★14−3★



屋根裏部屋。犬をなでるアイリス。怖いあやめを思い出し、泣く。

「なぐさめてくれるの…?ふふっ、ありがとう」

涙をなめる犬をなで、うつむくアイリス。

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天雲神社。水浴びで体を清めるあやめ。手伝う女の神官達。仏壇に父とぼたんの写真。合掌する大神と米田。

「いよいよだな…」

「えぇ、遂にこの日が来たんですね…」

「この藤枝の儀式は婚礼の儀と同じようなもんだからな…。俺は今まであやめ君を実の娘のように接してきた。あやめ君の父親に代わって言わせてもらうぜ。大神、幸せにしろよ」

「はい、必ず…!〜〜う…!」


腹を押さえる大神。

「おめぇが緊張してどうすんだ。試練を受けるのはあやめ君なんだぞ?」

「わ、わかってますが…、〜〜うぅ…、す、すみません、失礼します…」


よろけながら出ていく大神。

「ははは、胃腸に来るタイプだったか」

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真っ青でトイレから出てくる大神。

「そういえば俺、試験の時とかいつもこうだったな…。〜〜情けない…」

廊下を歩く大神。広々した廊下と無数の部屋。

「…トイレ探すのに夢中で帰り道覚えてなかった。これじゃさくら君のこと笑えないよ。ハァ…、えーと、確かここをまっすぐ来て、…ここか?」

襖を開ける大神。書庫。無数の本が棚に並んでいる。

「うわ、思いっきり違うよ…。…でも、ここは洋間なんだな」

本を見つけ、駆け寄る大神。

「すごい!ブラム・ストーカーの原書だ!グリム兄弟の原画も…!それにしてもすごい本の数だな…。〜〜いかんいかん!人の家の部屋に勝手に入るなんていけないことだ!戻ろう」

