藤枝かえで誕生日記念・特別短編小説2012
「仲直りの魔法〜かえで編〜」その5
私達ははやる気持ちを押さえながら神社の中へ入ると、鴬張りの廊下を渡り、一郎君がいる書庫へと向かった。
「一郎君、何かわかった――!?」
書庫のドアを開けたあやめ姉さんに続き、私も同じように青ざめた!窓際で一郎君が頭を押さえてうずくまっていたのだ…!!
「〜〜一郎君…!?」
「「〜〜どうしたの!?しっかりして…!!」」
「「『――我は…恨む…。我は…鬼…に…っ!』」」
鬼…ですって…!?
「「――う…っ、うあああああっ!!」」
「「〜〜一郎君…っ!!」」
〜〜いつもの一郎君じゃない…!?目が血走って、歯も鋭くとがって…、まるで一郎君の魂自体が鬼になったようだわ…!
書庫で調べ物をしている間に何があったというの…!?
「〜〜一郎君の体から妖気を感じるわ…!――しっかりしなさい、一郎君…!!私達の声が聞こえる…!?〜〜一郎君っ!?」
「「――ハ…ッ!?」」
私と姉さんに体を揺すられ、一郎君はやっと我に返ったみたいだ。汗をかいた状態で私達の姿を確認すると、安堵したように口元を緩ませた。
「「〜〜頭を押さえてうずくまってたから心配したのよ…!?大丈夫なの?」」
「「〜〜すみません…。この挿絵を見ていたら、急に頭痛が…」」
「「挿絵なんてどこにあるの…?」」
「「あれ…?絵が消えてる…!?〜〜おかしいな…?確かに般若の面を被った男の絵があったはずなのに…」」
般若の面…!?それのせいで一郎君はおかしくなってしまったのかしら…?
「――この書物から不思議な霊力を感じるわ…。一郎君の隼人の霊力と反応しているみたいね」
「「俺の霊力と…?」」
「「……挿絵…ねぇ。何だか気になるわね…」」
「時間はかかりそうだけど、復元して、月組に調べてもらいましょうか」
「「そうですね」」
アモスといい、この書物といい、今まで隼人の霊力がどんなものかなんて特別気にしたことはなかったけど、思っていた以上に危険な力みたい…。
破邪の力で魔神器を解放し、巨大降魔を葬った真宮寺一馬大佐が当主だった真宮寺家、百年に一度、最終降魔という悪魔の子が生まれる私達・藤枝家と同様、力の使い方を間違えれば世界を滅ぼしかねないでしょうね…。
「「あやめさんとかえでさんの方はいかがでしたか?」」
「ごめんなさい。祠を調べてみたけど、アモスの行方は掴めなかったわ…」
「「おばあ様が言うには、この世界とは違う次元にすでに行ってしまったんだろうって。残念だけど、今日はこの状態でやり過ごすしかなさそうよ」」
「「じゃあ、会議にはかえでさんが出席するってことですか…!?」」
「「…まぁ、そうなるでしょうね」」
「「〜〜えぇっ!?司令の俺は本部で待機してろとおっしゃるんですか!?」」
「今の大神一郎総司令はかえでですもの。やりきれない気持ちはわかるけど、仕方ないわ。一郎君は私達が会議に出ている間、子供達の世話をお願いね?」
「「〜〜そ、そんなぁ…。がっくし……」」
「「…あら、気楽でいいじゃないの。あなたにとって、子育てなんて遊びのようなものなんでしょ?」」
フン!私の忠告を素直に聞かないから、こういう目に遭うのよ?
