★4−1★



揺れる七夕の短冊が街に飾られている。巣で親鳥が雛に餌を与える。カーテンから朝日が差すアイリスの部屋。枕元に『眠り姫』の絵本を置き、眠るアイリス。鳥の囀りで目を覚まして飛び起き、カレンダーを見る。7月6日に誕生日の印。笑顔になり、ジャンポールと回ってはしゃぐ。

「ねぇジャンポール、アイリス、今日でまた一つ大人になったんだよ!」

★            ★


「――七夕?」

「はい。7月7日に短冊に願い事を書いて飾る風習が日本にはあると、あやめさんに聞きました。そこで私達の劇場でもやってみてはいかがかと」


大道具部屋を整理しながら、話す大神とマリア。

「いいね。俺も七夕は好きなんだ。じゃあ、皆で準備しようか」

「ありがとうございます。そう言って頂けると思っていました」

「でも、マリアが日本の文化に興味があるとは思わなかったな」

「この劇場がある日本は私にとって第二の故郷です。最初はあまり興味がありませんでしたが、ここで皆と生活するにつれて思えるようになったんです、どんな小さな行事でも皆と一緒に思い出を作っていけたらって」

「マリア…。――良い顔で笑うようになったね」

「え…っ?」

「これからも一緒に思い出を作っていこうな、皆で、俺達のこの劇場で」

「はい…!」


赤くなりながら微笑み、大神を見つめるマリア。

★            ★


舞台。『愛はダイヤ』の稽古中の花組。そっと覗くアイリス。

「――お、おみぃ〜やぁ〜」

「か、貫一さぁん…!およよよよぉ〜」


すみれとカンナの演技を客席から見学するさくらと紅蘭。

「すみれはんったら、またいらんアドリブして。音響はん、困っとるやん」

「でも、面白いじゃない。毎回よく違う台詞が思いつけるなぁ…」

「ま、すみれはんは一度台本に目を通せば、ほとんど覚えてまうからなぁ」

「えぇっ!?い…っ、1回でぇっ!?」

「――そうよ。役を自分なりに吸収して、台詞や動きを誇張してるわけ」


後ろの客席に座り、身を乗り出して微笑むあやめ。

「何も台本が全てじゃないわ。その土台から役をどう積み上げていくかは役者次第…。さすがは自他共に認めるトップスタァだけはあるわね」

「〜〜うぅ…、それに比べて私は…」

「さくらはんかて、経験積めば絶対良い女優はんになれるて!役者はんはな、日々、いろんなこと吸収して成長していくもんなんやで?」

「その通りよ。毎日に無駄なんてないわ。恋愛や楽しい思い出、辛いことや悲しいこと…、人生で経験した全てが自分の糧となるの。だから、今のうちから色々経験しておくのは、女優にとってとても大事なことなのよ」

