★16−2★



花やしき。復興に追われる研究員達を白衣を着ながら見つめ、手伝う紅蘭。山崎と叉丹を考え、試験官を割る。

「あ…、〜〜す、すんません。片づけときますわ…!」

「大丈夫か?ここのところよく寝てないんだろう?」

「あとは僕らに任せて、仮眠室で休むといいよ」

「すんません…。ほな、頼みますわ…」


廊下を暗く歩く紅蘭、観覧車を直す業者に指示するあやめを発見。

「――色は子供が喜ぶ明るいもので。あと、補強をもう少しお願いします」

「あやめはん…?」


駆け寄ってくる紅蘭に気づくあやめ。

「あら、紅蘭。来てたの?」

「はいな、支部の皆が気になってな…。あんなことがあったばかりやし…」

「そうね…。――あ…、向こうで話しましょうか」


業者を気にするあやめに気づき、口を塞ぎ、愛想笑いして会釈する紅蘭。

★            ★


花やしき支部・作戦指令室。修理されつつも、傷跡が残っている。

「支部の存在を知られたなんてね…。〜〜本当、駄目ね、私って…。こんなんじゃ、大神君とかえでに怒られちゃう…」

「……ここがバレるんも、時間の問題やったんです。奴は…、〜〜葵叉丹は帝撃の仕組みを網羅しとります。…元対降魔部隊のお人ですからな」


山崎の設計図の本を抱きしめる紅蘭。驚き、顔を上げるあやめ。

「〜〜紅蘭…、あなた、知ってて…!?」

「…なーんてな!あはは、なんや知らんけど、そんなでたらめな噂を耳にしましたんや。まったく、うちが尊敬してやまない山崎先生を悪党呼ばわりするとは、なんちゅー不届き者や!うちが成敗したる!!えい!とおーっ!!」


黙るあやめ。おどける紅蘭だが、涙を設計図にこぼし、拳を握る。

「〜〜絶対…、絶対許さへん…!大事な大神はんとかえではんを殺した黒之巣会をうちが絶対とっちめたるんや…!どんなに強敵だとしても…、うちの命と引き換えにしてでも、絶対、葵叉丹を倒したる…っ!!」

「〜〜軽々しく命と引き換えになんて言っては駄目よ…」

「……せやな。すんません、ついカッとなってしもうた…」

「でも、私も同じ気持ちよ。〜〜絶対に霊力を取り戻して、2人の仇を…!」

「あやめはん…」


大神がくれたペンダントを握り、涙を堪えるあやめ。従業員が顔を出す。

「支部長、ジェットコースターの点検の方を始めたいのですが…」

「…わかったわ。すぐ行くわね」

「あぁ、せや、うちも仮眠室行く途中やったんや。…せやけど、すっかり目が覚めてしもうたなぁ。あははは、研究室に戻るとしますかな。ほな、失礼します〜!」


行こうとした紅蘭の手を掴むあやめ。

「待って!あなたには、ちゃんと話しておこうと思ってたの…。〜〜山崎少佐はね…、彼は――」

「〜〜聞きとうないっ!!」


ハッとなるあやめ。背中を震わせ、涙を堪える紅蘭。

「〜〜うち…、真実を知るんが怖いんや…。もし、葵叉丹が本当に山崎先生やったら、うち…、何を信じたらええんかわからんようになってまう…。機械に触れるんも、怖くなってまうかもしれへん…」

