バレンタイン記念・特別短編小説
「バレンタイン・デーの一日」加山×かすみ編〜その2



司令と副司令の視察が終わるまで、私もしばし休憩です。車に寄りかかり、花やしきで遊ぶ人々を見学することにしました。友達同士、カップル、親子連れ…。今日も花やしきは賑い、人々の笑顔で華やいでいます。ふふっ、皆さん、とっても楽しそうです。

そういえば昔、私も加山さんとここに遊びに来たことがありました。あの頃は会いたい時に会えて、出かけたいところに一緒に出かけられて、喧嘩もたくさんしたけど、その度に絆が深まって…。〜〜でも、今は…。……いつも一緒にいられる大神司令と副司令と代理が羨ましいです…。

今は暇だし、加山さんに連絡してみようかしら…?チョコレートが届いたかも気になりますし…。

私がキネマトロンを取り出したその時、丁度、誰かから連絡が入りました。名前を見てみると…――えっ!?かっ、加山さんからみたいです…!!私は急いで車のミラーで前髪をチェックして、胸の鼓動を抑えながら受信しました。

『――よぉ〜、かすみっち!チョコ、届いたよ〜!サンキューな!』

「そ、そうですか。無事に届いてよかったです」


久し振りに聞く彼の声…。ふふっ、もやもやしていた気持ちが少しだけ晴れたような気がします。

『いやぁ〜、久々にかすみっちの手作り料理が食べられて幸せだったなぁ〜。やっぱり、持つべきものは料理上手の彼女だよなぁ〜!うんうん♪』

ふふっ、加山さん、喜んでくれたみたいでよかった…!私の前で見せてくれるその笑顔…。けど、その笑顔は、プチミントさんの前でも見せていたもの…。〜〜いつもと変わらない笑顔なのに、心のどこかでそのことが引っかかってしまいます…。

『ん…?何かあったのか?元気ないみたいだけど…』

「〜〜別に…。そんなことは…」

『フフ…、さては俺が傍にいなくて寂しいんだろう?それで、バレンタインではしゃぐ周りのカップルに嫉妬していたんだな〜?いやぁ〜、かすみっちは本当、可愛いなぁ〜♪」


〜〜嫉妬…?確かにおっしゃる通りかもしれません…。けど、私は周りのカップルより、紐育にいるあの娘一人にその感情が芽生えていて…。

「〜〜気を遣わなくても結構ですよ…。もう可愛いなんて言われる歳でもありませんし…」

『あ、あれ…?そんなにゴキゲンナナメなの?』


〜〜まだとぼけるつもりなんですね…。何だかだんだん腹が立ってきました…!私が知らないとでも思ってるのかしら…!?

「――プチミントさん…、お元気ですか?」

『〜〜え…っ!?ど、どこでその名前を…!?』

「……どこだっていいでしょう…?〜〜何か私に聞かれたらまずいことでも、その娘としてるんですか?」

『〜〜い、いや…!決してそういうことでは…!!』


案の定、加山さんはやけに慌てています…。やっぱり、プチミントさんとは友達以上の関係らしいです…。

〜〜ハァ…、恋人を追い詰めるなんて、私…、嫌な女ですよね…。だから、愛想尽かされちゃったのかしら…?

