★15−3★



15年後。かえでを産むぼたん。

『――おめでとうございます!元気な女の子ですよ』

ぼたんの腕に抱かれるかえでを覗き込む幼いあやめ。

『あやめ、今日からお姉ちゃんになったのよ。かえでにご挨拶してあげて』

『初めまして、かえで。私はあやめっていうの。あなたのお姉ちゃんよ。よろしくね。ふふっ、ちっちゃくって可愛い〜!』


かえでの指を握るあやめ。微笑むぼたん。やってくる先巫女とぼたんの夫。

『あやめ、修行の時間じゃぞ』

『…今、参ります』

『今日ぐらいよろしいではありませんか。せっかくこんな喜んでるのに…』

『何甘えたことを言っておる!あやめは我が藤枝家始まって以来の優秀な霊力と知能を兼ね揃えておるのじゃぞ!?巫女の継承者として必要な知識を今のうちに叩きこんでおかなくてどうする!?』

『〜〜でも…』

『先巫女様のおっしゃる通りだ。優秀な女こそ巫女にふさわしいからな』

『……はい、お父様、おばあ様…』


かえでを見て、しょげてついていくあやめ。ムッとなるぼたん。廃屋。

『――ふぅん、あのお母様がねぇ…』

『そ、すっかりあやめに惚れこんじゃって。…でも、あれじゃあやめが可愛そう。同年代の子達は皆元気に遊んでるっていうのに…』


窓から遊ぶ子供達を見つめるぼたん。

『仕方ないわ。それが藤枝家に生まれた宿命ですもの。……私だって…』

『〜〜ごめんなさい、そういうつもりじゃ…!』

『わかってるわ。でも、悪魔の子が生きてるなんて知ったら、皆、驚くでしょうね?』

『〜〜しっ!誰かに聞かれてたら、どうするの!?』

『平気よ。こんなボロ家、誰も近づかないって――!!』

『もみじ…!?』


息荒く体を押さえるもみじ。全身から黒いオーラ。もみじを抱きしめ、光を放つぼたん。オーラが消えるもみじ。

『……ありがとう。さすがに今のはまずかったわね…』

『ねぇ、ここのところ力が暴走してきてない?』

『え?そんなことないわよ…』

『〜〜でも、やっぱりお母様に言った方が…』

『無駄よ。今はあやめのことしか頭にないもの。…どうせ私のことなんて』

『もみじ…』

『――あ、そうだ、これ…!』


お手玉をあげるもみじ。

『出産祝い。余った布で作ったから少し不格好だけど、もらってくれる?』

『まぁ、ありがとう…!あやめとかえでも喜ぶわ』


微笑むもみじ。散る桜が紫に。3年後。父の仏壇近くでお手玉で遊ぶかえで。うまくできず。試練の間の襖を開けるかえで。

『お姉ちゃん、遊ぼー』

坐禅して霊力を高めるあやめ。

『お姉ちゃあん、お手玉ぁ』

『〜〜ごめんね、ちょっと待って――』

集中力が途切れ、先巫女に竹刀で叩かれる。

『平常心を保てい!!そんなことでは霊力強化は見込めんぞ!?』

かえでの前に行き、睨む先巫女。

『邪魔するな!この出来そこないが!!』

襖を強く閉める先巫女。拍子にお手玉を落とし、泣くかえで。見るぼたん。『……お母様は変わったわ、あやめが生まれてからね…』

廃屋。お茶菓子を持ってくる産婆。

『よくいらっしゃいましたねぇ、ぼたん様。先巫女様はお元気ですか?』

『…えぇ』

『そうですか!聞きましたよ、お孫さんも優秀だそうで、私も鼻が高くて』

『……美智子さん』

『はい?』

『…戻ってきて頂けませんか?母を説得するには、あなたが必要なんです』

『巫女様からそう言って頂けるのは本当にありがたいのですが、私は引退した身ですし…。それに今の先巫女様が私の話を聞いて下さるかどうか…』


うつむくぼたん。もみじの湯呑に立つ茶柱を見つける産婆。

『あら、茶柱が…』

『…茶柱なんて立たなくていいわ。良いことの後に同じくらいどんな悪いことが起きるか、びくびくしなくて済むもの』

『もみじ…』

『…何回その名前で呼ぶつもり?私はお菊よ。もう藤枝の人間じゃない』

『確かにあなたは恵まれてないわ…。でも、そんなに自分を卑下しないで』

