★17−3★
地下城。霊剣荒鷹、神剣白羽鳥、魔神器の剣と鏡を宙に浮かべて眺めている叉丹と殺女。
「ふふっ、さすがは叉丹様。この調子でいけば、帝都が死の都と化すのもすぐですわね」
「まずは魔神器を揃える。魔界の入口を開き、聖魔城さえ復活させてしまえばこちらが勝ったも同然だ」
「一緒にこの腐った帝都を支配しましょう。その為にはまず…」
大神の映る黒い炎を握りつぶす叉丹。
「隼人の儀式を阻止せよ。二剣二刀の継承者を揃えさせるな…!」
「かしこまりました。全ては叉丹様の御為に…」
叉丹にひざまずき、妖しく笑う殺女。
★ ★
「〜〜あやめさん…っ!?」
ベッドから飛び起きる大神、息を荒げ、窓の外の赤い満月を見上げる。
『――大神君』
あやめとの思い出を回想し、引き出しから指輪の箱を取り出す大神、ベッドに座り、暗く指輪を見つめる。
(〜〜結局、渡せなかった…)
★ ★
翌日。舞台でリハーサルする花組。
「――よっしゃ、準備OKや〜!」
本番用の衣装を着て、飛行機型の飛行装置を囲むさくら達。
「えへへっ、本当にアイリス達にもつくれたね〜!」
「『西遊記』の時に使った『きんとくん』を改良したんや。どや?舞台装置をつくるのって、結構楽しいやろ?」
「まぁ、良い暇つぶしにはなりましたわね。これで今回の公演も派手に演出できますし、一石二鳥ですわ」
「花組が出演・舞台装置・演出効果を全て担当した舞台か…。さくらのアイディアにしてはなかなかだと思うわ。ふふっ、花組だけで作り上げる舞台なんて、結成当初では考えられなかったけど…」
「ハハ、て〜んてバラバラだったもんな。でも、今のあたい達って、あやめさんの目指していた花組になれてると思うんだ」
「私もそう思います!本当はあやめさんに一番に観てほしかったですけど…、あやめさんが帰ってきたら、また再演すればいいだけですよね!」
「その時は、お兄ちゃんとかえでお姉ちゃんにも観てもらおうよ〜!」
「そうね!――じゃあ、最後のリハーサル、始めるわよ!」
「お〜っ!」「お〜っ!」「お〜っ!」「お〜っ!」「お〜っ!」
★ ★
隊長室。旅行用バッグに荷物を詰めて支度する大神。ノックし、部屋に入ってくるかえで。気づき、目を伏せる大神。
「……準備の方はどう?」
「……まぁ…、順調です…」
「そう…。私の方は完了したから、いつでも声掛けて頂戴」
「わかりました…」
黙々と準備を続ける大神。黙って立っているかえで。
「……まだ何か…?」
「……別に。さくら達がお土産楽しみにしてるって」
「そ…、そうですか…」
再び沈黙が続く。
「……あの…」
「…何?」
「……どうして、記憶喪失の俺に嘘ついたんですか?」
「……何でもいいじゃない…」
「〜〜よくありませんっ!理由によっては俺、あなたを許しませんから…」
目を見開き、眉を顰めてうつむくかえで。
「……最初はそんなことするつもりはなかったの…。でも、おばあ様に扇動されて、結果的にあなたを利用して姉さんを陥れる形になってしまった…。それは本当にごめんなさい。今さら謝っても、遅いんでしょうけど…」
「…理由は大体想像がつきます。隼人の血を継ぐ俺を婿に迎え入れたかったんですよね?」
「……そうよ…。どうしてもあなたじゃないと嫌だったから…。隼人とか藤堂とかそんなの関係なしに…」
「え…?それってどういう――?」
警報が鳴り、顔を上げる大神とかえで。
『――緊急警報、緊急警報!日本橋に降魔が出現!至急、作戦指令室に集合して下さい!!』
舞台衣装のまま廊下を走るさくら達。
「〜〜あ〜ん、せっかくうまくいってたのにぃ〜」
「仕方ねぇだろ?向こうはこっちの都合なんかお構いなしなんだからよ…っ!」
ダストシュートに飛び込み、戦闘服に着替える大神、花組、かえで。日本橋の様子をモニターに映す軍服の米田。殺女の姿に息を呑む大神。
「現地には降魔の他に殺女君もいるようだ。心してかかれ…!」
「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」
