藤枝かえで誕生日記念・特別短編小説2012
「仲直りの魔法〜大神編〜その1



「――それでは大神君、あやめ君、明日の会議、期待しているからね」

「了解しました、花小路伯爵」

「では、失礼致します」


俺は軍服のあやめさんと一緒に花小路伯爵邸を後にした。

明日は年に一度の大きな会議がある。来年度の帝撃の運営方針とスポンサーが決まる大事な会議だ。大袈裟に聞こえるかもしれないが、『帝撃のこれから』が決まると言っても過言ではない。

その会議に帝国華撃団・司令である俺・大神一郎は副司令のあやめさんと毎年参加している。だから、この時期になると俺達・上官は忙しくなる。一足早く師走が来た…と言っていいほどの準備に追われるので、今月に入ってからろくに休めていないんだ…。

「はぁ…。もうそんな時期になったんですね…。一年って早いなぁ…」

「ふふ、5回目なのにまだ緊張する?」

「はは、まぁ…。お偉い方の機嫌を損ねれば帝撃を運営していけなくなるかもしれませんしね…。ちょっとの発言も命取りになりかねませんから…」

「そんなに難しく考えなくても大丈夫よ。一郎君は皆さんから気に入られてるんだし、いつも通りに報告すれば…」

「〜〜しかし、あの独特の空気…。毎年経験してもなかなか慣れないんだよな…」

「ふふっ、司令見習い君が弱音吐かないの!」

「〜〜ハァ…、その見習いっていうのもそろそろ卒業したいですよ…」

「副司令の私とかえでが認めるまでダ〜メ!ほら、笑顔が消えてるわよ?帝撃の上に立つ人間がそんな不安そうな顔してたら駄目でしょ?」

「〜〜す、すみません…」

「ふふっ、一人前の司令さんになるにはまだまだね♪」


かすみ君の運転する車の後部座席で、あやめさんは優しく包み込むように俺を抱きしめてくれた。

「――安心していいのよ。あなたにはいつだって私がついてるんだから…」

「あやめさん…」


あやめさんを抱きしめていると、心が落ち着いてくる…。これも元大天使特有の癒し能力なんだろうか…?

〜〜だが、今はのんびり愛を育んでいる場合じゃないんだ…!明日は大事な会議が控えてるからな…。

「――…?一郎君…?」

キスを期待していたのか、あやめさんは抱きしめるのをやめて窓の方を向いた俺を不思議そうに見つめた。

「すみません…。今は会議に向けて気を引き締めたいので…」

「〜〜そう…よね…。ごめんなさい、私ったら…」


そっけない俺と苦笑するあやめさん…。運転手のかすみ君もおどおどしながらバックミラーで見守ってくれている…。

俺は微妙な空気にいたたまれなくなり、鞄から会議の資料を出して目を通すことにした。〜〜だが、いくら準備しても不安は拭いきれない…。プレッシャーに押しつぶされそうだ…。ハァ…、帰ったら、別の資料も見直さないとな…。

すると、俺のイライラを抑えようとしてくれたのか、あやめさんは秋の美しさが広がる車窓の景色を指差した。

「ねぇ見て、今日も綺麗な秋晴れねぇ」

落ち葉を舞い散らせる秋風が窓から入ってくるのを感じながら、色づいてきた紅葉の絨毯の上を車で走る帰り道…か。

「忙しくてつい忘れがちになっちゃうけど、車に乗っている時くらい四季の美しさに目を向けて見たらどう?自然と心が和んでくるわよ?」

あやめさんの気持ちはありがたいし、言いたいこともよくわかる…。だが、今の俺には景色の美しさより、蒸気自動車のエンジン、信号の点滅、人の足音、街の雑音ばかり気になってしまう…。

