藤枝かえで誕生日記念・特別短編小説2012
「仲直りの魔法〜大神編〜その4



カーテンの外が明るくなり、鳥のさえずりも聞こえてくるようになった。もう夜が明けたみたいだな…。

〜〜う〜ん…。疲れ切っているのか体がだるい…。頭もやけにぼーっとする…。昨日はかえでさんに晩酌付き合わされたわけじゃないのにな…。

「〜〜う…ん……っ」

……寝返りを打つのに胸が邪魔だな…。少し太ったか…? だが、逆に二の腕は細くなっているような…?

「――ろう君…!一郎君、起きて…!」

ん…?あやめさんの声が聞こえるぞ…。

ふわああ…。もう会議に出発する時間か。眠いけど、準備しないとな…。

――ん…?会議……。何か忘れているような…?

「〜〜しまった…!!俺、あのままずっと寝――!?」

慌てて飛び起きた俺の目の前に、あやめさんは黙って資料を突きつけた。

「資料なら大丈夫よ。かえでが作ってくれた分を見直して、まとめ直しておいたから」

「そ、そうでしたか…。ホッ…。――ん…?俺、何でかえでさんの部屋にいるんだ…?〜〜いぃっ!?しかも、かえでさんのネグリジェまで…っ!?」

「〜〜ハァ…、やっぱりあなた、大神一郎君なのね…?」

「やっぱり…って、どういうことですか?」

「…そこの鏡を見てみなさい」

「鏡…?」


あやめさんに言われて、俺はかえでさん愛用の三面鏡ドレッサーを覗いてみた。なんと、そこに映っていたのは…!

「〜〜か、かえでさん!?な、何で俺、かえでさんの姿になってるんだ…!?」

「…落ち着いて聞いてね、一郎君?あなたとかえでは一晩のうちに心と体が入れ替わってしまったみたいなの…」

「〜〜な…っ、何だってぇ〜っ!?」

「〜〜先に起きたかえでも同じように驚いてたわ…。『払いの儀』が成功して、呪いが解けた肉体が目を覚ましたから、リンクしている魂も目を覚ましたのだろうけど…」

「呪い…?〜〜あの…、俺が寝ている間に一体何が…?」

「…とにかく、蒸気演算室に来てくれる?詳しい話はあなたの霊力値測定と分析を行いながら…ね?」

「は、はぁ…?それじゃあ、着替えないとな…。えっと、とりあえずかえでさんの服を…――うわ…っ!?」


チェストの一段目を開けてみたら、かえでさんのセクシーな下着がたくさん詰め込まれていた…!

「〜〜あの娘ったらA型の割に粗雑なんだから…。ちゃんとたたまなくちゃシワになっちゃうでしょうに…」

〜〜結婚する前の純な俺だったら、かえでさんの下着を見ただけで鼻血が止まらなかっただろうな…。もしかしたら、『体が勝手に』の悪癖を利用して、一枚拝借してたかも…。

「さぁ、遠慮しないで好きな物を着けてみなさい♪」

「〜〜す、好きな物と言われてもな…」

「あら、これなんか可愛いと思わない?」

「おぉっ!ピンクの紐パンならぬリボンパンティー!!俺好みの下着だ…♪」

「ふふっ、もう…。一郎君ったらエッチなんだから…」

「〜〜あ…ははは…、すみません、つい本音が…」

「値札がついたままだから、まだ買ったばかりみたいね。ふふっ、もしかしたら、今日の誕生日に着けようと思ってた勝負下着かもしれないわよ?」

「そうか…!どおりでひまわりが勝負下着勝負下着と騒いでたと思いましたが…、かえでさん、昨日これを買いに行ってたのか…」


――かえでさん…、誕生日を俺と過ごすの、そんなに楽しみにしててくれてたんだな…。〜〜なのに、俺ときたら…。本当に最低だ…。

「ブラジャーの着け方、わかる?」

「えっと、確かこのホックを…――あ、あれ…?うまく入らないな…」

「ふふっ、意外と難しいでしょ?手伝ってあげるわね」

「〜〜いぃっ!?い…、入れ替わってるんですから、無理に着けなくても…!」

「ダ〜メ!ブラジャーを着けないと、胸の形が崩れちゃうのよ?一郎君もかえでの垂れたおっぱいなんて見たくないでしょ?」

「そ、それは…そうですが…」

「ふふっ、外すのは慣れていても、着けるのは初めてですものね。私が教えてあげるわ…♪」


〜〜うぅ…、恥ずかしいが、しょうがないよな…。

今の俺はかえでさんなんだし、ブラジャーを着けるのはごく普通のことなんだ…!うん!

