バレンタイン記念・特別短編小説
「バレンタイン・デーの一日」大神×あやめ編〜その1



今日は2月14日。

女の子が一年で最も気合を入れる日。そして、美しく輝く日。

「うん、これがいいわね」

私・藤枝あやめは、ちょっとだけ早起きして、楽屋の化粧台の前に座った。

アイシャドゥはパープル、チークは桜色、口紅はローズピンク…。全部大好きな大神君が褒めてくれた色…。それらを使って、ちょっとだけ気合を入れてお化粧してみる。

うん、髪の結い方もバッチリね!う〜ん、前髪はもう少し垂らした方がいいかしら…?

「わぁ〜、お母さん、とっても綺麗よ〜!」

「えへへっ、お父さんも惚れ直しちゃうね!」


なでしことひまわりも母親の私と同じように早く起きてきたみたいだ。

「ふふっ、ありがとう」

今日は聖バレンタイン・デー!結婚前の乙女だけがドキドキしているわけじゃない。

私のような既婚者にとっても、夫との愛を深められる特別な日だから。そういう意味では、結婚記念日と誕生日に次いで大切な日かもしれないわね。

「さぁ、お父さんを起こしに行きましょうか…!」

「は〜い!」「は〜い!」


身支度を整えた私は、なでしことひまわりを連れ、大神君の寝室である隊長室にやって来た。

「お父さん、もう起きてるかしら?」

「いししっ!どうせなら寝起きドッキリしちゃお〜よ!」

「ふふっ、ひまわりったら…。まだ花組のお姉ちゃん達は寝ているんだから、静かにね?」

「は〜い!」「は〜い!」


私がノックしようとドアに近づいたその時だった…!

「――あぁ〜ん、大神くぅ〜ん」

部屋の中から私にそっくりな声が聞こえてきた。しかも、子供達にはとても聞かせられない淫らな嬌声が…!

〜〜くっ、私としたことが先を越されるなんて…!!

「お母さん、どうしたの?お部屋に入らないの?」

「〜〜ううん、何でもないのよ。ちょっとここで待っててね?」

「は〜い!」「は〜い!」


私は娘達の前では見せない厳しい顔で、部屋の様子をドアの隙間から覗いてみた。

ベッドの上で、かえでが大神君にキスして、裸で寄り添っていた。〜〜こんなところ、とてもなでしことひまわりには見せられないわ…!!

「ふふっ、とっても素敵だったわ、大神君」

「俺もですよ、かえでさん。朝からサービス満点でしたね」

「ふふっ、今日が何の日か忘れてるでしょ?」

「え?」

「ふふっ、もう仕方ない子ねぇ。――いいわ。もう一回したら、思い出すかもしれないものね」

「〜〜か、かえでさん…、そろそろ皆、起きる時間ですよ…?」

「ふふっ、ダ〜メ!これは命令よ、大神君!」

「はは…、了解」


かえでは大神君に積極的にキスすると、彼の裸体に騎乗位になって、セックスを再開した。

〜〜んもう…、朝から何回やるつもりなの…!?せっかく私も大神君の寝起きを襲おうと、朝からおめかししてたのに…!!

「――あぁ〜ん、いいわぁ!最高よ、大神くぅぅ〜ん…!!」

「く…っ、かえでさん…!」

「あああああああっ!!はぁっ、はふっ、ふふふっ、大神君ったら、とっても素敵よ…!」


かえでは息を乱しながら、夢中で大神君の唇に吸いついた。

「パパとかえでおばちゃん、何してるの〜?」

「〜〜見ちゃいけませんっ!!」

「え〜っ!?」


〜〜もう我慢の限界だわ…!!いくら妹でも抜け駆けなんて許せないっ!!

私は冷静を装い、心とは裏腹に笑みを浮かべながら、静かに部屋に入った。セックスに夢中な大神君とかえでは私がいることに気づいてないみたい。

フッ、でも、大神君の正妻である私が来た以上、第二夫人であるあなたのお楽しみもそこまでよ…!!

「――はぁはぁ…、ふふっ、いい加減何の日か思い出したでしょ?」

「今日は2月14日ですよね…?――あっ、そうか…!今日はバレンタイン・デーですね」

「あうん…っ!ふふっ、当たりよ。今夜は、とろけるようなチョコレートと私を召・し・上・が・れ♪チュッ!」

「はは…、ありがとうございます。しかし、今夜は…」

「――ごめんなさいね、かえで。今夜のお相手は私ですもの」


案の定、かえでは邪魔してきた私を睨んできた。ふふっ、悔しそうな顔しちゃって…。

「あら、だって毎晩交互に大神君と過ごす決まりでしょ?たまたまバレンタイン・デーの今夜が私の番なんだから、仕方ないじゃないの。昨晩は邪魔しないであげたんだから、今晩は姉さんに譲ってくれるわよね?」

