★17−4★



夜。雨が降る京都に荷物を持って降り立つ大神、かえで、双葉。西國神社への階段を上っていく。

「うちの一族がここを治めてたなんて、未だに信じられないよ。父様は知ってたのかねぇ…?」

緊張した面持ちで階段を上がる大神。鳥居を潜ると、巫女達が出迎える。

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ…」

並んで頭を下げる巫女達の間を通っていく大神達。神主が現れ、微笑む。

「――ようこそおいでなすった」

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祈りの間。正座して話す大神、かえで、双葉、神主。

「荒鷹の儀式の時は、さくらが世話になったね」

「え…?」

「ははは…、わからなくて当然か。あの時はゆっくり挨拶もできなかったからね。――私は真宮寺哲馬。真宮寺さくらの叔父にあたる者だ」

「えぇっ!?さ、さくら君の…!?」

「どうして隼人の神社に真宮寺の人間がいるのですか?」

「大した理由ではないよ。1000年前、隼人を名乗る最後の一人がサタン封印に出向く際、跡取りがいなかったこの神社を真宮寺一族に託したんだ」

「最後って…、その方は死んでしまったのですか?」

「伝承では同じく跡取りのいなかった藤堂共々…ね。だが、現に君達はこうしてここにいるだろう?話なんて口伝えされる際に幾通りにも変わっていくものだ。言い伝えられていないだけで、隼人にも藤堂にもその血を受け継ぐ後継者がいたんだろう」

「はは、何だかアバウトだな」

「昔話なんて全てが真実じゃないさ。――真刀を見せてもらえるか?」

「あ、はい…」


折れた真刀滅却を哲馬に見せる大神。

「ふむ…、また派手にやられたもんだな…」

「……申し訳ありません…」

「なぁに、一晩かけて鍛え直すから、明日の儀式までには十分間に合うさ」

「儀式では何をするのですか?」

「大神君、君にはある者と一対一で対決をしてもらう。勝てば晴れて真刀の後継者、負ければ…」

「死ぬ…ということですか?」

「……運が悪ければな。…それでも受けるかい?」

「もちろんです…!それが今の俺の使命ですから…。それにしても、ある者とはどなたのことなんですか?」

「真刀の前継承者…とだけ言っておこうか。儀式を受けてからのお楽しみだ。――部屋まで案内させよう。今夜はゆっくり休むといい」


巫女達を呼ぶ哲馬。大神達を連れていく巫女達。緊張する大神を見る双葉。

「…緊張してるのかい?ま、死ぬと言われて平気な奴なんていないだろうけどね」

「死ぬのが怖いんじゃない…。失敗して俺がいなくなったら、誰があやめさんを助けるんだ…?〜〜誰が花組を率いて叉丹と戦う…?」

「安心しなよ。万が一あんたが死んでも、この姉が代わりに――」

「〜〜姉さんじゃ駄目なんだ…!これは俺の男のプライドをかけた戦いだ…!絶対に葵叉丹からあやめさんを取り戻したいんだ…!」

「大神君…」

「惚れた女をもう一度惚れ直させるってか。あんたももう立派な男だねぇ」


大神を見て、微笑むかえで。首から下げたあやめのペンダントを握る大神。神社を遠くから見つめ、微笑む殺女。

「見〜つけた…!」

★            ★


深夜。真刀滅却を鍛冶で打ち直す巫女と神官達。部屋で寝がえりを打つ大神。起き上がり、窓を開ける。雨が降り続く外。

「まだ降ってるのか…」

正座し、瞑想する大神。

『――あなたの知るあやめは死んだの。この赤い月と共にね』

殺女を思い出し、心が乱れる大神。

「……あやめさんがいないだけで、こんなにも弱気になってしまうなんて…。〜〜まだまだだな、俺も…」

再び瞑想を始める大神を廊下から見つめ、部屋に入るかえで。

「……眠れない?」

「かえでさん…」

「心配なことがあるなら、話してごらんなさい?」

「……本当にあやめさんを取り戻せると思いますか…?」

「そう信じてるんでしょ?降魔になってしまった以上、容易ではないかもしれないけど…」

「〜〜あやめさんは姿は降魔になっても、敵ではありません…!あやめさんが自分の意思で俺達を攻撃してくるなんて、絶対にありえませんから…」

「…何でそう言い切れるの?」

「俺達花組と一緒に暮らしてきた仲間だからです…!そして、俺にとって、大切な人だから…。そんな人が俺達を本気で殺したいと思うはずがありません…。あやめさんの中に巣喰う悪魔を追い払ってやれば、きっと…!」

