★12−4★



「あっはははは!人間どもの恐怖する顔は、いつ見ても最高だねぇ」

『――降魔の調子はどうだ?』

「あんたの読み通りだよ。徐々に本領発揮ってところだね。まったく、人間の恨み・憎しみは恐ろしいねぇ」

『よし、そのまま奴らを待て。くれぐれもヘマはするなよ』

「はいはい、了解ですよ、叉丹さ・ま」

(これで自由の身だったら文句なしなんだけどねぇ…。まったく何様なんだい、あの男。そりゃあ生き返らせてもらって感謝はしてるけどさぁ…)


気配を察し、見上げて笑うミロク。

「――おや、来たようだね?」

翔鯨丸から降り立つ神武達。

「帝国華撃団、参上!」

「またあなたですの!?いい加減引退なさいなさいな、おば様」

「〜〜んなぁ…っ!?相変わらずムカつく小娘どもだねぇ…!」

「ミロクは後回しだ!先に降魔を片づけるぞ!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」


戦い始める大神達をモニターで見る米田達。操作する風組。

「やれやれ、どうにかうまくいきそうだな」

「えぇ、ですが、油断はできません。敵数は少ないですが、今は深夜です。住民の避難が遅れているので、被害の拡大が予想されます…」

「そうだな…。よし、あやめ君は解析と大神への指示を頼む」

「了解しました!」

「かえで君は姉さんの補佐をしてやんな」

「お断りします」

「…は?」

「私に全てお任せ下さい。実力を結果で示してみせますわ!」

「これはゲームじゃないのよ!?市民や花組の命に関わる重大なことなの!!」

「お人好しね。敵を撃退すれば勝ち。ある程度の犠牲はつきものよ」

「〜〜何を言うの!?私達の使命は、帝都や人々を守ることでしょう!?」

「るっさいわね。霊力の尽きた巫女なんかいるだけ無駄よ」

「ちょ…、〜〜かえでさん!?」

「風組!さぼってないで解析を進めなさい!!」

「〜〜今やってますよぉ!」

「何たらたらしてるの!?〜〜貸してみなさいっ!!」

「あっ、ちょ、ちょっと…!」


由里から奪い、コンピュータで解析するかえで。結果が出る。驚く風組。

「は、早い…!」

「大口叩くだけはありますねぇ…」

「大神君、降魔発生装置は池の中心よ!」

「了解!アイリス、浮遊して池の中心に行ってくれ!」

「りょーかい!えーっとぉ…、うん、ここだね!え〜いっ!!」


浮いて移動し、発生装置を飛ばして壊す。消える降魔達。

「〜〜おのれ…」

「わーお、最短記録ですねぇ!」

「どう?これが私の実力よ」


黙ってモニターを見つめるあやめ。

「ふん、悔しくて声も出ない?」

「――大神君、皆!そこから離れて!!」


驚くかえで。地震が起こる。

「…なーんてな」

「皆、岩場から離れろ!!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」


避難する花組。地面から特級降魔が出現。

「〜〜な、何ですの、あれ!?」

「わぁ、大きいですねぇ…。長老さんか何かでしょうか?」

「あはは、降魔村ってか?」

「おーっほほほ!まんまとかかりよったな?先ほどのは囮。壊すと特級降魔が発生する仕組みになってたのさ」

「〜〜そ、そんな…!」

「あ、あんなのに攻められたら、神武とはいえひとたまりもありませんよ!?」

「とりあえず解析だ!あの馬鹿でかい図体にも弱点はあるはずだからな」


解析する風組。エラーが出る。

「解析不能…!?質量、体積ともに異常数値!霊的物体と同じですぅ!」

「何だと!?」

「霊的物体ですって…!?そんなはずないわ!現に存在してるじゃない!!」

「で、ですが、この数値ではどうにも――」

「きゃーっ!!」


気付き、顔を上げるかえでと風組。モニターに攻撃を受ける花組。振り回す尾にあたって飛ばされるアイリスと紅蘭。

「きゃああーっ!!」「うわああーっ!!」

「アイリス!紅蘭!〜〜くそおっ!!」


