★11−4★



格納庫。傷だらけになった光武を見上げて寄り添い、山崎の設計図を開く整備服の紅蘭を戦闘服のさくらが見つけ、入ってくる。

「紅〜蘭!何やってるの?」

「あぁ、さくらはんかいな。どないしたん、戦闘服なんか着て?」

「聞いてないの?これから戦闘訓練をすることになったのよ」

「あぁ、せやったなぁ…。すんまへん、すっかり忘れとったわ」

「…何かあったの、元気ないみたいだけど?」

「うちな、自分が情けないんよ。山崎はんの研究を継いで光武開発に携わって…。せやけど、山崎はんの汗と涙の結晶、ボロボロにしてしもうた…」

「〜〜でも、それは私達のせいでも…」

「…いや、これはうちの責任や。ここんとこ毎日整備だけで、霊力増幅装置も霊子水晶の改良も何も研究しとらんかった。せやから、光武を機動不能にしてもうたんや…。あやめはんの件かてそうや。うちにもっと知識があれば、何とかできるかもしれへんのに…。〜〜ほんま、情けないわ…」

「紅蘭…」

「〜〜駄目やなぁ、こんなんじゃ山崎先生に怒られてまうわ…。山崎先生なら、こないな時どないすんやろな…?あはは、すまんすまん、独り言が多すぎたさかい、気にせんといてな!あ、待っててや、うちも今準備――」

「設計図…、また見せてくれる?」

「へ?あぁ、ええよ。ふふふ〜、どや?めっさええセンスしとるやろ!?」

「本当、綺麗ね…!私、機械のこととかよくわからないけど、でも、この光武を設計した山崎さんがすごい人だっていうのは、よくわかるわ!」

「せやろ!?機械や乗り手のことを思て設計しとるんや。ほんますごいで!」


設計図を握りしめる紅蘭。

「〜〜せやから、あの葵叉丹が許せへんのや…!機械をいいように利用して、帝都を滅ぼす道具にしとる!卑怯にも程があるわ!機械を何やと思とるんや…!?〜〜あ〜!!あんな奴らに負けたんが悔しくてしゃあないわ〜っ!!」

「……葵叉丹…。一体何者なんだろう…?」

「そんなの生まれつきの悪党に決まっとる!今度は見ててや!光武を超える超ハイテク戦闘人型蒸気を造ったるからな〜!!レッツ・リベンジや〜!!」


立ち上がり、気合を入れる紅蘭。日本橋の戦闘での叉丹を回想するさくら。

『――その瞳、父親にそっくりだな、私を蔑んでいたその瞳に』

(……あいつ、もしかしてお父様の知り合いなの…?)


★            ★


演算室。明冶神宮の戦闘をモニターで繰り返し見る大神。機械で敵と隊員の能力を解析。霊力値の大幅の違いの結果が映し出される。

「やはり霊力値か…。まずはこの差を埋めないと話にならないな…」

分析するがうまくいかず、苛立つ大神、本に載った破邪の陣が目に入る。

「――破邪の陣…?」

車椅子で入ってくるあやめ。

「目が覚めたんですね…!あ…、すみません、散らかってますけど…」

「平気よ。いっぱい寝て元気になっちゃった。これから訓練ですってね」

「えぇ。――あ、もうこんな時間か…!俺も行かなきゃ」


机や床に広がる本を片づける大神。資料を見つけ、手に取るあやめ。

「…何か力になれない?一応、私も士官学校首席なんだから」

「大丈夫ですよ。あなたはまだ無理を…いてっ!」


大神にデコピンするあやめ。

「もう、そうやって何でも一人で抱え込むのがあなたの悪い癖よ?」

「しかし…」

「帝撃ができた頃、私もそうだったわ。どんなに大変な時でも、部下の前では凛としていなきゃって…。でも、あなた達のおかげで、それは間違いだって気づけたの。仲間に心配をかけたくないけど、平気なフリして無茶したら、結果的にもっと迷惑かけちゃうでしょ?だから、あなたももっと私に頼って欲しいの。…今の私が役立たずなのはわかるわ。でも、そうやって悩んでるあなたを見ていると、こっちまで辛くなっちゃうもの…。『助け合いは大きな力を生む』、そう教えてくれたのは、あなたでしょ?」