「〜〜そ、それは…。――大神君は私とあやめ姉さん、どっちと今晩過ごしたいの…!?」

「〜〜いぃっ!?え…、えっと…」

「こぉら、かえで!大神君が困ってるでしょ?結婚する時に3人で決めたわよね、夜の営みの順番はどんなことがあっても守るって?」

「〜〜う…っ、そ…、そうだけど…」

「ふふっ、聞き分けの良い妹で姉さん、嬉しいわ。――大神君、今日はなでしことひまわりと一緒に手作りチョコを作るから、楽しみにしててね!」

「本当ですか?ありがとうございます、あやめさん…!あやめさん、料理上手だから楽しみだな…!」

「〜〜ムッ!」

「ふふっ、大神君の為に張り切っちゃうわね!――そうだわ。かえでも一緒に作らない?」

「〜〜結構よっ!!フンッ!」


と、かえではイライラしながら服を着て、部屋を後にした。ふふっ、かえでってば、私と違ってお料理が苦手ですものね。

まずは第1ラウンド勝利ってとこかしら♪

「あ、かえでさ――!」

「大神くぅ〜ん、私にもキスしてぇ〜」

「あ、あやめさん…。ごく…っ」


かえでを心配して後を追おうとした大神君だが、私に言い寄られると、たちまち私の虜になった。甘い誘いを難なく受け入れ、私を抱き始める。

ふふっ、かえでと何回もセックスした後なのに元気なんだから…!

「あぁ〜ん、愛してるわ、大神くぅ〜んっ!!」

「あやめさん…!俺も愛してます…!!」


朝の営みを終えて、ベッドの上で私は大好きな大神君にキスをした。

「ふふっ、もう…。朝から元気なんだから」

「ハハ…、そうですか?今日のあやめさん、一段とお美しいですからね」


大神君は爽やかに微笑んで、私の頬を撫でてキスしてくれた。ふふっ、これじゃあ私の方が先に惚れ直してしまいそうだわ…!

「まぁ、大神君ったら…。ふふっ、ねぇ〜、もう一回しない?」

「はは、了解です…!」


ふふっ、ヘアメイク整えておいた甲斐があったわ…!し・あ・わ・せ♪

――バン…ッ!

「――父さ〜ん、キャッチボールやろ〜!」

「〜〜きゃああっ!?」


大神君とかえでの息子の誠一郎君が突然、部屋に入ってきたので、私は慌ててシーツで裸を隠した。

「〜〜せ、誠一郎!部屋に入る時はノックしろっていつも言ってるだろ?」

「ご、ごめんなさい…。母さんに思い切り入っていけって言われたから…」


〜〜やっぱり、かえでの仕業ね…。フッ、さっきの腹いせってわけ?

「ね〜ね〜、キャッチボールやろうよ〜!休みの日にしてくれるって約束したじゃんか」

「あぁ、そうだったな。〜〜すみません、あやめさん…」

「ううん、私のことはいいから遊んできてあげなさいな」

「ごめんね、あやめおばちゃん…」

「ふふっ、いいのよ、誠一郎君」


〜〜悪いのは、あなたのお母さんなんだから…っ!!

「そういえば、あやめさん、なでしことひまわりとチョコ作るんじゃなかったんですか?」

「〜〜あ…っ!」


〜〜大変…っ!セックスに夢中になってて、なでしことひまわりを待たせているのをすっかり忘れてたわ…!

急いで服を着て廊下に出てみたけど、なでしことひまわりの姿はなかった。きっと待ちくたびれて、違う場所に行ってしまったみたいね…。

「ハァ…、なでしことひまわり、どこ行っちゃったのかしら…?」

「――おはよう、あやめさん。何してるの?」


私が廊下をうろうろしていると、自分の部屋から出てきたレニが話しかけてきた。

「あら、レニ…。なでしことひまわり、見なかった?」

「見てないな…。子供の足だ。そう遠くには行ってないと思うよ?」

「そうよね…。〜〜けど、劇場内といっても広いし…。由里に言って、放送で呼びかけてもらおうかしら…?」

「それがいいかもしれないね。見かけたら、お母さんが探してたって言っておくよ」

「えぇ、頼むわね。食堂の厨房に来るように伝えておいてくれる?」

「了解」


レニと別れ、私は由里に放送でなでしことひまわりを呼んでもらおうと、事務室に行った。

「あら…?椿、あなた一人だけなの?」

「そうなんですよぉ〜。留守番、頼まれちゃってぇ〜。由里さんったら、いっつも私をパシリ扱いするですからぁ〜」

「留守番って…、由里はどこかに出かけてるの?」

「由里さんなら、かすみさんを励ましにお茶してきますってぇ〜」

「かすみを…?」

「ふふふっ、加山さんのことですよぉ〜!かすみさん、今朝からずっと遠距離恋愛のこと語って悩んでてぇ〜。乙女ですよねぇ〜」

「ふふっ、なるほどね。〜〜でも、由里がいないのなら仕方ないわね…」

「由里さんに伝言ですかぁ?なら、私が預かっておきますよっ!」

「ううん、いいのよ。お邪魔したわね」


〜〜困ったわね…。放送用のマイクもかすみがセッティングしてくれなきゃ使えないし…。

とりあえず、厨房に行って、準備だけでもしておこうかしら…?

