★11−5★



中庭。ベンチに座り、メニューを考える大神。

「特訓か…。肝心なのは場所だよな…。正月だし、実家に顔出してみるか」

大神の目を手で覆うさくら。

「だ〜れだ?」

「その声は…、さくら君だね?」

「ふふ、当たりです!さすがは大神さん、私のこと何でもご存知ですね!」

「ここに来てもう9か月だからね。皆のこともだいぶわかってきたよ」

「そうですか。私なんて未だに地下に行くと迷っちゃって…。あはは!」

「あははは…!さくら君らしいな」

「――あ、強化メニュー、まだ出してないんですか?」

「あぁ、細かく決めておいた方が後で困らないだろう?」

「そうですね。大神さんも頑張って下さいね!すみれさんももう特訓を始めているみたいですし、私も頑張らなくちゃ…!すみれさん、私をライバルとして認めるっておっしゃってくれたんですよ。私、すごく嬉しくて!」

「そうか…。君も負けてられないね!」

「はいっ、では、私も特訓の準備をしてきます!失礼しま〜すっ!!」


敬礼し、元気に走っていくさくら。微笑む大神。冷たい風が吹く。

「少し冷えてきたな…。部屋に戻ろう…」

渡り廊下を歩く大神。鍛練室で竹刀を素振りするあやめが見える。息を荒くし、汗だくで座り込むあやめに駆け寄り、抱き起こす大神。

「大丈夫ですか…!?」

「〜〜情けないわね…。こんな体じゃ、ろくに鍛練もできやしない…」

「無理しては駄目ですよ!安静にしていろって言われたじゃないですか」


竹刀を握りしめ、歯を食いしばって自力で立ち上がるあやめ。

「〜〜駄目よ…!これじゃあ向こうの…っ、思う…つぼだわ…っ!」

「あやめさん…」

「私、かなり負けず嫌いなの。無様に霊力を奪われた自分が許せないのよ」


竹刀を握るあやめの手に自分の手を重ねる大神。

「俺もお手伝いします。愛の力はどんな困難にも打ち勝つ…ですよね?」

「ふふふっ、もう、大神君ったら…。――私のメニューは厳しいわよ?」


大神にメニューを見せるあやめ。

「〜〜うわ、本当にキツいな…」

「前もって、あなたの分も考えておいたの。――ふふっ、よかった、私もあなたと特訓したいと思ってたから…。一緒に頑張りましょうね!」

「はい、よろしくお願いします!」


大神とあやめを屋根裏部屋から見るマリアとカンナ。

「うわぁ…、ははは、イチャつきぶりにますます磨きがかかってるなぁ」

「愛の力…か。ふふっ、隊長が言うと本当にすごそうね」


驚いて空手着を落とし、エンフィールドを手入れするマリアを見るカンナ。

「〜〜な、何…?」

「いや…、あはは!マリアがそんなこと言うとは思わなかったからさ」

「だってそうでしょ?愛と友情で結ばれている帝国華撃団なら可能だわ」

「〜〜マリア…、酒でも飲んだか?」

「…失礼ね。でも、その素晴らしさに気づくのは生きるうえで大事な事よ」

「はは、そうだな。――よっし、あたいもそろそろ行くかぁ!」

「いってらっしゃい。確か沖縄で空手修行でしたっけ?」

「あぁ、見てな、親父ただ一人が成功した牛殺しをマスターしてくるぜ!」

「〜〜な、何だかよくわからないけど、すごそうね…。頑張ってきてね」

「おう、マリアも頑張れよ!えっと、まずは泳いで沖縄まで渡ってと――」


元気に階段を下りるカンナを見送り、磨いたエンフィールドを見るマリア。

「エンフィールド…、私の腕の錆を落とすハードな訓練になるけど、ついてきてくれるわね?」

★            ★


射撃場。エンフィールドで銃の特訓をするマリア。隣にユーリーの気配。

『――外しても焦るな。一発に全ての思いを込めろ』

「〜〜ですが、人間の心を取り戻した私にもう昔のむごさは…」

『銃の腕が全てか?守りたいものを得た時、初めて得る強さもあるはずだ』

「守りたいものを得た時…?」

『もうあの頃のお前とは違う。命令など気にせず、自分の思う通りに動け。――そして強くなれ、お前の守りたい全てのものを守る為に…!』


鋭く狙いを定め、銃を撃つマリア。防弾ガラスが粉々に割れる。

「ユーリー隊長、やりました…!」

喜んで隣を見るが、ユーリーは消えている。微笑み、お守りを見るマリア。

「――私の守りたいもの…、今なら胸を張って言えるわ…!」

★            ★


移動中の車の後部座席に乗り、お守りを見つめるすみれをバックミラー越しに見る岡村。川崎・神崎重工の本社。到着するすみれを出迎える宮田。

「お待ちしておりました、すみれお嬢様」

「…おじい様は?」

「お嬢様がいらっしゃるとお話ししましたら、大変喜んでおられました。貴賓室で待っておられますよ」

「そう。では、通しなさい」

「かしこまりました」


宮田に連れられ、屋敷を歩いていくすみれ。頭を下げていくメイド達。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「フフン、ご苦労様」


