バレンタイン記念・特別短編小説
「バレンタイン・デーの一日」〜なでしこ&ひまわり誠一郎編〜その3



僕はかすみお姉ちゃんと一緒に帝鉄に乗って、「つきじ」まで連れていってもらうことになった。

「――さっきの話の続きだけどね…」

「『ん?』」

「こんなこと思ったらいけないんだろうけど…、なでしことひまわりが死んじゃうのは嫌だけど、幽霊になって僕の傍にいてくれるんなら、それでもいいかなって…」

「『え…?』」

「だって、その方がずっと一緒にいられるだろ?生きてても死んでても、なでしことひまわりに変わりはないしさ…。そりゃ、できれば一緒に大人になりたいけど…。――かすみお姉ちゃんはもし、加山のお兄ちゃんが死んじゃって、幽霊になってずっと一緒にくれるようになったら、嬉しい?」

「『〜〜そんなこと…、ありえないわ…。幽霊を見て怖がらない人なんて、いないに決まってるもの…』」

「かすみお姉ちゃん…?」

「『……もうすぐ乗り換えよ。降りましょう…』」

「あ…、うん…!」


どうしてだろう…?かすみお姉ちゃん、とっても悲しそうな顔してる…。加山のお兄ちゃんのことを話したせいかな…?

「『――Wow!ここみたいねぇ〜!!』」

「〜〜えぇ〜っ!?」


かすみお姉ちゃんに連れられて、父さんと母さん達がいるという倉庫までやって来ると、その倉庫は何と火の海に包まれていた…!!

「〜〜かっ、火事…!?大変だ…!!父さん達、皆、中にいるんだよね…っ!?」

「『――指輪の気配…!やっぱり、あの娘達が持ってたのね…!!』」

「〜〜今は指輪のことなんてどうだっていいだろう!?それより、早く火を消さないと――!!」

「『〜〜どうでもよくないわよ…っ!!』」

「え…っ?うわあああああっ!?」


かすみお姉ちゃんは僕を抱えると、人間とは思えないジャンプ力で倉庫の2階の窓を突き破って侵入した。

「〜〜な…っ、なななな…!?」

「『〜〜指輪が灰にでもなったら大変だわ…!早く消火しないと…!!』」


かすみお姉ちゃんは切られているスプリンクラーのスイッチを入れようとしてるけど、通路が狭くて手が届かないみたいだ…。

「『〜〜んもぉ〜、肉体があるというのも不便なものね…』」

「え?」

「『子供の君なら押せるはずよ!早く入れてきてっ!!』」

「えぇっ!?ぼ、僕が…!?〜〜うわあああっ!!」


かすみお姉ちゃんに背中を突き飛ばされ、僕は通路の奥まで転がってしまった。

「えっと…、ど、どのスイッチを押せばいいの…!?〜〜わああっ!!」

2階の僕達のいる所まで火と煙が回ってきた…!

「〜〜けほっ、ごほっ…、む、無理だよぉ…!前が全然見えない…!!」

「『勇気を出して!このままだと君の大切な人達が皆、死んじゃうよ!?』」

「〜〜そ、それは…」

「『まぁ、私は幽霊仲間ができて嬉しいけどね〜♪』」

「〜〜な、何わけわかんないこと言ってんだよぉ!?〜〜けほっ、ごほっ…!」

「〜〜お母さ〜ん…」

「〜〜パパぁ、熱いよぉ〜」

「心配しなくても大丈夫よ」

「お前達はお父さん達が絶対に守るからな…!」


なでしことひまわり、それに、父さんとあやめおばちゃん達の声も聞こえる…。〜〜皆、閉じ込められてるみたいだ…。

――そうだ…!今、皆を助けられるのは僕しかいないんだ…!!

