★16−3★



格納庫。光武の設計図を寂しく見つめている紅蘭、自分の神武を無表情で見上げているさくらを発見。

「……さくらはん…?――どないしたん?」

「――!……あれ…?私…、いつの間に…?」

「あはは!な〜に寝ぼけとるん?」

「えへへ、ちょっと疲れてるみたい…。紅蘭はパーティー、もういいの?」

「今、神武の整備をしとるとこなんや。毎日やっとることをせぇへんと、何か気持ち悪いやろ?」

「あ、わかるわかる、その気持ち!――ん…?それって何の本…?」

「あぁ、これかいな?今、神武の機体と霊子水晶とのパイプ強化に手間取っててなぁ、山崎先生の知恵を拝借しようと思うてたんや」

「どれどれ…?――山崎…真之介ぇっ!?」

「〜〜な、何やねん、いきなり大声出して…!?あ〜、心臓に悪ぅ…」

『――山崎真之介と申します』


出会った山崎を回想するさくら。

「えぇ〜っ!?もしかして、あの山崎さんって…」

「山崎先生、知っとるんかいな!?」

「あ、あのね…、私、今日、街で――!」

『――二人だけの秘密ですよ』

「街で…何!?会うたんか!?」

「〜〜あ…、ううん…。山崎さんの書いた本を本屋さんで見つけたの。山崎さんってすっごく有名な方なのね…!」

「せや!山崎はんは機械や蒸気機関に関する論文を色々書いててな、業績が高く評価されとる大先生なんやで?へへん、今頃気づいたんかいな?」

「そ、そうなんだ…。――オーラが違うと思ってたけど、そんなにすごい人だったなんて…」

「ん?」

「〜〜ううん、何でも――!!」


山崎の緑のお守りの鈴が鳴る。頭痛がし、頭を押さえるさくら。

「だ、大丈夫かいな…!?」

「うん、平気…。もう休むわね…?」

「あぁ、具合悪い時は寝るんが一番や。ゆっくり休みや?」

「ありがとう。紅蘭も早く休んでね?次回作の主役なんだから!」

「はは、せやったな。おおきに〜!」


明るく手を振って出ていくさくらに手を振り、見送る紅蘭。

「はは…、さくらはんはほんま、ええ子やねぇ…」

山崎の設計図を震える手で抱きしめ、首を横に振る紅蘭。

「うちとしたことがくよくよしすぎや!まだ証拠はあらへんのやから…」

設計図を参考に、神武の霊子水晶の微調整に取り掛かる紅蘭。フラフラ廊下を歩くさくらの腰元で妖しく揺れる山崎のお守り。

★            ★


大神の部屋。パーティーを終え、強引に大神を連れて戻ってくるかえで。

「〜〜痛いですよ、かえでさん…っ!」

「…私以外の人間と喋るなって言ったわよね?」

「い、言いましたけど…、そんなの不自然ですし――っ!!」


怒って、枕を大神に投げつけるかえで。

「〜〜よりによって姉さんと話すなんて…!!やっぱり、私より姉さんの方が好きなんでしょう…!?」

「そ、そんなことありませんよ!ただ、普通に楽しかったっていうか、安心したっていうか…。それに、このペンダントも反応してたみたいだし…」


あやめのペンダントをポケットから取り出し、見つめる大神。ムカつき、大神からあやめのペンダントを取り上げるかえで。

「だったら、まずこれを捨てなさい!」

「でも、それって大事な物なんじゃ――あ!」


あやめのペンダントを窓から投げ捨てるかえで。

「あんたには私のペンダントがあるでしょう!?それで満足よね!?」

「〜〜は、はい…」


ビビり、落ち込む大神。興奮しながら、涙目で大神を抱きしめるかえで。

