★18−7★



聖魔城の研究室に瞬間移動して、転びそうになる紅蘭。

「〜〜うわっととと…!ふぅ〜、びっくらこいたぁ〜」

研究室を見渡す紅蘭。

「ここは叉丹の研究室やろか…?〜〜不気味な機械ばっかりや…。光武を造ったんと同じ人が造ったもんやなんて信じられへん…。〜〜せっかくの知識と技術をこんな形に使うなんて…、ほんま悲しいこっちゃ…」

警報音が鳴り、振り向く紅蘭。バリアーの中で闇の霊力を充填する闇神威を発見。

「〜〜叉丹の戦闘人型蒸気…。これを使い物にならへんようにしておけば、後々楽になるかもしれへんな…」

機械で調べ、揚力反応が弱い箇所を狙って、爆弾でバリアーを壊す紅蘭。

「…安心しいや、ちょいと動かんように設定し直すだけや。あんさんをこれ以上悪の道になんて進ませへんからな…!」

神武から降り、闇神威に語りかけて撫で、霊子水晶と導線をペンチで切る紅蘭。警報音が鳴り、室内が赤く点滅。シャッターが下り、部屋が孤立。

「〜〜あかん…!逃げ道を塞がれてしもうた…!!」

降魔達が四方八方から壁を破って出てきて、紅蘭を取り囲む。

「〜〜罠が発動しようと構わへん…。うちはうちのできることを最後までやるだけや…!」

闇神威に爆弾を取りつけ、神武に搭乗して爆弾を起動させる紅蘭。装置が爆破されていく中、闇神威がゆっくり動き始める。

「最終防衛システムっちゅーわけやな…?さすが山崎はんや…。〜〜うちも負けへんで…!」

紅蘭の神武を剣で攻撃する闇神威。連弾発射で応戦する紅蘭。

「〜〜あと少しやのに…しぶといやっちゃなぁ…」

降魔達が続々、紅蘭の周りに集まってくる。

「フフン、ええでぇ…!せっかくやさかい。もっと集まってきぃや…!」

紅蘭の神武を攻撃する闇神威と降魔達。

「〜〜へへっ、そんなん痛くも痒くもないわ…!うちのことはこの子が守ってくれるさかいに…!なぁ?」

微笑み、神武の機体を撫でる紅蘭。反応し、緑に光る紅蘭の神武。

「堪忍な…。こんな形で一緒に最期を迎えるんは、うちも悲しいけど…」

瞳を閉じて深呼吸し、神武と波長を完全にシンクロさせて霊力値を最大限に高め、目を開けて闇神威と集まってくる降魔達を凛々しく見つめる紅蘭。

「山崎はん、よう見ててや…!――これがうちの科学力やぁぁ…っ!!」

緑の光の霊力を放出させ、闇神威と降魔達を包む紅蘭。浄化され、消えていく降魔達。完全に停止する闇神威。霊力が尽き、神武と共に倒れる紅蘭。

「へへ…、ようやったでぇ…。さっすがうちのパートナーや…」

弱々しく微笑み、機内で神武を撫でる紅蘭。霊力値が急速に下降していく。

「……これで闇神威は使えんようになって…、城の降魔も激減したはずや…。――あとは頼んだで…、皆はん……」

静かに瞳を閉じる紅蘭をコックピットから降ろし、手の上に乗せる神武。

「へへ…、あったかいわぁ…。おおきにな……」

神武の温もりに包まれながら、静かに息を引き取る紅蘭。

★            ★


警報音が鳴り、紅蘭の霊力反応が消えるのをモニターで見る大神達。

「〜〜隊長、紅蘭が…!」

「〜〜く…っ、紅蘭…」

「〜〜私のせいです…。私のせいで紅蘭が…!うっ、ひっく…うぅ…」

「〜〜さくら君のせいなんかじゃないさ…」

「〜〜でも…、私があんな罠に引っかからなければ…っ」


大神が殺女の罠に引っかかり、捕らわれるかえでを回想し、拳を握る大神。

「〜〜もういやだぁ…!!皆…、皆いなくなっちゃうよぉ…」

「……紅蘭のことだもの。無駄死にしたわけじゃないと思うわ…」

「〜〜だけど…、死んじゃった人は生き返らないんだよ…?」


眉を顰め、泣くアイリスの頭を撫でながら抱きしめるマリア、殺気を感じ、銃を撃つ。

「――ぎゃあああっ!!」

撃たれ、左胸から血を流しながらも笑って歩いてくる鹿(刹那)。

「…どうやら、あなたとは腐れ縁の仲みたいね」

「マリア…クワッサリー…きひひひひっ!」

「その名前はとっくに捨てたわ…!――パールクヴィチノィ!!」


瞬間移動してマリアとの間合いを詰め、爪で攻撃する鹿をよけるマリア。

