★16−1★
花束を海に投げ、敬礼する陸軍と海軍の軍人達。汽笛。敬礼し、黙って海を見つめる米田。賢人機関。
「大神少尉と藤枝中尉を亡くしたことは、帝国華撃団にとっても痛手だな」
「隊長不在ということは、花組の基盤も揺らいでいるということ…」
「どうするんだ?今、黒之巣会による霊的災厄に見舞われたら確実に帝都は壊滅するぞ!?」
「フム…、もはやあれを使うしかないでしょうな」
「真宮寺さくら…ですな?」
「…でしょうな。真宮寺一馬大佐の時のように、魔神器を使って破邪の力を解放させ、悪を浄化させれば、帝都も平和を取り戻せるでしょう」
「少女一人の命と引き換えに日本国民全員が助かるんだ。天秤に掛けるまでもないだろう。――なぁ、米田君?」
腕を組んだまま無言でいる米田。会議終了。会議場から出てきて、車に乗る米田。ボーッと窓の外を見ている運転席のかすみ。
「…帰ったぜ」
「――あ…!〜〜し、失礼しました…!」
車を発進させるかすみの暗い顔をミラー越しに見て、黙る米田。大帝国劇場。車から降り、かすみに支えられながら歩く米田。
「はは…、すまねぇな。ったく、歳取るってのは嫌だぜ。昔はどんなに霊力出して戦っても、次の日はピンピンしてたんだがなぁ…」
「ふふっ、支配人はまだまだお若いですよ。あ、段差気をつけて下さいね?」
「ははは…、そんな神経使いなさんなって」
杖をついて劇場内に入る米田。嗚咽を漏らし、泣きじゃくって売店に立つ椿と明るく電話応対する由里を見つける。
「――はい、切符300枚ですね?いつもありがとうございます!――はい、では当日、劇場でお待ちしております!――はい、失礼しま〜す…!」
受話器を置き、暗くなる由里。黙って去る米田。かすみの車をサロンから見下ろして紅茶を飲み、うつむくすみれ。紅茶に涙が落ち、波紋。自分の部屋でエンフィールドの手入れをするマリア、ロケットペンダントの大神の写真を見つめる。鍛練室。サンドバッグ相手に空手するカンナ。砂が出るサンドバッグ。汗だくで息を切らすカンナ。中庭。ジャンポールを抱き、うずくまって泣くアイリスを心配する犬。整備服で神武を整備する紅蘭、大神とかえでの空の収納場所を見つめ、眉を顰める。隊長室。ベッドに座り、泣きながら倒れ込むあやめ。帝劇の様子を黒い炎に映して見る叉丹。
「藤堂の半分と隼人は消えた。あの双子の死も無駄ではなかったようだな」
炎にさくらを映す叉丹。大帝国劇場・舞台。基本の構えを繰り返すさくら、拍手に気づき、笑顔で振り返る。大神の幻が笑顔で拍手している。
『――その調子で頑張れよ、さくら君』
大神の幻が消える。涙を流し、座り込むさくらを見て、不気味に笑う叉丹。
「――次は真宮寺の血…か」
★ ★
大帝国劇場・支配人室。月光に輝く真刀滅却を鞘に納める米田。ソファーに座る双葉。デスク前に立つ加山。
「さすがは二剣二刀の一つ・真刀滅却だ。正当な血統者でない老いぼれが使っても、あれだけの力を発揮するとはねぇ」
「〜〜ふ、双葉さん…、ご本人の前で老いぼれはまずいんじゃ――」
「んあ!?」
双葉に睨まれ、硬直する加山。
「はっはっは…!確かにその通りだ。あの時、俺があれほどの力を出せたのも全て、三十郎が残してくれたこいつのおかげさ」
「ほれみろ」
得意気な双葉に苦笑する加山。
「……でなければ、さくら達まで失っちまってたとこだからな…」
「司令…。〜〜申し訳ありませんでした…。俺も神武を操縦できれば…」
「もうやめな。弱音を吐いたとこで一郎達が帰ってくるわけじゃないんだ」
「本当にすまないことをした…。父親だけでなく、弟の一郎君までもを…」
「……あんたのせいじゃないって。〜〜仕方なかったのさ…。それが裏御三家の子孫に生まれた宿命だからね…」
「葵叉丹は…山崎少佐は、大神が裏御三家の末裔の一人だと気づいていたはずです。〜〜なら、今度は双葉さんが…!」
「何だい?入学式に私にこてんぱんにされたのを忘れちまったか?」
「〜〜そうは言っても、相手は闇の霊力を――!」