「〜〜決めたんだから…っ、姉さんなんかに絶対返さないって…!」

窓に寄りかからせ、大神にキスするかえで。赤くなり、慌てて離れる大神。

「〜〜あ、あの…!?」

「何よ、婚約者なんだからキスぐらい当たり前でしょ?」

「し、しかし、誰かに見られたら――」

「見てるわけないじゃない!部屋ん中なんだから――」


音がし、振り返る大神とかえで。青ざめて立っているあやめ。

「あやめさん…?」

涙ぐみ、立ち去るあやめ。追いかけようとする大神の腕を掴むかえで。

「…不謹慎に思っただけでしょ。姉さん、クソ真面目だから」

「でも…、〜〜何だか悲しそうでした…」


不機嫌になり、大神に強引にキスし、強く抱きしめるかえで。

「いい!?あなたは私と結婚するの!!〜〜姉さんは関係ないの!!わかるわね!?」

「か…、かえでさん…?」


必死なかえでを不思議に見る大神。屋根裏部屋に閉じこもり、窓から入る月光に照らされ、伏して泣くあやめ、記憶を失くす前の大神を回想。

『――続けましょう、二人で永遠の幸せの時を…』

「〜〜どうして…?どうして、かえでと――!?」


あやめの体から出始める黒いオーラ。遠くから見て、不気味に笑う叉丹。

『そうだ、あやめ。もっと憎むがいい、お前を裏切った最愛の男を…!』

「〜〜ち…、違う…。彼は…う…っ、あ…あぁ…」


胸を押さえ、床の上で悶え苦しむあやめ、目が赤くなり、息が荒くなる。

『赤き月が完全に満ちる時は近い。その時こそ、真のお前が目覚める時だ』

赤く染まっていく月。苦しく胸を押さえ、耳を押さえるあやめ。

「〜〜やめてぇぇっ!!」

叉丹の声が聞こえなくなり、胸の痛みが治まって安堵するあやめ。

「〜〜大神君は、あなたとは違う…。絶対、何か理由があるはずよ…」

掌の上の黒い炎が消え、あやめを操れなくなる叉丹。

「フン、最後まで抗おうとは…。ククッ、愚か者めが…」

翻して山崎のスーツ姿になり、街を歩く叉丹をさくらが見つけ、手を振る。

「――山崎さ〜ん、こっちで〜す!」

微笑み、手を振り返して不気味に笑う山崎。

(こちらには切り札がある。存分に利用させてもらうぞ、真宮寺の娘をな)

★            ★


フラフラで帰ってきて、階段を上っていくさくら。

「あ…、さくらちゃん、お帰りなさ〜い!」

「今日のお夕飯は、さくらさんのお好きなサバの味噌煮定食ですよ?」

「いりません…。外で食べてきましたから…」


フラフラで上っていくさくら。不思議そうに顔を見合わせる三人娘。

★            ★


鍛練室。訓練を終え、出ようとするマリア、格納庫から出る紅蘭に会う。

「お〜、マリアはん!こんな時間までご苦労様です〜」

「紅蘭こそご苦労様。あなたの整備のお陰で、私達は120%の力を出せているようなものですもの」

「ハハハ…、そんなことあらへんて!……それがうちの仕事やからな…」

「紅蘭…?」

「ん〜、さすがに3日も徹夜したら疲れたわ。今日はもう休むとしますわ」

「お疲れ様。ゆっくり休んで頂戴」

「おおきに。ほな、また明日な〜!」

「おやすみなさい」


廊下を歩くマリア、寝まきで階段を降りてくるさくらを見かける。

「…さくら?」

マリアに見向きもせず、歩いていくさくら。後を追うが、途中で見失う。格納庫。虚ろな瞳で光武を見上げ、黒く光る荒鷹を構えるさくら、山崎のお守りの鈴が鳴り、神武を睨む。

