★15−2★



書庫。周りを警戒して、ゆっくり扉を開ける大神。

「わぁ、本がいっぱいですねぇ…!」

「確かここに…――これだ…!」


古ぼけた本を取る大神。扉が出現。

「わぁ、忍者屋敷みたいです…!」

しっと注意し、扉を開ける大神。古ぼけた洋間。蜘蛛の巣が張っている。

「何だかここだけ違う家みたいですね…」

「この部屋を重点的に調査しよう。何か見つけたら教えてくれ」

「了解です!」


調査する大神とさくら。壺を色々な角度から見る大神。

「う〜ん…、絶対何かありそうなんだけどなぁ…」

「――大神さん、これ…!」


写真立てを取るさくら。若い先巫女と双子の娘の写真。

「これって先巫女様ですよね…?」

「みたいだな。じゃあ、この子達のどちらかがあやめさん達のお母様か」

「双子だったんですねぇ…。〜〜う〜ん…」

「どうかしたのかい?」

「何か引っ掛かるんです。100年ごとに悪魔の子が生まれるなら、あやめさんが生まれる年は警戒して、この赤ちゃんが悪魔の子かもって最初から疑うはずですよね?なのに先巫女様は全然そんなことした感じはない…」

「逆に先巫女様はあやめさんを溺愛してたみたいだしな。それに、わかってたとしたら、何であやめさんを赤ちゃんの時に殺さなかったんだろう?」

「先巫女様は『今までわざと力を抑えてたのか』とか言ってましたよね?」

「でも、今まで悪魔の血を継いだ人達って、皆、赤ん坊の時にすでに力があることがわかってたわけだろ?もしかしたら、あやめさんにもっと特別な力があるのか、それとも――」

