大神一郎誕生日記念・特別短編小説
「未来への絆〜21世紀の子供達へ〜」その3



戦いが終わった後で、すっかり目が冴えていたので、俺とあやめさんとかえでさんは、誠一郎となでしことさつきさんとゆずきさんとリビングで話をすることにした。

「ありがとう、父さん、母さん、あやめおばさん。お陰で助かったよ」

「いや、花組の活躍があったから、事態を素早く収拾できたんだよ」

「はは、21世紀の花組も負けちゃいないだろう?まぁ、光武と武器の性能が上がったお陰もあるけどね。……これで、敬一郎が隊長に着任してくれたら、言うことないんだけどね…」

「誠一郎…」

「ねぇ、さっきの敬一郎君の言葉…、どういう意味なの?」

「敬一郎の両親…、つまり、僕の息子とお嫁さんは敬一郎が子供の頃、降魔に殺されたんだ…」

「え…?」

「息子の恭一郎は帝国華撃団の奏組隊長で、妻の愛子さんは夢組隊長だったんだ…。〜〜あの日も丁度、今日みたいな深夜の出撃だった…。賢人機関から突然、出撃要請が出たんだ、降魔が出現した深川の料亭にいる外務大臣をお守りしろってね…。だが、深川の他の場所にも降魔はたくさん出現していて、帝都市民達を襲っていた。だが、お偉いさん方は『市民など放って、大臣を全力で守れ。命令に背けば、資金援助を断ち切る』と脅してきてね…」

「太正時代と比べると、帝劇も不況のあおりを受けて、資金繰りも厳しい状態なのよ。だから、司令である誠一郎は、苦渋の決断で大臣一人に花組全員の護衛をつけたの…。けど、それはおかしいんじゃないかって、恭一郎君と愛子さんは訴えてきてね、二人は深川の市民達を守ろうと独自の判断で戦ったの。けど、霊子甲冑を着けていない彼らと降魔の大群とでは力の差は歴然だった…。でも、二人は諦めなかったわ。そのお陰で、奇跡的に市民達から死者が出なかったのよ」

「大臣をお送りした後、急いで花組を向かわせたけど、恭一郎と愛子さんはすでに瀕死の状態で…、〜〜そのまま…病院で帰らぬ人に…」

「〜〜そう…。そんなことがあったの…」

「〜〜僕は最低な人間だ…。僕があの時、はっきり断っていれば、息子達は死なずに済んだのに…っ」

「誠一郎…。あまり自分を責めちゃ駄目よ…」

「〜〜けど…、敬一郎が可哀相でさ…。まだまだ親に甘えたい年頃だっただろうに…」


太正時代の賢人機関や政府の上層部にも、国民のことを全く考えずに好き勝手振る舞う輩が多いが…、21世紀になっても、そういうところは変わっていないようだ…。いや、むしろ質が悪くなっているかもしれないな…。

「――!敬一郎…!?」

俺達の会話を立ち聞きしていた敬一郎は顔をそむけ、自分の部屋に上がっていってしまった。そんな彼を、さつきさんとゆずきさんが慌てて追いかけていった。

「……もう遅いから、今日は休みましょう」

〜〜敬一郎、大丈夫だろうか…?

「――敬一郎、叔父様と叔母様の無念を晴らす為にも、あなたが戦わなくちゃ…!」

「〜〜何で俺がそんなことしなくちゃなんねぇんだよ…!?」

「帝都を守る為よ…!」

「あんなクソみたいな連中がトップにいるこの帝都をか…!?この日本をか…!?はっ、笑わせんじゃねぇよ…!!」

「〜〜甘えるんじゃないの!!いつまでそうやってひねくれているつもり!?あなたがどんなに突っぱねても、叔父様と叔母様は帰ってこないのよ…?だったら、ご両親が守ろうとしたこの帝都を今度はあなたが守らなくちゃ…!その遺志をあなたが継がなくちゃ駄目じゃないの…!!」

