サクラ大戦 奏組〜雅なるハーモニー〜開催記念・特別短編小説
「マイ・オリジナル・シンフォニー」
その2



――はぁはぁはぁ…!

はぁ…、慌ててかなで寮まで走ってきちゃったけど、戻ってちゃんと謝った方がいいかな…?〜〜でないと、本当にクビになっちゃうかも…――。

「――あら、音子ちゃん」

「〜〜わぁっ!?ごめんなさ〜いっ!!あれは…たまたま見かけちゃったというか――!!」

「…?見かけちゃったって…何を?」

「え…?しょ、笙さん…!」


な、なーんだ。〜〜てっきり、かえでさんが追いかけてきたのかと…。

「――わふわふっ!」

「あっ、すあまさん、ただいま〜。おいでおいで〜!」

「フフ、随分急いで走ってきたみたいだけど、劇場で何かあったの?」

「〜〜えっ!?べ、別になんでもないんです…っ!!」

「そう?何か困っているようなら、寮母の私に相談してね?」

「はい、ありがとうございます!」


帝都で暮らす女の人って、かえでさんといい、花組さんといい、笙さんといい(〜〜笙さんは男性疑惑があるけど…)、街で見かける人もそうだけど、皆、あか抜けてるというか綺麗な人が多いよね…。

〜〜結婚する前に男の人と関係持っちゃうなんて、私の田舎じゃ考えられなかったけど、欧米化が進んだ帝都では普通のことなのかな…?さすが帝都は進んでる…!

よ〜し、帝都に来たからには私もハイカラな女性になってみせるわっ!!

「――……派手」

「――だ〜か〜らぁ〜、腹いっぱい食ってりゃ、胸でっかくなるって!」

「――背伸びしない方がいいんじゃないのー?」

「――音子さんはそのままで十分可愛いですよ?」

「――君みたいな童顔に化粧は似合わん!そもそも化粧とは、女性が偽りの自分を作り上げて男性を化かす技術であると同時に――(以下略)」


〜〜しょっぱなから全否定されてしまった…。

由里さんに教えてもらったお店で、流行りのお洋服とお化粧道具を買ったはいいけど、褒めてくれたのはルイスさんだけだったな…。〜〜うぅ…、しかも今月のお給金、ほとんど使っちゃったし…。

――でも、これくらいで諦めたりするもんですかっ!

まずは銀座を歩くモダンガール達を研究して、お手本にしよう!私もかえでさんや花組さんのような皆から憧れられる女性になってみせる…!!



……と意気込んで来たものの、銀座の大通りで迷子になってしまった私…。〜〜うぅ…、私ってばどんだけ鈍くさいの…?

でも、お洒落な女の人が多いなぁ。さすが銀座!

「――うふふっ、やぁねぇ」

「――あはははっ」


金曜日の夕方だからか、カップルが多いなぁ…。でも、私の隣には誰もいない…。〜〜せっかくお洒落してるのにな…。一人で歩いてると、よけい惨めに思えてくるよ…。

――ドンッ!

「きゃっ!」

「チッ、気ぃつけろ!田舎もんが」

「〜〜す、すみません…」

「――ぷっ、なぁに、あの娘?似合いもしないのに…」

「くすくすくす…、自分の顔と相談しなさいっての」


〜〜やっぱり、こんなハイカラな服…私には似合わないよね…。

もう…帰ろうかな…。明日も公演あるから、体力温存しておかないと…――。

「――そこのお嬢〜さん♪」

「え…?」


〜〜わっ!?見るからに不良って感じの3人組に囲まれちゃった…!

「一人〜?これからどこ行くの〜?」

「〜〜あ、あの…」

「よかったら、俺達と遊んでいかな〜い?お金、いっぱいあげるよ〜♪」

「〜〜す、すみません…。私、帰らないと――!」


――パシッ!

ひ…っ!?〜〜逃げようとしたら、不良の一人に手を掴まれちゃった…!