「そうか…!――わかりました!私、頑張って色々経験してみます!」

「さくらはんはいつも前向きやなぁ。そういうとこ、うち、大好きや!」


さくらに抱きつき、はしゃぐさくらと紅蘭。来る大神とマリア。

「あ…、おはようございます!」

「おはよう。稽古はどこまで進んでる?」

「えっと、今は貫一とお宮がですね――」


台本を見せてやろうとするさくら、すみれの悲鳴と倒れる音に肩をすくめる。カンナに裾を踏まれ、派手に転ぶすみれ。

「わ、悪い…!大丈夫かっ!?」

「〜〜これのどこが大丈夫でしてっ!?私の美しい顔に傷でもついたら――」


赤くなった鼻のすみれに吹き出すカンナ。

「〜〜なっ、何がおかしいんですの!?」

「〜〜ぷくく…!いや、悪い、悪い…」

「――きゃは!だって、すみれのお鼻、トナカイみたいなんだも〜ん!」

「〜〜え…っ!?」


振り返るすみれに鏡を押しつけるアイリス。鏡に赤の油性ペンでボツボツ。

「〜〜き…っ、きゃああ〜っ!!わ…、私のお顔がぁ〜…」

失神するすみれ。

「〜〜あ…っ、おい、すみれぇっ!?」

「きゃはははっ!あ〜あ…」

「アイリス!悪戯が過ぎるわよ?」

「マリアのお説教なんか怖くないも〜ん!べーだっ!」

「アイリスッ!?」

「きゃはは!――行こ、お兄ちゃん!」

「え?〜〜あ、おい…!」


大神の手を引っ張り、出ていくアイリス。

「アイリス、まだ稽古中よ!?戻りなさいっ!!〜〜もう…」

「稽古、稽古の毎日で飽きちゃうんでしょうね…」

「アイリスはまだまだ子供やさかいな…。しゃあないやろ」


笑うあやめに気づくさくらと紅蘭。

「何がおかしいんですか…?」

「ふふっ、いいえ。アイリスも元気に笑ってくれるようになったなぁって」


顔を見合わせ、首を傾げるさくらと紅蘭。

★            ★


中庭でおままごとする大神とアイリス。大神に泥団子が入った器を渡す。

「はい、あなた!」

「あ、ありがとう…。もぐもぐもぐ…、〜〜あー、おいしいなぁ」

「むぅ…、ダメ〜ッ!そんなんじゃぜ〜んぜん夫婦に見えないもぉん!」

「〜〜アイリス、稽古に戻ろうよ。皆、心配してるぞ?」

「やだもん!稽古なんかよりお兄ちゃんと遊んでる方が楽しいも〜ん!」

「そんなこと言うなよ…。ちゃんと稽古せずにお客さんの前で間違えたら、アイリスだって恥ずかしいだろ?」

「アイリス、失敗しないも〜ん!ねぇお兄ちゃん、それよりデートしよ!」

「デ、デートぉ!?」

「アイリスね、前から行ってみたかったとこがあるんだ〜!いいでしょ?」

「ちゃんとお稽古して、完璧にできるようになったら連れてってやるぞ?」

「あ〜ん、今日じゃなくちゃ駄目なのぉ!だって、今日はアイリスの――」

「――大神さぁん!」


駆け寄ってくる三人娘。

「何やってるんですか!?もう戦闘訓練の時間ですよ!?」

「『どこ行ったんだ〜!?』って私のマリアさん、もうカンカンでしたよぉ!?」

「あ…、〜〜そ、それは怖いな…。――ゴメン、すぐ行くよ…!」


慌てて走っていく大神。

「あ、お兄ちゃ…!」

「アイリスちゃんも一緒に見学しましょうか、ね?」


アイリスに合わせて屈み、優しく微笑むかすみ。頬を膨らますアイリス。

★            ★


黒之巣会・本拠地。鉄球を振り回し、柱を崩す羅刹。肩をすくめるミロク。

「〜〜おのれ、帝国華撃団…!俺の大事な兄者をよくも…っ!!」

「ちょいと、柱に八つ当たりしないどくれ!崩れてきたらどうすんだい?」

「黙れっ!!奴らのせいで兄者は…!〜〜兄者はぁ…っ!!」


鉄球を握りしめる羅刹。握力で粉々に割れる鉄球。

