藤枝かえで誕生日記念・特別短編小説2012
「仲直りの魔法〜かえで編〜その9



「――それではお疲れ様でした」

「えぇ、かすみもお疲れ様」

「気をつけて帰るのよ?」

「はい。お誕生日会、楽しんでらして下さいね」


――ハァ…、長い一日だったわ。大帝国劇場の外観を見るとホッとするわね…。

「ひっく…、うぃ〜…♪」

「〜〜かえで!もう少しなんだから、しっかり歩きなさい!」

「うふふふ〜、怒るとシワが増えるわよっ♪」

「…うっ!?〜〜人が気にしてるのに…」

「うふふふ〜、たっだいま〜♪」

「あっ、お父さんとお母さんが帰ってきたわ!」

「わ〜い!お帰り〜!!」

「早くお誕生日会やろう!」


なでしことひまわりと誠一郎が玄関で出迎えてくれたわ。もう9時過ぎなのに私達の帰りを寝ないで待っててくれたみたいね。ふふっ、可愛い子供達の顔を見たら、疲れなんて吹き飛んじゃうわ…!

「んふふっ、今日は楽しい楽しいお誕生日会〜♪さぁ、じゃんっじゃん飲むわよ〜!」

「〜〜すでにできあがってるみたいですね…」


きゃ〜ん♪一郎君、会いたかったわ〜!再会を祝して、抱擁とキスを…!

「んふふっ、一郎きゅ〜ん、良い子でお留守番ちてまちたかぁ〜♪ん〜チュッ♪」

「〜〜かえでさん、それは柱!俺はこっちですって…」

「あらぁ〜?」

「ふふっ、今日の会議は大変だったけど、かえでのお陰で大成功だったの!…だから、大目に見てやってね?」

「はは…、そうなんですか。大きな仕事から解放されたら、誰だって飲みたくなりますからね」

「〜〜ん〜、というより…、仕事中に飲んだと言った方がいいのかしら…?」

「〜〜え…?」

「あのねあのね、母さんも今日、すっごく頑張ったんだよ!」

「今日は一日かえでおばちゃんといられて、すっごく楽しかった〜!」

「今日のご馳走、かえでおばさんと私達で作ったのよ!いっぱい食べてね」

「まぁ、それは楽しみだわ!――それじゃあ、かえでおばさんのお誕生日パーティー、始めましょうか!」

「わ〜い!」「わ〜い!」「わ〜い!」


ふふっ、普段は親と一緒にいられる時間が少ないから、子供達も嬉しそうだわ。一郎君も専業主夫ライフを満喫してるのか生き生きしてるし♪

月に一度くらいは、こうして生活スタイルを交換してみるのも新鮮かもしれないわね!元に戻ったら検討してみようかしら♪



「――かえでさん、お誕生日おめでとうございま〜す!」

「いや〜ん!ありがとう、皆〜!」

「あはははっ!父さんがお返事してどうするのさ?」

「〜〜かえでさん、俺と入れ替わってること、すっかり忘れてるな…」


長かった一日が終わり、楽しい宴が始まった。

「お二人とも、今日はお疲れ様でした」

「席はこっちだぜ!ついてこいよ!」

「今日は中尉さんの隣に座るのを特別に許可してあげるデ〜ス♪」


花組の皆は気を利かせて、一郎君とあやめ姉さんと私、そして、なでしことひまわりと誠一郎の家族水入らずの席を用意してくれた。

「まぁ、美味しそうなコロッケ!良い色に焼けてるわねぇ」

「このコロッケとケーキは大神さんとなでしこちゃん達の手作りなんですよ!」

「さくらお姉ちゃん、父さんじゃなくて母さんだよ!」

「えっ?〜〜あ…ははは…。そ、そうですね。かえでさんとでした…」

「へぇ、すごいじゃないの!」

「初めて作ったので、お口に合うかわかりませんが…」

「このコロッケね〜、ひまわりがパン粉でパンパンしたんだよ〜!」

「ケーキはちょっと焦げちゃったけど、疲れて帰ってくる父さんとあやめおばちゃんに食べてもらおうって、母さんと一生懸命作ったんだ!」

「あなた達…」


じ〜ん…。私達の為に自分達からすすんでお手伝いしてくれたなんて…。母さん、感激だわ…!