「〜〜すみません…。帰るまでにこれだけは目を通しておきたいので…」

「ハァ…。真面目に考えすぎるのがあなたの長所であり、短所でもあるのよね…」

「あ…!」


あやめさんはため息をつくと、子供にお仕置きする母親のように俺から資料を取り上げた。

「資料なんて帰ってからいくらでも読めるでしょ?今、見ている人と景色は同じものを二度と見られないのよ?その奇跡を目に焼きつけておかないと勿体ないと思わない?」

「それはそうかもしれませんが…」

「もう今日の仕事は終わったんだし、劇場に着くまでゆっくりお話ししましょう。ね?」

「は、はい…」


あやめさんに上目遣いでお願いされると、嫌でも断れないんだよな…。ハァ…、俺って単純だ…。

「ねぇ、明日は何の日か覚えてる?」

「何って…、賢人機関の会議がある日でしょう?」

「…それだけ?」

「あとは『青い鳥』再演の切符をもぎって、裏方を手伝って…。――あっ!花やしき支部の実験承認のハンコも押さないとな…!」

「……本当にそれだけ?」

「他に何かありましたっけ…?――あ、そういえば奏組の戦闘訓練にも明日立ち会うんだったな…!」

「〜〜ハァ…、もういいわ。……明日、かえでの雷が落ちないといいけど…」

「え?かえでさんとデートする約束なんてしてたっけかな…?う〜ん…」

「ふふっ、大神さん、相当疲れてらっしゃいますね♪」

「ふふっ、本当にね♪」

「〜〜な、何だよ、かすみ君まで…?知ってるんなら教えてくれたっていいじゃないか!」

「駄目ですよ。こういうのはご自分で思い出さないと意味がありませんから」

「そうよ、一郎君。帰ったら、カレンダーでも見返してみたら?」

「はぁ…?」


う〜ん…。仕事のスケジュールは秘書も兼ねているあやめさんが管理してくれてるから、忘れるわけないしな…。

とにかく、帰ったら言われた通り、カレンダーを見返してみるか…。



大帝国劇場に帰ってきた頃には、もう夜になってしまっていた。

〜〜ハァ…、準備が終わる頃には夜が明けてしまうかもしれないな…。車の中でいくらか休めたとはいえ、徹夜で会議に参加するのはキツい…。

…仕方ない。会議が失敗したら大変だからな。今夜はコーヒー1瓶空ける勢いで頑張らないと…!俺は紅蘭が作った特製栄養ドリンクを飲み干し、机の上にたまった今日の書類に手をつけ始めた。

――あ、そういえば、あやめさんにカレンダー見返すように言われてたな…。えっと、カレンダーはここの壁に…。

――コンコン。

…ん?誰か支配人室に来たみたいだな。

「どうぞー?」

――ガチャ…!

「お父さ〜ん!」「パパ〜!」

あやめさんがドアを開けると、なでしことひまわりが元気に駆け込んできて、俺に抱きついてきた。

「はは、なでしことひまわりか。まだ寝てなかったのか?」

「お父さんにお帰りなさいを言いたくて待ってたのよ!」

「あのね、今日ね、かえでおばちゃんと『しょーぶしたぎ』買ったの〜!」

「〜〜しょ、勝負下着…!?」

「うんっ!見て見て〜!ひまわり、パパに見せる為に買ったんだから♪」

「〜〜うわああっ!!よせ!ひまわり…!!キュロットを下げるなぁっ!!」

「〜〜女の子がむやみに下着なんて見せたらいけないのよ!?」

「え〜?だって、ママもかえでおばちゃんもパパに見せてるんでしょ〜?何でひまわりだけダメなの〜?」

「お母さんとかえでおばさんはお父さんの奥さんで、大人だからよ?」

「じゃあ、大人になったらパパに『しょーぶしたぎ』見せていいの?」

「〜〜そういうのって普通、父親より好きな人に見せるものだけどな…」

「〜〜ぶ〜、ひまわりだってパパのこと、大好きなのにな〜…」


〜〜ハァ…、危うく児童ポルノの法律に引っかかるところだった…。

〜〜しかし、かえでさんもかえでさんだよな…。5歳児に勝負下着という言葉を教えるなんて、何を考えてるやら…?