「はぁ…、まったく、悪役とは思えぬ純情ぶりだねぇ」

歩いて入ってくる叉丹。

「何だ、あんたかい。どうかしたのかい?」

「天海様からの伝言だ。楔を浅草へ打ち、華撃団のとある小娘を殺せとな」


黒い炎を投げ渡す叉丹。キャッチし、掌を開く羅刹。アイリスが炎に映る。

「その小娘は帝国華撃団の中で最も高い霊力を持つ。そいつを殺し、その霊力を我らの物にできれば、計画はより順調に進むだろうとのご判断だ」

「なるほど、承知した!兄者の仇だ、俺が必ず仕留めてみせよう…!!」


炎を握り潰し、やる気満々で雄たけびをあげ、瞬間移動する羅刹。

「…ん?天海様って、今日は魔界じゃなかったかい?」

「フフフ…、さぁ、そうだったかな?」

「〜〜あんた、まさか…!!」

「まぁ、黙って見ていろ。兄を殺された恨みがあの清らかな心にどれほどの力を与えるかをな」

「まったく…、あんたは典型的な悪役だねぇ」


黒い炎にあやめを映し、笑う叉丹。

「――果たしてどう出るかな、帝国華撃団…?」

★            ★


鍛練室。ストップウォッチを持つあやめ。バーベルを上げるカンナ。スパンダーを伸ばすマリア。縄跳びする紅蘭。上体起こしするすみれ。木刀で素振りする大神。腕立て伏せするさくら。つまらなく見学するアイリス。

「――そこまでっ!」

あやめの合図で一斉に崩れる花組。装置に記録する風組。

「全員合格ラインです!…さくらさん以外」

「〜〜あうぅ…、またですかぁ…?」

「ちょいとさくらさん!さっきから不合格、不合格って、一体いつになったら得意分野が出てきますの!?そもそもあなた、本当にやる気があって!?」

「〜〜す、すみません…」

「まぁまぁ、さくら君だって一生懸命やってるんだしさ」

「大神さん…」


照れ、赤くなるさくらに嫉妬し、つんとするアイリス。

「――では、午前中の訓練はここまでにします。大神君は残ってね」

「わかりました」


大神に駆け寄ろうとし、不機嫌になるアイリス。手放しで喜ぶさくら。

「わ〜い、終わったぁ!」

「…さくらも…ね?」

「〜〜う…、はいぃ…」

「あはは!頑張りぃや、さくらはん!」

「ファイトだぜ!」


さくらを激励して出ていく紅蘭とカンナ。さくらの汗を拭うマリア。

「入隊当初と比べたらだいぶ能力値も上がってきているわ、この調子でね」

「は…、はいっ!」


微笑み、出ていくマリア。微笑む大神とあやめ。はしゃぐさくら。

「うわぁ!マリアさんに褒められちゃったぁ!」

「よかったわね。――じゃあ、ウォーミングアップから始めましょうか」

「はいっ!…って何のですか?」


★            ★


柔道場。柔道着に着替えたさくらとあやめが合気道で戦う。攻めるあやめ。防御するのが精いっぱいのさくら、足をかけられ、転ぶ。

「〜〜あうぅ…、いったぁ〜い…」

「ほら、立ちなさい!まだ10試合目でしょ!?」


無理矢理立たせ、特訓を続けるあやめ。青ざめる審判の大神。

(〜〜こ、これのどこがウォーミングアップなんだ…!?)

瓦を背負い、腕立て伏せするさくら。竹刀であやめと戦うさくら、竹刀を弾かれ、あやめに竹刀を突きつけられる。

「さぁ、こういう風に丸腰になった場合、どうする?」

「え、えーと…、と、とりあえず落ちてる棒を拾って――!」

「それが見つからなかったら?」

「〜〜そ、その時は…、――逃げます」


少しこける大神。

「ふふっ、場合によってはそれが良い時もあるわね。でも、もしあなたが誰かをかばっていたとして、それが足が遅い子供やお年寄りだった場合、…そう簡単に逃げ切れるかしら?」