「〜〜僕は父さんの息子なんだ…!――勇気を出せば、できるんだぁぁっ!!」

僕は熱い火の中を無我夢中で突き進み、手探り状態でスイッチを入れた。すると、スプリンクラーが作動する音が1階から聞こえてきた。

「や、やった…!」

「『――ハッ、指輪…!!』」

「〜〜えっ!?ちょ…っ、待って…!置いていかないでよぉ〜…!!」


かすみお姉ちゃんは急いで1階に下りると、スプリンクラーの水で発生された水蒸気と煙に紛れながら、なでしことひまわりの前に姿を見せた。

「かすみさん…?」

「〜〜違う…!その人、かすみお姉ちゃんじゃない…!!」

「え…っ!?」


かすみお姉ちゃんは、なでしことひまわりの元へまっすぐ向かうと、2人の背丈に合わせて屈んで、にっこり微笑んだ。

「『――ねぇ、指輪を返してもらえるかな?』」

「え…?」

「〜〜ひ、ひまわり…!」

「う、うん…!――指輪ってこれのこと…?」

「『そう、これよ…!やっと戻ってきたわ…。――どうもありがとう…』


そう言い残して、かすみお姉ちゃんは気を失って倒れてしまった。

「〜〜い、一体なんだったの、兄貴…?」

「〜〜わ、わからないわ…。けど、邪魔されたことは確かなようね…!」


オカマになっちゃった誘拐犯2人組は、気絶しているかすみお姉ちゃんを人質に取ると、ナイフを首に突きつけた。

「〜〜しまった…!」

「〜〜かすみさん…!!」

「動かないでっ!この女がどうなってもいいの…!?」

「〜〜卑怯な…っ」

「さぁ、早く逃げるわよ…!」

「OKよ!兄貴!!」


誘拐犯2人組はかすみお姉ちゃんを人質に取ったまま、火が消えた鉄材の上をすばしっこく乗り越えて、倉庫の外に逃げ出した。

「〜〜船で逃げる気やで…!」

「させるかよ…!――行くぞ、皆!!」

「おーっ!」

「後は私達にお任せ下さい!」

「大神さん達はなでしこちゃんとひまわりちゃんを…!」

「わかった…!」

「頼んだわよ、皆!」

「気をつけてね…!」

「了解!」「了解!」


さくらお姉ちゃんとマリアお姉ちゃんは凛々しく敬礼すると、犯人達を追いかけていった。

それと入れ替わるように、僕はやっとの思いで1階に下り、なでしことひまわり達に駆け寄った。

「〜〜なでしこ、ひまわり…!大丈夫…!?」

「誠一郎…!?」

「どうしてここに…!?劇場に帰りなさいって言ったでしょう!?」

「〜〜ご、ごめんなさぁい…。けど、かすみお姉ちゃんが連れていってくれるって…」

「かすみが…?」

「もしかして、さっきの幽霊が…」

「えぇ、なでしことひまわりが持っていた指輪を取り戻しに来たついでに、私達を助けてくれたのね」


〜〜幽霊…!?えっ!?さっきまでここにいたの…!?ハァ…、僕が来る前に成仏してくれてよかったよ…。

「ありがとう、誠一郎君。スプリンクラーを動かしてくれたのも誠一郎君なんでしょう?」

「う、うん…。かすみお姉ちゃんに言われてね…」

「うそ〜っ!?すっご〜い、誠一郎!」

「偉かったわよ、誠一郎!」

「お前がいなかったら父さん達、どうなってたことか…。ありがとな」

「誠一郎、だ〜い好き!」

「えへへ…」


父さんと母さん、あやめおばちゃんになでしこ、それに、ひまわりまで褒めてくれた!えへへ、勇気を出して頑張ってみて、本当によかったな!

事件が解決して、僕達は大帝国劇場に帰った。犯人のおじさん達も捕まったし、かすみお姉ちゃんも無事でよかった…!

僕は事務室で由里お姉ちゃんと椿お姉ちゃんと喋っているかすみお姉ちゃんに話しかけてみた。

「――えへへ…、ありがとね、かすみお姉ちゃん」

「あら、誠一郎君」

「なでしことひまわりを助けられたのは、かすみお姉ちゃんのお陰だよ…!えへへ…、それに僕、自分にもちょっと自信を持てるようになったんだ…。本当にどうもありがとう…!!」

「〜〜そ、そう…」

「かすみお姉ちゃん…?どうかしたの?」

「え…?〜〜う…、ううん、何でもないのよ。よかったわね、誠一郎君」


と、かすみお姉ちゃんは僕の頭を撫でてくれた。

いつの間にかいつものかすみお姉ちゃんの雰囲気に戻ってるみたいだな…。それにしても、さっきは何でかすみお姉ちゃん、あんなに過激だったんだろう…?