「あれあれ〜?もしかして俺達に怯えてるっぽい?」

「もしかして君、初めて〜?大丈夫〜。優しくしてあげるからね〜♪」

「ここじゃ目立つから、裏道行こうや」

「〜〜や、やだ…!放して…っ!!」


〜〜いやああっ!!誰か助けて…っ!!

――ガシッ!

「――その薄汚い手をどけろ」

私の手首を掴んでいた不良の手首を捻り上げてくれた人から聞こえてきた低い声…。こ、この声は…!

「ヒューゴさん…!皆…!」

「音子、大丈夫か…!?」

「あぁん?」

「何だぁ、おめぇら?」

「…歩道のど真ん中を占領しといて、なぁに、その言いぐさ?」

「君達は女性を見る目はある。だが、彼女は貴様らのような下賤な民が触れていい女性ではない!」

「〜〜げっ、下賤だとぉ〜!?」

「――ナメやがってぇぇ…っ!!」


ジオさんに殴りかかろうとした不良をルイスさんが背負い投げした!

「――私達が本気を出す前に退散した方が身の為ですよ?」

「〜〜ひっ、ひいいっ!!何だ、こいつら…!?」

「〜〜逃げろぉぉ…!!」


ルイスさんの微笑みの奥に狂気を見たのか、不良達は言われた通り、慌てて退散していった…!

「…ああいうのがいるから、いつまでも降魔が生まれ続けるんだよねー」

「まったくだ。次に会う時は降魔をおびき出す餌にしてくれよう!」

「皆、ありがとう…!でも、どうしてここに?」

「シベリウス総楽団長の命令で、銀座界隈を巡回していたところなんです」

「人出の多い週末は魔精卵が大量発生しやすいからなー」

「そうだったんだ…」

「…む?――音子君、そこに落ちている君の巾着、少々形が崩れているようだが?」

「え?〜〜あぁ〜っ!!おじいに買ってもらった手鏡が割れちゃってる〜!!」

「ふむ、きっと不良に腕を掴まれた時に落として割ってしまったのだろうな」

「〜〜そ、そんなぁ〜…」

「いけません…!触ったら、指を切ってしまいますよ?」

「うむ、では私愛用の持ち運び用蒸気お掃除セットを貸してやろう!」

「助かります、ジオ♪」

「〜〜そんなもの、いつも持ち歩いてるんだ…?」

「〜〜見事に粉々だな…。お前って、ほんっとついてねぇよなぁ…?」

「……」


〜〜うぅ…、またもや『不幸の招き音子』本領発揮です…。



――あーあ…。大好きなおじいがくれた手鏡…、子供の頃からの宝物だったのにな…。

『――音子や、良い子で留守番できたご褒美にこれをやろう』

『わぁ、綺麗な鏡…!ありがとう、おじい!』

『お前にはその笑顔が一番だ。その笑顔をこれからいっぱい映すとええぞ…?』


私の笑顔も泣き顔も…もう…映らなくなっちゃった…。

おじいの言う通り、私…、やっぱり帝都に来るの間違ってたのかな…?花組さんには会えないし、頑張ろうと思っても失敗ばかりで…。〜〜こんなに辛い気持ちになるなら、上京なんてするんじゃなかった…。

――もう…出雲へ帰りたい…。〜〜ごめんね、おじい…。弱い音子で…ごめんね…っ!

と、その時だった。

――ふわぁ…っ!

「え…?」

部屋の窓から、たくさんの種類の美しい花達がたくさん夜風に乗って飛んできた…!

この花は…、そして、この音色はもしかして…!

窓を開けて外を見てみると、中庭でヒューゴさんがアルトサックスを、ジオさんがバリトンサックスを、源二君がトランペットを、源三郎君がフリューゲルホルンを、ルイスさんがトロンボーンを演奏して、私の大好きな花組さんの名曲『花咲く乙女』を演奏してくれていた…!