「いい?まずは、こうして胸を寄せて…」

――むにゅっ!

「んあっ!」

「ふふっ、可愛い声♪」

「〜〜か…、からかわないで下さいよ、あやめさぁん…」

「ふふ、かえでの胸は大きいから、よく寄せてあげないとね…♪」


――もみもみもみ…♪

「〜〜うわああっ!?うっ、後ろから揉まないで下さいよぉ…っ!!」

「ふふっ、せっかく女の子の体に入っているんですもの。ちょっとは楽しみたいでしょ♪」

「あっ、あやめさ…、そこ…やめ…っ!〜〜ふあ…あああああ〜ん…っ!!」

「あら、一郎君ったらもうイッちゃったの?ふふふっ、女の子がもっと喜ぶことやってあげようと思ったのに…♪」

「はぁはぁはぁ…、あやめ…さぁん…」


や、やばい…、女性の体がこんなに気持ちいいものだったなんて…。

あやめさんのテクニックがすごいのか、かえでさんの体がいやらしいのか、それとも俺の感度が良すぎるのか…。それともこれら3つの相乗効果なんだろうか…?

「――はい、装着完了。苦しくない?」

「はい、ありがとうございました」

「ふふっ、なんならパンティーも履かせてあげましょうか?」

「〜〜そ、それぐらいはできますから…っ!!」

「ああん、照れることないのよ?ふふふっ、女の子の気持ちいいことを知っておけば、私やかえでとエッチする時に絶対役立つわよ…♪」

「んは…っ!あやめさん、どうしたんですか…!?今日はやけに…んんんっ!」

「ふふふっ、『払いの儀』を行ったせいで性欲が高まっちゃったみたい…♪ねぇ、責任持って鎮めてくれるわよね、い・ち・ろ・う・クン?」

「うあああああっ!はぁはぁはぁ…、あやめさんっ、そこはぁ…っ――!!」


――ザクッ!

「〜〜いってぇっ!!」

「きゃ…!〜〜どうしたの、一郎君…!?」

「〜〜後ろに重心をかけたら、何かが尻に刺さって…」


手探りでベッドを探ってみると、かえでさんが昨日、三人娘からもらった誕生日プレゼントのアンティークショップ『papillon』の割れた手鏡とその破片と思われるガラスが散らばっていた…!

「これは…鏡…?」

割れた手鏡を見た途端、艶やかだったあやめさんの表情が一変して、普段の真剣な顔つきに戻った。

「――この手鏡から昨日の怪人と同じ闇の霊力を感じるわ…!〜〜まさかこれを使って侵入を…?」

「怪人って俺が巴里で倒した、あの…!?」

「えぇ、昨日の夜、支配人室に怪人の生き残りが現れたのよ。――この鏡も調べてみた方がよさそうね…」


怪人が帝都に出現したって、どういうことなんだ…!?



ダストシュートに飛び込み、かえでさんの戦闘服に着替え終えた俺は、地下の蒸気演算室で霊力値を測定しながら、あやめさんから昨晩の激戦やアモスに関することを詳しく聞いた。

「――まさか…俺が寝ている間にそんな激戦が繰り広げられていたとは…」

「一時はどうなることかと思ったけど、アモスのお陰で助かったわ。ふふっ、彼にうっとりするなでしことひまわりの顔、あなたにも見せてあげたかった♪」

「〜〜あ、あの娘達はまだ5歳ですよ…!?それに、彼はヴァレリーと顔馴染みだったんでしょう?まだ完全に信用しない方が…」

「ふふっ、お父さんとしては、まだ娘を取られたくないものねぇ♪」

「〜〜い…っ!?べ、別にそういうわけでは――!」


――プシュー!ピーピーピー…!

おっ、測定が終わったみたいだな。

「――霊力値も波調も安定しているし、特に異常は見られないわね。儀式の前は霊力も脈も弱くなっていて焦ったけど、もう大丈夫よ」

「払いの儀によって肉体の霊力が上がったお陰で、リンクしている魂根本の霊力も上がったんでしょうね。ありがとうございました、あやめさん。助かりました」

「ふふ、お礼ならかえでにも言ってあげてね?あなたを助ける為に妹巫女として力を貸してくれたんですもの」

「かえでさんが…?」

「えぇ、喧嘩中といっても、やっぱり、一郎君のことが心配だったみたいね。器が大きい奥様に感謝しなくちゃダメよ?」


と、あやめさんはいつものように笑って、俺の額を人差し指で小突いた。

――そうか…。かえでさん、俺の肉体に入っていたせいで、自分も霊力不足で動けなかったはずだろうに…。

「――本当によかった…、一郎君が無事で…」

「あやめさん…」


不思議だな…。あやめさんには昨日も車内で抱きしめられたはずなのに、今はこんなに温かい…ゆったりとした気持ちでいられる…。こんな安心感、最近は感じられていなかった気がするな…。…いや、そういえば昨日、似た感覚を覚えたような…?

