★16−4★
事務室。かすみに言われ、パンフレットの入った段ボールを運ぶ大神。
「これを売店に運べばいいんだね?」
「お願いします。はぁ、やっぱり大神さんがいらっしゃると助かります」
「ね〜ね〜、俺は〜?」
「はいはい、加山さんも頼りになりますよ。いいから、黙って運んで下さい」
大神の倍の段ボールを加山に持たせるかすみ。大神に近づく由里と椿。
「ね〜大神さん、最近のさくらさん、何だか綺麗になったと思いません?」
「くくくっ、何でだか教えてあげましょうかぁ?」
「はぁ…?」
「ほら、無駄口叩いてないで、さっさと伝票整理!椿も手伝いなさい!」
丸めたパンフレットでかすみに頭を叩かれ、渋々手伝う由里と椿。
「ちぇ〜…。かすみさん、仕事となると急に厳しくなりますよね〜…」
「――大神さん、残念だったわね〜。ハーレム、崩れたり!」
鼻唄を歌いながら、席に着く由里を不思議そうに見つめる大神。
「…?ハーレムって…?」
「とぼけんなよ、色男〜!ま、かすみっちが俺にメロメロになった時点ですでにお前のハーレムは崩壊していたわけだが!」
「〜〜さっさと運ぶっ!!」
かすみの丸めた紙が加山の頭に当たる。
★ ★
廊下。加山と段ボールを運ぶ大神。
「う〜ん、健気で献身的なかすみっちもいいけど、時々垣間見せるたくましいかすみっちもまた、魅力的なんだよなぁ〜!」
「ハハハ…、そうか。俺はもっとおとなしい人の方がタイプかな」
「確かに副司令はしとやかな大和撫子だしな。よっ、お似合いカップル!」
「何言ってるんだ?俺とあやめさんはそんな関係じゃないよ」
「え…?」
「でも、先巫女様が言うほど悪い人じゃなさそうだ。婿に入ったら義姉さんになるわけだし、今のうちから仲良くしておかないとな」
「お…、おいおい、何言ってるんだ?お前が副司令と結婚して、代理が義理の妹になるんだろ?ハハハ…、爆発のショックで気でも狂ったか?」
「俺があやめさんと?何言ってるんだよ、俺はかえでさんの婚約者だぞ?」
「大神…、お前…」
大神を見つけ、廊下の向こうから駆け寄ってくるあやめ。
「ここにいたのね、大神君…!今ね、報告書を書くところなの。あなたとかえでのことを書くから、無人島での生活を細かく教えてくれる?」
「はぁ…、いいですけど――」
「――大神君」
かえでが不機嫌そうに歩いてくる。
「無駄話してないで、さっさと運んで頂戴」
「あ…、す、すみません…。――行こう!」
急ぐ大神。去り際にかえでを不審に見つめる加山。あやめを睨むかえで。
「そのことなら、私が代筆で書いとくわ。それで構わないでしょ?」
「い、いいけど…」
「何?」
拳を震わせ、かえでを真っすぐに見つめるあやめ。
「…この1ヶ月で、大神君と何があったの?」
「あら?ふふっ、さすがに気づいちゃった?」
「〜〜まさか、あなた…!」
「私は何のモーションもかけてない。向こうが勝手に心変わりしただけよ」
「〜〜嘘よ…!彼はそんな人じゃないわ…!!」
「だったら、直接聞いてみればいいじゃない。…それとも、怖くてできない?大神君と私が愛し合った事実を認めるなんて――」
「〜〜やめて…っ!!もし、本当でもこんなのひどすぎるわ…!あなたは私の妹でしょう!?」
「妹だから余計許せないのよ。〜〜姉さんは昔からそうよね?家族の期待、愛情、地位、名声、新しい服ですら私が欲しい物、次々手に入れて…。さぞ順風満帆な人生だったでしょうね!?〜〜だから、お返しにあの男を奪ってやったのよ!どう?悔しいでしょう!?」
かえでの頬を叩き、涙を流すあやめ。
