★17−1★
作戦指令室。対降魔部隊と降魔戦争の映像が映るモニターを見つめる大神、花組、かえで、米田、加山。あやめと一馬の映像を見つめる大神とさくら。
「〜〜あやめさん…」
「……お父様の映像が残っていたなんて、知らなかったです…」
降魔を斬っていく山崎の映像に眉を顰める紅蘭。
「山崎はん…。帝都を守る為にこないに頑張っていたのに、何でや…?」
「…全て『大和沈没』が原因さ」
「『大和沈没』…?」
米田の合図で、スクリーンの映像を大和島に切り替える加山。
「日本政府が極秘裏に行った帝都所有の孤島・大和島での霊力実験…。表向きは新たなエネルギー源開発を謳っていたんだが、実際は新兵器開発が目的だったんだ。しかも禁忌の術を使ったな…」
「禁忌の術って…、まさか闇の霊力のことですの…?」
「あぁ、人間の持つ光の霊力を科学的に闇の霊力に変換する技術のことは知ってるよな?闇の霊力は光の霊力より数倍強力な力を持ってるんだ。だから、政府や軍はそれが禁忌の術と知りながらも、日本の治安維持と軍部拡大を掲げて、その技術開発に意欲を注いでいたんだ。だが、闇の霊力はこの世界には自然な状態では存在せず、全て人工的に作られていた。より多くの純度の高い闇の霊力を求めた政府や軍のお偉い方はそこで、魔界の存在に目を付けたんだ」
「魔界だって…!?おいおい、そんなの本当に存在するのかよ…!?」
「残念ながら、おとぎ話ではないんだ。上層部は何百人もの陰陽師の末裔を集めて、大和島の上空に魔界の入口をこじ開けさせて人間界と繋ぎ、魔界から流入した闇の霊力を集めた。そして、より強力な兵器を開発しようとしたんだ。だが、世界の構造が違う人間界と魔界が繋がって、何の影響もないわけがない。魔界からは闇の霊力だけでなく、瘴気も大量になだれ込んできた。そして、すぐに大和島の自然は破壊された…。遂にはその島で暮らす人達も疫病にかかり、次々に亡くなったんだ…。この事態が明るみになっては国民や世界からの信用を失うと考えた上層部は、いずれ本州にも疫病が上陸するとも恐れて、魔界の入口を早急に閉じ、大和島を島民ごと海に沈める計画に出たんだ」
「〜〜ひどいよ…!島の人達は何も悪いことしてないのに…!!」
「その通りだ…。だが、上層部は島民を見捨てて、強制的に『大和沈没』を実行したんだ。未開発の分野には多少の犠牲はつきものだと言ってな…。この『大和沈没』の事実は上層部がマスコミに金をつぎ込んだ為、地形変化による地盤沈下の為としか報道されなかった。この事実を知っているのも、今の政府では総理の他にほとんどいないとされている。結果的にその事実は歴史から抹消されてしまったんだよ…」
「〜〜なんてむごいことを…。人間がやることとは思えませんね…」
「……その大和島がな、葵叉丹…、山崎の故郷なんだよ…」
「え…!?じゃあ、まさか…」
「あぁ…。奴の母親も妹もその実験によって瘴気に侵され、疫病にかかってしまった…。奴は島を沈めないよう、必死に上層部に頼み込んだんだ。もちろん、俺と一馬も一緒にな…。だが、対降魔部隊は軍とは独立した組織、いわば軍を脱退した者の集まり…。そんな奴らの言うことなど聞く耳も持たなかった…。……その時からだよ、あいつが異常なまでに帝都を憎むようになったのは…。唯一、奴の部屋に残されていたのは『大和沈没』の記事…。非道な奴らが治める帝都を守っていた自分は何て愚かだったのか、こんな都は救うべきに値しない、滅ぼして浄化するべきだとでも思ったんだろうな…。そして間もなく、奴は天海の封印を解いた…」
「〜〜何だか、かわいそう…。アイリス、本当に戦っていいのかわからなくなってきちゃった…」
「せやね…。いっちゃん悪いんは、当時の政府と軍のお偉い方や…。そんな人権を無視した事件、絶対にあってはならへんさかいな…!」
「でも、あやめさんをさらって、帝都を滅ぼそうとしているのは事実じゃないですか。どんな理由があったとしても、そんなの許されることじゃないと思います…!」
「そうだよな。『大和沈没』を知らない一般市民は関係ないんだ。巻き込もうだなんて許せねぇよ…!」
「そうね…。――隊長、迷っている暇はありません。あやめさんを救出して、叉丹の野望を食い止めましょう!」
「あぁ。今、風組が奴の本拠地を洗い出してくれている。わかり次第、奇襲攻撃を仕掛けたいと思う…!」