――あぁ、そうだ…。眠る直前にアモスが俺の体に入ろうとした時に…。

「――アモスが俺の体内に入ってこようとしてきた時、俺と彼の霊力が共鳴するような感じがしたんです。初めて会ったはずなのに、何故だか自然と懐かしさも込み上げてくるような錯覚にも見舞われて…」

「そういえば、ヴァレリーは隼人の力のことも言っていたわね…」

「隼人は二剣二刀の一つである真刀滅却を伝承する裏御三家の一つであり、大神家の先祖ですからね…。あの霊力の波長…、もしかしたら、アモスは精霊になる生前、隼人の家と何か関係があったのでしょうか?」

「それに、ヴァレリーと組んでいる悪い魔法使いの『彼』が誰なのかも気になるわ。奴と顔馴染みだったアモスはすでに企みを知っていて、それを阻止する為に私達の元へやって来て、一郎君に呪いがかかる直前に魂を入れ替えたんだと思うの。『あなたとかえでの人格が入れ替われば魂は生き残る』って呟いていたのを聞いたし、間違いないと思うわ…」

「『受けた恩は返す』それが日本人の美学ですからね。アモスに詳しい話を聞いて、俺達も魔法使い退治に協力してやりましょう!」

「そうね。アモスを封じていた天雲神社の祠を調べて、彼が残していった霊力を辿れば足取りを掴めるかもしれないわ」

「あ…!けど、アモスは霊力が回復するまでオーク巨樹のゆりかごで眠るって言ってたんですよね…?」

「…あれは多分、私達を心配させない為の嘘よ。悪い魔法使いさんが魔術を使えないうちに敵地に単身で乗り込んだのかもしれないわ…」

「〜〜そんな…!?でも、確証はないんですよね…?」

「えぇ…。――でも、胸騒ぎがするのよ…。前もこれと似たようなことがあった気が…」

「――そういえば俺も…。〜〜なんだか思い出したくない記憶を無理矢理呼び起こされるような不快感がしますね…。これは一体何なんだろう…?」

「……とにかく、今日は大事な会議の日ですもの、あなたとかえでの体を元に戻すのを優先に行動しましょう…!」

「了解です!」




かえでさんの私服に着替え終わった俺は花組に会う為、あやめさんと階段で2階に上がっていく。

「〜〜小野小梅に変装する時にいつも思うことですが…、スカートってスースーしますよね…」

「そう?ストッキング履いてるんだから、そんなに冷えないと思うけど…?」

「でも、ズボンと比べたら、多少は違和感ありますよ…。胸が重くて肩も凝るし…。〜〜ハァ…、早く元の体に戻りたい…」

「ふふっ、その前に一郎君の体になったかえでに抱かれてみるのも悪くないんじゃない?」

「中身はかえでさんでも体は俺のわけですよね…?〜〜何か嫌だな…」

「あら、仲直りできるチャンスかもしれないわよ?」


仲直り…か。――そうだな…。ギクシャクしたまま会議に行くのも嫌だし、後でかえでさんに謝ろう…。

「――やっぱり、女子トイレで覗きをしてたんじゃないですかっ!!」

…ん?何だかサロンの方が騒がしいな…?