「…でも、不安なんでしょ?」

「はい…。今日の戦いでは何もできませんでした…。あやめさんと戦うことなんてできない…。でも、彼女を取り戻すには、刃を交えなければいけないのかもしれませんね…」

「大神君…」

「でも、この儀式があやめさんを取り戻す第一歩だと思ってます。だから、明日は頑張らないと…!」


大神を優しく抱きしめるかえで。驚く大神。

「あまり無茶したら駄目よ?姉さんが帰ってきても、あなたが死んだら意味ないんだから…」

「わかってます。でも、死ぬ気でやらないと勝ち目はありませんから…」


見上げてくるかえでの顔があやめと重なり、かえでを抱きしめようとするが、ためらう大神。大神の胸で目を閉じるかえで。

「いいのよ、うんと抱きしめて…。私を姉さんと思ってくれていいって言ったでしょ?」

心臓の鼓動を速め、ゆっくりかえでを抱きしめ返し、髪に触れる大神。

「…少し落ち着いた?」

「はい…。こうしてると、本当にあやめさんを抱きしめてるみたいです…」


微笑み、大神をゆっくり離すかえで。

「ねぇ、一時的にだけど、どうすれば霊力が高まるのか知ってる?」

「え…?どんな方法ですか?」

「昔、おばあ様から聞いたことがあるの。男女の交わいって、互いの霊力を高める言い伝えがあるんですって」

「そ、そうなんですか…」

「儀式を成功させるには、受ける者の霊力を高めなければならない…。科学的根拠は立証されてないから、気休め程度にしかならないと思うけど…」


頬を紅潮させ、帯をほどいて寝まきを脱ぐかえで。赤くなる大神。

「あまり見つめないで…。恥ずかしいわ…」

「す、すみません、とても綺麗なので…」

「私を抱いていいのよ。それであなたの儀式が成功するのなら…」


大神の手を取り、自分の体に触れさせるかえで。赤くなり、手を払う大神。

「…やっぱり、嫌?姉さん以外の女を抱くなんて…」

「……こんなこと、いけませんよ…。ただ霊力を上げる為だけに交わうなんて、女性を道具として扱うような気がして…」

「……私だって、嫌いな相手にこんなこと提案しないわよ…。大神君だから言ってるんじゃない」

「かえでさん…」

「私、信じてるの。あなたなら儀式を成功させて、サタン封印に力を貸してくれるって…。その為にこの体が使われるのなら、喜んで捧げるわ。今夜のことは2人だけの秘密にすればいい。もちろん、姉さんにも…」

「本当に…よろしいんですか…?」


大神の唇に人差し指をあてるかえで。

「これ以上言うと、ムードが壊れるわ。ほら、さっさとしなさい、大神君!」

大神の額を小突き、微笑むかえで。

「この借りは大きいんだから、生きて帰ってこないと承知しないわよ?」

「はは、わかってますよ」

「……必ず帰ってきてね…?」

『――必ず帰ってきて…。約束よ…』

(〜〜あやめさん…)


荒鷹の儀式の時のあやめを回想し、かえでにキスして、抱き始める大神。抱かれて目を閉じ、大神の背中に手を回すかえで。

(――いつか…、私を『あやめ』姉さんとしてでなく、『かえで』自身として愛してくれる時が来たら…)

大神と一つになり、涙目で背中を仰け反らすかえで。

「〜〜ためらわないで…っ!あやめ姉さんの為だと思って…」

「はい…!」


かえでにキスし、抱き続ける大神。窓から朝日が差し込む。隣で眠るかえでの頬に触れ、立って窓の外を見る大神。昇ってきた太陽の光が大神の裸を照らし、凛々しく前を向く大神。