「ホホ…、どうせならクライマックスは派手にいきたいですわね…!」
「……司令、少し気になることがあるのですが…」
「何だ?言ってみろ」
「はい…。叉丹の中に時々妙な…、もっと強大で違う何かがいるような気配を感じる時があるんです」
「大神さんもですか?実は私も日本橋で戦った時、同じことを感じて…」
「フム…。――かえで君はどうだ?」
「2人の言うように、私も感じたことがあります。この世のものとは思えない、もっと異質な何かを…」
「……それはおそらく、『サタン』だ」
「サタン〜?〜〜叉丹の中にサタンがいるってどういうことだよ?」
「堕天使ルシファーの異名さ。元々は大天使ミカエルと共に神に仕えていたが、神に反逆した罪で天上界を追われ、地獄で悪魔の親玉となったルシファー、それがサタンさ」
「ホホホ…、カンナさんには少〜し難しいお話でしたわねぇ」
ムッとなって、すみれを睨むカンナ。
「でも、ちょっと待って下さいまし。天使とか悪魔とか、皆さん本気で信じてらっしゃいますの?」
「魔界が存在するんなら、否定できないだろ?ま、頭の固いおめぇには理解できねぇかもしれねぇけどな」
ムッとなり、カンナを睨むすみれ。
「悪魔なら存在するぞ。現にあやめ君がなった最終降魔っちゅーのは、西洋では『悪魔』とされているからな」
「調査してみてわかったんだ。100年に1度藤枝家に誕生する悪魔の子…。もみじさんとしてすでに生まれていたはずの最終降魔に何故、副司令がなってしまったのか…。これも葵叉丹の陰謀だったんだ」
「陰謀て…。まさか、人工的にただの人間を悪魔に変えよったんか…!?」
「あぁ、そのまさかさ。サタンが憑いている者なら可能なんだよ。まず、胎内に悪魔の種子を植えつける。そして、その種子が育つように3回に分けて、胎内の種子の成長促進剤を飲ませるんだ。まぁ、これはラチェットに聞いたんだけどな。彼女の祖母、熱心なクリスチャンだったらしいから」
キス越しにあやめに悪魔の種を飲ませる叉丹を回想する大神。
「〜〜くそ…っ、あれが悪魔に変える儀式だったなんて…」
「いいか?ここからが重要な話だ。サタンに魂を売った葵叉丹を葬るには、裏御三家の末裔と二剣二刀が必要なんだ」
「つまり、私と大神さん、かえでさん、そしてあやめさん…ですね?」
「あぁ。裏御三家の宝刀である霊剣荒鷹、神剣白羽鳥、そしてお前の持つ真刀滅却、それと山崎の持つ光刀無形…。この二剣二刀をお前達末裔が使って、サタンを封印するんだ」
「山崎はんのもそうなんでっか?」
「山崎家は元々、真宮寺、藤堂、隼人と並んで裏四天王と呼ばれる一族だったんだ。しかし、強大な力を欲して、他の一族の二剣二刀を奪おうとした山崎家は破門に遭い、残る三家が裏御三家とされたらしい」
「1000年前、お前達のご先祖が二剣二刀を使って、同じようにサタンを封印したんだ。サタンは幽体の為、刀で傷つけられない。封印するしかないんだよ。逆に封印を解くのも二剣二刀を使う。普通の人間じゃ絶対に無理でも、光刀無形を使う一族の者にしたら、いとも簡単だったってわけさ」
「そして、サタンを再び封印されないよう、叉丹は二剣二刀を狙っているわけですね?」
「あぁ、同時に奴は魔神器も狙っている。二剣二刀がサタン封印の鍵なら、魔神器は魔界の入口を開く鍵のようなものだからな」
「魔神器とは使用する者の心に反応するんだ。心が清らかな者が使えば光の力を、邪な者が使えば闇の力を発揮する。まぁ、諸刃の剣という奴だな」
「〜〜じゃあ、叉丹が魔神器と二剣二刀全てを手に入れてしまったら…!?」
「サタン封印の道は断たれ、魔界と再び繋がって、世界は瘴気によって崩壊するだろうな…。現在、霊剣荒鷹と神剣白羽鳥の1本、そして、魔神器の2つは奴の手中にある。こちらが不利といっても過言ではないだろう…」
「しかし、神剣白羽鳥は私の分も合わせて2本なければ力を発揮できないんですよね?」
「あぁ、この前の常盤の一件の通り、神剣白羽鳥は2本揃わなければ意味がない。〜〜それを知らなかった俺達・対降魔部隊は、巨大降魔の前に最後の切り札が通用しなかった…。そのせいで、一馬が犠牲に…」
うつむくさくら。
「だから、何としてでも神剣白羽鳥と真刀滅却は死守せねばならんのだ…。この戦いに帝都の…、いや、世界の命運がかかっているからな…」
緊張した面持ちで顔を見合わせる大神達。
★ ★