「〜〜マリア…!」

「〜〜隊長、さくらとアイリスを連れて先に行って下さい!奴は私が食い止めます…!」

「マリアさん、やめて下さい!〜〜マリアさんまでいなくなったら私…」

「〜〜早く行きなさい…!あなたは裏御三家の末裔の一人として他にやるべきことがあるでしょう…!?」

「〜〜でも…っ」

「あやめさんがお守りをくれた時に言ってくれたでしょう、どんなに離れていても私達はいつも一緒だって…?」

「マリアさん…」

「〜〜ぐす…っ、マリアぁ…」

「…隊長、後は頼みます」

「……死ぬんじゃないぞ?遺された人の悲しみを君はよく知ってるだろう…?」

「……最善を尽くします」

「〜〜いやああっ!!マリアさぁぁんっ!!」

「〜〜マリアぁぁっ!!」


泣き叫ぶさくらとアイリスを連れていく大神。鹿を睨み、対峙するマリア。

「今日こそ決着をつけてあげるわ…!」

「ひひひっ!クワッサリー、死ね!!」

「〜〜その名で呼ぶなぁぁっ!!」


銃を連射するマリア。素早くよけ、笑いながら爪で攻撃する鹿。

「〜〜チッ、――スネグーラチカ!!」

氷の精霊を爪で破壊する鹿、弾切れになったマリアの神武を見て笑う。

「ひゃはははっ!!弾切れかなぁ?」

「〜〜弾ならまだあるわ…!」


ハッチを開け、エンフィールド(改)で撃つマリア。

「ひゃはははっ!!無駄無駄ぁぁ!!」

5発の銃弾をよけ、マリアの左胸に爪を貫き通す刹那。

「〜〜かは…っ!!」

血を吐き、刹那を悔しく睨むマリア。

「これで…とどめだぁぁ!!」

もう片方の腕の爪を振り上げた鹿の額に6発目の銃弾を撃ち込むマリア。

「〜〜こ…っ、これはぁぁぁ…!!」

「残念だったわね…。最後の銃弾は夢組の霊力を込めておいたのよ…っ!」


マリアに蹴り飛ばされ、地面の上で黒い炎に包まれて苦しみ、悶える鹿。

「ぎゃあああああ…!!体が…体が焼けるぅぅぅ…!!」

体が溶けてなくなる鹿。血だらけの左胸を押さえ、息を荒げながら神武の操縦席に戻るマリア。

「ハァハァ…、とりあえず…任務完了ね……」

神武を動かそうとするが、傷が痛み、動かせないマリア。

「〜〜くっ、この程度の傷…っ」

左胸の出血を手で押さえて血を吐き、操縦パネルの上に倒れ込むマリア、意識が朦朧としてくる。

「〜〜く…っ、こんな所で…倒れている場合じゃないのに…っ!私には…まだやるべきことが――!」

『――マリア…』


背中に温かい感覚。ユーリーの霊がマリアの背中を抱きしめている。

「ユーリー…隊長…?」

マリアを操縦席の背もたれに寄りかからせるユーリー。

『真面目なところは昔と変わらないな…。君はすぐに無理をしようとする…。仲間の心配する顔がそんなに見たいのか?』

「〜〜しかし、私は…――!」


マリアにキスをするユーリー。

『君は十分に頑張ってきた。少しくらい休んだって誰も文句は言わないさ』

「ありがとうございます…、ユーリー隊長…。いつもそうして私を見守ってて下さったんですね…」

『あの夜、約束しただろう?結婚して、ずっと君の傍にいると…』

「ユーリー隊長…。あぁ、これが死というものなのですね…?不思議です…。温かくて心地良い…。もっと冷たくて孤独なものかと思ってたのに…」

『俺の腕の中でしばしお休み…』

「永遠に…お慕い申し上げます…、ユーリー…隊長……」


ユーリーの霊に抱かれ、涙を流して静かに瞳を閉じ、息を引き取るマリア。

★            ★


警報音が鳴り、マリアの霊力反応が消えたことがわかったさくら達。

「〜〜マリアさぁん…」

「〜〜うっ、うぅ…、マリアぁぁ…」


泣き崩れるさくらとアイリスを見つめ、拳で壁を叩く大神。

「〜〜俺は何て無力なんだ…!?愛する人も大切な仲間も…何一つ守れてないじゃないか…っ!!」

「大神さん…」

「〜〜お兄ちゃぁん…。ひっく…、ひっく…」


大神にしがみつき、泣くアイリス、水面に浮かぶ碑石を発見。

「ねぇ、あれは何…?」

「さぁ…?書かれている文字は古代文字みたいだが…」

「古代文字…?」

