★14−1★



羽ペンをイライラ突つくかえでの手。夜空を飛ぶ降魔が帝都タワーに上って雄たけびをあげ、集団が集まってくる。頂上で高笑いする羅刹。

「もっと魔を集めろぉ!!この帝都を忌まわしき闇の世界に変えるのだぁ!!」

翔鯨丸から降り立ち、横に並ぶ大神達の神武。

「帝国華撃団、参上!」

「待っていたぞ、華撃団!今日こそ貴様らを降魔の餌にしてくれるわ!!」

「させるものか!!帝都の平和を守る為、俺達は絶対に負けない!!」

(…ふん、ありがちな台詞だこと)


暇そうに羽ペンを回すかえで。

「行くぞ!各自、周囲の降魔を撃破するんだ!!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」


戦う大神達。機械を動かす風組。データを集めて指示するあやめ。

「大神君、降魔発生装置は砲台の中よ!」

「了解!マリア、頼んだぞ!」

「了解!――スネグーラチカ!!」


砲台が爆発し、消える降魔達。

「〜〜ぐぬぅ、おのれぇ…!今度は俺が相手だ!!」

「よし、羅刹を撃破するんだ!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」


忙しく機械を動かす風組。データを照合し、報告するあやめ。報告書を書き、いらいら出番を待つかえで。インクがにじみ、ペン先が折れる。

(〜〜あ〜もう!戦闘中なのに何なのよ、この仕事!?これじゃいいとこなしで終わっちゃうじゃない!)

「――爆裂断破ああっ!!」

「きゃあああっ!!」

(よし、よくのばしてくれたわ!敵ながらあっぱれよ!)


羅刹の鎖が当たり、吹き飛ばされる花組。すみれ機の羽が破損。

「〜〜わ、私の美しい羽が…!」

「すみれ機の飛翔装置、破損しました!」


軍服の襟を整え、敬礼するかえで。

「司令、私も出撃します!出撃命令を――」

「大丈夫や!こんなこともあろうかと、予備のをセットしておいてん!」


ボタンを押す紅蘭。すみれ機の背中から生える新しい羽。呆然のかえで。

(〜〜な、何ですってぇ〜っ!?)

「おっほほほほ!さすがは紅蘭!褒めて差し上げますわ」

「よぉし、皆、行くぞ!」

(〜〜ちょっとぉっ!!まだ引っ張りなさいよ!!)

「マリアと紅蘭は遠隔射撃!」

「了解!」「了解!」


羅刹に撃つマリアと爆弾を投げる紅蘭。羅刹の周囲が爆発。

「ぐおおおおっ!!〜〜くそぉ…!」

「すみれ君とカンナで挟み撃ちだ!」

「おっしゃあ!行くぜ、すみれ!」

「言われなくてもわかってます!」


協力攻撃が当たり、バランスを崩して倒れる羅刹。

「アイリス、攪乱してくれ!」

「りょーかい!え〜いっ!!」


花で幻覚を見せられる羅刹。

「くそぉ、また変な技を使いやがって…ぐはああっ!」

羅刹の腹に大神の刀が刺さる。

「さくら君、今だ!」

「了解です!破邪剣征・百花繚乱!!」

「ぐわああああっ!!」


桜吹雪が羅刹に当たる。ぼろぼろで出てくる羅刹。

「〜〜貴様ら、次に会った時は覚えてろよ…!!」

消える羅刹。こけそうになるかえで。

(〜〜な、何でそこで踏ん張らないのよ!?こんな展開、マンネリ化してるっつーの!悪役だったら、もうちょっと工夫しなさいよね!?)

「よくやった、皆!」

「それじゃ行きますよ!勝利のポーズ…決めっ!」

(〜〜決められるかっ!)

「今回も大勝利でしたねぇ〜!」

「被害も最小限に抑えられたし、本当によかったわ」

「よーし、帰還するぞー」

(〜〜え?えぇっ!?私の出番は!?)

「はーい!」「はーい!」「はーい!」

(〜〜はーいじゃないわよっ!!)

「かえでもお疲れ様。今日もよく頑張ってくれたわね」


微笑むあやめ。わなわなするかえで。

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「〜〜何も頑張りようがないっつーの!!」

支配人室。思い切り机を叩くかえで。ビビる米田。

「話が違います!私は姉さんの代理ではなかったのですか!?」

「まぁ、そうなんだがな…」

「なら、何故未だに姉を翔鯨丸に乗せるんです!?本部に待機させればよろしいではありませんか!!」

「最初はそのつもりだったんだがなぁ…、そのぉ…」

「〜〜私が…未熟だからですか…?」

「いや、そんなことはねぇんだよ!ただ、お前さんはまだここに来て一週間だろ?帝劇の仕組みも仕事もまだよくわかっちゃいねぇ」

「そんなことありません!私は――」

「わかってるさ。お前さんはよくやってくれてるよ。ただ、あやめ君も責任感が人一倍強ぇからな、ああ見えて結構無理してるんだ。動けるとはいえ、霊力は枯渇状態だ。いつ倒れてもおかしくはねぇ。お前さんが帝劇に慣れて、帝国華撃団の全てを理解した時に改めて仕事を任せるつもりだ」

