★12−3★



「これは…?」

「戦国時代に作られた『降魔戦記』ですね?ですが、先の降魔戦争で焼失したはずでは…?」

「いや、あれはレプリカだ。お偉い方からそう伝えるように言われてたんでな。んで大神、少しテストしてやる。知っていることを言ってみな」

「はい。『降魔戦記』は日本で最初に起こった降魔戦争の内容を記した巻物です。隼人新助、藤堂神貴、真宮寺鷹見の後の裏御三家三人衆が魔神器で、西洋より渡来した帝王サタンを消滅させた模様が描かれていると…」

「さすがは士官学校首席だな。その通りだ」

「いえ…、でも、これがどうかしたんですか?」

「考えてもみろ。おめぇ達の戦っている相手は誰だ?」

「葵叉丹…。もしかして彼が…!?」

「月組から情報が入った。山崎が何故葵叉丹と名乗っているか…な」

「教えて下さい!それは一体…!?」

「山崎は封印を解いたんだよ、サタンの眠る碑石を壊してな。裏御三家は完全にサタンを消滅できたわけじゃなかったんだ」

「そんな、裏御三家の力をもってしてでも…。しかし、山崎少佐は何故…?」

「わからん。だが、奴がサタンの封印を解放し、天海を甦らせたのは事実だ。天海も幕府に仕えてる頃から、サタンの書物を読みあさってたらしい」

「そして、サタンの碑石を中心に寛永寺を建立した…。だから山崎少佐に手を貸したのですね?」

「あぁ。そして山崎は葵叉丹と名を変え、天海に仕えるふりをして待ち構えていたのさ、裏御三家の末裔が目の前に現れるのをな」

「さくら君は真宮寺鷹見の子孫なんですよね?」

「そうだ。隼人と藤堂…。サタン封印時に命を落とし、真宮寺以外裏御三家の血は途絶えたものとされてきた。だが、月組はやってくれたよ。二人の末裔も残ってると突き止めやがった!」

「それで、彼らは今、どこに…!?」

「残念ながら、まだ調査中だ。だが、これで光は見えてきた。残りの末裔を見つけ、裏御三家でもう一度サタンを滅ぼせば、帝都は防衛できる!」

「では、早速さくら君達に――!」

「ちょいと待った。花組にはまだ言うんじゃねーぞ」

「何故です…!?」

「これは機密事項だ。下手に漏れたら、奴らもまた策を練ってくる…。ふりだしに逆戻りだ。…特にあのおしゃべりに知られたらな」


くしゃみする由里。

「…一理ありますね」

「では、私と大神少尉で隼人と藤堂の末裔を探し出します。降魔戦記をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ。さすがはあやめ君だな、話がわかる。…はぁ、なーんで妹は同じ血を受け継がなかったかねぇ…」