「昔の人達が使っていた文字のことさ」


碑石の周りの水が血のように赤く染まっている。

「〜〜あれって、全部血なのかな…?」

「〜〜だとしたら気味が悪いわね…」

「――そうか…!多分、あれは反魂の術を使う時に使用する碑石なんだ」

「それって確か紅蘭が言ってた、死者を甦らせる術ですよね…!?」

「あぁ、叉丹はあれで刹那と羅刹とミロクを何度も甦らせてるに違いない」

「〜〜亡くなった人の魂をもてあそぶなんて許せない…っ!」


決意し、水上を浮遊していくアイリス。

「アイリス…!?」

「これが失くなれば、もうあの人達は生き返らないんでしょ…!?アイリス、壊してくるね!」

「〜〜待て、アイリス!罠かもしれないぞ…!?」

「だ〜い丈夫!アイリス、強いから平気だも〜ん♪」


水上を飛び、碑石の前に浮かぶアイリス。

「〜〜これさえなければ、マリア達は死なずに済んだのに…。〜〜え〜いっ!!」

黄の光の力を放出させ、碑石に放つアイリス。碑石にひびが入る。

「やったぁ…!」

地震が起き、渦が起こった赤い水中から降魔達が出現し、アイリスの神武を尻尾で捕まえ、沈めようとする。

「きゃああ〜っ!!」

「〜〜アイリス…!!」

「〜〜待ってろ!今、助けに――!!」

「〜〜いけません、大神さん…!」


さくらに言われて水面下を見て、驚く大神。水中に潜んでいた別の降魔達が尻尾を伸ばし、アイリスの神武を水中に引きずり込もうとする。

「〜〜このまま飛び込んだら、大神さんまで…」

「〜〜くそ…っ、だが、このままではアイリスが…!」

「〜〜アイリス、テレポートして逃げるのよ…!!」

「〜〜いやだっ!アイリス、逃げないもん…!! アイリス、子供だけど花組だよ…!?お兄ちゃんの役に立ちたいもん…っ!!」

「アイリス…」


水中に潜んでいた全ての降魔達がアイリスの放った黄の光の玉に包まれ、浄化されて消えていく。

「なんてすごい霊力なの…!」

「これほどの霊力があんな小さな体に収められていたと言うのか…?」

「――アイリス、もう怒ったんだからぁぁ〜っ!!」


解放された隙に碑石に近づき、黄の光の衝撃波で粉々に破壊するアイリス。

「はぁはぁ…。えへへ…、これでもう悪い奴は甦らないよね…!」

「あぁ、よくやったぞ!アイリスは本当にすごい子だ…!」

「えへへっ、お兄ちゃんに褒められちゃった♪」

「アイリス、早く戻ってきて…!」

「うん、今行くね…!」


碑石の欠片達が同時に黒く光り出し、テレポートしようとしたアイリスが金縛りにあう。

「〜〜あの光は…!?」

「〜〜碑石を壊したら発動する仕掛けになっていたのかもしれない…!――アイリス、早く戻れ…!!」

「〜〜ダ…、ダメぇ!体が動かないよぉ…!」

「〜〜何ですって…!?」


黒く光った水面から新たな降魔達が現れ、アイリスを水中に引きずり込む。

「きゃああ〜っ!!」

「アイリス…!!〜〜手を伸ばせ…!」

「〜〜いや〜ん!全然動かなぁ〜いっ!!」

「〜〜諦めちゃダメ…っ!!帝都が平和になったら、大神さんとデートするんでしょう…!?私とお出かけする約束もまだ果たしてないじゃない…っ!!」

「さくら…」


力を振り絞り、手を伸ばすアイリスの手をしっかり掴む大神とさくら。

「よし、引っ張り上げるぞ…!」

「せ〜の…っ!!」


アイリスの神武を引き上げようとする大神とさくらの神武。降魔の数が増え、アイリスを引っ張る降魔達の力が強くなり、沈んでいくアイリス。

「〜〜いやあああ〜ん!!お兄ちゃぁぁ〜ん!!」

「〜〜くそ…っ!絶対放すなよ…!?」

「〜〜もう…いいよ。このままじゃ…お兄ちゃんとさくらまで沈んじゃう…」

「何言ってるの…!?アイリスのことを見捨てられるわけないじゃない…!!」

「帰って、デートするんだろ…!?花やしきでも上野動物園でも、アイリスの好きな所に行こう…!」

「お兄ちゃん、さくら…。――えへへ…、二人のあったかい気持ちが伝わってくるよ…。二人ともアイリスのこと大好きでいてくれて嬉しいな…。アイリス、それがわかっただけでも幸せだよ…」