「――あら、あやめ姉さん達も来てたの?」

すると、噂をすればなんとやら。かえでさんが資料を持って支配人室にやって来た。

「丁度よかったわ。会議の追加資料を作ったから、目を通してくれる?」

「……」「……」

「〜〜な、何よ、その目は…!?私の顔に何かついてる?」

「…かえで、ひまわりに変なこと吹き込んだでしょう?」

「変なこと?」

「〜〜うあ〜ん!パパに『しょーぶしたぎ』見せるって言ったら怒られた〜」

「〜〜えぇっ!?あれ、本当に買ったの!?」

「うん!〜〜今月のお小遣い全部使っちゃったけどね…。うぅ…」

「だから、やめときなさいって言ったのに…。ひまわりったら計画しないで欲しい物はすぐ買っちゃうんだから…」

「〜〜ぶ〜…。だって、リボンいっぱいで可愛かったんだも〜ん…」

「ふふっ、下着は実用品なんだし、何枚あってもいいじゃない♪」

「…かえで!あなたも反省なさい?」

「あら、大人になればどうせ知ることよ?私はただ、見えない所にもお洒落に気を遣いなさいって女のたしなみを教えたまでよ♪」

「〜〜ああ言えばこう言う…。資料はありがたく受け取っておくから、あなたももう休みなさい!」

「どうしてよ?会議に参加しないとはいえ、私も姉さんと同じ副司令ですもの。司令見習い君の会議の準備をサポートしてやるのも仕事の内よ?」

「あはははっ!パパ、まだ見習いなんだって〜」

「ね〜!うふふふっ」

「〜〜か、かえでさん…!子供達の前で見習い呼ばわりはやめて下さいって…」

「ふふっ、他にも手伝えることがあったら言ってね?大神司令見習い君♪」


〜〜ハァ…。かえでさん、一杯ひっかけてきたのかな…?妙に陽気というかテンション高いというか…。

「お父さんとお話できてよかったわねぇ。もう遅いから、おやすみなさいして、お部屋に戻りましょ?」

「え〜?ひまわり、まだ眠くないよ〜!?」

「ダ〜メ。夜更かししてる悪〜い子は、お化けに食べられちゃうわよ〜?」

「なら、ひまわりが一番先に食べられちゃうわね♪」

「〜〜うわ〜ん!!やぁだ〜!!ひまわり、もう寝る〜!!」


はは、ひまわりったら、あやめさんの足に半泣きでしがみついてるぞ。俺に似て、幽霊やお化けが苦手だからな。

「ふふっ、せっかくだから、お父さんにおやすみのキスしてあげたら?」

「わ〜い!おやすみ〜、パパ〜!」

「おやすみなさい、お父さん!」

「チュッ♪」「チュッ♪」

「ははは…。おやすみ、なでしこ、ひまわり」


はぁ…、娘って今ぐらいが一番可愛い時期なんだよな…。大きくなったら父親に甘えることなんてなくなるんだろうし…。

「ふふっ、それじゃあ寝かしつけてくるわね」

「お願いします、あやめさん」

「お父さん、かえでおばさん、また明日〜!」

「明日は絶対遊ぼうね〜!約束だよ〜♪」

「あぁ、おやすみ…」




――明日は絶対…か。そういえば、今月は忙しくて、あまり遊んでやれてなかったな…。今まで起きてたのも俺とコミュニケーションを取りたかったからなんだろうな…。

「そういえば、誠一郎はどうしたんだろう…?もう寝ちゃったんですか?」

「〜〜その…誠一郎なんだけどね…、今日、熱が出ちゃって…」

「え…っ!?病院には連れて行ったんですか…!?」

「えぇ。解熱剤のお陰で下がってきてはいるんだけど、まだ油断できなくて…」

「そうですか…。それで、医者は何て?」

「ただの風邪だから大丈夫だろうっておっしゃってるけど、まだ子供ですもの。悪化して肺炎にでもなったら大変でしょう?」

「でも、医者が大丈夫って言ってるんですから大丈夫じゃないですか?俺達は医学に関して素人なんですし、あまり気に病まない方が…――」

「〜〜大丈夫…!?そんなこと、どうして言い切れるのよ…!?」

「え…?」

「……あ…ごめんなさい…。あなただって疲れてるんですものね…」


かえでさん、顔色が悪いな…。誠一郎の看病で疲れてるんだろうか…?

――ピー!ガシャガシャガシャ…!!