「んなもん、ちっとも怖くないよ。〜〜一番危ないのは新君だ…。あの子は何に代えても私が絶対に守ってみせる…!隼人の血筋とかじゃない。一人の母親としてな…!」
「双葉さん…」
「…不思議だね。一郎はもういないっていうのにさ、不思議と涙が出ないんだ。あの子のことだ、何だか今にも呑気に帰ってきそうな気がしてさ…。〜〜わかるんだよ…、一郎もあのじゃじゃ馬女もそう簡単に死ぬはずがないんだ。だって、死体はまだ見つかってないんだ!希望はあるじゃないか!――なぁ、おっさん!!」
「あぁ、そうだな」
『――米田…、一郎を…我が…息子…を……』
三十郎を回想し、目を細める米田。ノックし、入ってきて敬礼する薔薇組。
「司令、例の倉庫のセキュリティーチェック、完了致しましたわ!」
「おう、ご苦労だったな」
「……予測通り、現れますかね…?」
「あぁ…。魔と戦い、その力を手に入れたアイツなら、放魔記書伝の伝説ぐらい知ってるはずだ。きっと、あれを奪いに来るだろうよ…!」
「ご安心を。この愛と美の精鋭部隊・薔薇組が命がけで守ってみせますわ」
「〜〜ぐすっ、天国に逝った大神さんと代理の為にも菊之丞、頑張ります」
「〜〜う…っ、うぅ…、一郎ちゃ〜ん…」
「――いつまで泣いてるのっ!」
扇子で菊之丞と斧彦の頬を叩く琴音。
「大神少尉と藤枝中尉の為にも、ここで私達が頑張らなくてどうするの!?それが愛する男に先立たれたオカマの宿命ってものじゃない…!!うぅぅ…」
「琴音さん…。――そうですよね!きっと大神さん達も天国で応援してくれていますよね!私、頑張ります!ね、斧彦さんっ!!」
「そうよ!私達薔薇組が力を合わせれば、恐いものなんて何もないわ!」
「美しい…!汚れを知らない美しい涙よ、二人とも!!それこそ大神さんが私達に求めていたもの!――さぁ、システムの仕上げにかかりましょう!!」
「了解!」「了解!」
泣きながら出ていく薔薇組。
「ははは…、あいつらも良い奴らなんだがな…」
「ハハ…、帝撃の連中はどいつもこいつも個性派揃いだねぇ…」
「――それで…、真刀滅却のことなんだが…」
「わかってるさ。私も真刀を継ぐ儀式を受けて、あの娘達と一緒に戦えばいいんだろ?……正式な血統者は私しかいなくなっちまったからねぇ…」
「…そういうことだ。やってもらえるか?」
「当たり前だろ?――どれ、貸してみな!」
真刀滅却を受け取り、瞳を閉じて集中して霊力を高める双葉。鞘から抜くが、霊力のオーラが弱くなる。驚く米田と加山。
「…フッ、面白い。後継者として認めないばかりか、儀式も受けさせないって腹か…。〜〜この私をコケにするたぁ、上等じゃねぇか!!あぁ!?」
「〜〜ふ…っ、双葉さん、落ち着いて下さい…っ!!」
真刀を床に叩きつけようとする双葉を必死に止める加山。
「どういうことだ…!?まるでまだ他に後継者がいるみてぇな素振りだが…」
窓を慌ててノックする月組隊員。窓を開け、中に入れてやる加山。
「どうした…!?」
「た、大変です…!東京湾上の無人島で、大神隊長と藤枝代理の生存を確認しました…!!」
「何だって…!?」
★ ★
無人島。波打ち際で流れる操縦席の壁部分。焚火をし、腕の傷を押さえるかえで。薪を抱えて戻ってくる大神。
「怪我の具合はいかがですか?」
「大したことないわ。…あんたこそ大丈夫なの?」
「はい。おかげ様ですっかり良くなりました」
微笑む大神に赤くなり、目をそらすかえで。ナイフで果物をむく大神。
「…本当に何も覚えてないの?」
「はい。自分が何者なのかも、どうしてここにいるのかも…。すみません」
葉の皿に切った果物を乗せ、かえでに渡す大神。食べ、微笑むかえで。
「…雑用の手際の良さは衰えていないようね」
「え?」
「ふふっ、何でもないわよ――」
かえでを助ける大神を回想し、食べる手を止め、涙をこぼすかえで。
「か、かえでさん…!?果物、まだすっぱかったですか…!?」
「そういうことじゃない…。あんな風に守られたの、初めてだったから…」
大神の袖をぎゅっと握るかえで。驚く大神。
