バレンタイン記念・特別短編小説
「バレンタイン・デーの一日」加山×かすみ編〜その4



「――ご協力、感謝致します!」

極寒の海に落ち、さらにマリアさんの必殺技も受けて、ブルブル震えが止まらない犯人2人組は蒸気パトカーで連行されていきました。

「これで一件落着だね」

「『帝国歌劇団、誘拐犯を確保!』明日の朝刊の一面は頂きデ〜スネ!」

「〜〜うぅ…、さ、寒ぃ〜よぉ〜…」

「ほほほ…、心配せずとも大丈夫ですわよ。何とかは風邪を引かないって言うではありませんか」

「〜〜んだとぉっ!?〜〜は…っ、はっくしょん…っ!!」

「ごめんね、カンナ。帰ったら、温かいボルシチを作ってあげるから」

「お〜っ、やったぜぇ…!〜〜はっくしょい…っ!!」

「アイリス、ホットココアが飲みたいな〜!」

「うちはあったかい烏龍茶がええな〜」

「早く帰って、飲みましょ!――それじゃ、私達はこれで…」

「え?あ、あの、皆さん…!?」

「後はごゆっくり〜♪」


私と加山さんの邪魔にならないようにと、花組の皆さんは先に帰ってしまわれました…。〜〜今、加山さんと二人きりにされても、気まずいだけなのに…。

加山さんも私の様子を伺うようにチラチラ見てきます…。

早く謝らないと…!〜〜けど、もし嫌われてしまってたらと思うと、怖くてなかなか切り出せません…。

すると、私の気持ちを察してくれたのか、加山さんがゆっくり口を開き始めました。

「――その…、怪我はなかったか?」

「え、えぇ、お陰様で…。どうもありがとうございました…」

「そ、そっか…。ハハハ…、よかった…!」


一度言葉を交わしてしまえば、あとは不思議と会話が続きます。よかった…!これならいつもの調子で話せそうです。

「でも、どうしたんですか、この飛行機…?」

「あぁ、これ?サニーサイド司令が貸して下さったんだよ」

「サニーさんが…?」

「あぁ。かすみっちに誤解されたままじゃどうしても嫌だったからさ…。無理を言って、日本に一時帰国する許可を頂いたんだ」

「そうだったんですか…。〜〜すみません、私があんな言い方をしたから」

「いや、あれは俺が悪いんだ…!〜〜本当にすまなかった…!誤解をさせるような言い方をしちゃってさ…。プチミントさんとは、きちんとけじめをつけてきたから…!」

「え…?」


〜〜もしかして、加山さん、プチミントさんが大河さんだってこと、ご存知ないのかしら…?

「今日は恋人達にとって、特別な日だろ?だから、ちゃんと俺の想いを直接伝えたくて…。思い切って、日本に来てみてよかったよ。かすみっちにもしものことがあったら俺…、自分を一生許せなかっただろうから…」

「加山さん…」


私は涙をこぼしながら、加山さんに抱きつきました。今までの気持ちをぶつけるように、愛しい彼を強く抱きしめて…。

「〜〜私…、本当はずっと寂しかったんです…。副司令も代理も皆幸せなのに、どうして私だけって、ずっとひがんでて…」

「そっか…。〜〜辛い思いをさせて、本当ゴメン…」

「ふふっ、いいんです。こうして来て下さっただけで私…、とても幸せですから」

「かすみっち…。俺にとって、紐育の皆も帝都の皆と同じくらい大切な仲間なんだ…。けど、また必ず日本に戻ってくるから…」

「え…っ?」


加山さんは私の左手の薬指に私の誕生石であるダイヤモンドの指輪をはめて下さいました。

「ダイヤモンドの意味は『永遠の絆』…。遠く離れていても、俺達の心と絆はちゃんと繋がってるから…」

「加山さん…」

「――結婚しよう、俺が日本に戻ってきたその時に…」

「――はい…!」


加山さんはそう言うと、私を抱きしめて、優しくキスをしてくれました。

一人ぼっちだと思っていたバレンタイン。けど、皆さんとあの幽霊さんのお陰で、最高の一日になりました…!くすっ、ナンシーさんはちゃんと成仏できたかしら?

「――加山さん、そろそろ…」

「良い雰囲気のところ、本当にごめんなさいね〜ん…」

「そうだな…。そろそろ戻らないと…」

「お仕事、頑張って下さいね」

「あぁ、着いたらまた連絡するよ」


永遠の絆…。ダイヤモンドは4月生まれの私に愛の力を与えてくれる。

「加山さ〜ん!今度、紐育に行っても構いませんか?」

「もちろんだとも!紐育の皆で歓迎するよ〜!」


虹組さんの操縦するジェット機が旋回し始めました。離陸する準備に入ったみたいです。

――あっ、そうだわ…!あのことを言い忘れてました…!