「皆…!どうして…?」

「この曲を聞けば、少しは音子さんが元気になってくれるだろうって、ヒューゴが提案してくれたんです。――ねぇ、ヒューゴ?」

「……余計なことは言わなくていい。黙って吹け」

「ヒューゴさん…」

「へへっ、音子も降りてこいよ〜!一緒に演奏しようぜ〜!」

「うんっ!今、フルート持って行くね!」

「階段なんか使う必要ねぇって!ちょっくら待ってな!――よっ!」

「えっ!?〜〜きゃあああっ!?」


木を登ってきた源二君に抱っこされて中庭に飛び降りると、ジオさんがエスコートして降ろしてくれた。

「――さぁ、俺達のマエストロ、こちらへ…」

「し、指揮台と指揮棒…?〜〜む、無理です…!私、まだ指揮者見習いですし…っ!!」

「…さっさと行く!準備に時間かかったんだから、やることやってくれないと困るんだよね」

「わっ!〜〜きゅ、急に押したら危ないでしょ、源三郎君!?」

「…フン」

「喜び、悲しみ、憧れ、不安…。今の音子さんが抱いている全ての感情を指揮棒に込めてみて下さい。誰にも真似できない音子さんにしか出せない音楽がそこから生まれるはずです」

「…不本意だけど、マエストロの指揮には従わないとね」

「至らないところは俺達でフォローするからさっ♪」

「安心して指揮棒を振ってくれたまえ!」

「皆…」


ヒューゴさんは黙って歩み寄ってくると、私の頭をポンと軽く叩いた。

「――お前はそのままでいい…。お前にはその笑顔があれば十分だ」

「ヒューゴさん…。――うんっ!奏でよう、私達の音楽を…!」


――花組さんの歌は私にいつも元気をくれる…。出雲から上京してきた私が今まで頑張ってこられたのは花組さんの歌があったお陰だもの…!

『――君は何の為に音を奏でている…?』

シベリウスさんの言ってること、ほんの少しだけわかったような気がする…。音ってこんなに人を元気にできるんだ…!

私も誰かの為に素敵な音を奏でたい。ヒューゴさんとジオさんと源二君と源三郎君とルイスさんと…。奏組の皆でこれからも舞台を観に来て下さるお客様に素敵な音を奏でていきたい…!

「――いいの、シベリウス?事情を聞いて、音子ちゃんの為に新しい手鏡を買ってきてあげたんでしょ?」

「…笙、お前から渡しておいてくれ」

「あら、可愛い柄♪ふふふ、堅物のあなたが選んだとは誰も思わないでしょうね?」

「……くれぐれも私の名は伏せておけ。よいな?」

「ふふ、そんなに消極的じゃ、お気に入りの音子ちゃん…あの坊や達に取られちゃうわよ?」

「〜〜ゴホンっ!……いい大人をからかうな…」

「……明らかに動揺されておりますね、シベリウス様?」

「うふふふっ!モテモテでいいわねぇ、音子ちゃんは♪」


かえでさんや花組さんみたいなイイ女にはまだまだなれそうにないけど、私は私らしく精進して、これからも素敵な音を奏でて参りますっ!

終わり


あとがき

お待たせしました!以前よりリクエストを頂いておりました奏組舞台化記念の短編小説です!

よっすぃ〜様、ひな子様、楓犬様などから頂きました「大神×かえでと奏組のコラボ小説」というリクエストを採用させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?

奏組、初めて描きました…!楽しんで頂けたら幸いです♪キャラ崩壊してたらごめんなさい…(汗)

漫画でもまだ実現していない音子ちゃんとかえでさんの対面をいち早く実現させてみました!

音子ちゃんが奏組にやってきた頃の副司令はあやめさん?それとも、かえでさん…?

早く奏組の漫画にも藤枝姉妹を登場させてほしいですよね!できたら、大神さんと一緒のシーンで…♪きゃ!

奏組の舞台もまだまだ続きます!私も今日、会場で観させて頂きました!!

明日は大神×かえでを愛でる会のオフ会があるので、当日券を買えたら、また観に行くかも♪まだご覧になってない方は是非!

いつか帝都さんと奏組がコラボした舞台を観てみたいな〜!

次回の更新は、応援ありがとうございます!かえでさんのお誕生日小説を予定しておりますので、お楽しみに!


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