「――うーん、美味しい〜!お母様が作ってくれたコロッケと同じくらい美味しいわ」

「はは、よかった。たくさんありますから、冷めないうちに召し上がって下さいね」


一郎君ったら、こんなにちゃんと準備してくれてたのね…♪一時でも疑って拗ねたりした自分が恥ずかしいわ…。

ほろ酔い気分の私はビールジョッキを持ちながら、安らぎを求めて一郎君にぴとっと寄り添った。

「――ありがとう。一郎君もお疲れ様…♪」

「こちらこそお疲れ様でした。今日はよく頑張りましたね…♪」


と、一郎君は、まるでお兄さんのように私の頭をなでなでしてくれた。

「ふふっ、それって私の真似?」

「はい。かえでさんは褒める時、いつもこうしてくれますから」

「はぁ、それ気持ちいい…♪もう少しこうしててもいい?」

「いいですよ」


ふふっ、なんだか幸せ…♪一日頑張ってきてよかった――。

「〜〜うっぷ…!?」

「…?かえでさん…!?」

「〜〜うえぇ…、飲み過ぎちゃったぁ〜。気持ち悪〜い…」

「いぃっ!?〜〜ちょ、ちょっと待って下さい…!!今、洗面器を――!!」

「〜〜駄目ぇ…。吐いちゃうぅ…」

「〜〜こ…っ、ここは駄目ですよ!?お手洗いでしましょう!!ねっ!?」

「〜〜げろげろげぇ〜」

「〜〜うわあああっ!?」

「〜〜きゃああっ!!一郎く〜ん!?」




一郎君は私に汚された為にブラウスから鍛錬用のジャージに着替えると、洋式便器に吐き続ける私の背中をさすってくれた。

「〜〜はぁ…、ごめんなさいね…、せっかく作ってくれたのに…?」

「いいんですよ、飲み過ぎた事情はあやめさんから伺いました。今日は胃を休めた方がいいですね。料理は明日まで取っておけますし…」

「でも、今日食べた方が美味しいでしょ?」

「そうですけど、体を壊してまで食わなくても…」

「〜〜でも、ちゃんと味わっておきたいのよ…!一郎君と子供達が作ってくれた料理なんて初めてだから、嬉しくて…」

「かえでさん…」

「ふふっ!さーて、胃もスッキリしたことだし、今夜はビール片手に食べまくるわよ〜♪」

「ハハハ…、無理しないで下さいよ、俺の体なんですから?」

「〜〜あっ、ひっど〜い!なら、毎晩飲みまくって、二日酔い地獄の状態で元に戻してやるから!」

「〜〜うわ…っ!勘弁して下さいって…!!」

「ふふふふっ!」


会議も舞台もうまくいったし、とりあえずはめでたしめでたし…かしらね?



「――はっぴばーすでぇ〜とぅ〜みぃ〜♪」

「〜〜かえでさん、子供達はもう寝てるんですから、静かに…!」

「うふふっ、一郎君のエプロン、フリフリでか〜わいい〜♪意外と少女趣味なのねぇ〜」

「〜〜こ、これは結婚祝いに双葉姉さんがくれたもので…。〜〜あ〜、ほら!部屋に着きましたよ?入りますからね!?」

「はぁ〜い♪」


一郎君はベッドに私を寝かせると、水が入ったコップと胃薬を渡してくれた。

「――はい。付き合いなのはわかりますが、ほどほどにして下さいよ?」

「いや〜ん、一郎君ったら良い奥様してる〜♪んふふふっ」

「〜〜ハァ…、長い一日だった…」


隊長室に入って、一郎君が鍵を閉めたら、急にしーんとなった。なんだか水を飲んだら、酔いがさめちゃった…。

……そういえば昨日の今頃、私達、喧嘩してたのよね…。その後、まさかこんな展開になるなんて想像もしてなかったけど…。

「……」「……」

〜〜うぅ…、何だか気まずいわ…。何でもいいから話しかけないと…!