「あやめさん…」

「あなたは今まで良い触媒として、花組の本来の力を引き出してきてくれたわ。その触媒さんの力に今度は私がなりたいのよ」

「俺はこうしてあなたが傍にいてくれるだけで十分です。それだけでどれだけ支えになってるか…。今のあなたに霊力がないからとか、そんなのは関係ありません。俺が隊長として頑張ってこられたのも、あなたの支えがあったからこそです。だから今も、そしてこれからも俺達の傍で優しく笑って励ましてて下さい。今まであなたに勇気づけられてきた分、今度は俺があなたの力になります。俺達花組が必ずあなたを守りますから…!」


大神に抱きしめられ、赤くなって微笑むあやめ、夢での叉丹の言葉を回想。

『――お前の愛する者は、いずれ全て敵になる…!』

(〜〜あれは夢よ…。……ただの悪い夢だわ…)


眉を顰め、大神を抱きしめる力を強めるあやめ。

「…あやめさん?」

「…早く行きましょ!訓練、始まっちゃうわよ?」


★            ★


作戦指令室。シミュレーション訓練する花組。見学する米田とあやめ。

「同調率はどうだ?」

「現在、99.98%です」

「う〜む…。これだけ揃ってりゃ、普通なら大勝利なんだがなぁ…」


機械を動かし、データを記録するあやめ、頭痛がし、頭を押さえる。

「〜〜副司令…!」

「…大丈夫よ、すぐ治るわ」


微笑み、無理して機械を操作するあやめ。心配する風組と米田。

「…よし、全員ストップしろ!」

全員のゴーグルが上がり、操縦席から降りて入ってくる花組。

「皆、ご苦労だったな」

「結果はどうですか?」

「全員『優』だ。同調率もほぼ完璧だったしな」

「それなのに、どうして…?」

「…やはり、霊力値の差ですか?」

「そのようね…。とりあえず今は、それぞれの戦闘能力と霊力値を上昇させるしかないわ。各自で特訓をして、自己強化に繋げるべきだと思うの」

「なるほど。特訓は勝利への確実な近道ですしね」

「降魔は目覚めて間もなく、力も未知数だ。今度戦う時はあいつらの能力も上がっていておかしくはねぇ。今のままの力じゃまた苦戦は必至だろう」

「え〜!?この間より大変ってことぉ?」

「心配いらねぇって!要は皆で強くなりゃいいんだろ?――あ!なら、また熱海で合宿ってーのはどうだ!?」

「そんな呑気にしてられへんよ?また近いうちに攻めてこられたら…」

「〜〜うぅ〜…、アイリス、またあのお化けと戦うの怖いよぉ…」

「大丈夫よ。頑張って特訓すれば、次は絶対勝てるわ!ね、大神さん!」

「あぁ、何事も努力と忍耐だ!皆で頑張って特訓しよう!」

「あたいも大賛成だぜ!よぉし、まずは腕立て100回にランニング――」

「――パスですわ」

「す、すみれさん…!?」

「そんな手間のかかることなどせず、単に新型の光武を開発すればよろしいではありませんか。努力と忍耐で特訓だなんて、今時時代遅れですわ」

「アイリスも特訓嫌だなぁ。子供だから皆と同じメニューできないし〜」

「〜〜都合の良い時だけ子供ぶるなよなぁ…」

「私は隊長の意見に賛成です。たとえ光武を新しくしたとしても、乗り手の私達の力も高めておかなければ、その力を十分に出し切れないかと」

「あぁ、その通りだよ。――紅蘭はどう思う?」

「せやなぁ…。うちはアイリスと同じで武道派やないさかい。特訓が大事なんはわかるけど、それでうちの能力が上がるとは思えへんのや」

「そうか…。〜〜う〜ん、見事に意見が分かれたな…」

「どうします?――あ!なら、皆で合気道の特訓でもしますか!?」

「え〜!?アイリス、そんなのできないよぉ〜」

「でも、合気道は武道の基本よ?そうでしたよね、あやめさん!」

「えぇ。でも、嫌々やるようじゃ大して身につかないと思うわ…」

「その通り!特訓はしたい者だけがすればいいのです。生まれつき天才的な能力を持つこの神崎すみれには必要ありませんわ!!」

「〜〜おめぇだって、この前はボコボコにされてただろっ!?」

「フン、あれは正月ボケのせいですわ。まぁ、カンナさんのような無能な方々はご自由に山ごもりするなり、海を泳いで合宿するなりして下さいまし。では、私はこれから三越にお買い物に行く時間ですので、失礼〜」