『私の気持ちなんてわからないでしょう?外に行けなきゃ恋だってできない…。こんなぼろい家に一生閉じこもりっぱなし。まるで牢獄よ。…私、生きてる意味あるのかしら?』


泣く産婆。

『あ…、ごめんね!おばちゃんを傷つける為に言ったんじゃないのよ?』

『――だったら』

『え?』

『…交換してみる、一日だけ?』


銀座の街にお洒落して出掛け、はしゃぐ紅葉。

『これが外の世界?ふふっ、すっごーい!』

もみじの美貌に振り向く男達。廃屋で家事するぼたん。

『〜〜ぼたん様、どうかお座りになってて下さいまし!皿洗いなど私が…』

『あなたももう若くないんだから、おとなしくお茶でも飲んでなさい。それに私もあんな堅苦しい家から解放されて、すごく気が楽なんだから』


困るも笑う産婆。三越を見て回るもみじ。真珠のネックレスを見つける。

『――あら、藤枝ぼたん様ではありませんか!』

『え?』

『いつもご利用ありがとうございます。まぁさすがにお目が高い!そのネックレス、先日巴里から入荷したばかりなんですよ。ご試着なさいます?』

『あ…、え、えぇ…』


もみじにつけてやる店員。

『まぁ、思った通りとってもお似合いですよ!』

『本当?ありがと!よかったぁ、お気に入りのが見つかって』

『あ、ぼたん様…!?』


払わず出ていくもみじ。警報ブザー。警備員が駆けつける。

『待て、泥棒!!』

『え…?』

『ほら、身分証明書、見せて。…ん?何だ、財布も持たずに来たのか?』

『最近、増えてるんだよな、宝石泥棒。ひょっとしてこの女の仕業か?』

『とりあえず署まで来てもらおう!ほら、来い!!』

『〜〜な、何!?ちょ…っ!〜〜痛い!離してよぉ!!』


連行される紅葉。周囲から奇異の視線。全身から黒いオーラが放ち始める。

(何…?〜〜私が何したって言うの…!?)

倒れるもみじの湯呑の茶柱。気配を察するぼたん、先巫女、あやめ。

『〜〜何じゃ、この胸騒ぎは…!?』

『――大変です!!〜〜もみじお嬢様が…!!』


飛び込んでくる産婆。目を見開く先巫女。焼け野原になった銀座で力を放つもみじ。駆けつける先巫女、ぼたん、産婆。もみじに抱きつくぼたん。

『もみじ、やめて…!!』

『〜〜うるさい、うるさい、うるさぁい!!そんな目で私を見るなぁっ!!』


ぼたんに衝撃波を放つもみじ。ぼたんを庇う産婆。倒れ、息絶える。駆けつけ、ショックなあやめとかえで。力を抑え、正気に戻るもみじ。

『美智子さん…!?お願い、目を開けて!!〜〜いやあああっ!!』

『お、おば…ちゃん……?』


産婆の顔にゆっくり触れるもみじ。産婆の体が砂になり、崩れる。

『〜〜もみじ!!自分が何したかわかってるの!?』

『ち、違うのよ…!ネックレスもらっただけなのに、いきなり泥棒って言われて…、〜〜私、何が何だか…』


ネックレスを見つけ、泣き崩れるもみじを抱きしめるぼたん。

『〜〜そうね…。ごめんね…。私がもっと色々教えていれば…』

『ご、ごめんなさい、お母様。私、二度と外には出ないから…、だから…』

『……やはり、恐ろしい血じゃな』


目を見開くもみじ。ヘリコプターで来る陸軍。もみじを引っ張る先巫女。

『――騒ぎにならんうちに、けりをつけねばな』

『あ…、ぼ、ぼた……』

『やめて、お母様…!!〜〜やめてええっ!!』


拷問部屋の扉が閉まる。突き飛ばされる両手足拘束のもみじ。

『恐ろしい子じゃ…。やはり、赤ん坊の時に始末しておくべきじゃったな』

『〜〜いや…、やめて…!〜〜いやああああっ!!』


もみじに鞭を打つ先巫女。

『やめて、私が悪いの!!私が生活を交換しようなんて言ったから…!!』

『これでよかったのじゃ。被害が銀座の一角で済んだのじゃからな。だが、このまま生かしておけば、さらに力は強大になる…!そうなれば、わしの可愛いあやめも…!〜〜あぁ、恐ろしい!!この呪われた子がぁっ!!』


