藤枝かえで誕生日記念・特別短編小説2012
「仲直りの魔法〜かえで編〜その3



「〜〜ハァハァハァ…」

解熱剤を飲んだのに、誠一郎の熱がまた上がってきてしまった…。

うなされている誠一郎の熱い額に氷水で冷やした手ぬぐいを絞っては取り替えるをひたすら繰り返す。少しでも熱が下がるように祈りながら…、弱さを見せて不安にさせないよう涙をこらえて小さな手を握りながら…。

「〜〜大丈夫よ、誠一郎。朝になれば楽になるから…ね?」

根拠のないでたらめだけど、そう信じていればきっと叶う。今までだって、そうやって一郎君と何度も壁を乗り越えてきたんだから…。

「ハァハァ…、〜〜奴らが…来る……。父さん…が…う…うぅぅ…」

「え…?」


熱が高いから、悪い夢でも見てるのかしら…?

……それにしても、誠一郎は夢の中にも一郎君を登場させてるのね…。本当に父親を尊敬してるんだわ…。〜〜なのに、一郎君ったら息子がこんなに苦しんでるのに仕事仕事の一点張りで…!もう知るものですかっ!家族のありがたみがわからない父親なんて罰が当たればいいのよ!!

「――具合はどう…?」

あやめ姉さんが茶羽織を羽織り、屋根裏部屋まで様子を見に来てくれた。

「一度下がったんだけど、さっき計ったら熱がまた上がってて…」

「そう…。〜〜苦しいでしょうね…、可哀想に…」

「…明日、会議でしょ?もう休んだ方がいいんじゃない?」

「あいにく、苦しんでいる子供を無視して寝られるほど神経が図太くできていないのよね。覚えてない?子供の頃のあなたは体が弱くて、よくお熱を出して…」

「そうだったわね。ふふ、懐かしいわ…」


私が風邪を引いた時、自分もまだ小さいのにあやめ姉さんは今の私みたいに一晩中付きっきりで看病してくれた。

あやめ姉さんはこれまで、妹の私を数えきれないほど助けてきてくれた。男の一郎君には言いづらいことでも、同性のあやめ姉さんには包み隠さず相談できる悩みや愚痴だってある。思春期の頃は、そんな優しさがうざったいと感じたこともあったけど、大人になった今では姉さんのお節介が頼もしく思えるようになった。そして、そんな姉を持った自分がどれほど恵まれているのかも…。

「そういう心配性なところ、ちっとも変わってないわね」

「誠一郎君は私の息子同然ですもの。家族を心配するのは当たり前でしょ?ふふっ、あとは姉さんに任せて、少し休んでらっしゃい。あなたまで倒れられたら大変ですもの」

「はいはい、お節介ありがとう。ふふっ、2時間経ったら起こしてくれる?」

「わかったわ。おやすみなさい」

「おやすみー」


〜〜ハァ…、もうクタクタ…。帰ってきてからずっと気を張り詰めっぱなしだったものね…。

「――ねぇ、かえで」

「んー?」

「……あまり…一郎君を責めないであげてね…?」

「……わかってるわ…」


あやめ姉さん…、私達の喧嘩を聞いてたみたいね…。



――わざわざ言ってくれなくてもわかってるわ。一郎君が手を抜くことを知らない真面目で頑固で不器用な人ってこと…。だからこそ、副司令として、妻として、私とあやめ姉さんでサポートしてあげなきゃいけないってことぐらい…。

けど、私は間違ったことは言ってない。夫婦喧嘩だって、これまで何度も経験してきたもの。……だから、これくらいの心の傷、少し寝ればすぐ…。……すぐ…に…癒えるのかしら…?

今日買った勝負下着だって高かったのに…。一郎君が喜んでくれると思ったから…。〜〜いい歳して、一人ではしゃいで馬鹿みたい…。…あーあ、明日は一郎君と楽しく過ごせるはずだったのに…。あんなこと言いたかったはずじゃないのにな…。どうしてこうなっちゃうの…?