出ようとするが、古ぼけた背表紙の本が目に入る。

「やけに古い本だな…。これも原書か?――何だろう、この紙…?」

手に取る大神。表紙に封印の紙。同時に現れる隠し扉。

「え…!?か、隠し扉…!?」

心臓が高鳴りつつ、ゆっくり扉に近づき、触れようとする大神。

「――何をやっておる?」

びくっとなる大神。先巫女が立っている。

「〜〜す、すみません!お手洗いお借りしたら帰り道がわからなくなって」

慌てて本を奪い返す先巫女。隠し扉を確認。

「貴様、この本を開いたか…!?」

「い、いえ…、あの、失礼ですが、その本は…?」

「……儀式が済んだら教えてやる。さっさと戻らんか」


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「何だったんだろう、さっきの…?」

廊下を歩く大神。浴衣で歩いてくる双葉、新次郎、花組、三人娘。

「いやぁ、良い汗かいたねぇ」

「ね、姉さん、新次郎!何でここに…!?」

「おう、一郎!」

「大神さん、あやめさん家のお風呂、すっごく大きいんですよ!」

「聞いてくれよ、あたい、双葉さんとクロール勝負して勝ったんだぜ!」

「〜〜お、沖縄で毎日泳いでた女にそう簡単に勝てるか!」

「まったく…。お風呂で泳ぐなんてはしたないですわ」

「新次郎君なんてお風呂で照れちゃって!」

「もう可愛いんだからぁ〜!」


新次郎に抱きつく由里と椿。話しながら客間に入る大神達。

「〜〜こ、混浴だなんて知らなかったんですよぉ!」

「いやぁ、大神はんのお姉はんと甥っこはんっておもろいお人ですなぁ」

「それに剣の腕も相当なものだし。とうとう誰も勝てなかったわ」

「あはは…!仲の良い姉弟っていいですなぁ。うちも死んだ兄弟、思い出してしもうたわ」

「な、何か俺の知らない間にすっかり溶け込んでるな…」

「そりゃそうさ!本気でぶつかり合った仲だからな〜」

「な〜」「な〜」「な〜」

「ま、まぁ、よかったよ」

「――あ、そうだ大神さん」


チョコを渡す花組と風組。

「ハッピーバレンタインです〜皆で一緒に作ったんですよ」

「そうか。今日はバレンタインだもんな」

「隊長、あたいのは栄養満点だぞ!なんてったってゴーヤ入りだからな!」

「私のは超高級チョコレートですわ。原料は本場ガーナから特別に取り寄せましたのよ」

「うちのは1/10神武模型チョコやで!どや、かわいいやろ?」

「あぁ、皆、ありがとう…!」

「大神さん、私達のはぜ〜んぶ本命ですからね!」

「どうか受け取って下さいね。あやめさんと結婚しても、大神さんが私達の一番大切な人に変わりはありませんから」

「さくら君…、皆、ありがとう…!とっても嬉しいよ」

「えへへ〜!ちゃ〜んと全部食べて下さいねぇ!」

「はは、わかってるよ。――ところで、アイリスとラチェットは?」

「ラチェットは自家用人力車で東京見物です。アイリスは…お昼寝です」


うつむくマリア。?な大神。

「ははは…!結構結構。だがなぁ、ここは旅館じゃねぇんだぞ?これから大事な儀式なんだからな」

「なーに堅苦しいこと言ってんだ。結婚式と同じようなもんじゃないか」

「姉さんも知ってたのか?」

「当たり前だろ。その為にここに呼ばれたんだからさ」

「――その通りじゃ」


入ってくる先巫女。慌てて正座する一同。

「我が家の儀式は正式に藤枝を継ぐ巫女を祝す式。いわば婚礼の儀じゃ。お前さんの一族の者を呼ぶのは当然じゃろう」

「た、確かに…」


化粧し、儀式の服を着たあやめが入ってくる。

「失礼致します」

「わぁ、副司令、綺麗ですぅ〜!」

「素敵〜!」

「ありがとう。…どう?…少し派手?」

「い、いえ!とってもお似合いです!俺、本当に感激して…あ、あれ?」


涙がこぼれる大神。

「あははは!なーに泣いてんだよ、隊長!」

「普通、泣くんは花嫁さんやろ!」

「〜〜す、すまない…」

「はははは!婿に行くんだから当然かぁ」

「あ、そうか。大神の名が…」

「安心しろって。ゆくゆくは新君に継がせるからさ!」

「はい!任せて下さい、一郎叔父!」

「大神さん、あやめさん、今日は本当におめでとうございます!」

「ありがとう、皆…!」

「米田支配人、あやめさんは俺が絶対に幸せにします…!」

「あぁ、頼んだぞ、大神!」

「米田殿にはあやめの父親役をやってもらう。…よいな?」


押入れの襖を開ける先巫女。中で体育座りしてるかえで。

「かえでさん…!?」

「なーにそんな所でいじけてるんじゃ、早く出てこんか!」

「〜〜精神統一してたのよ、儀式が成功するようにねっ!」

「ほーお。そりゃあ姉さん思いの優しい子じゃなぁ」

「かえで、おめでとうって言ってくれる?」

「……ふん、こんな儀式ぐらいで大騒ぎして、バッカみたい!」


出ていくかえで。

「どこ行くんじゃ!?」

「すぐ戻るわよ!」

「…まったく、せっかくのおめでたい雰囲気が台無しですよねぇ!」

「巫女を継げないのが悔しいんじゃなくて?女の妬みって嫌ですわ〜」


うつむくあやめの手を握る大神。微笑むあやめ。

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中央の間。正座して向かい合う双葉、新次郎と米田、かえで。あやめに髪飾りを渡す先巫女。受け取るあやめ。あやめにつける大神。見守る花組と三人娘。複雑なかえでをチラ見する先巫女。

「巫女は試練を受けねばならぬ。落ちてくる水の鼓動に打たれ、風の舞を操り、火の熱さに憂い耐える。わしもあやめの母も耐えた厳しい試練じゃ」

滝に打たれるあやめ、霊力で滝を割る。双眼鏡で見て、驚く薔薇組。崖の上に立つあやめ。息を呑む三人娘。目を開くと風がやみ、人差し指で風を操るあやめ。風が歌い出す。興奮して拍手する三人娘。

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天雲神社。宴会を楽しむさくら達。舞う神官達。拍手する一同。楽しく喋るさくら達。新次郎を可愛がる由里と椿に喝を入れる双葉。米田と先巫女に交互に酒を注ぐ大神、あやめが料理に箸をつけてないのがわかる。