貴賓室の扉を開ける宮田。気づき、笑顔ですみれを抱きしめる忠義。

「おぉ、待っていたぞ、すみれ!おぉ、こんなに大きくなって…!」

「お久しぶりです、おじい様。…けれど、年頃の娘に対してもっと他に言うことはございませんの?」

「ははは、すまない。――こんなに綺麗になって」

「まぁ、そんな当たり前のことを!お〜っほほほほほ…!!」

「ではお嬢様、ごゆっくり」


扉を閉め、出ていく宮田。

「よく来てくれたなぁ。そこにかけなさい。今、紅茶を持ってこさせよう」

「まぁ、そんなお気になさらずとも…。――あ、私のはダージリンね。カップを温めるのを忘れたら、承知しませんわよ!?」


メイドに言い、ソファーに座るすみれ。

「ところで、今日はどうした?また重樹と喧嘩でもしたかのぅ?」

「いえ…、今日はおじい様にお話がありまして…」

「わしに?ほほぉ、何かの?」


黙ってソファーから降り、忠義の前で土下座するすみれ。驚く忠義。

「――すみれのワガママ、どうか聞いて頂けないでしょうか…?」

★            ★


花やしき支部。研究員達と霊子水晶の改良の実験を進める白衣の紅蘭。

「――霊子水晶のエネルギー分離を利用して、霊力同士をぶつけ合うんや。そんで、生まれた衝撃をさらに分子に分解すれば…」

「霊力の体積を小さくすれば、同じ質量でも力の増幅は可能ってわけか!」

「なるほどぉ、さっすが、紅蘭嬢ちゃんだぜ!」

「なはは!そんな褒めんといてぇな、調子に乗ってしまいますやろ?――ほな、早速取りかかりまひょ!」

「お〜っ!!」


紅蘭の指示通りに実験し始める研究員達、視察に来る米田に慌てて敬礼。

「よっ、米田司令官…!!」

「ははは、ちっとばかし様子見に来ただけだよ。ほれ、俺のことはいいから、さっさと進めろ」

「了解!」


実験の準備をし始める研究員達。米田に駆け寄る紅蘭。

「米田はん、見に来てくれはったんやね!ほんま、おおきに!」

「もちろんだ。だが、さすがは紅蘭だな。霊子水晶の改良をまさか霊力同士の衝突で行うたぁ…!お偉い学者様でもなかなか思いつかねぇぜ?」

「そんなことあらへんよ。それにまだ成功するかわからんしな…」

「――紅蘭さ〜ん、準備完了しました〜!」

「おおきに〜、ほな、始めよかぁ!」


実験開始。霊力がぶつかり合う振動が伝わるガラス越しに見る紅蘭と米田。

「出力300、順調のようです」

「OK。ほんなら、500まで上げまひょか」


メーターを上げる研究員。ぶつかりが大きくなり、地震。記録する紅蘭。

「こりゃなかなかの威力やな。こっから10単位ずつ上げていきまひょ!」

「ふむ…。なかなか面白ぇ実験だな」

「せやろ?へへっ、うまくいけば光武を大幅に改良できるで!」


爆発に肩をすくめる紅蘭と米田。煙の中から出てくる研究員。

「〜〜げほっ、ごほ…っ!だ、駄目です、装置が力に耐えきれませぇん…」

「そっかぁ。セルシウス鋼で装置の周りをもう一回り固めんとあかんね…」

「あ、そういや、この前の実験で使った残りがあったはずだよ」