★            ★


儀式当日。晴天の下、白装束を着て、正座している大神。見守るかえでと双葉。炎の中に刀身を入れていた真刀滅却を抜き、大神に渡す哲馬。ほら貝を吹き、鼓を叩く巫女達。魔法陣が光り出す。真刀を鞘に収め、魔法陣の上に乗る大神。

「あんたは大神家の長男なんだ。絶対やれるさ!」

「あぁ、行ってくる…!」


目が合い、頷き合う大神とかえで。魔法陣の上で瞬間移動する大神、暗闇の中にワープし、辺りを見回す。

「ここは異空間か…?」

暗闇から刃物が現れ、白装束が少し切れる。

「くそ…っ、何も見えない…!〜〜うわあああっ!!」

続けざまに大神を斬りつける刃物。息を切らし、ひざまずいて鞘から真刀を抜いて振り回す大神だが、当たらずに攻撃され続ける。

「〜〜く…っ、どうすればいいんだ…?」

(――大神君…っ!)

「かえでさん…!?」


かえでの声が聞こえ、大神の体が光り、敵の刀が見えるように。

「――そこかぁっ!!」

真刀で敵の刀を打ち上げる大神。敵の刀が舞い、敵の気配が消える。

「やったか…!?」

闇が人の形状に集まり、鞘に手をかける大神。

「〜〜何だ、あれは…!?」

素早く大神に斬りかかってくる闇の人形。真刀で受け止める大神。

「〜〜く…っ、負けるものかあああっ!!」

闇の人形に斬りかかる大神。

★            ★


帝都。大帝国劇場。公演『つばさ』初日。舞台衣装を着て準備する花組。

「そろそろ儀式が始まった時間だな…」

「お兄ちゃん、大丈夫だよね…?」

「きっとうまくいきますよ。だって、私達の大神さんですもの…!」


開演のブザーが鳴る。

「隊長も頑張ってるんだから、私達も頑張るわよ…!」

「大成功させて、この嫌な空気を吹き飛ばしますわよ!」

「うちらの力、見せたろうで!」


正月にあやめにもらったお守りを出し、顔を見合わせて頷き合う花組。舞台本番。演じる紅蘭、カンナ、アイリス。照明をあてるマリア。飛行装置を動かすさくら。スモークをたくすみれ。飛行装置に乗り、空を飛ぶ紅蘭とアイリスに歓声と拍手。客席の後ろで花組の様子を満足に見ている米田。