「紅蘭…」

「〜〜駄目やね、うち…。尊敬しとるお方を信じてやれへんなんて…。へへっ、ただの勘違いかもしれへんのに…。せやけど…、〜〜せやけど…」


うつむくあやめ。紅蘭とあやめのキネマトロンが鳴る。

「こちら、マリア・タチバナ。大変です、隊長とかえでさんが――!」

驚き、顔を見合わせるあやめと紅蘭。

★            ★


大帝国劇場に戻るあやめと紅蘭。囲まれ、歓迎されている大神とかえで。

「――あ…、こっちで〜す!」

「ビッグニュースだぜ!隊長とかえでさんが帰ってきたんだよぉ!!」

「え…っ!?」


さくらとカンナに背中を押され、前に出るあやめ。目の前に笑顔の大神。

「長い間、連絡できずにすみませんでした。大神一郎、ただ今戻りました」

「嘘やろ…!?ほんまに…、ほんまもんの大神はんとかえではんでっか!?」

「あぁ!生きてたんだよ、二人とも!!すっげ〜よなぁ!!」

「本当によかったです…!私、仏壇には何を供えようかと毎日悩んで…」

「〜〜もう、変なこと言わないで頂戴!」

「いやぁ、しかし、本当によく生きて帰ってきてくれた!――ほれ、大神」


米田にけしかけられ、笑顔であやめに近づいていく大神。涙を拭い、微笑むあやめを通り過ぎ、紅蘭に笑顔で挨拶する大神。驚くあやめ。

「久しぶり、紅蘭。心配かけて悪かったね」

「ええんや、こうして元気に戻ってきてくれたんやさかい!ほら、うちはええから、婚約者はんに熱烈な抱擁してあげんと!」


大神の背中を押し、あやめの前に立たせる紅蘭。大神がかえでのネックレスをしているのに気づき、驚くあやめ。微笑み、敬礼する大神。

「お久し振りです、副司令」

「あ…、お帰りなさい。――かえでもよく戻ってきてくれたわね…!」


微笑むあやめ。不機嫌になるかえで。

「もう大神さん、照れなくていいんですってばぁ!」

「あやめお姉ちゃん、お兄ちゃんの帰りをずっと待ってたんだよ!」


けしかける椿とアイリスを不思議に見る大神。動揺し、目を伏せるかえで。

「え…?それってどういう――」

「か〜んげきだなぁ〜!」


にょきっと現れ、大神を抱きしめる加山。驚く大神。

「いやぁ大神ぃ、最高の友と感動の再会が果たせて、俺は幸せだなぁ〜!」

「あ…、あぁ…、え〜と――」

「加山君、任務中でしょ?わかったから戻りなさい」

「OH!これは失敬…。――それでは皆様、アディオ〜ス!」

「…相変わらず嫌な感じですねぇ、代理って」


不満に思う三人娘。大神とかえでを不審がるマリアと肩を組むカンナ。

「どうした、マリア?せっかく隊長とかえでさんが帰ってきてくれたんだ。パ〜ッとお祝い会やろうぜ!」

「わ〜い!パーティーだ、パーティーだ〜っ!!」

「ほな、早速、楽屋の飾りつけ、やりまひょ!」

「私達はお料理、作りますね〜!」

「お、じゃあ、あたいも自慢の沖縄料理振るっちゃおうかね〜!隊長達はゆっくりしててくんな!」

「あ、あぁ…」


準備に取りかかる一同。大神を見つめるマリアを不思議に覗き込むさくら。

「どうかしたんですか…?」

「……隊長、何だか変じゃない?いつもと違う雰囲気だけど…」

「そうでしょうか…?疲れてるだけだと思いますけど…?」

「……なら、いいんだけど…」

「何やってるんだよ。ほら、さっさと準備始めようぜ!」

「は〜い!じゃあ私、食材と飲み物、買ってきますね!」

「んまぁ、方向音痴のさくらさんにおつかいを任せて大丈夫ですの?」

「むっ、ご心配なく。私だって少しは銀座の街を覚えたんですから…!」

「本当かしら?そうやってあの時もしゃしゃり出て、少尉を迎えに上野公園に行くはずが、まるっきり逆方向の長屋に行ってしまったんですから…。ホホホ…!あの時は大笑いでしたわよねぇ、少尉?」

「え…?そ、そうだったっけ…?」

「大神さん…?」

「おいおい、忘れちまったのか?ハハハ、隊長って案外抜けてるよなぁ〜」

「〜〜私達、疲れてるの。部屋で休むから、準備できたら呼びに来て頂戴」

「え?あ、わかりました…」


大神を引っ張り、あやめを無視して階段を上がっていくかえで。マリアと目が合い、目をそらすかえで。不審がるマリア。

「〜〜何なんですの、あの態度…!?やはり、あんな方の為にパーティーなどやらなくてよろしいんじゃなくて?」

「まぁまぁ、今日ぐらい大目にみてやりぃな」


大神とかえでを不安そうに見つめ、ジャンポールを抱きしめるアイリス。

「……アイリスも感じた?」

「〜〜うん…。何だか…お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃないみたい…」


アイリスと共に厳しい目で見つめるマリア。

★            ★


大神の部屋。大神と慌てて入り、ドアを閉めて安堵するかえで。

「〜〜ハァ…、危なかった…」

「どうして記憶喪失だって知られたらいけないんですか?」

「〜〜それは…、ほら、皆に余計な心配かけちゃうでしょ!?」

「あぁ…、そうですね。ハハ…、かえでさんって優しいんですね」

(〜〜うぅ…、我ながら自分の台詞とは思えないこと言っちゃった…)

