★16−5★
地下・格納庫。落ち込んでいる花組。
「隊長は記憶喪失…、あやめさんは昏睡状態…、そして、さくらは敵の手中に…。……最悪ね…」
「〜〜ぐす…っ、もうやだぁ…。皆の辛い顔…、もう見たくないよ…」
「ぜ…、絶対何とかなるって!さくらだって、北辰一刀流免許皆伝の腕前なんだしよ、今頃は叉丹なんかけちょんけちょんにしてるぜ!?」
「向こうは闇の霊力を扱うんですのよ!?私達の力を結集しても歯が立つかどうかですのに…」
「へ〜、お前の口からも弱音って吐かれるんだな」
「〜〜こんな時に茶化さないで下さるっ!?」
「〜〜怒らんといて、すみれはん…!カンナはんはこの暗い空気を和ませようとしとるだけなんや…。〜〜うち、その気持ち、わかるから…」
「紅蘭…?」
「うちが発明品つくるんはな、皆を笑わせたい、元気にしたいて思とるからや。機械は人間を幸せにする為につくられるものやさかい…」
神武に触れ、うつむく紅蘭。
「〜〜せやけど、うち…、ようわからんようになってきたわ…。光武を設計した憧れの先生が敵の首領やったやなんてなぁ…。〜〜ほんま、わけわからんわ…。うちが機械に愛情を注いできたんは、少しでも山崎先生に近づきたかったからや…!せやのに、こんな…、〜〜こんなことって…」
「紅蘭…」
「うち、もう機械に触れたくあらへん、見たくもあらへん…。怖いんや…!」
泣く紅蘭の肩に手を添えるマリア。
「どうしてそれぐらいで機械を嫌いになってしまうの?あなたの光武に対する愛情はその程度だったの…!?」
「え…?」
「どんな方が設計していても、光武が素晴らしい機械なのに変わりありませんわ。なんてったって、我が神崎重工の技術も加わっているのですから」
「そうだよ!アイリスも光武、それに今の神武、両方だ〜い好きだもん!」
「皆はん…」
蒸気を吹く紅蘭の神武。微笑み、神武をなでる紅蘭。
「うちを励ましてくれとるんか?」
神武が温かくなり、抱きしめる紅蘭。
「温かいわぁ…。ほんま、この子らは優しい子や。ちゃんと心を持っとって、うちらの力になってくれる素晴らしい機械やのに…。〜〜せやのに、うち…、何てこと言ってしもうたんやろ…。ほんま、堪忍やで…」
「あの山崎って奴にちゃんと説教してやれよ。お前の光武に対する熱意にアイツも心を入れ替えるかもしれねぇぜ?」
「せやね…!うち、やってみるわ。もう真実から目ぇそらしたりせぇへん。逃げずに正面から向き合って、山崎先生を説得してみるさかい…!」
微笑み、頷くマリア達。
★ ★
地下城。叉丹にひざまずく猪、鹿、蝶。横たわって眠っているさくら。
「破邪の血を継ぐ娘…、そして、真宮寺家の宝刀・霊剣荒鷹…。遂に我が手中に収める時が来た…!」
荒鷹に手を伸ばす叉丹だが、荒鷹が放つ光の結界で触れられず。
「チッ、闇の存在の私を拒む気か…。――だが、それも無駄なことよ…」
眠るさくらの頬をなで、耳元で囁く叉丹。
「さくらさん、私の為に力を貸してもらえますね?」
目を開き、闇のオーラを発しながら、体を起こして荒鷹を握るさくら。荒鷹が黒く光り、結界が破れる。さくらの頭をなで、荒鷹を持つ叉丹。
「フフッ、良い子だ。――残る宝刀は神剣白羽鳥と真刀滅却…。小娘、我が下で働いてもらうぞ」
猪、鹿、蝶の前で叉丹にひざまずくさくら。笑う叉丹。
「まずは魔神器を手に入れろ。帝劇の地下に眠るという三種の神器があれば、この聖魔城を完全に復活することができる…!」
「――全ては叉丹様の御為に…」
★ ★
支配人室。ソファーに座っている大神、隣に座る双葉、新次郎、ラチェット。窓から満月を見ている米田。
「……嫌な月だぜ…。どうも不吉だ…」