「〜〜だからって、こんな嫌がらせひどすぎる…!私が彼をどれだけ愛しているか…、どれだけ必要としているか知っているはずでしょう!?」
頬を押さえ、笑うかえで。
「知ってるわよ…?でも、ただの嫌がらせじゃないわ。私も彼を本気で愛しているんですもの…!」
「…!!」
「姉さんのペンダント、あるでしょ?あれ、壊れたって言ったの嘘だから」
「え…?」
「彼、部屋の窓から捨てたわ。もう姉さんのお守りなんていらない、私のさえあればいいって」
青ざめて踵を返し、中庭でペンダントを探すあやめ、発見し、呆然となる。背後に立ち、笑うかえで。
「ふふっ、お気の毒だこと。――だから姉さんは甘いのよ」
笑いながら歩いていくかえで。ペンダントを握り、涙を流すあやめ、胸が苦しくなり、押さえて息を荒げる。
『――これでわかっただろう?貴様は奴に裏切られたのだ』
「〜〜違う…!こんなの嘘だわ…。またあなたが何か…」
『可哀相に…。疑り深くなるのも仕方ないか…。霊力を失い、愛も失い…、身内である妹にも裏切られ…。もうお前はここにいる誰からも必要とされていないのだからな…』
「〜〜そんな…こと…っ」
『さぁ、私の元へ来るのだ。哀れなお前に新たな力を授けてやろう』
「〜〜お断りよっ!!」
頭を押さえ、劇場内に逃げ込むあやめ、苦しくなり、胸を押さえる。
「ふははは!もっと憎め!もっと苦しめ…!!真の目覚めはすぐそこだ…!!」
「――去ねっ!!」
木刀を横に一閃する双葉、叉丹の声が消え、気を失うあやめを抱きとめる。
「…やれやれ。あの言い伝えは本当だって言うのかい…?」
『――月が赤き光を放ちし時、闇と絶望の淵より最終降魔、来たれり』
支配人室。『放魔記書伝』の一節を読み、本を閉じる米田。ノックし、入ってくる大神。
「お呼びでしょうか、司令?」
「あぁ。戻ってきたばかりで悪いんだが、あやめ君と共に裏御三家の調査の続行をしてもらいたくてな。もうあまり時間がねぇからよ」
「あぁ、それでしたら、天雲神社にあった資料を先巫女様に見せて頂きました。すぐに貸し出しの許可を――」
「そこに…、かえで君もいたそうだな?」
「え…?」
月組が撮った大神とかえでが一緒に書庫にいる写真を机の上に出す米田。
「これは一体どういうことだ?これは花組にも知らせていない極秘任務だ。立派な命令違反だな」
「で、ですが、かえでさんは親切に…!」
「親切に…何だ?」
「〜〜親切に…資料を持ってきてくれて…」
「ほぉ、あの頑固な先巫女とかえで君が快く調査に協力してくれたと?…それで、持ってきてくれてどうした?」
「〜〜そ、それは…その…」
「…やっぱりな。……大神よぉ、お前はその日、裏御三家の調査で神社を訪れたんじゃねぇ。最終降魔の資料を見せてほしいとかえで君と頼みに行き、その書庫でたまたま裏御三家の資料も見つけたんだ」
「え…っ!?しかし先巫女様がそう――!」
「はぁ…、あのばあちゃんにそう吹きこまれてたか…。いいか?お前さんは本当は命令違反なんかしてねぇんだよ」
「は、謀ったんですか…!?」
「これも確かめる為だよ、――お前さんが記憶喪失になって、藤枝家にいいように操られてないかな」
「…!!〜〜し…っ、失礼します…!!」
一礼し、慌てて出ていく大神を黙って腕を組んで見つめる米田。
「…お前さんの読みは正しかったな」
カーテンの後ろから姿を現す加山。
「えぇ…。〜〜厄介なことになりましたね…」
「とりあえず、大神の記憶を取り戻すのが先だ。〜〜このままでは、あやめ君は本当に…」
「…我々も全力を尽くします。しかし、やはり最後は大神次第でしょうね」
『放魔記書伝』を見つめ、立ち上がる米田。
★ ★
神社。真刀滅却を持ち、手を合わせる米田。
