★4−2★



活動写真館。アイリスをリードして館内を進む大神。

「足元、気をつけるんだぞ」

「うんっ!」


並んで座る二人。弁士が出てくる。

「お、丁度始まるみたいだな」

「あの人は?」

「弁士さんといって、映像に合わせて説明してくれる人なんだ。だから、静かにしてなきゃ駄目だぞ?」

「はーい!」


ワクワクしながら観るアイリス。活動写真が始まる。

「――『さて、ここは深いふか〜い森の中、今まさに一人の天才科学者がこの世に新たな生命体を誕生させようとしておりました』」

怖い映像に所々から悲鳴があがる。怖がり、大神の手を握るアイリス。

「怖かったら出るよ?」

「〜〜へ…、へーきだもん…っ!」


暗い部屋に閉じ込められ、気味悪がられるフランケンシュタイン。回想。部屋に閉じこめられ、ジャンポールを抱きしめる幼いアイリス。

『――おかわいそうに…。あんな広い部屋にお一人で…』

『〜〜だが、あれは恐ろしい力だ…!外に出しては我々の命が…!!』

『〜〜気味が悪い…!あの子は悪魔の化身だ…!!』


フランケンと過去の自分を重ね、涙を流して息を荒くするアイリス。

「アイリス、どうした?」

「『出ていけ、化け物!!お前なんか生まれてこなければよかったんだ!!』」

『〜〜お願い、殺さないで…!!』

『〜〜怖いわ…!!何であんな恐ろしい子が生まれてきたのかしら…!?』

『〜〜あの子は人間じゃないわ…!化け物よ…っ!!』

「〜〜違う…、アイリス…、化け物なんかじゃ…」

「アイリス…?」

「――『出ていけぇっ!!この村から追放してやる!!』」


村民の松明の炎がアイリスの部屋のろうそくの明かりと重なる。

「〜〜いやあああ〜っ!!」

一気に霊力を解放するアイリス。大地震が起き、崩れる活動写真館。天井が落ちてきて、慌てて避難する人々。

「アイリス…!?〜〜どうしたんだ、落ち着け…!!」

「〜〜いやああっ!!アイリス、化け物じゃないっ!!化け物じゃないもぉん!!」


激しい爆発。瓦礫の山となる活動写真館。通りすがりに見て、驚く街の人々。身構えていた大神だが、ゆっくり目を開く。黄のバリアがアイリスと自分を包んでいる。嗚咽を漏らし、うずくまりながら霊力を大量放出しているアイリスに触れようとするが、火花が散り、驚く大神。