ハァ…、気分悪いから、もう寝ちゃおう…。2時間経ったら、誠一郎の看病を交代しなくちゃ……。あぁ、体がダルい…。思ってた以上に疲れてたみたい…。心も…体も…もうボロボロよ……。

部屋のベッドに倒れ込み、すぐ眠りについてしまった私をあやめ姉さんの部屋で寝ていたはずのなでしことひまわりがパジャマ姿で覗いていた。

「かえでおばちゃん、疲れてるみたいだね…」

「〜〜今日は私達の面倒を一人で見てたんですものね…。かえでおばさんが楽になるように私達も誠一郎の看病、お手伝いしてあげましょ!」

「うんっ!それに夜更かしもできるもんね〜♪」

「〜〜んも〜、ひまわりったら…。誠一郎が心配じゃないの!?」

「それは…心配だよ…。〜〜誠一郎が具合悪くなったの…、ひまわり達のせいだしさ…」

「〜〜そう…よね…。アモスのこと…、やっぱり、お母さんとかえでおばさんに相談した方が――!」

『――見つけた…。僕と同じ霊力の波長を持つ者…』


不思議な少年の声が廊下に響くと、なでしことひまわりは顔を上げた!

「今の声…!?」

「アモスだ…!1階から聞こえたよ…!?」

「行ってみましょう!――アモスー?どこにいるのー!?」

「アモス〜!?」


夕方会った仮面の少年の名を呼び、1階へ降りていくなでしことひまわりの足音を子守唄代わりに、私は深い眠りに落ちていった…。



そして時は過ぎ、やがて、だんだん空が白んできた頃…。

「――ろう君…、一郎君、お願いよ!起きて頂戴…!!」

〜〜う〜ん…。だぁれ、私の体を揺らしてくるのは…?

「霊力と並行して脈も弱まってきてるわ…。〜〜このままじゃ一郎君は…」

この声は、あやめ姉さんね…? ふわあああ…。まだ眠いけど、もう交代の時間か…。

――あら…?体が動かない…。ひょっとして私、レム睡眠中?

「〜〜私の巫女の力で一郎君の霊力低下を食い止めないと…!」

あやめ姉さんは緊張しているのか、少しうわずった声でドアの鍵を閉めると、私を椅子にもたれさせ、優しく抱きしめながら膝の上に乗ってきた。

「一郎君、頑張って…!異国の呪いなんかに負けちゃ駄目よ…!?これは副司令命令ですからね…?」

異国の呪い…?しかも一郎君に呼びかけてるみたいだけど…?姉さんったら、私はかえでよ?徹夜して寝ぼけてるのかしら…?

「ん…っ!お願い、反応して…!」

あやめ姉さんが呟いた直後、唇に生温かい感触を感じた。

え…っ!?〜〜ちょ…っ!あやめ姉さんったら妹にキスしてくるなんてどういうつもり…!?〜〜きゃああっ!?しかも、どこ触ってきてるのよっ!?

「ふふっ、成功ね!一郎君が感じやすい人でよかった♪」

〜〜な、何だか股間に初めて感じる違和感が…。そ、そんな馬鹿な…!?私は女よっ!?女なのにそんなはず…!!

「怖がらなくていいのよ、一郎君。今、あなたの中に溜まっている邪気を払ってあげるわね」

あやめ姉さんは呼吸を整えながら、私の股間をいやらしい手つきでさすってくる…。

「あっ、すごい量の邪気だわ…!あっああああああんっ!!――はぁはぁはぁ…。精神統一、完了ね…!ふふっ、何だか燃えてきちゃった♪」

あやめ姉さんは私の股間に顔を埋めると、興奮しながら私のズボンのチャックを下げた…!な、何で私、ズボンなんて履いてるの…!?〜〜きゃああっ!?しかもパンツから変な物が飛び出してきた〜!! 何で私に男の人のアレが生えてるのよっ!?

「あんっ、一郎君も準備万端みたいね。ふふふっ、丁度良いわ。昨日、あなたが寝ている間に一人で会議の準備を終わらせたご褒美も頂いちゃおうかしら…♪」

〜〜いやああ〜ん!!姉さんったら変な所触らないで〜っ!!しゃぶらないで〜っ!!

――ぐぎぎ…っ!起きたいのに体が動かない…!!どうなってるの!?

「はぁはぁはぁ…。一郎君、今、助けてあげるわね…!――んあっ!あはあああああ〜んっ!!」

きゃああっ!!うそっ!?私のアレがあやめ姉さんの中に入っちゃった…!?

