藤枝かえで誕生日記念・特別短編小説2012
「仲直りの魔法〜大神編〜その3



「――あああ〜ん!あああ〜んっ!あっ、あっ、もっとぉぉぉ…っ!!」

「ウフフッ、娘達の危機だっていうのに…。だらしない母親だこと♪」


黒い蝶の集合体でできた大蛇と蛙に休みなく犯され続け、快感による気絶と目覚めを繰り返すあやめさんを横目に、ヴァレリーはなでしことひまわりにジリジリ近づいていく…!

「〜〜ママを悪く言わないでよっ!!」

「〜〜あなたが変な術を使ったからじゃない!!お母さんを元に戻して…!!」

「あらん、私はママに女の悦びを実感させてあげているだけよ。フフッ、真面目そうな顔して、あんな顔を隠し持ってたとはねぇ…♪旦那が忙しいせいでセックスレスにでもなってたのかしら?」

「〜〜何わけわかんないこと言ってるの〜っ!?」

「ウフフッ、お子ちゃまにはわかんないわよね〜♪なら、あんた達には痛さを感じるおしおきをしてあげる…! オホホホ…!おとなしくしてれば一瞬で済むわよ〜?」

「〜〜いやああ〜っ!!」「〜〜来ないでってばぁ〜っ!!」


――バイ〜ン…!!

「〜〜ぐっ!!お…おぉぉ…ぉぉ……」

なでしことひまわりのダブルアッパーがヴァレリーの股間に丁度炸裂すると、ヴァレリーは無言で股間を押さえ、地面にうずくまった…!

「〜〜い、今の感触って、もしかして…!?」

「あの痛がりよう…。この前、お父さんがカンナお姉ちゃんとの組手で、下段蹴りが大事な所に入って痛がってた姿に似てるわ…」

「〜〜まさか、あのおばちゃんって…」

「〜〜い、言うな…っ!言ったらブッ殺――!!」

「――オカマのおじちゃんなんだ〜!!」「――オカマのおじちゃんなんだ〜!!」

「〜〜げはあああああっ!!」


ヴァレリーはとどめを刺されたようにパタリと倒れた…。

「あ、倒れちゃった…」

「ひまわり達、勝ったの〜!?やったぁ〜!!」

「――おんどりゃああっ!!まだ終わってねーぞ、くぉらぁっ!!」

「わあっ!復活した〜!?」

「そんな汚い言葉使ったら、お尻ペンペンされるわよ!?」

「〜〜汚い言葉を使ったのはどっちよ…!?『オカマ』だけならまだしも、『おじちゃん』まで言ったわねぇ!?しかも、ハモって言っちゃったわねぇっ!?」

「じゃあ、薔薇組!」「グレーゾーン!」

「〜〜ムキ〜ッ!!言い方の問題じゃないわよっ!!あぁ〜っ!だから子供って嫌いなのよぉぉっ!!〜〜んもう、ふんずけてやるっ!!」

「あははっ、男の人の声に戻ってる〜♪」

「〜〜笑ったら悪いわよ…!オカマさんにしかわからない悩みがいっぱいあるんでしょうから…」

「〜〜同情してくれなくて結構よっ!!たとえ愛する『彼』と結婚できなくても、私は『彼』に一生尽くすって決めたんだからぁぁ〜っ!!」

「きゃああ〜っ!!」「きゃああ〜っ!!」


怒れるヴァレリーの黒蝶ハリケーンに吹き飛ばされそうになった、なでしことひまわりは必死に抱き合い、互いのおもしとなって耐えている!

「ホホホッ!これで少しはおとなしくなったかしら♪――さぁ、寄っておいで、墓地に眠りし我が同胞よ!生意気な双子を食っておしまいっ!!」

『――おぉぉぉ…!』

「〜〜やめてぇ〜っ!!」「〜〜パパぁ、助けて〜っ!!」


パリシィの悪霊達に取り囲まれ、なでしことひまわりは怯えながら、ぎゅっと身を寄せ合う…!

