★13−2★



花やしき。機嫌悪く特大苺パフェを食べるかえで。

「…そんなに食べて大丈夫ですか?」

「〜〜うるさいっ!!」


ビビる大神。

(〜〜はぁ…、いい加減神社に向かわないとな…。何か日も沈んできたし)

「――え〜?お化け屋敷ぃ?」

「何だ、お前、怖いのかよ?」

「〜〜こ、怖くなんかないやい!」

「皆で入れば大丈夫よ。さ、行きましょ!」


お化け屋敷に入っていく子供達。

「お化け屋敷かぁ…。俺達も入ってみますか?」

「ふん、あんな子供騙し――」


泣きながらお化け屋敷から出てくるカップル。

「〜〜でもなさそうですね…。あれ入ったら、ここ出ましょうか」

「……帰るの?」

「〜〜いや、もういい加減神社に向かわないと…」


スプーンを口に含み、大神を不満に見つめるかえで。

★               ★


お化け屋敷。並んで歩く大神とかえで。提灯お化けにビビる大神。

「〜〜け、結構本格的ですね…」

「ぜーん然大したことないじゃない。金払ってまで入る代物じゃないわね」

「〜〜自分の支部批判はやめましょうよ…」

「ほら、さっさとこんなとこ出るわよ!」

「あ、急ぐと危ないですよ、暗いんですから!」


先に行き、目を輝かせてお化けの人形を見るかえで。

(すごい、すごい!これがお化け屋敷なのね…!初めて入った〜)

泣き出す子供をなだめる父親と母親を見つける。

(……普通の子なら何でもないのかしら、家族で遊園地なんて…?)

立ち止まり、襖を見るかえで。襖に映る幽霊の影を母のぼたんと重ねる。

「〜〜何よ、嫌なこと思い出しちゃうじゃない…!」

早歩きし出すが、声が聞こえてきて立ち止まる。

「――置いてかないでぇ…」

回想。殺されたぼたんの襖の影。幼いかえでを抱きしめる幼いあやめ。

『〜〜お母様、置いてかないで…!〜〜かえでを置いてかないでぇ…!!』

「〜〜いやあああ――っ!!」


走って見つける大神、うずくまって泣きじゃくるかえでに駆け寄る。

「〜〜お母…様…、置い…て…」

「あやめさん?あやめさん、大丈夫ですか?」

「〜〜いや…、私を…一人にしないで…!」


かえでを抱きしめる大神。驚くかえで。

「大丈夫です、もう怖くありませんから…!」

正気に戻り、慌てて大神を突き飛ばすかえで。

「〜〜な、何するのよ、いきなり!?〜〜上官にだ…抱きつく…なんて…」

「す、すみません…!俺が支えてやらないと何だか消えてしまいそうで…」

(…ってあれ?俺達、いつもこんなことしてるよなぁ?)

「〜〜な…っ!?あ、あんた、いつもそんな恥ずかしいこと言ってるの!?」

「はぁ?」

「〜〜もういいっ!!さっさと出るわよ!」

「え?あ、ちょっと…!」


追いかける大神。うつむいたまま早歩きするかえで。

(あ〜、何かムカつく!…ムカつくのに何で心臓が速まってるわけ…?)