「――少し前、すでに悪魔の子が生まれてた…とかな」


ハッとなる大神とさくら。天井からぶら下がる加山。

「よぉ、大神!」

「加山…!お前も来てたのか」


着地する加山。

「なかなかの推理力だぞ、さくら!さすがは真宮寺の新当主だ」

「えへへっ、私もやる時にはやるんですよ!」

「悪魔の子が生まれてたってどういうことだ…?」

「調査してみてわかったんだ。その本のお札を剥がしてみろ」

「これか…?」


剥がす大神。魔法陣が現れ、拷問部屋が現れる。

「〜〜こ、これは…!」

「――あやめさんの生まれる前、正確には43年前、藤枝家に双子が生まれた。あやめさんとかえでさんの母・ぼたんさんとその妹だ」


家系図を広げる加山。

「その年は1856年…。前の悪魔の子が生まれた年から丁度100年後だ」

「本当だ…」

「じゃあ、もしかして…!」

「あぁ。双子の妹・もみじさんが真のこの時代の悪魔の子だったんだ。もみじさんは本当なら、この部屋で赤ん坊の時に殺されるはずだった…」

「はずだったってどういう――?」


キネマトロンが鳴る。受信する大神。

『申し訳ありません、見つかってしまいました…!』

『神官のおじちゃん達が皆お兄ちゃん達の所に向かったの!早く逃げて!!』

「わかった!他の皆にも退避するよう連絡してくれ!」

「了解!」「了解!」


通信を切る大神。

「すまない。帝劇に戻ってから、また聞かせてくれるか?」

「あぁ、早く逃げよう!」

「――そうはいかん」


神官達を連れて歩いてくる先巫女。

「藤枝の者以外で秘密を知ることは禁忌。生きて帰すわけにはいかんなぁ」

「悪魔の子だか知りませんけど、こんな部屋で殺すなんてあんまりです!!」

「悪魔の子は生まれてきただけでも大罪じゃ。重罪人を殺して何が悪い?」

「あなた方は間違ってます…!!あなたの娘さんのもみじさんだって悪魔の子として生まれてきたのでしょう!?何故自分の娘を平気で殺せたんです!?」

「…部外者が偉そうに。――あの者共をひっとらえよ!!」


襲ってくる神官達。戦う大神、さくら、加山。

「ついてきてくれ!隠し通路を作っといた!」

「助かる!」


逃げる三人。

「追え!!一人も逃がすな!!」

★               ★


追ってくる神官達。逃げるマリア、すみれ、アイリス、カンナ、紅蘭。

「あ〜ん、もうしつこ〜いっ!!」

「…仕方ないわ。不法侵入ですもの」

「おいおい、そんな落ち着いてられる状況かよ!?」

「〜〜誰のせいでこうなったと思ってますの?」

「〜〜しょうがねーだろ!?猛烈に腹が減ったんだからよぉ!!」

「〜〜あの状況で、人ん家の米3合食い尽くす馬鹿がどこにいまして!?」

「ふっふっふ、まぁ、すみれはんもそうカッカせんと…」

「〜〜その不敵な笑みは、もしかして…」

「チャララチャッチャラーン!こんなこともあろうかと、うちの発明した『小型爆弾ゴーゴーくん』や!!出番やでぇ、皆ぁ!!」


小型ロボット型の手榴弾を投げる紅蘭。爆発に巻き込まれる神官達。

「〜〜ひ、ひええ〜っ!!」

「ちょ、ちょっと紅蘭…!?」

「だーい丈夫や!あれぐらいの火力じゃ死にゃせんて!」


前から出てくる神官達。

「わあっ!!どうしよ〜っ!?」

「…まったく、仕方ありませんわねぇ」


手を叩くすみれ。ボディーガード達が現れる。

「このしつこいお兄さん方を痛めつけておあげなさい」

神官達を倒すボディーガード達。扇子を仰ぐすみれ。

「おっほほほほ…!さぁ、とっとと進みましょ」

「〜〜お前なぁっ!そういうの従えてんなら、始めから呼べよっ!!」