「〜〜う…!そ、それは…」

「そういう時の為にも、合気道の習得は戦士にとって必須なの。私も士官学校時代、教官に厳しく叩き込まれたものよ?」

「俺も姉貴に教わったよ。大丈夫、君は勘が良いからすぐ習得できるさ」

「わ、わかりました!真宮寺さくら、合気道習得に向けて精進しますっ!!」

「その調子よ。じゃあ、今度は素手で戦ってみましょうか。――大神君!」

「――よぉい、はじめ!」

「はああああっ!!」


とびかかるさくら。よけ、後ろ回し蹴りするあやめ。防御し、足払いするさくら。跳び、キックするあやめ。慌ててよけ、向かっていくさくら。

「良い調子よ。それじゃあ、そろそろ本気を出させてもらおうかしら…!」

素早く蹴りとパンチを繰り出すあやめ。体勢を崩すさくら。

「目を瞑るな!隙ができるぞ!」

「はっ、はいっ!――てやあああっ!!」


押さえ込もうとするが、跳ばれて空振りし、前につんのめるさくら。

「――終わりっ!」

あやめに背中を蹴られ、バランスを崩して顔面から前に倒れるさくら。

「うきゅっ!!〜〜うぅ…、鼻打ったぁ…」

「ふふふっ、ほら、大丈夫?」


さくらの手を引っ張り、立たせてやるあやめ。

「〜〜うぅ…、合気道って難しいんですね…」

「でも、なかなか良い動きしてたわよ?この調子で毎日訓練すれば、精神と集中力も鍛えられて霊力値上昇にも繋がるし、一石二鳥でしょ?」

「――隙ありっ!」


あやめを押さえ込み、押し倒すさくら。

「さ、さくら君…!?」

「えへへ〜、油断しましたね?」

「うふふふっ、もう、してやられたわ」


笑うさくらとあやめ。あやめに竹刀を突きつけるさくら。

「さぁ、どうします?降参ですか?」

「そしたら…、――こうよ!」


さくらの手首を叩いて竹刀を落とさせ、さくらの手首を捻るあやめ。

「〜〜いたたたた…!!ギブです、ギブぅ〜…」

「ふふっ、まだまだ甘いわね――」


ハッとなるあやめ、剣の稽古で一馬に悪あがきで竹刀を突きつける山崎を回想し、さくらの手首を捻る力が弱まる。

「――?あやめさん…?」

「…お疲れ様、もう帰っていいわよ。明日も猛特訓するから、覚悟してね?」

「はいっ!粉骨砕身の覚悟で頑張りますっ!!ありがとうございました!!」


敬礼し、元気に走っていくさくら。

「さくら君も隊員だけあって、なかなか素質がありますね」

竹刀をゆっくり拾い、寂しく見つめるあやめ。

「…さっきのやり方はフェアじゃないわね。悪役がすることよ」

あやめを見つめ、?な大神。

★            ★


(――どうしたんだろう?さっきのあやめさん、何だか変だったな…)