「――あっ、ママ〜!」

「なでしこ、ひまわり…!」


厨房で、なでしことひまわりがすでに私が来るのを待っていた。

「レニお姉ちゃんがね、お母さんが厨房で待ってるって教えてくれたの〜」

2人が見つかってよかったわ。後でレニにお礼言っておかないとね…!

「じゃあ、早速、始めましょうか!」

「お〜っ!」「お〜っ!」


私はなでしことひまわりにエプロンをつけてやって、一緒に道具を洗ったり、買っておいた手作りチョコ用の材料を袋から出して用意した。

ふふっ、やっぱりバレンタインといえば、手作りチョコに限るわよね!

「ね〜、ママ〜、何のチョコを作るの?」

「そうねぇ…。どういうのがいいと思う?」

「えっとね〜、おっきいハートのやつ〜!」

「え〜?小さいのがいっぱいある方がいいわよ〜!」


なでしことひまわりは、お父さんの為にどんなチョコを作るか一生懸命考えているみたいだ。ふふっ、こうして一緒にチョコを作れるまでになったなんて、子供の成長は早いわねぇ。

「ママ〜、早く作ろ〜!」

「ふふっ、はいはい」

「まずは何するの?」

「チョコを溶かして、型に流し込むのよ。生クリームや洋酒も少し加えましょうか。やけどするといけないから、ママと一緒にやりましょうね」

「わ〜い!」

「ねぇ、お母さん、トッピングはこれがいいかしら?」

「うん、とっても可愛いわね。なでしこは良いセンスしてるわねぇ」

「えへへっ」


ふふっ、こうしていると、大神君に初めてチョコを作ってあげた時のことを思い出すな…。

確かあの時は藤枝の巫女を継ぐ儀式を受けている最中だったっけ。当時は色々大変だったな…。平和になった今、こうして自分の娘達とチョコを作ることができるようになるなんて、あの頃はとても想像できなかった…。

「ママ、どうしたの〜?」

「ふふっ、ママは今、とっても幸せだなぁって思ってたのよ」

「えへへっ、そうやって笑っているお母さんの顔、だ〜い好き!」

「ひまわりも〜!」


「ふふっ、ありがとう、なでしこ、ひまわり」

大神君と結婚して、可愛い娘達が産まれて…。私の思い描いていた幸せが現実となった。愛する人達と家族でいられる。それがとても幸せなの…。

「――あっ、かえでおばちゃんだ〜!」

ひまわりに気づかれて、遠くから見ていたかえでは、しまったとばかりに眉を顰めた。

「あら、かえで、どうしたの?」

「〜〜べ、別に…。通りかかっただけよ」


ふふっ、なるほど。ライバルである私の様子を見に来たってわけね。

「かえでおばさんも一緒に作りませんか?」

「お料理、楽しいよ〜!」

「〜〜私はいいわ…。親子水入らずで気兼ねなく作って頂戴。ほほほほ…」


と、かえでは逃げるように厨房を後にした。

ふふっ、かえでったら、なでしことひまわりの前で格好悪いところを見せたくないみたいね。本当、負けず嫌いなんだから…。

「かえでおばちゃんも一緒にやればいいのにね〜?」

「ね〜。でも、お母さん、何だか嬉しそう」

「ふふっ、そう見える?」


かえでと差をつけられるこの機会を逃してなるものですか…!さぁ、例年以上に張り切って作るわよ…!

真面目ななでしこが分量をきっちり計って、手先が器用なひまわりがトッピング用の飾りを作る。ふふっ、まだ小さいのに自分達の長所を認め合って、ちゃんと協力しているみたいね。偉い、偉い!

