆっくり扉に近づき、触れようとする大神。
「――何をやっておる?」
びくっとなる大神。先巫女が立っている。
「〜〜す、すみません!お手洗いお借りしたら帰り道がわからなくなって」
慌てて本を奪い返す先巫女。隠し扉を確認。
「貴様、この本を開いたか…!?」
「い、いえ…、あの、失礼ですが、その本は…?」
「……儀式が済んだら教えてやる。さっさと戻らんか」
★ ★
「何だったんだろう、さっきの…?」
廊下を歩く大神。浴衣で歩いてくる双葉、新次郎、花組、三人娘。
「いやぁ、良い汗かいたねぇ」
「ね、姉さん、新次郎!何でここに…!?」
「おう、一郎!」
「大神さん、あやめさん家のお風呂、すっごく大きいんですよ!」
「聞いてくれよ、あたい、双葉さんとクロール勝負して勝ったんだぜ!」
「〜〜お、沖縄で毎日泳いでた女にそう簡単に勝てるか!」
「まったく…。お風呂で泳ぐなんてはしたないですわ」
「新次郎君なんてお風呂で照れちゃって!」
「もう可愛いんだからぁ〜!」
新次郎に抱きつく由里と椿。話しながら客間に入る大神達。
「〜〜こ、混浴だなんて知らなかったんですよぉ!」
「いやぁ、大神はんのお姉はんと甥っこはんっておもろいお人ですなぁ」
「それに剣の腕も相当なものだし。とうとう誰も勝てなかったわ」
「あはは…!仲の良い姉弟っていいですなぁ。うちも死んだ兄弟、思い出してしもうたわ」
「な、何か俺の知らない間にすっかり溶け込んでるな…」
「そりゃそうさ!本気でぶつかり合った仲だからな〜」
「な〜」「な〜」「な〜」
「ま、まぁ、よかったよ」
「――あ、そうだ大神さん」
チョコを渡す花組と風組。
「ハッピーバレンタインです〜皆で一緒に作ったんですよ」
「そうか。今日はバレンタインだもんな」
「隊長、あたいのは栄養満点だぞ!なんてったってゴーヤ入りだからな!」
「私のは超高級チョコレートですわ。原料は本場ガーナから特別に取り寄せましたのよ」
「うちのは1/10神武模型チョコやで!どや、かわいいやろ?」
「あぁ、皆、ありがとう…!」
「大神さん、私達のはぜ〜んぶ本命ですからね!」
「どうか受け取って下さいね。あやめさんと結婚しても、大神さんが私達の一番大切な人に変わりはありませんから」
「さくら君…、皆、ありがとう…!とっても嬉しいよ」
「えへへ〜!ちゃ〜んと全部食べて下さいねぇ!」
「はは、わかってるよ。――ところで、アイリスとラチェットは?」
「ラチェットは自家用人力車で東京見物です。アイリスは…お昼寝です」
うつむくマリア。?な大神。
「ははは…!結構結構。だがなぁ、ここは旅館じゃねぇんだぞ?これから大事な儀式なんだからな」
「なーに堅苦しいこと言ってんだ。結婚式と同じようなもんじゃないか」
「姉さんも知ってたのか?」
「当たり前だろ。その為にここに呼ばれたんだからさ」
「――その通りじゃ」
入ってくる先巫女。慌てて正座する一同。
「我が家の儀式は正式に藤枝を継ぐ巫女を祝す式。いわば婚礼の儀じゃ。お前さんの一族の者を呼ぶのは当然じゃろう」
「た、確かに…」
化粧し、儀式の服を着たあやめが入ってくる。
「失礼致します」
「わぁ、副司令、綺麗ですぅ〜!」
「素敵〜!」
「ありがとう。…どう?…少し派手?」
「い、いえ!とってもお似合いです!俺、本当に感激して…あ、あれ?」
涙がこぼれる大神。
「あははは!なーに泣いてんだよ、隊長!」
「普通、泣くんは花嫁さんやろ!」
「〜〜す、すまない…」
「はははは!婿に行くんだから当然かぁ」
「あ、そうか。大神の名が…」