(――三十郎、あれからもう何年になる?どうせお前のことだ、今の俺を見て、すっかり老いぼれたなとか抜かしやがるんだろうさ…)
灯籠に手をかざす米田。石段がずれ、入口が出現。階段を降り、深呼吸して前を向き、扉に手をかざす米田。扉がゆっくり開いていく。真刀滅却を持った幽霊が立って構えているのを見て、口元を緩ませて構える米田。
「――久し振りだな、三十郎…!」
★ ★
大帝国劇場・事務室。
「え〜?米田のおじちゃん、いないの〜?」
「ごめんね、アイリスちゃん。明日早くにお戻りになられると思うから」
かすみになだめられ、ぶーたれて事務室を出るアイリスと一緒に出る紅蘭。
「ぶ〜。せっかく『つばさ』のリハーサル、見てもらおうと思ったのに〜」
「仕方ないやんか。今日のうちにいっぱい練習しといて、明日見てもらお」
「ちぇ〜」
廊下を歩く紅蘭、さくらと一緒に歩く山崎を見つけ、目を見開く。
「どうしたの…?――あっ、ねぇってば〜!」
走って2人を追いかけていく紅蘭、すみれとカンナにぶつかる。
「きゃあっ!!〜〜ちょいと、どこを見て歩いてますのっ!?」
「す、すんまへん…!さくらはん、見まへんでしたか、男の人と一緒やったと思うねんけど…!?」
「んまぁっ!!さくらさんってば神聖な劇場に男を連れ込んでますの!?」
「〜〜いちいちデカいリアクションだな、おめぇは…。けど、さくらなら見てないぜ?」
「おかしいなぁ…。確かにこっちに来たと思うねんけど――」
「――私がどうかしましたか?」
山崎の隣で微笑んでいるさくら。驚くすみれとカンナ。座って呆然としている紅蘭に手を差し伸べ、立ち上がらせる山崎。
「すみません、勝手に上がり込んでしまって…。支配人にご挨拶をと思ったのですが、残念ながら留守みたいで…」
「〜〜な…っ、何者ですの、あのイケメンは…!?」
「〜〜あたいが知るかっ!」
後ろでこそこそ話すすみれとカンナに微笑む山崎。
「申し遅れました、私は山崎真之介と申します。さくらさんの友達です」
「ほんまに…、ほんまもんの山崎はんでっか…?あの光武をつくった…!?」
「何ですってぇっ!?」
「じゃあ、司令達と一緒の部隊にいた奴って…!」
「えぇ、確かに米田中将、真宮寺大佐、藤枝少尉と共に対降魔部隊に所属しておりました」
「すっげ〜っ!!ってことは、あたいらの先輩ってことだよな!ハハハ…、よろしく頼むぜ!」
「〜〜目上の方なんですから、もう少し丁寧な言い方ができませんの?」
「けっ、うるせー!」
笑う山崎を見つめ、動揺する紅蘭の肩にそっと触れるさくら。
「どうしたの?憧れの山崎さんに会えて嬉しくないの?」
「も、もちろん嬉しいで!〜〜せやけど…」
山崎と叉丹が重なり、眉を顰める紅蘭。
(〜〜やっぱり似とる…。もしかしたら…せやけど、証拠があらへん…)
「あなたが李紅蘭さんですね?さくらさんから聞きました、お一人で人型蒸気の整備を行ってらっしゃるとか…」
「そ、そうなんですー!いやぁ、うち、めっさ山崎はんのファンでしてん!あんさんの設計図も持っとるんよ?憧れの先生に会えて、幸せやわ〜!」
「そうでしたか。わからないことがあれば何でもおっしゃって下さい。私でよければ力になりますよ」
「あはは、おおきに〜」
「山崎さん、花組のファンなんですって。ですから、これから劇場内を案内してあげようと思って」
「そうか!だったら、今、あやめさんも連れてきてやるよ!」
「副司令なら地下に籠りっぱなしですわ。霊力を回復させるとかで」
すみれの言葉を聞き、静かに微笑む山崎に怯える紅蘭。
「な〜んだよ。せっかく昔の仲間が遊びに来たっていうのによ〜…」
