サクラ大戦 奏組〜雅なるハーモニー〜開催記念・特別短編小説
「マイ・オリジナル・シンフォニー」
その1



「――えっ!?花組さんがお稽古中〜っ!?」

「うんっ!明日から再演する『新編・八犬伝』のリハーサルを衣装つきでやってるって!通しでやるから、今日は花組さん、ずっと舞台にいると思うよ!?」

「きゃ〜!ありがと〜、椿ちゃん!!」


私・雅音子が帝国華撃団・奏組に入団して早3ヶ月…。〜〜なのに、未だ憧れの花組さんとは会えずじまいで…。

「…はっ!〜〜やだ〜!髪ボサボサぁ…!!こんな姿じゃ笑われちゃう〜!!」

上京する時におじいちゃんからもらった手鏡を見ながら、髪を櫛でとかしてみます。

緊張しちゃうけど、笑顔よ、音子…!今日こそは憧れの花組さんと対面してみせるんだから…っ!

「こ、この扉の奥に花組さんが…。――よ、よぉし…!いざ…っ!!」

と、意気込んで舞台の扉を開けようとしたら、逆に扉が反対側から開いて、私に迫ってきて…!?

――バンッ!!

「〜〜うきゅっ!!」

〜〜うぅ…、鼻を思いっ切りぶつけちゃった…。どうして私って、こう不運なんだろ…?

「――大丈夫…!?」

すると、扉を開けた女性が私に手を差し伸べてくれました。

「〜〜ごめんなさいね…!?台本を読み直しながら歩いていたものだから…」

わぁ、綺麗な人…!衣装を着てるってことは女優さんかな…?

「あ…、――わ、私の方こそボーッとしてて…、すみませんでしたっ!」

「まぁ、鼻の頭をすりむいてるじゃない…!」

「あ…、えへへ、これくらい平気です。田舎にいた頃は、こんな傷しょっちゅう――」

「ダ〜メ!女の子なら、もっと自分の顔を大事にしなくちゃ。――ふふっ、すぐ終わるから、じっとしてなさい?」

「あ…!」


綺麗な女の人は私の鼻の頭を消毒すると、絆創膏を貼ってくれました。

近くで見ると、本当に綺麗なお顔…。肌も白くてツヤツヤしてて、羨ましいな…。

同性のはずなのに顔を触られると、何だかドキドキしちゃう…♪

「――お・し・ま・い♪可愛いお顔に傷をつけて、ごめんなさいね?」

「ハ…ッ!?〜〜い、いえ…!わざわざ手当てして頂いて、ありがとうございました!」

「ふふっ、どういたしまして」

「――かえでさん、食堂の席、取っておきました」

「ありがとう、大神君。――それじゃ、失礼するわね」

「は、はいっ!」

「――ふふっ、コーヒーとサンドウィッチは大神君のおごりね?」

「いぃっ!?〜〜勘弁して下さいよ、給料日前なんですから…」


もぎりさんと歩いていったあの人、かえでさんっていうんだ…。花組に入っててもおかしくないほど美人さんだったなぁ…!

…はっ!?――そうだ…!花組さん…!!

急いで扉を開けてみたけど、花組さんは舞台に誰もいなくて…。

「〜〜あ、あの、中嶋親方!花組さんはどちらに…!?」

「花組さんなら休憩中だよ。そろそろ戻って来る頃じゃないかい?」

「本当ですかっ♪」

「――さくらさん!?さっきはよくもお着物の裾を踏んでくれましたわね!?」

「〜〜すみません…。殺陣が前回より複雑になってるもので…――」


花組さんの声…!休憩から戻ってきたんだ…!!