「〜〜かえでがまたご迷惑を…?」

「なーに、こっちの話だ。んじゃ、頼んだぞ、お二人さん」

「了解しました!」

「了解しました!」


敬礼する大神とあやめ。廊下で盗み聞きし、わなわなするかえで。

★               ★


「〜〜ふざけんじゃないわよっ!!」

あやめの部屋。花瓶を床に叩きつけるかえで。

『――提案者があやめ君だったら、話は早かったんだがな…』

『――副司令といっても代理、あやめさんの代わりでしょう!?』

『――なーんで妹は同じ血を受け継がなかったかねぇ…』

「〜〜何よ…。皆で姉さん姉さんって…」

「かえでさん、いらっしゃいますか?」


ノックし、入ってくる大神とさくら。睨むかえで。

「あ、やっぱりここでしたね!」

「……何勝手に入ってきてるのよ…?」

「〜〜あ…、す、すみません…。夕飯一緒にいかがかと思いまして…」

「パス。後で頂くわ」

「でも、皆で食べた方がおいしいですよ?」

「…いらないって言ってるでしょ?」


睨むかえで。びびる大神。

「さっさと出てって!仕事の邪魔よ!?」

「〜〜は、はい、失礼しま――」

「でも、サバの味噌煮ですよ?本当なら、御馳走だったんですけど…」

「〜〜さくら君、いいから!」

「じゃあ、気が変わったら、いらして下さいね!」


睨むかえで。ドアを慌てて閉める大神。

「はぁ…。そう簡単に馴染んではくれないか…」

「大丈夫ですよ、初日で緊張してるだけですって」

「〜〜でもなぁ…。今のままじゃ帝劇の和が…」

「――どうだった?」


むっとなるかえで。

「あやめさん…!」

「その様子だと、うまくいかなかったみたいね…」

「はぁ…。すみません…」

「かえでさんが召しあがるまで、私もサバの味噌煮は食べません!」

「ふふっ、ありがとう、さくら。でも、遠慮しないで食べてて。あの子、何か嫌なことがあったみたいだし…」

「わかるんですか?」

「何年姉をやってきたと思ってるの?少し見ればすぐわかるわ。落ち着くまでそっとしておいた方がいいと思うの。今はどんなに優しい言葉も、あの子にとっては毒だから…」

「そうですか…」

「ごめんなさいね、嫌な思いをさせちゃって…。後で皆にも私から謝っておくわ」

「こちらこそすみません。気を遣わせてしまって…」

「ふふ、一応あの子の保護者だしね。さ、行きましょうか。せっかくのお夕飯が冷めちゃうわ」

「はーい…」


ベッドで体育座りのかえで。並んで大神と歩いていくあやめ、振り返る。

「――今日のデザート、苺のショートケーキなのになぁ…」

反応するかえで。また歩き出すあやめ。顔を伏せてわなわなするかえで。

「〜〜く…っ、また私を馬鹿にして…!」

★               ★


地下城。曼荼羅を描き、神威を直す叉丹。前回の戦闘を回想し、笑う。

「さすがはあやめだな、私の神威をここまで傷つけるとは…」

(――魔を寄せつけぬ巫女…か。何としても手に入れたい…!)