「フフン、モテモテね〜、かすみちゃ〜ん♪」

「〜〜んもう、そんなんじゃないってば…!」

「あ〜っ!かすみさん、指輪してるぅ〜!!」

「えっ!?ちょっと、何よ…!まさか加山さんにもらったの!?」

「ふふっ、えぇ…!プロポーズされちゃった」

「きゃ〜!かすみさん、遂にやりましたね〜!!おめでとうございますぅ〜!!」

「まだ婚約だけよ。加山さんが紐育から帰ってくるまで式は挙げないわ」

「よかったわねぇ〜、30になる前で♪コノコノ〜!」

「〜〜んもう、由里…!?」

「――え〜っ!?かすみお姉ちゃん、加山のお兄ちゃんと結婚するの〜!?」

「おめでとうございます、かすみお姉ちゃん…!」

「ありがとね、なでしこちゃん、ひまわりちゃん」


いつの間にか、なでしことひまわりも事務室に入ってきていたみたいだ。

「ねぇ、誠一郎、聞いた!?かすみお姉ちゃん、加山のお兄ちゃんと結婚するんですって…!」

「〜〜そ、そうみたい…だね…」

「あ〜っ、誠一郎、ガッカリしてる〜!もしかして、かすみお姉ちゃんのこと好――」

「〜〜そっ、そんなんじゃないよ…っ!!」

「あはははっ、赤くなってる〜!」


〜〜うぅ〜…、やっぱり、ひまわりは意地悪だ…。

「――ここにいたのね、あなた達…!?」

「〜〜ゲッ!?」


そこへ、母さんとあやめおばちゃんがおっかない顔で、僕となでしことひまわりの前に仁王立ちして現れた。

「ふふっ、お説教がまだだったわねぇ?」

「ちょ〜っとこっちにいらっしゃ〜い…!」

「〜〜うわ〜ん…!!」

「〜〜助けて〜、椿お姉ちゃ〜ん!!」

「〜〜あははは〜…、頑張ってねぇ〜」


僕となでしことひまわりの3人は、2階の寒い廊下に正座させられた。

「――話は花組のお姉ちゃん達から聞かせてもらったわ。売ったお金でお父さんへのプレゼントを買おうとしてたってこともね…」

「それで、落ちている指輪を勝手に売ろうとしたのね?」

「〜〜だって〜、パパにネクタイ買ってあげたかったんだも〜ん!!」

「チョコレートはお母さんと一緒に作ったものだから、どうしても私達だけでお父さんにプレゼントしたかったの…。私もなでしこも子供だけど、お母さんやかえでおばちゃんと同じくらいお父さんのことが大好きなんだもん…!!」