これは夢?でも、姉さんの肉の弾力も性的快感もこんなにリアルだし…。

「んんっ!思った通り、男女の交わいで霊力が高まってきたわ…!はぁぁん!!その調子でもっともっと感じていいのよ、一郎君…!!――ああああっ!!あっ、あっ、あっ、あんっ!き、気持ちいい!!ダ、ダメぇ!私の方が先にイッちゃいそう…!!――いやああっ!!わ、私まだ…!!ああああああ〜んっ!!」

きゃああっ!?あ、あやめ姉さん、そんなに締めつけないで〜!!

「あんっ!さっき巫女の力を使ったせいで感度が上がってるんだわ…。――でも、一郎君を助けるにはこれしか方法は…!!〜〜んくぅっ!!お願い!イッて、一郎君…!!ひああっ!あはあああああああ〜んっ!!」

あやめ姉さんは私の顔を胸に押しつけ、私が絶頂に達するように懸命に腰を動かしている。

「ああああああっ!!イッたばかりなのにまた…!ああ〜ん!いやあああああああっ!!はぁはぁはぁ…、ダメぇ…、これ以上したらおかしくなっちゃうわ…。でも、これは大事な『払いの儀』ですもの。なんとか耐えなくちゃ…!」

『払いの儀』って、確か藤枝の巫女が性交渉で相手の邪気を退散させるっていう…?どうして姉さん、そんな儀式なんかやってるの…?私、寝ている間に変なものに取り憑かれちゃったのかしら…?

「――安心してね。あなたは私が守ってみせるから…!」

あやめ姉さんは私の霊力を一定量まで上げてキープさせつつ、体内に溜まった邪気を自分の胎内へ送り込んで浄化させようとしてるみたい。

頭がぼんやりして、うまく考えがまとまらないけど、私と一郎君がまずい状況に置かれてるのは、姉さんの必死ぶりから見て間違いなさそうね。

儀式を成功させるには姉さんより私が先にイケばいいんだけど、眠ってるせいか、邪気による負の影響か、私の感度は鈍くなってるみたい…。

「――きゃあああっ!!ダメぇぇ!!またイクゥゥ!!んんんんんっ!!はぁはぁはぁ…。邪気が強すぎて一人じゃ追い払えないわ…。でも、かえでも全然起きる気配がないし…。〜〜どうしましょう…?ふあ…!?ああああ〜んっ!!」

あやめ姉さん、何度も失敗してイッてるせいで苦しそう…。私も力になれればいいんだけど…。〜〜く…っ、せめて腰を動かせれば…!

「はぁはぁ…、だいぶ頬に赤みが差してきたわ。もう少しで邪気を浄化できるかもしれない…!――うぅっ!うあああああ〜んっ!!」

あやめ姉さんは気を失いかけたけど、私の胸にもたれて意識が戻った。

「ダメ…、ちょっとこすれるだけで意識が飛びそうになっちゃう…。それに巫女の力を使う度にどんどん感度が…。〜〜はぁはぁ…、もう…限界…。助けて…、一郎君……」

あやめ姉さんは頭を振って深呼吸すると、瞳を閉じて集中し直した。

「一郎君は私が降魔になっても、諦めずに頑張って人間に戻してくれたもの…。私も一郎君を助けてみせるわ…!――大天使ミカエルのお母様、どうか私に力をお貸し下さい…!!」

あやめ姉さんは精神統一して霊力が高まった体で再び私の股間に腰を下ろすと、舌を絡ませ、私の乳首を吸い、より積極的な責めを開始した…!

「ふむ…っ!!むぐっ!!うふううっ!!〜〜む…うううんっ!!一郎君、お願い…!」

何なの、この感じ…?体の底からマグマがふつふつと沸騰してくるような…!?――あ、熱いわ…!!私の体が煮えたぎっていく…っ!!

「――あと少しよ…!私と一緒にイキましょう、一郎君…!!」

あやめ姉さんは向かい合う形で私と両手の指を組み直すと、腰使いと舌使いをさらに激しくさせた…!

「んんんんんっ!!んっ、んっ、んっ、ん…っ!!」

しばらくすると、薄らとだけど、目を開けられた。あやめ姉さんは涙と汗を流しながら私と合体し、強い霊力を放ちながら懸命に腰を上下に動かしている…!