キスするカップルを見つけ、真っ赤で地面にバッグを叩きつけるかえで。

「〜〜あ〜、もうどいつもこいつもっ!!」

「あやめさん、一人で走ったら危ないですよ…!」

「〜〜だ〜っ!!来るな、ケダモノ〜ッ!!」


バッグで大神を叩くかえで。

「〜〜お、落ち着いて下さい!どうしたんです、今日ちょっと変ですよ?」

「うるさいっ!!〜〜もう放っといてよぉ…!」


泣くかえで。オロオロする大神。二人を指さす子供。

「あー、彼女泣かせたー!」

「こら!人を指差すんじゃありません!」

「…わかりました。もう勝手にして下さい。俺一人で神社行きますからね」


プイと背を向ける大神。驚き、目を見開くかえで。

「あ、彼女フラれた」

「こら!」

「〜〜や、やだ!行っちゃ…」


大神の上着を引っ張るかえで、ハッとなり、慌てて手を引っ込める。振り返り、微笑んで観覧車を見上げる大神。

「――観覧車、乗りましょうか、最後に」

★               ★


「――わぁ、良い眺めですね。あ、あれ帝都タワーですよ。昼間だったら、帝劇も見えたかもしれませんね」

観覧車。景色を見る大神。黙ってうつむくかえで。かえでの手を握る大神。

「…冷えちゃいましたね。俺も少し寒いです」

笑顔の大神に赤くなるかえで。

「今日は楽しかったですか?……かえでさん」

「え…?〜〜な、何言ってるの?私はあやめよ!?」

「その目、そんなに鋭くありません。あやめさんはムキになると、かえって涙目になるんです」

「……」

「その格好だと、本当にそっくりですね。化粧とか変えてるんですか?」

「…いつから姉さんじゃないってわかったの?」

「最初から変だとは思ってました。バッグの持ち方も髪を触る癖も違うし」

「…あんた、男のくせに細かいわね」

「ハハ、よく言われます。あやめさんはアイスクリンはいつもチョコ味で、パフェよりあんみつが好き。…それに、肩書を利用して威張らないんです」


目を見開くかえで。

「子供や部下にはいつも優しいです。どんなに自分が疲れてても、いつも笑顔で応対してくれます」

「…だから?〜〜だから私は敵わないって言うの?」

「え?」

「確かに姉さんは完璧よ。才色兼備で優しくて、巫女の力も格段に上だった!お父様もおばあ様も後継ぎに決めてた姉さんを溺愛して、私なんかちっとも構ってくれなかった…。同級生も教官も皆、姉さんはすごい、天才だ、それに比べて妹はっていつも比較して…。私だって昔は姉に憧れてたわよ!姉さんみたいな素敵な女性に、優れた軍人になりたかった!でも、いくら頑張っても追いつけないの。ますます差は広がってくばかりで…」