★            ★


「〜〜バッカもぉんっ!!」

机を拳で叩きつける米田。肩をすくめる大神とアイリス。

「活動写真館を潰しただとぉ!?お前がついていながら、何やってたんだ!?」

「〜〜も、申し訳ありませんでした…!!」


頭を下げる大神。困るあやめ。腕を組むマリア。ふてくされるアイリス。

「死者が出なかっただけでもよかったぜ…。まったく、帝都を守る我々が人様の命を脅かしてどうすんだ、えぇ!?」

「〜〜全て自分の責任です…!責任なら自分一人に――!」

「だから、隊長は甘いんですよ!今回の責任はアイリスにもあります。…司令、アイリスにもそれ相応の処分を下すべきかと」

「〜〜ちょっと待て!アイリスはまだ子供だぞ!?」


ショックを受けるアイリス。

「だから何です?子供なら何をやっても許されるとおっしゃるのですか!?」

「そうは言ってないだろう!?それに、アイリスは故意にやったわけでは…」

「活動写真館を破壊し、多くの人を危険にさらしたのは事実です」

「〜〜そ、それはそうだが…」

「…いかがなさいますか?」

「うむ…。まー、処分とまではいかねぇが、アイリスにも厳重注意を――」

「〜〜アイリス、悪くないもんっ!!」

「…アイリス、理由が何にせよ、あなたは大神君と周りの人達に迷惑をかけたのよ。ごめんなさいできるわね?」

「やだっ!!〜〜アイリス、謝らないもんっ!!」


あやめの手を振り払い、泣きながら出ていくアイリス。

「アイリス…!!〜〜失礼します…!」

一礼し、追いかけて出ていく大神。

「…ああやって隊長が甘やかすから、つけあがるんですよ」

「……しっかし、あのでっかい活動写真館を…なぁ…」

「えぇ…。私達が思っていた以上に彼女の霊力はすさまじいものですね」

「やはり、アイリスは戦闘に向きません。あの状態が起これば我々にも…」

「やれやれ、せっかくプレゼントを用意しといたんだがなぁ…」


格納庫。プレゼントのリボンがついたアイリスの光武を困って見る紅蘭。

★            ★


中庭。月光に照らされながらブローチを見つめ、大神を回想するアイリス。

『――お誕生日おめでとう、アイリス』

『〜〜アイリスはまだ子供だぞ!?』


ブローチに涙が落ちる。体育座りし、静かに泣くアイリスを見つける大神。

「そこにいたのか…!探した――」

駆け寄ろうとするが、テレポートして向こうの廊下を走っていくアイリス。

「テ、テレポート…!?」

巻物を持って鼻歌交じりに廊下を歩くさくら、アイリスとぶつかりそうに。

「あ…っ!?〜〜ど、どうしたの、アイリス…?」

続けて走ってくる大神。

「アイリス、見なかったかい…!?」

「え?えーと、あっちだから…、自分の部屋の方だと――」

「ありがとう…!」


走っていく大神。驚き、瞬きするさくら。

★            ★


電気をつけずに部屋に閉じこもるアイリス。ドアを強めにノックする大神。

「アイリス、お願いだ、ここを開けてくれ…!」

無視し、ジャンポールを抱いて寝るアイリス、『眠り姫』の絵本を見る。

「参ったな…。アイリス、良い子だから出てくるんだ。怒らないから、な?」

「…寝てるのー!」

「〜〜駄目か…」

「――お困りのようですわねぇ、少尉」


振り返る大神。さくら、すみれ、カンナが立っている。

「君達…?」

「まぁ、私は何が起きたのか存じ上げておりませんけれど、おおかたアイリスが霊力を暴走させて、活動写真館を丸ごと吹き飛ばした、みたいなことでしょう?おっほほほほ…!」