「アイリス…!?」

「――イリス・ジャルダ〜ン!!」


ジャンポールが大神とさくらの神武の周りをまわり、傷を癒す。

「お兄ちゃん…、さくら…、アイリスの代わりに…絶対…あやめお姉ちゃんと…かえでお姉ちゃんを助けてね…?約束…だよ……」

大神とさくらの手を放し、降魔達に水中に引きずり込まれていくアイリス。強力な黄の霊力が水面から放たれ、水中に潜んでいた降魔達を全て滅ぼす。

「〜〜アイリスぅぅぅ…っ!!」

「〜〜お願い、浮かんできて…!〜〜もう一度顔を見せてよぉ…っ!!」


浮かんでこないアイリス。静寂の中、警報音が鳴り、アイリスの霊力反応が消えたことをモニターで悟り、呆然とする大神。膝をつき、泣くさくら。

「〜〜もういやぁ…。皆…いなくなっちゃいました…。皆…死んじゃったぁ…」

「〜〜それでも俺達は進まなければならないんだ…。皆の分まで俺達が頑張らないと…!」

「……でも、破邪の陣はどうするんですか…?」

「俺が入るよ…!2人いれば威力は落ちるが、発動は可能なはずだ」

「〜〜発動できても私達だけで適うわけないじゃありませんか…!!〜〜マリアさん達がいなければ私…、何の力も出せません……っ」

「〜〜さくら君…」


神武から降りて、さくらの神武のハッチを開け、さくらの腕を引っ張って外に出させる大神。

「大神さん…?――!」

さくらの頬を叩く大神。

「〜〜すみれ君もこうして励ましてくれたじゃないか…。しっかりしろ、君は花組の隊員だろうって…」

「〜〜それは…」

「〜〜俺達がここまで来られたのは皆の犠牲のうえでだ…!君はそれを無駄にするつもりなのか…!?……マリアとラチェットならそう言って、君を責めるだろう…。――目を閉じてみろ…。神武がついてるから大丈夫だって紅蘭が笑ってるぞ…。平和になったら今度こそ『つばさ』を開演しようってカンナとアイリスが意気込んで、君に話しかけてるじゃないか…」

「大神さん…。〜〜う…っ、うぅ…」


泣き、膝をついてうつむくさくらの肩に手を置くマリアの幻。

『――顔を上げて、さくら…。私達はいつもあなたの傍にいるわ…』

「…!マリアさん…!?」


マリアの声が聞こえ、顔を上げるさくら。さくらを見守っている花組の幻。

『そうだよ!さくらにはアイリス達がついてるじゃな〜い♪』

『あなたならここまで辿り着けると信じてたわ。もう一息よ、頑張って!』

「アイリス…、ラチェットさん…」

『ほらほら、いつまで泣いてんだよ?いつもの元気はどこ行ったんだ?』

『さくらはんには笑った顔がいっちゃん似合うさかいな!』

「カンナさん…、紅蘭…」

『――さぁ、お立ちなさい。あなたはこれから私達の想いを背負って、サタンと戦うのですから…』

「〜〜すみれさぁん…、う…っ、ひっく…うぅっ…」


あやめのくれたお守りを見つめ、握る大神。

「このお守りがある限り、俺達には皆がついててくれている…。君は一人じゃないんだ…!」

「大神さん…」


マリア達の幻がそれぞれの神武の色に光り、大神とさくらの神武に吸収され、二人の神武と体がそれぞれの色に光り出す。二人の霊力値が急上昇。

「これは…!」

「皆の想いが俺とさくら君の霊力に共鳴して、力を与えてくれてるんだ…」

「温かい…。皆さんの温もりを感じます…。――そうでしたね…。いつもと同じように私には皆さんがついててくれますもの…!」

「あぁ、その通りだ。――行けるな、さくら君?」

「はい!真宮寺さくら、頑張ります…!!」

「その意気だ!さぁ、あやめさんとかえでさんを助けに行こう…!!」

「了解!」


18−8へ

舞台(長編小説トップ)へ