「「〜〜なら、せめて奏組の視察と舞台監督ぐらいはやらせて下さいよ!」」
「「何言ってるのよ!?最高責任者の私がいなきゃ変に思われるでしょう!?」」
「「〜〜司令も副司令も、やることはそう変わらないじゃないですか――!!」」
「――はいはい、そこまで!もう…、進歩がないわねぇ、あなた達は…。入れ替わったことで主張は逆になったけど、昨日と同じことで喧嘩してるって、わかってる?」
「「あ…、〜〜そういえば…」」
「「〜〜確かに…」」
「司令見習い君一人で大変なら、私達で分担すればいいでしょ?やっつけ仕事じゃないんだから、一つずつ丁寧にこなしていかなくてどうするの?」
「「〜〜そうね…」」
「「〜〜おっしゃる通りです…」」
「ふふっ、素直でよろしい♪…確かに司令にとって、今日の会議は一年で一番重要なお仕事よ。でも、変に肩肘を張る必要はないの。たとえうまくいかなくても、たった一回の会議で帝撃の基盤が揺らぐことなんてありえないでしょ?」
姉さん…。――そうよね…。私が副司令代理になる前から、あやめ姉さん達はずっと帝撃で頑張ってきたんですもの…。
米田さんを初代司令として帝撃ができて、あやめ姉さんが世界中から隊員をスカウトしてきて…。結成当初はバラバラだった花組も一郎君が隊長に就任してからは少しずつ絆を深めていって…。そして、花組に引っ張られるように他の部隊も私達・上層部も着実に成長していって、これまで素晴らしい舞台を披露しながら帝都の平和を守ってきたんですものね…。
「「私達・帝国華撃団には今まで培ってきた信頼と実績があるもの。それをお偉いさん方もわかって下さってるから大丈夫よ」」
私とあやめ姉さんに説得されて、一郎君は初心に返ることができたのか、ぐうの音も出ずにうなだれた。
「「〜〜俺、何やってるんでしょうね…?米田さんから継いだ帝撃を潰さないように頑張らないと…、大黒柱として家族を守っていく為に頑張らないと…って必死に食らいつくうちに、気がつくと仕事のことで頭がいっぱいになってて…。しまいには頑張っている目的すら見失って、大切な人達を傷つけて…。〜〜本末転倒もいいところですよね…」」
「「ふふ、だからこそ、私と姉さんはあなたを放っとけないんじゃないの」」
「そんな不安定な気持ちでいたら、うまくいくものもいかなくなっちゃうわよ?仕事熱心なのは結構だけど、一人で抱え込んでたら駄目…!プライドがあって背伸びしたいのはわかるけど、花組隊長だった頃みたいに悩みや困ったことがあったら、まずは私達に相談して欲しいな」
「「私達は何の為の副司令?何の為の妻なの?協力し合い、支え合うのが仲間であり、家族ってものでしょう?」」
「「あやめさん、かえでさん…」」
私とあやめ姉さんは一郎君を優しく包み込むように抱きしめてあげた。
不安とストレスで心身ともに弱っている旦那様を癒すには妻の愛が一番ですもの。ふふっ、一郎君のようなちょっぴりエッチな男の子には効果抜群だわ♪
「色々悩んで辛かったわね…。でも、あなたには私達・副司令姉妹がいるわ。今までもそうだったように、これからもずっとあなたの傍にいるから…」
「「一郎君の為に今日の会議は必ず成功させてみせるわ。だから、あなたももっと副司令の…妻の私達を信じて、頼りにして…ね?」」
「「ありがとうございます…」」
一郎君、司令って肩書をそんなにプレッシャーに感じる必要ないのよ?
一日でも早く米田さんのような部下達から慕われる上官になりたいのはわかるわ。…でも、あなたはあなた。今までみたいに私とあやめ姉さんに見守られながら、少しずつ司令兼支配人見習い君として成長していけばいいの。
――だからお願いよ…、『一人で頑張るから手伝うな』なんて寂しいことは、もう言わないで…。
「――じゃあ、一郎君は舞台準備の指揮と書類のハンコ押しをお願いね。劇場でできる業務だから、子供達の面倒を見ながらでもできるでしょう?」
「「はい、頑張ります!」」
「私は花やしき支部長として、風組の訓練に立ち会うわ。かえでは奏組の戦闘訓練を視察した後、私と合流して会議に向かう…。いいわね?」
「「わかったわ」」
「ふふ、二人ともいい顔になったわよ。この調子で今日も頑張りましょ!」
「「了解!」」「「了解!」」
今回の事件がなければ、一郎君の辛さにも子供達の潜在能力にも気づかずにいただろう。隼人と藤堂が混在する霊力の威力も、その怖ろしさも…。
一郎君が狙われたことも、私達が入れ替わったことも全ては天におわす神のみが知っていたこと…。これは神様の気まぐれ?それとも私達への警告なの…?
けど、どんな些細なことも全て未来へ繋がっている。その未来が私と一郎君にとってどんなものになるかもすでに神は知っているのよね…。
もし、これから待ち受ける未来がどんなに悲惨なものでも、私は乗り越えてみせる。愛する一郎君と尊敬するあやめ姉さんと可愛い子供達と今まで育んできた愛で希望ある未来に必ず塗り替えてみせるわ…!