「かえでさん…」

「…でも、お母様だけは私の味方だった。私達姉妹を平等に愛してくれた!私の好きだったコロッケもいつもおいしくて…、〜〜温かくて…」


コロッケを食べる幼いあやめとかえで。微笑み、二人の頭をなでるぼたん。

「私のことを考えてくれるのは、お母様だけだった…!〜〜なのに…」

燃える門。暗闇。逃げる幼いあやめ、かえで。姉妹を部屋に隠すぼたん。

『――ここでちょっと待っててね』

『〜〜お母様…!』

『大丈夫よ、少しお話をしてくるだけだから』

『危険です!おやめ下さい…!』

『死にはしないわ。大事なあなた達を育て、守るのが母の務めですもの』


あやめとかえでの頭をなでるぼたん。泣き出すかえで。

『しっ、良い子だから待ってて、ね?』

『〜〜ひっく…、お母様ぁ…』

『…あやめ、かえでを頼みましたよ』

『〜〜はい…!』


かえでを抱きしめるあやめ。巫女の力で襖を閉めるぼたん。追う常磐達。

『がははは…!この俺から逃げ切れると思ったか!?』

『…藤枝の巫女の力、そんなに欲しいですか?』


神剣白羽鳥を抜き、力を解放するぼたん。髪留めが風に飛ぶ。怯む一味。

『でしたらその力…、――とくと味わいなさい!!』

襲いかかる一味を薙ぎ払うぼたん。剣のぶつかる音に怯えるかえでを強く抱きしめるあやめ。弓でぼたんの肩を射抜く刺客の一人。

『がははは!死ねええーいっ!!』

苦しみつつ、剣で常磐の拳を受け止めるぼたんの背中に無数の矢が刺さる。

『ああああ…!!』

ぼたんを木に押しつける常磐。短刀を出すも、常磐に押さえられる。

『無駄な抵抗はやめるんだな。すぐに殺しやしねぇからよ…!』

ぼたんの首筋に牙を立てる常磐。霊力を吸い取られるぼたん。

『〜〜あ…ああああーっ!!』

『へへ、やっぱり巫女の霊力は格別だぜ!そら、礼だよ!』


常磐に左胸を拳で貫かれるぼたんの影が襖に映る。ショックなかえで。

『〜〜いやあああっ!!』

『――!!常磐様、子供の声が…!』

『くくく…、まったくこれだからやめられねぇぜ…!』


涙ぐみ、かえでを強く抱きしめるあやめ。

『この中だ!開けろ!!』

『〜〜く…っ、あの子達は…私が…命に…代えても…っ、守ります…!!』


よろめきながら起き上がり、力を放つぼたん。倒れていく常磐達。

『がは…っ!〜〜まさか…これほど…とは……』

息絶える常磐。襖がゆっくり開く。抱き合って震えている姉妹。

『お母…様…』

『あやめ…、かえで…、強く…生きるの…です…よ……』


微笑み、かえでの頬に触れようとしたぼたんの手が力尽きる。

『お母様…、〜〜お母様ぁ〜っ!!』

「――戦争で父を亡くし、唯一の理解者だった母にも先立たれて…、私は姉さんと一緒に親戚を転々としたわ」

「そこからはあやめさんに聞きました…。大変辛い思いをなさったと…」

「…昔の話よ。結局、最初から今まで姉さんに負けっぱなし。対降魔部隊には選ばれず、チャンスだった欧州星組も失敗。…本当、やんなっちゃう」

「…どうして、そんなにお姉さんに勝ちたいんですか?」

「たった二人の姉妹ですもの。女同士っていうのはそういうものなのよ」

「…俺、思うんです。こんなこと言って生意気かもしれませんが、あやめさんにはあやめさんの魅力があるし、かえでさんにはかえでさんの魅力がある…。姉妹といえども違う人間です。得意不得意があって当然だし、好きな食べ物や性格、髪を触る癖…、その違いがあったからこそ、俺は今日、あなたがあやめさんではないと気づけたのではないでしょうか」

「……ふぅん。じゃあ、私の魅力って?」

「え?そ、それは…」

「言ってみて」

「まだお会いしたばかりなので、うまくは言えませんが…、笑顔でしょうか」

「――!」

「一緒に乗り物に乗ったり、アイスクリンを食べた時に見たあなたの笑顔、とても素敵でした。マリア達はあなたをあまりよく思ってないみたいですが、さっきの笑顔を見る限りでは俺、とても心の温かい人だって思います」

「心が温かい…?ふっ、私が?」

「軍人だから、自分を強く見せたいのはわかります。でも、たまには本当の自分を曝け出してもいいと思います。苺のアイスクリンを食べていたさっきのあなたを知ったら、皆、喜んで迎えてくれますよ」


遠くの景色を見るかえで。夕日が沈んでいく。

「確かにあやめさんには、数え切れないほど魅力があります。でも、かえでさんにも同じくらい違う魅力があるんだと思いますよ。それをまず自分で見つけてみて下さい。そして、俺達にアピールして下さい。俺も含めて皆、あなたを大好きになりますから…!」