大神の向かいに座る米田。目をそらし、緊張している大神。
「…呼ばれた理由はわかってるな?」
「〜〜あ、あの…、やっぱり…記憶の――」
「お前には真刀滅却の後継者として、儀式を受けてもらうことになった」
「〜〜え…?あぁ…、そっちの…。〜〜でも…、俺には無理ですよ…」
「…記憶喪失だからは理由のうちに入んねぇぞ?」
「そ、それはそうなんですけど…。でも、やっぱり俺にはできません。花組隊長として悪と戦うなんて任務も、とてもじゃありませんけど…」
「ハァ?何でやらねぇうちから諦めてるんだ!?お前さんらしくもねぇ!」
「記憶喪失になる前なんて知りませんよ!皆さんが言うには立派な奴だったんでしょうけど、今の俺は間抜けで臆病者で…、正反対ですも――!」
大神の襟元を掴む双葉。驚き、ビビる大神。ため息つき、放す双葉。
「…すまんな。一番辛いのは記憶を失っているお前だ、それはわかる。〜〜だがな、私には今のお前が情けないんだよ、好きな奴が苦しんでるって時に自分のことばかり考えて、その上、しょうもなく弱音まで吐いてるんだからさ…。あのあやめって女がどれだけお前を心を拠り所にしているか、わからないだろう?あやめと再会して、何も感じなかったのか?」
「それは…、感じたよ。何だか懐かしくて温かい気持ちになった。けど…」
「かえで君が婚約者だって吹きこまれたんだな?で、婿になれだの何だの言われて、記憶喪失のことも口止めされてたんだろうよ」
「〜〜そ、その…、……はい…」
「〜〜あんのじゃじゃ馬女ぁっ!!」
「〜〜か、母さん、落ち着いて下さい…っ!!」
真刀滅却で暴れようとする双葉を必死に止める新次郎。冷静なラチェット。
「フン、全部あの先巫女とかいうババアが悪いわけね」
「〜〜せっ、先巫女様を悪く言わないで下さい…!無人島にいた俺達を助けて下さったんですから…」
「…だから、すっかり信じてしまったと?」
「〜〜だ、だって…、まさか嘘だとは思わなくて…」
ため息ついて黙り、真刀滅却を手にして立ち上がる米田。
「――ついて来い、大神」
「え…っ!?い、今から何するんですか…!?もう夜中の1時――」
「いいからさっさと来やがれ、馬鹿野郎!」
「え…?〜〜あ…、ちょ、ちょっと〜っ!?」
米田に首根っこを掴まれ、引っ張られていく大神。
★ ★
米田に振り降ろされ、尻餅つく大神。中庭のライトが一斉に点灯。真刀を投げ、鬼殺を持ち、対峙する米田。見守る双葉、新次郎、ラチェット。
「儀式の前に、お前さんが本当に真刀滅却の継承者にふさわしいか、俺がテストしてやる。――さぁ、遠慮せずかかってこい!」
「えぇっ!?そ、そんなぁ…、無理ですってぇ…、〜〜ぐすっ、えぐっ…」
「〜〜はぁ…、記憶が失くなったとはいえ、情けねぇ奴だなぁ…。――そんじゃ、こっちからいくぜ…!でりゃああああっ!!」
突進し、間合いを詰めて斬りかかる米田。慌てて真刀で防御する大神。
「へへっ、体が覚えてやがったか…!」
「いっ、一郎叔父〜、頑張って下さ〜い!!」
米田の攻撃をよけ続ける大神。
(〜〜何だ…?この感覚…、どこかで…)
「フフン、やっと調子を取り戻してきたみたいだね」
「でも、いつもの実力には程遠いですわ」
尻餅つき、倒れる大神に刀を突きつける米田。
「どうした?本気でかかってこねぇと、怪我だけじゃ済まされねぇぞ?」
「〜〜そ、そんなこと言われても…」
『――お前の力は、お前の心にある』
「…!?か、刀が喋った…?〜〜うわあっ!!」
「ほれほれ、ボサッとしとると、ミンチになるぞ?」
『――どうした?さぁ、行け、一郎…!』