「〜〜私…、重い女ですか…?毎週連絡寄こせとか…、そういうの鬱陶しいですか…?」

『そんなことあるわけないだろう?どうしたんだよ、かすみっち…?今日はちょっとおかしいぞ…?』

「〜〜おかしくもなりますよ…っ!!」


急に声を荒げた私に加山さんも驚いたみたいです。

「〜〜加山さんは私と付き合っていることを重荷に感じてるんですよね…?だから、隠れてプチミントさんと…」

『〜〜お、おいおい、誤解しないでくれよ…!プチミントさんとはただのお友達だよ!いや、俺はゾッコンなんだけどさ、いつも彼女にかわされてっていうか…』

「〜〜へ〜ぇ、やっぱりゾッコンなんですか…」

『〜〜あっ、べ…、別に変な意味でじゃないぞ!?ただ、ちょっと可愛いな〜って思ってるだけで…。〜〜そう!彼女のただのファンなんだよ…!!』

「〜〜ただのファンなら、どうしてそんなに慌てる必要があるんですか?」

『えっ?〜〜いや…、それはそうかもしれないけど…、かすみっちがそんなに怒るとは思わなくて…』

「〜〜当たり前でしょう!?違う女と親しくしている彼を見て平気な女なんていませんよ…!!」

『〜〜そ…、それはそう…だよな…。ごめんよ、かすみっち…』


〜〜違う…。加山さんを困らせたいわけじゃないんです…。不安な気持ちが次々と押し寄せて、言葉の刃となってしまうのです…。

「〜〜加山さんの気持ち、よくわかりましたっ!どうぞプチミントさんとお幸せにっ!!」

「〜〜えっ!?か…、かすみっち――!!」


加山さんが言い終わらないうちに私は思い切り通信を切ってしまいました。

『違うよ。かすみっちの勘違いだよ』って笑いながら否定してくれることを少し期待してたのに…。加山さん、嘘つくのが苦手な人ですものね…。

〜〜どうしよう…?涙が溢れて止まりません…。お化粧が落ちちゃうし、大神司令と副司令に心配をかけてしまうのに…。

〜〜せっかく加山さんが連絡してきてくれたのに、なんてことしてしまったの…?せっかくのバレンタインなのに、どうしてこうなってしまったのでしょう…?

さっきの言葉だって本心じゃないのに、何であんなひどいこと言ってしまったの…?〜〜加山さん、本気で受け取っていたらどうしよう…?後悔と自己嫌悪ばかりが私を苛めます…。

「――かすみ…?」

そこへ、大神司令と副司令が戻ってこられました。私は背中を向けて急いで涙を拭い、心配かけまいとわざと明るく振る舞いました。

「お…、お疲れ様でした…!」

しかし、それが逆にお二人に不審感を抱かせてしまったみたいです。

「何かあったのかい?悩み事なら相談に乗るよ?」

「〜〜い、いえ…」

「…ちょっと待ちくたびれちゃったのよね?お疲れ様。帰ったら、ゆっくり休んで頂戴ね」

「す、すみません…」


副司令は話したくないという私の気持ちを察して下さったみたいです。ありがたいです…。やはり持つべきものは、女心がわかる優しい同性の上司ですね…!

私はお二人を乗せ、大帝国劇場までまた車を走らせます。

「――ふふっ、すっかり頼もしくなったわね、大神司令見習い君!」

視察が無事に終わり、劇場に帰るまでの道のり。大神司令と副司令は後部座席に乗って、今日の視察のまとめをしているみたいです。ふふっ、仕事熱心な上官を持てて、私も幸せです…!

「米田さんの仕事ぶりを近くでよく拝見していましたからね。それに倣っているだけですよ」

「ふふっ、それだって無能な人がやったら同じようにはできないわよ。優秀なうえに、ちゃんと努力もしてくれているお陰ね」

「ありがとうございます。あやめさんに褒められるのって、やっぱり嬉しいな」

「ふふっ、帰ったら、ご褒美のチョコレートをあげるから」

「ありがとうございます…!楽しみにしてますね」


〜〜ハァ…、いいなぁ…。私も加山さんとこういうバレンタインを迎えたかったです…。

そこへ、大神司令のキネマトロンが鳴り出しました。

「ん…?さくら君からか…。――どうしたんだい?」

『お疲れのところ申し訳ありません…!実は買い出しをちょっと頼みたくて――』


大神司令が自分以外の女性と喋っているのを目にすると、副司令は未だに嫉妬してしまうみたいです…。ふふっ、優秀な副司令もやっぱり普通の乙女なんですよね。それがわかって、ちょっと安心しました…!