「いいぞ、お前達…。今までで最高の舞台だ…!」

不穏な顔で急いで客席に入ってきて、米田に耳打ちするかすみ。

「〜〜何だと…!?」

突然の爆発音に顔を上げる花組。銀座で降魔達を率いて街を襲わせる叉丹。

「ふはははは…!!早く来るがいい、帝国華撃団…!!」

パニックになる観客達の避難を誘導する三人娘。舞台の上に集まる花組。

「〜〜せっかくの舞台を台無しにして…、絶対に許しませんわ…っ!!」

「皆、行きましょう!」


★            ★


作戦指令室。魔神器の保管場所に球を置き、頑丈な鍵をかける薔薇組。

「これで安全ですよね…!」

「絶対にここは私達・薔薇組が死守するわよ!」

「了解!」「了解!」


格納庫で神武に搭乗するさくら達。米田に訴える新次郎。

「僕も出撃させて下さい…!少しでも皆さんのお役に立ちたいんです…!!」

「気持ちはわかるが、これは生きるか死ぬかの戦場だ。お前さんが考えている程、甘かねぇんだよ」

「〜〜それはわかってます…!けど、出撃経験だって一度…」

「――大河君にはまだ無理よ」


戦闘服を着て、歩いてくるラチェット、微笑み、新次郎の頭をなでる。

「良い子だから、おとなしく待ってなさい?あなたにもしものことがあったら、お義母様に顔向けできないもの」

不満そうにふくれる新次郎。米田に敬礼するラチェット。

「ラチェット・アルタイル、これより花組に復帰します!」

「うむ、頼んだぞ!」


新次郎に笑顔で手を振り、格納庫に向かうラチェット。拳を握る新次郎。

「〜〜何だよ、皆して…。そんなの、やってみなくちゃわからないじゃないか…」

アイゼンクライトに搭乗するラチェット。

「おっ、ラチェットじゃねぇか!」

「Hi、大神隊長が戻るまで私も加わるようにですって」

「えへへっ、何だか久し振りですね!」

「フッ、まぁ、あなたの出番などほとんどないに等しいでしょうけど」


顔を見合わせ、頷き合うさくらとラチェット。

「帝国華撃団、出撃よ!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」


轟雷号から射出され、降り立つさくら達の神武。

「帝国華撃団、参上!」

「クククッ、待ってたぞ。……小僧と妹の巫女は不在か…。では、魔神器の残りを頂くとしよう…!」


光刀無形と霊剣荒鷹を鞘から抜き、刀身に黒いオーラを滲ませる叉丹。

「〜〜ど…、どんどん力が強くなってくよ…!?」

「〜〜く…っ、荒鷹の霊力を吸収してるんだわ…」

「〜〜こんな所で負けるものですか…!大神さんとあやめさんのお陰で一つになれた花組の力、見せてあげるわ…!!――はあああああっ!!」


叉丹に向かっていく花組。

★            ★


西國神社。儀式が終わるのを黙って待つ双葉と哲馬。祈りながら、目を閉じて待つかえで、神剣が光り出し、ハッとなる。

(――姉さん…!?)

「あ、おい…!?」


走り出すかえで、鳥居の前に立つ殺女を発見し、構える。共鳴し合っているかえでと殺女の神剣白羽鳥。

「〜〜この気配…、やっぱり姉さんだったのね…」

神剣を振り下ろし、結界を破る殺女。駆けつけ、驚く双葉と哲馬。

「神社って皆そう…。こんなつまらない小細工して、そんなに私が怖い?」

「ここは食いとめる…!あんたは儀式の会場を守れ!」


頷き、走っていく哲馬。かえでの隣に来て、構える双葉。

「あんたも逃げな。そいつを持ってかれたら、元も子もないだろ?」

「いいえ。神剣には神剣で対抗する他、ありませんもの」

「フッ、相変わらず強気な女だねぇ」

「はあああああっ!!」


斬りかかる殺女。刀で受け止める双葉。

「〜〜そこをどけぇぇっ!!」

「一郎に会いに来たのかい?残念だが、悪魔が嫁になるのは嫌なんでね。ちゃんと人間に戻ってから、出直してきなっ!」


離れ、体勢を立て直す殺女。

「私達の間を邪魔する者は誰であろうと容赦しないわ。出でよ、降魔…!!」

降魔達が現れ、かえでと双葉を囲む。

「やれやれ、馬鹿の一つ覚えだねぇ」

「儀式が終わるまで、絶対にここを通しはしないわ…!」

「かえで…、姉さん、あんたが一番嫌いよ…。――やっておしまいっ!!」


かえでと双葉に襲いかかる降魔達。構え、応戦するかえでと双葉。

★            ★


異空間。闇の人形と戦う大神、傷だらけで刀を地面に刺し、息を切らす。

(〜〜くそ…っ、手ごたえはあるのに、まるでダメージになってない…。――だが…、この構え、どこかで…)

闇の人形の攻撃をよけ続ける大神、足がもつれ、倒れ込む。大神に剣先を向け、振り上げる闇の人形。

(〜〜く…っ、ここまでか…!)

