★18−3★



中庭。眠る犬・トルテをなで、神剣ではない刀を携え、暗い顔でベンチに座るかえで、懐中時計を気にする。21時まであと5分。

(〜〜罠である可能性は高いわ…。けど、もしさっきのが本当に姉さんだったとしたら…)

見回りで通りかかり、かえでに話しかける大神。

「かえでさん…?こんな時間にどうされたんですか?」

「大神君…。……何でもないの…。夜風にあたってただけよ…」

「そうですか…。…隣、いいですか?」

「え?…えぇ」


懐中時計をポケットに隠すかえでの隣に座る大神。

「……双葉お義姉様とは連絡取れた…?」

「〜〜それがまだ…。姉さんのことだから心配ないとは思いますが…」

「そう…。ふふっ、やっぱり頼りになる姉がいるっていいものよね…」

「かえでさん…」

「〜〜あの時、やっぱり一緒に残った方がいいんじゃないかって後悔に苛まれてるのよ…。あやめ姉さんと同じように、双葉お義姉様ももしいなくなったらって考えるだけで胸が苦しくなるの…。〜〜あなたには私と同じ苦しみを味わってほしくないから…」


顔を両手で覆って嗚咽を漏らすかえでを抱きしめる大神。

「ありがとうございます。俺と姉さんのことをそんなに心配してくれてたなんて…。かえでさんのそういう優しさ、あやめさんにそっくりですね」

「そ、そうかしら…?」

「はい。かえでさん、天雲神社でおっしゃってましたよね、『同じ血を分けた姉妹だから、姉さんの考えそうなことはわかる』って…?俺もあなたと同じように、歳の離れた弟である俺の面倒を見てくれた双葉姉さんのことはよくわかるつもりです。安心して下さい。姉さんはあんな所でくたばるような人じゃありませんから。今はかえでさんと俺、二人の姉さんの帰りを信じて待ちましょう」