「それまで…、私は雑用ですか…?〜〜こんな家政婦みたいな仕事…っ!!」


掃除用の手袋と割烹着を投げつけるかえで。

「清掃員の人手が足りなくてな。すまねぇが、もう少し我慢してくれ。掃除も立派な仕事だろ?」

酒を飲むが、焼酎がなくなり、空瓶を渡す米田。

「おっと、悪ぃが、こいつもついでに頼む」

わなわなするかえで。ゴミ捨て場にゴミ袋を叩きつけ、拳を握る。イライラしてバケツとモップを持ってトイレに来るかえで。由里と椿に会う。

「あ、お掃除ですか?よろしくお願いしますね〜」

「似合ってますよ、その格好ぉ!」


笑いをこらえて立ち去る由里と椿。悔しく掃除するかえで。

(〜〜どうして…!?こんなことする為に私は軍人になったんじゃ…)

「――あの、藤枝副支配人ですよね?」


廊下で男性ファンと話すあやめを見つけるかえで。

「やっぱり…!僕、あなたのファンなんです!特別公演に出演された時は、本当に見とれてしまいました!これ、僕の気持ちです…!」

花束を受け取るあやめ。

「まぁ、どうもありがとうございます」

「も、もしよろしければ、その…、サ、サイン、頂けないでしょうか…!?」

「はぁ…、でも、私は女優じゃありませんし…」

「お美しいのにもったいない!あなたには女優の才能も十分すぎるほどありますよ!」

「でも、私はスタッフですから…。――はい、どうぞ」


サイン色紙を渡すあやめ。

「わぁ、ありがとうございます!あ、もし、よろしかったら握手も…!」

握手してやるあやめ。

「応援、ありがとうございます。でも、花組の子達もお願いしますね」

「もちろんです!わぁ、感激です〜!もうこの手、一生洗いません!!」


笑うあやめ。イライラして、バケツにブラシを投げつけるかえで。

★               ★


舞台。『海神別荘』を上演中。『すべては海へ』を歌うさくらとマリア。

「――『あぁ、恐ろしい。どうか私の為にその鎧をお脱ぎになって』」

「『これは私の力の象徴だ。これがあるから私は強い』」

「『あぁ、でも、やはり恐いわ…。でも、今日から私はこの海の底で暮さねばならないのですね…』」

「『何をそんなに怯えているのだ?この海の王国でそんな顔は似合わぬ。さぁ、笑いなさい、美しい人よ』」

「『〜〜どうして笑えましょう…?私は陸の王である父親に見捨てられ、地上と永遠の別れを告げてきたのです…』」

「『あんな国に何の未練があると言うのだ?これからは私がいる…!共にこの宮殿で笑って暮らそうではないか』」


抱き合うさくらとマリア。拍手喝采。見て、舞台袖から立ち去るかえで。

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テラス。夜景を見るかえで。椅子の上で体育座り。隣に来るあやめ。

「――銀座の夜景もなかなかでしょう?…食べる?」

紙で包んだコロッケを渡すあやめ。食べ、驚くかえで。

「お母様の味、再現してみたの。何度もチャレンジしてみてわかったのよ、隠し味はりんごだったのね」

「…よっぽど暇なのね」

「ふふっ、あなたが来てくれたおかげでね。今日はよかった、『海神別荘』の初日も大成功だったし」

「…当たり前でしょ、私が指導したんだから」

「確かにそうね…。でも、それだけじゃないわ」

「はぁ?」

「…江戸川先生にも見せてあげたいわね、あの子達の成長した姿」


黙るかえで。

「――この前は私に化けて、デートしてたそうね」

「〜〜あ、あれは…!」

「ふふっ、わかってるわよ、全部聞いた。…苦労してるのよね、あなたも。ごめんなさい…」

「…別に謝ってもらっても意味ないし」

「そうね…。でも、時々考えるの。もし、私が生まれてなかったら、あなたももっと違った生き方ができたのかなって…」


あやめを見つめるかえで。見回りで来る大神。

「あ、あやめさん、かえでさん…!」

「あら、大神君!見回り、ご苦労様」

「ここで終わりですから。寒くないですか?風邪でも引いたら大変です」


自分のマフラーをあやめに巻いてやる大神。

「ありがとう。でも…」

一緒に大神とマフラーを巻くあやめ。

「こうした方がもっとあったかいでしょ?」

「か、かえでさんの前ですよ?」

「ふふっ、別にいいじゃない」

「はは、もう、しょうがないなぁ」

(〜〜な、何なの、こいつら…?)

「今から呼びに行くところだったんです。例の調査の続きをと思いまして」

「そうね。じゃあ、行きましょうか。かえで、体冷やさないようにね」

「おやすみなさい」


ラブラブで立ち去る大神とあやめ。

「〜〜な、何よ、あれ…?私へのあてつけなわけ…!?

