バレンタイン記念・特別短編小説
「バレンタイン・デーの一日」〜なでしこ&ひまわり誠一郎編〜その1



今日は2月14日。

かえで母さんとあやめおばちゃんは朝からとっても張り切っている。

僕・大神誠一郎にはよくわからないけど、女の人にとって、今日はとっても大切な日なんだって。

「わぁ〜、お母さん、とっても綺麗よ〜!」

「えへへっ、お父さんも惚れ直しちゃうね!」

「ふふっ、ありがとう」


そういえば今日、なでしことひまわりも、あやめおばちゃんと一緒に父さんにチョコレートを作るって言ってたな…。ちゃんと僕の分も作ってくれるかなぁ?

「――お母さん、遅いわね〜」

「ね〜?何やってるんだろ?――あっ、かえでおばちゃん、おはよ〜!」

「おはようございま〜す!」

「おはよう。ママは当分出てきそうにないから、誠一郎とでも遊んでらっしゃい」

「でも、ここで待っててって言われましたから…」

「〜〜まぁ、好きにすれば?あの様子じゃ、2〜3時間は出てこないと思うけどね…っ!」

「え〜!?ママ、パパと何してるの〜!?」

「ふふっ、自分達の目で見てみれば?じゃあね〜」


と、母さんはイライラしながら、廊下を歩いていってしまった。

「〜〜かえでおばさん、何だか怒ってたわね…」

「ママと喧嘩でもしたのかなぁ?…パパとママ、何やってるんだろう?ちょっと見てみようか?」

「〜〜ダメよ、ひまわり…!」

「えへへっ、ちょっとだけだよ〜」


なでしことひまわりは、ドアの隙間からそっと覗いて、父さんと母さんの様子を探ってみた。

「――あっ、あんっ、大神くぅ〜んっ!!」

「可愛いですよ、あやめさん。そんな反応されたら、もっともっといじめたくなっちゃうじゃないですか…!」

「ふふっ、もう充分でしょ?〜〜あはぁんっ!」

「駄目です。まだ帰しませんよ」

「ふふっ、もう…、しょうがない子ねぇ――」

「――う〜ん…、パパとママ、裸で何やってるのかなぁ?」

「よくわかんないけど、邪魔しちゃダメよ。かえでおばさんの言う通り、お母さんが出てくるまで誠一郎と遊んでましょ!」

「だね〜!」


同じ頃、僕は中庭で犬のフントと遊んでいた。

「――あははっ、それっ!取ってこい、フント…!!」

「ワンッ!」


フントは僕の投げたボールを口でキャッチすると、すぐに僕に持ってきてくれた。

「あははっ、よしよし…。フントはお利口さんだね!」

「ワンッ!」


僕に撫でられて、フントも嬉しそうに吠えてくれた。えへへっ、フントと遊んでいると、とっても楽しいや!

すると、母さんも中庭にやってきた。

「――あっ、おはよう、母さん!」

でも、母さんの顔はちょっと暗い…。〜〜っていうか、イライラしているみたいで、ちょっと怖い…。どうしたんだろう?何かあったのかな…?

「ねぇ、父さん、知らない?今日、キャッチボールする約束してるんだ〜!」

「お父さんなら、部屋であやめおばちゃんとイチャイチャしてるわよ」

「…?イチャイチャってなぁに?」

「〜〜ハァ!?」

「〜〜ひ…っ!?」


〜〜か…、母さんに思い切り睨まれちゃった…。こ、怖いよぉ〜…!!

「〜〜か、母さん…、またあやめおばちゃんと喧嘩でもしたの…?」

「ふふっ、やぁねぇ。そんなことないわよ〜」


〜〜絶対したんだ…。ハァ…、母さんの機嫌が悪くなる時って、大体、父さんがあやめおばちゃんと仲良くしてるのを見た時なんだよね…。

父さんを一人占めしたい気持ちはわかるけど、母さんもあやめおばちゃんももっと仲良くすればいいのに…。同じ血を分けた姉妹なんだからさ…。〜〜でも、この前そのことを話したら、『大人の事情に首突っ込むな』って母さん、すっごく怒ったんだよな…。

もっと3人で仲良くやっていけばいいのに…。〜〜ハァ…、大人って複雑なんだな…。

すると、母さんが急にニコニコし出して、僕の顔を覗き込んできた。

「そうだわ、誠一郎…!そういえば、お父さんもあなたを探してるみたいだったわよ?キャッチボールの準備して部屋で待ってるからって言ってたから、早く行ってあげなさいな」