「蒸気ファックスか…。こんな時間に誰からだ…?」

「会議の議長からみたいね…?」


蒸気ファックスを受け取り、俺はかえでさんと目を通してみた。

「〜〜うわぁ…、明日の会議、山本文部大臣も出席するのか…」

「へぇ、あの初の女性大臣ねぇ。議員時代から女性差別撤廃運動を掲げて女性達の支持を集めていたけど、大臣にまでなるなんてすごいわよね!」

「〜〜俺、あの人苦手なんだよなぁ…。歯に衣着せぬ物言いといい、眼鏡越しにきかせる睨みと凄みといい…」

「確かに気難しい方で有名ですものね。ふふ、若造だからってナメられないようにしないとね?」

「ですね…。〜〜ハァ…、帝撃新兵器開発プロジェクト、もう一度見直した方がいいかもな。明日はなるべく突っ込まれないような報告をしないと…」

「今から?早めに起きてやればいいじゃない」

「ですが、明日は朝から舞台の準備もありますし…」

「花組もいるんだし、それくらい私達でやっておくわよ。昨日もろくに寝てないんでしょ?会議当日に倒れたら、元も子もないわよ?」

「〜〜しかし、この書類も午前中までに送らないと…――あ…!」


椅子に座ろうとしたら、肘がコーヒーカップにぶつかり、こぼれたコーヒーが机の上に広がっていた書類を黒く染めてしまった…!

「〜〜うわ…!!花やしき支部の書類が…!!」

「〜〜あ〜何やってるのよ…!?雑巾持ってくるから動かさないでね!?」

「〜〜いいですよ!俺がやりますから…!!」

「何怒ってるのよ?こぼしたのは自分でしょ!?」

「かえでさんが傍に来なければ、こぼれませんでしたよ!!」

「〜〜な…っ!?何よ、その言い方!?大変だと思うから手伝ってあげようとしたんでしょう!?」

「会議に出るのは俺とあやめさんです!!恩着せがましく手伝ってもらわなくても結構ですよ!!」

「――!!」


――ハ…ッ!〜〜し、しまった…!ついカッとなって…。

「〜〜恩着せがましくって何よ…!?私が嫌々この仕事をやってると思ってるの!?」

「だ…、だって、かえでさん、疲れてるみたいですから…」

「〜〜そりゃ疲れてるわよっ!!今日だって、あなたと姉さんが出かけている間、ずっと子供達の面倒を見てたんだから…!!」

「そ、それは感謝してますって…!」

「〜〜私だって、あやめ姉さんと同じ副司令なのよ!?あなたの妻なのよ!?夫の体調を心配して何が悪いのよ!?」

「けど、時には無理をしてでもやらねばならないこともあるんです…!夫として、父として家族を守っていかなければならない男の気持ちなんて、かえでさんにはわからないでしょう!?」

「あっ、そう!なら言わせてもらいますけど、仕事中毒の夫のせいで子育てを押しつけられてる妻の気持ちなんて、一郎君にはわからないでしょう!?」

「えぇ、わかりませんよ!! 今の俺は司令なんですよ!?家族を養っていく為に仕事を頑張るのは当たり前じゃないですか!!」

「まぁ〜随分、ご立派になったものねぇ!!前は副司令の私にへいこらしてたくせにっ!!」

「それは、かえでさんが上官だったからですよ!その時だって、俺はかえでさんのすることにとやかく言わなかったじゃないですか!!」

「部下の意見に耳を傾けるのも上司の仕事でしょう!?司令だから何だって言うのよ!?それがそんなに偉いことなのっ!?」

「えぇ、少なくともかえでさんよりはね!仕事のスケジュールはあやめさんが管理してくれてるんです!!これ以上、余計な口出ししないで下さい!これは司令命令ですよ!?」

「〜〜何よ、偉そうに!仕事より家族を大事にしたらどうなの!? 〜〜誠一郎がどんな状態かも知らないくせに大丈夫なんて…、よくそんな無責任なこと言えるわね!?あなた、あの子の父親でしょう!?息子が心配じゃないの!?子供が病気の時くらい、傍にいてやったらどうなのよ!?」

「できることなら、俺もそうしたいですよ…!でも、司令がいないと帝撃の仕事は回っていかないんです…!!かえでさんは明日会議に出ないんですから、傍にいてやればいいじゃないですか…!!」