赤くなるかえで。

「あ…、〜〜いえ、そういう変な意味じゃなくてですね…」

「〜〜わかってるわよ、私だって馬鹿じゃないんだから。……でも、そういうのも悪くないかもね…」


照れながら微笑むかえで。黒い風が消え、かえでの姿に戻る。

「…あーあ、解けちゃった」

「今のはまさか…!」

「ごめんなさい…。もう少しで悪魔に魂売るとこだったわ」

「もしかして、俺をあやめさんから遠ざける為に…!?」

「〜〜それは…きゃああっ!?」


窓にひびが入り、割れる。かえでをかばう大神。観覧車が止まる。

「な、何だ…!?」

「――あーあ、失敗しちゃったねぇ」


現れ、空中に浮かぶ幼いかえでに化けた刹那。変身を解き、元の刹那へ。

「〜〜あ、あんたは…!」

「刹那…!?お前がかえでさんを扇動したのか!!」

「今頃気づいたの?もう遅いよ。すでにあやめは捕まえちゃったからさ!」


マリオネットの糸に絡まれ、気絶しているあやめ。

「あやめさんっ!!」

「〜〜今すぐ解放しなさい!!」

「あははっ!何怒ってるの?姉さんの死をあれだけ望んでたじゃないか」

「〜〜そ、それは…」

「姉さんさえいなくなれば、もう誰からも比較されない、蔑まれない…。そう心の中で繰り返してたよねぇ!?」

「〜〜あ…、わ、私は…」

「――あなたはあなたです!」


ハッとなるかえで。

「確かにあやめさんはあなたの目標であり、超えたくても超えられないライバルかもしれない!でも、お姉さんはいつもあなたを心配してるんです」

『――あの子にチャンスをあげて』

『――少しは自信が出て、余裕を持てるようになるだろうし…』

「姉さん…」

「ちっ、邪魔するなよ!!」


衝撃波にぶつかり、座席にぶつけられる大神。

「うわあっ!!」

「大神君…!!」


刹那が出した黒の渦から落ちてきた黒い剣がかえでの足元に刺さる。

「姉さんにとどめを刺せ!お前の幸せを奪う邪魔者を抹殺するんだ!!」

「〜〜あ…、あ…」

「やめて下さい、かえでさん…!〜〜うわああああっ!!」


大神に黒い風を起こす刹那。

「邪魔するなよ、いいとこなんだからさぁ」

「〜〜ぐ…っ!かえでさん、自分に負けないで下さい…!!」

「〜〜私…は…」

「――お願い…、〜〜許して…」

「え…?」

「今まで…馬鹿にしてきてごめんね…?あなたが出世できるよう掛け合ってあげるから…、私の地位も全部あげるから…、〜〜命だけは…!」

「姉さん…」


笑みを浮かべ、剣を引き抜くかえで。

「かえでさん…!?」

「ふん、やっとやる気になった?」

「ふふっ、今さら何言ってるんだか。いいわ、私が地獄に送ってあげる…!!」


観覧車の上に立ち、剣を構え、突進するかえで。笑う刹那。

「はああああっ!!」

「〜〜やめろおおおっ!!」


剣が刺さる。血を吐き、目を見開く刹那。刹那の左胸に突き刺さる黒い剣。

「〜〜な…、な…ぜ…?」

あやめが降魔に変わる。

「〜〜降魔…!?」

「甘いわね。実の姉が本物かどうかぐらいすぐわかるわよ」


雄叫びをあげ、迫る降魔。斬られ、滅びる。回転し、着地するかえで。

「どうせ私を罠にはめて、降魔の餌にでもと思ったんでしょ?甘いわねぇ、僕ちゃんは」

剣を刹那に突きつけるかえで。

「姉さんはねぇ、自分の危機に助けを請う人間じゃないのよ!21年来の姉妹の絆、甘くみないで頂戴!!」

「かえでさん…!」

「ありがとう、大神君。――不思議ね、何だか少し吹っ切れたみたい。おかげで戦いにも精が出るわ…!」

「〜〜く、くそぉ…!人間のくせに生意気なんだよ!調子に乗るなぁっ!!」


黒い風を起こし、かえでを吹き飛ばす刹那。

「きゃああああ…!!」

体が浮くかえで。大神がかえでを抱きかかえる。赤くなるかえで。

「大丈夫ですか!?」

「〜〜な、な…っ!?」

「俺が先陣を切ります!後援をお願いしますね!」


着地し、かえでを降ろして突進する大神。

「ふん、武器もなしに何ができる!?」

爪を伸ばして攻撃する刹那。よけながら突進し、刹那にタックルする大神。

(す、すごい…!何なの、この子…!?)

「〜〜な、何…!?〜〜うわああっ!!」

「今です!」


かえでの体から霊力が放出。常磐の心臓が大きく鼓動。察知し、笑う叉丹。

(――そこにあったか…!)

「藤枝流奥儀・白鳥散華斬!!」


白い羽の刃を飛ばすかえで。地面に叩きつけられる刹那。

「〜〜う…うわああああっ!!」

「やったか…!?」


煙が晴れ、傷だらけの刹那が大神とかえでを見上げ、睨んでいる。

「〜〜まだ生きてたの…!?」

「やってくれるじゃないか…。この借りは必ず返してやるからな…!」


瞬間移動で去る刹那。

「逃がしたか…。〜〜おわっ!?」

「きゃ…っ!!」


動き出す観覧車。よろめいたかえでを抱きとめる大神。赤くなるかえで。

「さすがにお強いですね…!俺一人だったら、やられてましたよ」

「あ…、〜〜は、放しなさいよっ、セクハラよ!?」

「す、すみません…」

「――でも、ありがとう…」

「え?」

「〜〜何でもないわよっ!ほら、さっさと帰るわよ!」


観覧車の中に戻る大神とかえで。さらに大きくなる常磐の鼓動。

「…名残惜しいくせに」

「…何か言った?」

「〜〜い、いいえ…!」


★               ★


「――刹那め、しくじったか…」

「破邪剣征・桜花放神!!」


浅草。片手で技を封じる叉丹。驚く花組。

「悪いが、急用ができた。お前らとじゃれ合っている暇はないんでね」

「いや〜ん、私達を置いてどこ行くのん?」

「〜〜こ、この勝負、預けておくぞ…!」


消える叉丹。

「あ…、待ちなさい!」


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