「――ここが俺の部屋ですか?」

「そうよ。これからは極力、私と離れないでね?あんたも不安でしょ?」

「はぁ…。でも、皆さん、良い人そうだから大丈――」

「〜〜いいから言う通りにしなさいっ!とにかく、記憶が戻るまでなるべく私以外の奴とは喋らないこと!いいわね!?」

「〜〜く、苦しいですよ、かえでさん…」


大神のネクタイを引っ張り、言い聞かすかえで。ノックし、入るあやめ。

「あ…、ここにいたのね。探しちゃったわ」

気まずく大神から離れるかえで。不安そうに2人を見るあやめ。

「…本当に生きて帰ってきてくれて嬉しいわ。これからはずっと私が――」

大神に触れようとしたあやめの手を払うかえで。驚くあやめ。

「彼、怪我のせいで神経が過敏になってるの。気安く触らないでくれる?」

「え…?」

「困ったもんよね。私がいなきゃ夜も眠れないんだから…。しばらくは私と同じ部屋使わせるから、姉さんは今まで通り、ここ使っててくれる?」

「え?ここ、俺の部屋なんじゃ…?」

「いいから、隣の部屋使うわよ」


大神の手を引っ張って出ていこうとするかえでを呼び止めるあやめ。

「〜〜待って…!大神君、そのペンダント…」

「あぁ、姉さんのペンダント壊れちゃったから、代わりにね。…それじゃ」

「え…っ!?ちょ…っ、かえで…!?」


かえでに連れられて出ていく大神、悲しそうなあやめの顔を去り際に見る。

★            ★


叉丹の夢。青空と美しい海に囲まれた大和島で平和に暮らす人々の中に山崎の母と妹。軍服で帰ってきた山崎に駆け寄る妹。

『兄さん、お帰りなさい!見て、母さんの具合もだいぶ良くなってきたわ』

母の乗る車椅子を押す妹。しゃがみ、微笑んで花束を渡す山崎。

『退院おめでとう、母さん』

『ここまで良くなれたのも、お医者様と仕送りしてくれているお前のおかげだよ。真之介、お前は本当に優秀で優しい子だねぇ』

『ねぇ、帝都でのお話を聞かせて!兄さんの帰りをずっと楽しみにしてたんだから!』

『すまない…。上官からの命令で今日中に戻らなければならないんだ』

『そう…、軍って厳しいのね…。除隊して、また私達と暮らせばいいのに』

『コラ、ワガママを言ってはいけないよ?』

『ふふふっ、だって私、兄さんのこと、だ〜い好きなんですもの!』


笑顔の母と妹に微笑みながら、ゆっくり目を覚ます叉丹、暗闇の中、魔法陣の上で横になり、心臓のように脈動を打つ天井を見つめる。

(聖魔城の復活は近い。こうして人の記憶を保てるのもいつまでだろうか)

体内で眠るサタンの心臓が鼓動し、苦しく胸を押さえながら闇のオーラを放出し続ける叉丹。

(〜〜だが、俺はやらなければならないんだ…!この腐った帝都に鉄槌を下し、我が復讐を遂げる為に戦わねば…!!)

