★10−4★
狂い、剣を振り回す叉丹。剣を弾き、戦うさくらとあやめ。押される叉丹。
「〜〜くそぉ――!」
崩れそうな瓦礫を見上げ、ほくそ笑む叉丹。
「くくく…!――これで終わりだぁっ…!!」
闇の霊力を解放する叉丹。地震が起きて瓦礫が落ち、出入り口が塞がれる。
「〜〜しまった…!」
「〜〜ど、どうしましょう…!?このままじゃ生き埋めですよぉ…!?」
さくらとあやめの体から出た黒いオーラを取り込む叉丹。
「ふははは!そうだ!もっと絶望しろ!!死ぬまで恐怖を味わうがいい…!!」
激しい衝撃波を撃つ叉丹。さくらを抱きしめ、身構えるあやめ。
「――させるかああ――っ!!」
落下してきて刀をクロスさせて衝撃波を防ぎ、砕いて着地する大神。
「大神さんっ!」
「遅れてすみません…!ご無事ですか!?」
「えぇ、なんとかね」
「えへへっ、嬉しい…!やっぱり来てくれたんですね…」
「もちろんさ。大事な君達を放っとけるわけないだろ?」
「大神君…」
凛々しく微笑む大神。赤くなり、嬉しがるさくらとあやめ。
「〜〜忌々しい小僧め!今日こそ貴様の屍を我がアジトに飾ってやろう!!」
「――できるものならやってみろ!!」
構える大神。立ち上がり、同じく構えるさくらとあやめ。
「私達も援護するわ!」
「葵叉丹、これ以上お前の好きにはさせないわ!!」
「俺達は負けない…!!――勝利をこの手に掴むまで!!」
大神、さくら、あやめの霊力のオーラが滲み出し、波長が同調する。
「〜〜な…、何…!?」
「これを最後の戦いにする!!――帝国華撃団、出撃!!」
「了解!」「了解!」
霊力を放出しながら、戦う三人。剣でかばい続け、後ずさる叉丹。
(こ、これは…!!〜〜まさか…、この若造も…!?)
「でやああああああっ!!」
刀を振り下ろす大神。受け止めた叉丹の剣にひびが入り、割れる。間合いを詰め、刀で叉丹の左胸を刺すあやめ。血を吐く叉丹。
「今よ…!!」
「――我、真宮寺の当主・真宮寺さくらの名において命ずる…。その封印されし破邪の力を解き放ち、我が糧となれ!――破邪剣征・百花繚乱!!」
荒鷹が光り、輝く桜吹雪の衝撃波を放つさくら。叉丹の体を貫通。目を見開き、うつ伏せに倒れる叉丹。気絶し、倒れるさくらに駆け寄る大神。
「〜〜さくら君…っ!」
「大丈夫。力を使いすぎただけよ」
地震によろめく大神とあやめ。崩れていく本拠地。さくらをおぶる大神。
「とりあえず外に出ましょう!」
「〜〜でも、出入り口を塞がれてしまったわ…!」
「えぇっ!?」
プロペラの音。耳を澄まし、振り返る大神とあやめ。砲撃で本拠地に穴が開く。飛行する翔鯨丸から手を振るマリア達。
「おーい!大丈夫かーっ!?」
「お兄ちゃあん、早く、早く〜っ!!」
「皆…!」
「翔鯨丸だわ…!」
さらに崩れていき、空間も歪み出す。さくらの手をしっかり握る大神。
「行きましょう!」
「えぇ!」
急いで飛び降りる大神とあやめ。脱出と同時に完全に崩れ落ち、叉丹の姿が見えなくなる。あやめだけ受け止めるカンナ。甲板に無様に落ちる大神。
「よーっし!脱出成功!!」
「ふふふっ、ありがとう」
「〜〜ひ…、ひどいよぉ…」
「あはは!せっかくの色男が台無しやなぁ」
大神の背中に乗り、呑気に眠るさくらを引き離すアイリス。
「〜〜んも〜っ!!お兄ちゃんから離れてよぉ〜っ!!」
「んふふふふ…、大神さぁん…」
起きず、さらに大神にくっつくさくら。さらに怒るアイリス。
「んまぁ、ふしだらな田舎娘ですことっ!〜〜ちょいとさくらさん、いつまで寝ぼけてらっしゃるおつもり!?」
騒ぐ甲板。操舵室から顔を出し、笑ってピースし合う風組。作戦指令室。さくら達を見つめ、満足そうに微笑む米田と加山。
「――終わったな…」
「えぇ。作戦成功ですね」
「しっかし、相変わらず月組の情報網はすげぇなぁ。アジトの空間の仕組みまで調べ上げるたぁ…」