「――あの…!」「――ねぇ…!」

「〜〜あ…、一郎君からどうぞ?」

「〜〜いえいえ、かえでさんから…」


ふふっ、どうやら一郎君も私と同じことを考えていたみたいね。〜〜喧嘩中って余計な気を遣い合うから、しんどくなっちゃう…。

「――その…俺達って、まだ…喧嘩中…なんですよね?」

「そ、そうなの…?もう神社でとっくに仲直りしたんじゃなかった?」

「そ、そうだったんですか?」

「す、少なくとも私はそう思ってたわ…!――けど…、ケーキとコロッケを作ってくれたことは、すごく嬉しかったわ…。あなたなりの仲直りの印だったんでしょ?」

「えぇ、まぁ…」

「ふふっ、一郎君の愛情がいっぱい詰まってて、本当に美味しかったわ!」

「はは…、喜んでもらえてよかったです。子供達と苦労して作った甲斐がありますよ。――仕事と子育ての両立って大変なんですね…。それが今日、よくわかりました」

「ふふっ、私も今日、司令業務の大変さを痛感したわ。けど、あなたと子供達が『おかえり』って迎えてくれて、私の為に料理を作ってくれたってわかって、すごく嬉しかったの。そしたら、不思議と疲れなんて吹き飛んで、明日も頑張ろうって思えたわ。ふふっ、こうして世のお父さん達は皆、家族の為に頑張れているのね」

「そうですよ。家族の愛があるから、俺も頑張れるんです。俺は今まで大黒柱の自分一人が家族を支えてるものだと思い込んでました…。けど、俺も同じように妻のあやめさんとかえでさんの…、そして、子供達の愛に日々支えられていたんですよね…」

「ふふっ、ようやく家族のありがたみがわかったみたいね?」

「はい、深く反省してます。これからは俺も積極的に子育てを手伝いますよ。――だから、これからも俺を温かい愛で支えてくれたら嬉しいなって…」

「ふふ、もちろんよ。――昨日は、ひどいこと言ってごめんなさいね…?」

「いえ…!――俺の方こそ、無神経ですみませんでした…」


私と一郎君はおでこをくっつけてクスクス笑い合うと、瞳を閉じ、ゆっくり近づけ合った唇を重ねた。

「…ねぇ、一郎君。今夜はこのまましてみましょうか?」

「…俺も今、言おうと思ってました」

「なら、話が早いわね。――ふふっ、なんだかドキドキしちゃう…♪」


一郎君の体にいる私は照れ笑いしながら、私の体にいる一郎君をベッドにゆっくり寝かせ、髪を撫でながら首筋に舌を這わせてみた。

「ははっ、くすぐったいですよ、かえでさん…!」

「ふふっ、こぉら、じっとしてなさい!」


服を脱ぐのはいつも一郎君任せだし、しかも女性物の服を着ている相手を脱がせるなんて初めてだから、手間取っちゃうわ…。

〜〜ん…っ!ようやく下着が見え…――え…!?

「そ、その下着は…!」

「あ…、今夜の為にかえでさんが買ったものだろうから着けてやれって、あやめさんが…」


〜〜んもう…、あやめ姉さんったら余計なことするんだから…。

…でも、前もって試着した甲斐あって、私によく似合ってるわ!品良く華を添えてて、すっごくセクシ〜♪

ふふっ、女の裸なんて今までちっともムラムラしなかったのに…。男の体になってるせいかしら?