「安心しろって。ゆくゆくは新君に継がせるからさ!」
「はい!任せて下さい、一郎叔父!」
「大神さん、あやめさん、今日は本当におめでとうございます!」
「ありがとう、皆…!」
「米田支配人、あやめさんは俺が絶対に幸せにします…!」
「あぁ、頼んだぞ、大神!」
「米田殿にはあやめの父親役をやってもらう。…よいな?」
押入れの襖を開ける先巫女。中で体育座りしてるかえで。
「かえでさん…!?」
「なーにそんな所でいじけてるんじゃ、早く出てこんか!」
「〜〜精神統一してたのよ、儀式が成功するようにねっ!」
「ほーお。そりゃあ姉さん思いの優しい子じゃなぁ」
「かえで、おめでとうって言ってくれる?」
「……ふん、こんな儀式ぐらいで大騒ぎして、バッカみたい!」
出ていくかえで。
「どこ行くんじゃ!?」
「すぐ戻るわよ!」
「…まったく、せっかくのおめでたい雰囲気が台無しですよねぇ!」
「巫女を継げないのが悔しいんじゃなくて?女の妬みって嫌ですわ〜」
うつむくあやめの手を握る大神。微笑むあやめ。
★ ★
中央の間。正座して向かい合う双葉、新次郎と米田、かえで。あやめに髪飾りを渡す先巫女。受け取るあやめ。あやめにつける大神。見守る花組と三人娘。複雑なかえでをチラ見する先巫女。
「巫女は試練を受けねばならぬ。落ちてくる水の鼓動に打たれ、風の舞を操り、火の熱さに憂い耐える。わしもあやめの母も耐えた厳しい試練じゃ」
滝に打たれるあやめ、霊力で滝を割る。双眼鏡で見て、驚く薔薇組。崖の上に立つあやめ。息を呑む三人娘。目を開くと風がやみ、人差し指で風を操るあやめ。風が歌い出す。興奮して拍手する三人娘。
★ ★
天雲神社。宴会を楽しむさくら達。舞う神官達。拍手する一同。楽しく喋るさくら達。新次郎を可愛がる由里と椿に喝を入れる双葉。米田と先巫女に交互に酒を注ぐ大神、あやめが料理に箸をつけてないのがわかる。
「まだ調子が戻りませんか…?」
「う、ううん…!久しぶりの実家のお料理だから、しばらく目で楽しんでたの。あー、おなかすいちゃった!大神君もどんどんおかわりしてね!」
無理に食べるあやめ。心配に見つめる大神。
★ ★
真夜中。洗面所で嘔吐し、苦しむあやめ。鏡を見つめる。
「〜〜どうしちゃったの、私…?」
ふらふらで戻るが、胸が痛くなり、廊下でうずくまるあやめ。見つけ、浴衣で駆け寄る大神。
「あやめさん、大丈夫ですか!?」
「……少し飲みすぎたのかしら…?」
「そんなわけないじゃないですか!もしかしてこの間と同じに…!?」
「はぁはぁ…、ふふ…っ、心配しないで、もう大丈夫だから…」
「……急にいなくなるから、びっくりしましたよ…」
「ごめんなさい。不思議ね…。大神君が来たら、すっかり治っちゃった」
大神を抱きしめるあやめ。黙ってあやめを抱きしめ、見つめる大神。
★ ★
部屋で寝る花組。縁側に座って月を見る大神とあやめ。
「――最後の試練は明日なんですね」
「えぇ、火の試練は三つの中で一番厳しいみたい」
「見守ることしかできないのが悔しいです…。自分も何か力になれれば…」
「ううん。こうやって傍にいてくれるだけで十分よ」
大神に寄り添うあやめ。微笑む大神。
「――そうだ、これ…!14日が終わらないうちに…ね!」
チョコを渡すあやめ。
「わぁ、ありがとうございます!開けてもいいですか?」
「ふふっ、どうぞ」
開ける大神。トリュフが入っている。
「うまそぉ!確かこれはトリュフ…でしたっけ?」
「ふふっ、さすがによく知ってるわね。作るの初めてだから、うまくできたか不安なんだけど…」
「そんな…、すごくうまそうですよ。食べてもいいですか?」