「こんな私を見捨てず、あなたは命がけでかばってくれた…。〜〜なのに素直に喜べない…。……いつだってそうよ…。私ももっと素直に自分の感情を出せる人間だったら…、好きな人に好きって言える人間だったらっていつも悔んで…。〜〜私がそういう人間だったら、あなたも愛――」
かえでを抱きしめる大神。驚き、赤くなるかえで。
「そんなに自分を卑下しないで下さい。俺はあなたが悪い人には見えません。こうして傷の手当てもしてくれましたし…」
「大神君…」
「俺のこと、何か知ってるんですよね?お願いします、何でもいいから教えて下さい!何か力になれるかもしれません…!」
大神の胸元で光るあやめのペンダントに眉を顰めるかえで。夜が深まり、眠る大神。焚火を挟んだ向こう側で眠るかえで、眠れず、大神を見つめる。
『――俺は、あやめさんと生きていくって決めましたから…!』
回想し、不機嫌に寝返りを打つかえで、殺気がし、体を起こす。野生動物の鳴き声がこだまし、神剣を構えるかえで。
「〜〜ちょっとぉ…、何でこんなサバイバルしなきゃなんないわけ…?」
鳴き声が近くなり、降魔達に囲まれるかえでと大神。大神は眠ったまま。
「降魔…!?ってことは、ここは帝都なの!?〜〜ちょっと、起きなさいっ!呑気に寝てる場合じゃないんだってば…!!」
「――ん…?もう朝ですか――?」
大神とかえでの間を飛び抜ける降魔。状況を把握し、青ざめる大神。
「〜〜数が多いわ…。油断してると、食い殺されるわよ?」
襲う降魔達を斬るかえで。降魔の死体に腰を抜かし、岩陰に隠れる大神。
「〜〜う…っ、うわああああっ!!」
「ちょ…っ、何やってるのよ!?あんたも戦いなさいっ!!」
「〜〜い、いやだぁ…!死にたくない〜…!!」
「はぁ!?」
飛びかかってくる降魔の爪を弾き、後ろによろけるかえで。
「〜〜さっさと加勢しなさいよっ!!女に守られてて恥ずかしくないわけ!?」
「〜〜こ、怖いよぉ〜…」
泣きながら、うずくまる大神。
「〜〜ったく、記憶喪失って厄介なんだから…っ!」
吠え、威嚇する降魔。構え、攻撃するかえで。剣と牙が交差し、離れるかえで。吠える降魔。仲間が続々現れ、大神とかえでを囲む。
「〜〜う…っ、うわあああっ!!た、助けてぇぇっ!!」
「〜〜うるっさいわねぇっ!!大体、ここどこなのよ!?本当に帝都…!?」
「――『大和』じゃよ」
先巫女の声が響き、ハッとなるかえで。衝撃波に呑まれ、全ての降魔が一瞬で消える。草むらから神官を連れ、歩いてきて笑う先巫女。驚くかえで。
★ ★
夜の闇の中、神官が漕ぐ船に乗り、先巫女に手当てを受けるかえで。ラジオから帝国歌劇団の音楽が流れてきて、眉を顰める。
「〜〜つ…っ!!あ〜、もう少し丁寧にやんなさいよっ!!」
「…うるさいのぅ。傷口が開いとるんじゃ。じっとしておれ」
遠く離れていく無人島を船に揺られながら、見つめるかえで。
「…何で私達、生きてるの?確かにあの時、爆発に巻き込まれたのに…」
「本当、奇跡じゃったな。お前達は操縦席のセルシウス鋼に守られ、閉じ込められたまま東京湾を流れ、運良く大和に漂着したというわけじゃ」
「〜〜あれが大和のわけないじゃない…!とっくに沈んだはずでしょ?」
「正確には大和の一部じゃ。大和島のほとんどは7年前に沈んだ。当時からその島は降魔で溢れ返っておったからな、本島と繋がっていた橋を壊し、完全な無人島にしたんじゃよ。あの時、島ごと降魔を燃やしたはずなんじゃが、まだ生き残りがおったとはのぅ。政府に知らせとかんとな…」
「…何で私達がいるってわかったの?」
「…夢で教えてくれたんじゃよ、お前の母様がな」
「え…?」
「――かえでさん…!」
手当てを受けて戻り、かえでに笑顔で駆け寄る大神。
「すみません、俺の為に無茶を…。先程はありがとうございました」
「フン、これで借りは返したわよ?…で、何か思い出した?」
「はい、先巫女様のお陰でわかりました、俺はあなたの婿になる男だと」
「〜〜な…っ!?」
「…さーて、年寄りは休むとするかの」