「――わかった。これを全部買ってくればいいんだね?」

『すみません、助かります…!では、よろしくお願いしま〜す!』

大神司令は通信を切って、びっしりメモした紙を見て、苦笑しました。

「〜〜はは…、今から買い出しか…」

「ふふっ、司令になってもこき使われて大変ね。私も一緒に行きましょうか?」

「いえ、あやめさんもお疲れでしょうし…。大した量じゃありませんから、大丈夫ですよ」

「そう?もっと大神君と一緒にいたいのにな…」

「あやめさん…」


大神司令は微笑むと、副司令の頬に軽くキスをした。

「子供達とチョコの続きを作るんでしょう?帰ってきたら食べさせて下さいね」

「ふふっ、了解!」


副司令は大神司令にそのまま唇にキスされた。

私は照れながら、チラチラとバックミラー越しにその様子を観察します。〜〜お二人とも、私がいること、すっかり忘れてるみたいです…。

「――あ…、そこで降ろしてもらえるかな?」

「あ…、はい…!」


ボーッとしていた私が慌てて車を止めると、大神司令は降りた。

「帰りは歩いて帰るから、そのまま劇場に戻ってくれて構わないよ」

「わかりました」

「気をつけてね。暗くなると男の子でも危ないから…」

「ありがとうございます。お土産買って帰りますね」

「あん、待って、大神君…!」


副司令は窓から身を乗り出すと、もう一度大神司令にキスされました。

「あ、あやめさん…」

大神司令は照れながらも、嬉しそうに笑いながら唇を押さえました。

「ふふっ、チョコレート、楽しみにしててね!」

副司令が大神司令に手を振ると、私は再び車を走らせました。〜〜お二人には申し訳ないのですが、これ以上目の前でラブラブされると、今の私にとっては精神的に苦痛というか…。

でも、副司令ったら、とても幸せそうなお顔で何か考え事をされています。きっと、大神司令に渡すチョコレートのことでしょうか…?

今は副司令と二人きり…。これは加山さんとのことを相談できるチャンスでしょうか…?思い切ってお話してみようかしら…?

「――あの…、副司令?」

「ん?どうかした?」

「その…、好きな人とずっと仲良くやっていくコツってあるんでしょうか?」

「ふふっ、加山君と喧嘩でもしたの?」

「〜〜は、はぁ…」

「そう…。だから今日は元気がなかったのね…」


〜〜あぁ…、上官にまで心配をかけてしまうなんて、私ってば駄目ね…。

「〜〜申し訳ありません。最近、不安になって、電話や手紙で束縛してしまうことが多くて…。私、今でもちゃんと加山さんに愛されてるのかなって…。〜〜由里の話だと加山さん、紐育に違う彼女がいるみたいですし…」

「まぁ、それってどんな娘?」

「金髪の日系人で、確か芸名はプチミントとかいう…。〜〜私なんかより、若くて可愛い娘で…。やっぱり男の人は遠くにいる彼女より、近くにいる娘と仲良くする方が楽しいに決まってますよね…」

「その娘、本当に加山君の彼女なの?本人に直接確かめてみたらいいじゃないの」

「〜〜もう確かめてみましたっ!けど、思いっきり動揺してたので、多分、本当だと思います…」

「――ねぇ、かすみ、本当に加山君を愛しているのなら、まずは彼のことを信じてあげないといけないんじゃない?」

「ですが、加山さんってプレイボーイっていうか…。私と付き合う前から色々な女の子に声をかけまくっていたみたいですし…、それに、帝撃にいた頃も花組さんや私達のお風呂をすぐ覗こうとしてましたし…。〜〜私とのことも、もしかしたら遊びなんじゃないかなって…」

「でも、そんな加山君があなたは好きなんでしょう?」

「え…?それは…そうですけど…」

「なら、好きな人のことをもっと理解してあげなくちゃ。加山君は確かにプレイボーイかもしれないけど、あれはあれであの子のキャラっていうか…。あの子はただのお友達感覚で女の子に声をかけているだけかもしれないし。何て言ったらいいのかな…?あなたといる時の彼、とってもピュアに見えるのよね」

「え…?」

「ふふっ、私から見たら、加山君があなたに取る態度と他の娘に取る態度が違って見えるのよね。本当はピュアで恥ずかしさを隠す為にわざと遊び人に見せかける子だっているんだから」

「加山さんがそのタイプだと…?」

「まぁ、あくまで私の勘だけどね。まずは信じてあげること。今は気持ちが浮ついていても、最後にはきっと自分の所へ帰ってきてくれるって…。若い男の子だから、遊びたい盛りなんじゃないかしら?その証拠に、あんなに真面目な大神君だって、私だけじゃ飽き足らずにかえでにまで手出しちゃったわけでしょ?」