特級降魔に斬りかかる大神。鈍い音。

「〜〜くっ、何て硬さだ…」

「助太刀します!はあああっ!!」


斬る大神とさくら。雄たけびで炎を吐く特級降魔。避ける大神とさくら。

「〜〜駄目です…、傷一つ付けられません…!」

「伏せて!」


パールクヴィチノィを放つマリア。足に纏わりつく精霊を踏みつぶす降魔。

「〜〜そんな…!」

「皆さん、だらしがないですわよ!」

「あたい達に任せときな!」

「神崎風塵流・桐島流合体奥儀、四方鳳凰陣!!」「神崎風塵流・桐島流合体奥儀、四方鳳凰陣!!」


合体攻撃が当たり、煙が降魔を包む。

「やったか…!?」

紅蘭の機内の装置が異常反応。

「〜〜あかん!皆、伏せるんや!!」

翼で煙を晴らし、炎を吐く降魔。炎に飲み込まれる花組。

「うわああっ!!」

「きゃああーっ!!」

「おーっほほほほ!いよいよ今日が帝国華撃団ラストショウかねぇ」

「〜〜あ〜ん、もう超最悪ぅ〜!!」

「く…っ、〜〜ちょっと、まだ解析終わらないの!?」

「依然として異常数値…。〜〜駄目です、エラーです!」

「何やってるのよ!?〜〜貸しなさい、私がやれば…!」


何回やってもエラー。

「〜〜く…っ、どうして…!?」

「だ、代理、あまり無理すると機械が…」

「〜〜うるさいわねっ!!私に任せとけば大丈夫なのよ!!」


エラーの点滅が速まり、煙を吹いて軽い爆発。

「〜〜きゃ…っ!!」

「あーっ!ちょっと何やってるんですか!?」

「司令ぃ、機械が壊れちゃいましたぁ…」

「な、何ぃ!?」

「〜〜駄目です、復旧しません…!」


モニターに砂嵐が入った画面で大神から連絡。

「司令――、通信――が――!何――かあ――ったんで――すか?」

「あ〜ん、通信も障害起きてますぅ」

「〜〜とにかく頭を集中攻撃しなさい!降魔はそこが弱点なんでしょ!?」

「さ――っきか――らやってる――んで――すが…うわあっ!!」

「皆防――御に精い――っぱいで近づ――けませ――ん…!ぐ…っ!!」

「〜〜マリアさんっ!!」

「あんなに大見栄切ったんですから、何とかして下さいよ、代理!」

「わ、わかってるわよ…!ともかく安全な場所で体勢を立て直しなさい!」

「む、無――理です――、囲ま――れちゃ――いまし――たぁ」


モニターに映る降魔の大群に囲まれる花組。攻撃で揺れる轟雷号。

「〜〜た、大変です!こっちにまで降魔が…きゃああっ!!」

倒れる風組、あやめ、かえで。窓の外で威嚇する降魔。怯える風組。

「きゃああーっ!!」「きゃああーっ!!」「きゃああーっ!!」

「〜〜かえで君、花組の援護に向かえ!」

「〜〜あ…あぁ…」


怯え、腰が抜けて、動けないかえで。

「何をしている!?早く行け!!」

「〜〜あ…、わ…、私…」


よろけながら、操縦席に座って機械を操作するあやめ。驚くかえで。

「大丈夫…、遠隔部が少しショートしただけよ。情報の部分部分を合わせれば…」

モニターに合体した情報が点滅し、降魔の弱点を察知。

「かすみ、椿と一緒に情報の詳細を調べて!由里は機械のショートを最小限に食い止めるのよ!」

「りょ、了解…!」「りょ、了解…!」「りょ、了解…!」


攻撃で揺れる機内。よろける風組。

「諦めちゃダメ!今は勝つことだけを考えるのよ!」

「は、はい…!二人とも、やるわよ!」

「了解!」「了解!」


席に戻って操作する風組。驚くかえで。感心する米田。

「聞こえる?特級降魔の弱点がわかったわ。転送するから、参考にして」

各機に転送する風組。各機のモニターに映される情報。

「腹の傷か…!下から回り込めば何とかなりそうだな。あやめさん、ありがとうございます!」

「頼んだわよ、隊長さん!」

「さっすが副司令!頼りになりますぅ」


喜ぶ風組。悔しがるかえで。ホッとするあやめを見る叉丹。

「ふっ、あれほど霊力を奪われたというのに、まだ動けたとはな」

かえでを見つけ、刹那の影を乗り移らせる叉丹。拳を握るかえで。

