★15−1★



黙って見つめ合う大神とあやめ。

「〜〜何を…言ってるんですか…?」

「私を…殺してほしいの。もうこれ以上あなた達に迷惑かけられない…」

「〜〜ご自分で何言ってるかわかってるんですか!?悪い冗談はやめ――」


腕を掴んで言い聞かす大神に拳銃を突き出すあやめ。

「私は本気よ…」

「あやめさん…」


あやめの襟に勲章がないのに気づく大神。

「私はもう軍人じゃないわ。これでただの一人の女として死ぬことができる。どうせ死ぬなら、あなたに殺されたいの!これで私を撃って、お願い!」

「〜〜できるわけないじゃないですか…!!仮にあなたを殺したとしても、何の解決にもなりません!!どうして逃げようとするんですか!?悪魔の子だって何だって、俺達と頑張ろうって決めたばかりじゃないですか…!!」

「〜〜何も知らないでしょう…?」

「え…?」

「何も知らないから、そんなこと言えるのよ。あなた達は悪魔の血の恐ろしさをわかってない!どんなに頑張ったって、もうどうにもならないの!!」

「どういう…意味ですか…?」

「私は呪われた女なの!このままじゃいずれ、あなたまで殺してしまう…!〜〜お願い、殺して!!私が私でいるうちに…!!」

「〜〜あやめさんっ!!」


引き金を引かせようとするあやめ。抵抗する大神。銃声。誤って銃弾がかすり、肩を押さえる大神。動揺するあやめ。

「〜〜すみません!!」

あやめの鳩尾を殴る大神、気絶するあやめを抱き止める。集まる花組。

「何かあったんですか、今、銃声が――!?」

「〜〜お兄ちゃん…!!」

「すまない、あやめさんを医務室へ…!」

「わかった…!」


あやめを抱えていくカンナ。入り、驚くかえで。大神の傷を癒すアイリス。

「ありがとう、アイリス」

「一体何があったんですか…!?」


落ちている銃を見つけ、拾うマリア。

「あやめさんが…、〜〜自分を殺してくれって…」

「えぇっ!?どういうことやねん、それ…!?」

「わからない。ただ、俺達は悪魔の血の恐ろしさをわかってないって…」

「……代理、あなた、何かご存知なのでしょう?」

「…何も知らないわ」

「〜〜うそおっしゃい!!藤枝の人間なら知ってるに――!!」

「…すみれ」


マリアに制され、つんとするすみれ。

「隊長、それから皆も、あやめさんのことで話しておきたいことがあるの」

「〜〜マリア…!」


不安がるアイリスの頭をなでるマリア。

「…隊長達には、やはり知らせておくべきだと思うわ」

顔を見合わせる大神とさくら達。

★               ★


屋根裏部屋。ランプを持って上がる大神、花組、かえで。起きてアイリスにすり寄る犬。寂しく犬をなでるアイリス。遅れて上がってくるカンナ。

「このわんちゃん、本当にアイリスが大好きなのね」

「待たせたな…」

「あやめはんは…!?」

「眠ってるよ。かすみが鎮静剤打ってさ…」

「そうですか…」

「…皆、揃ったわね?」

「話しておきたいことって何なんだ?」


ゴミ袋に入ったぐしゃぐしゃの薔薇の花束を見せるマリア。驚くかえで。

「〜〜ひどい…!誰がこないなことを…!?」

「……姉さんよ…。ファンの男にそれ、もらってたもの」

「〜〜でも、お花ならあやめさんはいつも部屋に…!」

「…今までのあやめさんなら、そうだったでしょうね」


震えて泣くアイリス。アイリスの涙をなめる犬。

「〜〜もしかして、その犬も…!?」

「……吠えられてたアイリスを助けたまではよかったのですが…、まるで人が変わったように木刀で…」

「まさか…、〜〜そんな…」

「〜〜ぐすっ…、お兄ちゃん…、あやめお姉ちゃん、どうしちゃったの…?何でこんなことするようになっちゃったの…?」

「アイリス…」

「〜〜アイリス、もうあんなお姉ちゃん、見たくない…!どうすればいいの…?〜〜どうすれば元に戻ってくれる…!?」

「大丈夫だ…。〜〜俺が絶対、元に戻してやるから…!」


泣くアイリスを抱きしめる大神。

「アイリスが予知夢で見ていたそうです。儀式であやめさんが最終降魔に襲われる場面を…」

「どうして早く言わなかったの?」

「〜〜ひっく、だって、心配させたくなかったんだもん!アイリス、お兄ちゃんとお姉ちゃん、大好きだから、幸せになってほしかったんだもん…」

「アイリス…」


強く抱きしめる大神。黙って見つめるかえで。

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雨が降る窓。サロンで紅茶を飲むかえで。スプーンでかき混ぜる水面に自分の顔。焼き殺されるもみじを回想し、手が震える。近づいてくる大神。