「〜〜思いっきり知ってるじゃないか…」

「さっき、マリアさんに聞いたんです…。私達もアイリスが心配で…」

「ったく、マリアは厳しいんだよなぁ…。アイリスはまだ10歳だぜ?」

「私もそう思います。〜〜それに力を抑えきれなくて、仕方なく壊しちゃったんですし…」

「でも、確かに被害は甚大だった…」

「ガキの頃は誰でも一人前にはできねぇよ。そうやって失敗しながらやっていいことと悪いことの区別をつけて、大人になっていくってもんだぜ」

「うーん、確かにそうだな…」

「まぁ、この私にお任せ下さいまし。あんな子供一人引っ張り出すぐらい、わけありませんわ」

「おめぇじゃうまくいくもんもいかなくなるよ。あたいもついてくぜ!」

「〜〜んまぁっ!カンナさんのようながさつな方と一緒では、アイリスの硝子のような心にますますヒビが入ってしまいますわっ!!」

「〜〜んだとぉっ!?てめぇ、第2ラウンドやるってーのか!?」

「〜〜やめないか、二人ともっ!!…ここは一時休戦だ。協力して、アイリスの心をケアしてきてくれ」

「…ふん、まぁ、いいでしょう。この神崎すみれにとんとお任せあれ!」

「…はいはい。んじゃ、行ってくらぁ!」

「あ、じゃあ、私も行きま〜す!」

「〜〜この顔ぶれだと、とてつもなく不安なんだが…」


ノックするすみれ。

「アイリス〜?ここを開けて下さいませんこと?」

「…帰ってよぉ!」

「そんな寂しいことおっしゃらないで下さいまし〜。先程、アイリスちゃんだけの為に、我が神崎重工より秘薬を持って参りましたのよ?」

「ひやく…?」

「えぇ!これを飲めば、あっという間に大人になれる魔法の薬ですわ!」

「あたいはよぉ、沖縄料理を作ってきたんだ!沖縄の料理は体に良いんだ!食べれば、あっという間にでかくなれるぜ〜?」

「私はね、紅蘭に発明品を作ってもらったの!名付けて『レディになれ〜る君2号』!使えば、あっという間に大人になれるんですって!」


少し喜ぶアイリス。ドアが少し開く。

「ふふん、ちょろいもんですわね」

「じゃあ、いってきま〜す!」

「あぁ、頼んだよ」

「おいおい、真っ暗じゃねぇか…。電気つけんぞー?」


部屋に入るさくら、すみれ、カンナ。電気をつけられ、眩しがるアイリス。

「…それ置いて、出てってよぉ」

「まぁまぁ、これはただ口にすりゃいいってもんじゃないんだぜ?」

「その通り、まずは笑顔にならなくちゃ!ほら、笑って、笑って!」


アイリスの頬を触るさくら。照れながら、笑うアイリス。

「そうそう、その笑顔だ!明るい気分で食えば、効果は2倍だぜ!」

「ほら、早く使ってみなさいな」

「うんっ!どれからにしようかな〜?」


ご機嫌で料理を食べ始めるアイリス。安堵するさくら、すみれ、カンナ。

(やった!うまくいったわ…!)

(ま、こんな子供を騙すなど、私にとっては赤子の手を捻るも同然ですわ)

(よぉし、あとは油断したとこを部屋から引っぱり出して――)


ハッと気づき、黄の光を発しながら、三人を睨むアイリス。部屋の空間が歪み、ぬいぐるみ達が宙に浮かんで飛び交う。小さな地震。

「〜〜ど、どうしたの、アイリス…!?」

「皆、嘘ついてる…。嘘ついて、アイリスのこと連れ出そうとしてる…」

「〜〜な…、何をおっしゃってるやら…?言いがかりはおよしなさい!」

「〜〜嘘つき…!皆、皆…、〜〜大っ嫌〜いっっ!!」


黄の雷が落ち、劇場内が停電。驚く大神。黒こげで出てくる三人。

「な…、何があったんだ…!?」

「げほっ、ごほ…っ、〜〜失敗しちゃいましたぁ…」

「〜〜駄目だ…。アイリスの奴、人の心が読めるらしい…」

「ほ…、本当か…!?」

「フン!あんなワガママな小娘、放っておけばよろしいですわ!私はシャワーを浴びさせて頂きます。まったく、私の美貌が台無しですわっ!」


怒って歩いていくすみれ。ドアに触れようとするが、電気が走って触れず。

「〜〜アイリス、悪かった…。でも、俺達は君にここから出てきてほしいんだ。君が心配なんだよ…!良い子だからここを開けてくれないか、な?」

「そうやってまた子供扱いするんだ。〜〜アイリス、子供じゃないのに…」

「アイリス…」

「…今日はそっとしておいてやった方がいいんじゃねぇか?」

「……そうだな…。――おやすみ、アイリス」

「腹減ったら、出てこいよ?夕飯、いつでも作ってやるからさ」


部屋から離れる三人。泣きながら、ジャンポールを抱きしめるアイリス。

「元気出して下さい、大神さん。一晩経てばケロッとして出てきますって」

「あぁ…。ありがとう、さくら君…」


落ち込んで歩いていく大神。うつむくさくらの肩をポンポン叩くカンナ。

★            ★


夜中。サロン。無言で茶を飲むさくら、マリア、紅蘭、カンナ、大神。

「可愛そうなことしちゃいましたね…、せっかくのお誕生日だったのに」

「花組隊員としての責任と立場をわきまえられる良い機会になったわ」

「〜〜だけどよぉ…」


歩いてくるあやめ。

「あの、すみれさんは…?」

「自分の部屋よ。『睡眠不足はお肌の敵ですわ〜』…ですって」

「はぁ…、すみれはんらしいですなぁ」

「…それで、俺達に話したいことって?」

「えぇ。前から話しておこうと思ってたの、アイリスの過去についてね」

「過去…?」

「アイリスはね、生まれた時からとても強い霊力を持っていたの。成長するにつれてあの子の霊力はどんどん強くなり、やがて家の者を傷つけるようになった…。そのせいでアイリスのご両親やおじい様、それにシャトーブリアン家の使用人達にまで忌み嫌われるようになり、帝劇に来るまでずっと自分の部屋に隔離されていたの……」