「〜〜司令、もう大丈夫です!私も出撃します!」

「いや、その必要はねぇよ」

「しかし、あれほど巨大な降魔、そう簡単には…!」

「あの子達は大丈夫よ。部下を信頼してやるのも上官の務めでしょ?」


悔しがるかえで。

「マリア、雑魚の注意を惹きつけてくれ!」

「了解!」


発砲するマリア。雄たけびをあげ、マリアに突進する降魔達。

「甘いわね。――パールクヴィチノィ!!」

凍る降魔達を空手で破壊するカンナ。

「カンナ、そのまま奴の尻尾を押さえてくれ!」

「了解!空手一筋のカンナちゃんをなめんなよぉっ!!


突進するカンナに炎を吐く特級降魔。

「炎なら負けませんことよ!神崎風塵流・鳳凰の舞!!」

すみれに気づき、尻尾を振り回そうとする特級降魔。

「させるかあっ!!」

尻尾をねじ伏せるカンナ。

「さくら君、俺と一緒に下から回り込め!」

「了解です!」


回り込もうとするが、炎で邪魔される。

「〜〜くっ、紅蘭、援護してくれ!」

「よっしゃ、任せとき!連弾発射!!」


連弾が当たって叫ぶ降魔。

「おわっと!?〜〜おいおい、あたいもいるんだぞ!?」

「アハハ、すまん、すまん!」


突進してくる雑魚の降魔達。

「お、邪魔はさせへんで!?な、アイリス!」

「うん!アイリス、強いんだぞ〜!?え〜いっ!!」

紅蘭とアイリスの合体攻撃。消えていく降魔達。特級降魔に連射する紅蘭。

「よっしゃあ!いっちょやったれ、大神はん!!」

「うおおおおおっ!!」


回り込み、特級降魔の腹を切る大神。悶える特級降魔。

「さくら、お願いね!イリス・ジャルダーン!!」

回復するさくら機。

「よーし、パワー全開ですっ!」

「さくら君、一気にたたみかけるぞ!」

「はいっ!破邪剣征・百花繚乱!!」

「狼虎滅却・一刀両断!!」


特級降魔の腹を貫く白とピンクの攻撃。消え去る特級降魔。

「ちっ、もうちょっとだったのにねぇ…。…でも、これでいいんだろ?」

『あぁ。目的は果たせたからな』


かえでを見下ろす叉丹。

『ここは一旦退け。長居は無用だ』

「はいはい、わかったよ」

「――今日こそ決着をつけてあげましてよ、おば様!」

「フン、あたしゃ、小娘どもの相手をしてられるほど暇じゃないんだよ。次会った時にたっぷり仕返ししてやるから、楽しみにしてるんだねぇ!」


高笑いしながら、消えるミロク。

「……何かずいぶんあっさりしてたな…」

「きっと私達に恐れをなしたんですよ!」

「歳のせいで足腰ガタガタになったのではありません?」

「アハハ、きっと四十肩やな!」

「逃げた奴なんかどうでもいいじゃん!それより早くあれ、やろーよ!」

「そうだな。よし、隊長、頼んだぜ!」

「よし、じゃあ行くぞ!勝利のポーズ…決めっ!」


ポーズを決める花組。ハイタッチして喜ぶ風組。

「やったぁ、勝ったーっ!」

「これも副司令の迅速な判断と行動のおかげですね」

「本当!どっかの自信家さんとは大違い〜」


ムッとなるかえで。

「由里!」

「ふんっ!」

「よくやった、あやめ君。今回ばかりはあの世逝きかと覚悟したがなぁ」

「いいえ、これもチームプレーの賜物ですわ」


黙って立ち去るかえで。

「あ、かえで…!」

「けっ、感じ悪ぅ」

「ざまーみろよね」

「二人とも、言いすぎよ?」


あっかんべーする由里と椿。ため息つき、ふらつくあやめ。支えるかすみ。

「副司令…!?」

戻ってきて駆け寄る大神と花組。あやめを抱きとめる大神。

「〜〜あやめさんっ!!」

「大丈夫よ…。少し疲れちゃったみたいね…」

「無理しすぎですよぉ。今日はゆっくり休んで下さいね?」


青白い顔のあやめを心配に見つめる大神。

★               ★


かえでの部屋。軍服をベッドに叩きつける下着姿のかえで。

(〜〜悔しい…!悔しい、悔しい、悔しいっ!!皆して姉さん姉さんって…!!〜〜私だって落ち着いてれば、あれぐらいの指示…)