「あっ、か、かえでさぁん…!んくぅ、うぅ…!」

「ふふっ、そうやって喘いでると本物の女の子みたいよ、一郎君♪」

「んああっ!やぁっ!そこ…らめぇ…!らめれすってぇ…!」


ふふふっ、感じてくれてるのね、一郎君!淫らに乱れたあなたをもっと見せて頂戴♪

「はぁはぁ…、すごく…気持ちいいです…!かえでさん…っ」

「ふふっ、いつもあなたが私とあやめ姉さんにしてくれてることよ♪――可愛いから、もっともっとイジメてあ・げ・る♪」


自分を抱いてるなんて変な気分だけど、一郎君は男らしく私のぎこちない愛撫を受け止めてくれる。女の子って、好きな男の子に愛でて触れられるだけで気持ち良くなることができるのね…♪

「はぁはぁ…、入れるわよ、一郎君…?力抜いててね…?」

「わ、わかりました…」


秘所にイチモツの先端が入るのを確認しながら、私は一郎君を抱きしめ、下半身をゆっくり沈めて合わせていった…!

「ん…っ!――は…あああああああ〜んっ!!」

「うあ…っ!うわあああああああああ〜っ!!」

「あんっ、あっ、あっ…!ふふふっ、あやめ姉さんと払いの儀を成功させたテクニック、見せてあげるわね…♪」

「か、かえでさぁん…!もっと…ゆっくりお願いします…っ!はっ、はっ、はぁ…っ!!」

「あん、可愛いわ、一郎君♪私にエッチなことされて感じてるのね?」

「うわあああ!!そこで乳首、吸われたら…!んはああああぁっ!!」


ダメ…。気持ち良すぎて何も考えられないわ…。一郎君の可愛い喘ぎ声を耳にしながら中で動く度、下半身が熱を帯びて、とろけちゃいそう…。

「はぁはぁ…、かえでさん、気持ちいいですか…!?あっ、あぁ、イク…!!こっ、腰を動かすのサポートしますね…っ!!」

「ひいいっ!吸い込まれるぅ…!!あぁ〜ん!一郎君、上手よぉぉっ!!私もイク〜!!もうイッちゃうぅ〜!!一郎君っ、私の愛を受け止めてぇ〜っ!!」

「う…っ、了解!俺の中に…はぁはぁ…全部出してくださいね…っ!!」

「ふあああ…!ぐ…っ!で、出てるぅぅぅっ!!んあ…っ、ああああああああああああ〜っっ!!」

「うあああっ!入って…きたぁ…!!ああああっ!気持ちいい…!!あああああああああ〜っっ!!」


私は一郎君とキスしながら、胎内に精を迸らせた。

「あ…あああああああぁぁぁ…」

「ふぁ…あは…ああぁぁぁん…」


体の奥が熱い…。あそこが痺れちゃう…。頭が真っ白になって…いく……。



「――う…ん……」

シャッ!とカーテンを開ける音が聞こえたと思ったら、太陽の光が目に入ってきて、私は思わず寝返りを打った。

逆転セックスの後、私は気を失うように眠っちゃったみたいね…。

「おはようございます、かえでさん」

一郎君の声が聞こえてきたわ。もう起きてたんだ…。

――ん…?え…!?そ、それって、もしかして…!?

私の髪を優しく撫でてくれている一郎君の姿に私は息を呑んだ…!

キスマークがついた厚い胸板に程よく筋肉がついた腕、男らしい肩幅の広い体つき…。まるで彫刻のダヴィデ像のようなたくましい裸体の一郎君が私の隣に座っていたのだ…!

「え…?かえでさん…!?」

私を見つめてくれていた一郎君も同じように目を丸くした…!

「体が元に戻ってますよ…!」

「きゃあ!やったわ〜っ!!」


抱きついた一郎君をベッドに押し倒すと、私達は歓喜のキスをしまくった!