鞭を強く打つ先巫女。泣くぼたん。入口で見て怯えるあやめとかえで。

『――よく見ておれ、あやめ。悪はこうやって滅ぼすんじゃ…!!』

逆さ吊りにしたもみじに火を放つ先巫女。全身が燃えるもみじ。

『もみじぃっ!!〜〜いやあああっ!!』

『うわあああん!!怖いよ、お姉ちゃああんっ!!』


泣くかえでを震える手でぎゅっとするあやめ。

『おのれぇ、藤枝の巫女ぉ、絶対に許すものか…、冥界で呪ってやるぅ…!!』

あやめを睨み、不気味に笑うもみじ。怯えるあやめ。

『やっと本性を現しおったか…!貴様なんぞ燃えてしまえ!!藤枝の歴史から永久に抹消してやるわああっ!!』

爆発し、蒸発するもみじ。液体で落ちるネックレス。ぼたんの左腕が黒く光り、もみじと同じ位置にほくろができる。青ざめるぼたん。回想終了。

「――その日の夜だったわ、常磐の巫女狩りが行われたのは。私達のお母様も、もみじ叔母様を追うように死んでいった…」

「呪いは本当に起こったのよ…。〜〜次はあやめ姉さん…。叔母様は姉さんを疎みながら死んでいったもの…!」


怯え、泣き崩れるかえでの両肩を掴む大神。

「そんなことありません!!いくら何でも実の姪に呪いをかけるだなんて…」

「だったら、何で姉さんが悪魔の子になるの!?おかしいじゃない!!叔母様はもう死んだのよ!?次の子はまた100年後に生まれてくるはずでしょう!?」

「〜〜それは…」

「あんな女、早く始末しとけばよかったのよ!!そうすれば姉さんは――!!」


かえでの頬をはたくあやめ。

「叔母様を悪く言うのはよしなさい」

「〜〜でも…」

「本当にこれが呪いなのかどうかわからないわ。でも、今の私が悪魔の血を引いているのは事実よ。だから――」


大神を見るあやめ。大神に見つめられ、うつむき、かえでをなでるあやめ。

「……私のこと気遣ってくれたのね…。ありがとう」

「〜〜あ、あんな恐ろしい力を暴走させられちゃたまんないってだけで…」

「そうね…。――以上が藤枝家に伝わる呪いの全貌です。大神君、今の話を報告書でまとめといてくれる?」

「え…?」

「書いといてね、恐ろしい力を持った女はもう陸軍にいないって…」


寂しく微笑み、出ていくあやめ。

「あやめさん…!〜〜そんな…」

「…追いかけねぇのか?」

「しかし、俺にはどうすることも…」


大神にあやめの少佐の勲章を渡す米田。

「確かに呪いは解けねぇかもしれねぇ。だが、傍にいてやることぐらいはできるだろ?」

「米田司令…」

「こんな時こそお前が支えてやらねぇでどうする!さ、早く行け!」

「…了解!」


走って出ていく大神を見つめ、眉を顰めるかえで。

★               ★


(――これで…いいの……)

廊下。ネックレスを見つめ、歩くが、胸が苦しくなってうずくまるあやめ。

「〜〜く…っ、かは…あ…」

あやめを見つけ、駆け寄る大神。

「あやめさん、大丈夫です――!?」

振り返り、恐ろしい形相で大神の首を絞めるあやめ。足が宙に浮く大神。

「うわあっ!!〜〜あ…、あや…め…さん…!?」

絞め、大神を睨むあやめ。目がかすみ、あやめが殺女と重なって見える。

(〜〜まさか…、最終…降魔…が……?)