「え…?でも今、父さん、あやめおばちゃんと一緒にいるんでしょ?」

「ほほほほ…!やぁねぇ。そ〜んなのぜんっぜん気にしなくていいのよ!あやめおばちゃんが強引に部屋に入ってきたものだから、お父さんも困ってたみたいよ?お父さんを助ける為にも、今すぐ行ってあげなさい!入る時は、できるだけ思い切り入っていくのよ?いいわねっ!?」

「〜〜わ、わかった…。思い切り…だね?」

「ふふっ、良い子ね〜、誠一郎♪」


〜〜怒ってる時の母さんには、父さんも花組のお姉ちゃん達も皆、逆らえないんだよね…。僕なんかが嫌だって言ったら、殺されちゃうもん…。

「――ふふっ、もう…。朝から元気なんだから」

「ハハ…、そうですか?今日のあやめさん、一段とお美しいですからね」

「まぁ、大神君ったら…。ふふっ、ねぇ〜、もう一回しない?」

「はは、了解です…!」


僕は父さんの部屋の前まで来て、ドアの隙間から覗いてみた。

父さんとあやめおばちゃん、仲良くお話してるみたいだな…。〜〜本当は邪魔しないであげたいけど、しょうがないよね…。母さんの言いつけは、ちゃんと守らないと…!

――バン…ッ!

「父さ〜ん、キャッチボールやろ〜!」

「〜〜きゃああっ!?」


僕が突然、入ってきたものだから、あやめおばちゃんは慌ててシーツで体を隠した。

「〜〜せ、誠一郎!部屋に入る時はノックしろっていつも言ってるだろ?」

「ご、ごめんなさい…。母さんに思い切り入ってけって言われたから…」


〜〜あうぅ…、こ、今度はあやめおばちゃんが母さんと同じ顔でイライラしてるよぉ…!どっちにしろ、僕って怒られる運命なのかな…?

〜〜ええいっ!怒られる前に父さん連れて、出て行っちゃおっと…!!

「〜〜ね…、ね〜ね〜、キャッチボールやろうよ〜!休みの日にしてくれるって約束したじゃんか」

「あぁ、そうだったな。〜〜すみません、あやめさん…」

「ごめんね、あやめおばちゃん…」

「ふふっ、いいのよ、誠一郎君」


〜〜顔は笑ってるけど、絶対怒ってるよぉ〜!!ぐすん…。ある意味、母さんより怖いかも…。

「そういえば、あやめさん、なでしことひまわりとチョコ作るんじゃなかったんですか?」

「〜〜あ…っ!」


あやめおばちゃんは慌てて服を着ると、急いで部屋を出て行った。

〜〜はぁ〜、助かった…。

「よ〜し、じゃあ、キャッチボールやるか!」

「うんっ!」


父さんは約束通り、中庭で僕とキャッチボールをしてくれることになった。

えへへっ、母さん達じゃないけど、父さんを一人占めできるって、やっぱり嬉しいな♪

「行くぞ、誠一郎…!――それっ!」

「〜〜あ…っ!」

「怖くても目を瞑るな!ちゃんとボールを見なきゃ取れないだろ?」

「う、うん、わかったよ…!」

「よし、じゃあ、今度はお前が投げてみろ」

「うんっ!――え〜いっ!!」

「おっ、良い球投げられるようになってきたな…!」

「えへへっ、父さんの教え方がいいんだよ」

「あとはボールを捕れるようになれば完璧だな。いいか?他のことに気を取られずにボールだけに集中しろ…!」

「うん…!!」

「行くぞ…!――それっ!」

「えいっ!!」


やったぁ!ボールをキャッチできたぞ…!!

「ハハハ…!やったな、誠一郎…!!」

「うんっ!もう一回、もう一回…!!」

「よし、その調子で頑張ろうな!」


帝国華撃団の司令で、花組の隊長さんでもある僕の自慢の一郎父さん。

とっても格好良くて、優しくて、僕の憧れなんだ!えへへっ、僕もいつか父さんみたいに強くなって、帝都を狙う悪い奴らと戦ってみたいな〜!

「――パパ、誠一郎、おはよ〜!」

「あっ、なでしことひまわりだ…!おはよ〜!」

「あっ、キャッチボールしてるの!?ひまわりもやりた〜い!!」

「あぁ、いいぞ!順番にな」

「わ〜い!誠一郎、グローブ貸して〜!」

「〜〜う、うん…」


あ〜あ、ちょっと残念だな…。けど、ひまわりもいた方が楽しいもんね!