「まだ調子が戻りませんか…?」

「う、ううん…!久しぶりの実家のお料理だから、しばらく目で楽しんでたの。あー、おなかすいちゃった!大神君もどんどんおかわりしてね!」


無理に食べるあやめ。心配に見つめる大神。

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真夜中。洗面所で嘔吐し、苦しむあやめ。鏡を見つめる。

「〜〜どうしちゃったの、私…?」

ふらふらで戻るが、胸が痛くなり、廊下でうずくまるあやめ。見つけ、浴衣で駆け寄る大神。

「あやめさん、大丈夫ですか!?」

「……少し飲みすぎたのかしら…?」

「そんなわけないじゃないですか!もしかしてこの間と同じに…!?」

「はぁはぁ…、ふふ…っ、心配しないで、もう大丈夫だから…」

「……急にいなくなるから、びっくりしましたよ…」

「ごめんなさい。不思議ね…。大神君が来たら、すっかり治っちゃった」


大神を抱きしめるあやめ。黙ってあやめを抱きしめ、見つめる大神。

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部屋で寝る花組。縁側に座って月を見る大神とあやめ。

「――最後の試練は明日なんですね」

「えぇ、火の試練は三つの中で一番厳しいみたい」

「見守ることしかできないのが悔しいです…。自分も何か力になれれば…」

「ううん。こうやって傍にいてくれるだけで十分よ」


大神に寄り添うあやめ。微笑む大神。

「――そうだ、これ…!14日が終わらないうちに…ね!」

チョコを渡すあやめ。

「わぁ、ありがとうございます!開けてもいいですか?」

「ふふっ、どうぞ」


開ける大神。トリュフが入っている。

「うまそぉ!確かこれはトリュフ…でしたっけ?」

「ふふっ、さすがによく知ってるわね。作るの初めてだから、うまくできたか不安なんだけど…」

「そんな…、すごくうまそうですよ。食べてもいいですか?」

「えぇ、じゃあ、食べさせてあげる。はい、あーん」

「あ、あーん…。――お酒が入ってるんですね。うん、すごくうまい!」

「本当?よかった…!」


月光が母親の形見のペンダントに当たる。

「きれい…。お星様が輝いてるみたい」

「――必ず成功しますよ。皆も、あなたのお母様も、俺もついてますから」


見つめ合い、キスする大神とあやめ。

「ふふっ、チョコの味がする」

「あ…、ははは…」

「ふふっ、私、今、すっごく幸せよ。これからはずっとあなたと同じ時を過ごすのね。――ずっとこんな時間が続けばいいな…」

「続けましょう、二人で永遠の幸せの時を…」


再びキスする大神とあやめ。ペンダントの十字架に黒い影。

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燃え盛る炎。呪文を唱える神官達。熱さに耐えるあやめ。炎に黒い影。気づくあやめ。影がだんだん大きくなって人型になり、殺女に。

『いや…、来ないで…!〜〜いやああああっ!!』

あやめに乗り移る殺女。飛び起きるアイリス。隣で眠る犬。

「あやめお…姉ちゃん……?」

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寝ている新次郎。寝ぼけて新次郎に抱きつく双葉。

「う〜ん、新く〜ん…!うふふふふ〜」

「わひゃあ!?か、母さん…!〜〜もう…」


起きて廊下を歩く新次郎。月明かりで本を読む。

「目が覚めちゃったよ…。母さんったら、僕、もう15なのに…あれ?」

アイリスが横切るのが見える。先巫女の襖を叩くアイリス。

「誰じゃ…?おぉ、お前さんは確か…」

「先巫女のおばあちゃん、あやめお姉ちゃんの儀式、やめさせて!」

「……どうやら、わけありのようじゃな…」


部屋に入るアイリス。襖が閉まり、新次郎がやってくる。

「あれぇ…?見間違いだったのかなぁ?」

鳥居の前で人力車からトランクを持って降りるラチェット。

「WOW!これが日本の神社ってやつね」

階段を上がっていくラチェット。門が閉まっている。

「やだわ。神社って門限早いのね」

垣根を飛び越えるラチェット。気配に気づき、見上げる新次郎。

「ん…?〜〜わひゃあ!?」

「え…?」


ラチェットに乗られる新次郎。

「あたた…。す、すみません!僕、上までは見てなくて〜〜って外人さん!?」

驚き、新次郎の顔を覗き込むラチェット。

「あわわ…、す、すみません!僕、英語、よくわかんなくて…!えっと、こういう時は確か…、〜〜そ、そーりー!あいむそーりー…」

顔が近づき、照れる新次郎。

「あなた…、この神社の子?」

「い、いえ、自分は大河新次郎と申します。大神一郎海軍少尉の甥っ子で…って日本語?」

「へぇ、大神隊長の…?」


じっと見つめるラチェット。赤くなる新次郎。

「あ、あの、どこか怪我してませんか!?女性に怪我させては侍の名が…」

「――か」

「か?」

「かっわいい〜っ!!」

「…へ?〜〜わひゃああっ!?」


ラチェットに抱きつかれ、押し倒される新次郎。

「とうとう見つけたわ、私のプリティーなジャパニーズボーイ!私にサムシングエルスを与えてくれる人!!」

「さ、さむしん…?」

「大河新次郎君ね、ばっちり覚えたわ!お姉さんの部屋でもっとお話ししない?――丁度銭湯にも入ってきたし…」

「お、お話って…?」

「うふっ、い・ろ・い・ろ・よ!」

「え…っ!?ちょ…、そ、そんなまだ会ったばかりですし…ってそれよりあなた、誰なんですかぁっ!?〜〜あぁ〜…!!」


ラチェットの部屋に連れ込まれる新次郎。部屋で安眠する双葉。

「うふふ〜、新君は嫁にはやらんぞぉ…。むにゃむにゃ…」


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