攻撃をよけて、真刀を握り直し、呼吸を整えて目を閉じる大神。回想。道場で三十郎との剣の稽古に励む幼い大神、怪我をし、痛くて泣き出す。
『男が泣くな!いくら泣いても、戦場では誰も助けには来んぞ?』
『〜〜ぐす…っ、僕、もう練習嫌だよぉ…。ちっとも姉さんみたいに強くなれないんだもん…』
黙って歩み寄り、大神の肩を掴む三十郎。不思議そうに見上げる大神。
『強いとは何だ?剣の強さだけがお前の思う強さか?』
『え…?』
『剣の道は一日にしてならず…。剣だけではない、何事も常に努力をし続けなければ良い結果を残せないものだ。父さんが戦友に教わった言葉だ』
『戦友って…、お友達?』
『あぁ、そうだ。いつかお前にも父さんのような素晴らしい仲間ができるだろう。その者達を愛し、守り抜く為にお前の刀は存在するのだ。その心を失った時、それはお前の敗北…、死ぬ時だ』
『えぇっ!?〜〜僕、死ぬのなんて嫌だよ…っ!』
『なら、肝に銘じておくことだ。その刀はお前の気持ちに絶対に応えてくれる。お前が諦めない限り、必ずな…!』
「――父…さん…」
回想を終え、呟く大神。真刀が光り出し、驚く米田達。笑う双葉。
「そうだったね。あれが大神三十郎の愛刀・真刀滅却の力だ…!」
「はああああああっ!!」
米田の刀をよけ、払って突く大神。米田の手から鬼殺が離れて宙を舞い、地面に刺さる。凛々しく一礼する大神。
「はぁはぁ…、――ご指南、ありがとうございました、米田司令」
「へへっ、ようやく戻ってきたか、この野郎」
「い…、一郎叔父…?」
「ただいま、新次郎、姉さん、ラチェット。心配かけてすまなかったね」
「いっ、いつもの一郎叔父だ…!ぐす…っ、うわ〜ん!!」
泣きながら大神に抱きつく新次郎。
「ふふっ、やっと全部思い出したのね?」
「あぁ、これも司令のお陰さ」
「ハハハ…、ったく、手間掛けさせやがってよぉ、このこの〜」
大神をヘッドロックし、笑う双葉。
「――くくく…、見つけたぞ、真刀滅却…!」
殺気がする大神達。瞬間移動してきて、宙に浮く叉丹。構える大神。
「葵叉丹…!」
「山崎、さくらを返してもらおうか」
「ククク…、まぁ、そう焦るな。――大神一郎、記憶を取り戻せて喜んでいるところ申し訳ないが、その真刀滅却をこちらに渡してもらおうか」
光刀無形と霊剣荒鷹を両方の手に持ち、構える叉丹。
「荒鷹…!?〜〜やはり、お前の目的は二剣二刀か…!?」
「フフフ…、拒むと言うなら、少々痛い目に遭ってもらわねばな…!」
光刀と荒鷹を抜き、闇の霊力をすさまじく解放する叉丹。
★ ★
地下。黒いオーラを発しながらゆっくり歩くさくら。セキュリティシステムに手を翳し、扉を開ける。魔神器がなく、空っぽの室内に驚くさくら。警報が鳴り、薔薇組が駆けつける。
「残念だったわね。魔神器はそこにはないわよ?」
「〜〜たああああああっ!!」
刀で斬りかかってくるさくら。扇子で防ぐ琴音。
「琴音さん…!」
「〜〜魔神器…。魔神器を渡せえええっ!!」
「渡せと言われてはい、そうですかって渡すほどお人好しじゃないのよね」
「さくらちゃあん、目を覚まして頂戴っ!私達が分からないのん!?」
「〜〜うわあああああっ!!」
狂ったように刀を振り回すさくら。慌ててよける薔薇組。セキュリティシステムが働き、さくらの頭上から檻が落ちてくる。
「フフッ、ちょっと居心地悪いけど、おとなしくし――」
檻を刀で斬り、出てくるさくら。青ざめる薔薇組。
「〜〜だから、もっとマシなシステム使おうって言ったんですよぉ〜!」
「仕方ないでしょ!?〜〜節約する暮らしに慣れているせいで、安価な物選んじゃったんだから…」