「ねぇ、ひまわり。お父さんがここにいるってことは、お母さん、私達を探してるんじゃない?」

「あ、そっか…。――ごめんね〜。ひまわり達、これからママとチョコ作るの〜」

「そうだったね…!ねぇ、後で僕にも食べさせてよ」

「ダメ〜!パパにあげるやつだも〜ん!!」

「え〜!?僕にはくれないの〜!?」

「あったりまえじゃん!誠一郎はひまわりの子分なんだから!どうして親分が子分にチョコをあげなくちゃいけないの!?」

「〜〜こ、子分って…。ひまわりが勝手に言ってるだけじゃないかよぉ…」

「ひまわり!誠一郎をいじめたら駄目だろ?ほら、仲直りの握手は?」

「やっだよ〜ん!誠一郎なんかに絶対あげないもんね〜!!べ〜っだ!!」

「〜〜んもう、ひまわり…!?」

「や〜い、ここまでおいで〜!」

「〜〜前見ないと転ぶわよ!?」


ふざけながら走るひまわりをなでしこが注意して追いかけっこする。

〜〜ひまわり、もうキャッチボールはいいのかな…?本当、マイペースだよな…。

「〜〜僕、ひまわりから嫌われてるのかな…?」

「そんなことあるわけないだろう?もしそうなら、一緒に遊んでくれないはずだろ?」

「うん…、そうだよね…」


〜〜でも、完全に僕を馬鹿にしていることは確かだよな…。ハァ…。

「ねぇ、バレンタインってどうして女の子が男の子にチョコを送るの?」

「え?えっと…、それはだな――」

「――バレンタイン…。女性が男性にチョコレートを渡すのは愛の告白を意味する。逆に男性が女性に花を贈る国もあるそうだよ」

「〜〜わぁっ!!レ、レニお姉ちゃん…!?」


〜〜い…、いつの間に僕の隣にいたんだろう…?レニお姉ちゃんってロボットとか忍者みたいだよね…。

「――なでしこ、ひまわり、あやめさんが探してたよ。厨房に来いって」

「うん、わかった〜!」

「ありがとうございます、レニお姉ちゃん!」

「礼には及ばないよ。お母さんとチョコ作り、楽しんでおいで」

「うんっ!」「うんっ!」


なでしことひまわりが行っちゃった…。ひまわりがいなくなると、すごく静かになるな…。今は無口なレニお姉ちゃんがいるから余計だけど…。

「わざわざありがとな、レニ」

「ううん。じゃあ、僕は稽古があるから、これで」

「頑張ってね、レニお姉ちゃん!」

「誠一郎もね…。フッ」


〜〜何でだろ?レニお姉ちゃん、僕を見る目に哀愁が漂っていた気が…。

〜〜僕って、いつから皆のイジられキャラになったのかな…?

「さぁ、キャッチボールの続きをやろうか!」

「うんっ!」


えへへっ、僕の気持ちを理解してくれるのは父さんだけだよ…!