神武に搭乗する大神達。
「――翔鯨丸、発進!」
飛び立つ翔鯨丸。隣の大神に話しかけるさくら。
「あやめさんに負けないように、頑張りましょうね…!」
「あぁ…!」
黙って聞いているかえで。帝都上空を飛んでいく翔鯨丸。
★ ★
日本橋。暴れる降魔達から逃げる人々。見下ろす殺女。
「逃げても無駄よ。もうすぐこの都は叉丹様の手で廃墟と化すのだから…」
「――お待ちなさい…!!」
翔鯨丸から降り立つ大神、花組、かえでの神武。
「帝国華撃団、参上!」
「あやめさん、こんなことやめて下さい!俺達と一緒に帰りましょう…!!」
「うふふっ、坊や、そんなに私と一緒にいたいの?嬉しいわ。私もあなたのこと、愛してるから。――殺したいほどにね…!」
指を鳴らす殺女。大神以外の神武に群がって襲いかかる降魔達。
「〜〜チッ、皆、気をつけて…!!」
応戦するさくら達とかえで。
「皆…っ!」
戦闘に加わろうとした大神の前に飛んでくる殺女。
「会いたかったわ、坊や。邪魔な奴らなんか放っといて、私とイイコトしましょうよ」
「〜〜あやめさん、元に戻って下さい!俺はあなたと戦いたくないんだ!!」
ハッチが開き、殺女が大神を抱きしめ、キスする。降魔と戦いながらそれを見て、目を見開くかえで。
「ふふっ、そうよねぇ?愛する私と戦えるわけないわよねぇ?なら、あなたも叉丹様の元へ来ない?そうすれば私達、ずっと一緒にいられるわよ」
「〜〜俺は仲間になんかなりません…っ!」
「意地張っちゃって。私がいない帝撃にいたってつまらないでしょ?」
大神を押し倒し、キスし続ける殺女、隠し持つ黒い刃で大神の首を狙う。
「うふふっ、可愛い子ねぇ。遠慮しないで、もっと触っていいのよ?」
(あやめさんの声、姿、唇の感触…。〜〜どれも変わらないままなのに…)
大神の首に黒い刃を突き刺そうとする殺女。気づくさくら。
「〜〜大神さん…っ!!」
『――大神君』
あやめの笑顔を思い出し、殺女を突き飛ばし、唇を拭う大神。
「〜〜やめて下さい…!俺の知っているあなたは、そんな人じゃない…!」
「ふふっ、わかってないわねぇ。これが本当の私なの…!生意気なあなたもとっても魅力的よ。いつもより激しくしてあげる…!!」
「〜〜うわあああっ!!」
殺女の鞭が大神に巻きつき、操縦席から出される大神。
「隊長…!!」
駆けつけようとするマリア達に次々に立ちふさがる降魔達。
「〜〜くそ…っ、これじゃきりがねぇよ…!」
「風組はん、発生装置は見つかったんか?」
『〜〜あともう少しですぅ…!』
「あらあら、そんなことしても無駄よ。帝都を憎んで死んでいった怨霊なんて、腐るほどいるんだから…!」
さらに現れる降魔達。翔鯨丸。風組の機械にエラー。
「〜〜そんな…!発生装置の数、増加しています…!!」
「〜〜何やて…!?」
「あはははっ!だから言ったでしょ?いくら雑魚だろうと、数が多ければ手の打ちようがないものねぇ…!!」
倒れている大神の背中を踏む殺女。
「〜〜お兄ちゃん…っ!!〜〜きゃああっ!!」
増加し続け、花組を攻撃する降魔達。
「皆…!〜〜ぐ…っ」
「あの娘達が心配?許せないわ。私以外の女を気にかけるなんて…!」
大神を踏み続け、鞭を打つ殺女。
『〜〜大神、戦え!このままだとやられるぞ…!?』
「し、しかし…、〜〜うわあああああっ!!」
鞭に電流を流す殺女。
「うふふふっ、あなたに私を殺せやしないわ。ほら、我慢しないで私に身を委ねて?もっともっと気持ち良くしてあげるから…!!」
もう片方の鞭で叩かれる大神、胸を踏まれ、ぐったりする。
「あははははっ!どう?ゾクゾクするでしょう!?もっとやってほしい?」
「〜〜や…めて…くれ…。あやめ…さん……」
「聞き分けのない子ねぇ。私はあやめじゃないって何度言えば――」
「――白鳥散華斬!!」
羽根の舞う衝撃波をよける殺女。神武から降り、傷だらけのかえでが大神の前に立ってかばう。
「かえでさん…!」