「大神君…。そうね…。私達の姉さんですもの、きっと無事に帰ってくるわよね…」


微笑み、大神の肩に寄り添うかえで。

「さっきはありがとう、私を信じると言ってくれて…。ふふっ、大神君の期待に応えられるよう頑張らなくちゃね…!」

「はは、よろしくお願いします」


21時になり、時計が鳴ってハッとなるかえで。トルテが目を覚まし、急に唸って吠え始める。

「どうした、トルテ…?」

冷たい嫌な風が吹き、顔を上げるかえで。

「〜〜来たわ…!」

「え…?」

「――あらあら、約束を破るなんて悪い娘ねぇ」


瞬間移動してきて、大神とかえでの前に姿を現す殺女。

「あやめさん…!?」

「〜〜やっぱり罠だったのね…。一人で来いなんておかしいと思ったのよ」

「……そっちこそ坊やを護衛につけるなんて、いい度胸してるじゃないの…!」

「ふふっ、軍人とはいえ、私も女ですもの。好きな男に守ってもらって何が悪いの?」

「〜〜その坊やから離れなさい…っ!!私の獲物なのよ…!?」


殺女の放った衝撃波にベンチごと吹き飛ばされる大神とかえで。

「うわあああ…!!」

「きゃあああ…!!」


抱き合うように倒れた大神とかえでにイラつき、握っている二人の手をヒールで踏みつける殺女。

「〜〜離れなさいって言ってるでしょっ!?私の言うことが聞けないの…!?」

「うあああっ!!」

「ああああ〜っ!!」

「あっはははは…!!その顔、最高だわ…!!私をコケにした罰として、う〜んとおしおきしてあ・げ・る♪」

「〜〜ぐぅ…っ、やめて下さい、あやめさん…っ!」


殺女の足を掴む大神に妖しく笑い、大神を蹴る殺女。

「ぐあ…っ!!」

「フフ…、この女の後であなたも死ぬほど気持ちよくさせてあげるわ」

「大神君…っ!はああああっ!!」


刀で殺女に斬りかかるかえで。黒い羽が舞い、目をくらますかえで。

「きゃああっ!!〜〜あうう…っ!」

殺女に腕を掴まれ、髪を引っ張られるかえで。

「あら、神剣じゃないじゃないの。フフ…、ちゃんと持ってこなくちゃダメじゃない。普通の刀で私に勝てるわけないでしょ?」

刀を指で挟み、刀身を折ってかえでの首に突きつける殺女。

「〜〜かえでさん…!!」

「うふふふ…、良い子だから姉さんの元へいらっしゃい。うんと可愛がってあげるわ」

「いやああっ!!大神くぅんっ!!」

「〜〜かえでさぁぁん…!!」


吠え、殺女の腕に噛みつくトルテ。折った刀身を手から離す殺女。

「きゃあああっ!!」

その隙にかえでを救出し、鞘を抜いた真刀を殺女に突きつける大神。

「いくらあなたでも、かえでさんを傷つけるつもりなら容赦しません…!」

悔しく顔を歪め、噛まれた腕をかばいながら後ずさる殺女。

「〜〜フ…フフフフ…、どうやら作戦変更の必要があるようね…――!!」

息を荒げて胸を押さえ、うずくまる殺女。

「姉さん…!?」

『――二人を傷つけさせるものですか…!!』


殺女とあやめの姿と声が二重に重なって見え、聞こえる大神とかえで。

「あやめさん…!?」

「やっぱり、まだ消えてなかったんだわ…!」

「〜〜おのれぇ…っ!!」

『きゃああああああっ!!』

「〜〜あやめさぁぁん…!!」


殺女の全身から放たれた闇のオーラに呑まれ、消えるあやめの生霊。

「〜〜ハァハァ…、フフ…、これで完全に消滅したはずよ」

「〜〜よくも姉さんを――!」


飛んできた闇の衝撃波を受け、倒れる大神とかえで。

「うわあああっ!!」

「きゃあああっ!!」

「――何をてこずっている?」


現れる叉丹に、かえでをかばいながら真刀を構える大神。

「葵叉丹…!」

「〜〜申し訳ございません…!すぐに奴らの始末を――!」

「――その言葉は聞き飽きたわ!失敗作めが…!!」

「え…?〜〜きゃああああああっ!!」


叉丹に黒い電流を流され、気を失う殺女を抱き留める叉丹。

「〜〜姉さん…!!」

「実に脆い…。やはり科学的に最終降魔を造るには限界があったようだな」

「〜〜失敗作だと…!?あやめさんを何だと思ってるんだ…っ!!」

「ただの被験体、モルモットだとも。私の偉大な研究に協力できただけでもありがたいと思うんだな」

「〜〜貴様ぁ…っ!今すぐあやめさんを戻せぇぇぇっ!!」


真刀滅却で斬りかかる大神に殺女を抱えながら光刀無形で応戦する叉丹。

「お前のくだらん実験からすぐにあやめさんを解放しろ…!!」

「私の実験がくだらんだと…?〜〜貴様に科学の何がわかる…っ!?」


サタンの力を解放し、闇の霊力で劇場1階の窓ガラスを割る叉丹。吹き飛ばされる大神とかえで。

「うわあああ…!!」

「きゃあああ…!!」

「ククク…、私を本気で怒らせぬことだな。真のサタンの力はまだまだこんなものではないぞ?」


指を鳴らし、夢組が張っていた大帝国劇場の光のバリアーを破る叉丹。

「〜〜バリアーが…!!」

「少しは防犯設備を強化したみたいだが、所詮、無意味よ…!」


殺女を瞬間移動させて消し、劇場の壁を斬って侵入する叉丹。

「〜〜しまった…!!」

「〜〜早く追いかけないと――!」


肩を叩かれ、ハッと振り返って、驚く大神とかえで。

「あなたは…!」

「花小路伯爵…!?」

「こちらの用意は万全だ。君達も準備はいいかね?」


微笑む花小路に顔を見合わせる大神とかえで。

★            ★


『――緊急警報、緊急警報!帝劇内の各所に強い妖力反応を確認!黒之巣会が侵入した模様です!至急、戦闘態勢に移行して下さい…!!』

劇場内を破壊して回る猪(羅刹)、鹿(刹那)、蝶(ミロク)。駆けつけ、それぞれ武器を構える花組。

「〜〜邪悪な気配がしたと思ったら、やっぱりね…」

「あたい達の劇場を好きにはさせねぇぜ…!――どりゃああああっ!!」


カンナの拳を受け止め、飛ばす猪。

「うわあああっ!!」

「〜〜カンナさん…!!」

「へへっ、これくらい大したことねぇって…!」

「〜〜まったく、しつこいったらありゃしませんわ…!この方々は一体何度甦ったら気が済むのかしら…!?」

「――すみれ…、殺す…」

「〜〜何だか様子が変だよ…!?」

「うち、聞いたことある…。反魂の術を使うて何度も甦らせられた魂と肉体は最後には自我を失うて、生きる屍になるて…。〜〜人間らしさを失う代わりに、とてつもない力を得るてな…!」