支配人室。デスクの上に置かれた魔神器の球を見つめる大神と米田。
「〜〜申し訳ありませんでした。私達がいながら…」
「いや、お前らの判断は適切だったさ。3つのうち1つでも欠けてりゃ、魔神器は力を発揮できねぇからな」
「〜〜うぅ〜、そう言って頂けると助かるわぁん…」
ハンカチを押さえて泣く薔薇組。球を見つめ、殺女を回想する大神。
『――あなたの知るあやめは死んだの。この赤い月と共にね』
球を握りしめる大神の肩を叩き、微笑む加山。
「…心配するな。副司令は消えてなんかいないさ」
「そうだよな…。ありがとう、加山」
「大神、花組を励ましに行ってやれ。あの娘達も今回のことが相当堪えているようだからな…。酷なことを言うようだが、このままでは隊列にも乱れが出て、遅れをとる…。こんな時こそ、隊長であるお前の出番だぞ」
「……わかりました…」
暗く出ていく大神を心配に見つめる加山と新次郎。
「一郎叔父…」
「現実から逃げていちゃ、何も進まないからねぇ…。今はちゃんと話し合って、事態を収拾に向かわせるのが一番さ」
「えぇ、手遅れにならないうちに…ね」
腕を組み、静かに話し合う双葉とラチェット。
★ ★
虚ろな表情で懐中電灯を持ち、見回りする大神。あやめの部屋の前を通り、立ち止まってドアを開ける。
『――いつもご苦労様、大神君』
「あやめさん…!」
笑顔で出迎え、消えるあやめの幻。眉を顰め、ドアを強く叩いて、顔を伏せる大神。気まずそうに顔を見合わせ、後ろに立っている三人娘。
「お、大神…さん…?」
「…!な、何だい…?」
「今晩は遅いので、私達も事務室に泊まるようにと支配人が…」
「そうか…。――あ…、もうこんな時間なんだな…」
「大神さん…。〜〜ふっ、副司令は絶対帰ってきますよっ!」
「え…?」
「だって、大神さんと一緒にいる時、あんなに幸せそうだったんですよ!?そんなに好きな人を捨てて、どっかに行っちゃうわけありませんよぉっ!!」
「椿ちゃん…」
「大神さん、叉丹なんかに負けちゃ駄目よ!?奪われたら、また奪い返せばいいだけなんだから…!!」
「私達、信じてますから、副司令はきっとすぐに帰ってきて下さるって」
「由里君…、かすみ君…。――そうだな…。俺があやめさんを信じてあげないと駄目だよな」
「そうですよ!副司令、大神さんが迎えに来るのを待ってるはずですよ?」
「ハハ、そうだな。ありがとう…。君達と話したら、少し自信を取り戻せ気がするよ。戸締りはチェックしておいたから、ゆっくり休んでくれ」
「えへへっ、は〜いっ!」
「おやすみなさ〜い。大神さんも早く休まなきゃ駄目よ?」
「わかってるよ。おやすみ」
微笑み、廊下を歩いていく大神を安堵した表情で見送る三人娘。
「いくらか元気になったみたいですねぇ。よかったぁ…!」
「〜〜でも、まだ愛想笑いが死人のようだわ…」
「他人を気遣ったり、自分を奮い立たせたりで必死なのよ、きっと」
「そうよね…。恋人が敵になっちゃうなんて、私だったら耐えられないな」
「なのに、代理ってば最低ですよねぇ〜。記憶喪失の大神さんに自分が婚約者だなんて嘘吹き込んじゃって…」
「でも、私、代理の気持ちもわかる気がするの…。私も副司令に似たような感情を抱いたことがあったから…」
「かすみ…」
「大神さんの想いを考えただけで嫉妬しちゃって…。はっきりしない副司令にイライラしたものよ…。代理のやり方は汚かったかもしれないけど、私は偉そうに責められないな…」
「女って男が絡むと怖いからね〜。黒之巣会より厄介な問題だわ〜…」
「でも、かすみさん、今はいいじゃないですか。加山さんがいるんですし〜」
「〜〜ど、どうしてそっちに話がいくの…っ!?」
「だって、本当の話じゃない、ね〜?」
「ね〜!」
「うふふっ、そうかもしれないわね…。何だかんだ言って、加山さんに支えられてるところ、結構あるかもしれないわ」
「フフン、や〜っと認めたか」
「続きは事務室で聞きましょ〜!朝まで恋バナですぅ〜っ!!」
「んもう、今はそんなことやってる場合じゃないでしょ…!?」
はしゃいで歩いていく三人娘を赤くなり、階段に隠れて見守る加山。
「俺だって、君にいつも支えられてばかりさ…」
微笑み、帽子を深く被って、階段を降りていく加山。
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