やった〜!とうとう花組の皆さんに会えるのね♪

「あ、あの――!」

「――ここにいらっしゃいましたか」

「〜〜えっ!?お…、御伽丸君、いつの間に背後に…っ!?」

「あなたを連れ戻してくるようにとのシベリウス総楽団長からのご命令です。奏組もリハーサルを開始します。直ちにかなで寮へお戻り下さい」

「えぇ〜っ!?〜〜せ、せめて花組さんのお顔だけでも…っ!!」

「遅刻は規約違反です。破った場合、罰金が給料から引かれることになりますが…?」

「〜〜うぅ…、寮に戻らせて頂きます…」


〜〜ハァ…、今回も結局こうなるのね…。



「――んで、また花組に会えなかったの?…ダッサー」

「〜〜だってぇ〜、御伽丸君が脅してきたんだも〜ん…」


あ、今までのは数時間前の私を回想したものです。

今は私達・奏組もかなで寮の食堂で休憩中です!〜〜うぅ…、花組さんと違う食堂を使わなければいけないことが非常に残念でもありますが…。

「でもね、代わりにすっごい美人の女優さんに会えたんだよっ♪」

「花組以外の女優って誰だよ?バックダンサーか何かか?」

「ううん!髪型はこげ茶のボブで、銀色のキラキラした服着てた人!」

「――なるほど。おそらく、君が会ったのは藤枝かえで副支配人だ」

「副支配人って…!もしかして、帝国華撃団の副司令さんですかっ!?」

「えぇ、彼女と大神さんは花組さんとよく一緒に舞台に立たれるんですよ」

「そ、そうだったんだ…。〜〜私、そんな偉い方とぶつかって、手当てまでさせてしまったなんて…!!」

「明日の今頃はクビになってるかもな〜♪」

「〜〜ガ〜ン…!!」

「はははっ、冗談だって!」

「フフ、大丈夫ですよ。それくらいで部下を辞めさせるほど、副支配人は度量の狭い方ではありませんから」

「ほっ、よかった…。でも、帝都に住んでいる方って美人さんが多いんですね。軍人さんであのレベルとは…!さすが都会っ!」

「確かに副支配人はあんたと違って、顔もスタイルも頭もいいからね」

「〜〜あ〜っ!ひっど〜い、源三郎君っ!!」

「あはははっ!スタイルなんて気にすんなって!俺みたいに飯を腹いっぱい食えば、胸なんてすぐでっかくなっからよ♪」

「…兄さんは人一倍食べてる割にチビだけどね」

「〜〜てんめぇ…っ!人が気にしてることをっ!!」

「〜〜二人ともっ!食堂で喧嘩したら駄目だってば〜っ!!」

「フフ…、源二君と源三郎君は今日も仲が良いですねぇ」

「うむ、仲良きことは美しき哉!」




翌日。いよいよ今日は舞台『新編・八犬伝』の初日です!

私は楽団のフルート演奏者として、花組さんの舞台の音楽を演奏する為、オケピで待機しています。

「――『これで人の女として死ねます…。たとえ犬と夫婦になろうとも、あなたに捧げるべく守り通したこの身は未だ純潔のまま…。大輔…、私は…そなた…を…っ!』」

「『わかっています、伏姫様…!』」


今は一幕の後半。伏姫が恋人の大輔の腕の中で息を引き取り、大輔も愛する伏姫の後を追って自害。二人の血が混ざり合って、八犬士の珠が誕生するという重要な場面です。

〜〜あぁ〜、かえでさんと大神さんの演技、私も観たいよ〜!こんなに近くでやっているのに見られないなんて酷すぎる〜!!……フルートの演奏までまだ時間あるし、ちょっと見るぐらいなら…いいよね…?

「――『大輔…、そなたの腕の中で…最期を迎えられるのが…せめて…も…の……』」

「『伏姫様…!?〜〜伏姫様ぁぁぁぁぁ…っ!!』」


〜〜うるうるうる…。かえでさんと大神さん、役者顔負けの演技だわ!

「――『あなたが死んでしまえば、もうこの世に生きている甲斐などない…。――伏姫様…、私はあの世であなたと契りを交わしとうございます…』」

金碗大輔役の大神さんは伏姫役のかえでさんの懐から村雨丸を出すと、かえでさんを強く抱きしめながら接吻した。

大神さんとかえでさんの舞台上でのキスシーン…、哀しいけど、なんて美しいんだろう…!本当に唇と唇が触れ合っちゃってる…。

お二人はこのシーンが来る度に…その…演技といえどもキスしちゃってるわけだよね…♪すごいなぁ、さすが役者さん!まるで本物の恋人同士みたい…♪

「――『私も今、あなた様の元へ参ります…!〜〜伏姫様ぁぁぁぁ…っ!!』」

大輔役の大神さんが村雨丸で喉を掻っ切ると、客席がわぁっと沸き、大きな拍手が起こった!

客席にいる全員が一体となって、大神さんとかえでさんに拍手を送っている…!!これだけの感動を与えられるなんて、お芝居ってやっぱりすごいんだなぁ!私もいつか花組さんと同じ舞台に立ってみたいな…。

「――おい、音子…!」

〜〜あ…、し、しまった!もうフルートの演奏の所までいってたんだ…!!

舞台に夢中になってたせいで、源二君に小声で注意されるまで演奏するの忘れてたよ…!!

――ピーッ!!

〜〜あぁっ、力んだせいでフルートの音色が裏返っちゃった〜!!

私の奏でた雑音に思わず演奏が止まり、指揮者と演奏者達が皆、驚いたように…ヒューゴさんや源三郎君みたいに厳しい人は私を恨むように振り返った…。

「〜〜すっ、すみませんっ!!」

立ち上がって大きな声で謝ると、オケピから私の顔が見えてしまったので、涙と感動に包まれていた客席は一転して、笑いに包まれた…!

「〜〜あ…」

「〜〜あちゃ〜…」


〜〜あ〜ん、もう最悪だよ〜…!!