「ふん、なるべく実家に恩を着せたくないのです」

「〜〜いいから行くわよ、二人とも!」


逃げるマリア達。あっかんべーして、走るすみれとカンナ。鳥居の前で合流する大神達とマリア達。

「加山隊長…!」

「こっちだ、皆…!」


ダストシュートに飛び込む大神達。

★               ★


大帝国劇場・食堂。御馳走を新次郎に食べさせるラチェット。

「はい、あーん」

「あ…あーん…。――おいしい!こんなおいしい西洋料理、初めてです!」

「ふふっ、大河君の為に特別にアメリカの五つ星シェフに作らせたのよ。さ、次はどれがいい?男の子はいっぱい食べる方が素敵ですものね〜」

「は、はぁ…。でも、僕達だけこんな呑気なことしてていいんでしょうか?」

「気にすることないわ。別に指令が出てるわけじゃないんだし」

「〜〜そ、そういうものなんですか…?」


同じスプーンでリゾットを食べるラチェット。戸棚から落ちてくる大神達。

「わひゃあっ!!〜〜いっ、一郎叔父!?皆さんも…!!」

「た、ただいま…〜〜ぐえっ!!」


大神の上に落ちてくるカンナ。

「あはは、悪ぃな、隊長。――お!食い物、発見!!」

「おいしそ〜っ!!」


降りた弾みで大神の顔を蹴り、駆け寄って食べるカンナとアイリス。

「〜〜あぁっ!!ちょっと勝手に食べないでよぉ!!これは大河君のよっ!?」

「むぐむぐ…。いいじゃんか、少しぐらい。う〜ん、うめぇ〜」

「米三合食べ尽くしたうえに…。まったく、先程の緊張感はどこへやら?」

「ま、丁度お昼の時間やしな」

「私達も頂きましょうか」

「〜〜人の話、聞いてる!?」


怒るラチェット。笑う大河とマリア達。大神を立たせるさくら。

「はぁ…、何とか逃げ切れたな」

「大丈夫ですか、大神さん?」

「あぁ、ありがとう。――加山、さっきの続き、聞かせてくれるか?」

「あぁ。んじゃまぁ、皆でステーキ食いながらってことで」

「〜〜んもう、どういつもこいつも…!!私達の邪魔しないでよ〜っ!!」

「一緒に食べましょうよ。僕ももっと皆さんとお話がしたかったんです!」

「まぁ、大河君!私がいるでしょ〜」

「…ふん、ショタコンが」


喧嘩するすみれとラチェット。笑う花組。元気のない大神を心配する加山。

★               ★


地下城。魔法陣に唱える叉丹。翼が生える神威。叉丹の手から黒いオーラ。

「くくく…、この溢れんばかりの魔力…。さすがだな」

「――ふぅん、デザインはなかなかだね」


やってくる刹那と羅刹。

「…待機していろと言ったはずだが?」

「はぁ?何で僕がお前なんかの命令を聞かなきゃいけないわけ?」

「…誰が甦らせてやったと思っている?」

「だから何?反魂の術だか何だか知らないけど、やり方書いてある碑石読んだだけでしょ?そんなことぐらいで偉ぶられちゃたまんないよ」

「兄者…!」

「それぐらい僕でもできるよ。お前なんか機械いじりしか能がないくせに」


刹那を睨み、黒い刃を刹那のギリギリで落とす叉丹。駆け寄る羅刹。

「兄者…!!」

「――あまり大人をなめない方がいいぞ、小童…?」


黒いオーラを全身から出し、立ち去る叉丹。ビビり、悔しがる刹那。

★               ★


死天王の間。黒い刃を叩き割り、欠片を踏んで八つ当たりする刹那。

「何なんだよ、あいつっ!?〜〜ちきしょう、ちきしょうっ!!」

「あ、兄者、落ち着いてくれ!」

「お前は悔しくないのか!?奴は僕達と同じ死天王だったんだぞ!?なのに今じゃ大国の王様気取り…!〜〜叉丹め…!この僕がいる限り、何でも思い通りになると思ったら大間違いなんだからなっ!!」