あやめの手を探り、手を重ね、ぎゅっとする大神。目を見開くあやめ。

「〜〜あや…め…さん、やめ…て……くだ…さ…い……!」

「〜〜ぐ…っ!うぅ…あ…、あ…あぁ…」


我に返り、離すあやめ。咳込む大神。

「――あ…、わ、私…!〜〜大神君、大丈夫!?」

「は、はい…」

「〜〜嘘…っ、やだ…!もしかして、私…、〜〜私ぃ…」


泣くあやめを抱きしめる大神。

「〜〜怖いの…。本当は怖い!助けてって喚きたいの…!〜〜もういや…!私、降魔になんかなりたくない…!!〜〜なりたくないのにぃ…」

あやめの手に少佐の勲章を握らせる大神。驚くあやめ。

「俺が絶対、降魔なんかにさせません…!!あなたはあなたです!最終降魔でもない、悪魔の子でもない…、俺の一番大切な藤枝あやめ少佐です…!!」

「〜〜でも、私は――!」


あやめにキスし、手を握る大神。

「あなたの痛みは俺の痛みです…。俺達帝撃の痛みです…!あなたがどんなに突き放しても俺はずっと傍にいますから!絶対に離れませんから…!!」

「〜〜もっと強く抱きしめて…!私がずっと私でいられるように!」

「はい…!」

「もっと強く…!〜〜強く…!!」

「絶対に離しません!〜〜離しませんから…!!」


強く抱きしめ合う大神とあやめ。遠くから見つめるかえで。

★               ★


かえでの部屋。机に向かい、ペンダントを見つめるかえで。回想。

『――愛する人にそれをお渡しなさい。神が未来永劫、あなた達を守って下さるでしょう』

幼いかえでに十字架のペンダントを渡すぼたん。回想終了。ノックし、入ってくる大神。ペンダントを引き出しに隠すかえで。

「お呼びですか?」

「…別に用ってほどじゃないんだけどね。その…、さっき…」

「え…?あ…、ご覧になってたんですか…」

「…この戦いが終わったら、本当に姉さんと結婚するつもり?」

「もちろんです!大切なお姉さんの相手が自分で不服でしょうが、俺は一生あやめさんを傍で守っていきたいんです…!」

「……そう。……聞きたかったのはそれだけ。もういいわよ、戻って」

「……あの、俺も一つ報告したいことが…」

「…何?」

「もう一度天雲神社に行こうと思います。そして、先巫女様にお話を…」

「無理よ。この間ので懲りたでしょ?」

「〜〜しかし…!」

「熱血漢なのはいいけど、世の中にはどうにもならないことだって――」


振り向き、驚くかえで。静かに涙を流し、拳を握る大神。

「どうしてあやめさんばかり、こんな苦しまないといけないんでしょう?一人の女性として、ただ幸せになりたいだけなんです!〜〜なのに…!!」

「大神君…」

「あやめさん、前から言ってたんです。自分の中に自分じゃない、もう一人の自分がいるって…。〜〜きっと、そいつのせいであんなことを…。自分は本当に無力です!あんなに苦しんでるあやめさんをどうしてやることもできない!〜〜愛する人一人救えなくて、何が帝都防衛だ…!!」