回想。フランスのアイリスの屋敷。廊下を歩き、アイリスの部屋まで来る洋服のあやめ。怯えながら使用人が鍵を外し、中に入るのを見つける。

『〜〜お…、お夕食を持って参りました…』

ワゴンを押しながら、ビクビク入る使用人。ベッドから飛び降り、駆け寄るアイリス。怯え、後ずさる使用人。

『わぁ、アイリス、お腹ペコペコぉ!今日は何?』

『〜〜お…、お嬢様のお好きな…、キッシュでございます…』


早く準備して帰ろうとするが、ドアが閉まり、鍵がかかる。恐怖で顔が引きつる使用人。

『え〜?もう帰っちゃうのぉ?アイリスと一緒に遊ぼうよ〜!ねぇねぇ、絵本読んでくれる?』

ウキウキしながら引き出しから『眠り姫』の絵本を出すアイリス。ドアノブを回すが、開かず。絵本を持ち、使用人のスカートを引っ張るアイリス。

『ねぇ、『眠り姫』って知ってる?』

『〜〜いやああああ〜っ!!』


青ざめ、うずくまってパニックになる使用人。聞き、廊下で驚くあやめ。

『〜〜お、お願いだから、殺さないで…!!し…、死にたくないぃ…!!』

目を見開き、ショックを受けるアイリスを突き飛ばす使用人。

『〜〜あっち行きなさいよ!!この化け物ぉっ!!』

涙が頬を伝うアイリス。鍵が開き、逃げる使用人とすれ違うあやめ、部屋で絵本とジャンポールを抱きしめ、泣くアイリスを見つめる。回想終了。

「〜〜そうか…。だからアイリスは…」

「活動写真のフランケンと昔の自分を重ね、辛いことを思い出した…」

「せやからパニックになって、力を抑えられなくなってしもうたんやな…」

「でも、アイリスは何も悪くないじゃないですか…!!ただ人よりちょっと霊力が強いだけで…。〜〜そんなの家族じゃありません!ひどすぎます!!」

「そう…、アイリスは何も悪くないわ…。だけど、人と少しでも違うところがあれば、忌み嫌われ、恐れられるのが普通よ…。…あなた達にも似たような経験…あるんじゃない?」


顔を見合わせ、うつむく大神とさくら達。

★            ★


見回りで廊下を歩く大神、アイリスを回想。

『――アイリスね、大きくなったら、お兄ちゃんのお嫁さんになるんだ!』

『〜〜アイリス、子供じゃないもぉん!』

『――そうやってまた子供扱いするんだ…』


中庭を懐中電灯で照らす大神。昼間のおままごとを回想。大神を見つけ、歩いてくるあやめ。

「――小さい子って皆そうね…。子供扱いされるのが大嫌い…」

「あやめさん…!」

「子供は早く大人になりたくて、つい背伸びをしてしまうの…。大神君もそうじゃなかった?」

「はい…。早く大きくなって、立派な軍人になるのが夢でした。一日も早く父に追いつきたくて、必死で…」

「でしょ?アイリスもきっとそうなんじゃないかしら?さくら達みたいに早く素敵な大人になりたい。そして、大神君のお嫁さんになりたい。でも、自分はまだ小さいから、皆に敵わない…。アイリスなりに焦っているのね、あなたを取られまいと必死に。ふふっ、大神君、大人気ですものね」