鼻歌交じりに出ていくすみれ。頭をかきむしり、大神の首を絞めるカンナ。

「〜〜あ〜っ!!年が明けても嫌な女だぜっ!!何とかしてくれよ、隊長ぉっ!!」

「〜〜ぐ…、苦しい…」

「は〜、…ま、とりあえず解散だな。あ、大神とあやめ君は残ってくれ」


喋りながら出ていくさくら達と三人娘。

「…それで?隊長として、どう判断するつもりだ?」

「皆の意見を参考に、今夜一晩考えてみます。あやめさんの言うとおり、押しつけになってしまうと、かえって逆効果ですし…」

「私も考えてみます。全員で取り組める良案が思いつくかもしれませんし」

「全員で、ねぇ…。別に何するんにも一緒でなくていいんじゃねぇか?」

「え?どういうことですか?」

「はは、さぁな?ま、これはあくまで俺の意見だ。お前達はお前達の意見をまとめて、明日報告してくれ。頼んだぞ、ご両人!」


大神とあやめの肩を叩き、笑顔で出ていく米田。顔を見合わせる二人。

「米田司令、何を言いたかったんでしょうか…?」

「なるほど…。――ねぇ、これからお出かけしない?」

「え?」


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銀座の街。正月なのにほとんど人が出歩いていない。

「……明冶神宮の一件で、すっかり静かになっちゃったわね…。帝都の経済もガタ落ちみたい…」

落ち込み、あやめと腕を組んで歩く大神。心配に見つめるあやめ。

「…辛い気持ちはわかるわ。でも、今は己の無力さを嘆いてる場合?厳しいことを言うようだけど、こんな時こそ隊長のあなたがしっかりしなくちゃ!〜〜私達は負けたの、翔鯨丸の援護なしでは手も足も出なかった…。その現実は、しっかり受け止めなきゃ…!」

「……そうですね…」


前方に気づく大神。ポストに背伸びして手紙を入れようとしている少年、なかなか入れられず。微笑み、歩み寄ってかがむ大神。

「どうしたんだい?」

「あ、あのねお兄ちゃん、お手紙出したいんだけど、届かないんだ」

「そうか…。じゃあ、代わりに入れてあげるよ」

「本当?ありがとう!」


『ていこくかげきだんへ・まけないで』の文字にハッとなる二人。

「りっちゃん達と皆で書いたんだ!僕達、み〜んな帝国華撃団が大好きなんだよ!いつも帝都を守る為に悪い奴らと戦ってくれてるんでしょ?でも、この前は負けちゃったって母さんから聞いたんだ。だから、お手紙で応援したいんだ、『いつもありがとう。これからも頑張って』って!」

顔を見合わせる大神とあやめ。

「…あのねボク、お姉ちゃん達、帝国華撃団と知り合いなの。このお手紙、代わりに届けておいてもいい?」

「本当!?わぁ、すっげぇ〜!!よろしくね、おばちゃん!」

「……おばちゃん?」

「〜〜あ〜!じゃあ、お兄ちゃんが預かっておいてもいいかな?」

「…大丈夫よ?お・ね・え・さんがちゃ〜んと届けておくから、ね」


見えないオーラで圧倒してくるあやめに怯える少年。

「〜〜う…、うん…、お願いします、……お姉さん…」

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ミルクホール。手紙を見てコーヒーを飲む大神。あんみつを食べるあやめ。

「『ていこくかげきだんへ』か…。ふふっ、可愛いですね、子供って」

「〜〜私、そんなに老けて見える…?」

「子供から見たらってだけですよ」

「…でも、大神君は『お兄ちゃん』だったじゃない」

「〜〜あやめさんって結構、根に持つタイプですね…」

「〜〜女はそういうのに敏感なのっ!」

「ぷ…っ、あははははっ!」

「もう、笑わなくってもいいでしょ?」

「はは、ごめんなさい。あやめさんの違う一面が見られて得したなって」

「女は何個も顔を持ってるのよ。まだ見せてない顔もあるかもしれないし」

「例えば?」

「紅蜥蜴みたいに夜な夜な美しい女性をさらっては、生贄にしてるかも?」

「それって、自分より美しい人が許せないってことですか?」

「そうね。さすがに誘拐はしないけど、綺麗な人や可愛い子を見ると、やっぱり考えちゃうわね、…大神君が心変わりしちゃうんじゃないかって」

「あやめさん…。そんなこと考えてるんですか?」

「あら、意外だった?でもね、嫉妬ってどんな女の子にもある感情だと思うの。好きな人がいると、気になっちゃうものなのよ。男の子だってそうじゃない?自分より格好良い人を見ると、少し不安にならないかしら?」