「ふふふっ、確かにそうですね」

「ふふっ、でしょう?浮気を承諾しろとは言わないけど、逆に怒ってもっと束縛するようになったら、相手も自分も辛くなるだけですもの。加山君もあなたがいなくて、寂しい思いをしてるんじゃないかしら?これからは電話やキネマトロンがかかってくるのを待つだけじゃなくて、もっと積極的に行動してみたら?例えば、紐育に実際に行ってみるとか…!」

「〜〜で…、でも、そんなことしたら皆さんにご迷惑が…」

「ふふっ、確かにあなたが不在だと色々不便なこともあるでしょうけど、だからと言って、あなたをずっと束縛しておくのも心苦しいわ。それに、恋する乙女心は私達皆、わかるつもりですもの。私達皆、あなたを応援しているわ…!」

「副司令…」

「ふふっ、頑張ってね…!」

「ありがとうございます…!」


もっと積極的に…か。そうですね。今まで私はただ待つばかりでした。誕生日やクリスマスやバレンタインにプレゼントやチョコレートを贈る以外、自分からは何も行動しようとしていなかったし、加山さんからの連絡が遅れると、イライラして不安に駆りたてられて…。『連絡したい時に連絡して、きちんと自分の言いたいことや気持ちを伝える』…。こんな当たり前なことをどうして今まで気づかなかったんでしょうか…?

副司令とお話しているうちに、だんだん不安が取り除かれていったような気がします。思い切って相談してみて、よかったです…!

私は副司令を大帝国劇場まで無事に送り届け、事務室に戻りました。

「ただいまー」

「あっ、帰ってきましたよ…!」

「かすみ!大ニュースよ、大ニュース…!!あのプチミントとかって娘の正体、女装した大河さんなんですって…!!」

「え…?」


〜〜じょ、女装…?

「ほら!証拠の写真…!!」

月組の隊員が撮った物なのでしょうか、大河さんがプチミントさんの服に着替えている様子を写した盗撮写真を由里は見せてくれました。

「〜〜ほ…、本当に大河さんだわ…!」

「でしょ〜!?信じられないわよねぇ〜。ここまで女装が似合う男子なんて、そうそういないわよ…!」

「まさか大河さんに女装癖があったなんてねぇ…。でも、よかったですねぇ、かすみさん!これで加山さんを取られる心配はありませんねっ!」


〜〜私、とんでもない誤解をしちゃってたみたいです…。そうとも知らず、私ったら、加山さんにひどいことを…!早く謝らなくては…!!

私は席に着いて、加山さんにキネマトロンで連絡を試みました。しかし、何度連絡しようとしても加山さんのキャメラトロンに繋がりません…。電源を切ってしまっているのでしょうか?それとも、私の名前を見て、わざと出ないのか…。

〜〜当たり前ですよね…。加山さんの話をよく聞かずに、あんなひどいことを言ってしまったんですもの…。〜〜加山さん、きっと怒ってるんだわ…。あぁ…、どうしましょう…!?今さら謝っても、もう遅いのでしょうか…?

『――う〜ら〜め〜し〜やぁ〜…』

え…?な、何…!?突然、異質な何かが私の体の中に入ってきたのです。

〜〜苦しい…!息ができない…!!まるで水の中に頭を押し込まれたみたいな…。

『ふふふっ、バレンタインなのに寂しい女、今度こそ発け〜ん♪』

――寂しい女…?私が…?〜〜そう言われても仕方ありませんよね…。人の幸せを羨んで、早とちりして彼を怒らせて…。

あぁ…、意識がだんだん薄れていきます…。〜〜助けて…、加山さん!

「かすみ…?どうかしたの…?」

「――『うふふっ、やっと体が手に入ったわ〜♪さぁ、協力してもらうわよ〜!』」


きょ、協力って…!?〜〜あっ、体が勝手に動いて…!駄目よ…!これから伝票整理しないといけないのに〜…!!

「〜〜か、かすみさん…!?どこ行っちゃうんですかぁ〜!?」

「〜〜加山さんに会えない寂しさで、とうとうイカれちゃったのかしら?」


――ジリリリリ…!