「ホホッ、無駄無駄!あなた達のパパはすぐには目覚めないわ。ウッフン♪私が愛してやまない『彼』に世にも怖ろしい呪いをかけられてしまったんですもの〜」

「呪い…!?」

「〜〜お父さんに何をしたの…!?」

「ウフフッ、まー死ぬってわけじゃないから安心なさい。あなた達のパパはね、これから何十年、何百年と年を取らずに眠り続けて、やがて巴里の頂点に君臨する『彼』の器としてふさわしくなった時、再び目を覚ますことになってるの♪」

「『彼』って悪い魔法使いさんね…!?」

「ウフフッ、まぁ『彼』が魔術を教えてるわけだし、正解とも言えるわねぇ。例えるなら、蝶になるまでサナギとして眠り続けるってことよん。まぁ、どうせあんた達が生きている間に目覚めはしないでしょうから、もう一生パパに会えないのは変わらないでしょうけれどねぇ♪お〜っほほほほ…!!」

「〜〜そんな…!?」

「〜〜パパ…、ぐす…っ、そんなのヤダよぉ〜!うわああ〜ん…!!」

「フフ、さぁ、おちびちゃん達〜?お喋りはこれくらいにして、もうおねんねしましょうね〜♪」


ヴァレリーは黒い蝶を集合させて大剣を創ると、なでしことひまわりに向けて振り下ろした…!!

「〜〜いやああ〜っ!!」「〜〜誰かぁ〜っ!!」

――ザシュッ!!

「〜〜何…っ!?」

恐る恐る目を開けたなでしことひまわりは目を疑った!

傷だらけになって黒い蝶の壁を突破したアモスが自分達をかばい、ヴァレリーの大剣を素手で掴んでいたのである…!!

「え…!?」

「〜〜アモス…っ!!」

『――ハァハァ…、この娘達は…、僕が守ってみせる…っ!!』

「〜〜お前、どうやってあの壁を…!?」

『あやめを責めるのに夢中だった君が僕の壁を作っていた蝶も追加で使役してくれただろう?それで壁が薄くなったお陰さ』

「フン、そういうこと。フフッ、誇り高き精霊様にロリコンの趣味があったとはねぇ♪――それとも、前世の記憶がそうさせるのかしら…っ!?」


ヴァレリーは高笑いしながら、アモスの血だらけの手と肩に食い込む大剣をさらに押し込んだ…!

『〜〜ぐあああああっ!う…うぅぅ…っ!!』

「アモス…!!」「アモス…!!」

『〜〜ヴァレリー、もうやめてくれ…。この子達は関係ないじゃないか…』

「あ〜ら、この娘達には『彼』と同じ血が流れているのよ?同時に藤枝の巫女の血もねぇ。強力な霊力が目覚め前に始末するか、洗脳して味方にするかしかないでしょ…っ!?」

『〜〜ぐ…っ!!』

「〜〜もうやめてぇ〜っ!!」「〜〜おじちゃんのバカバカバカ〜っ!!」

「〜〜クソガキがっ!その呼び方はやめろっつってんだろうが――!!」

「――藤枝流奥義・白鳥散華斬!!」

「な…っ!?〜〜ぎゃああああっ!!」


その時、あやめさんが放った白い羽根の衝撃波がヴァレリーを包み、大剣を形作っていた蝶達をバラけさせた…!