「月組も花組と同じです。一人では不可能なことでも、協力し合えば可能になる…。士官学校時代、花組隊長殿から教わったことですよ」
「ははは…、そうか。んで、挨拶してかなくていいのか?」
「えぇ、――『忍者』ですからね」
起き上がって平和を確認し、喜んですみれに抱きつくさくら。照れて抵抗するすみれ。笑う大神とマリア達。見つめ、微笑むあやめ。
「よぉし、それじゃあ行くぞ、――勝利のポーズ…決めっ!」
決めポーズを取る大神、あやめ、花組。夜が明けて朝日が昇り、帝都を明るく照らす。歓喜する人々。
★ ★
平和になり、活気づく帝都。帝鉄に乗り、はしゃぐアイリスとカンナ。三越。服を試着し、店員に渡していくすみれ。積み上げた荷物を持つ岡村。
「服は全て川崎の方へ送っておいて頂戴。――あと、ここから向こうまでのショーケースの物、全て頂きますわ」
「いつもありがとうございます、すみれ様!」
一斉に頭を下げる店員達。ため息つく岡村。花やしき支部。機械を整備する整備士達。ねじを回し終え、喜ぶ紅蘭。
「できたで〜っ!これぞ世紀の大発明!その名も『かいりきくん』や!!」
歓声がわき、拍手する研究者達。動かしてみる紅蘭。
「まずはここでアームを上げてと…。…なして足が上がるんや?〜〜あ…」
爆発し、黒こげになる紅蘭と研究者達。
「ごほ…っ、げほ…っ、〜〜あぁ〜っ、またやってもうた〜っ!!」
花小路伯爵邸。刺客を撃つマリア。銃を落とし、逃げる刺客達。
「ますます腕を上げたようだな」
「帝劇がお世話になっている伯爵の警護も重要な任務ですから」
「ほぉ、ははは…、良い顔で笑うようになったな、君も」
微笑み、颯爽と銃をしまうマリア。
★ ★
大帝国劇場。ネタ帳を見ながら、煎餅を食べる由里。
「あ〜あ、ここんとこ平和すぎて、面白いネタないのよねぇ…。…暇だわ」
電話が鳴り、慌ててお茶を飲んで煎餅を流し込み、応対する由里。
「〜〜はいっ、大帝国劇場でございます。――あ〜、ダンディ団のボスさん!――次回公演のチケットですか?はい!――200枚ですね?いつもありがとうございます!」
事務室。蒸気テレビジョンで恋愛ドラマを見ながら泣く椿。仕事し、伝票の束を置くかすみ。
「椿、いい加減仕事に戻りなさい」
「え〜?今、すっごくいいとこなんですよぉ〜?」
テレビのスイッチを切るかすみ。ぶーたれる椿。
「ダーメ!支配人に言いつけるわよ?」
「ふーんだ!失恋の悲しみを仕事で埋めてる誰かさんとは違うんです〜」
「〜〜な…っ!?椿っ!?」
出入り口に避難し、顔を出す椿。
「あははは!や〜い、図星でしょ〜!」
「〜〜人が忘れようとしてるのに、もう〜っ!!」
椿に本を投げつけるかすみ。笑いながら、避難する椿。上野公園。楽しく喋る陸軍と海軍のイケメンを木の陰に隠れて双眼鏡で見ている琴音。
「はぁ…、見れば見る程いい男…!何とかお近づきになれないかしら…?」
琴音を両方から引っ張る菊之丞と斧彦。
「〜〜琴音さぁん、私達にも貸して下さぁい!」
「〜〜一人だけズルイわぁ〜ん!!」
「〜〜お黙りっ!!気づかれるでしょうが――!!」
気づかれ、イケメン二人と目が合い、投げキッスする薔薇組。青ざめ、素早く立ち去るイケメン達。追いかける薔薇組。
「あ〜ん、お待ちになって〜ん!!」
「私はまだきれいな体ですよ〜!!」
「逃がさないわよ〜っ!!」
★ ★
中庭。青空の下、ベンチに座るさくらとあやめ。紅葉が落ちてくる。
「きれ〜い!秋晴れってやつですね!」
「本当…。素敵な空だわ…」
あやめの横顔を見つめ、うつむいて立ち、頭を下げるさくら。
「〜〜ごめんなさいっ!私…、あやめさんにひどいこと言っちゃいました。…小さい頃、帝都に行った父があなた達に取られたみたいで、一時は恨んだこともありました。そして、その時の気持ちが大神さんのと同じで…。〜〜また…、私の大好きな人取られちゃうんだって思ったら、すっごく悲しくなって、怒りが芽生えてきて…、〜〜それで――!」
さくらを抱きしめるあやめ。