「先にイッて、一郎君…!!ねぇ、早く…!早くイッてぇぇ〜っ!!」

ふふっ、姉さんったら、すぐ一人でいいところ持っていこうとするんだから。――藤枝の巫女は二人で一人…。妹巫女の私も力を貸すわ…!

私は力を振り絞って腕を上げると、あやめ姉さんの太ももをグッと押して深く腰を落とさせ、力を振り絞って自分の腰をグイッと突き上げた…!!

「きゃあああっ!!あああああああああああああ〜っ!!」

「あはああああああっ!!あぐ…っ!あああああ〜んっ!!いやあああ〜っ!!」

「こ、この霊力は…!――あなた、まさか…!?」

「〜〜ハァハァ…!姉さん、今よ…!!」

「――臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前…!!邪気退散っ!!」

「いやあああああっ!!何か出てきちゃう…!!ああああああああ〜っ!!」


女性からは迸ることのない、粘着質の黒い液体が私からあやめ姉さんの中に注ぎ込まれていく…!同時に、私と姉さんの体が巫女の霊力によって共鳴し、白く光り始めた…!

「〜〜ちょ…っ!やだ、止まんない…っ!!」

「〜〜いやああんっ!!そんなに出されたら入りきらないわ〜!!」

「はあああん!!でも、すっごく気持ちいい〜!!――へっ、はっ、は…あぁぁぁ…」


私は姉さんの中に全ての邪気を出し終えると、ぐったり椅子にもたれた。

「ハァハァハァ…、これで全ての邪気を浄化できたわ…」

「ハァハァ…、何なのよ、これ?バースデープレゼントにしてはあまりに…――…?あーあー…。誠一郎の風邪がうつったのかしら?声がいつもと違うような…?」

「さっきの霊力…、やっぱり、あなた…、かえでなのね…!?」

「当たり前でしょ?他に誰と間違えようが――!」


…あら?三人娘からもらった手鏡、ポケットに入れておいたはずなのになくなってる…?――ハッ!?〜〜私、何でもぎり服を着てるの!?そもそも、自分の部屋で寝てたはずなのに何で支配人室にいるの…!?

「――なるほどね…。一郎君を守ろうと、呪いをかけられる直前にアモスが一郎君とかえでの人格を入れ替えたんだわ…!」

「えっ?じ、人格を入れ替えたって、どういうことよ…!?」

「……とりあえず、霊力値は元に戻ったみたいね。鏡を見てらっしゃい」


鏡ってどういうことかしら…?とりあえず、顔を洗うついでに女子トイレの洗面台に行ってみましょう…。



「――え…っ!?う、嘘でしょう…!?」

洗面台の鏡に映っていたのは大神一郎君…。〜〜どうして私、見た目が一郎君になってるの!?部屋で仮眠取ってただけなのに何があったのよ…!?

「――ふふ、お化けの夢を見たから一緒についてきてほしいなんて、アイリスはまだまだ子供ね」

「〜〜むぅ〜…、だって一人でおトイレ行くの怖いんだもぉん…」


えっ!?〜〜この声はさくらとアイリス――!?

――ガチャ…!

「え…?」

「〜〜きゃああ〜っ!!お兄ちゃんが女の人のおトイレにいる〜っ!!」

「〜〜ち、違うのよ!これには深い理由が――!!」

「〜〜大神さん!!夜中にこんな所で何やってるんですか!?」

「だから違うんだってば!見た目は一郎君だけど、私はか――!!」


――ビヨ〜ン…!

「〜〜きゃあああ〜っ!?」「〜〜きゃあああ〜っ!?」

〜〜ひっ!混乱してたせいで、チャックとベルト締めるの忘れてた〜!!

「〜〜そんなものを女子トイレで出すなんて最低ですっ!!」

「〜〜早くしまってよぉ〜!!お兄ちゃんの変態〜っ!!」

「〜〜わ、わかったから静かにしなさいっ!まだ皆、寝てるのよ――!?」

「――何の騒ぎ…!?」


〜〜あちゃ〜…。私がさくらとアイリスの前でズボンを直しているところに、よりによってマリアが…。

「――清らかな乙女達の前で何をされてるんです、大神司令見習い…?」

「〜〜ち、違うのよ、マリア!撃つ前に話を聞いて…!?ね!?」

「女の敵に情けは無用です…!――スネグーラチカ!!」

「〜〜きゃああああ〜っ!!」


〜〜あ〜ん、もう!何なの、この展開!?私が何したって言うのよ〜!?