「――支度できたー?」
「「ごめんなさーい。もうちょっと待ってもらえるー?」」
帝劇へ帰ってきた私は視察と会議の準備の為、隊長室で慣れないネクタイ結びに悪戦苦闘している。
「ふふっ、ネクタイ曲がってるわよ?」
「「あ、ありがと…」」
軍服に着替え終わった姉さんはベッドに座っている私の隣に座ると、まるで新婚さんみたいにネクタイを直してくれた。
「「〜〜何か変な感じだわ…。男物のスーツなんて、『新・宝島』でトリローニ市長をやって以来だもの」」
「そのうち着慣れるわよ。――あら…?このネクタイ、私が初めて一郎君にプレゼントしたものだわ」
「「これ?へぇ、よくしてると思ったら、あやめ姉さんとの思い出の品だったのね」」
「ふふっ、お付き合いを始めた最初のお正月に三越で買ってあげたものなのよ。あ…、ちょっと待っててね?今、ほこり取ってあげるから」
指にガムテープを巻いてスーツをペタペタし、仕上げにブラッシングをしてくれるあやめ姉さんは恥ずかしそうな…でも、とても幸せそうな笑みを浮かべている。
ふふっ、きっと、その時のデートのことでも思い出してるのね。…でも、それって私が帝撃へ来る前の話なのよね…。3人の中で私だけが知らない一郎君とあやめ姉さんの思い出か…。〜〜何だか嫉妬しちゃうな…。
「あの頃は一郎君、一人前の隊長さんになるのに必死だったなぁ…。それが今や帝撃を背負って立つ司令ですものね。身だしなみにも尚更気をつけないと…!」
慣れた手つきだわ…。きっと、あやめ姉さんはこういう身の回りのお世話を一郎君に毎日のようにしてあげてるのね…。
あやめ姉さんは人のお世話をしてあげるのが好きなマメな人だもの。男にしてみたら理想的な奥様よね…。〜〜だから、一郎君も私より姉さんを必要として…。
「…?どうしたの、急に黙り込んで…?」
「「……やっぱり、姉さんには敵わないなぁって…」」
「え…?ふふっ、どうしたのよ、いきなり?」
「「……私も姉さんみたいに尽くす奥様になったら、一郎君も頼ってくれるようになるかしら…?」」
「なにも尽くすだけが良い妻とは限らないでしょ?あなたは子供達の面倒もよくやってるし、命令された仕事はきちんとこなすし、女優としての評価も高いし…。こんなに素敵な奥様、そういないと思うわよ?」
「「…本当?」」
「弱気になるなんて、かえでらしくないわよ?ちょっとお料理が苦手でお酒が好きだけど、一郎君はあなたといるととっても楽しそうですもの。気さくで好かれやすいあなたが姉さんは羨ましいわ。私はよく堅物に思われて、とっつきにくいって言われるから…」
「「姉さん…」」
「あなたは私の自慢の妹ですもの。姉さんが太鼓判を押してあげてるんだから、もっと自信を持ちなさい、ね?」
「「――ありがとう…」」
ふふっ、私が今感じている『ほっこり』をいつも一郎君も姉さんの傍で感じてるんでしょうね…。
「「……思えば、私も一郎君と同じだったのよね…。姉さんが戻ってくるまで私が副司令だったでしょ?でも、姉さんの存在と功績が大きすぎて、私も同じくらい貢献しなきゃってプレッシャーがすごかったの…。だから、一郎君の不安な気持ちもわかるの。米田さんの抜けた穴を埋めようと必死で頑張ってるのに私ったら神経を逆なでするようなこと言っちゃって…」」
「昨日は一郎君、会議前で虫の居所が悪かっただけなのよ。なのに、あなたまで正直に不満を爆発させちゃうから衝突する羽目になったの。男の子って単純ですもの。愚痴を聞いてあげるだけでも随分、機嫌が良くなるものなのよ?」
「「そうでなくても、一郎君は普段から内に溜め込んじゃうタイプですものね?」」
「それに神経がこまやかで優しいもの。私達が文句を言わずに尽くしていれば、そのうち罪の意識に苛まれるようになって、自然と家の事を手伝ったり、家族サービスしてくれるようになるんだから。ふふっ、旦那はうまくアメとムチを使い分けて、手綱で繋いでおかないとね♪」
〜〜姉さんったら、私よりしたたかなんだから…。ふふっ、でも、こういう女性を世間では良妻賢母っていうんでしょうね。
「今回のことで、一郎君もあなたのありがたみが身に染みたはずだもの。素敵なお誕生日にするために取り計らってくれると思うわ」
「「ふふっ、だといいけど…♪」」
一郎君が喜んでくれるように私はお仕事を頑張ってこよう。それが昨日の喧嘩のせめてもの罪滅ぼしですもの…。
――コンコン。
「――副司令、お車の準備が整いました」
「ありがとう。――それじゃあ、1時時半にロビーでね」
「「えぇ!」」
風組の合同訓練を視察しに運転手のかすみと花やしき支部へ向かうあやめ姉さんを私は玄関から見送った。
帝撃へ来たばかりの頃は心細かったけど、今は姉さんがいてくれるから心強いわ…。
『――お前さん達を見とると、ぼたんともみじを思い出してな』
私と姉さんはたった二人の姉妹ですもの。お母様ともみじおば様のようにこれからも支え合って、良き妻として、これからも一緒に一郎君をサポートしていくわ。ふふっ、手綱さばきで夫をコントロールする妻の人心掌握術も教わったことですしね♪
「――母さ〜ん、早く早く〜!」
「「――はいは〜い!ちょっと待ってね〜!?」」
あ、一郎君と誠一郎がロビーにいるわ…!小道具を運んでるってことは昼公演の準備中かしら?