「私だって副支配人業務があるのよ!?」

「劇場にいるんですから、面倒を見られるでしょう!?」

「〜〜何よ、それ…!?子供の世話の方が仕事より楽とでも言いたいの!?」

「べ、別にそうとは言ってないじゃないですか…!」

「そういう意味でしょう!?子供は人形じゃないの!!可愛がってるだけじゃ育たないのよ!?〜〜子育ては夫婦で分担しようって結婚した時に決めたじゃない!!何で守ってくれないのっ!?」

「〜〜俺だって手伝える時間がある時は手伝ってるでしょう!?――とにかく、話は会議が終わってから、ゆっくり聞きますから――!」

「何よ、会議会議って…!?〜〜その調子なら、どうせ明日が何の日かも覚えてないんでしょうね…?」

「え…?」


――あっ、そうだ…!カレンダー…!!

俺は近くにあった壁掛けカレンダーを見てみた。――えっと…、明日は日曜日だから…。

「10月の…――21日!?」

「……やっぱり忘れてたのね…。〜〜もういいわよっ!」

「あ、かえでさん…!」


支配人室を出て行った際に見えた、かえでさんの涙が心に刺さった…。

〜〜はぁ…、怒るのも無理ないよな…。仕事に追われてるとはいえ、妻の誕生日を忘れるなんて最低だよな…。明日は帰りにプレゼントを買って、かえでさんに謝らないと…。

〜〜考えることが多すぎて頭がパンクしそうだ…。だが、今優先すべきなのは会議の準備。そして、テーブルの上を片づけることだ。誠一郎の具合が気がかりだが、準備を終わらせてから様子を見に行くとしよう…。

俺は椅子にもたれると、机の上に飾ってある写真立てを手に取って見た。隅田川花火大会…、今年のあやめさんの誕生日に撮った家族写真だ。浴衣を着たあやめさん、なでしこ、ひまわり、かえでさん、誠一郎、……それから俺…。

――俺は何の為に仕事を頑張ってるんだろう…?時々、わからなくなることがある。家族を養う為とはいえ、今の状態で妻達と子供達を幸せにできているんだろうか…?

だが、俺は大帝国劇場の支配人であり、帝国華撃団の司令だ。帝都の街、そこに暮らす人々、そして帝撃で働く部下達…。家族はもちろんだが、背負うものが多すぎる…。守りたいものが増える度に責任とプレッシャーも大きくなっていく…。

『――『不安』『後悔』『不満』『逃避』…。これが『ヒト』の負の感情なんだね…』

――何だ…?この声、どこから…?

『――怖がらないで…。『ヒト』の感情を教えてくれた代わりに君の願いを叶えてあげる…』

俺の願いを…?

――!?〜〜か、体が動かない…。金縛りか…!?いや、どちらかというと邪悪より神聖な気を感じるような…?

『――僕と同じ霊力の波長を持つ君…、僕を受け入れておくれ…』

仮面…?仮面をつけた細身の不思議な少年が天井から舞い降りてきて、俺の体にスゥー…と入り込んできた…!

あの仮面、どこかで見たことあるような…?――そうだ…。エリカ君が巴里のお土産と言って、マルシェで買ってきてくれたんだっけ…?

あぁ、色々なことを考えているうちにまぶたが重くなってきた…。きっと、これは夢だな…。まずいな…。今夜は徹夜しなければならないのに…。

けど、フワフワして気持ちいいな…。まるで羽根が生えた状態でお母さんのお腹の中にいるみたいだ…。何なんだろう、この感覚は……?

「――アモスー?どこにいるのー!?」

「アモス〜!?」


なでしことひまわりの声…?いや、それよりアモスって誰だ…?

すると、2人の声に反応したように仮面の少年は俺の体から抜け出すと、支配人室のドアをすり抜けていった…。

「あっ、ひまわり!アモスがいたわよ!」

「アモス〜!探したんだよ!?」


アモスって、あの少年の名前だったのか…。どうして、なでしことひまわりはあの子と知り合いなんだ…?

――あぁ、駄目だ…。確かめたくても眠くて体を動かせない…。頭も…ボーッと…して…き…て……。

俺はそのまま魔法にかけられたように深い眠りに落ちていった…。


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