目を充血させて牙をむき、飛び起きる叉丹。

★            ★


銀座。買い物袋とメモを持ち、街を歩くさくら。

「にんじん、ジャガイモ、お肉、お酒、ジュースは買ったと…。〜〜う〜ん、ゴーヤってどこに売ってるのかしら…?ミ…、ミミガーって何…!?」

「――あの…、真宮寺さくらさん…ですよね?」

「はい…?」


振り返るさくら、微笑んで立つスーツ姿の山崎にときめく。

「やっぱりそうだ…!真宮寺さくらさんですよね、帝国歌劇団・花組の?」

「は…、はい…、そうですけど…?」

「やっぱり…!先日の『海神別荘』、劇場で拝見しました。実に素晴らしい舞台でしたよ!」

「あ…、ありがとうございます…!あ、あの…?」

「申し遅れました。私は山崎真之介。あなたのお父上の部下だった者です」


さくらに名刺を渡す山崎。

「はぁ…。経営コンサルタント…?」

「えぇ。除隊後はアメリカに留学して、経営学を学んでおりました」

「はぁ…。〜〜難しそうなお仕事ですねぇ…」

「はは、そうでもありませんよ。立ち話もなんですから、そこの喫茶店で一緒にお茶でもいかがですか?」

「え?ごめんなさい。私、ゴーヤとミミガー買わなくちゃいけないんです」

「あぁ、お買い物の途中でしたか。それは失礼しました」

「あの…、――でも、ちょっとだけなら…」


★            ★


「――うふふっ、お父様も方向音痴だったんですね。やっぱり遺伝だな」

「でも、さすがは大佐のお嬢様だ。花のような可憐さと春の雪解けような温かさ…。まさに大和撫子と呼ぶに相応しい」

「え…?えへへへっ、そ、そんな…!」


照れ、ソーダフロートを飲むさくら、山崎を見つめ、赤くなる。

「どうかしましたか?」

「いえ、男の人とこういう風にお茶するなんて初めてで、緊張しちゃって」

「ハハ…、そうでしたか。私は嬉しいですよ、お世話になった大佐のお嬢さん、しかもこんなに美しい方とお話ができて」

「や、やだぁ、山崎さんってば…!」

(こ…、これってデートっていうのかしら…?〜〜あぁ〜…、駄目よ!私には大神さんという人が――)