「わ〜い!チルチルのお帽子〜♪」
「〜〜あ〜っ!羽根が取れちゃったぁ〜…」
「「〜〜あ…、コラッ!小道具にイタズラしちゃダメでしょう!?」」
「〜〜ごめんなさぁい…」
「きゃはははっ!猫さんのおヒゲ〜♪」
「「〜〜コラ!!ひまわりは言ってるそばから――!!」」
――パリーン…!!
「〜〜うわああ〜ん…!!売店で売るオルゴール、落としちゃった〜!!」
「「〜〜いぃっ!?ちょ…、ちょっと待てって〜!!」」
ふふっ、一郎君ったら良いパパさんしてるじゃない♪…あ、今はママさんか。ふふ!大変そうだけど、子供達とうまくやってるみたいね。…これで少しは私の苦労もわかってくれたことかしらね?
子供達のこと頼んだわよ、一郎君!私もあなたの代わりにお仕事、頑張ってくるわね…!
さて、私も奏組の戦闘訓練を視察しに行きますか。今回は確か、かなで寮の地下でやるのよね。
えっと…、この道をまっすぐ進んで…――ここがかなで寮ね。へぇ、結構、綺麗な寮なのねぇ。
「――いっち、にー、さん、しー…!」
あら…?中庭からやけに張り切った声が聞こえてくるわね。誰かしら?
「…む?――やぁ、これは大神総司令殿!」
「「〜〜きゃあああっ!?」」
〜〜じょ…っ、上半身裸のメガネ男子…!?この寒いのに何してるの…っ!?
「おっと、無粋な格好で失礼した!訓練の前に体を温めておこうと乾布摩擦をしていてね」
「「〜〜そ、そうか…。朝から精が出るね…?」」
「うむ!貴族たるもの、健康な肉体づくりは欠かせないからな!」
〜〜いや…、裸でビシッとポーズを決められても…。
えーと…、資料によると、この子がちょっと変わったジオお坊ちゃまね。
――むにゅっ!
「「〜〜ひいいっ!?」」
「うむ、さすがは司令殿だ!男でも恍惚してしまうほどの見事な肉体をしておられる…!!司令もご一緒にいかがだろうか?是非、日頃のトレーニング法をご教授頂きたい!」
「「〜〜わ、悪いけど、わた…じゃない!俺、準備があるからさ…。ははは…、また今度でいいかな?」」
「フム、それは残念だ…。では、また後ほど!――いっち、にー、さん、しー…!」
〜〜ハァ…、ビックリした…。ショック死する前に訓練室に行っちゃいましょっと…。
――ガチャ…!
「――…?」
「「え…?〜〜き…っ、きゃあああああっ!?」」
〜〜また裸の男が…!!しかも今度は集団でぇっ!?
「…『きゃあ』?」
……あ、つい素が…。〜〜もうイヤ…。
「おっ、あんたが新しい司令の大神一郎だな!」
「「えっ!?〜〜あ…、あぁ、そうだとも!」」
「ちゃんと顔合わせるのは初めてだよな?俺は桐朋源二!こっちは弟の源三郎だ!よろしくな!」
「…いくら同性でもさー、ノックしないで入ってくるのはマナー違反でしょ?」
この二人が桐朋源二君と源三郎君か…。兄弟で隊員入り(攻略が可能)なんて羨ましすぎるわ…!〜〜くぅっ、私達・藤枝姉妹もいつかゲーム版で一郎君のヒロインになってみせるんだから…っ!!