「――その頃、あなたはまだ7歳だったわね。桜の木の下で、小さい体で懸命に刀を振る姿…、今でもはっきり覚えてるわ」
回想。夢を語る幼いさくらの頭を優しくなでる若いあやめ。
「あの時のお姉ちゃん…、あやめさんですよね?私が父に内緒で帝都にくっついていって、それで降魔との戦いに巻き込まれた私をかばって…」
「ふふっ、思い出してくれたのね…。嬉しいわ」
ピンクのお守りを見せるあやめ。
「それ…!」
「私達・対降魔部隊の絆の証よ。ずっと一緒に戦おうって誓い合ったんだけどね…、……結局…叶わなかったな…」
うつむき、腰に付けた一馬の緑のお守りに触れるさくら。
「…私の方こそ謝らなくちゃ。あなたの大神君への気持ちを知ってて、私…。〜〜本当、最低な上官よね…」
「そんなことないです!だって、大神さんは最初からあやめさんのこと…」
「さくら…」
「…それより!次回公演の台本、まだですかね〜?今度は『歩行者天国』でしたっけ?」
「…『第七天国』」
「あ〜!それです、それ!早くお稽古やりたいですね〜!平和になってから初めての公演ですもの!絶対成功させなくちゃ!」
張り切って歩いていくさくら。木の下で止まり、笑顔で振り返る。
「――私は女優ですから、結婚はしません。だから、安心して下さいね!」
「さくら…」
二人を見つめ、微笑みながら酒を飲む米田。支配人室。
「…やれやれ、やーっとここも平和になったか」
ノックし、入室して一礼する大神。
「失礼します。大神一郎、入ります」
「あいっかわらず堅苦しいなぁ、おめぇは。ここは軍隊じゃねぇって何べん言やぁわかるんだ?」
「〜〜あ…、も、申し訳ありません…!」
頭を下げる大神。開いた窓から入ってきて、机に落ちる紅葉が目に入る。
「もう秋なんだなぁ…。華撃団設立から半年か…。ははは…、歳とったせいか、時間が過ぎるのが早くってしょうがねぇや」
「本当にあっという間でしたね…」
大神の胸元で光るペンダント。微笑み、酒を飲み干して注ぐ米田。
「――結婚はいつするんだ?」
「え…?〜〜そ、そんな…、自分はまだまだ若輩者ですし…!」
「確かに今のままじゃ逆にあやめ君に養ってもらうようだな。ハハハ!」
「〜〜う…、は、はい…」
「『治において乱を忘れず』…。平和になった今こそ余計に気を引き締めろ。油断して緩んでいる時ほど何かしら起こるってもんだ。わかったな?」
「はい!大神一郎、粉骨砕身の覚悟でこれからも精進致します!!」
「あー、ははは…!はいはい、そんだけ真面目なら大丈夫だな」
「〜〜あ…、す、すみません、また…」
「ハハハ…!ま、それがお前の持ち味なのかもしれねぇけどよ」
ドアの方に行けと目で合図する米田。不思議そうにドアを開け、驚く大神。立ち聞きしている花組、風組、あやめ。
「〜〜も…、申し訳ありません、隊長…」
「〜〜マリア…、君まで一緒になって…」
「いや、たまたま通ったらよ、隊長と支配人の話し声が聞こえたからさ」
「……皆で…かい?」
「〜〜そっ、そうなんですよぉ!私達、仲良いですから、ね〜!」
「アハハハハ!んで、揃って大神に何か伝えに来たんじゃねぇのか?」
「はいっ!それはですねぇ――」
「〜〜あ〜ん、アイリスが言うのー!!えっとねぇ、『第七天国』が終わったらねぇ、皆で特別公演することにしたんだよ!」
「特別公演?」
「花組さんと私達で話し合ったんです。せっかく平和になったんですし、その記念とお客様への日頃の感謝を込めてという意味で…」
「反対なさっても無駄ですわよ?もうすでに切符販売は我が神崎重工が仲介することに決めたのですから」
「すみれはんのお父はん、また新しい事業始めはったんやて。帝劇や活動写真の切符を仲介して売るらしいで」
「いわゆるダフ屋の会社版ってやつですよ」
「〜〜失礼なっ!!ダフ屋なんかじゃありませんわ!!私の会社をこけにしましたら、承知致しませんわよっ!?」
「へ〜え、もうすっかり父ちゃんと仲直りしたんだな〜!」