「これ以上、変態ぶりを曝け出さないでくれる?見ているこっちが恥ずかしくなるのよね」
「〜〜お前、どうやって…!?」
「数を増やしたところで、所詮雑魚は雑魚なのよ…!」
持っていた発生装置を刀で斬るかえで。複数の発生装置を見つけ、破壊していく花組。諦めずに調べる風組。消えていく降魔達。
「どんな最悪の状況でも、諦めなければ突破口は開ける…。それを身をもって教えてくれたのは、姉さんじゃないの…!」
「かえでさん…」
「ふふっ、わかったわ。そんなにこの坊やと2人きりになりたいなら、そうしてあげる…!」
大神とかえでの周囲に黒い結界が張られ、電流が流れる。
「うわああああっ!!」
「きゃああああっ!!」
「〜〜大神さん、かえでさん…!!」
「あははははっ!一緒に苦しみをわかち合えるなんて最高でしょ?ほら、もっともっと苦しみなさい…っ!!」
強くなる電流にさらに苦しむ大神とかえで。
「〜〜く…っ、かえでさん…、大丈夫ですか…?」
「〜〜うぅ…っ、これくらいなんてことないわ…」
「あらあら、仲が良いこと。ふふっ、妬けちゃうわね…っ!!」
「〜〜きゃあああああっ!!」
かえでに鞭を打ちつける殺女。意識が遠のき、大神にもたれかかるかえで。
「かえでさん…っ!!〜〜うわああああっ!!」
かえでを抱きしめ、必死に守ろうとする大神。
「まぁ、こんな時に抱き合っちゃって…。そんなにこの男を愛しているなら、ここで心中させてやってもいいのよ?」
「〜〜そうよ…!私は…、――大神君を愛してるもの…っ!!」
「え――?」
大神にキスするかえで。目を見開く殺女。
「ふふっ、どう?ボヤボヤしてると、私が彼を取っちゃうんだから…!」
かえでを見て、赤くなる大神。悔しがる殺女。
「はああああああっ!!」
神剣を鞘から抜き、なぎ払うかえで。風が巻き起こり、黒い結界が消える。力を使い、倒れるかえでを抱きとめる大神。
「かえでさん…っ!」
「〜〜おのれぇ…っ」
降魔の最後の一匹が斬られ、倒れる音に振り返る殺女。満身創痍の花組が凛々しく並んでいる。
「〜〜ば、馬鹿な…!?あれだけの降魔を全て倒したというの…!?」
「私達がここまで成長できたのは、あやめさん、あなたのお陰です」
「あやめさん、思い出して下さい…!私達の思い出は悪魔ごときが壊せるものじゃないはずです…!」
「アイリス達と一緒に帰ろう…!あやめお姉ちゃん…!!」
手を伸ばすさくらの手を悔しく払い、衝撃波を撃つ殺女。
「〜〜寄るなぁぁぁっ!!」
「きゃああああっ!!」
「〜〜軽々しく触れるな…!私は叉丹様の部下だ…!闇の霊力が集まれば、お前達など――!」
かえでを心配に見る大神が目に入り、体を震わせ、胸を押さえる殺女。
「〜〜違う…!私…は……」
「あやめさん…!」
殺女に駆け寄った大神に衝撃波を飛ばす殺女。
「〜〜覚悟しておきなさい、坊や。次に会う時は必ず殺してやるわ…!」
瞬間移動し、消える殺女。あやめのペンダントを握りしめる大神。
「〜〜あやめさん…」
★ ★
上野駅。大神、かえで、双葉を見送る花組。
「お気をつけて…!」
「ご武運をお祈りしておりますわ」
「あぁ。君達も公演、頑張れよ」
「はいっ!」
微笑むさくら達。汽笛を鳴らし、発車する汽車。座席に座る大神、かえで、双葉。うつむいたままでいるかえで。景色を見ながら、かえでを気にする大神。一人はしゃぐ双葉。
「お〜っ、食堂車があるんだってよ!行ってみないかい?」
無言でいる大神とかえでにため息つく双葉。
「ったく、いい歳した者がキスぐらいで騒いでどうすんだい?」
飲んでいたお茶を吹き出しそうになる大神。赤くなるかえで。
「いいよ、私一人で見てくるから。ちゃんと席、取っといてくれよ?」
黙ってうつむく大神の肩を叩いて囁く双葉。
「あやめのこともあるだろうが、あまり感情的になるなよ?」
その場を後にする双葉。2人きりになり、沈黙が続く大神とかえで。
「わかってるよ…。俺にはあやめさんがいるんだから…」
黙って目をそらすかえで。