「……早く寝なさい。見回り、終わったんでしょ?」

「…明日、もう一度先巫女様に会いに行こうと思います」


スプーンをかき混ぜる手を止めるかえで。

「最終降魔について調べたいんです。何故彼女は生まれたのか、どうしたら呪いは解けるのか…、色々と」

「……好きにすれば?どうせ無駄だと思うけど」

「…何か知ってることがあれば、教えて頂けませんか?」

「…知らないって言ってるでしょ?私はそういった教育受けてないの」

「〜〜ほんの些細なことでもいいんです…!」

「〜〜しつこいわね…!そんなこと興味もないし、知りたくもないわ!」

「……そう…ですか…」


かえでに苺のキャラのキーホルダーを差し出す大神。

「チョコレートのお返しです。義理でも嬉しかったです」

一礼し、去る大神。キーホルダーを見つめるかえで。

「……義理なんかじゃ…ないわよ…」

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医務室。ベッドで泣いて震えるあやめ。付き添うかすみ。廊下で心配に見る花組。枕元に大神のネックレス。自分の部屋で指輪の箱を見つめる大神。

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支配人室。酒を飲む米田。誰もいないテーブルに酒が注いであるグラス。

「――どうだ、三十郎、おめぇの大好きだった『桜吹雪』だぜ?」

飲み干し、瓶を持つ米田。静かな室内。集合写真の大神を見つめる。

「そろそろお前さんのあれが日の目を見る頃かねぇ…」

自分のグラスに注いで再び飲み干す米田。瓶の隣に酒の減らないグラス。

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天雲神社。門を見上げ、ペンダントを握る大神。門を叩く手を重ねる手。