「加山さ〜ん!プチミントさんとなら浮気、OKですよ〜?」

「えっ!?な、何で…!?」

「ふふっ、アメリカにガールフレンドがいてももう気にしません。――だって、最後にはきっと私の元へ帰ってきて下さいますから…」

「かすみっち…」

「…それに、『男の娘』なら心配いりませんしね」

「え〜?聞こえないよ〜」

「ふふっ、プロポーズの約束、忘れないで下さいねって言ったんです〜!」

「ははは、わかってるって…!――アディオス、かすみっち…!アイラブユ〜!!」


加山さんと虹組さんを乗せたジェット機は、月が浮かぶ夜空に向かって飛んでいきました。

ダイヤの指輪は月光に反射して、キラキラ美しい輝きを放っています。

もう何も不安なことなんてありません…。加山さん、私、信じてますからね…!

事件が解決して、私と加山さんのやり取りは密かに覗き見していた花組さんと共に私は大帝国劇場に帰還しました。

「え〜?加山さん、帰っちゃったんですかぁ〜?」

「仕方ないでしょ?お仕事で忙しいんですもの。その代わり、近いうちに紐育に遊びに行こうと思って」

「おっ、やっと行動する気になったか〜!」

「ふふっ、えぇ。プチミントさんともお会いしてみたいし」

「あははは!その時の加山さんの顔が楽しみね〜♪」

「私もプチミントさんを間近で見てみたいな〜♪化粧法とか教わりたいし〜」

「〜〜あんたねぇ…、男に習ってどうすんのよ?」

「別にいいじゃないですか〜!」


くすっ、ありがたいことに、由里と椿も私を心配してくれていたみたいです。こういう時、仲間のいるありがたみってわかりますよね。

「――えへへ…、ありがとね、かすみお姉ちゃん」

そこへ、事務室に入ってきた誠一郎君が私に話しかけてきました。

「あら、誠一郎君」

「なでしことひまわりを助けられたのは、かすみお姉ちゃんのお陰だよ…!えへへ…、それに僕、自分にもちょっと自信を持てるようになったんだ…。本当にどうもありがとう…!!」

「〜〜そ、そう…」


〜〜本当は幽霊のナンシーさんのお陰なんだけど…。でも、本当のことを話したら、話がややこしくなるだろうし、怯えちゃうかもしれませんね。

「かすみお姉ちゃん…?どうかしたの?」

「え…?〜〜う…、ううん、何でもないのよ。よかったわね、誠一郎君」


と、私は笑いながらごまかして、誠一郎君の頭を撫でてやりました。

「フフン、モテモテね〜、かすみちゃ〜ん♪」

「〜〜んもう、そんなんじゃないってば…!」

「あ〜っ!かすみさん、指輪してるぅ〜!!」

「えっ!?ちょっと、何よ…!まさか加山さんにもらったの!?」

「ふふっ、えぇ…!プロポーズされちゃった」

「きゃ〜!かすみさん、遂にやりましたね〜!!おめでとうございますぅ〜!!」

「まだ婚約だけよ。加山さんが紐育から帰ってくるまで式は挙げないわ」

「よかったわねぇ〜、30になる前で♪コノコノ〜!」

「〜〜んもう、由里…!?」


また明日から遠距離恋愛の日々が始まります。

でも、この指輪がある限り、どんなに遠く離れていても、加山さんと私は一心同体。ちゃんと私を愛してくれているって安心できますから…。

『――行くなら今がチャンス!さぁ、行こう!自由の国・アメリカへ…!!』

くすっ、この旅行会社のツアーに申し込んで、早速会いに行っちゃおうかしら!

幸せは待ってるだけじゃ掴めない。自分の力で手に入れるもの、ですものね♪

加山×かすみ編、終わり


あとがき

お待たせしました!バレンタイン特別短編小説・全5編のうちの第4弾!「加山×かすみ」編です!!

今回は、加山さんとの遠距離恋愛に悩むかすみさんの乙女心と、幽霊のナンシーとの交流をメインに描いてみました!

最初はシリアスすぎて、ちょっと重かったので、所々にコメディータッチを加えてみたのですが、いかがでしたでしょうか?

月組隊長の加山さんと帝劇三人娘のかすみさんのカップリングをメインの小説を書くのは今回が初です!

この二人のカップリングを応援されている方々からも、いつもたくさんリクエストを頂いているので、今回、皆さんのご期待に少しでも添えたのなら幸いです♪

またこの二人のカップリングで違う短編が書けたらなと思います!

次回、バレンタイン小説最終話の第5弾「新次郎×ラチェット」編ももう少しで完成しますので、どうぞお楽しみに!

次回、遂に全てが一つに繋がります…!!


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