私が出て行った直後、事務室の電話が鳴り出しました。

「こんな時間に電話…?――はい、大帝国劇場・事務室です」

『――クククッ、支配人と副支配人に伝えな。お前らの大事な娘達は俺達が誘拐したとな…!』

「〜〜な…っ、何ですって…!?」


劇場が誘拐事件で大騒ぎになりつつある中、憑依された私は幽霊の思うまま外へ出て、フラフラさまよい始めました。

〜〜体の自由が利かないので、抵抗もできません…。かろうじて、意識が保てているだけです…。何とか幽霊を体から追い出したいものですが、私は花組さんと違って霊力はほとんど持っておらず、それも難しいでしょう…。〜〜けど、私だって帝国華撃団の一員です…!このまま幽霊の好きにさせるわけにはいきません…!!

必死に抵抗しようとする私を嘲笑うかのように、幽霊の声が心の中で聞こえてきました。

『そんなに心配しないでって!目的を果たしたら、すぐ体返してあげるからさ〜』

(目的…?〜〜一体何をするつもりなの…!?)

『ついてくればわかるって!――ほら、見えてきた…!』


抵抗する間もなく、私は隅田川の川原にフラフラ辿り着きました。

(こんな川原に何の用があるの…?)

『ちょ〜っと落し物をね〜。ふふふっ、肉体さえあればこっちのものよ!これでやっと掴めるわ…!』」

(掴む…?何を…?〜〜あ…っ!)

『え〜っと確かここら辺に…。〜〜う〜ん…、暗くて見えづらいわねぇ。人間の体って結構不便だわ…』


幽霊は私の体を操って、川原に這いつくばるように落ちているはずの物を探します。しばらくして、幽霊はキョロキョロと辺りを見回すと、泣きそうな声を発しました。

『〜〜ない…!指輪がな〜いっ!!』

(指輪…?)

『〜〜青いガラス玉がついた指輪よぉ〜!!私の指輪はどこ…!?どこにいってしまったの〜!?』

(ガラス玉って…、それっておもちゃの指輪なの?)

『〜〜おもちゃじゃないわ!!ダーリンがくれた、れっきとした婚約指輪なのに〜…!!』


幽霊の女性の悲愴感が私の心に伝わってきます…。その指輪を失くして、本当に悲しそうです…。きっと、その指輪を失くしたせいで、成仏できないのかも…。

『あぁ〜、きっと悪い人に持ち去られてしまったんだわ…。私ったら、どこまで不幸なの〜?およよよよ〜…』

(――ねぇ、その指輪を取り戻せたら、私の体を返してくれる?)

「『もちろんよ!あなたの体で悪行を積んだり、あなた自身を呪い殺すつもりなんて毛頭ないから♪』

(〜〜こ、怖いことサラリと言わないで〜…!)

『あはは、ごめんごめん!でも、指輪を取り戻すまでは、とことん付き合ってもらいますからね〜!悲愴感の波長とフィーリングが私にピッタリ合う体なんて、多分もう見つからないもの』

(悲愴感の波長とフィーリング…?)

『そうよ。それが近い人ほど乗り移りやすいってわけ!まぁ、人間だから知らないのも当然か。幽霊の間では常識よ!あ〜、10年待った甲斐があったわ〜!さっき、もう一人フィーリングが合いそうな女を見つけたんだけど、彼氏が来て、悲愴感の波長が狂っちゃってさ〜。乗り移り損ねちゃったのよね〜』

(〜〜そ、そうなの…。それにしても、10年もさまよっていたなんて…)

『すごいでしょ?大変だったんだから〜!子供や野良犬が指輪を持っていかないように見張って、脅したりさ〜。けど、ちょ〜っと目を離した隙に持ってかれちゃったみたい…。指輪の気配を辿れば何とかなるかも…』

(気配なんてわかるものなの?)

『ふっふっふ…、何故か自然にわかっちゃうのよね〜!幽霊の特殊能力ってやつかしら?』

(〜〜あなた…、幽霊なのに、さっきから妙に明るいわね…)

『あ、それ、他の幽霊からもよく言われるのよね〜!もう死んでるから怖い物はないっていうか〜!死んだことにいつまでも嘆いていても生き返るわけでもないじゃん?どうせさまようなら、楽しみながらの方が得だしね〜』

(〜〜そ、それはそうかもしれないけど…)

『でしょ?――あっ、こっちの方から気配がするわ!行ってみよ〜!!』


〜〜わ、悪い人ではなさそうですけど…、このまま彼女に体を預けるのが不安になってきました…。


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