さくらのキネマトロンが鳴る。

「〜〜あ…、ご、ごめんなさい…!」

後ろを向き、応答するさくら。画面にマリアが映る。

「あ、マリアさん…!何か御用ですか?」

『何やってるの!?もう4時よ?頼んでおいた物はちゃんと買った?』

「あ、そうでした…!〜〜ごめんなさい、ゴーヤとミミガーがまだです…!!」

『それは八百屋には売ってないから、沖縄料理の専門店で買ってこいってカンナからメモ渡されたでしょ?』

「あれ?そ、そうでしたっけ…!?」


バッグを懸命に探るさくらにため息つくマリア。

『〜〜もういいわ。私が行ってくるから、戻ってらっしゃい』

「〜〜す、すみません…」


頭を下げたさくらのキネマトロンの画面に映る山崎に気づくマリア。

『…誰かと一緒なの?』

「あ…、はい、父と同じ部隊だった山――」


念力でさくらのキネマトロンのスイッチを切る山崎。突然切れて不審がるさくらとマリア。

「あ、あれ?切れちゃった…。……ま、いいか」

「その沖縄料理の店なら私も知ってますよ。ご案内しましょうか?」

「え?そ、そんな…!ご迷惑をおかけするわけには…」

「気になさらないで下さい。さくらさんのお役に立てるのなら、光栄です」


山崎の微笑みに赤くなり、照れるさくら。

★            ★


沖縄料理専門店。無事に買え、喜ぶさくら。

「よかったぁ〜!本当にありがとうございました」

「いえ、無事に買えてよかったですね」

「そろそろ帰らなくちゃ…。父の話ができて、とても楽しかったです!」

「私の方こそ、とても有意義な時間をありがとうございました。もし、よかったら、また一緒にお茶しませんか?」

「あ、はい、是非…!」

「よかった。では、明日はお暇ですか?」

「明日ですか?大丈夫です!舞台の稽古もお休みですし」

「では、また明日、この時間に先程の喫茶店でお会いできますか?」

「わかりました!」

「あ…、それからこれを…」


さくらに緑のお守りを渡す山崎。

「これって、対降魔部隊の…!」

「えぇ、降魔戦争の時、私が身につけていたものです。私にはもう必要ありませんから、あなたに…」

「え…?そ、そんな大事な物、頂けません…!」

「いいんですよ。きっと今度はあなたを守ってくれますから…」


さくらの手を握り、お守りを握らせる山崎。赤くなるさくら。

「え、えぇ…、ありがとうございます…!」

微笑み、一馬のお守りの隣にお守りをつけてやり、さくらを見つめる山崎。

「――今日会ったことは二人だけの秘密ですよ?」

「え…?」

「フフ…、いえ、女優さんにスキャンダルはご法度でしょうからね」


微笑み、怪しく口元を緩ませる山崎。

★            ★


「――大神さん、かえでさん、おかえりなさ〜い!!」

楽屋・パーティー会場。クラッカーを鳴らすさくら達と三人娘。料理を振る舞うカンナ。かすみの手料理をつまみ食いする加山。ふくれるかすみ。『えんかいくん』で盛り上げる紅蘭。喜ぶアイリスと新次郎。パーティーを楽しむ一同。ウォッカを飲むマリア、だるそうなさくらに気づく。

「さくら、大丈夫?顔色悪いけど…」

「あはは…、少し騒ぎすぎちゃったみたいです…」

「具合悪かったのか?〜〜おつかいなんて頼んじまって悪かったな…」

「いえ…!――そのおかげで素敵な方にお会いできましたし…」

「ん?何か言ったか?」

「〜〜い、いいえ…!あははは…」

「しっかし、メモなしでよくあの店わかったなぁ」

「フン、たまたまですわよ。あなたの方向音痴の度合いは人並み外れていますからねぇ」

「えへへ、そうなんです。親切に案内して下さった方がいて…」

「もしかして、通信の時に一緒にいた…?」

「はい!経営コンサルタントの山――」


皿の割れる音に驚き、振り向くさくら達。酔って笑う米田と木刀で暴れる双葉を押さえる椿と由里。

「きゃはははは!愉快、愉快〜!!」

「ほら大神ぃ〜、もっと飲め〜っ!!」

「〜〜あ〜ん、2人だから余計質が悪いですぅ〜」

「〜〜か、母さぁん…。恥ずかしいなぁ…、もう――わあっ!!」

「大河くぅ〜ん、酔っちゃったぁ〜!」


新次郎に抱きつくラチェット。見て驚く大神。隣に座っているかえで。

「〜〜み、皆さん、すごいですね…」

「ふふっ、いつものことじゃない」


大神に梅茶を注ぐあやめ。

「はい。あんまりお酒飲めないから、酔いが回っちゃったかと思って」

「あぁ、ありがとうございます。――このお茶、何だかホッとするな…」

「ふふっ、大神君も好きなのよね、梅茶。――かえでも飲む?」

「…いらないわよっ!」


楽しく喋って大神と梅茶を飲むあやめにムカつき、ヤケ酒するかえで。

「そう…。――あ、この天ぷらね、私が揚げたのよ?」

「へぇ、あやめさんってお料理が上手なんですね…!」

「ふふっ、もう、とぼけたフリしちゃって!」


笑い、大神の額を小突くあやめ。ハッとなり、額を押さえる大神。

「この感じ…、前にもどこかで…」

「え…?」


テーブルを叩き、大神の腕を引っ張って立たせるかえで。驚くあやめ。

「無茶させないで。私も彼もやっとの思いで帰ってきたばかりなんだから」

「あ、かえでさん…、〜〜ちょっと…!」


大神の腕を引っ張って出ていくかえで。うつむくあやめ。見ている花組。

「……やれやれ、少しは丸くなったと思ったんだけどな〜…」

頭痛で頭を押さえるさくら。心配し、駆け寄るアイリス。

「大丈夫!?頭、痛いの…!?」

「ううん、平気よ…」

「アイリスがちちんのぷいで治してあげるよ!ちちんの――」

「〜〜平気って言ってるでしょ!?」


アイリスの手を払うさくら。驚くアイリスとマリア達。

「〜〜あ…、ご、ごめんね…!?本当に大丈夫だから…」

怯え、泣き出すアイリスの頭をなでるカンナ。

「さくら、ちょっと休んでこいよ」

「慣れない主演を務めたせいで、疲れがたまってるんですわ、きっと」

「そ、そうみたいですね…。すみません、お先に失礼します…」


ボーッとしながら歩くさくらを心配に見るすみれとカンナ。

「いつもより、さらにボーッとなってますわね…」

「う〜ん、間違って酒でも飲んじまったのかねぇ…?」


フラフラなさくらを黙って見つめるマリア。


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