身構える大神の体が光り、目を眩ます闇の人形。ミカエルの声が聞こえる。

『――諦めてはいけないわ』

「だ、誰だ…?」


銀座と西國神社でそれぞれ戦う花組、ラチェット、かえで、双葉の映像が見える大神。

「これは…!?」

『あなたが諦めたら、この者達の頑張りも全て水泡に帰します。全てが終わってしまうのです…』

「〜〜全てが…終わる…」


攻撃を再開する闇の人形。立ち、真刀で受け止める大神。再び映像が見える。銀座で叉丹と戦う花組。光刀と霊剣の二刀流で攻撃を続ける叉丹。

「ふはははは…!死ねえええっ!!」

「きゃああああっ!!」


飛ばされ、倒れるさくら達とラチェット。

「〜〜な、なんちゅー力や…」

「〜〜やっぱり、お兄ちゃんがいないと無理なのかな…」


立ち上がるさくらに驚くマリア達。

「〜〜大神さんは、きっと戻ってきてくれます…!大神さんが安心して儀式に専念できる為にも、私達が頑張らなくてどうするんですか…っ!」

『さくら君…』

「あぁ、さくらの言うとおりだぜ…!」

「少尉なしでは何もできないと思われてしまっては、花組の名に傷がつきますものね」

「隊長と離れていても、私達の心はいつでも一つよ!皆、まだやれるわね!?」

「ふふっ、えぇ、そろそろ本気を出させてもらおうかしら…!」

「イリス・ジャルダーン!!」


アイリスの黄の光で傷が癒されていくさくら達。

「お兄ちゃんの為に、アイリスも頑張るよ〜っ!」

さくら達の霊力が上昇しているのに驚き、微笑む紅蘭。

「大神はん、頑張りぃや…!」

『皆…』


映像が切り替わる。西國神社。殺女と降魔達と傷だらけで戦うかえでと双葉。神剣で鳥居を斬る殺女。鳥居がかえでと双葉に倒れてくる。

「きゃあああああっ!!」

『〜〜かえでさん…!!姉さん…!!』

「うふふっ、手間取らせてくれちゃって――」


霊力を発動させ、がれきを吹き飛ばすかえでと双葉。驚く殺女。

「裏御三家をなめるなぁぁっ!!」

突進し、殺女を斬りつけるかえでと双葉。血を吐き、腹を押さえてうずくまる殺女に神剣を突きつけるかえで。

「いくらあやめ姉さんでも、彼の邪魔をするなら容赦しないわ…!」

舌打ちし、悔しく降魔達を連れて逃げる殺女。息を切らし、座り込むかえで。

『かえでさん…!』

『あなたの帰りをこんなにも多くの者が待ち望んでいるのです。それでも、あなたは諦めると言うのですか?』

『そうだ…、俺の為に皆、頑張ってくれている…!――俺も皆の為に…、負けられない…っ!!』


立ち上がり、闇の人形を凛々しく睨む大神、真刀が光り出す。闇の人形の攻撃を軽くよけられるようになる。

(――動きが読める…。この剣さばき…、まさか…!)