席を立とうとする先巫女を引きとめるかえで。
「〜〜ちょ…っ!!何勝手なこと吹き込んでんのよ!?」
「ほ〜ぉ、迷惑だったかの?その割には喜んどるように見えるが」
真っ赤になるかえで。?な大神。
「…ま、半月ぶりの再会じゃ。今は互いの無事を喜び合うがいいさ」
「〜〜は…っ、半月ぃっ!?」
「そうじゃとも。――悪運が強いのぉ、お前さん達」
笑い、歩いていく先巫女と神官達。
「悪運…ねぇ」
「俺も本当に奇跡だと思います。爆発から逃れて、何かに導かれたようにあの島に漂着して…。何だか偶然ではない気が…」
大和を見つめる大神を見つめるかえで。
「……他のことは思い出したの?帝撃の皆や劇場のこととかは…!?」
「先巫女様に全て伺いました。完全にってわけではありませんが…」
「そ、そう…」
大神の胸元にかえでのペンダントが下がっているのに気づくかえで。
「壊れなくてよかった…。――約束しましたよね、戦いが終わったら結婚しようって」
「大神君…。〜〜それは…、姉さ――」
きょとんとする大神。黙り、先巫女を追って襟元を引っ張るかえで。
「クソババア、一体どういうことか説明してもらおうじゃないの!」
「相変わらず言葉遣いが下品じゃのぅ…。ようやくサバイバル生活から解放されたんじゃ。今日ぐらい何も考えず、ゆっくり休め」
「〜〜こんな状態で休めるわけないでしょ!?彼に何を吹き込んだのよ…!?」
「人聞きの悪い…。巫女を継ぐお前の婿となることを快く承知してくれたというのに…」
「嘘よ…っ!〜〜だって…、大神君は姉さんをあんなに…」
「はて、心変わりしたんじゃないかい?記憶喪失になって頭が真っ白になってたみたいだからねぇ。冷静に物事を考えられるようになったんじゃろ」
「そんなはずないわ…!〜〜じゃあ、彼の気持ちはどうなるのよ…?」
「驚いたのぅ、お前さんが人を思いやろうとは…。それも、あの坊や達の影響かえ?」
「……」
「ふふっ、一体何の文句があるって言うんだい?愛している男と一緒になれるんだ。もっと感謝されてもおかしくないはずだけどねぇ?」
「〜〜騙した状態で一緒になっても、嬉しくも何ともないわっ!早く彼に本当のことを伝えなさいよ…!」
「別にお前さんがいいんならいいんじゃよ?しかし、坊やが記憶を取り戻せば、お前の元を去って、あやめの元へ戻るのは確実だろうねぇ」
「〜〜そ…、それは…」
「せっかくの好機を棒に振るのかい?もったいないねぇ…。これは、お前が最も望んでいたことじゃないのかい?」
黙り、うつむくかえで。見つけ、駆け寄ってくる大神。
「よかった…!どこに行っちゃったのかと思いましたよ」
「べ…、別に少しだけじゃない…」
「少しでもいけません!巫女となるあなたを狙う輩がまたいつ現れるか…。もう勝手に俺の傍から離れないで下さいね?」
かえでの手を強く握り、凛々しく微笑む大神。赤くなるかえで。
「ヒューヒュー、妬けるねぇ、若い衆!」
「〜〜黙れ、クソババア!」
「早く孫の顔が見たいねぇ、裏御三家を束ねる優秀な次期当主の顔をさ」
笑い、神官を連れて歩いていく先巫女。真っ赤になる大神とかえで。
「き…、気にしないで…。おばあ様も寂しいのよ、一人であんなデカい神社に住んでるんだもの…。早く私達に同居してほしいんだわ」
「そ、そうです…よね…」
キスしようと顔を近づける大神。真っ赤になり、慌てて離れるかえで。
「〜〜ちょ…っ、ちょっとぉっ!?」
「〜〜あ…、すみません…。こういうことは、ちゃんと夫婦になってからの方がいいですよね…。……もう…寝ますね。おやすみなさ――」
大神のシャツを引っ張り、引きとめるかえで。
「…一つだけ聞かせて。姉さんと私…、どっちが好きなの?」
「え…?決まってるじゃないですか。俺にはかえでさんしかいませんよ」
微笑む大神をいつもあやめにする大神の笑顔と重ね、唇を噛むかえで。
『――これは、お前が最も望んでいたことじゃないのかい?』
(――小さい頃から、何をやっても姉さんには敵わなくて…。姉さんの背中を追いかけてばかりで…。いつも妬んでばかりだった、私は姉さんという光を輝かせる為の影でしかないんだって…)