「うふふっ、気持ちいいことたくさんしてくれてありがとう、お・じ・さ・ん♪」

「お母さん…!」「ママ〜!」

「〜〜な、何故…!?奴隷に堕ちて、快楽に溺れていたはずでは…!?」

「残念だったわねぇ。あなたのペット達もなかなかのテクニシャンだったけど、やっぱり、うちの一郎君には敵わないわ♪」


あやめさんの視線の先を見やると、無残に斬られた蝶の死骸がたくさん落ちていた。

「〜〜わ、私のパピヨンちゃん達が…!」

「お母さん、よかった〜!」「うわ〜ん!怖かったよぉ〜!!」

「ふふっ、心配かけてごめんなさいね?二人とも、怪我はない?」

「うんっ!」「うんっ!」

「〜〜ぐぬぬ…っ、まさか奴隷に堕ちたフリをしてたとはねぇ…」

「何回もセックスしてくれたお陰で、随分、霊力を高めることができたわ。一週間は巫女の力を惜しみなく使えそうよ♪」

『あやめが時間稼ぎしてくれたお陰で、僕も霊力が回復して、精霊術が使えるようになったよ』

「フフ、さすがは大帝国劇場の副支配人。名演技にまんまと騙されたわ。――さすが『彼』と同じ裏御三家の力…!隼人と並んで、ぜひ手に入れたいものねぇ♪」

「隼人ですって…!?」

「…ああ〜ん、久々に戦ったから、もう霊力が尽きちゃいそ。ウフフッ、ピンチみたいだから逃げちゃおっと♪オ・ルヴォワ〜ル♪」


ヴァレリーは投げキッスをすると、黒い蝶達と共に姿を消した…。

「怪人が裏御三家の血を狙ってるってどういうことかしら…?」

『――うおおぉぉ…!』

『――霊力を食わせろぉぉ…!!』

『〜〜またパリシィの怨霊が集まってきたようだ…。――皆、僕の近くに集まって…!」

「う、うん!」「わかった!」


アモスが自身の霊力で移動用の精霊術を発動させると、強い光の結界に触れた怨霊達は消え去り、あやめさんと俺となでしことひまわりは元の大帝国劇場の支配人室へアモスと共に瞬間移動することができた。

「ここは…!」

「おうちに戻ってこられたんだ〜!わ〜いわ〜いっ!!」

「〜〜一郎君、しっかりして…!!私の声が聞こえる…!?」


あやめさんは俺を抱き起こし、必死に呼びかけてくれるが、呪いにかかったままの俺はピクリとも動かない…。

『『彼』を倒したわけではないので、呪いがまだ解けていないようです…』

「その呪いはどうすれば解けるの…!?」

『ムッシュ大神の体には今、邪気が充満しています。邪気を払うには藤堂の血を引く藤枝の巫女…つまり、あなたの霊力で浄化するしかありません』

「それじゃ、『払いの儀』を行えばいいのね?」

『はい。これだけの邪気を払うのは至難の業でしょうが、他に方法は…』

「わかったわ。〜〜一郎君は私が必ず助けてみせる…!」

「ね〜、ハライノギってなぁに〜?」

「どうやってやるの?私達にも手伝えることあったら言って…!」

「〜〜う〜ん…。気持ちは嬉しいけど、あなた達にはまだ無理ね…。大人になったら教えてあげるわ」

「〜〜ぶ〜…。ひまわり達だってパパのこと心配なのにな〜…」

「〜〜ね〜?」

『――『彼』は彼女と入れ替わっているはず…。万が一肉体を失っても、魂さえ残っていれば…――』

「…彼女と入れ替わっているって?」

『――は…っ!〜〜い、いえ…、何でも…〜〜う…っ!』

「〜〜アモス…!!」

「傷が深いんだから、動いちゃダメよ…!?」

『ハァハァ…、大丈夫…。霊力が回復すれば精霊術で癒せるから…。――それより、君達が無事でよかった…』

「アモス…」「アモス…」


微笑みを浮かべたアモスに頭を撫でられ、赤くなったなでしことひまわりにあやめさんは優しく微笑んだ。

「ふふっ、二人ともおませさんね。――娘達を守ってくれたこと、私からもお礼を言うわ。ありがとう」

『いえ…、僕の封印を解いてくれた恩返しです…』

「それにしても、私とかえでで祠に施した封印をこの子達だけで解いたなんてね…」

「ひまわり達だけじゃないよ!?誠一郎も『きょーはん』だも〜ん!」

「誠一郎君も…!?」

『僕が彼女達の中に眠る霊力を一時的に解放させたんです。……僕には、どうしてもやり遂げなければならないことがあります…。だから、藤枝家の血が流れるこの子達にどうしても封印を解いてもらいたくて…』

「誠一郎の風邪が悪化したのは、具合が悪いのに無理に霊力を使ったせいだと思うの…。〜〜ごめんなさい。私とひまわりが無理矢理、協力させたせいで…」

「そういうことだったのね…」

『〜〜この子達を巻き込むつもりはなかった…。僕の霊力が足りなかったせいです…。どうか責めないであげて下さい…!』

「…わかったわ。娘達を命がけで助けてくれたあなたが嘘をついているとも思えないし、話を信じます。…でも、一言でいいからお母さん達に相談してほしかったわね。あなた達はまだ物事の判断がおぼつかない子供なのよ?今回だって、自分達で勝手に判断したせいで命を狙われる羽目になったの!私とアモスがいたからよかったものの、いつ敵があなた達を狙って罠を仕掛けてくるかわからないでしょう!?」