「はは…、アイリスにはそう見えるだけですよ…」

「ふふふっ、でも、子供の頃って大人になりたくて必死だったけど、いざ大人になってしまうと、時々子供に帰りたくならない?」

「そうですね…。子供の頃なんてただ純粋に夢を追いかけるだけでよかった。誰かに守られて、愛されているのが心地良くて、つい甘えて…。でも、大人になったら一番頼れるのは自分…。そして、今度は自分が誰かを守ってやる番なんだって…。そう考えると責任が重くて動きづらくなって…」

「ふふっ、隊長さんも結構大変でしょ?」

「でも、やりがいはあります!花組の結束が強まる度に、隊長やっててよかったって。…でも、今日は反省しました。アイリスにあれだけの力があったなんてわかりませんでしたし…。俺、隊長なのにまだまだ隊員のこと知らなくて…。〜〜アイリスがどんな気持ちでここに来たのかさえ…っ!」


懐中電灯を握る大神の手を優しく包むあやめ。

「まだここに来て3か月でしょ?わからないことがあるのも当然だわ。でも、そうやって反省して、悩むのはとっても大切なことよ。そうやって少しずつ隊長らしくなっていけばいいの。…マリアの変化、気づいた?この間の一件であなたのこと、『少尉』から『隊長』って呼ぶようになったわね。それはあなたを隊長として信頼できるようになったから。…違う?」

「しかし、隊長としての判断は間違っていました…」

「前にも言ったけど、ここは軍隊じゃないのよ?隊長も隊員も機械的に動く人形じゃないの。人間らしく、自分が正しいと思ったことを実行に移す…。マリアを思いやる心が通じた証拠じゃない…!」

「あやめさん…」


大神の曲がったネクタイを直すあやめ。赤くなり、あやめを抱きしめようとする大神だが、何かを思い出して離れるあやめ。こけそうになる大神。

「――あ、そうだわ!明日の合気道の特訓、大神君も手合わせしてみる?」

「え…?よろしいんですか?」

「もちろんよ!審判だけじゃ体がなまっちゃうでしょ?」

「はい、では、よろしくお願いします!」

「ふふっ、じゃあ、さくらの特訓が終わったら、二人っきりで…ね!」


大神の耳元で囁くあやめ。耳を押さえ、真っ赤になる大神。

「それじゃあ、おやすみなさい」

「〜〜お…、おやすみなさいませ…っ!」


真っ赤で深く頭を下げる大神を見ながら歩いていき、笑うあやめ。

(――うふふっ、やっぱり年下君って可愛いっ!)

★            ★


深夜の浅草。浅草寺の門の上に立つ羅刹。

「くくくっ、ここか…!」

地脈ポイントに降り立ち、楔を出現させ、地面に打ち込む羅刹。

「オンキリキリバサラウンバッタ、オンキリキリバサラウンバッタ…!!」

楔が地中に消える。封印の鎖が解かれる音。

「ふははは!ちょろい、ちょろい!」

観察している月組。気配を感じ、振り返る羅刹。

「――誰だ!?……むぅ…、気のせいか…」

屋根を伝って移動し、加山に報告する月組隊員。

「浅草にて黒之巣会の動き、確認できました!」

「ご苦労!下がっていいぞ」


一礼し、下がる隊員。手袋をはめ直し、真剣な顔で前を見つめる加山。

★            ★


早朝。屋台の風鈴屋。歩いてきて見つける米田。

「お、風鈴かぁ」

「お安くしときますぜ、旦那」

「そうかい?んじゃ、この朝顔のをもらおうか」

「毎度!」


風鈴を包みながら、米田の耳元で囁く加山。

「昨夜3時過ぎ、浅草寺にて黒之巣会の動きを確認できました」

「今度は浅草か…。奴らめ、帝都を隅々まで狙ってきとるってわけだ」

「我々の予測が正しければ、次は九段下か深川あたりかと…」

「…わかった。また何かわかったら、よろしく頼むぜ」

「了解しました…!」

「――んじゃあな、兄ちゃん」

「毎度ありー!またごひいきにー!」


風に響く風鈴の音。麦わら帽子を上げ、米田を真剣に見つめる加山。


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