「えぇ、じゃあ、食べさせてあげる。はい、あーん」
「あ、あーん…。――お酒が入ってるんですね。うん、すごくうまい!」
「本当?よかった…!」
月光が母親の形見のペンダントに当たる。
「きれい…。お星様が輝いてるみたい」
「――必ず成功しますよ。皆も、あなたのお母様も、俺もついてますから」
見つめ合い、キスする大神とあやめ。
「ふふっ、チョコの味がする」
「あ…、ははは…」
「ふふっ、私、今、すっごく幸せよ。これからはずっとあなたと同じ時を過ごすのね。――ずっとこんな時間が続けばいいな…」
「続けましょう、二人で永遠の幸せの時を…」
再びキスする大神とあやめ。ペンダントの十字架に黒い影。
★ ★
燃え盛る炎。呪文を唱える神官達。熱さに耐えるあやめ。炎に黒い影。気づくあやめ。影がだんだん大きくなって人型になり、殺女に。
『いや…、来ないで…!〜〜いやああああっ!!』
あやめに乗り移る殺女。飛び起きるアイリス。隣で眠る犬。
「あやめお…姉ちゃん……?」
★ ★
寝ている新次郎。寝ぼけて新次郎に抱きつく双葉。
「う〜ん、新く〜ん…!うふふふふ〜」
「わひゃあ!?か、母さん…!〜〜もう…」
起きて廊下を歩く新次郎。月明かりで本を読む。
「目が覚めちゃったよ…。母さんったら、僕、もう15なのに…あれ?」
アイリスが横切るのが見える。先巫女の襖を叩くアイリス。
「誰じゃ…?おぉ、お前さんは確か…」
「先巫女のおばあちゃん、あやめお姉ちゃんの儀式、やめさせて!」
「……どうやら、わけありのようじゃな…」
部屋に入るアイリス。襖が閉まり、新次郎がやってくる。
「あれぇ…?見間違いだったのかなぁ?」
鳥居の前で人力車からトランクを持って降りるラチェット。
「WOW!これが日本の神社ってやつね」
階段を上がっていくラチェット。門が閉まっている。
「やだわ。神社って門限早いのね」
垣根を飛び越えるラチェット。気配に気づき、見上げる新次郎。
「ん…?〜〜わひゃあ!?」
「え…?」
ラチェットに乗られる新次郎。
「あたた…。す、すみません!僕、上までは見てなくて〜〜って外人さん!?」
驚き、新次郎の顔を覗き込むラチェット。
「あわわ…、す、すみません!僕、英語、よくわかんなくて…!えっと、こういう時は確か…、〜〜そ、そーりー!あいむそーりー…」
顔が近づき、照れる新次郎。
「あなた…、この神社の子?」
「い、いえ、自分は大河新次郎と申します。大神一郎海軍少尉の甥っ子で…って日本語?」
「へぇ、大神隊長の…?」
じっと見つめるラチェット。赤くなる新次郎。
「あ、あの、どこか怪我してませんか!?女性に怪我させては侍の名が…」
「――か」
「か?」
「かっわいい〜っ!!」
「…へ?〜〜わひゃああっ!?」
ラチェットに抱きつかれ、押し倒される新次郎。
「とうとう見つけたわ、私のプリティーなジャパニーズボーイ!私にサムシングエルスを与えてくれる人!!」
「さ、さむしん…?」
「大河新次郎君ね、ばっちり覚えたわ!お姉さんの部屋でもっとお話ししない?――丁度銭湯にも入ってきたし…」
「お、お話って…?」
「うふっ、い・ろ・い・ろ・よ!」
「え…っ!?ちょ…、そ、そんなまだ会ったばかりですし…ってそれよりあなた、誰なんですかぁっ!?〜〜あぁ〜…!!」
ラチェットの部屋に連れ込まれる新次郎。部屋で安眠する双葉。
「うふふ〜、新君は嫁にはやらんぞぉ…。むにゃむにゃ…」
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