「一日経てば、自然と戻る仕掛けだったんでしょうか?」

「あら、私達の愛の力も関係してるわよ。…やっぱり、寝る前のアレがよかったんじゃないかしら♪」

「はは、かもしれませんね。――そういえば、子供から大人に戻った時も、あやめさんとキスしたっけ…♪」

「〜〜んもう、一郎君!?目の前の妹を放って、姉さんの話をするつもり?」

「あはは、すみません。愛の力は無敵だって言いたかったんですよ…!」


ふふっ、一郎君ったら調子いいんだから…。

でも、問題の一つが片づいてよかったわね。ヴァレリーが仕える黒幕の正体はまだわからないから、今後も注意が必要だろうけど、――今は…♪

「――ねぇ、一郎君。ハッピーエンドの記念に…♪」

「そうですね。今日は夜公演まで暇ですし…♪」

「うふふふっ♪」


私は昨晩とは反対に一郎君に押し倒されると、笑って抱き合いながらシーツを被って、愛する旦那様に身を任せて性交渉に励んだ。

昨日一緒にいられなかった寂しさを埋める為、今日は時間の許す限り、たっくさん一郎君に愛してもらいましょうっと…♪

「ふふっ、愛してるわ、一郎君。もう離さないでね…」

「愛してます…。これからも俺の隣にいて下さいね、かえでさん」


――仲直りの魔法…。

きっと、一層深まった一郎君と私の愛の魔法が精霊の力をも上回る奇跡を起こしたに違いないわよね…♪

「――ハックション…!!」

「だ…、大丈夫ですか、かえでさん!?」

「〜〜うぅ、安心したら急にくしゃみが…。誠一郎の風邪がうつったのね」

「ずっと気を張り詰めっぱなしでしたからね…。今日は俺とあやめさんで子供達の面倒を見ますから、ゆっくりしてて下さいね」

「〜〜ごめんなさいね…。一郎君だって疲れてるのに…」

「いいんですよ。一日入れ替わってみて、家事の楽しさを知りましたからね」


だるい私にパジャマを着せてくれて、手作りのお粥を食べさせてくれる一郎君…。冷たい水でタオルを絞ってるから、こんなに手が赤くなっちゃって…。

ふふっ、でも、いつもの優しい一郎君に戻ってよかった…♪

「かえでさん…?」

「ふふ、風邪の時ぐらい、うんと甘えちゃおうかなって…♪」

「はは、風邪はひき始めが肝心ですからね。今日は一日、俺を頼りにして下さいね」


笑いながら手を握り返してくれた一郎君はそう言って、私のおでこに優しくキスしてくれた。

「一郎君…。――ありがとう…♪」

ふふっ、幸せ♪あやめ姉さんには悪いけど、たまには一郎君を独占しても罰は当たらないわよね…!



「――う…ん……」

――…?風邪薬の副作用で、いつの間にか眠っちゃったみたい…。

今、何時かしら…?時計を見たくても、だるくてベッドから起き上がれないわ…。〜〜いよいよ本格的に熱が出てきたみたい…。

「……一郎くぅ…ん?」

一郎君、どこ行っちゃったのかしら…?

見ると、掛布団の下に厚い毛布がかけてあった。私が寝ている間に一郎君がかけてくれたのね…。

「一郎くーん…?いないのぉ…?」

〜〜あ〜ん、間接痛ぁい。息苦しいし、喉カラカラだし…。もう最悪…。

黙っていると、部屋には紅蘭が発明した加湿器の『加湿くん』が作動している音だけが響く。リハーサル中なのか、1階からは奏組が演奏する『青い鳥』の舞台音楽が聞こえてくるわ。一郎君、手伝いに行っちゃったのかしら…?