「…未遂だと思ってたけど、その反応じゃ完遂みたいだね」

「〜〜誰のを覗いてたデスカ〜、大尉さん!?」

「〜〜素直に白状なさいましっ!!」

「〜〜ちっ、違うのよ!それはトイレでじゃなくて――!!」

「――支配人室で…ですものね?」


あやめさんの声に、俺を取り囲んでいた花組が一斉にこちらを振り向いた。

〜〜会話から推測するに、俺の姿をしたかえでさんを女子トイレで発見して大騒ぎしてたんだろうな…。

「あやめさん、かえでさん…!」

「聞いてくれよ、二人とも〜!!隊長ったらよぉ、女子トイレで覗きを働いてやがったんだぜ!?」

「…いや、かえでさんの姿をしているが、俺は大神なんだ」

「…へ?」

「…ちなみに彼女も一郎君に見えるけど、中身はかえでよ」

「〜〜じゃあ、人格が入れ替わったっていうのは本当なんですか…!?」

「〜〜さっきから口が酸っぱくなるほど言ってるのに…。――地下に行くなら私も連れて行って欲しかったわね。お陰で散々な目に遭ったわ…」

「ごめんなさいね。払いの儀を執り行った後の一郎君の霊力分析と値を蒸気演算室で測定してたものだから…」

「ハライノギって何デスカ〜?」

「藤堂の血を引き、藤枝の巫女を継いだ者だけができる破邪の儀式よ」

「私の…正確に言えば一郎君の体に溜まっていた邪気をあやめ姉さんと私の巫女の力で浄化したのよ」

「その儀式は神聖な性交渉によって行われるからね」

「なるほどなー。そん時、かえではんはセックスの性的興奮を覚えたっちゅーわけか」

「ねーねー、せーこーしょーってなぁに?」

「……18歳未満は知らなくていいこと」

「えっと…、じゃあ、あなたはかえでさんの姿をしているけど実は大神さんで、こちらの大神さんはかえでさん…ってことですよね?」

「〜〜アイリス、頭がこんがらがっちゃうよぉ〜」

「疑うつもりはありませんが、あまりにも突飛な話ですね…」

「〜〜だろうな…。俺だって未だに信じられないよ…」

「一郎君とかえでの人格が入れ替わってしまったのは、アモスという仮面の精霊の精霊術のせいなの」

「仮面の精霊…?」

「あやめさんの誕生日の時、エリカ君がお土産に買ってきてくれただろう?」

「あ〜、あの薄気味悪い仮面か。あたい、あれを見た瞬間、どうも嫌な予感したんだよなぁ〜」

「…よく言いますわね。子供達に混じって鬼ごっこされてたくせに」

「〜〜う…」

「仮面の精霊かぁ。まるでファンタジー小説やなぁ」

「そのアモスは敵デスカー?なら、さっさとやっつけるといいデ〜ス!」

「いいえ、彼は私達の仲間よ。悪い魔法使いから一郎君を隠して呪いから守る為に、かえでの人格と入れ替えてくれたんだもの」

「〜〜ちょっと!?私は呪いにかかってもよかったってこと?」

「ふふっ、一郎君の体にあなたがいてくれたお陰で呪いの邪気を浄化できたんですもの。結果オーライでしょ?」

「〜〜浄化できなかったら、どうやってお詫びするつもりだったのかしらね…?」

「それで、呪いをかけた悪い魔法使いというのはどこにいらっしゃって?」

「わからないわ…。アモスは何か知っているみたいだったけど、私達を巻き込みたくないからって、何も教えてくれないまま姿をくらませてしまったから…」

「帝都を狙う新しい敵かな…?」

「でも、どうして隊長だけを狙うんだよ?」

「司令見習いは今、帝国華撃団の最高責任者よ。組織を潰すには上層部を狙うに越したことはない…ということかしら?」

「とにかく、今は一郎君とかえでを元に戻してもらうことが先よ」

「アモスを見つければ事情を聞けるし、一石二鳥ですものね」

「〜〜ハァ…、会議が始まるまでに何とか見つけないとな…」


奴らに対抗するには帝国華撃団という大きな組織の力が必要だ…!その為にも今日の会議は絶対に成功させないと…!!

「あたい達も公演準備が終わったら、手分けして探してみようぜ!」

「はい!頑張りましょう!!」

「私も月組に情報収集の協力を依頼してみます」

「ありがとう、皆」

「助かるよ」

「面白いから、しばらくそのままでもいいと思いますケ〜ドネ♪」

「〜〜んもぉ、織姫ったらぁ…」

「それじゃあ、私達も会議に出発する時間までアモスが消えた天雲神社で調査してみましょうか」

「了解です!」

「――あ、ちょっと待って…!」


かえでさんは誠一郎の具合がどうなったか気になったのか、屋根裏部屋へ続く階段を上っていったので、俺とあやめさんも後を追うことにした。



「――そう…。一晩のうちにそんな出来事が起こっていたとはね…」

階段を上りながら、俺とあやめさんはかえでさんにこれまでのいきさつを全て説明した。

「じゃあ、前に一郎君が子供の姿になったのも、アモスが悪い魔法使い君から一郎君を隠す為だったのかしら…?」

「そう考えると、つじつまが合うわね。今回も呪いを解くには藤枝の巫女の力が必要と知ってたから、妹巫女のかえでの魂を一郎君の肉体に移し替えたんだわ…。エリカが言っていた仮面の呪いなんていうのは、誰かが流したデマだったのね」