「また今度でいいじゃないですか。――ねぇ山崎さん、早く行きましょ!」
「ハハ…、そんなに急かさないで下さい」
腕を組んで歩いていくさくらと山崎に呆然となるすみれとカンナ。
「〜〜さくら…、あの瞳はマジだな…」
「キラキラ恋する乙女の瞳でしたわ…。〜〜き〜っ!!新人のくせに男を作るだなんて許せませんわっ!!芝居をおナメになってますわよ!!」
山崎を見つめ、うつむく紅蘭。
★ ★
地下・鍛練室。アイマスクを下げ、風組に椅子に拘束されるあやめ。操縦室から見ているラチェット、双葉、新次郎。
「…本当にいいの?」
「…えぇ、やって頂戴」
「〜〜やめましょうよ、ラチェットさん!米田さんのいない間に勝手に…」
「…仕方ないじゃない。本人が聞かないんだもの」
「〜〜でも…!せめて、一郎叔父を呼びましょう――!」
「〜〜やめて!……本当に…大丈夫だから…」
ため息つき、風組に合図するラチェット。顔を見合わせ、装置のスイッチを押す風組。装置からあやめに電流が流れる。
「きゃあああああああっ!!」
「バックストゥーム計画…。人工的に人間の霊力を強制的に目覚めさせる科学技術…。でも、成功して霊力が増えた者はほんの一握り…か」
「あら、お義母様って博識ですわね。でも、これを開発した尾道栄一郎博士は負の遺産を造ったとして、学会から追放されましたけどね」
「そんな危険な物、やはりまずいです。いくら霊力を取り戻したくても…」
「〜〜やっぱりできません…っ!!」
装置を止め、泣き出す風組。
「〜〜こんなことやっても、うまくいくわけないですよ…!」
「〜〜う…っ、ひっく…、死んじゃいますよぉ…」
「〜〜椿…、続けて……」
「〜〜いけません!そんなお体で――!」
「これは上官命令よ!」
「…!」
「〜〜私は…、今すぐこの戦いを終わらせたいの…。降魔になる前に奴を…、葵叉丹を討たなければ…」
「副司令…」
眉を顰め、再びスイッチを入れるラチェット。驚く新次郎と風組。
「何するんですか!?」
「〜〜仕方ないじゃない、霊力を取り戻すには他に方法がないんだもの…。これは、あやめの為なの…!霊力を取り戻せば、戦闘に加われる。黒之巣会も壊滅できる。巫女の試練にも耐えられる。巫女を継げば大神隊長と結ばれる。先巫女もまたあやめを必要とする。〜〜全てうまくいくのよ…!」
「ラチェットさん…」
苦しむあやめを見られず、目を伏せる風組と新次郎。耐えるあやめ。
「〜〜大神…く…ん……!」
大神の名を呟くあやめを辛そうに見て、木刀を握りしめる双葉。
『――見ていられぬな。そうまでしてあの男を取り戻したいか?』
叉丹の声があやめの頭の中で響き、目を見開くあやめ。霊力値が振り切り、装置が火花を吹いて暴走。慌てて離れる風組、ラチェット、双葉、新次郎。
「〜〜また霊力が…っ!?」
★ ★
舞台。邪悪な気配に怯え、うずくまるリハーサル中のアイリス。
「アイリス、大丈夫か…!?」
「〜〜あやめお姉ちゃんが…、あやめお姉ちゃんが…!」
不敵な笑みをこぼす見学中の山崎。隣で無表情で立っているさくら。2人を真剣な顔で見つめるマリア。
★ ★
「〜〜記憶喪失がバレたですって…!?」
「す、すみません…!」
「ハァ…。〜〜覚悟はしていたけど、こんなに早くとはね…」
爆発音にハッとなり、廊下に出る大神とかえで。大神の襟元を掴む加山。
「こんな時に何やってる…!?副司令が倒れたんだぞ!?早く医務室に行け!!」
「えぇっ!?」
「〜〜いいから早く来いっ!」
目をそらすかえでを黙って睨む加山、大神を引っ張り、連れていく。
★ ★