……風邪の時ってなんか孤独…。私、昔はこんなに人との繋がりを求める人間じゃなかったのにな…。〜〜なんか…泣きそう…。これじゃ昨日と同じじゃない…。――ねぇ、早く帰ってきてよ、一郎君…。

――ガチャ…。

「あれ…?かえでさん、起きてたんですね」

ドアが開くと、荷物を持った一郎君が顔を出した。

「…んもぉ、病気の妻放ってどこ行ってたの?」

「すみません…。誕生日プレゼント、まだ渡してませんでしたから…」

「え?もしかして、その袋…!」

「はい。公演の準備がてら、中央通りまで行ってきました」

「まぁ、グッチのバッグじゃない!本当に買ってきてくれたの…!?」

「前から約束してましたからね。輸入品だから、取り寄せるのに苦労したんですよ?」

「ふふっ、嬉し〜い!ありがとう、一郎君♪」

「――それから…、昨日のケーキ失敗したんで、店でちゃんとしたのを買ってきました」

「まぁ…!」


秋らしく栗が乗ったモンブランと、私の好きな苺のショートケーキ。ふふっ、小さくて可愛いわ♪

「嬉しいな…。ふふっ、昨日のパーティーも楽しかったけど、二人でこじんまり祝うのも悪くないわね」

「はは、そうですね。風邪が治ったら、あやめさんと子供達を連れて家族旅行にでも行きましょうか。いつも頑張ってくれている妻達にたまにはサービスしませんとね♪」

「ふふっ、家族サービスねぇ…。あやめ姉さんの言う通りだわ♪」

「え?」

「ふふ、何でもないわ。――ありがとね、一郎君。私、とっても幸せよ…」

「か、かえでさん…?」

「あ…、ごめんなさい。〜〜嬉しくて、つい…」


風邪の時って、いつもより人恋しくなって、涙もろくなっちゃうのよね。

そんな私を落ち着かせるように一郎君は背中から優しく抱きしめてくれた。

「――寂しい思いをさせた分、今日はずっと傍にいますから…」

ふふっ、誠一郎の言うように、たまには風邪も悪くないわね…♪

「一郎君、ケーキ食べさせてくれる?」

「いいですよ。最初はどっちいきますか?」

「じゃあ、苺♪」

「了解。――はい、あ〜ん」

「〜〜あん、ついちゃった…」


口の端についた生クリームを私は舌で舐め、仕上げに拭った指を色っぽく口に含んでみせた。

「一郎君のせいでベトベトになっちゃうぅ…♪」

「う…♪」


指をしゃぶる私に一郎君は赤くなって目をそらした。

「…風邪の時は、そういうの禁止です」

「あら、どうして照れてるの?ただ生クリームを舐めただけなのに♪」

「〜〜ハァ…。どうして、かえでさんはいつもそう…」


ふふっ、照れてる照れてる♪

「――素敵なお誕生日会を開いてくれたお返しよ…♪」

私は苺をくわえると、くわえていない方を一郎君の口に押し当てた。

一郎君は誘惑に負けて、私を抱き寄せると、苺を一緒にかじりながら、甘い果汁と共に私の唇を貪った。

「うん…っ!〜〜ん…っ、んふ…ぅ…!」

甘酸っぱい苺と一郎君のねっとりした舌が私の口腔を刺激する度、熱が上がっていくようだ…。

「…そんなに大胆なのは熱のせいですか?」

「ふふっ、かもね♪…風邪うつしてもいい?公演終わったら、一緒に休暇取れるわよ♪」

「…いいですけど――」

「きゃ…!?」


年上妻の誘惑に負けた一郎君は私を強くベッドに押し倒すと、ネクタイと一緒に口元を緩ませた。

「――途中でだるくなっても休ませませんからね?」

「ふふっ、その前に気絶させてあげるわよ。昨日みたいにね♪」


私と一郎君のラブラブセックスを、なでしことひまわりと誠一郎はドアの隙間から盗み見していた。

「父さんと母さん、何してるのかな?」

「う〜ん、わかんな〜い…」


子供達の害になってはいけないと、あやめ姉さんは黙って、私の部屋のドアを閉めた。