『――さっすが副司令!頼りになりますぅ』


回想するかえで。士官学校の同級生から祝福される若かりし頃のあやめ。

『すげぇなぁ、女なのに首席で卒業かよ!』

『対降魔部隊の隊員にも選ばれたんだってよ。さすがだよなぁ!』

『かえでさん、いいわねぇ、あんなに優秀なお姉さんがいて』


拳を握るかえで。

(〜〜私だって努力してるのに…。どうして…?どうして私は…)

『――そんなに姉さんが邪魔?』


びくっとなり、振り返るかえで。鏡に幼いかえでに化けた刹那の姿。

「〜〜あ…、な…っ、これは…!?」

『これは君の心だよ。どこまでも続く真っ暗な闇。黒に染まった汚い世界』

「〜〜ば、馬鹿言わないで!私は――」

『ねぇ、本当は昔から望んでたんでしょう?あやめ姉さんの『死』』


目が黒くなり、朦朧とするかえで。

『だったら殺しちゃえばいいじゃん。目の上のたんこぶなんでしょ?』

「私…は…」

『あやめ姉さんさえいなくなれば、君は誰とも比べられない。慌てて出世する必要もないし…、いいや、姉さんの地位だってすぐ手に入る』


鏡から出てきて、かえでに纏わりつく刹那。

「私……は……」

『欲しいんでしょう?姉さんの地位、姉さんの立場、姉さんの信頼』


体が黒く光り、怖い顔になるかえで。

「――そう…、姉さんさえいなくなれば…、邪魔者はいなくなる」

『だったら殺しちゃいなよ!邪魔な姉さんをさぁ!!』

「そう、殺しちゃえばいいのよ!あんな姉さん…!!」


★               ★


大神の部屋。ベッドに横になるあやめの手を握る大神。

「気分はいかがですか?」

「だいぶ楽になったわ。ありがとう」

「そうですか。よかった…」


時計が鳴る。

「……見回りの時間か…」

「行ってきて。私は大丈夫だから」

「でも、もしまた具合悪くなったら…」

「大丈夫。そしたらキネマトロンですぐ呼ぶから」

「本当に大丈夫ですか?」

「ふふっ、心配症ねぇ。早く労いの言葉をかけてきてあげて。皆、今日は本当によく頑張ってくれたんだから、ね?」

「…はい。何かあったら、すぐ呼んで下さいね」

「えぇ、ほら、しっかりしなさい、大神君!」


大神の額を小突くあやめ。照れる大神。

「はい!――藤枝少佐、見回りに行って参ります!」

「健闘を祈る、大神少尉!ふふふ…」


敬礼し合うが、吹き出して笑う大神とあやめ。

「じゃ、いってきます」

「いってらしゃい」


ドアを閉める大神。ベッドの上で降魔戦記の資料の絵を見るあやめ。

(どうしてかしら…?この絵を見てると、何だか胸が痛くなる…)

ドアが開く音。顔を上げるあやめ。

「あら、どうしたの、かえで?そんな格好で…、風邪引くわよ?」

近づき、冷たい瞳であやめを見下ろすかえで。後ろ手にナイフ。

「かえで…?」

ナイフを一気に振り下ろすかえで。よけるあやめ。

「きゃあっ!?〜〜な、何するの…!?」

「姉さん…、殺す…」


ナイフで切りかかるかえでをよけるあやめ。キネマトロンを取ろうとするが、邪魔されてベッドに押さえ込まれ、首を絞められる。

「〜〜や、やめ…て…!あぁっ!?」

「姉さん…、殺す…」


あやめの襟をはだけさせ、ナイフを振り上げるかえで。目を見開くあやめ。

「〜〜きゃああああ――っ!!」

第12話、終わり

次回予告

優しい姉さん…。強く、気高い姉さん…。
私はずっとあやめ姉さんの背中を追い続けてきた…。
どんなに頑張っても追いつけないあの背中を…。
次回、サクラ大戦『信じられること』!太正桜に浪漫の嵐!
姉さん、私、本当は…。


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