「……昼間の戦闘で言ってたこと、本当なんですか…?もし、そうなら…、俺に嘘ついた理由って…」
「……もう隠す必要もないしね…。そうよ…。ただ、姉さんにあなたを取られたくなかっただけ…。裏御三家の血とか、そんなのは関係なしに…」
かえでにまっすぐ見つめられて言われ、赤くなって目をそらす大神。
「あなたの気持ちは嬉しいです…。〜〜しかし…」
「いいの。あなたがどんなに姉さんを好きでも、私の気持ちは変わらない」
「何がいいんですか?俺はあなたの気持ちに応えられないんですよ…?」
「……それでもいいわ…」
「え…?」
「今では姉さんのこと、心から尊敬してるから。だから、姉さんには幸せになってもらいたいし、変わらずに姉さんを愛してくれるあなたにも感謝してる。無理に私を好きになってくれなくても構わない。でも、姉さんが戻ってくるまで私をあやめ姉さんだと思ってくれたら、嬉しいなって…」
「けど、それではかえでさんが…」
「報われないって言いたいんでしょ?それでもいいの。大神君、あなたがいてくれるだけで私は…」
「かえでさん…」
「ふふっ、不思議ね…。こんなこと、今までだったら口が裂けても言えなかったのに…。でも、もう自分の気持ちに嘘はつきたくないの…。罪滅ぼしにはならないでしょうけど、姉さんの代わりにいつでも私が傍にいるわ。だから、元気出しなさい?ね!」
大神の額を小突き、微笑むかえで。赤くなり、額を押さえる大神。
「――駅弁、買ってきたぞ〜!」
テーブルの上に駅弁を置く双葉。我に返り、赤くなって目をそらす大神。
「……顔、真っ赤だぞ…?私のいない間に何があった?」
「〜〜な…っ、何もないって…!」
大神を見つめ、照れて微笑むかえで。汽笛が鳴り、走っていく汽車。
★ ★
銀座の街を早足で歩くかすみ。追いかける加山。
「〜〜待てって…!まだ怒ってるのか?」
「別に…。私、あなたのことなんて何とも想ってませんから。そんなに双葉さんと親しいなら、一緒に京都に行けばよかったじゃないですか!」
「何をそんなに怒ってるんだよ?昨日だって、ただ話をしてただけだって」
足を止め、不機嫌そうに振り返るかすみ。微笑む加山。
「そんなに俺が他の女性と話すのが嫌?これからは気をつけるからさ。だから、機嫌直してよ、な?」
「〜〜もういいです…。私一人で怒って、馬鹿みたい…。……どうして怒らないんですか…?勝手に悪態ついてるのは私なのに…」
「どうしてだろうな?俺っていつも自分の気持ちに素直に行動してるだけだから…。とにかく、俺のせいで嫌な思いさせて、ごめん!このとおり!!」
必死に謝る加山を見つめ、吹き出すかすみ。
「ふふ、もういいですってば。私の方こそごめんなさい、大人気なくて…」
「あ〜、よかった…。やっぱり君はそうやって笑ってるのが一番だよ」
「〜〜もう、馬鹿…」
赤くなるかすみ。雨が降ってきて、空を見上げる加山。
「雨だ…」
加山の袖を引っ張るかすみ。
「――うち…、来ますか…?」
★ ★
かすみのアパートの部屋。雨が降る窓を見つめる加山。
「いや〜、結構降ってるなぁ…」
茶を淹れているかすみを見て、照れる加山。
「想像通り、綺麗な部屋だなぁ〜。さすが女の子だな」
「そういうこと、今まで色んな人に言ってきたんじゃないんですか?」
「ハハ、俺って信用ないなぁ。君が思ってるほどモテてないぜ?」
傘を差して通る人を見つめる加山。
「……このアパート、そんなに人が通らないんだな…」
「銀座といっても、外れの方ですからね。今日は雨だから余計ですよ」
「…一人暮らしで怖くないか?」
「ふふっ、私だって帝国華撃団の一員ですよ?それに、司令が紹介して下さったアパートですから、セキュリティがしっかりしてて、安全なんです。近くに由里と椿も住んでますしね」
「そうは言ってもなぁ…。――よし、今日から俺と一緒に住もう!」
トレーで加山の頭を叩くかすみ。
「本当に軽い人ですね!?そんなこと言って、本当は違う目的のくせに…!」