「魔神器…、渡せええええっ!!」
さらに黒いオーラを発するさくら。不敵な笑みを浮かべ、琴音は剣を、菊之丞は鏡を、斧彦は球を軍服の内側から取り出す。
「うふん、魔神器はここよん。悔しかったら取ってみなさいな〜!」
「オカマだからってナメないで下さいよね!?」
「私達は愛と美の精鋭部隊・薔薇組!またの名を、三種の神器・魔神器を護衛する為に結成された護衛諜報特殊部隊・薔薇組よ…!!」
「魔神器…、見つけた…!!」
「んもう、人がせっかく格好良く決めてるのに、ちゃんと聞いてるの?」
さくらの背後から降魔が2匹出現し、にじり寄る。
「チッ、厄介なもの呼んじゃって…」
「〜〜こ、こんな展開ってありなんですかぁ…?」
消化液を吐き、慌ててよけた菊之丞の手から鏡が落ち、取って逃げる降魔。
「あぁっ!鏡が…!!」
さくらと魔神器の剣で戦う琴音。
「〜〜魔神器…、渡せえええっ!!」
黒いオーラに吹き飛ばされる琴音。剣を奪い、逃げる降魔。さくらと降魔達に囲まれ、背中あわせになる薔薇組。
「〜〜ど、どうしましょう…!?最後の1個になっちゃったわ…」
「〜〜ああ〜ん、どうするんですか、琴音さ〜ん!!」
「〜〜落ち着いて、菊ちゃん!……こう言う時はね…」
「魔神器ぃぃぃっ!!」
刀を振り上げるさくらに身構える薔薇組。
「――加山くぅ〜ん!!」
煙幕が張られ、動揺するさくらと降魔達。薔薇組の前に現れる加山。
「呼んだか、清流院?」
「きゃ〜、加山君、本当に来てくれた〜!」
「感謝の印に、熱いヴェーゼを…!」
「〜〜そ、それより早く、煙幕が晴れる前に…!」
「〜〜邪魔をするなあああっ!!」
薔薇組と加山に斬りかかるさくら。刀で防御する加山。
「〜〜加山君…!」
「――ど〜いた、どいた〜!」
煎餅フリスビーを投げる椿。顔面に直撃し、後ろに倒れて床に後頭部を打つさくら。入ってくる三人娘にムッとなる薔薇組。
「ムッ、出たわね、三人ブスメ…!?」
「へっへ〜ん!オカマの皆さん、煎餅フリスビーの威力、見ましたかぁ!?」
「オカマに出番取られちゃたまんないものね〜」
「〜〜き〜っ!!オカマオカマってうるさいわねっ!!」
喧嘩する三人娘と薔薇組。加山に駆け寄るかすみ。
「大丈夫でしたか…?」
「あぁ、ハハ…、女性とはいえ、さすがは北辰一刀流免許皆伝の腕前だよ」
目を突然開き、加山とかすみに向かっていくさくら。
「〜〜危ない…っ!」
来たマリアに麻酔銃で撃たれ、気絶するさくら。
★ ★
地下。椅子に拘束され、暴れているさくらを見守る花組。
「〜〜魔神器…っ、魔神器ぃぃぃっ!!」
「いい加減に目をお覚ましなさい!それでも花組の隊員ですの!?」
「今のさくらに何を言っても無駄よ。潜在意識がずっと深い所にあるもの」
「さくら、あたい達だよ!今まで一緒に舞台やって、戦ってきた仲間だろ!?」
さくらの腰に付いている山崎のお守りを見つけ、取ろうとするが、弾き飛ばされるアイリス。
「きゃああっ!!」
「アイリス…!」
「〜〜そのお守り取って!そこから嫌な力が溢れてくる…!」
お守りを取ろうとするも、火花が散って手に触れられないカンナ達。
「〜〜ちっ、上等じゃねぇか…!!――うおおおおおっ!!」
我慢してお守りを握り、引きちぎろうとするが、吹き飛ばされるカンナ。
「カンナ…!」
「〜〜くっそぉ…っ」
コンピュータを動かし、さくらの潜在意識にアクセスしようとするが、エラーになって苛立つ紅蘭。
「〜〜何でや…?いつもなら、ちゃんと応えてくれるはずやのに…」
(〜〜もしかして、うちが一時でも機械を嫌いになってしもうたから…?せやから、怒っとるんか…?)