「でも、アモスを解放してなかったら、パパを守れなかったかもしれないんだよ!?」

「けど、今日の戦いでわかったでしょう?あなた達はまだ戦い方を知らない子供なの…!〜〜お母さんはね、あなた達が危険な目に遭うのを見たくないのよ…!!」

「お母さん…。〜〜う…っ、くすん…」

「〜〜ひっく…、うわああ〜ん!ごめんなさぁ〜い…!!」

「ふふっ、でもね、お父さんを助けたいと思って行動したのは立派だったわ。けど、ここからは本当に危険なの。お母さん達を信じて、任せてくれるわよね?」

「〜〜ぐすっ、はい…っ」「〜〜ひっく…、わかったぁ…」

「ふふっ、おりこうさんね…♪」


あやめに抱きしめられ、泣きじゃくるなでしことひまわりにアモスは自然と笑みがこぼれた。

『――温かい…。これが『愛情』というものなんだね…』

「…教えて、アモス。一郎君を狙う悪い魔法使いの『彼』とは誰なの?」

『〜〜それは…残念ながら、お教えできません…。知れば、きっとあなた方姉妹は苦悩することになるでしょう…』

「私とかえでが…?どういうことなの?」

『〜〜これは僕と『彼』の問題です…。あなた達をこれ以上巻き込みたくないから…』

「何でそんなこと言うの…!?一緒に戦えば勝てるかもって昨日は言ってくれたじゃない…!」

「ひまわり達だって、アモスの力になりたいのに…!」

『……ごめん…。でも、さっきの戦いで思ったんだ。君達が危険にさらされた時、あやめと同じように僕も胸が締めつけられる思いがした…。これがきっと『悲しみ』と『怒り』なんだよね…。〜〜こんな苦しい思い、戦場では足枷になるだけだ…』

「アモス…」「アモス…」

『……悪い魔法使いは大きな魔術を使ったことで相当、霊力を消耗しているはず…。しばらくは君達を襲ってこられないと思う。――その間に僕が必ず…!』


アモスは仮面を被り直すと、大きな七色の羽を出して夜空へ飛び出した。

「あっ、待って…!」「どこ行っちゃうの〜!?」

『さっきの戦いで、僕もたくさん霊力を消耗してしまった…。回復するまでオーク巨樹のゆりかごで眠りにつくとするよ』

「しばらくって、どれくらい〜っ!?」


ひまわりの質問にアモスは仮面の下で笑って返すと、精霊の光のオーラを纏いながら、流れ星のように夜空を飛んでいってしまった…。

「〜〜行っちゃったぁ…」

「また…会えるかしら…?」

「きっと会えるわよ。アモスは優しい人ですもの、大切なお友達を放って、どこかに行ったりしないわ」

「お母さん…。――うんっ、そうよね…!」

「ふふっ、さぁ、もうすぐ夜が明けちゃうから、早くベッドにお入りなさい。誠一郎君のお風邪がうつるといけないから、お母さんのお部屋で寝るのよ?」

「はぁい…。ふわあああ…」「ホッとしたら、眠くなってきたぁ〜…」


あくびをしながら支配人室を出ていくなでしことひまわりを見送ると、あやめさんは真剣な顔で神剣白羽鳥に付いていたヴァレリーの黒い血を神紙で拭い、静かに鞘に収めた。

(――なでしこ、ひまわり、それから誠一郎君…。隼人と藤堂二つの裏御三家の血を引くあの子達には、何か特別な霊力が備わってるのかもしれないわね…)

――じゅん…っ♪

「〜〜ああ〜んっ!ヴァレリーのペット達に責められた影響がまだ…!あふ…ん…っ!ハァハァハァ…。――でも、これから儀式をするのに好都合だわ…」

あやめさんは色っぽく呼吸を乱しながら、邪気のオーラを纏って眠り続けている俺の唇に優しくキスをした。

「――今、かえでと『払いの儀』の準備をしてくるわ。待っててね、一郎君…!」



その頃、アモスは銀座にオープンしたばかりのアンティークショップ『papillon』を緊張した面持ちで夜空から見下ろしていた。

『――『彼』はまだ目覚めたばかり…。今の『彼』なら、小精霊の僕でも封印できるはず…!』

「――来ると思ってたよ、アモス君♪」

「――っ!?」


『彼』の声に囁かれた瞬間、アモスの体は見えない力に引っ張られ、『papillon』の店内に投げ出された…!

「〜〜くそっ、まだこれだけの魔術を使える霊力が…――!?」

真夜中なのに電気もつけない真っ暗闇の中、自分の寝そべっている床に血のように赤く浮かび上がってきた魔法陣にアモスは顔を歪めた…!