「〜〜そんな…!?」

「すみれ…花組…殺す…」

「殺す…」

「殺す…」

「〜〜うええん…!怖いよぉ…っ」


泣きながら、さくらにしがみつくアイリス。

「〜〜とにかく、格納庫に急ぐわよ…!」

★            ★


猪、鹿、蝶によって壊されていく劇場内を作戦指令室のモニターで見る三人娘と薔薇組。叉丹の空けた壁の穴から次々に侵入してくる降魔の大群。

「〜〜大変です…!降魔まで劇場内に…!!」

「〜〜ここが制圧されるのも時間の問題ね…」

「〜〜い〜や〜!彼氏いないままで死にたくな〜いっ!!」

「〜〜ああ〜ん、助けて〜ん、一郎ちゃ〜ん!!」


泣きながら抱き合う由里と斧彦。走って作戦指令室に入る花組。入ってこようとした降魔を殴り、扉を閉めるカンナ。

「〜〜ふぃ〜、間一髪だったな…」

「安心してる暇はないわ。早く神武に搭乗しないと――!」

「〜〜あ〜ん!マリアさぁ〜ん!!怖かったですぅ〜!!」


マリアに抱きつく椿。

「〜〜つ、椿…、抱きつくのは後にしなさい…っ!」

「あの…、大神さんと代理はどこへ…!?」

「えっ!?まだ来てないんですか…!?」

「〜〜まさか奴らに…!?」

「――安心しろ。二人ならここだ」


米田、花小路と共に格納庫の扉から出てくる大神、かえで、新次郎、ラチェット。大神、かえで、ラチェットは戦闘服。

「米田司令…!」

「全員、轟雷号へ搭乗しろ…!!大帝国劇場から避難を開始する…!!」

「えぇっ!?おうち、捨てちゃうの…!?」

「捨てやしないわ。ちょっとお出かけするだけよ」

「お出かけってどこへ…?」


降魔達によって今にも破られそうな扉にハッと振り返る一同。

「早く乗れ!詳しい話はそれからだ…!!」

「りょ、了解…!」


格納庫へ急ぎ、轟雷号へ乗る花組を誘導する大神とかえで。扉が破壊され、降魔達が作戦指令室に入ってくる。

「〜〜しまった…!」

「皆、急いで…!」

「――ご安心下さい。ここは我々・薔薇組にお任せを…!」

「え…?」

「魔神器を奪われた汚名をここで返上してみせます…!」

「一郎ちゃんとかえでちゃんも早く乗って…!」

「いや、でも…っ!?〜〜うわ…っ!!」


大神とかえでを突き飛ばし、無理矢理、轟雷号に乗せる斧彦。

「フフン、オカマを怒らせるのがどれほど恐ろしいか教えてあげるわ〜ん!」

「私、琴音さんにどこまでもついていきます…っ!!」

「よく言ったわ、斧彦、菊之丞!派手にいくわよ〜っ!!」


『ぶっとびくん』と『小型爆弾ゴーゴーくん』で降魔達を倒す薔薇組。

「あ〜っ!!うちの発明品、いつの間に…!?」

「ちょっと貸してくれたっていいじゃないの〜。私達はあなた達と違って、かよわい乙女なんだからぁ〜」

「〜〜乙女って…」


轟雷号の操作に必死に取りかかる三人娘。邪魔しようとする降魔達。

「〜〜あ〜ん!集中できませぇ〜ん…!!」

「私が発車させるから、椿と由里は皆さんに同行して車内で操縦を…!!」

「かすみさん…!?」

「〜〜そんな…、一人で残るなんて無茶よ…!」

「けど、私達の中の誰かが残って発車させないと…――きゃ…っ!?」


かすみに襲いかかった降魔を斬る加山。

「加山さん…!」

「君は操縦に専念してくれ!その間は俺が守る…!――月組武装部隊、出動!!」

「了解!」


武装した月組隊員達が忍刀と火縄銃で降魔達に攻撃。うなずき、発射準備を進めるかすみ。

「早く行って…!」

「〜〜でも…」

「大丈夫。離れていても、私達三人娘の心はいつも一つよ…!」