手を固く繋いで歩いていく大神とあやめ。嫉妬するかえで。

★               ★


天雲神社。炎が大きく揺らぐ。目を開く先巫女。

「おぉ…!遂に神剣が甦ったか…!」

炎にあやめとかえでが映る。

「後継者が二人じゃと!?こんなことは初めてじゃ…。じゃが、もう継承者は決まっておるでのぉ。よかったなぁ、あやめ。やっと力を取り戻せるぞえ」

あやめに黒い影。気づき、炎を見るが、消えている。

「気のせいか。――皆の者、時は来たれり!儀式じゃ!儀式の支度をせい!!」

慌しく走る神官達。満月に黒い靄。

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かえでの部屋。蒲団に包まるかえで。大神を思い出す。

(……あんな顔、私の前じゃしてくれないくせに…〜〜って、何考えてるの、私ってば!?あいつが姉さんといようがいまいが関係ないのに…)

大神の部屋で人の気配。大神の部屋。手をつないで入る大神とあやめ。

「――ふぅ、今日の収穫はなしでしたね…」

「仕方ないわよ。そう簡単に見つかるんなら、彼らはとっくに叉丹に殺されてるわ。根気よく続けましょ」

「はい…。でも、なるべく早く裏御三家の末裔を探し出さないと…。〜〜う〜ん…、あとは隼人だけなんだけどなぁ…」

(――裏御三家…?)


コップを壁に当てて聞いてるかえで。

「私は…、見つけるのが遅くなってもいいかな」

「え?」

「だって、その分大神君と一緒にいられるもの…」

「あ、あやめさん…。はは、実は俺もだったりして…」

(〜〜また始まった…)

「――あ、そうだ。是非見せたいものがあったんです」

「まぁ、何かしら?」


引出しから三越のネックレスを出す大神。驚くあやめ。

「頑張って直してみたんです。ちょっと手間取りましたけどね」

「あ…、本当に…」


涙ぐむあやめにネックレスをかけてやる大神。

「これは、あやめさんへの最初のプレゼントですから、俺としても大事にしたかったんです。帝都タワーのブローチは敵の罠でしたしね」

「ふふ、そうだったわね」

「でも、思った通りです。よく似合ってますよ」

「本当にありがとう。すっごく嬉しくて、ふふ、泣いちゃいそう…」


抱きしめ合う大神とあやめ。悔しくなり、蒲団に潜るかえで。

「〜〜アホらし。…もう寝よ!」

「――あっ、あ〜ん!」


目を見開くかえで。

「だ、だめよ、大神君…!明日早いんだから…」

「いいじゃないですか。一回だけ…、ね」

「あっ、そこ、弱いのぉ…」

(〜〜な、何考えてんのよ…!?ちゃんとドア閉めてるんでしょうねぇ!?)


真っ赤で寝返りを打ち続けるかえで。

「やああ〜んっ!そ、そんな、道具まで使うなんて…!!」

「ふふっ、これでトドメですよ…!」

「あっ!そ、そんな、まだ…い、いやああ〜んっ!!だめぇ〜んっ!!」


震え、ドアを思い切り開けるかえで。

「〜〜何考えてんのよっ!?こっちまで丸聞こえ――」

テレビゲームしている大神とあやめ。目がテンになるかえで。

「す、すみません…!うるさかったですか!?」

「ごめんなさい。これが最小のボリュームだったんだけど…」

「〜〜な、何それ…?いつの間に…!?」

「紅蘭が作った蒸気テレビジョンゲーム機よ。試作品をやってほしいって頼まれたの」

「なかなか面白くて、つい寝る前にやりたくなっちゃって…」

「大神君強くて、なかなか勝てないのよねぇ」

「あやめさんだってお強いですよ。あ、かえでさんもいかがですか?結構ハマりますよ」


対戦格闘ゲームが画面に映っている。力が抜けるかえで。

「かえでさん…?」

「〜〜紛らわしいのよ!!バーカッ!!」


思いきりドアを閉めて走っていくかえで。音にビビる大神とあやめ。

「…何怒ってるのかしら?」

「さぁ…?」


蒲団に包まるかえで。大神を思い出す。

(〜〜バカ…。私ってば本当バカ…。何でこんなに…、〜〜こんなに…!)

★               ★


地下城。黒い炎に映る荒鷹と白羽鳥。

「霊剣荒鷹、神剣白羽鳥…。残る聖剣はあと一つ…」

「――しくじったそうじゃないか。馬鹿力の常磐まで蘇らせたのに、残念だったねぇ」


やってくるミロク。炎を握り潰す叉丹。

「どうしてそこまでしてあの女を手に入れたいんだい?…あぁ、未練って奴かい。情けないねぇ、男のくせに――」

ミロクの顔のすぐ横を叉丹の拳が通過。柱がめり込む。ミロクの頬から血。

「黙れ。虫けらが」

「〜〜よくもわらわの顔を…!そんなんだから捨てられるんだよっ!!」

「捨てられた?この私が?ふっ、笑わせてくれる」


鋭く睨む叉丹。青ざめるミロク。

「一つだけ教えてやろう。あの女…、あやめは私に逆らえぬ、決してな」

立ち去る叉丹をビクビク見つめるミロク。叉丹の体からサタンのオーラ。

(〜〜こ、この恐ろしいまでの魔力…。あの男、本当、何者なんだい…!?)


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