「――狼虎滅却・快刀乱麻ぁっ!!」


大神の攻撃が闇の人形に命中。人形を覆っていた闇が晴れていき、三十郎の亡霊だとわかる。

「父…さん…?」

『見事だ…』


微笑み、頷く三十郎の亡霊が消え、光で目が眩む大神、魔法陣の上に戻ってくる。歓声をあげ、拍手する哲馬とひれ伏す巫女達。

「よく戻ってきた…!儀式は成功だ。今から君が真刀滅却の継承者だよ」

「ありがとうございます…!」


ひざまずき、哲馬に頭を下げる大神。

「――よく頑張ったな」

振り返る大神。傷だらけのかえでと双葉が笑って立っている。

「かえでさん…!姉さん…!」

涙目で大神に抱きつくかえで。

「ふふっ、信じてたわよ、あなたならやってくれるって」

「かえでさんの…、皆のおかげですよ」


大神のキネマトロンが鳴る。

『隊長、銀座に現れた葵叉丹を追い払うのに成功しました。残念ながら、逃がしてしまいましたが…』

『私達、大神さんがいなくても勝てたんですよ〜っ!』

『アイリスも頑張ったよ〜!褒めて、褒めて〜っ!!』

「ご苦労様。皆、よくやってくれた!儀式の方も成功だ。これから帰るよ」

『おめでと。こっちも大変だったんだから…。ふふっ、早く帰ってきてね?』

「あぁ、ラチェットもありがとう」

『そんじゃあ隊長、いつものやつ、やろうぜ!』

「〜〜いぃっ!?こ、ここでかい…?神社の人、皆、見てるんだけど…」

「なら、今回は私も混ぜとくれよ!一回やってみたかったんだよな〜!」

『お、双葉はんはノリがええですなぁ!やっぱ、こういうんは恥ずかしがらずにやるんが一番や!』

「〜〜わ、わかったよ…」

『それじゃあ、参りますわよ!せーの…、勝利のポーズ、決めっ!』


決めポーズする大神、かえで、花組、双葉。

★            ★


帝都。大帝国劇場の作戦指令室・魔神器を保管する部屋。厳重に保管してある魔神器の球の周りで警備する薔薇組。

「ハァ…、戦いの方は終わったみたいね…」

「〜〜んもう、今回、出番がなかったじゃないのぉ…」

「いいじゃないですか。こうして魔神器を守ることができたんですから、良しとしましょうよ!」


薔薇組の傍で落ち込んでいる新次郎。

「ちょっと新ちゃん、出撃できなかったこと、まだ落ち込んでるの?」

「……誰も僕を必要としてくれないんです…。僕にはまだ無理だって…」

「双葉ちゃんに稽古つけてもらってたぐらいで、実戦経験もほとんどないんでしょ?なら無理よ」

「〜〜無理って何で決めつけるんですか!?僕、悔しいんです、いつまでも子供って見られてて…。そりゃ、まだ士官学校に入ってないし、勉強だってまだまだ足りませんけど、でも、普通の子に比べたら、剣の腕だって…」

「うふふん、新ちゃんってば背伸びしちゃって、可愛いんだから〜!」

「〜〜またそうやって子供扱いするんだから…。誰も僕の気持ちなんてわかりませんよ…」

「えぇ、わかんないわよ。戦えることだけが格好良いって思ってるお馬鹿さんの気持ちなんてね」

「え…?」

「どうせ私達は地下で光を見ずに暮らすオカマよ!花組さんみたいに格好良くは戦えないわ…。でも、そんな私達にだって帝撃を支えられる役目があるの!この魔神器を守るっていう地味な使命がそう!陸軍から変人扱いされて、米田司令に拾ってもらったご恩を返す為、私達にはこれぐらいのことしかできないけど、この仕事に誇りと情熱を持ってるんだから!」

「大神さん達に憧れる気持ちはよくわかります。けど、風組とか月組とか、花組さんを支える人達だって必要なんですよ?」

「〜〜僕だって、花組さんを支えたいですよ…。でも、何の役にも立てないのが悔しくて…」

「新ちゃんがここに来たのは、双葉さんと帝都観光する為でしょう?それがちょっとした事情で滞在を延長してるだけじゃない。援助の為に来たんじゃないんだから、役に立ててなくても誰も責めたりしないわよ?」

「どうしても役に立ちたいって言うんなら、大神さんみたいに士官学校で勉強して、実戦経験を積んで、ムキムキに鍛えてから出直してらっしゃい。戻ってくるまで、いつでも私達は待ってるわよ」

「鍛えて…か。――そうですよね…。僕、まだまだ修行が足りないのに、出すぎた真似を…。皆さんの言う通り、もっと強くなって戻ってきます…!一郎叔父のような立派な日本男児として…!」