「――刹那」

「呼んだぁ?」

「待たせたな、思う存分暴れるがよい…!」


★               ★


食堂。テーブルを囲んで食べる大神、あやめ、花組。

「だから申し上げましたでしょう!?パーティーなんてやらなくて正解でしたわ!あんな方に料理を作るなら、豚にやる方がまだましです!」

「本当にごめんなさい…」

「頭を上げて下さい…!あなたが謝る必要はありません」

「そうだよ!アイリス、あのお姉ちゃんは大っ嫌いだけど、あやめお姉ちゃんは大大だ〜い好きだも〜ん!」

「アイリス、そんなこと言っちゃだめだろう?」

「そうよ。かえでさんが聞いたら、もっと暴れちゃうわ」

「〜〜さくらはん、フォローになってへんて」

「むしゃくしゃする時は食って忘れるのが一番だ!腹一杯食おうぜ!」

「おーっ!」

「おーっ!」

「はん、これだから野性児は…」


箸をつけないあやめを心配する大神。

「気分でも悪いんですか?」

気づき、慌てるマリア。

「さっき、ファンの方からカステラを頂いてね、あんまりお腹すいてないの」

「そうなんですか…?」

「でも、この間からあんまり食べてへんみたいやで…?」

「何ぃ!?そりゃ駄目だぜ、あやめさん!ほれ、すみれの分も食いな!」


すみれの皿を取り上げ、あやめの皿に移すカンナ。

「〜〜ちょ、何をなさいますの!?ご自分のを分ければよろしいでしょう!?」

「ん?ちょびっとしか食ってねぇから、いらねぇんかと思ったぜ」

「〜〜これは前菜ですわっ!!」

「コラ!あなた達、食事中よ!?」


喧嘩するカンナとすみれ。食べ物を見て吐き気がし、口を押さえるあやめ。

「あやめさん、大丈夫ですか…!?」

「え、えぇ…、心配しないで。……本当に食べ過ぎただけなのよ…」

「し、しかし…」

「――あ、わかった!」


あやめの耳元で囁くさくら。

「バレンタインのチョコ、味見しすぎたんでしょ?」

「え…?」

「さっすが準備が早いですねぇ!私も頑張らなくちゃ!」

「え、えぇ…、……そうなのよ…」


あやめを心配に見る大神。

「――なぁ、あれ見てみぃ…!」

ショートケーキを持ち、ギクッとするかえで。目が合い、さくら達を睨む。

「〜〜な、何よ?」

「ケーキ、お好きなんですか?おいしいですよねぇ、西洋のお菓子も」

「かえではケーキより上に乗ってる苺が好きなのよね」

「へぇ〜…」「へぇ〜…」

「〜〜な、何よ!?人を馬鹿にした目で見るんじゃないわよ、感じ悪いわね」

「かえで!何なの、その態度は?皆にちゃんと謝りなさい!」


無視し、離れた場所に座るかえで。アッカンベーするアイリス。

「かえで!?」

「…もうよしましょう。時間の無駄です」

「はぁ…。きっつい姉さんやなぁ…」

「あんな方、無視ですわ、無視」

「だめですよ、そんなの!――かえでさ〜ん!」

「あ、おい、さくら君…!」


トレーを持って、かえでの前に座るさくら。

「よかった、来てくれたんですね!皆さんもこっち来て食べましょうよ!」

無視するマリア達。困る大神とあやめ。

「ありゃ?聞こえなかったのかな?おーい――」

さくらにコップの水をかけるかえで。ざわつくマリア達。

「食事の邪魔よ、消えて!」

「〜〜てめぇ、何しやがるんだ!?」

「〜〜ま、待て、カンナ!」


掴みかかるカンナを止める大神。

「〜〜止めるな、隊長!あたい、もう堪忍袋の緒が切れたぜっ!!」

振りほどき、かえでに殴りかかるカンナ。よけ、不敵に笑うかえで。

「そんな大ぶりな拳じゃ隙だらけよ」

「〜〜この野郎…っ!!」


かえでを攻撃し続けるカンナ。

「カンナ!!――あ…、さくら君、大丈夫かい!?」

「は、はい…。ちょっとびっくりしましたけど…」


後ろによけるかえでの背後で銃を構えるマリア。

「…言い訳するなら今のうちですよ?」

「〜〜マリアもやめるんだ!」

「あら、面白い。私と決闘するつもり?」

「マリアさん、助太刀致しますわ…!」

「あたいも加勢させてもらうぜ!」

「アイリス、もう怒った〜っ!!」

「あんまりなことすると、ほんまに解剖するで!?」

「〜〜皆、落ち着け!ここは冷静に話し合いを――」

「いいじゃない、面白くて。二度と生意気な口がきけないようにしてやるわ。なんてったって私は柔道黒帯、合気道主将クラス、銃の腕前も――」


花瓶でかえでを殴るあやめ。驚く大神達。

「――姉さんを…本気で怒らせたわね…?」

「〜〜あやめはん、目が据わっとるで…?」

「言うこときかない子は…、こうですっ!!」


引っ張り、かえでを膝に乗せてお尻ペンペンするあやめ。

「きゃああ〜っ!!〜〜な、何するのよ、姉さんっ!?」

「人様に迷惑ばかりかけて…!部下を労ってやるのが上官でしょうがっ!!」

「痛っ!きゃああんっ!〜〜や、やめ…いやあああんっ!!」

「ほら、ごめんなさいは!?」

「ああ〜ん、ごめんなさぁ〜い!!〜〜も、もう許してぇ〜!!」

「〜〜な、何か…」

「〜〜すごいもん見ちまったな…」

「う〜む、強烈やわぁ、藤枝姉妹て」

「〜〜ある意味、叉丹よりな…」

「今度やったら、お尻500叩きの刑よ?」

「〜〜ひくっ…、ごめんなさい、お姉ちゃあん…」


泣きじゃくるかえで。青ざめる花組。さくらの水をハンカチで拭くあやめ。

「ごめんなさいね。もう大丈夫よ」

「あ…、は、はい!」

「――大神君」

「〜〜は、はい!?」

「そろそろ戻りましょうか?色々やることもあるし…ね?」

「あ、そ、そうですね…」

「どうかした?」

「〜〜い、いえ!行きましょう!」

「そうね。悪いけど、誰かここ掃除しておいてくれる?」

「〜〜りょ、了解!」「〜〜りょ、了解!」「〜〜りょ、了解!」「〜〜りょ、了解!」「〜〜りょ、了解!」


慌てて敬礼する花組。泣くかえで。盗み見する三人娘。ギターを弾く加山。

「〜〜あ、あのかえでさんをひとひねりで…!」

「それ以降、副司令に逆らう者はいなかった…ってか?」

「言、言いたい…。帝都中の副司令ファンに言いふらしたい…!」

「姉妹はいいなぁ〜」


★               ★


尻をさすり、風呂セットを持って廊下を歩くかえで。

「〜〜あんのバカ姉貴…!思い切り人の尻叩いてくれちゃって…」

すれ違い、かえでを見て笑う風呂帰りの三人娘。むかっとなるかえで。

(〜〜人のプライド、ずたずたにして!絶対に副司令の座、奪ってやるっ!!)