★            ★


翌朝。格納庫。傷つけられた神武達を見てショックを受ける紅蘭達。

「〜〜ひどい…!何てことしてくれたんや…!?」

「これは…、刃物で傷つけた傷ですわね…」

「〜〜くっそ〜、やられたぜ…!」


遅れて入ってくるさくら。

「何かあったんですか?」

「さくらぁ、神武が壊されちゃったぁ〜」

「えぇっ!?」

「昨晩、格納庫に侵入されたみてぇなんだ。もっと警備を強化しねぇとな…!」

「せやけど、地下には警報機がついとるんや。外部の者が侵入すると反応する仕組みになっとるさかい。こんなこと、ありえへんはずやねんけど…」

「…さくら、あなた、遅くに地下に降りていったわよね?どこにいたの?」

「え…?お風呂入ってから、すぐ寝ましたけど…?」

「…もしかして、あの後、格納庫に行ったの?寝間着だったってことは、シャワー浴びた後ってことよね?」

「え…?〜〜あ、あの…」

「おいおいマリア、まさかさくらがやったなんて言わねぇよな!?」

「……本当のことを言って、さくら」

「〜〜わ、私…、本当に知らないんです…!体がだるかったので、昨日もすぐベッドに入って…」


さくらの体から発せられる黒のオーラに気づき、怯えるアイリス。

「機体と動力装置を繋ぐパイプがねじ曲げられとるだけやのうて、霊子水晶も傷つけられとる。これはある程度の機械の知識がないとでけへん技や」

「ホホホ…、では、さくらさんには絶対無理ですわね」

「当たり前だ!さくらがそんなことするはずねぇじゃねぇか!!何で仲間をそんなに疑うんだよ…!?」

「仲間だからよ。向こうはどんな手段を使ってくるかわからないでしょ?――さくら、正直に言って。最近、何か変わったことはなかった?」

「〜〜な、何も…」

「…どうして目をそらすの?」

「〜〜何もないって言ってるじゃないですかっ!!」


さくらの大声に驚くカンナ達。ハッとなり、慌てて頭を下げるさくら。

「〜〜す、すみません…!!本当に何でもないですから…」

「さくら…」


しんとなり、顔を見合わせるカンナ達。

「ま…、まぁまぁ、これぐらいすぐ直せるやさかい。そんぐらいにして、はよ稽古始めよ、な!」

明るくさくらの背中を押す紅蘭。さくらを厳しい目で見つめるマリア。

★            ★


舞台。『つばさ』の稽古をする紅蘭とアイリス。演出する江戸川。客席で見守るさくら、マリア、カンナ。

『〜〜ジャンヌ…、私…、もう…駄目みたい…』

『諦めないで…!!私は絶対に君を巴里の病院に連れて行くよ!絶対に死なせはしないからね…!!』

「う〜ん、いいねぇ〜。――はい、そこでBGM12番!」

「…はいはい。〜〜まったく…、何で私が裏方など…」


渋々、蓄音機で音楽をかけるすみれ。

『――見えた…!見えたよ、セリーヌ!ごらん、あれが巴里の灯だ…!!』

「はい、ここでスモーク!」

「〜〜いちいち言われなくてもわかってますわよ!〜〜けほっ、ごほっ!」


咳をしながら、スモークをたくすみれ。

「おぉ〜っ!いいねぇ、いいねぇ〜!感動的だ〜!!」

「少しスモークが多いわね。あれじゃ2人が見えなくなるわ。すみれに言っておかないと――」


ボーッとし、台本を落としてハッとなるさくら。驚くマリアとカンナ。

「だ、大丈夫か?」

「あ…、ごめんなさい。小春日和でボーッとしちゃって…」

「…3月は小春日和って言わないわよ?11月の寒い時期に言うんだから」

「へぇ、そうなんですか〜!」

「あははは…!ロシア人のマリアに教わってどうすんだよ!」

「あはははっ、そうですよね〜!」


台本を拾うさくらを見つめるマリア。

「――はい、じゃあ15分休憩にするよ〜」

「は〜い!――さくらぁ、ジュース買いに行こ〜!」


アイリスと出ていくさくら。カンナに耳元で話しかけるマリア。

「…やっぱり、おかしいわ、さくら」

「う〜ん…、パーティーん時から疲れてる気っていうか…。あたい達に隠れて何かやってるのかな…?」