「えへへ、来ちゃいました」

「皆…!」

「水臭いぜ、隊長!一人で乗り込もうなんてよ」

「手柄を独り占めしようったって、そうはいかへんで?」

「私達にも手伝わせて下さい。あやめさんは大切な仲間なんですから」

「ありがとう…!皆がいてくれると心強いよ」

「少尉だけでは頼りないですからねぇ。ま、黙って見てらっしゃいな」


門をどんどん叩くすみれ。出てくる神官。

「誰だ、騒々しい…!?〜〜あ、あなた方は…!!」

「ちょいとお兄さん、先巫女のおばあ様を呼んできて下さらないかしら?」

「〜〜し、しかし…、先巫女様はもう二度とお会いには…」

「いいからさっさと連れてきなさい!!トップスタァのこの私がわざわざ出向いてやってるんですのよ!?」


ビビる神官。屋敷に向かって叫ぶアイリス。

「先巫女のおばあちゃーん!!聞きたいことがあるのー!!中に入れてー!!」

「お願いしまーす!!先巫女様ぁ!!」


一緒にやるさくら。大神とマリア達も加わる。

「〜〜こ、困ります…!どうかお引き取りを――」

「何の騒ぎじゃ?」


神官達を連れて出てくる先巫女。ひざまずく神官。

「…まったく、やはりお前さん達か」

「お願いします、先巫女様…!!あやめさんともう一度会って頂けませんか!?」

「断る。あいつは呪われた女じゃ。神社の鳥居を潜らせるわけにはいかん」

「でしたら、帝劇にいらして下さい!そして、もう一度お話を――」

「話すことはない。あやめは勘当したのじゃ。もう藤枝の家には関係ない」

「〜〜何様のつもりだよ!?あやめさんが一体何をしたっていうんだ!?」

「最終降魔に憑かれた女は、生まれてくるだけで大罪なのじゃ」

「そんなのあんたん家の事情やろ!?」

「うるさいのぅ。とにかくわしはもうあやめとは会わんし、巫女も継がせん。まったく、あれだけ手塩にかけて育ててやったのに罰あたりな孫じゃ」

「〜〜何だとぉっ!?」


先巫女に殴りかかろうとしたカンナを止める大神。

「お願いします!!せめて最終降魔についてだけでも教えて頂けませんか!?」

「話して何になる?…お前さん達もあやめとは関わるな。不幸になるぞ」


門を閉める神官。門に八つ当たりするカンナ。

「〜〜ちっくしょう!!何なんだよ、あのばあさん!?」

ジャンポールをぎゅっとし、凛々しく前を見てテレポートするアイリス。

「アイリス…!――!!」

大神達も一緒に屋敷内へテレポート。怒りで霊力を大量放出するアイリス。

「空間と一緒に瞬間移動やて…!?」

「アイリス…、〜〜何てすごい霊力なの…!」

「アイリス、あやめお姉ちゃんが元に戻るまで頑張る。絶対諦めないもん!!」

「アイリス…」


手を差し出すアイリス。頷き、手を重ね合う花組。

「よし、屋敷を調査して、情報を集めよう!俺達も頑張るぞ!!」

「おーっ!!」「おーっ!!」「おーっ!!」「おーっ!!」「おーっ!!」「おーっ!!」


★               ★


医務室。ベッドに座って外を眺めるあやめ。犬と遊ぶ新次郎とラチェット。シーツを握るあやめ。心配に見守る三人娘。双葉がずかずか入ってくる。

「ふ、双葉さん…!?」

あやめに木刀を振り下ろす双葉。目を塞ぐ三人娘。受け止めるあやめ。

「ふん、感覚の方は鈍ってないみたいだねぇ」

木刀をパスする双葉。キャッチするあやめ。

「――どうだい?たまには良い汗かきたいだろ?」

★               ★


鍛錬室・道場。道着で木刀を打ち合うあやめと双葉。押され気味のあやめ。

「ほらほら、どうした?積極的に来いよ!」

「くぅ…っ!〜〜あ…っ!!」


倒れるあやめ。

「何だい、聞いてた話とまるで違うねぇ。…あー、そうか。霊力取られて、弱くなったんだっけ?」

「〜〜く…っ、はああああっ!!」


歯を食いしばり、斬りかかるあやめ。受け止め、薙ぎ払う双葉。

「そんな剣じゃ何も斬れないよ!悔しかったら私を倒してみな…!!」

再び攻撃するあやめ。打ち合うあやめと双葉。

「…少しはましになったか。だが――」

木刀を払われ、あやめの木刀で二刀流になる双葉。

「狼虎滅却・快刀乱麻!!」

「きゃああああーっ!!」


壁に背中を打ち、倒れるあやめ。駆け寄る三人娘。

「副司令…!!」

「霊力がなくなったからとか、悪魔の血を引くからとか、そんなの逃げる為の言い訳だ!どうしようもないから殺せだぁ!?甘えたこと言ってんじゃないよ!! 一郎が好きなら…、一緒になりたいんなら、死ぬ気で生きてみろ!!」


拳を握り、涙ぐむあやめ。

「〜〜双葉さん、もうやめて下さい…!」

「お前らも甘やかすな!!――私の妹になる女は、そんなヤワじゃやってけないよ!!ほら立て!!一郎の嫁になりたいなら、この姉を倒してみろ!!」


満身創痍で立ち上がるあやめ。

「副司令…!」

「ふぅん、根性だけはあるみたいだね」


あやめに木刀をパスする双葉。

「ほら、死ぬ気でかかってこい!」

「〜〜はああああっ!!」


木刀がぶつかり合い、火花が散る。積極的に攻めるあやめ。

「副司令…。〜〜歩くだけでもやっとのはずなのに…」

「ふふん、やっと本気を出したか――」


あやめにミカエルが重なって見える。

(〜〜な…、何だ…!?)

「やああああっ!!」


光と霊力を発するあやめ。双葉の木刀が飛び、落ちる。息荒く座るあやめ。

「副司令…!!」

「〜〜だ…、大丈夫よ…。少し疲れただけ…」

「――くくっ、あはははははっ!」

「ふ、双葉さん…?」

「こりゃすげぇや!今のが藤枝の剣技か…!いやぁ、たまげたぜ」


屈み、あやめと見つめ合う双葉。

「やればできんじゃんか。それだけ力ありながら、何で逃げようとする?」

「〜〜私は…、これ以上生きていてはいけないんです。悪魔の血を引いて生まれた者は、この世に災いをもたらしますから…」

「災い?さっきのすんげぇのが?私には逆に世界を救う光に見えたがな」

「え…?」

「すごいですよ、副司令!今のどうやってやったんですかぁ!?」

「自分でもわからないの。無我夢中で双葉さんに勝つことだけを考えてて」

「ははっ、火事場の馬鹿力って奴か。それだけの力があるなら、私なら喜んで華撃団で戦うがね。…あー、良い汗かいた。ひとっ風呂浴びてくるか!」


ご機嫌で出ていく双葉。うつむくあやめ。

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天雲神社。歩く神官達。隠れながら、移動する大神達。

「見張りがいっぱいですねぇ…」

「大勢だと目立つな…。何組かに分かれよう」

「では、私とアイリスで屋根裏部屋と離れ家屋を調べます」

「うちは儀式やった部屋を調べてみるわ」

「わかった。カンナとすみれ君は左棟を頼む。俺とさくら君は右棟だ」

「了解しました!」

「二時間後に鳥居の下に集合だ。皆、気をつけてな!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」


散らばり、調査するマリア達。柱に隠れながら、移動する大神とさくら。

「確かあそこが客間だったよな…」

「奥に進むにつれて、見張りが増えてますね…」

「そうだな…。だが、何でこんなに見張りを置く必要があるんだ?」

「きっと何か隠してるんですよ!見られたくないものをどこかに…」

「見られたくないもの…?」


書庫で本を奪い返す先巫女を回想する大神。

「――!さくら君、ついてきてくれ!」


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