地下倉庫から子供のすすり泣く声。

「…誰かいるの?」

女の子がうずくまって泣いている。

「だめじゃない、勝手に入ってきちゃ…!親はどうしたの!?」

「ひっく…、お母さん、いないの…」

「こんな時間に迷子…!?しょうがないわねぇ…。あなた、お名前――」


目を見開くかえで。幼少時代のかえでにそっくり。

「お母さん、死んじゃったの…。お姉ちゃんも…どこか行っちゃった…」

「〜〜あ…あ…」

「お姉ちゃん、一緒に探してよ。私、一人は嫌…」


女の子の顔が刹那に変わっていく。

「きゃああああああっ!!」

倉庫を飛び出して逃げ、思い出すかえで。殺されて襖に映る母の影。父に可愛がられるあやめ。出世するあやめを祝う人々。羨んで見るかえで。

『待ってよ、どうして逃げるの?』

「〜〜来ないで!来ないでよぉっ!!」


整備服の紅蘭とぶつかり、倒れるかえで。

「ど、どないしはったんです?」

「ば…、化け物…、〜〜倉庫に化け物が…!」

「はいぃ?」


倉庫を覗く紅蘭。なにもいない。

「…何もおらしまへんけど?」

「そんなはずないわ、確かに…!……あ、あら…?」

「ま、今日は風呂でゆっくり疲れとって、体と根性を洗い直して下さい」


風呂セットを拾ってやる紅蘭。むっとなるかえで。

「気にせんといて下さい。関西流ジョークですー」

笑いながら去る紅蘭。倉庫を見つめるかえで。

(〜〜確かに…見たのに…)

★               ★


資料室。巻物を調査するあやめを見つめる大神。

「――どうかした?」

「いえ、さすがはあやめさんだなぁと。手際が良くて、見とれちゃって…」

「ふふ、参考になった?」

「はい、とても!喉渇きませんか?お茶用意しますね」

「ありがとう。ふふ、大神君は本当に良い子ね」

「そんなことありませんよ。…あやめさんの前だけでなんです、軍人ではない素の自分が出せるのは」

「あら、ふふっ、私もね、あなたの前だと本当の自分が曝け出せるの。……私じゃない私が消えていくようで…」

「え…?」

「…少し肩揉んでくれる?」

「あ、もちろんです!」


あやめの肩を揉む大神。

「楽しそうですね、あやめさん」

「だって、大神君と二人っきりなんですもの」

「え…?あ…、はは、そうですね」

「米田司令なりに気を使ってくれたのかしらね」

「そうかもしれませんね。でも、無理はしないで下さいね、まだ体が本調子じゃないんですから」

「ありがとう。でも、今の私にはこれぐらいしかしてやれないから…」

「あやめさん…」

「あの子達は本当に立派に成長してくれたわ。これも大神君のおかげね。…そのうち私なんか必要なくなっちゃうわね」

「そんなことありません!〜〜あなたがいなくなったら、俺は…!」

「ありがとう。さ、早く調べちゃいましょうか。どちらが早くヒントを見つけられるか競争よ!」

「望むところです!もし、俺が勝ったらデートしてくれますか?」

「いいわよ。じゃあ、私が勝ったら――」


警報音。

「銀座に降魔が出現!至急、作戦司令室に集合して下さい!」

「大神君!」

「えぇ、行きましょう!」


ダストシュートに飛び込み、戦闘服と軍服になる大神とあやめ。花組も。着地し、横一列に並んで敬礼。

「花組一同と藤枝少佐、到着しました!」

「ご苦労さん」

「モニターを見る限りでは、銀座の外れですね。被害状況はどうですか?」

「うむ。厄介なことに降魔がわんさかだ。周辺の民家を破壊しとるよ。まぁ、幸い近距離だし、急げば被害は最小限に食いとどめられるだろう」


遅れて着地する軍服のかえで。

「すみません、遅れました…」

「やっと来たか…。まぁ、初めてだからな。次回からは早めに頼むぞ」

「ふん、そんなんでよく上官ぶっていられますわね」

「す、すみれさん…!」

「別にあなたなしでも十分出撃できましたが」

「〜〜あわわ、マリアさんまで…!」

「遅刻は命取りよ。私達が遅れれば、被害は広がるだけなのよ?」

「…るっさいわね、いちいち」

「あーっ、また反抗したー!お尻ペンペンだよー!?」

「てめぇ、まだ懲りてねぇようだな!?」

「やめろ、皆!今はそんなことしてる場合じゃないだろう!?」

「…ちぇっ」「ちぇーっ」

「ま、もっともな意見だな。――大神、出撃命令を!」

「はい!帝国華撃団、出撃せよ!降魔の大群を蹴散らすんだ!!」

「了解!」「…りょーかぁい」「…了解」「…りょーかぁい」「…りょーかぁい」「…りょーかぁい」

「〜〜大丈夫かぁ、こんなんで…?」


こけそうになる米田。つんとするかえで。ため息をつくあやめ。


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