「ほんまか!?よっし、それ使お!設計図はこれや、早速取りつけてもろて!」

「よぉし、任せとけ!」


製造班に指示する研究員。活き活きと作業する紅蘭を見て微笑む米田。

「――支部の連中ともうまくやっているようだな」

「心配あらへん、仲良うやってますわ。これも米田はんのおかげや、帝撃になじめへんうちにここで機械いじりさせてくれはった。おかげで支部の皆ともわかり合えたし、ほんま感謝しとる。――おおきにな、お父はん」


驚く米田。

「…あははは、な〜んてな!うちは早くに父様亡くしとるさかい、今は米田はんがうちのお父はんみたいなもんなんよ」

「ハハハハ…、そうか…。お前さんを含めた花組とあやめ君、それに大神…。俺もお前さん達のこと、可愛い子供達だと思ってるぜ」

「米田はん…」

「――セルシウス鋼の取りつけ、終了しました!再開しますか?」

「もちろんや!よっしゃあ、頼んまっせ、霊子水晶!!」


セルシウス鋼を取りつけ、実験再開。うまく霊力値が上昇。

「霊力値、2000!順調に霊子水晶に伝導しています!」

「よぉし、出力最大や〜っ!!」


霊力同士のぶつかり合いが最大になり、大きな地震と火花。耐える紅蘭達。

(〜〜お願いや!うちは大事な仲間の、お父はんの期待に応えたいんや!!)

お守りを握る紅蘭、地震が収まり、目を開く。霊子水晶が輝いている。

「じっ、実験成功〜っ!!」

歓声をあげ、抱き合う研究員達。涙ぐむ紅蘭。

「やった…!――やったで、米田はん…!!」

「あぁ、さっすが俺の自慢の娘だ!」

「へへっ!よっしゃあ、この調子で第2段階、いっくで〜!!」


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沖縄。父の墓に空手着で合掌するカンナ。

「――親父、見ていてくれよな。いつか絶対追い抜かしてやるからよ」

ハチマキを締め直し、凛々しく前を見るカンナ。闘牛場。ウォーミングアップアップするカンナを柵の外から心配するカンナの父の弟子達。

「本当に大丈夫か、カンナ?」

「そうさ〜。花子って暴れ牛の中でも最も凶暴って言われてるんさ〜?」

「心配すんなって。牛殺しをマスターできれば、もっと自分に自信が持てるんだ。それに師匠の父ちゃんと同じ位置に立てたってことにもなるしな」


お守りを首に下げるカンナ。興奮して怒る牛の花子を連れてくる審判。

「やっとおでましか…。へへっ、すきやきにして食ってやるぜ!」

「――よぉい、はじめ!」


ほら貝を吹く審判。カンナに突進してくる花子。跳んでよけるカンナ。

「面白ぇ!このあたいを串刺しにしようってか?」

「カンナ、頑張れ〜!!」

「勝ったら俺んとこのさとうきびでサーターアンダギー作ってやるさ〜!!」

「ゴーヤチャンプルーとミミガーのフルコースもあるよ〜!!」

「よぉし、約束だからなっ!」


突進してくる花子の角をつかみ、押し返そうと踏ん張るカンナ。

「〜〜あたいはなぁ、強くなりたいんだよ…っ!もっともっと強くなりたいんだ、帝都を守る為に…!あたいを必要としてくれている…帝撃の…っ、皆の為にいいいいいっ…!!」