「大河さん、格好良いです〜!」

「う〜ん、私は新ちゃんは今のままでいいと思うわ〜ん。このベビーフェイスにムキムキは似合わないわよ〜」

「あら、イイ体になって何が悪いのよ?」

「でも、大河さんは今のままで十分魅力的ですよ。体も結構たくましいし…。きゃっ!」

「うふっ、確かにそうかもね…。――目の保養に一度拝んでおく?」


妖しい目つきで迫ってくる薔薇組に青ざめ、後ずさる新次郎。

「〜〜あ、あははは…、じゃあ、僕はこれで…」

ドアノブに手をかける新次郎の肩に手を置く蝶(ミロク)。

「〜〜わひゃあっ!?」

「あ、あれは…!」


ドアをすり抜け、反魂の術をかけられた蝶が出てくる。

「――魔神器…」

剣と鏡を持った猪(羅刹)と鹿(刹那)も床から現れる。

「〜〜しまった…!」

吹き飛ばされ、部屋から出される新次郎と薔薇組。魔神器の剣、鏡、球が共鳴し合い、鍵が壊れ、球がミロクの手中に吸い込まれる。

「魔神器…。これで揃う…」

ニヤッと笑い、消える猪、鹿、蝶。帰還し、警報が鳴っているのに驚く花組。息を切らし、走ってくる新次郎。

「な、何かあったんですか…!?」

「〜〜大変です!魔神器が…!!」


★            ★


東京湾を見渡す叉丹に魔神器を捧げるミロク、刹那、羅刹。

「ククク…、奴らめ、戦いが終わったばかりで油断していたようだな」

翼をはためかせ、舞い降り、叉丹にひざまずく殺女。

「〜〜遅くなりました…」

睨み、殺女の頬を叩く叉丹。

「神剣と真刀を奪えぬばかりか、儀式も阻止できぬとは…。使えん奴め」

「〜〜も、申し訳ございません!目覚めたばかりで力を使いこなせず…」

「今度失敗するようなことがあれば、私が貴様を殺してやるからな…!」


殺女の首を絞め、突き飛ばす叉丹。首を押さえ、悔しく砂利を握りしめる殺女。前を見据え、魔神器を3つ掲げる叉丹。

「遂に魔神器が揃った…。これで魔界の入口は解き放たれる…!――出でよ、聖魔城…!!」

魔神器が宙に浮き、東京湾に渦ができて、聖魔城が建った大和島が東京湾に浮かんでくる。地震でパニックになる帝都。大帝国劇場。地震に立っていられないさくら達。

「な、何が起きたの…!?」

「〜〜大変です!東京湾上に大和島が…!!」

「何ですって…!?」


翔鯨丸に乗り、東京湾上空に向かうさくら達。モニターに聖魔城。

「な…っ、何ですの、あれ…!?」

「まさか…、あれが魔界の入口なのか…!?」

「〜〜山崎はん、遂にやりよった…」

「ククク…、遂に聖魔城が地上に…!見ろ、島から溢れんばかりの怨霊が我が偉業を褒め称えている…!!遂に…、遂にこの世界が浄化される時がやってきたのだ…!!」


聖魔城から多くの降魔達が飛び立ち、帝都中を破壊し始める。逃げる人々。飛んでいる翔鯨丸も攻撃される。

「〜〜このままでは墜落するわ!引き返しましょう…!!」

揺れる中、精一杯操縦する風組。追ってくる降魔達を振り払い、逃げる翔鯨丸。つかまっているさくら達。モニターで佇む殺女を見るさくら。

「あやめさん…っ!!」

「素晴らしい…!素晴らしいぞ…!!闇の霊力がどんどん溢れてくる…!!フフフ…、ミカエルめ、我を侮辱したこと、たっぷり後悔させてやるわ…!!」


サタンと声が二重になり、高笑いする叉丹。翔鯨丸で逃げながら、モニターに映る叉丹を悔しく睨むさくら達。

第17話、終わり

次回予告

いよいよ最終決戦の時がやってきた…!
この戦いに帝都の命運がかかってるんだ。
待ってて下さい、あやめさん!
俺の手で愛するあなたを必ず救ってみせます…!!
次回、サクラ大戦『最後の審判』!太正桜に浪漫の嵐!
――帝国華撃団、ここに参上!



あとがき

黒之巣会編の長編リメイク小説もいよいよクライマックスです!

続編の黒鬼会編のプロットも徐々にできつつあります。織姫&レニファンの方、もうしばらくお待ち下さいね!

この長編リメイク小説も楽しみに待ってて下さる方がたくさんいらっしゃるので、書いてる方としてもとても心強いし、嬉しいです!これからも応援、よろしくお願いしますね!

さて、今回の第17話は、月影様、けんぷふぁ〜様などからの熱烈なリクエストもあり、「加山×かすみ」要素を少し多めでお送りしました!こちらのカップリングも大好評です!

月組隊長と三人娘のしっかり者。こうやってみると、かなりお似合いの2人だなぁって私も思います。

ゲームでも「加山×かすみ」要素が少しでいいから描かれればいいのになって思いますよね!

そして、本命の「大神×かえで」のカップリングもいよいよ急接近です!

かえでさん、やっと改心して、原作通りのキャラ設定になってきました(笑)

かえでさんは大神さんと共に第2部の黒鬼会編でも大活躍の予定です!

また、あやめさんもカムバックしてきますので、ご安心を!

黒鬼会編では、大神さん×あやめさん×かえでさんの三角関係が物語のより重要なポイントとなってきますので、お楽しみに!

それでは、次回・黒之巣会編の最終回は「大神×あやめ」&「大神×かえで」要素たっぷりでお送りするので、楽しみにしていて下さいね!

あやめ&かえでヒロインのそれぞれの短編小説の新作も、併せてお楽しみに!


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