「〜〜申し訳ありませんでしたっ!!」

「…楽団があれだけのミスを犯したのは、帝劇始まって以来だろうな」

「〜〜本当にすみません…っ!!せっかくの舞台を台無しにしてしまって…」

「……君の失敗を責めることなく、花組はすぐ演技でカバーした。彼女達は舞台中にどんなトラブルが起きようとも、チームワークですぐに立て直す。それがプロの役者だからだ。君はこの総楽団長室に足を踏み入れた時から素人ではなくなった。これからは帝国華撃団・奏組の一員であることを自覚し、誇りを持て!そして、一曲一曲、一音一音の音色を大切にしろ!」

「……はい…!」

「――雅音子、君は何の為に音を奏でている…?」

「え…?」

「……この程度の質問にも答えられないようであれば、君はマエストロ失格だ。――次に同じミスをしたら、君に処分を下す。…よいな?」

「〜〜はい……」


〜〜シベリウスさんに怒られちゃった…。

……マエストロ…失格か…。当然だよね…、たくさんの方に迷惑かけちゃったんだもの…。



「――まさか一幕の山場で演奏をストップさせちゃうとはねぇ…」

「そうでなくてもシベリウスさん、厳しい方で有名ですものね…」

「〜〜うぅ…、深く反省しておりますぅ…」

「元気出してよ、音子ちゃん!失敗の一度や二度、誰にだってあるって!」

「そうそう!くよくよしてたら、余計、不幸が舞い込んできちゃうわよ?」

「音子さんが頑張っていれば、いつかシベリウスさんも一人前のマエストロとして認めて下さるわよ」

「そ、そうですよね…!公演は明日もあるんだもの。頑張らないと…!」

「その調子だよ、音子ちゃん!ブロマイドを全種類買ってくれたお礼に、高村椿秘蔵の花組さんプライベートブロマイドセットもサービスしちゃうね♪」

「きゃ〜!椿ちゃん、大好き〜!!」


えへへ、帝劇三人娘さんのお陰で元気が出たよ〜!

大好きな花組さんのことを考えるだけで、嫌な気分も吹き飛んじゃうな…!椿ちゃんがくれたこのブロマイドセット、一生の宝物にしよっと♪

――ポワ〜ン…♪

……あれ…?かなで寮に戻ろうと衣裳部屋の前を通ったら、ピンクのハートが廊下に流れ込んできた。

ハート形の音なんて初めて見たな…?誰が奏でてるんだろう…?――ちょっと覗いてみよっと…。

「――あっ、ああ〜ん」

え…?女の人の声…?

「――ハァハァ…、大神君ったら、公演中はいつもここに誘うんだから…」

「かえでさんだって、暗くて狭い所でする方がドキドキするでしょう?」

「んもう、馬鹿ねぇ…♪」


――えぇっ!?お…っ、大神さんとかえでさんが裸で抱き合ってる〜!?しかも、例のハートがお二人からたくさん出てきてる〜!!

こ、このハートって…、男女の交わいの時に出る音だったんだ…♪

「――はぁっ、はぁっ、はぁっ…!ああああああ〜んっ!!大神く〜んっ!!」

「しー…。誰かに見られちゃいますよ、かえでさん?」


…はうっ!〜〜ごめんなさい、すでに見ちゃってます…。

「キスしたら、おとなしくなってくれますよね?」

「んんっ、くちゅう…。ぷはぁ…っ、あぁん、愛してるわ、大神君…!あ…ん!あ…あああああああ〜っ!!」


うわぁ、ディープキスなんて初めて見た…。 〜〜ぬ…、盗み見なんて駄目なのに体が勝手に〜!

「――はぁはぁはぁ…。今日も最高でしたよ、かえでさん…♪」

「あんっ!ふふっ、ねぇ、大神君♪お部屋でもう一回しない?」

「いいですよ。片づけが終わったら、シャワー浴びて行きますから」

「ふふっ、ありがとう。――今夜も朝まで一緒ですからね、大神君…♪」

「はい。――愛してます、かえでさん…♪」


大神さんとかえでさんってプライベートでもお付き合いしてたんだ…。なんだか大人のカップルで憧れちゃうな…。

帝都に来てから、私の知らなかった世界がどんどん広がっていく――♪

――ボスッ!

〜〜ひ〜っ!!私ったら、なんてタイミングでダンボールにぶつかる〜!?…わっ!しかもグラグラして私の方に倒れてくる…っ!!

――ドサドサドサーッ!!

「〜〜きゃああああ〜っ!!」

「――!?あなたは…!」

「奏組の音子君…!?いつからそこに…!?」


〜〜み、見つかっちゃった…。しかも不恰好にダンボールの空き箱を頭に被った状態で…。

「あ、あの…、〜〜お邪魔しました〜っ!!」

「あ、音子君…!――行っちゃったか…」

「見られちゃってたのね…。ふふっ、でも、今さら隠す必要もないわよね?」

「そうですね。――やっぱり、片づけ行く前にもう一度だけ…♪」

「ああ〜ん!大神君ったら元気すぎよ〜っ♪」


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