花子を持ち上げるカンナ。じたばたする花子。どよめく弟子達と人々。

「うおおおおおおおっ!!必殺・牛殺しいいいいいっ!!」

花子を振り回し、客席に投げ飛ばすカンナ。のびている花子。

「――や、やった…!勝ったああああ〜っ!!」

喜び、カンナを胴上げする弟子達。指笛で踊る人々。

★            ★


すきやきと沖縄料理を食べながら、さくらとキネマトロンで話すカンナ。

「とうとう牛殺しをマスターされたんですね!おめでとうございます!!」

「サンキュー!いやぁ、さすがのあたいも少々手こずったぜ」


泡盛を飲み、踊る人々。すきやきをほおばる弟子達。

「これで親父と肩を並べられたんだ。やっと同レベルってわけさ…。はは、父ちゃんを超えられるのはまだまだ先だな…」

「カンナさんならきっとできますよ!えっと、次は熊殺しでしたっけ?」

「あははは、急には無理だよ。親父もできなかった熊殺しをマスターするんには、もっともっと修行しねぇとな!」

「そうですね。――カンナさんのお話を聞いたら、私も元気が出てきました。お互い、頑張りましょうね!」

「もちろんだ!親父はあたいに形見一つ残してくれなかったけどよ、父ちゃんが教えてくれた空手の型をあたいは受け継いだ。それってあたいが戦い続ける限り、父ちゃんはあたいの中で生き続けてるってことだろ?だからよ、さくらの北辰一刀流の剣にもおめぇの父ちゃんが生きてるんだ。さくらが剣を辞めない限り、父ちゃんはさくらの中で生き続けるんだぜ」

「私の中にお父様が…」


荒鷹を見つめるさくら。

「あははっ、さぁて、今日は腹いっぱい食うとするか!んじゃ来週、帝劇でな!パワーアップしたカンナちゃんを見て驚くなよ〜?」

「カンナさんこそ覚悟してて下さいね、私も新・真宮寺さくらになって帰りますから!」

「あはははっ、楽しみにしてるぜ!そんじゃあな〜っ!!」


通信を切るカンナ。微笑み、荒鷹を抱きしめて夜空の月を見上げるさくら。

★            ★


仙台。山奥で修行するさくら。真宮寺の屋敷で茶をする若菜、桂、権爺。

「うぅ、さくらお嬢様、少し見ねぇ間にますますご立派になられて…!」

「真宮寺の新しい当主としての自覚が芽生えてきたようですね」

「じゃが、本当の試練はこれからじゃ。さくらが真の荒鷹の継承者としてどれほど成長できるか…、ふふっ、今から楽しみじゃわい」

「――たああああっ!!」


竹を斬っていくさくら。何本もの竹が同時に同じ角度で切れる。

「〜〜こんなんじゃ駄目だわ、もっと頑張らないと…!はああああっ!!」

竹を斬り続けるさくら。川の水で顔を洗い、一馬の墓に合掌するさくら。

「お父様、ほんの少しの間ですけど、さくらは仙台に帰ってきました。えへへっ、これからも私とお母様達を見守ってて下さいね」

柔らかい風。さくらの腰につけた一馬のお守りの鈴が鳴る。背後の気配に振り返るさくら。一馬の霊が微笑んで立っている。

「――そうでした…。私とお父様はいつでも一緒でしたね…!」

歩き始める一馬を追うさくら。大きな桜の樹の下で止まり、消える一馬。

「ここは…、昔、お父様に剣を教わった場所…」

回想。一馬に厳しく剣を教わる幼いさくら。思い出して笑顔で樹を見上げ、剣の稽古をするさくら。

『――ただ剣を振るだけでは、何も斬れない。心の目…、心眼で斬れ!』

『――怒りや憎しみの剣は使い手を鬼に変える。どんな時も優しさと思いやりを忘れるな。それを力に変えるのが本当の剣の使い手だ』

『――よく見ていろ。この剣技が使えるようになればお前は立派な当主だ』


百花繚乱を放つ一馬。桜の樹を抜け、向こう側の岩だけを砕く桜吹雪。

(心眼…、優しさが生み出す力…。お父様、さくらは負けません…!私が愛する帝都、そして、仲間達を守る為に…!!)