「「〜〜あ…ははは…。すまない…。訓練室に入るつもりが、間違って更衣室に入ってしまったみたいで…」」
「フフ、かなで寮の地下構造は複雑ですからね。初めて来られた方はよくお間違いになるんですよ。あ…、私はフランシスコ・ルイス・アストルガと申します。本日はお手柔らかにお願いしますね、大神司令」
「「あ…、ご丁寧にどうも…」」
このお母さんみたいな人がルイスさんね。優しそうだけど、瞳の奥の鋭さと哀愁までは隠しきれていないみたい…。こういう温和キャラって、たいがい二面性というか…秘密を持ってるものなのよね…。
……そういえば、かなで寮に住んでるのって音子さん以外全員男なのよね…。ってことは、こういうハプニングも日常茶飯事なのかしら…?帝劇は公演期間以外、一郎君しか男はいないし、こんな場面に遭遇するなんてまずないもの。ビックリしたわ…。
〜〜音子さんったら私より何倍もピュアでしょうに、よくこんな狼達の巣で暮らせてるわね…。部下だけど、尊敬しちゃうわ…。
「……」
〜〜あの子、さっきからじっと睨んでくるのよね…。確かヒューゴ・ジュリアード君…だったかしら?
「…おい」
「「〜〜ビクッ!?な、何だい…?」」
もしかして、私がいつもの一郎君と違うって気づいたのかしら?〜〜それで、敵が化けてると勘違いして成敗しようと…!?
「――動くなよ…?」
〜〜え…?え…!?ちょ…っ、ちょっと待――っ!!
――ポフッ!
……ポフ…?頭にチョップしただけ…?
「……逃げられた…」
ヒューゴ君から逃れようと、私の頭から離れた黒い蝶は開いていた窓から慌てるように飛んでいった。
「おっ、蝶だー♪秋なのに珍しいな〜」
「…秋に活動する蝶もいるにはいるけどね」
あの蝶…、どうやら、ヴァレリーとかいうオカマの怪人にさらわれた際に一郎君の髪に一匹紛れ込んでたみたいね…。
「いけませんよ、ヒューゴ。司令相手にチョップなんて…」
「…羽をもいで、しおりにしたかっただけだ」
「それでもいけません。それに、目上の人にはちゃんと敬語を使わないと…」
「はははっ!ヒューゴったら怒られてやんの〜♪」
「〜〜黙れ…」
――コンコン。
「――差し入れ持ってきたんだけど、もう訓練始まっちゃう?」
「おや、笙さん」
「…あと30分でな」
「そう、間に合ってよかったわ。よかったら、皆で召し上がれ」
「お〜っ!!さっすが寮母!気が利いてるぜ〜♪」
「〜〜カツサンドぉ?胃がもたれるんだけどー」
「これから体を動かすんだから、いくらかスタミナつけておかないとね。――大神司令もいかが?」
「「あ、では頂きます…」」
この人がかなで寮・寮母の清流院笙さんね。綺麗で優しいお姉さんに見えるけど、実は性別不明とか…。薔薇組の琴音さんと同じ苗字ってことは兄弟かいとこなのかしら?なんだか謎が多い人なのよね…。
「音子ちゃんはまだ?じゃあ、お部屋まで届けてあげようかな」
「あっ!なら、俺達も行く〜♪」
「〜〜兄さんっ!勝手に決めるなよ…っ」
「フフ、この二人だけでは心許ないので、私もお供しますね」
「――では、俺も行くとしよう!!」
「〜〜うわっ!ジオ、いつの間に…!?」
「音子君は細すぎる!女性にふさわしいふくよかな肉体に改造するべく、我々の手でカツサンドを食べさせようではないか!!」
「〜〜ぽっちゃりな隊長って…、世間的にどうなのさ…?」
「〜〜その前にジオさん、服をお召しになった方がよろしいかと…」
「ヒューゴ君も一緒に行くでしょう?」
「……部屋へ行くだけなのに何故、全員で行く必要がある?」
「理由なんていいだろ?皆で行けば楽しい!それでいいじゃねぇかっ♪」
「では、せっかくなので、ミーティングも兼ねることにしましょう。…この理由ならいかがですか?」
「〜〜まったく、お前達は…」
「フフ、音子ちゃんは大人気ねぇ♪」
ふふっ、奏組も花組に負けず劣らず個性的な面々が多いけど、私達と同じように強い絆で結ばれているみたいね。
それじゃ、お手並み拝見といきましょうか!
「仲直りの魔法〜かえで編〜」その6へ
作戦指令室へ