「――大神さんとかえでさんが入れ替わった〜!?」

「〜〜えぇ…。私が寝ている間に邪気を取り込んだのも何か関係があると思うんだけど…」

「あやめさんに聞けば、詳しいことがわかるかもしれないね」

「あやめさんなら、さっき隊長と地下に降りてったみたいだぜ?」

「それじゃ、私達も行ってみましょう――!」

「――待って下さい。……うまいこと言って、覗きをごまかそうとしているわけではありませんよね?」

「えっ!?」

「大尉も小野小梅として何度か舞台を経験されているんですし、女性の演技はそれなりに慣れてらっしゃいますものねぇ?」

「〜〜ちょ、ちょっと待って!何で女の私が女子トイレで覗きを働かなきゃいけないのよ!?」

「…う〜ん、必死こいて否定してくるんも怪しいなぁ?」

「間違いないデ〜スネ♪大尉さんは嘘ついてマ〜ス!!」

「〜〜な…っ!?どうしてそうなるのよっ!?」

「でも、何でおトイレなの〜?お兄ちゃん、お風呂なら昔よく覗いてたけど…」

「…それだけ隊長の趣味がアブノーマル化してきてるんだろうね」

「大神さん、最近お忙しくてストレスが溜まってたみたいですし…」

「〜〜隊長っ!!だからって覗きはねぇだろ!?こんなこと、あやめさんとかえでさんが知ったら泣くぞ!?子供達もグレんぞっ!?」

「〜〜だいたい、帝撃の司令として恥ずかしくありませんのっ!?」

「…反省が見られないようであれば即刻、警察に突き出しますからね?」


〜〜一郎君ったら、どれだけ花組から信用されてないのよ…。

「〜〜信じられないのはわかるけど、本当に私、かえでなのよ!お願い、信じて…!?ね!?」

「…覗きは犯罪だ。『体が勝手に』って理由じゃ、世の中通らないよ?」

「〜〜ハァ…、じゃあ逆に聞くけど、どうしたら信じてくれるわけ?」

「ほんなら、白黒はっきりつけまひょか!うちが発明したウソ発見器の蜘蛛型ロボット『正直君・改』を頭に乗せれば、どんな嘘もお見通しやさかい!!」

「懐かしい〜!私、帝劇に来た頃に同じようなの見たことあるわ!」

「残念ながら前の型は爆発してもうたけどな。せやけど、この『正直君・改』は嘘を見極める能力とおしおき能力をパワーアップさせたさかい!本当のことを言うたら蒸気を吹くだけやけど、嘘をつけば、この鋭い8本の脚があんさんの頭をギリギリ締め上げるさかいな〜♪」

「〜〜ごく…っ。そ、それで疑いが晴れるなら、お安いご用だわ…!」

「ほほほ、自信満々ですわね〜?」

「ほんなら、これからする質問に全て『いいえ』で答えてな〜?――ほな、第1問!あんさんは女子トイレに覗きをしに入りましたか?」

「…いいえ」


――プシュー!

「あっ、蒸気を吹いたよ!?」

「…チッ、今のは本当みたいね」

「〜〜何で残念そうなのよ…」

「おっと!だからって、まだ疑いが晴れたわけじゃないぜ?」

「紅蘭、どんどん質問するといいデ〜ス!」

「まかしとき〜!――ほな、第2問!あんさんは今日の明け方、一度でも性的興奮を覚えましたか?」

「いっ!?〜〜…いえ…」


――ウ〜ウ〜!