「なでしこ…、ひまわり…」

「ありがとな、なでしこ、ひまわり。気持ちはとても嬉しいよ。けど、そのせいでお前達が危険な目に遭うのは、お父さん…とっても悲しいな…」

「〜〜ごめんなさぁい…」「〜〜ごめんなさぁい…」

「落とし物をネコババしたり、知らない人の車に乗ったり…。そういうことはしちゃいけないって、前から約束してたわよね?」

「〜〜乗ったんじゃないもん!乗せられたんだも〜ん!」

「同じことです!お母さん達が助けに行けたからよかったけど、下手したら、死んじゃってたかもしれないのよ?」

「誠一郎もそうよ!危ないから行っちゃ駄目って母さん、言ったわよね?」

「〜〜ごめんなさぁい…」


〜〜うぅ…、活躍したのに結局怒られる運命なんだな、僕って…。

まぁ、しょうがないよね…。言いつけを守らなかった僕も悪いもん…。

「ぶ〜、でも、火が消えたのは誠一郎のお陰じゃん!」

「子供が口応えするんじゃありません!」

「まぁまぁ、あやめさんもかえでさんも…。3人とも反省しているみたいですし…。こうして皆、無事だったわけですから、いいじゃないですか」

「……まぁ…、それもそうね…」

「わ〜い!パパ、だ〜い好き!!」

「大好き〜!!」

「ありがとう、父さん!」

「ふふっ、まったく…、大神君は甘いんだから」

「ハハ、今日は3人ともよく頑張ったもんな…!」

「ふふっ、さぁ、もう遅いから寝なさい」

「あ〜ん、待って〜!チョコまだ渡してないよ〜!!」

「あら、そうだったわね。それじゃあ、3人で渡しましょうか」

「うんっ!――はい、お父さん!」

「ママとひまわりとなでしこで作ったんだよ〜!」

「おっ、すごいな…!とても上手に作れたな。どうもありがとう」

「えへへ〜!」

「ねぇねぇ、美味しい?」

「あぁ、とっても美味しいよ」

「やった〜!」「やった〜!」


えへへっ、父さんに喜んでもらえてよかったね、なでしこ、ひまわり!〜〜ハァ…、僕もチョコ、欲しかったんだけどな…。

その後、母さんとあやめおばちゃんは、僕達の部屋である屋根歌部屋で僕達3人を寝かしつけた。

「――ふふっ、この子達も日に日に成長していってるのね。今日のことでよく思い知らされたわ…」

「…あとは私に任せて、大神君の部屋に行ってくれば?〜〜今晩は姉さんの番なんだし…」

「ふふっ、言葉とは裏腹に随分、不服そうな顔だけど?」

「〜〜当たり前でしょ…!?私のことなんて気にしないで…。……今日は色々、姉さんに申し訳ないことしちゃったし…ぶつぶつ…」

「ん?なぁに?」

「〜〜何でもないわよっ!ほら、さっさと行ったら?」

「いいわよ。じゃあ、今夜は一緒に行きましょうか?」

「え…?ど、どうして…」

「ふふっ、だって、今夜は3人で楽しみたい気分なんですもの♪」

「〜〜な…っ!?何言ってるのよ…!?」

「こぉら、大きな声出さないの!まぁ、あなたが断るなら仕方ないけど…」

「〜〜こっ、断るなんて言ってないでしょ…!?――私も一緒に行きたい…」

「ふふっ、良い子ね〜♪さぁ、早く行きましょ!」

「〜〜んもう、絶対からかってるでしょ…!?」


母さんとあやめおばちゃんは、僕達を起こさないように静かにドアを閉めた。

母さん達が部屋を出て行くと、狸寝入りをしていた僕となでしことひまわりは、ニヤニヤしながらこっそりベッドから起き上がった。

「えへへっ、ママとかえでおばちゃん、仲直りできてよかったね〜!」

「ふふっ、お母さん達自身、結構楽しんでるみたいだったけどね」

「〜〜う〜ん…、喧嘩なのに何で楽しいの…?」

「ふふ〜ん、ま〜、男の誠一郎にはわかんないかもね〜♪」

「〜〜なっ、何だよぉ〜、ひまわりの意地悪…っ!」

「うふふふっ、はいはい、喧嘩はそこまでよ。――ほら、ひまわり」

「…ぶ〜、わかってるよ〜。――これ、あげる…」


と、ひまわりはぶっきらぼうに、なでしこは優しい笑顔を浮かべて、僕にチョコレートの箱をくれた。

「えっ?ぼ、僕にもくれるの…!?」

「もちろんよ。誠一郎にあげる為に余分に作っておいたんだから…!」

「誠一郎も子供だけど、一応、男の子だしね〜。すねられても困るしさ〜」

「なでしこ…、ひまわり…。ぐすん…、えへへっ、どうもありがとう…!2人とも大好きだよ…!」

「ふふふっ、私達も誠一郎のこと、だ〜い好きよ!――ね、ひまわり?」

「まぁ…ね。――えへへっ、今日のあんた、ちょっと格好良かったよ…!」

「ひまわり…」


えへへっ、チョコを貰うのってこんなに嬉しいものだったんだな…!

かすみお姉ちゃんにはああ言っちゃったけど、やっぱり、なでしことひまわりがずっと生きたまま傍にいてくれた方が嬉しいや…!

「ねぇ、明日、お父さんのネクタイ、3人で買いに行きましょうよ!」

「うんっ!」

「賛成〜っ!」


えへへっ、明日も良い一日になりますように…!

今夜は嬉しいから、もう少しだけ夜更かししちゃおうかな。えへへ…、父さんと母さんには内緒だよ…♪

なでしこ&ひまわり&誠一郎編、終わり


あとがき

バレンタイン特別短編小説・全5編のうちの第3弾!「なでしこ&ひまわり&誠一郎」の子供達編です!!

大神さんとかえでさんの息子の誠一郎君をメインに、子供達それぞれのバレンタインの一日を描いてみました!

さらわれたなでしこちゃんとひまわりちゃんを助けようとする誠一郎君。そんな誠一郎君にチョコをあげるなでしこちゃんとひまわりちゃん。

子供達の友情物語を本格的に書いたのは今回が初めてだったのですが、いかがでしたでしょうか?

子供目線だと、何だか童心に返れて、私も書いていて楽しかったです!

大神さんとあやめさんとかえでさんの子供達を思いやる親心にも注目して下さると嬉しいです!

次回、第4弾「加山×かすみ」編もお楽しみに!

紐育にいる加山さんとの遠距離恋愛に悩む、かすみさんの恋心がメインです!謎の陽気な幽霊の正体も徐々に明らかに…!?


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