「――これでOKね。あとはトッピングするだけだから、チョコが固まるまで遊んできていいわよ」

「わ〜い!なでしこ、行こ〜!」

「うんっ!誠一郎も入れて遊びましょ!」

「ふふっ、花組のお姉ちゃん達のお稽古、邪魔しちゃ駄目よ?」

「は〜い!」「は〜い!」


なでしことひまわりは仲良く手を繋いで厨房を出ていった。

控えめでしっかりしたなでしこと天真爛漫なひまわり。性格が正反対な双子の姉妹だけど、とっても仲良しなの。あの2人、誠一郎君も入れて3人一緒に遊ぶことが多いのよね。

〜〜子供達同士は仲が良いのに、親の私とかえでときたら…。今は大神君をめぐって喧嘩しちゃったり、戦闘の作戦で意見が食い違って、衝突してしまうことが多いけど、私とかえでも昔はああいう風に遊んでたわね…。

――かえで…、ちょっと可哀想だったかしら…?あの子のことだから今頃、負けじと高級チョコレートでも買いに行ってるんでしょうけど…。

……チョコが固まるまで、かえでの様子でも見てこようかな…?

「〜〜どうしましょう、琴音さん!?間違って違う瓶を代理に渡しちゃいましたよ〜!!」

かえでを探して劇場内を歩いていると、地下の廊下で薔薇組の3人が騒いでいた。

「〜〜だ、大丈夫よ、菊之丞…!あれだって、別に毒じゃないんだし…」

「そうよ、菊ちゃん!それにあの薬を一郎ちゃんが飲めば、たちまち私達の仲間入りよ〜ん♪」

「きゃあ!そ、それもいいかもしれませんね…!」

「――何を大神君が飲めば…ですって?」

「〜〜ぎゃあああ〜っ!!」

「〜〜ふ…、副支配人、いつの間に…!?」

「ふふっ、何か悪企みでもしてるんじゃないでしょうね?」

「〜〜ギクッ!!」

「〜〜だ、代理がバラしちゃったんでしょうか…?」

「〜〜そ、そんなことあるわけないじゃないの!代理だってバレたらまずいのは同じなんだから…」

「――かえでがどうかした?」

「〜〜あ、あら〜?私、代理のお名前なんて出したかしら〜?ホホホホ…」


〜〜さては、かえでったら薔薇組と組んで何か企んでいるようね…。まったく、しょうがない娘ねぇ…。

「教えてくれたら、次回公演の主役をあなた達で検討してあげてもいいわよ?」

「えぇっ!?ほ、本当ですか、副支配人!?」

「えぇ、もちろん!そうねぇ…、演目は『アラビアのバラ』ならぬ『アジアの薔薇族』っていうのはどうかしら?」

「まぁ〜ん!さすがはあやめちゃんだわ〜ん!!もう私が知ってること、ぜ〜んぶ教えてあげちゃう!!」

「待ちなさい、斧彦!たとえ陸軍からつまはじき者にされようとも、私達は軍人の端くれよ…!信頼を置いて約束を交わした者をやすやすと裏切るなんて、軍人として…、いえ、人としてやってはいけない行為だわ…!!」

「琴音さん…」

「〜〜そうよね…。かえでちゃんが可哀想ですもの…」

「――というわけで副支配人、申し訳ないけど、私達と代理の作戦をお教えすることはできないわ」

「あらそう…。せっかく次回作の主役を大神君と話し合っていたところなんだけどな…」

「〜〜ぐ…っ、そ、それを言われると…」

「琴音さん、ここはかえでさんを信じましょう…!」

「そ、そうね…!」

「あやめちゃん、大丈夫よ…!これからどんなことがあっても、あなたならきっと乗り越えられるわ…!!頑張ってね〜ん♪」


薔薇組はそう言い残し、自分達の部屋に続く通路を通って帰っていった。

〜〜何を企んでいるのかよくわからないけど、あの調子ならそんな大したことではなさそうね…。ちょっとホッとしたかも…。

「――副司令、そろそろ花やしき支部の視察のお時間です」

そこへ、かすみが運転手用の服に着替えて、私の元へやって来た。

「あら、もうそんな時間なのね…!」

「はい、大神司令は玄関でお待ちですよ」


椿の言う通り、かすみの顔色がどことなく優れないわ…。〜〜任務の為だから仕方ないけど、遠距離恋愛って辛いものですものね…。

私はかすみを気の毒に思いながらも、自分の部屋で軍服に着替えて、用意しておいた資料を持って、大神君の待つ玄関に向かった。

「ごめんなさいね、お待たせしちゃって…!」

「いえ、俺も今来たところですから」

「ふふっ、そうなの。よかった…!」


私と大神君のやり取りを、かすみは羨ましそうに見つめている。

かすみの気持ちを考えるとちょっと心苦しいけど、これから大神君とお出かけできるなんて嬉しいな…!

帰る頃には、チョコが良い感じに固まっているだろうし…。ふふっ、楽しみだわ♪

「では、行きましょうか」

「えぇ、そうね」


と言いながら、私の荷物を持ってくれる大神君。ふふっ、こういうさりげない優しさも彼の魅力の一つよね。

私は良い気分に浸りながら、かすみの運転する車で大神君と花やしき支部に向かった。


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