『――ウソ、ハッケン!ウソ、ハッケン!』

「〜〜きゃあああ〜っ!!いたたたたたっ!!」

「あっ!嘘ついた〜!!」

「〜〜やっぱり、女子トイレで覗きをしてたんじゃないですかっ!!」

「…未遂だと思ってたけど、その反応じゃ完遂みたいだね」

「〜〜誰のを覗いてたデスカ〜、大尉さん!?」

「〜〜素直に白状なさいましっ!!」

「〜〜ちっ、違うのよ!それはトイレでじゃなくて――!!」

「――支配人室で…ですものね?」


すると、あやめ姉さんと私の姿をした一郎君がサロンまでやって来た。

「あやめさん、かえでさん…!」

「聞いてくれよ、二人とも〜!!隊長ったらよぉ、女子トイレで覗きを働いてやがったんだぜ!?」

「…いや、かえでさんの姿をしているが、俺は大神なんだ」

「…へ?」

「…ちなみに彼女も一郎君に見えるけど、中身はかえでよ」

「〜〜じゃあ、人格が入れ替わったっていうのは本当なんですか…!?」

「〜〜さっきから口が酸っぱくなるほど言ってるのに…。――地下に行くなら私も連れて行って欲しかったわね。お陰で散々な目に遭ったわ…」

「ごめんなさいね。払いの儀を執り行った後の一郎君の霊力分析と値を蒸気演算室で測定してたものだから…」

「ハライノギって何デスカ〜?」

「藤堂の血を引き、藤枝の巫女を継いだ者だけができる破邪の儀式よ」

「私の…正確に言えば一郎君の体に溜まっていた邪気をあやめ姉さんと私の巫女の力で浄化したのよ」

「その儀式は神聖な性交渉によって行われるからね」

「なるほどなー。そん時、かえではんはセックスの性的興奮を覚えたっちゅーわけか」

「ねーねー、せーこーしょーってなぁに?」

「……18歳未満は知らなくていいこと」

「えっと…、じゃあ、あなたはかえでさんの姿をしているけど実は大神さんで、こちらの大神さんはかえでさん…ってことですよね?」

「〜〜アイリス、頭がこんがらがっちゃうよぉ〜」

「疑うつもりはありませんが、あまりにも突飛な話ですね…」

「〜〜だろうな…。俺だって未だに信じられないよ…」

「一郎君とかえでの人格が入れ替わってしまったのは、アモスという仮面の精霊の精霊術のせいなの」

「仮面の精霊…?」

「あやめさんの誕生日の時、エリカ君がお土産に買ってきてくれただろう?」

「あ〜、あの薄気味悪い仮面か。あたい、あれを見た瞬間、どうも嫌な予感がしたんだよなぁ〜」

「…よく言いますわね。子供達に混じって鬼ごっこされてたくせに」

「〜〜う…」

「仮面の精霊かぁ。まるでファンタジー小説やなぁ」

「そのアモスは敵デスカー?なら、さっさとやっつけるといいデ〜ス!」

「いいえ、彼は私達の仲間よ。悪い魔法使いから一郎君を隠して呪いから守る為に、かえでの人格と入れ替えてくれたんだもの」

「「〜〜ちょっと!?私は呪いにかかってもよかったってこと?」

「ふふっ、一郎君の体にあなたがいてくれたお陰で呪いの邪気を浄化できたんですもの。結果オーライでしょ?」

「〜〜浄化できなかったら、どうやってお詫びするつもりだったのかしらね…?」

「それで、呪いをかけた悪い魔法使いというのはどこにいらっしゃって?」

「わからないわ…。アモスは何か知っているみたいだったけど、私達を巻き込みたくないからって、何も教えてくれないまま姿をくらませてしまったから…」

「帝都を狙う新しい敵かな…?」

「でも、どうして隊長だけを狙うんだよ?」

「司令見習いは今、帝国華撃団の最高責任者よ。組織を潰すには上層部を狙うに越したことはない…ということかしら?」

「とにかく、今は一郎君とかえでを元に戻してもらうことが先よ」

「アモスを見つければ事情を聞けるし、一石二鳥ですものね」

「〜〜ハァ…、会議が始まるまでに何とか見つけないとな…」


〜〜んもう、一郎君ったら、こんな時でも仕事で頭いっぱいなんて…。私の体の中にいられること、少しはありがたく思いなさいよね!

「あたい達も公演準備が終わったら、手分けして探してみようぜ!」

「はい!頑張りましょう!!」

「私も月組に情報収集の協力を依頼してみます」

「ありがとう、皆」

「助かるよ」

「面白いから、しばらくそのままでいてもいいと思いますケ〜ドネ♪」

「〜〜んもぉ、織姫ったらぁ…」

「それじゃあ、私達も会議に出発する時間までアモスが消えた天雲神社で調査してみましょうか」

「了解です!」

「――あ、ちょっと待って…!」


私は誠一郎の具合がどうなったか気になったので、屋根裏部屋へ続く階段を一郎君の体で上っていった。


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