「〜〜ごっ、誤解だよ…!俺、本当に君が心配で…!!」
加山に腕を掴まれ、トレーを下ろすかすみ、加山と見つめ合い、赤くなる。
「勝手だっていうのはわかってる…。でも、君を副司令の二の舞にさせたくないんだ…。怖いんだよ、次に君がさらわれるんじゃないかと思うと…」
「加山さん…」
「俺は、今まで命なんか顧みずに任務を果たしてきた。でも、君を好きになってから、それって違うんじゃないかって思うようになってきたんだ…。君に『お帰りなさい』って言ってもらうと、嬉しいからさ。それを聞く為に絶対無事に帰ってこようって…!」
「ふふっ、『君、死にたもうことなかれ』ですね?」
「OH!さすがはかすみっち!博識だなぁ〜」
「ふふ、やっぱり加山さんはそうやっておちゃらけてるのが一番ですね」
「あ…、そ、そう?やっぱ、シリアスは似合わないか…」
「…でも、嬉しいです。不思議ですね、私もいつの間にか同じ気持ちで任務に取り組んでいたような気がします。帰ってきたあなたに『お帰りなさい』って言うの、今では当たり前みたいになりましたし」
「OHHH!!かすみぃぃぃ〜っ!!」
押し倒そうとした加山の頭をトレーで殴るかすみ。
「…ただし、同棲はなしです!」
「えぇ〜?何で〜!?」
「だって、月組の任務に支障が出たら大変ですもの…。――でも、お泊まりなら、いつでもOKですよ?」
「マッ、マジ…!?」
顔を伏せる加山を心配に覗き込むかすみ。
「そ、それでは駄目ですか…?」
安堵して、素直に喜んでいる加山。
「――やばい…、すっげ〜嬉しい…!」
「うふふっ、やだ、もう…」
「任せてくれ!かすみっちのことは俺が絶対、守ってみせるからな〜!!」
「うふふっ、どことな〜く頼りないですけどね」
「〜〜OH!!かすみっちもはっきり言うよなぁ…」
加山とかすみの楽しそうな声を隣の部屋で耳を澄まして聞く由里と椿。
「ハァ…、やっと仲直りしたみたいね〜」
「…あ〜あ、せっかく3人でパジャマパーティーやろうと思ったのにぃ」
「たまには2人でもいいじゃない。フリーの女同士、寂しく傷を舐め合いましょうよ…」
「そうですよね〜!いいんですぅ〜。私はマリアさん一筋ですから!」
「こうなりゃヤケ食いよ、ヤケ食い!」
★ ★
雨が降り続ける帝都の街。天雲神社。雨が降ってくる空を縁側から見上げる先巫女。結界で中に入れず、弾き戻される殺女。
「〜〜フン…、こんな所、こっちから願い下げだわ…」
悔しく瞬間移動する殺女。傘を差し、階段を降りて鳥居の外を黙って見つめる先巫女。
★ ★
地下城。雨に濡れてフラフラで戻り、大神のネックレスを見つめる殺女。
『――俺はあなたと戦いたくないんだ!!』
「〜〜こんなもの…っ!」
ネックレスを叩き割ろうとするが、手が止まる殺女、大神とかえでのキスを思い出し、胸を押さえてうずくまる。
「〜〜どうして…っ!?私には叉丹様がいるのに…」
「――何をしている?」
叉丹が来て、とっさにネックレスを隠す殺女。
「〜〜い、いえ…、何でも…」
殺女の手首を引っ張り、ネックレスを見る叉丹。
「くだらぬ…。人間の時の記憶がまだ残っていたか…。こんなもの、さっさと捨ててしま――!」
ネックレスを奪おうとした叉丹、引っ張り、阻止する殺女に眉を顰める。自分の行動に気づき、胸元にネックレスをしまって、ひざまずく殺女。
「〜〜も…、申し訳ございません…」
「……案ずるな。覚醒して間もない故、まだ人の感情が残っているのだろう。そんなもの、魔力が完全に戻れば、すぐに消える」
殺女にキスする叉丹。闇の霊力が殺女に流れる。
「もうお前は降魔なのだ。あの小僧とは生きる世界が違うのだからな」
殺女に囁き、出ていく叉丹。ネックレスを見つめ、握りしめる殺女、漆黒の翼を広げ、闇の霊力が全身にいきわたるのを感じ、ゆっくり目を開く。
(――涙も出ない…。私は…もう人間ではないのだから……)
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