「し、しかし、叉丹殿がいなければ、俺達も生き返らなかったわけだし…」

「あぁ?お前、どっちの味方なんだよ!?」

「そ、そんなの兄者に決まっておるだろう!兄者はたった一人の血縁者だ」

「ふん、血縁者か…。…あー、面白いこと考えた!」

「な、何だ?」

「…お前と僕、血を分けた双子の兄弟だよなぁ?」

「あぁ!兄者はこの世で最も信頼する俺の兄貴だ!」

「…だったら僕の言うこと、なーんでも聞いてくれるよね?」


右腕の印を見せる刹那。顔を強張らせる羅刹。

「聞いてくれるよねぇ!?」

「わ、わかった。兄者の為ならこの羅刹、喜んでこの身を捧げましょうぞ!」


左腕の印を見せる羅刹。笑う刹那。二人から黒いぼやけた光。

★               ★


「――双子だと…!?」

大帝国劇場・支配人室。米田のデスク前に立つ大神。家系図を広げる加山。

「はい。藤枝副司令と代理の母・ぼたんさんには、双子の妹のもみじさんという方がいらっしゃったんです」

「確かにそう書いてあるなぁ…。…かえで君は知ってたのか?」


顔をそむけるかえで。

「…本当はご存知だったんじゃありませんか、もみじさんが真のこの時代の悪魔の子だって?」

黙るかえで。驚き、写真を見る米田。

「ちょっと待て。悪魔の子は赤ん坊の時に葬られるはずだろ?これは…7つぐらいか?何でこんな大きくなるまで放っとかれてたんだ?」

「正確には25歳までもみじさんは御存命だったんです…」

「〜〜やめて…」

「かえでさん、酷かもしれませんが、お姉さんを救う為にも皆に知っておいてもらいたいことなんです」

「〜〜うるさいっ!!今更そんな話穿り返しても、何の意味もないわ…!!」

「――そんなことないわ」


風組に支えられ、入ってくる和服のあやめ。

「あやめさん…!」

「やっぱり、帝劇の皆にも知っておいてもらった方がいいのよ。――大神君、私が全てをお話しするわ」

「〜〜姉さん、やめてよ…!!」

「思い出したくなかったら、耳を塞いでなさい」

「〜〜っ…!」

「――母達が生まれた日は、雷が鳴っていたそうよ。星が一つも見えない、真っ暗な闇に包まれた深夜、二人は生まれたの…」


回想。神社を見張る神官達。産声を上げる赤ん坊のぼたんともみじ。

『――おめでとうございます、巫女様!元気な双子の女の子ですよ』

感動し、双子の頭をなでる先巫女。入ってくる先巫女の夫。

『生まれたか?』

『はい。ほら、ご覧になって下さいな、双子の女の子ですよ。お顔もこんなに可愛らしくて。あら…、ふふっ、同じような所にほくろが』


ぼたんの右腕、もみじの左腕にほくろ。

『…ふっ、どうやら杞憂だったようだな』

『やはり迷信でしたのよ、100年に1度悪魔の子が生まれてくるだなんて』


落雷し、蝋燭の炎が消える。騒ぐ神官達。

『大変…!すぐに新しいのをお持ちしますね』

忙しく出ていく産婆。外で騒ぐ神官達の声。民家が燃えている。

『火事のようだな。さっきの落雷のせいか…』

『あなた、行って差し上げて』

『しかし…』

『私達なら大丈夫です』


泣く双子の頭をなでる先巫女。微笑み、双子にキスして出ていく夫。

『明かりがつくまでじっとしてろよ』

『言われなくてもわかってますわ、ねぇ〜?』


双子に微笑む先巫女。黒い光。目を見開く先巫女。黒く光るもみじ。

『〜〜こ、これは…!?』

『――巫女様ぁ、新しい蝋燭お持ちしましたぁ!』


もみじを強く抱きしめる先巫女。光が消え、眠るもみじ。明かりがつく。

『あら、もう眠ってしまわれたのね。本当、可愛らしいお嬢さん達だこと』

『え、えぇ…』


もみじを不安に見つめる先巫女。書庫。もみじを背負い、本を調べる先巫女。拷問部屋が開く。入り、ショックな先巫女。

『〜〜そんな…!こんなむごいこと…』

『〜〜うわあああ〜っ!!』


ハッとなる先巫女。居間で怯える夫。黒く光り、家具を飛ばすもみじ。

『〜〜あ、悪魔…!悪魔だ…!!』

赤ん坊を確認する先巫女。右腕にほくろ。

(〜〜しまった!この子は、もみじじゃ――!!)

『き、来たか…!やはり迷信ではない!!もみじは悪魔の子だったんだよ!!』

『な、何を言うの!?この子は私達の子供です!!そんな悪魔の子だなんて――』

『この呪われた子を始末せよ!!二度と最終降魔が現れぬようにしてやれ!!』

『何言ってるのよ、あなた!?〜〜あっ、ちょっとやめて!!』


泣くもみじを連れ去る神官達。止めようとする先巫女の手を掴む夫。

『悪魔の子は、赤ん坊のうちに葬るのが習わしだろう!?こんな恐ろしい子、生かしておけばどんな災いを起こすか…』

『〜〜あの子は私がお腹を痛めて産んだ子です!!好きにはさせません…!!』


手を振り払い、追いかける先巫女。背負われて泣くぼたん。拷問部屋に駆けつけ、目を見開く。扉の隙間から血が流れてくる。心臓を見せる神官。

『巫女様、悪魔の子は我々が責任を持ってお命を頂戴させて頂きました』

とめどなく流れてくる血。聞こえてこない泣き声。静寂。

『嘘…。も…みじ…?……嘘よ…。〜〜嘘よおおおおっ!!』

泣き崩れる先巫女。舞い散る桜。7年後。庭で毬つきして遊ぶぼたんを見つめる喪服の先巫女。歩み寄る産婆。

『……この度は旦那様のこと、心よりお悔やみ申し上げます…』

『…別にいいわ。自分の子を平気で見殺しにする男だったもの』

『…もみじ様のことでございますか?』

『〜〜あの子の無残な死に比べたら、病死なんてどれほど楽か…』

『……実はそのことなのですが、恐れながら巫女様に隠していたことが…』


顔を上げる先巫女。古い家屋。産婆に連れられ、ぼたんの手を引く先巫女。

『お菊ー?』

『あ、おかえりなさい、おばちゃん!』


玄関に出てくるぼろい和服のもみじ。互いに見て驚くぼたんともみじ。

『〜〜ま、まさか…!』

『申し訳ありません、勝手な真似を。もみじ様があまりに不憫だったもので、亡くなったことにして、密かに私が廃屋で育てていたのでございます』

『で、では、あの心臓は…?』

『あれは肉屋より頂戴した豚の赤ん坊のものでございます。もみじ様が生きていると旦那様に知られては、またお命を狙われるかと思い…』

『おばちゃん、この人、だぁれ?』

『お母様、何でこの子、私と同じ顔してるの?』

『それはね…、〜〜あなたの双子の妹だからよ…』

『お菊、お前の本当の名はもみじ。そして、この方がお前のお母様だよ』

『本当…?』

『えぇ!よく顔を見せて、もみじ!あぁ、あなたが生きていたなんて…!』

『お母様ぁ…!会いたかった、私、ずっと会いたかったの…!』


三人で抱き合うのを見守る産婆。桜が散る。


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