暴走するさくらの霊力に煙を吹く機械を不安に見る紅蘭の手を握り、微笑むアイリス。
「大丈夫だよ。機械さん達、皆、紅蘭のこと大好きって言ってるもん!」
「アイリス…」
(――せや、機械は絶対に自分から人を嫌いになったりなんてせえへん!――待っててや、さくらはん。ここがうちの腕の見せどころや…!)
アクセス続行を試みる紅蘭、アクセス可能になり、おとなしくなるさくら。
「やった…!さくらはんの潜在意識に繋がったで!!」
「よくやった、紅蘭!――おいさくら、聞こえるか!?あたいだ!カンナだ!!」
「さくらさん、敵の術中にはまったりなどして、情けなくありませんの!?早く戻ってこないと、承知致しませんわよ!?」
「今、敵が攻めてきてるの!〜〜早くしないと、皆やられちゃう…!!」
「さくらはん、闇の霊力なんかに負けたらあかんで!?」
「正気に戻りなさい!あなたの力が必要なのよ…!!」
(――皆の…声……)
さくらの指先が動き、反応。
「うちらの声、届いとる…!――もっと呼びかけるんや…!!」
「さくらぁ、アイリスと一緒にお買い物行くって言ってくれたでしょ!?〜〜まだ約束、守ってないじゃない…!」
「舞台の方もあんなに稽古したんですのよ!?あなたがいなくては、上演できないではありませんか!」
「さくら、戻ってこい!!頼む、お前がいない花組なんて、あたい嫌だよ!!」
「戻ってきなさい、さくら!あなたの帰るべき場所はここでしょう…!?」
(皆…、私を呼んでる…。行かなくちゃ…!戻らなくちゃ、私の家に…!!)
目を開き、闇の霊力を消すさくら。同時に山崎のお守りが割れ、粉々に。
「さくら…!」
「えへへっ、ただいま帰りました〜!」
喜び、さくらを抱きしめるマリア達。
「へへっ、馬鹿野郎!」
「ぐすっ、さくらぁ…!」
「〜〜本当にあなたって人は…」
「ありがとう、皆…!」
安堵し、機械を見上げて微笑む紅蘭。
★ ★
「〜〜チッ、術が解けたか…」
「たああああああっ!!」
中庭。叉丹に斬りかかり、戦う大神と米田。戦いに加わろうとする新次郎。
「〜〜一郎叔父…!」
「やめておけ!新君の敵う相手じゃない…!!」
「〜〜しかし――!」
「下がって、大河君。まだうまく霊力を使いこなせないでしょ?」
「〜〜ラチェットさんまで…」
「――行くぞ、ラチェット!」
「はい、お義母様!」
戦いに加わる双葉とラチェットを見て、悔しくうつむく新次郎。
「狼虎滅却・快刀乱麻ぁっ!!」「狼虎滅却・快刀乱麻ぁっ!!」
大神と双葉の合体攻撃に傷を負い、よろめく叉丹。
「フフ…、さすがは隼人の血を引く姉弟だ。――だが…!」
念じる叉丹。大帝国劇場内のあちこちに黒い水晶が現れ、闇の霊力を生む。倒れ、動けなくなる双葉達。
「こ、これは…!?」
「〜〜か、体が…重い…」
「フハハハ…!米田、貴様の留守中に色々仕掛けさせてもらったぞ」
「〜〜卑怯だぞ…!」
「卑怯で結構。どんなやり方でも最後に笑う者の勝ちだ…!!」
大神に斬りかかる叉丹。防ぐ大神だが、真刀の刀身が折れる。
「〜〜しっ、真刀が…!」
「ちっ、もろい刀だ…。まぁ、いい。後で修復してやろう」
「〜〜くっ、放せ…っ!」
真刀を奪おうとする叉丹。必死に抵抗する大神。
「――お待ちなさい!」
光武に乗って現れるさくら、すみれ、マリア、アイリス、紅蘭、カンナ。
「帝国華撃団・花組、ここに参上!」
「さくら君、無事だったのか…!」
「はい!皆さんのお陰です!」
「隊長も早く神武に…!」
「わかった!」