「かすみさん…」


轟雷号から顔を出し、椿と由里に報告するラチェット。

「――轟雷号発車の準備、こちらも完了したわ!操縦をお願い…!!」

「了解!」「了解!」


背後からラチェットに襲いかかる降魔。

「〜〜ラチェットさん、危ない…!!」

「きゃあ…っ!?」

「ラチェットさん…!!」


ラチェットをかばい、ダイブする新次郎。降魔をエンフィールド(改)で撃つマリア。押し倒され、近くにある新次郎の顔に赤くなるラチェット。

「た…、大河君…」

「大丈夫ですか?お怪我の方は…――!!」


ラチェットの胸を掴んでいることに気づき、赤くなって慌てる新次郎。

「〜〜うわわ…っ、す、すみません…!!これは事故っていうか…!!」

「うふふっ、帰ったらいっぱい触らせてあげるわね」

「ラ、ラチェットさん…」

「やるなぁ〜、新次郎!俺達も負けてられないなぁ〜、かすみっち♪」

「〜〜いいから、真面目に戦って下さい…っ!――米田司令、こちらも発車準備、完了しました!」

「よし、――轟雷号、発車!!」

「了解――!」


レバーを上げようとするかすみの近くに衝撃波が飛んできて、吹き飛ばされるかすみ。

「きゃあああっ!!」

「〜〜かすみっち…!!」

「――逃げようとしても無駄だ…!」


猪、鹿、蝶を引き連れ、格納庫に入ってくる叉丹をかすみを抱きしめながら睨む加山。

「〜〜大河君、私も――!」

「早く乗って下さい…!!」

「あ…っ!〜〜待って!大河君…!!あなた達だけじゃ危険だわ…!!」


ラチェットを轟雷号に押し込んで扉を閉め、凛々しく敬礼する新次郎。

「僕、ラチェットさんが帰ってくるの、ここで待ってますから…!」

「大河君…」

「一郎叔父、ここは僕達に任せて下さい!」

「花組と米田司令を頼んだぞ…!」

「新次郎、加山…!」

「〜〜く…っ!――轟雷号、発車ぁぁっ!!」


加山に支えられながらレバーを上げ、轟雷号を発車させるかすみ。

「逃がすかぁぁぁっ!!」

衝撃波を轟雷号に向けて放つ叉丹。

「防御システム、作動…!!」

「了解!」「了解!」


車内で操縦し、後部からミサイルを撃って衝撃波を打ち砕く由里と椿。

「全員、衝撃に備えろ…!」

衝撃波が爆発した衝撃で揺れる車内。

「きゃあああっ!!」

バランスを崩し、倒れそうになる花組。かえでを抱き止め、耐える大神。

「へへ、簡単にくたばってたまるかってーんだ…!」

スピードを上げ、逃げ切った轟雷号に舌打ちする叉丹。

「〜〜チッ、逃げ足の速い奴らめ…」

叉丹を取り囲む新次郎、加山、かすみ、薔薇組。

「フフン、さぁ〜、どうするつもりかしら、色男さん?」

「私達をさらいたいなら、さらってちょうだ〜い♪」


色目を使い、叉丹に迫る薔薇組。

「〜〜ざっ、雑魚相手に私が出るまでもない…!――行け、降魔!帝国華撃団の本拠を跡形もなく崩壊させるのだ!!」

黄昏の三騎士と共に慌てて瞬間移動する叉丹。

「いや〜ん、帰るの早すぎですよぉ〜…」

「〜〜こればっかりは叉丹に同情するな…」

「〜〜薔薇組さんがある意味、真の最終兵器かもしれませんね…」

「キシャアアア…ッ!!」


吠える降魔達に構える新次郎達。

「皆さん、やりましょう!一郎叔父達の代わりに僕達が劇場を守るんです…!!」

「フフ…、我々を雑魚呼ばわりしてくれたお礼、きっちり返してあげるわ…!!」


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