「――破邪剣征・百花繚乱!!」


夕日に照らされた桜の樹を抜け、向こう側の岩だけを砕く桜吹雪。

「で、できた…!できたああ〜っ!!」

喜んではしゃぐさくら。遠くから見守る桂と若菜。

「遂に北辰一刀流の奥義を習得したようじゃのぉ」

「えぇ、さくらさんは本当に立派に成長してくれましたね…」


野菜が入った籠を背負い、さくらに駆け寄る権爺。

「さくらお嬢様ぁ、今晩は裏の畑で採れた特製鍋ですぞ〜!」

「やったぁっ!…あ、聞いて、私ね――!」


さくらの腰の紐に結ばれ、揺れる一馬のお守りとあやめのお守り。見守り、頷いて消える一馬の霊。

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大帝国劇場・アイリスの部屋。アイリスに勉強を教えている大神。

「――正解だ!すごいじゃないか、アイリス」

「えへへっ、アイリス、頑張ったよ〜!ねぇ、次は何の科目にする?」

「そうだな…。今日はいっぱい頑張ったから、ここまでにしとこうか」

「えぇ〜!?もう終わり〜?」

「ハハハ、アイリスは勉強が好きなのかい?」

「う〜ん、本当はそんなに好きじゃないけどぉ、お兄ちゃんの授業はだ〜い好き!だってその間、お兄ちゃんはアイリスだけのものだもんっ!」

「あはは、そういうことか」

「うん!だって、どんなことするにも一人より誰かと一緒の方が楽しいもん。アイリス、ずっと一人ぼっちだったから他の人と一緒に何かをやるっていうのに憧れてたんだ。戦いは怖いけど、皆と一緒なら頑張れるよ!」

「そうか…。アイリスは偉いな」

「えへへ〜っ!――ねぇお兄ちゃん、これからもず〜っと皆一緒だよね?」

「あぁ、もちろんだ。これからも俺達皆、ずっと一緒だよ」

「ふあああ…。……えへへ、安心したら、何だか眠くなってきちゃった…」

「ハハハ…、ちょっと張り切りすぎたかな。さぁ、お昼寝にしようか」

「は〜いっ!」


★            ★


枕元にお守りを置いてパジャマで眠るアイリスを見守り、頭を優しくなでる大神。自分の部屋に戻り、破邪の陣を考える大神、戦術書や資料が散らばった部屋の机に向かって悩み、イラつきながら紙を丸める。

(〜〜駄目だ…、こんなんじゃ皆の能力を生かしきれない…。皆、必死に頑張ってるんだ。十分に力を引き出してやれる配置を俺が考えないと…!)

ノックし、入ってくるあやめ。

「あら、大神君もお勉強?」

「あ…、はい、そんなところです」

「アイリスはお昼寝の時間になっちゃったみたいね」

「えぇ、アイリスはまだ成長期ですからね。たくさん寝るのも必要ですよ」

「そうね…。――ねぇ、ちょっと来てくれる?」


★            ★


あやめの部屋。『放魔書記伝』を大神に渡すあやめ。

「――はい、これ」

「これは…?」


ページをめくり、驚く大神。破邪の陣について詳しく載っている。

「破邪の陣について調べてるんでしょ?良い資料があったから、貸してあげようと思って」

「ありがとうございます…!」

「少し難しい本だけど、あなたなら解読できるはずよ。この写本はね、私が対降魔部隊に入隊した頃に米田司令に頂いたものなんだけど、あの頃はまだ勉強不足で、読んでもさっぱりだったわ」

「あ、あやめさんでも難解なんですか…!?〜〜少し不安だな…」


大神の額を小突くあやめ。

「こぉら、しっかりしなさい、大神君!花組に習得させるんでしょ? あなたが中心になって頑張らなきゃ、滅ぼせる魔も滅ぼせないわよ?」

「〜〜す、すみません、頑張ります…!」

「ふふっ、よろしい。私は良い考えだと思うわ。司令にはもうお話しした?」

「いえ、ある程度まとめてからにしようと思って…。花組の能力と霊力の同調をもっと研究して、破邪の力を継ぐさくら君を中心に他の隊員で魔法陣を描くように配置すれば、きっと…いえ、必ず勝てると思います!」

「その意気よ!…でも、そう簡単には習得できないわよ?まずは己の体で理想の陣形を感じ取ること…。――まずは、腕立て100回ね!」

「了解っ!」


鍛練室。合気道と剣の特訓をする大神を指導するあやめ。ふらつくあやめを支える大神。照れ、微笑むあやめ。二人の腰元で一緒に揺れるお守り。


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