「フン、馬鹿め。黒水晶の設置された敷地内に入るなど…」
ちびロボ達が黒水晶を破壊し、力が弱まり、驚く叉丹。走って入る大神。
「〜〜な…っ、何…!?」
「山崎はん、これが機械の力や。あんさんがうちに教えてくれはった技術やさかい」
「〜〜余計な真似を…。小娘、私の技術に敵うとでも思っているのか?」
「そりゃ…、とても敵いまへんわ。たとえ、うちらの敵やろうと、あんさんの造った光武は世界一素晴らしい機械やと思う。せやから、今でもうちの中であんさんは世界一の憧れの人やさかい」
「フン、戯言を…。私の類稀なる技術をわかる者などいるものか…!」
「うちにはわかる!あんさんはほんまに素晴らしい技術者や…。〜〜せやのに、何で…!?なしてそんな悪い人になってしもうたんや…!?あの頃の…、機械と人間を愛していたあの頃の山崎はんに戻ってぇな…!!」
「黙れ…っ!!」
叉丹の撃った衝撃波を剣で防ぐさくら。
「たとえ、騙されていたとしても、私はあなたとお話ができて楽しかった。お父様のことを教えてくれたあなたの笑顔は、嘘じゃないって思ってるわ」
「〜〜わかったような真似を…!」
瞳を赤くする叉丹の背後で赤く輝く満月。青ざめる米田。
「〜〜いかん…!――劇場内に戻れ!あやめ君を守るんだ…!!」
「え…っ?」
「クク…、もう遅いわ…!」
★ ★
医務室。医療ポッドで眠っているあやめを見つめ、涙を流すかえで。
「〜〜姉さん…」
突然大きくなるあやめの鼓動。医療ポッドが揺れ、ガラスが割れる。
「〜〜きゃああっ!?」
虚ろな瞳で胸を押さえ、うずくまるあやめ。
「姉さん…!?どうしたの、姉さん!?〜〜姉さん…っ!!」
『――だから言っただろう、いつかあの男に裏切られると?』
「〜〜違うわ…っ!何か事情があるはずよ…」
「え…?」
『どんな?勝手に理由をつけて現実から逃れようとしているだけだろう』
「〜〜違う…。彼は…、大神君は…ずっと私を愛してくれるって……」
「姉さん…」
『奴に騙されていたとも知らずに可哀相に…。だから、愛など幻想だと言ったのだ。真実の愛なんてどこにもありはしない…!』
「〜〜ちが…う……、大神君は…、大神君……は……」
うずくまるあやめに駆け寄るかえで。舞い降り、あやめを背後から抱きしめる生き霊の叉丹。
「〜〜あんたは…!――きゃあああっ!!」
吹き飛ばされるかえで。
『おいで、あやめ。これからはいつでも私が傍にいる』
「〜〜い…や…!来ない…でぇ…っ!!」
『わかっているぞ、本当のお前は私を欲している。さぁ、目覚めの時間だ』
「いや…、〜〜いやああああああっ!!」
叉丹にさらわれるあやめ。
「〜〜姉さぁぁんっ!!」
赤い月の光が窓から差し込む。中庭。殺気がし、怯えるアイリス。
「〜〜月が赤くなっていく…!?」
「〜〜すごく嫌な気配…。どんどん強くなってるよ…!」
「ククク…、来たれ、光の加護を受けた者よ…!」
瞬間移動してきた虚ろな瞳のあやめを叉丹が羽交い絞めにし、降魔から剣と鏡の魔神器を受け取る。
「あやめさん…!!」
「血に染まったような美しい月だ。お前の誕生を天も心待ちにしているぞ」
「副司令をお離しなさいっ!!」
「待ってろ、あやめさんっ!今、助け――!?」
口元が緩み、虚ろな瞳で狂ったように笑い始めるあやめ。
「あやめさん…?」
「ど、どないしたんや…?」
「あやめお姉ちゃんの心、真っ暗。〜〜お姉ちゃんじゃなくなっていく…」
「くく…っ、うふふふっ、あはははははっ、あははははははは…!!」