「…それが姉さんの運命なのよ。悪魔の子として生まれた宿命からは絶対に逃れられない」

「何故ですか?何故、あなた方姉妹は何もせずに諦めようとするんです!?」

「〜〜じゃあ、どうしろって言うのよ!?お祓いでもして、叔母様の怒りを鎮めてもらう!?おばあ様もお母様もどうすることもできなかったのに!?」

「でも、俺は何もせずにはいられません!できることからしていけば、必ず道は開けます…!!」

「……」

「…生意気を言って申し訳ありませんでした。…失礼します」

「…待って。私も行くわ。あんた一人じゃ御神木の一本でも折りそうだし」

「かえでさん…!ありがとうございます!」

「勘違いしないで。実家に用があるだけよ」


鞄を持って立つかえで。鞄に苺のキーホルダー。

「それ…!」

「〜〜べっ、別に…!ただ鞄があまりにも貧相だったから…」

「よかった。よく似合ってますよ」

「え…っ!」

「その鞄に」


ムカつき、無造作にドアを開けるかえで。

「あれ…?俺、何か気に障るようなこと言いました?」

「〜〜何でもないわよっ!ほら、さっさとついてくる!」

「〜〜りょ、了解…!」


頬を膨らませ、ふてくされるかえで。

★               ★


銀座のオープンカフェでお茶する花組。パフェを頬張るアイリス。

「うふっ、あっま〜い♪」

暗い一同。しゅんとなり、スプーンを口に含むアイリス。

「……何だ何だ皆、せっかくのお茶会なんだ!楽しくやろうぜ?」

「あんなディープな話聞いて、よくライスカレーなんて口にできますわね」

「…だってよぉ、あたい達が元気にしてねぇと、あやめさん、もっと落ち込んじまうだろ?」

「そうだよ!アイリス達が笑顔でいれば、きっとあやめお姉ちゃんもつられて笑ってくれるよ!ねっ、さくら〜!」


腕組みし、唸っているさくら。

「〜〜う〜ん…」

「…さくらぁ?何考えてるの?」

「…そのうちパンクしますわよ?猿並みの脳みそしかないのですから」

「〜〜う〜〜ん……」


さらに考え込むさくら。

「ムッ、私の言葉を無視するなんて、生意気ですわ」

「いいのよ、さくらはさくらなりに考えてるんだから」

「――ん?マリアはん、何読んではるのん?」

「次回作の台本よ」

「えっ?もうできたのか?」

「えぇ。今回は紅蘭とアイリスが主役の『つばさ』よ」

「やった〜!『大恐竜島』以来だね!」

「腕が鳴るなぁ、アイリス!」

「けれど、台本は誰が書きましたの?江戸川先生はあの陰険女に…」

「ふふ、驚いちゃ駄目よ?――あ、先生、こちらです…!」


元気に駆け寄ってくる江戸川。

「江戸川先生…!!」

「いやぁ、会いたかったよ、皆〜!!」

「おぉ〜っ!!元気にしてたか!?ちゃんと飯食ってたか!?」

「あぁ、もう毎日暇だったから、ぶくぶく太っちゃって太っちゃって…!でも、副支配人のお陰で明日からまた帝劇に戻れることになったんだ」

「よかったですなぁ!いやぁ、うち、ほんま嬉しいわぁ!」

「当然ですわ。あのサボテン女より副司令の方が権限は上なのですから」

「そういうことだから皆、改めて江戸川先生にお世話になるわ。挨拶を――」

「うぅ〜!これからまた君達を僕のパッションで染めあげることができるなんて、江戸川、ラッキー♪またクビにならないように、これからはさらにしごいていくぞぉ〜!!」

「え〜っ!?別にかえでさんの真似しなくったっていいじゃねぇかよぉ〜」

「何を言ってるんだい!?やり方はどうあれ、彼女のあの演技のセンスとパッションを見ただろう!?あれこそ僕が君達に求める芝居なんだよ…!!」

「〜〜ムッ、嫌なことを思い出してしまいましたわ…」

「君達も女優として演技とは何か、芝居とは何かをこれから僕ともっと深いところまで追及していこうではないか!!そうすれば、もっとも〜っと芝居が楽しくなるぞぉ〜!!ふはははは〜!!」

「〜〜先生…、またご病気が…」

「〜〜うげぇ…。結局、あの稽古地獄はそのまんまかよ…」

「でも、自分達の演技を見直す良い機会かもしれないわね」

「せやな。観に来てくれはるお客さんの為にも良い芝居が見せられるように頑張ろうな、アイリス!」

「お〜っ!」

「よ〜し!かえでさんをぎゃふんと言わせてやる為にも、精一杯頑張ろうぜ!」

「そして、あやめさんを励ましてあげる為にもね…!」

「皆さん、盛り上がってらっしゃるようですわねぇ。ま、私は最初からお稽古など不要ですから、誰が演出であろうと関係ありませんけれど」

「〜〜お前は花組が団結しようとしてる時にぃ〜っ!!」


すみれの首をぐいぐい締めるカンナ。唸るさくらを見つける江戸川。

「さくら君!何をぼーっとしてるんだい!?早速、帰って本読みを始めよう!さぁ、そうしよ――!」

「――江戸川先生なんて必要ありませんっ!!」


いきなり立ち上がるさくらにビビる一同。

「〜〜えぇ〜っ!?」

「〜〜いきなりどうしたの、さくら…!?」

「あやめさんを治療に専念させてあげるには、私達の絆を見せればいいんですよ…!!」

「……はぁ…?」

「〜〜せっかく戻ってきたのに…。ぐすん…」


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