「ねぇ、父さん」

「ん?どうした?」

「これが終わったらさ、母さんの所に行ってあげなよ。母さん、何だかイライラ…〜〜じゃなかった…!元気なかったみたいだからさ…」

「そうか…。〜〜今朝のこと、怒ってるんだろうな…」

「あはは…、母さん、またあやめおばちゃんと喧嘩したんでしょ?」

「ハハ…、まぁな…。お昼になったら行ってみるよ。ありがとな、誠一郎。お前は優しい子だ。父さんの自慢の息子だよ」

「父さん…」


えへへっ、父さんに褒められちゃった…!嬉しいな〜♪

「よ〜し、それまでビシビシ行くぞ〜!!」

「お〜っ!」


一方、なでしことひまわりは、あやめおばちゃんと一緒に楽しくチョコを作っていた。

「――これでOKね。あとはトッピングするだけだから、チョコが固まるまで遊んできていいわよ」

「わ〜い!なでしこ、行こ〜!」

「うんっ!誠一郎も入れて遊びましょ!」

「ふふっ、花組のお姉ちゃん達のお稽古、邪魔しちゃ駄目よ?」

「は〜い!」「は〜い!」


なでしことひまわりは仲良く手を繋いで、中庭に向かって移動し始めた。

「お母さんとお料理するのって楽しいね〜!」

「ね〜!――あっ、そうだ!ひまわり達からもパパに何かプレゼントしようよ!」

「え?お母さんと一緒にチョコ作ってるじゃない」

「それはママと一緒のやつじゃ〜ん!ひまわりとなでしこだけで何かプレゼントするの〜!!」

「プレゼントってどんな?」

「あのねあのね、この前、パパが欲しいって言ってたやつ!」

「あ〜、もしかして、ネクタイのこと?」

「そう、それ〜!!お店に行って買ってこよ〜!」

「ダメよ、ひまわり!お出かけするんなら、ちゃんとお父さん達に言ってからじゃないと…」

「言っちゃったら、サプライズにはなんないじゃ〜ん!――ほら、早く行こ!」

「〜〜あっ、ちょっと、ひまわり…!」


ひまわりはなでしこを強引に銀座の街に連れ出し、お目当てのネクタイを売っているお店のショーウィンドゥを覗いた。

「〜〜ひゃ…、120銭…!?ネクタイのくせにぼったくりだよ〜!!」

「きっと、有名なブランドものなんじゃない?」

「ぶらんどものって…?」

「う〜ん、なんて言ったらいいのかしら…。とにかく、とっても良い物だからすごく高いのよ」

「〜〜そっかぁ…。でもパパ、あのネクタイ、欲しいって言ってたよね?」

「でも、お金がないと買えないわ。ひまわり、お小遣い、いくら余ってる?」

「ちょっと待って〜。え〜っと…。〜〜あうぅ…、5銭しかないよぉ…」

「〜〜私も12銭しか残ってないわ…。ネクタイは諦めて、もっと安い物にしましょ?」

「ちぇ〜」


帰ろうとしたひまわりは、段ボールの箱にたくさん詰めた本を中古専門の本屋に売る男の人を見かけた。

「あの人、何やってるのかな〜?」

「いらなくなった本を古本屋さんに売って、お金をもらってるのよ」

「いらなくなった物を…かぁ…。――そうだ…!ひまわり達もいらなくなった物を売って、お金に換えちゃえばいいんだよ!」

「でも、勝手にそんなことしていいの…?」

「平気だよ!花組のお姉ちゃん達にもいらない物はないか聞いてみよ!」

「〜〜後で怒られても知らないわよ?」

「えへへ〜、その時はなでしこも一緒でしょ♪」

「〜〜んもぉ、ひまわりったらぁ…」


こうして、なでしこは渋々、ひまわりの作戦に付き合うことになった。

大きな段ボールの箱を抱えて、テラスに行ってみると、さくらお姉ちゃんとマリアお姉ちゃんを見つけた。

「――いらない物…?そうねぇ…」

「何でもいいよ!迷惑なファンからのプレゼントとかでもいいし〜」

「〜〜ひ、ひまわり…!」

「ふふっ、ごめんね。ファンの方からのプレゼントはどれも大切なものだから売ることはできないんだ」

「〜〜そっかぁ…」

「稽古が終わったら、部屋に行って探してみるわ。読み終わった小説とか結構たまってたし…」

「ありがとうございます、マリアお姉ちゃん!」

「なるべく早くお願いね〜!」


次に、なでしことひまわりは、紅蘭お姉ちゃんのお部屋に行ってみた。丁度、紅蘭お姉ちゃんと織姫お姉ちゃんが花札をして遊んでいるところだったみたいだ。

「――う〜ん、いらん物なぁ…」

「紅蘭はた〜っくさんあるデショ〜?失敗作の発明品とか爆発した発明品の欠片とか…」

「〜〜いらん物やないっ!!あの子らは皆、うちが丹精込めてつくりあげた子供達や…!!」

「織姫お姉ちゃんは何かありますか?」

「う〜ん、そうデ〜スネ〜。私、思うんですケド〜、そ〜んなチマチマガラクタを売らなくても、私のサインをど〜んと売ってしまえば、すぐに大金が手に入ると思いマ〜ス!」

「あっ、そうか…!花組のお姉ちゃん達のサイン入りブロマイドとか売ったら、楽に儲かるよね〜♪」

「〜〜ダメよ、ひまわり!」

「せやで!そういう商品は売店で売られている公式グッズ以外は偽物とみなされるさかい。売ってるのがバレたら、おまわりはんに捕まるで〜?」

「〜〜えぇ〜っ!?」

「ふっふ〜ん、ま、ボチボチ地道に稼ぐんが一番っちゅうことやな!」

「〜〜ちぇ〜」

「〜〜せ〜っかく山分けして、新しい洋服買おうと思ってたのに、残念デ〜ス…」

「〜〜子供から金奪う気やったんかいな…?」


続けて、なでしことひまわりは鍛練室に向かった。


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