赤い月の月光があやめと叉丹を照らし、赤く光る。眩しさに目を瞑る花組。
「〜〜な、何が起こってるの…!?」
「今宵は赤き月の満月。――さぁ、宴の始まりだ…!」
あやめの瞳が赤くなる。
「――待てぇっ!!」
光武に乗って駆けつける大神にハッとなるあやめ。
「そいつについていく必要はねぇぞ。こいつは爆発のショックで記憶喪失になっていただけなんだよ」
「心配かけてすみませんでした!もう俺はどこにも行きません!誓いましたよね、傍にいて、ずっとあなたを守るって!?あなたを愛しているから!!」
「大神君…!」
あやめのペンダントをしている大神に嬉しくなり、正気に戻るあやめ。
「〜〜チッ、最後の最後まで私の邪魔をしおって…!」
「あ…っ、――!!」
叉丹のキス越しに種を飲まされるあやめ、黒い翼が生える。驚く大神達。
「フフフ、3つ目の種を飲んだら最期。いよいよお前は降魔と化すのだ…!!」
「あ…、〜〜あぁ…、お…、大神…く…、た…すけ……」
「あやめさぁん!!〜〜あやめさあああんっ!!」
血の涙を流すあやめに必死に手を伸ばす大神。銃を叉丹に連射するマリアだが、効かず。
「フフフ…、――さぁ、目覚めよ!最終降魔・殺女よ…!!」
あやめの軍服が裂け、殺女に変身するあやめ。かえで、三人娘、薔薇組も駆けつけ、驚く。
「〜〜ね…、姉さん…!?」
「――ウフフ…、やっと邪魔な人格から解放されたわ」
「あやめ…さん…?」
大神の目の前に降り、大神の顎を軽く押し上げる殺女。
「坊や、残念だけどあなたの知るあやめは死んだの。この赤い月と共にね」
「〜〜嘘だ…!あやめさん、元に戻って下さい!!俺がわからないんですか!?」
「わかるわよ?帝国華撃団花組隊長・大神一郎少尉…。そして、最期まであやめが最も愛していたオ・ト・コ」
妖しく微笑み、大神にキスする殺女。突き放す大神の前に立つさくら達。
「あら、ショック。嫌われちゃったわ」
「〜〜あやめさんを返せ…!!今すぐ返せ…っ!!」
「物覚えの悪い子ねぇ。あやめは死んだって言ってるでしょ?」
「あやめさんは操られているだけです!待ってて下さい!今、私達が――」
「――女は嫌いなのっ!!」
鞭でさくら達を攻撃する殺女。
「きゃあああっ!!」
「〜〜皆…!」
「――ウフフフッ、可愛い坊や。フフッ、食べちゃいたい…!」
大神の頭をなで、額を小突く殺女。目を見開く大神。
『――しっかりしなさい、大神君』
あやめと重なり、ショックで膝をつき、呆然となる大神。うつむくかえで。
「挨拶はその程度で十分だろう。帰るぞ、殺女、私達の新居へ」
「えぇ、叉丹様。――また会いましょうね、オ・オ・ガ・ミ・くん」
叉丹と共に笑いながら飛んでいく殺女を呆然と見つめる大神と花組。ショックで座り込むかえで。
『――私、今、すっごく幸せよ』
『――儀式が成功したら、お婿さんに来てほしいな』
『――ずっとこんな時間が続けばいいな…』
あやめを回想し、拳を地面に叩きつけ、空に向かって叫ぶ大神。
「あやめさん…、〜〜あやめさあああああん…!!」
第16話、終わり
次回予告
遂に現れた最終降魔…。落ち込んでいる暇はないぞ。
魔神器が3つとも奪われたら、聖魔城が復活しちまう…!
大神、帝都を守る為にも、真刀滅却を受け継ぐ儀式を受けるんだ…!
次回、サクラ大戦『聖魔城、復活!』!太正桜に浪漫の嵐!
戦え、大神…!!
第17話へ
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