「…例えば?」

「夜中に抜け出して、屋台でラーメン食べたりとか?」

「〜〜あなたじゃないんだから…」

「あはは…。……けど、少し心配だな…。さっきも急に怒り出したりして、アイツらしくなかったし…」


笑いながらアイリスとジュースを飲むさくらを見つめるマリア。

★            ★


大帝国劇場。事務室でせんべいを食べ、蒸気テレビジョンを見る由里と椿。一人黙々と仕事するかすみ。

「…あんたさぁ、そんな真面目で疲れない?」

「かすみさんって女学校の時、絶対学級委員だったでしょ?」

「え…?な、何で知ってるの?」

「〜〜はぁ…、やっぱりねぇ…」

「かすみってさ、イイ女なんだけど、少〜しとっつきにくいのよね…」

「真面目で健気で料理上手…。人気がある要素いっぱい持ってるのに、もったいないですよねぇ〜」

「〜〜そ、そんなこと言われても…」


チャンネルを回す由里。テレビで恋愛ドラマ。

『哲夫さん、私、ずっと前からあなたのことが…!』

『由美子さん…!』


抱き合うドラマの主人公とヒロイン。真剣に見るかすみ。ドラマより煎餅に注目して食べる由里と椿。

「あの男の役、金持ちの御曹司でしょ?絶対金目当てよね〜」

「もう、由里さん!お金より愛ですよ!愛があればどんな困難も乗り越えられるんですよぉ〜!」

「けっ、そう思っていられるのも今のうちよ」

「あ〜、やだぁ…。歳取ると、夢も希望もなくなっちゃうんですねぇ…」

「〜〜もういっぺん言ってみ!?」

「あ〜ん、かすみさぁん、由里さんがいじめますぅ〜!!」


聞かず、うっとり妄想するかすみ。

『一郎さん、私、ずっと前からあなたのことが…!』

『かすみ君…!』


突然、妄想の大神の顔が加山に変わり、首を横に振る。

(〜〜な、何でそこで加山さんが…!?私が好きなのは、大神さんなの――)

「――かすみっち〜!」


笑顔で事務室に入ってきて、かすみに抱きつく加山。ひやかす由里と椿。

「フフ〜ン、来た、来た!」

「ヒュ〜ヒュ〜!妬けちゃいますねぇ〜!」

「いや〜、ご声援、どうもどうも〜!」

「〜〜もう、やめてよ!……今日は何ですか?」

「恋愛活動写真の切符が手に入ったから、一緒にどうかと思ってさ」

「…お断りします。今、忙しいんです」

「い〜じゃん、行こうよ〜。あ、それとも三越で買い物でもする?」

「〜〜んもう、しつこいですよ、加山さん!?」


かすみをしつこく誘う加山を見る由里と椿。

「はぁ…、いいなぁ〜、一人だけ彼氏ゲットしちゃってさ」

「あ〜ん!帝撃で若い男ってもういないじゃないですかぁ〜!!かすみさんだけズルいですぅ〜!!」

「あ、じゃあ、椿ちゃんでもいいや。これから一緒にどう?」

「本当ですか!?行きます、行きますぅ〜!」

「〜〜な…っ!!何言ってるんですかっ!?」


ボードで加山を殴るかすみ。流血する加山。

「〜〜うっわ、相変わらずいい音するわねぇ…」

「あれ〜?やっぱり俺が他の娘と出かけるの、嫌なんだ?」

「〜〜しかも全然平気そうだし…!!」

「〜〜血出てるのに…。忍者の体力って侮れませんねぇ…」

「そっ、そんなの当たり前ですよ!!もうこれ以上困らせないで下さい…」

「可愛いなぁ〜、かすみっちは!んじゃ、それ終わったら行こっか!」

「んもう…、ボサッと見てないで、少しは手伝って下さい」

「んじゃ、チューしてくれたら!」


再びボードで加山を殴るかすみ。

「…あんたら、前座で夫婦漫才やったら?」

「あれ…?――かすみさぁん、パンフレットに載せる写真、さくらさんのだけありませんよぉ?」

「え?――あ、本当だわ…。由里、確かあなたの担当だったわよね?」

「そうだっけ?」

「〜〜そうだっけじゃない!何であなたはそんなにいい加減なの!? 〜〜っていうか、何で終わってないうちから、テレビ見てお煎餅食べてるの!?本当もう信じらんないっ!!」