「そうですね…。俺ももし、あやめさんに言い寄ってくる男が格好良い人なら嫉妬するかな。…その人が良い人なら良い人ほど。そういう感情は汚いけど、人間なら誰でも持ってるものなんですよね…」

「そうね…。嫉妬、憎悪、怨恨…、都市に集まるそういった人間の負の感情が降魔を生み出していると言ってもいいわ。……私達人間が滅びない限り、降魔も永久に増え続けるんでしょうね…」

「人間が滅びない限り、か…。〜〜何だか皮肉ですね…」

「そうね…。――それで?特訓、どうすればいいか決めた?」

「いえ…。〜〜駄目だなぁ、俺…。何だか自信なくなってきました…」

「こぉら!もう、あなたまでそんなんじゃダメでしょ?」


大神にデコピンするあやめ。

「すみません…。〜〜でも、俺…」

「…さっき、支配人が何を伝えたかったか、わかった?」

「はぁ…。何をするにも全員でやる必要はない…って意味ですよね?」

「そうよ。そこで考えてみたんだけど、特訓は特訓でもそれぞれの個性に合ったメニューを各自で作るの。その人に合った違う方法で伸ばすのよ。特訓って一口に言っても色々あると思うの。私達は皆、違う人間でしょ?」

「なるほど、自分の能力や限界は自分自身が一番知ってますからね…!……やっぱり、あやめさんはさすがですね。俺なんか、一度負けたくらいで随分弱気になってました…。でも、俺達は帝都を守る正義の味方です!この手紙を書いてくれた子供達の為にも頑張らないと…!」

「そうよ、私達が築いてきた絆があれば、今度は絶対に負けないわ!帝都と私達の未来の為にも、次は必ず勝ちましょう!」

「えぇ、絶対に…!」


テーブルの上で手を重ね合い、固く繋ぎ合う大神とあやめ。

★            ★


三越。ネックレスをあやめにあてる大神。

「やっぱり…!このネックレス、あやめさんにピッタリだと思ったんです」

「まぁ、本当?ふふっ、嬉しいな」

「――では、一点でこちらになります」

(〜〜うっ!さすが三越…)