「〜〜ハァ…、しかし、何でよりによって会議の日に…」

「ふふっ、一郎君が休んだ方がうまくいくってことなんじゃないかしら?」

「〜〜あやめさん…、その冗談笑えませんから…」

「〜〜んもう!仕事と自分の命、どっちが大事なのよ…!?あなたは、わけのわからない魔術師からまだ命を狙われているのよ!?」

「ですが、そのせいで業務に支障が出るなんて悔しいじゃないですか…!」

「〜〜私達・姉妹はあなたが心配なのよ…。一郎君にもしものことがあったら私と姉さんは…。少しは家族のことも考えてよ…っ!」

「かえでさん…」


かえでさんは俺と喧嘩しているせいか目を合わさないまま、涙目になっている顔を真っ赤にして、唇をとがらせている。

かえでさんは怒ると子供のように拗ねることが多い。それが愛しくて、喧嘩中で気まずい雰囲気になってても、つい抱きしめたくなってしまう…。

――この勢いで謝ってしまおうか…。喧嘩でいつも先に折れるのが自分というのもシャクだが、悪いのは八つ当たりしたうえに誕生日を忘れてた俺だもんな…。

「――あっ!声がすると思ったら、やっぱり父さん達だ〜!」

すると、誠一郎が蒸気携帯ゲームをやりながら部屋から元気な顔を出した。

「誠一郎…!〜〜どうして起きてくるの…!?まだ寝てなきゃ駄目でしょう!?」

「〜〜ごめんなさぁい。なでしこもひまわりもまだ寝てるし、一人だとつまんなくて…」


そうか…。なでしことひまわり、昨晩はよく頑張ってくれたからな。今日はゆっくり寝かせておいてやろう…。

「もう具合の方は良いのか?」

「うん!母さんとあやめおばちゃんが看病してくれたお陰だよ」

「そうか、よかった…!」

「熱が上がったのは霊力を使っただけじゃなくて、パリシィに取り憑かれたせいもあったみたいね…」

「また風邪がひどくなると大変だから、今日はお部屋でおとなしくしてなさい!いいわね!?」

「……今日の父さんと母さん…、なんか変…」

「え?〜〜へ、変って…!?」

「喋り方も変だけど、ちょっとよそよそしいというか…。……喧嘩でもしたの…?」

「えっ!?〜〜そ、そんなことないわよ…じゃなかった!そ、そんなことあるもんか〜!!父さんと母さんはいつでも仲良しこよしだぞ〜!!」

「〜〜そ、そうよ〜、誠一郎!熱っぽさがまだ抜けてないんじゃなぁい?」

「そうなのかなぁ…?えへへっ、でも、仲良しならいいや!」


誠一郎、ボーッとしてることが多い子だが、案外鋭いんだな…。子供は親の微妙な雰囲気に敏感だと言うし、侮ったらいけないよな…。

「ねーねー父さん、今日会議なんでしょ?帰ってきたら、一緒に母さんのお誕生日お祝いしてあげようね!」

「誠一郎…」「誠一郎…」


こんなに可愛い息子が俺達・両親のことを想ってくれているというのに…俺ときたら、つまらない意地とプライドのせいでかえでさんと喧嘩なんかして…。〜〜本当、馬鹿な父親だよな…。

俺はかえでさんになりきってニコッと微笑むと、少し屈んで、誠一郎の頭を優しく撫でてやった。

「――大丈夫よ。お父さんはお仕事でいっぱいいっぱいになって、大好きなお母さんのお誕生日すら忘れてしまう間抜けな人だけど、今日はお母さんの為にいっぱいお祝いしてあげたいって思ってるに違いないわ…」

「一郎君…」

「フフ、――そうでしょう、一郎君?」

「――あぁ、母さんの言う通りだよ。帰ってきたら、父さんと一緒にお祝いしような!」

「わ〜いっ!約束だよ、父さん♪」

「あぁ、男同士の約束だ!」

「ふふっ、よかったわねぇ、誠一郎君」

「うんっ!――父さん、あやめおばちゃん、お仕事、頑張ってきてね!僕、良い子にして母さんと待ってるから!」

「あぁ、ありがとう、誠一郎…」


フフ、誠一郎の為にも早くかえでさんと仲直りして、最高の誕生日会を開いてやらないとな…!


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