「だ〜か〜ら〜、あんたが真面目すぎるんだってば…」

「怒らない、怒らない。もっと肩の力を抜いて、ハニー!」

「気をつけて下さいねぇ〜。かすみさん、結構ヒステリーですから」

「〜〜椿は黙ってて!!由里、早く写真探して!!」

「〜〜あ〜もう、わかったわよっ!」


渋々テレビを消し、思い出す由里。

「あ、そういえば写真の出来見てもらうんで、本人に渡したままだったわ」

「え…っ!?その作業って1カ月前に終わってるはずでしょ!?」

「いや〜、渡したんはそれぐらいなんだけど、返してもらうの忘れてた」

「〜〜も〜っ、早く取り返してきて!!夕方には印刷に回しちゃうのよ!?」

「へいへい、わかったわよ。――椿〜、電話当番お願いね」

「は〜い」


★            ★


廊下を歩き、さくらの部屋をノックする由里。

「さくらちゃ〜ん、いる〜?パンフの写真返してほしいんだけど〜」

「あ、は〜い!」


ドアを開けるさくら、お洒落している。

「どうしたの?やけに気合入ってるじゃな〜い!ひょっとしてデート?」

「そ、そんなんじゃないですよ…。――はい、これ。とっても綺麗に撮れてて、大満足です!」

「そ、よかった。――ねぇねぇ、誰と出かけるの?男?男でしょ?ねぇ!」

「やだぁ!ふふふっ、内緒です!」


ご機嫌でドアを閉めるさくら。

「…怪しい。――うふふっ、後尾いてこ!」

コンパクトミラーで前髪を直すさくら。

「――うん、バッチリ!」

お洒落して鼻歌交じりに街へ出るさくら。気づかれないよう、隠れてついていく由里。待っている山崎、さくらに手を振る。

「さくらさん!」

「あ、山崎さ〜ん…!」


驚き、隠れて見守る由里。仲良く並んで歩いていく山崎とさくら。

「なっ、何、あのイケメンは…!?しかもかなりの高給取りと見た…!さくらさんってば、いつの間にあんな素敵なダーリンと出会ってたわけ…っ!?」

山崎を見つめ、首を傾げる由里。

「……けど、あの人、どこかで見たことあるような…。――ま、いいか。それより、これは大ニュースだわっ!早速皆に知らせなくっちゃ〜!〜〜う〜、何よ、どいつもこいつもイイ男ゲットしちゃってさぁ〜…」

ブツブツ文句言いながら帰っていく由里。

★            ★


「――フレンチはお好きですか?」

「え…っ?あ、はい!フレンチトースト、大好きです!!」

「ハハハ…、さくらさんは面白い人だなぁ」


車を運転する山崎の横顔に照れるさくら。高級レストランに到着。

「はぁ〜…、すごいお店ですねぇ…」

「よく商談の時に利用するんですよ。私の行きつけの店なんです」

「すごいなぁ…。ふふっ、さすがは山崎さん!」

「ハハハ…、さぁ、参りましょう」


さくらの手を取ってエスコートする山崎。赤くなり、嬉しがるさくら。テーブルに着くさくら、周囲が皆カップルで照れる。

「ここはデートスポットとして人気が高いですからね。何にします?」

「えっと…、それじゃあ――」


フランス語で読めず、メニューをまじまじと見るさくら。

「ぽ…、ぽわ…?」

「これは子羊のポワレ。オマール海老の筍添えオリエンタルソースがけにデザートはティラミスかプディングを選べるみたいですね」

「あ…ははは…、〜〜山崎さんと同じもので結構です…」

「そうですか?――では、いつものを2つ」

「かしこまりました」


ウェイターに注文し、チップを渡す山崎。

「お、お金、もう払うんですか?」

「これはチップ。外国では店員に心付けとして渡すのが礼儀なんですよ」

「へぇ…!山崎さんって何でもご存知なんですねぇ…!」

「まだ西洋料理専門店は銀座でも少ないですからね。慣れていなくても仕方ありませんよ」

「あはは、私なんて仙台から上京してまだ1年も経っていなくて…。まだまだ東京人の常識も知らないことだらけですし…。恥ずかしいな…」

「はは…、そういうところも可愛らしくて、私は好きだな」

「〜〜はうあっ!?す、すみません…!!お手洗い行ってきますっ!!」


真っ赤になりながら慌ててトイレに駆け込むさくら。怪しく笑い、脚を組む山崎。トイレを出て、廊下を歩きながらパニックになるさくら。

「〜〜ど…っ、どうしよう…!?あんなこと言われたの初めて…!!あうぅ…、マ、マナーのこととか、すみれさんに聞いといた方がいいかしら…?」

キネマトロンを出して通信を試みるが、繋がらず。

「あれ…?おかしいな…。どうしちゃったんだろう…?」

「――無駄ですよ」


背後にいる山崎に手首を掴まれ、キネマトロンを落とすさくら。

「何故、私があなたを招待したと思います?あなたが私の手足となるのにふさわしい人間と判断したからですよ」

「や、山崎さん――!?」


山崎の目を見て、操られるさくら。山崎のお守りが揺れる。変装を解き、さくらの耳元で囁く叉丹。

「もうあなたは私の操り人形…。何でも言うことを聞いてくれますね?」

「――叉丹様の…御心のままに…」

「フフッ、良い子だ…」


操られ、虚ろな瞳で微笑んで、叉丹に寄り添うさくら。


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