医務室。医療ポッドで眠るあやめ。看病する三人娘。見守るすみれ、アイリス、紅蘭、カンナ、ラチェット、双葉、新次郎。大神を連れてくる加山。続けて来るかえで。
「一郎叔父…!どこ行ってたんですか!?うわごとでずっと一郎叔父の名前を呼んでるんですからね!?」
「〜〜ど、どうなさったんですか…?」
「……あれから、ますますこいつの容体は悪くなる一方なんだ…」
「容体って…。あやめさん、何か病気なんですか…?」
「大神はん、こんな時にそんなジョークは笑えへんで?」
「この前、教えてくれたじゃねぇか、これは死んだもみじとかいう人の呪いかもしれねぇって…!」
「え…?〜〜えぇと…」
戸惑う大神を黙って見つめる加山。顔を見合わせるカンナ達。
「お兄ちゃん、どうしちゃったの…?〜〜何で覚えてないの…!?」
「〜〜そ、それは…」
「…こんな所に大勢でいても仕方ないじゃない。もう戻っていいでしょ?」
かえでの胸倉を掴むカンナ。
「〜〜てめぇ、それでも妹かよ!?姉さんが心配じゃねぇのか!?」
「……代理、ちゃんとこいつに本当のことを教えてやって下さい。記憶を失くしている大神にね…!」
「えぇっ!?」
「記憶を…失っているだって…!?」
「本当なんですの、少尉…!?」
「〜〜そ、それは…」
「で…っ、でたらめなこと言わないで…!ちょっと疲れてるだけよ…!」
慌てて大神を連れて出ていくかえで。廊下で見ているさくらと山崎。
「――私達も戻りましょうか」
「そうしましょう。お邪魔になると悪いですからね」
歩き、玄関から帰ろうとした山崎の後頭部に銃を突きつけるマリア。
「――あやめさんに何をしたの?」
「……あなたはマリア・タチバナさんですね?男役のトップスタァの…」
「話をそらさないで。――あんたは何者?ここで何をするつもり?」
「ハハハ…、何か誤解をなさっているようですね?」
マリアに荒鷹を突きつけるさくら。
「山崎さんに失礼です。銃を下ろして下さい」
「〜〜そう…。さくらが変になったのもあんたの仕業ってわけ…」
不敵に笑い、マリアの手首を蹴って銃を落とさせる山崎。舌打ちし、攻撃をよけながら銃を拾い、撃つマリア。かばい、荒鷹で銃弾を弾くさくら。
「山崎さんに手出しはさせません」
「〜〜いい加減目を覚ましなさい!!あなたは、そいつに操られているのよ!?」
「――お〜い、今帰ったぞ〜」
米田の声に舌打ちし、コートを翻して、さくらを連れて逃げる山崎。
「〜〜待ちなさい…!!」
全身傷だらけの米田に驚き、足を止めるマリア。
★ ★
支配人室。手当てされた米田を囲むさくら以外の花組、風組、加山、双葉。
「山崎が来てただと…!?それで、さくらはどうした…!?」
「……操られたまま、奴にさらわれました…。申し訳ありません…」
「〜〜俺の留守中を狙って…か」
「〜〜さくらぁ〜…。うわああ〜ん…!!」
「ちょ、ちょいと待って下さいまし…!」
「ちゃんと説明してくれよ!話がちっとも見えねぇぞ!?」
「…山崎真之介。さっき君達が会った男は、葵叉丹の仮の姿だったんだよ」
「えぇ〜っ!?」「えぇ〜っ!?」「えぇ〜っ!?」「えぇ〜っ!?」「えぇ〜っ!?」
驚くすみれ、カンナ、三人娘。うつむき、拳を震わせる紅蘭。
「くそ…っ、霊剣荒鷹を奪われたか…。〜〜ぐ…っ!」
「〜〜司令…!」
「ハハハ…、さすがに裏御三家の儀式は老体にはこたえたな…」
「…それで、儀式はどうだったんだい?」
「あぁ…、ハハ…、見事に失敗さ。やっぱり、大神じゃねぇと駄目みてぇだ…。正統な隼人の血を引くアイツじゃねぇと…」
「何だよ、その儀式って?さくらやあやめさんが受けたようなやつか?」