「〜〜あ〜っ!何で閉めちゃうの〜!?」

「…ここから先、子供は見ちゃいけません!」

「〜〜えぇ〜っ!?」「〜〜何でぇ〜!?」

「昨日はお誕生日なのに一緒にいられなかったんですもの。今日はお父さんとかえでおばさん、二人きりにしてあげましょ?」

「なでしこの言う通りよ。子供は元気にお外で遊んでらっしゃい!」

「はーい!」

「〜〜ちぇ〜、また子ども扱いするんだからぁ…」

「あっ、誠一郎!病み上がりなんだから無理しちゃ駄目よ〜!?」

「ふふっ、ひとまずはめでたしめでたしね♪」


――じゅん…っ♪

「〜〜あんっ!まだ払いの儀の影響が…。ふふっ、後でかえでと一緒に慰めてもらおうかな…♪」

「――大神さ〜ん、この荷物、楽屋まで運んでくれな〜い?」

「あらあら、大変…!一郎く…」

「――あああああああ〜っ!!一郎くぅ〜ん…っ!!もうやめてぇ…っ!!」

「フフ、休ませないって言ったでしょう?昨日の分も兼ねて、今日はとことん付き合ってもらいますからね、かえでさん♪」

「〜〜ああ〜んっ!!風邪の時じゃ一郎君の体力に太刀打ちできないわ〜!!」

「…せっかく仲直りしたのに、お邪魔しちゃ悪いわね♪――由里ー、私が手伝うわー!」

「あっ、副司令!よろしくお願いしまーす!」

『――見つけたぞ、我が妻よ…』

「――…っ!?」


あやめ姉さんは体に悪寒が走るのを感じた直後、ガクンッと手すりに寄りかかって、階段にしゃがみこんでしまった…!

「〜〜副司令…!大丈夫ですか!?」

「〜〜えぇ…。昨日の疲れが残ってるみたいね…」

(――今の殺気はおそらく…。〜〜そうね…。これで全てが終わったわけじゃないもの…。早くアモスを見つけて、奴らの居場所を暴かないと…!)


蝶の怪人・ヴァレリーと魔法使いの『彼』…。いずれ、決着を着けないとね…!

…というわけで、今年の私の誕生日小説は終わり!来年の一郎君の誕生日小説に続くから、お楽しみにね!

かえで編、終わり


あとがき

皆様、長らくお待たせ致しました!「仲直りの魔法」、遂に完結です!!

いや〜、長かった…(笑)書き始めた10月上旬頃は、まさかこんな長編になるとは思いませんでした…(汗)

でも、最後まで書き進められたのも読者の皆様の温かいご声援のお陰です!本当にありがとうございます!!

大神さんがかえでさんを見舞う最後のシーンは、ボン様のリクエストを基に書かせて頂きました!ボン様、どうもありがとうございます!!

かえでさんヒロインの短編小説「風邪引き副司令、奮闘記』をお読みになって、ご自分でも妄想されたそうです!

かえでさんだけゲームではラブラブシーンが描かれていないので、ファンは自分で妄想するしかありませんものね…(泣)

いつか、あやめさんとかえでさんを大神さんのヒロインにできる新作ゲームができるといいな…♪……ということを今まで何度言ってきたことか…(涙)

ですが、藤枝姉妹ファンの皆様!まだまだサクラ大戦は続いておりますから、希望を捨てずにこれからも麗しのあやめ&かえで姉妹を一緒に応援して参りましょう!!

話が若干それてしまいましたが…(汗)、というわけで、今年のかえでさんお誕生日記念小説、楽しんで頂けましたでしょうか♪

書いていた時の思い出といえば、かえでさん編と比べると大神さん編のページ数が少なく、どんなシーンを追加しようか残業中に妄想していたことでしょうかね(笑)

あまり書くとブログに書くこと失くなるので、これくらいにしておきます…(苦笑)

本編でも最後に触れましたが、三部作ということで、来月の大神さんのお誕生日記念小説に続きますので、どうぞお楽しみに!


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