「〜〜ちっ、違いますわ!!私はただ跡取り娘として――!!」
「ははは、照れんなって!良い話じゃねーか」
「〜〜き〜っ!!カンナさんのくせに生意気ですわっ!!」
「よっ!これぞ帝劇の名物!」
喧嘩するすみれとカンナに笑う一同。大神と目が合い、微笑むあやめ。
「実はね、その特別公演…、私も出させてもらうことになったの」
「え?そうなんですか?」
「えぇ。先輩のさくら達に今、必死に芝居とダンスを教わってるところ。ふふっ、少し恥ずかしいけど、とっても楽しいわ。くせになっちゃいそう」
「そうですか。――客席から見守ってますから」
「ふふっ、大神君が応援してくれれば安心ね…!」
騒ぐ一同の後ろで手を繋ぎ、隠れて寄り添う大神とあやめ。
★ ★
特別公演、当日。チラシをばらまく記者達。
「本日、帝国歌劇団特別公演、開演だよ〜!一日だけの特別レビュウ!これを逃せば二度とお目にはかかれないぜ〜!?」
興味津々にチラシを見る人々。大帝国劇場。人で溢れ返る入口で案内しながら電話応対に追われる由里。年寄りに席を聞かれ、案内する大神。大繁盛の売店で椿を手伝うかすみ。事務室。慣れない事務に悪戦苦闘する米田、急いで入ってきた大神を呼びつけ、教わる。舞台。満員の客席を舞台袖から見るレビュウ服を着たさくら達。
「わ〜お、いつもの千秋楽よりすごいですね〜」
「お客さんがいっぱいで入りきらないってかすみお姉ちゃんが言ってた」
「今、急遽追加席設けてるらしいで?」
「ふふん、ま、どうせこの9割のお客様は、帝劇のトップスタァであるこの神崎すみれがお目当てでしょうけどねぇ、おっほほほほほ…!!」
「はん。残りの1割を他のあたい達で分け合ってるってーのか?」
「わぁ!さすがですねぇ、すみれさん!私も早くファンの方々が2割に増えるように頑張りますっ!!」
「おっほほほほ…!まぁ、あなたなら何十年かかっても無理でしょうが、せいぜい精進なさいましね」
「はいっ、頑張ります!」
「あはは…!さくらはんは相変わらずやなぁ」
舞台袖から客席を見て、大神を探すレビュウ服のあやめ。まだいない。
「――大丈夫ですよ。私達の隊長は、約束を必ず守る人ですから」
微笑むマリア。微笑み返すあやめ。ブザー。
「――ただいまより、帝国歌劇団・花組特別公演『これがレビュウ』をお送り致します」
幕が開き、『これがレビュウ』が流れ、歌って踊り出すさくら達。手拍子して盛り上がる客達。急いで走って、客席に入ってくる大神を見つけるあやめ。目が合い、微笑み合う大神とあやめ。拍手する大神。喜ぶあやめ。
「――おい、花組特別公演だってよ!」
「そりゃ見逃せねぇよな!」
「すみませーん、まだ切符余ってますかぁ?」
続々劇場内に入ってくる人々。イケメンを双眼鏡で探し、はしゃぐ薔薇組。隠れて様子を見に来て、盛況ぶりに微笑む加山。活気を取り戻し、平和な帝都を歩く人々。鼓動が速まり、地下で雄たけびをあげる降魔。不気味に微笑む叉丹。大帝国劇場。曲が終わり、さくら達に割れんばかりの拍手。感動し、拍手する大神、殺気がし、振り返る。誰もいず。
「…気のせいか」
地下で蠢く闇の中で静かに目を開き、闇の霊力を放出する叉丹。
「――遂に目覚めたか、異形なる者達よ!ククク…、アーッハッハッハ…!!」
帝都の地下に響き渡る叉丹の笑い声。復活し、雄たけびをあげる降魔達。
第10話、終わり
次回予告
明けましておめでとうございま〜す!
が、しか〜し!平和なお正月を迎えた帝都に、突如現れた異形の化け物!!
これは大スクープだわ!!
そ、そんな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょう!?
次回、サクラ大戦『神は舞い降りた』!太正桜に浪漫の嵐!
大神さん、負けちゃ駄目ですからね〜!!
第11話へ
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