『〜〜この魔法陣は…!』

「――『精霊封じ』さ。悪魔が精霊を食い殺し、霊力を奪う為のね…」


奥から黒く目を光らせて歩いてきた金髪のハーフの男にアモスは唯一動かせる目で睨みつけた!

「『彼』、サタンについて調べるうちに、すっかり魔術に詳しくなっちゃってさ〜。僕に色々な黒魔術を教えてくれるんだよね〜♪」

『〜〜主人の失態を尻拭いするのは部下の務め…。頼む…!『彼』と話をさせてくれないか…っ!?』

「…だって〜?どうする〜?――ふ〜ん、あっそ。――『彼』、イヤだって〜♪」

『魔法使いの君には関係ない!これは僕と『彼』の戦いなんだ…!!」

「ははっ、驚いたな〜。この前より、随分『ヒト』らしくなってるじゃないか。もしかして、好きな人間の女でもできた?…それとも、哀れな前世の記憶がぜ〜んぶ甦っちゃったのかな〜」

『〜〜無駄な殺生は好まぬが、邪魔するのであれば、ここで叩き斬る…!』

「おぉ、こわ〜!そんなことしちゃっていいの〜?――『器のコイツを殺しても『私』は死なんぞ…?』」

「――!……その霊力の波長…、『あなた』ですね…」

「『久しいな。前世では『私』の為によく働いてくれた。…どうだ?あの頃のようにまた『私』に仕えてみては?』」

『〜〜心の闇に呑まれ、鬼と化した『あなた』が取り憑いた時点で、この青年はすでに手遅れ…。――ならば、彼を討ち、『あなた』を丸裸にさせるのみ…!!』


アモスが霊力を全解放させると、板を張った床が大きく揺れて割れ、彼の身動きを取れなくしていた魔法陣がバラバラになって、効果を発揮しなくなった…!

「『ククク…、さすがだな。褒めてつかわそう』」

『〜〜ハァハァ…、『あなた』は…いつも僕を可愛がってくれた…。その恩を返す為、鬼の呪縛から解き放ち、極楽へ逝かせて差し上げます…。それがあの子達から教わった『思いやり』というものです…!』

「『ほぉ、あの時と同じように『私』を封印しようというのか?』」

『――御免っ!!』


アモスが精霊術で創った光の刀で青年の体ごと『彼』を斬ろうとした直前に、『彼』の真刀滅却がアモスの左胸に突き刺さり、同時に仮面が縦に二つに割れ、口から血を吐くアモスの苦悶の表情が見て取れた…!!

『ぐはぁ…っ!!〜〜な…んだ…と……!?』

「『フフ…、残念だよ。お前は実に素直な男だった。――そこが命取りになるとも知らず…。憐れな奴だ』」

『〜〜ぐ…っ!うぅぅ……っ、鬼…めぇ……っ!』


アモスは床に血が垂れるほど両手で真刀を握りながら『彼』を睨みつけ、静かに柔らかな光となって消えていった…。

「『――真刀を通じ、『私』の闇の霊力を吸収しながらパリシィ墓場へ逝ったか…。ククッ、お陰でしばらく『彼』に手を下せんではないか…っ!!』」

アモスが消え、残った仮面を『彼』は静かな口調とは反対に荒々しく踏みつぶしていく!!

「『…まぁよい。お前の霊力を辿ったお陰で、『私』の子孫と妻達を見つけることができたのだからな』」

すると、瞬間移動してきた蝶の怪人・ヴァレリーが『彼』にひざまずいた。

「ご報告申し上げます。大神一郎の霊力反応が肉体から感知できませんでした。おそらく、『彼』の魂は今、別の者の肉体に収められているかと…」

「『フッ、アモスの精霊術とやらか…。危険を顧みず、最後まで『彼』を守ろうとしたとは、さすが『私』が認めた家臣だな』」

「…いかが致しますか?」

「『構わん。お前も戦を終え、霊力を消耗しているだろう?『私』もアモスを斬り伏せる際、随分と霊力を奪われてしまってね…。しばらくは出撃できんだろう…』」

「ウフフッ、では、闇の霊力が充填し終える2ヶ月半後の新月に…♪」

「『あぁ。――その時まで首を洗って待っているがいい、大神一郎…!』」


バラバラになったアモスの仮面の欠片を『彼』は拾い上げると、般若のように笑いながら握り潰すのだった…。


「仲直りの魔法〜大神編〜」その4へ

作戦指令室へ