シャワーを浴びてもぎり服に着替え、タオルで髪を拭って廊下を歩く大神。大道具部屋で何かを探すさくらを見つける。

「ん…?――何やってるんだい、さくら君?」

「あ…!おばあ様からもらった合気道の巻物を見ようと思ったら、倉庫が整理されてて…、〜〜どこにしまったかわかんなくなっちゃいました…」

「ごめん、さっき、マリアと一緒に整理しちゃったんだ…!俺も探すよ」

「すみません。ありがとうございます…!」


探す大神の横顔を見つめ、嬉しがるさくら。

「あ…、あのぉ、大神さん…?今日はこれから――」

「――お・に・い・ちゃ〜んっ!」


大神の背中に飛びつくアイリス。

「どわっ!!〜〜ア、アイリス…!びっくりするじゃないか…」

「お兄ちゃん、早くデート行こ〜!アイリス、ずっと待ってたんだよ?」

「え?でも、もう夕方だぞ…?」

「へーき!変な人が来ても、お兄ちゃんが守ってくれるもん、ね〜!」


ムッとなり、大神からアイリスを引き離すさくら。

「〜〜大神さんは今、私の探し物を手伝ってくれてるの!遊びに行くなら、すみれさんと三越にでも行ってきたら?」

「ヤダぁ!もうお兄ちゃんと約束したんだも〜ん!ね〜、お兄ちゃん?」

「〜〜そうなんですか、大神さんっ!?」

「〜〜えっ?そ、それは…」

「あ〜ん、さくらのイジワル〜っ!!今日はアイリスのお誕生日なんだよっ!?」

「え?そうなのかい?」

「そうだよ!だからアイリス、今日は大好きなお兄ちゃんとデートするの!ねぇ、いいでしょ…?」

「そうだったのか…。うん、そういうことなら――」

「え〜っ!?」

「〜〜さくら君、大人気ないよ…。アイリスはまだ子供じゃないか」

「…むぅ、わかりました。その代わり、今日だけですからねっ!?」

「わ〜いっ!きゃはははは!デートだ、デート〜っ!」

「ホ…ッ、――ありがとう、さくら君。この埋め合わせは必ずするから」

「――仕方ありませんよ。お誕生日は年に一度の大切な日ですものね!」

「お兄ちゃん、着ていくお洋服、選んで〜!」

「はいはい、わかったよ」


大神を引っ張っていくアイリス。袖を捲り、探すのを再開するさくら。

「よぉし、私も頑張るぞ〜!」

★            ★


「お兄ちゃん、早く、早く〜っ!」

お洒落な洋服を着て、手を振るアイリス。洋服で駆け寄る大神。

「きゃあ!お兄ちゃん、格好良い〜っ!!」

「はは、アイリスも可愛いよ。――じゃあ、行こうか!」

「うんっ!」


手を繋いで帝鉄に乗る二人。

★            ★


浅草。浅草寺を見て回る大神とアイリス。

「うわぁ、ここが浅草?」

「そうだよ。上野動物園の方がよかったかな?」

「ううんっ!アイリス、お兄ちゃんとここに来るのがずっと夢だったんだ〜!きゃはは!夢が一つ叶っちゃった〜!」

「ははは…、それはよかった」

「――あ!あれなぁに?」


アクセサリーを売る露店を覗くアイリス。

「わぁ、宝石だ、宝石〜っ!」

「ほ、宝石…!?……あぁ、露店のか…、ホ…ッ」

「ん?どうしたの?」

「いや、何でもないよ。どれがいい?誕生日プレゼントに買ってあげるよ」

「本当!?じゃあね、じゃあねぇ…、――これがいいっ!」

「あぁ、これだね?――おいくらですか?」

「50銭になります。――ありがとうございました〜!」

「わぁい!ありがとう、お兄ちゃん!」

「はい、お誕生日おめでとう、アイリス」


アイリスに蝶のブローチをつけてやる大神。

「えへへっ、王子様とお姫様みたいだね…!」

腕を組んで歩くカップルを見つけ、大神の腕を見つめるアイリス。

「――ねぇお兄ちゃん、腕…組んでもいい?」

「え?手じゃ駄目なのかい?」

「ダメ〜ッ!アイリスとお兄ちゃんは、恋人なんだからっ!」


組もうとするが、背が違いすぎて組めず。ショックなアイリス。

「ははは…、まだ無理だよ。もう少し大きくなってからな?」

アイリスの頭をなで、手を繋ぐ大神。うつむくアイリス。

★            ★


ベンチに座る大神とアイリス。うつむくアイリスを夕日が照らす。

「――疲れたかい?」

「ううん…。…ねぇお兄ちゃん、アイリス、今日でいくつになったと思う?」

「え?えーと…、確か10歳だったよな?」


大神の手を握るアイリス。

「うん…、当たり…。アイリス、今日から10代なんだよ?――さくら達と同じだね!もう少し大きくなったら、結婚できるよねっ!?」

「アイリス…?」

「アイリス、もう子供じゃないよね!?お兄ちゃんはアイリスのこと、大人だって思ってくれてるよね!?」

「え…?〜〜そ…、そうだなぁ――」


風が吹き、アイリスの帽子が飛ぶ。追いかけて拾い、被せてやる大神。

「よかった…!――はい」

「えへへっ、ありがとー!」


柔らかい風。短冊が揺れる。

「あれなぁに?」

「七夕の短冊だよ」

「七夕?」

「そう。離れ離れの織姫と彦星が年に一度だけ会える日なんだ。あれに願い事を書いてお祈りすると、願いが叶うって言われてるんだよ」

「ふぅん…」


懐中時計を見る大神。

「――あ、もうこんな時間だ…!活動写真始まるから、行こうか」

「うんっ!」


4−2へ

舞台(長編小説トップ)へ