店員に電卓で値段を見せられ、我慢しながら払う大神。

「大神君、今度は向こう行ってみましょ!」

「え?あ、ちょっと待って下さい…!」


財布をしまう大神を引っ張り、ネクタイ売り場ではしゃぐあやめ。

「どれがいい?今度は私が買ってあげるわ」

「本当ですか?えぇと、そうだなぁ…」


自由に体を動かすあやめを見つめる大神。

「どうかした?」

「あ…、いえ、今日はとても元気だなって…」

「だって、大神君とのデートなんですもの!――さ、早く選んで?」


元気に動くあやめを不思議に見つめる大神に声をかける若い女性二人。

「あのぉ、大帝国劇場でもぎりをなさってる方ですよね?」

「え?はい、そうですが…?」

「やっぱり…!前から素敵な方だなって思ってたんです。劇場に行く度にお話ししたいなって…」


女性達に話しかけられる大神に気づき、歩み寄るあやめ。

「でも、俺、もぎりですし…」

「いいじゃない。握手でもしてあげたら?」

「そうですか?じゃあ、これからも帝国歌劇団をよろしくお願いします」

「きゃあ!ありがとうございますぅ〜!」


女性達と握手する大神を不安に見つめるあやめ。店の棚が震え、女性達に倒れてくる。かばう大神。我に返り、惨状に驚きながら立ち尽くすあやめ。

「大丈夫でしたか…!?」

「は、はい…!」

「よかった…。でも、どうして急に…?」


謝罪し、片づける店員達。ざわめく周囲。意識を失い、倒れるあやめ。

「あやめさん…っ!?」

深い眠りに落ちるあやめ。夢の中で笑う殺女。目を覚ますあやめ、三越の通路の椅子で横になっている。あやめに膝枕して座っている大神。

「すみません…。今日は疲れちゃいましたよね?」

「……さっきの娘達は…?」

「皆、無事でしたよ。怪我人は一人も――」

「――そう…、残念」


大神の手を握り、妖しく微笑むあやめ。背筋が凍る大神。

「ふふっ、冗談よ、ちょっと妬けちゃっただけ。――帰りましょうか」

体を起こし、元の表情とオーラに戻っているあやめを不思議に見る大神。

★            ★


「――各自、特訓メニューを書いて俺に提出すること!特訓期間は3週間。場所も方法も各自に任せる。提出期限は明日の朝までだ。忘れんようにな」

支配人室。米田に提出していくさくら達。認め印を押していく米田、すみれのを見て唖然。全て『お買い物』のみ。サロン。怒って机を叩くすみれ。

「〜〜再提出ですってぇっ!?」

「当たり前だ。これは予定を書くんじゃねぇ。特訓メニューを書くもんだ」

「フン!ですから特訓なんて、このトップスタァの私に必要ありません」

「ほぉ?そんなことだと、す〜ぐさくらに追い抜かれるぞ?」

「この私が?ホホ…、支配人もご冗談がお上手ですわねぇ」

「…誰にも見せねぇから、正直に書いてみろ。本当はもうバッチリ組んであんだろ?おめぇが人一倍の努力家だってーんは、俺も知ってんだぜ?」

「……」

「…俺は信じてるからな」


笑って紙を丸め、ごみ箱に捨てて帰る米田。微笑み、紅茶を飲むすみれ。

「ありがとうございます、支配人…」

立ち上がり、自分の部屋に戻って電話をかけるすみれ。

「――はい、神崎でございます」

「…宮田?私です」

「これはこれは、すみれお嬢様…!明けましておめでとうございます」

「おめでとう。…せっかくのお正月ですし、帰ってあげてもよろしくてよ」

「さようでございますか…!旦那様と奥様もお喜びになります」

「実家ではありませんわ。…お会いしたいのは、おじい様です」

「忠義様…でございますか?」

「詳しいことは後で話します。とにかく、今すぐ迎えをよこして頂戴」


受話器を置き、引き出しから写真パネルを出すすみれ、忠義と幼いすみれとの桜武完成記念写真を見つめる。

★            ★


サロン。さくら達にお守りを渡すあやめ。

「わぁ!これ、明冶神宮で売ってたお守りですよね!頂けるんですか!?」

「えぇ。いわば帝国華撃団の絆の証ってとこかしら」

「サンキュー、あやめさん!あはは、家内安全かぁ」

「私達は皆、一つ屋根の下で暮らしてるじゃない?もう家族も同然でしょ?だから皆、いつまでも一緒にいられますようにって願いも込めてね」

「くすっ、そうですね。ありがとうございます」

「お兄ちゃんも持ってる〜?」

「あぁ、ほら」


同じお守りを見せる大神。

「えへへっ、皆、お揃いだね!」

「おおきにな、あやめはん!――そういや、すみれはんはどないしたん?」

「今朝、お守りを渡して見送ったわ。もう特訓に出かけたみたいね」

「えぇっ!?もうかいな…!?」

「ケッ、どうせまたお買い物がどうとかそういうことだろ?」

「ふふっ、やっぱり、すみれさんがいないと寂しいですか?」

「〜〜なっ、何言ってんだよ、さくら!?そんなこと…あるわけ……」

「ふふっ、大丈夫よ。これから少しの間離れ離れになるけど、私達が帰ってくるのは同じ、この大帝国劇場よ。だって、ここが私達の家ですものね」

「ふふっ、そうですね」

「アイリス、わかるよ!このお守りには、あやめお姉ちゃんのあったかい気持ちがい〜っぱい詰まってる…!」

「そうよ、私の思いがいっぱい込もってるわ。特訓中、このお守りを身につけててほしいの。自分が何をすべきなのか、何の為に頑張るのかを見失いそうになった時、きっと力になってくれるわ。だから皆、頑張ってね!」

「はいっ!」


明るい笑顔の花組を見て、微笑む大神。


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