『――絶対にあなたを守りますから…!!』
抱きしめ合う大神とあやめを遠くから見つめる自分を回想し、口元を緩ませ、大神を抱きしめてキスするかえで。真っ赤になり、慌てて離す大神。
「〜〜か…っ、かえでさん…っ!?」
「ふふっ、今夜は寝かせないわよ!」
大神にキスし、個室のドアを開けて押し倒すかえで。梅茶を飲む先巫女。
「…やれやれ、若いもんはいいのぅ」
『――俺はあやめさんと…、あなたのお孫さんと一緒に生きていきたいんです!』
『――あやめさん、よくこのお茶を淹れてくれるんです』
記憶喪失前の大神を回想し、湯呑を見つめる先巫女。
(……たとえ、鬼ババアと罵られようが構わぬ。悪を滅する裏御三家の血を絶やせば、世界は確実に滅びてしまうからな…)
夜空に浮かぶ月が赤く満ちてくる。大帝国劇場・大神の部屋。息を荒げ、ベッドのシーツにしがみついて苦しむあやめ。
★ ★
地下城。赤い月を見ながら、闇の霊力が溢れ出る両手を満足に見る叉丹。
「くくくっ、素晴らしい…!次から次に力が満ちてくる…!これだ、これこそ私が求めていた力だ…!!」
叉丹を隠れて見るミロク。
(〜〜日に日に闇の霊力が増している!?そんなこと、ありえるのかい…!?)
ミロクを睨む叉丹。ビビり、後ずさるミロク。
「……そこにいたのか。駄目ではないか、勝手に持ち場を離れては。主人の言うことが聞けないのか?」
「〜〜冗談じゃない…!あんたみたいなイッちゃってる奴になんか、これ以上従えるか…っ!!私は天海様に忠誠を誓って、黒之巣会に入ったんだ!あんたに仕える為じゃないんだよっ!?」
「ほぉ、それが主人に対する言葉か?くくくっ」
「とにかく、刹那と羅刹も死んじまったんだし、私ももうこんな所に用はないよ。天海様の遺志を継いだ反欧米化組織の再生なんて、私一人で――!?」
反魂の術で甦った刹那と羅刹が来るのを見て、青ざめるミロク。
「せ…っ、刹那、羅刹…!!〜〜一体これは…!?」
「クククッ、反魂の術を二度もかけると、さすがに自我を失うらしいな」
「〜〜ま、まさか…、あんたまた…!?」
「ははははっ!お前達は私の部下なのだぞ!?あの小娘達を抹殺するまで、何度でも甦らせてやる!魂が消滅するまで何十回、何百回でもな…!!」
「〜〜じょ…、冗談じゃない…!!私らはあんたのおもちゃじゃないんだ!!」
「…逃げられると思っているのか?」
立ちはだかる降魔達を式神で倒すミロク。
「あくまで逆らう気か?――そうか。おとなしくさせるにはそれが一番だ」
「〜〜だ、誰と喋ってんだよ…?あんた、絶対おかしいよ…!?」
「おかしい?あぁ、そうだな。これだけの闇の霊力をいとも簡単に発動できるとは、さすがはサタンの力!おかしくて笑い死にしそうだ!!ハハハ…!!」
叉丹の笑い声に合わせ、暴走する黒い雷がミロクの周囲に落ちる。
「〜〜あんたなんかといたら、こっちまでおかしくなっちまうよ!私は出ていくからね!?そこをどき――!?」
突然体が重くなり、倒れ込むミロク。
「〜〜な…、何だい…!?か、体…が…」
「『我に逆らおうとは、何と愚かな…。万死に値するぞ…!』」
「〜〜あ、あんた…、叉丹じゃないね…!?」
「『ククク…、いいや、我はサタン!天上界を追われ、堕天使となったルシファーだ…!!』」
さらに闇のオーラを発する叉丹。黒い巨大な雷がミロクに落ちる。
「ぎゃああああああっ!!」
「『ハハハ…!!そうだ、もっと絶望しろ!!そして、もっと恐怖し、我を闇の王として崇めるがよい!!』」
恐怖しながら雷に打たれ続け、息絶えるミロクを抱えて魔法陣に寝かせ、反魂の術をかける叉丹。自我を失い、ゆっくり起き上がるミロク。
「――紅のミロク、今よりお前を『蝶』と名付けよう」
「叉丹様の御心のままに…」
刹那、羅刹と共に叉丹にひざまずき、不気味に笑うミロク。
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