「あぁ、宝刀を継承する裏御三家の人間は必ず受けなければならないのさ」
「それなのに、何故、司令がお受けになりましたの?」
「俺と大神の父親は古くからの戦友でな、奴が死ぬ間際に頼まれたんだよ、真刀を継承して、自分の代わりに大神を守ってやってくれってな…。だが、裏御三家の血を引かない俺には到底無理だった…。〜〜早急に真刀滅却の次期継承者を誕生させる必要があるんだがな…、情けねぇ…」
「…どういうことです?」
「へへっ、詳しくは大神の記憶が戻ってからだ。早く大神が真刀を継承してくれると助かるんだけどよ…」
「〜〜お兄ちゃん、アイリス達のこと、もう思い出してくれないのかな?」
「心配ないだろう、爆発のショックによる一時的なものだろうからな。すぐ元のアイツに戻るさ」
「本当…?」
「おう、俺が今まで嘘ついたことあるか?」
「ううん、えへへっ!」
嬉しそうに米田に抱きつくアイリス。心配に顔を見合わせる花組。
「〜〜さくら、大丈夫かな…?ひどいことされてなきゃいいけどよ…」
「――米田はん、聞かせてぇな…。うち、もっと詳しく知りたいんや、山崎はん…、いや、葵叉丹のこと…」
前に出て真剣な顔で尋ねてくる紅蘭に黙り、加山と顔を見合わせる米田。
★ ★
月光が差し込むテラス。月を見上げているかえでを隣で見つめている大神。
「……かえでさん、もしかして…俺に嘘ついてません…?」
「……何で?」
「あ…、すみません…。皆さんの話を聞いてたら…ちょっと…」
「…私よりあんな奴らのことを信じるわけ?」
「い、いえ、決してそんなことは…!ただ、未だに信じられないんです…。俺、暴力や喧嘩は苦手だし、本当に戦闘部隊の隊長なんか務まってたのかなって…。かえでさん達の知っている俺と今の俺とじゃギャップがありすぎるっていうか…。あはは…」
「……馬鹿」
涙目で見つめてくるかえでに慌てる大神。
「〜〜す、すみません…!」
「……別にあんたが謝る必要ないわよ」
ハンカチで涙を拭ってくれた大神に照れ、赤くなり、微笑むかえで。
「すみません。記憶が戻れば、もっとかえでさんのこと思い出せるのに…」
「そうよね…。〜〜記憶…、取り戻したいわよね…?」
「……できることなら…」
「でも、記憶なんて所詮、昔のことでしょ?大事なのは今よ。思い出なんてこれからまた作ればいいじゃない」
「でも、もう少しで大切な何かを思い出せそうなんです…!もしかしたら、あやめさんの病気と関係があることかも――」
「姉さんのことなんかどうでもいいじゃない…!!どうして私の前で姉さんの話をするのよ!?〜〜やっぱり、私より姉さんの方が好きなのね…!?」
「そ、そんなことは…、ない…はずです…。でも、この気持ちは一体…?」
カッとなり、大神の頬を叩くかえで。驚く大神。
「いい!?あなたと姉さんは何でもないの!今までもこれからも同じ、ただの上官と部下なの!!いいわね!?」
「そ…、そうですよね…。〜〜ハハ…、俺、何言ってんだろ…」
黙って髪を掻き上げ、大神を見つめるかえで。
「〜〜本当に…何もかも覚えてないのね…」
「あ…、す、すみません…」
「〜〜どうして、あんたが謝るのよ…!?」
大神に抱きつき、嗚咽を漏らすかえで。
「何も…思い出せないんです…。本当にごめんなさい…」
「〜〜謝るなっつってんでしょ!?」
「あ…、すみま…。〜〜はい……」
「私、何で泣いてるんだろ…?こうなって良かったはずなのに…、〜〜どうして…っ!?」
泣くかえでの背中に腕を回し、黙って抱きしめる大神。
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