「……こんなちっぽけな組織で、本当に守りきれると思ってんのか…?〜〜さつきもゆずきも本当にそう思ってるのかよ…!?」

「思ってるわ…!〜〜確かに私達だけでは守れる範囲に限界がある…。実際、都内にしか出撃できないしね…」

「けど、私達は心からこの帝都を…、この街と人々の笑顔を守りたいから、戦ってるの…!それらを降魔から守れるのは、私達しかいないのよ…!?」

「あーそう。はは、だから、一人でも戦力が必要ってわけか…。霊力のある奴なら、別に俺じゃなくっても構わねぇんだろ?はっきり言えよ…!」

「そんなことないわ…!私達はあなたと一緒に帝撃で戦いたいの…!!私もゆずきもあなたのことが好きだから…」

「……それは、いとことして?それとも、男としてか?」

「…帝撃の仲間としてよ」

「…あーそう。なら、今からヤらせろよ。そうすりゃ、花組の隊長になってやってもいいぜ?」

「〜〜な…っ!?」

「俺のこと、好きなんだろ?だったら、いいじゃねぇか。ほら、早くベッドに――」


――パンッ!!さつきさんが敬一郎の頬をひっぱたいた。

「〜〜見損なったわ、敬一郎君…。そんな邪な気持ちで、帝都を守り抜けると思ってるの…!?」

「〜〜こんな馬鹿、放っときましょ。――あんたなんかにもう二度と頼まないから…!」


怒って階段を下りていくさつきさんとゆずきさんに、敬一郎はイライラしながら壁を蹴った。

「〜〜チッ、ガードが固い姉妹だぜ…」

「――あぁっ、大神くぅん…っ!」

「…!――へぇ…」


隣の部屋からさつきさんとゆずきさんと同じ声のあやめさんとかえでさんの嬌声が聞こえてきて、敬一郎はそっと壁に耳をあてた。

「ふふっ、メイド服着たままでいろなんて、大神君も好きなんだから…」

「はは、たまにはコスプレでやるのもいいでしょう?」

「ふふっ、もう…しょうがない子ね。――それで?お次は何がお望みですか、ご主人様?」

「そうだな…。じゃあ…――」


あやめさんとかえでさんが俺に交互にキスして、ご奉仕してくれていた時、ドアの方から視線を感じて、見てみると…、

「〜〜いぃ…っ!?」

〜〜け、敬一郎が見ている…!?しかも悪魔のようにニヤニヤしながら…。

「け…っ、敬一郎…!?」

「え…っ?〜〜きゃああっ!!」

「お、大神君…!」


俺はタオルを腰に巻き、敬一郎を連れて、部屋の外に出た。

「へっ、メイドプレイの3Pってか。真面目そうな顔して、あんたもやっぱり男だな」

「〜〜人のプライベートを勝手に覗くなっ!」

「はは、悪かったよ。邪魔者はとっとと消えるから、お楽しみを続けな」

「さつきさんとゆずきさんはどうしたんだ?さっきまで一緒だったんだろう?」

「花組の隊長やるからヤらせろっつったら、キレられた」

「〜〜そ、そんなこと言ったのか…!?」

「あぁ。ったく、あんたの女達が羨ましいぜ。それに、イイ女だしな…。後で俺にも一回ヤらせろよ」

「〜〜なっ、何言ってるんだ…!?そんなことさせるわけないだろう!?」

「はは、何マジになってんだよ?さつきとゆずきに似た女なんて、こっちから願い下げだぜ」

「…ふざけてないで、後でちゃんと謝れよ?」

「ハァ?何で俺が?」

「さつきさんとゆずきさんの気持ちがわからないのか?二人とも、君のことを本気で心配してくれてるんだぞ…?」

「心配なんかしてくれてるもんか。あいつらはただ、俺の霊力ってやつが欲しいだけだよ。別に俺自身を必要としているわけねぇじゃねぇんだ」

「そんなことはないさ。――昔、あやめさんとかえでさんが黒之巣会と黒鬼会という悪の組織に寝返ったことがあってな…。でも、俺は最後まで二人を信じ続けた。その想いを二人もわかって改心してくれたから、今の俺達があるんだと思う」

「……」

「君も二人を信じてやらなくてどうする?いとこなんだろう?昔から親しいのなら、尚更――」

「――あんたが羨ましいよ、あやめとかえでって人からあんなに愛されててさ…。あんたに抱かれてる時…、あんたと一緒にいる時のあの二人の顔、すげぇ幸せそうだからさ…。……さつきとゆずきは…、俺にあんな顔を見せてくれたことはねぇからよ…」

「敬一郎…」

「…そういや、あんたってハーレムができるほどモテてたんだろ?」

「ハ、ハーレム…?」

「初代花組の女優達があんたを奪い合ってたって、昔、じいちゃんから聞いてさ…。そんな漫画みたいな話、本当にあんのかよって思ってたけど…、やっぱマジなわけ?」


〜〜誠一郎の奴…、孫に何てこと教えてるんだよ…。

「ハーレムかどうかはわからないが、花組の皆は俺のことを信頼してくれてるみたいだからな。同じくらい、俺もあの娘達のことを信頼している。仲間だからな。敬一郎だってそういう友達、いるだろう?」

「仲間…ねぇ。そんなもん、いるだけ面倒なだけだってーの。今の時代はなぁ、昔と違って、そんな簡単に人を信用すると、痛い目に遭うんだぜ?」

「それでも、俺は自分の仲間達を信じたい。人を疑いながら生きていくなんて、自分も辛いだろ?」

「はは、ったく、どこまでお人好しなんだよ、あんたもじいちゃんも…、……父さんもさ…。〜〜そんなんだから、早くに死んじまうんだよ…」

「敬一郎…」

「馬鹿みたいに命を懸けて、守り合って…。〜〜何なんだよ、帝国華撃団って…?それが美徳だとでも言うのか…!?死んだらおしまいなのによ…」

「……ご両親のこと、誠一郎から聞いたよ…」

「…あ、そ。んで、何?かわいそ〜って同情してくれるわけ?」

「君が反発したい気持ちもわかる…。けど、誠一郎…、おじいさんの気持ちもわかってやってくれ。彼は帝撃の今後を思って――!」

「〜〜だからって、部下二人を見殺しにしてよかったのかよ…!?しかも、自分の子供だぞ…!?卑怯な権力者がのうのうと生きてて、正義感の強い一般市民が死ぬなんて、そんなのおかしいだろ…!?」

「確かに君の言う通りだ。そのことで今、誠一郎もとても後悔してるよ…」

「〜〜どんなに後悔したって、もう親父とお袋は帰ってこないんだぞ…!?……親父もお袋も本当、馬鹿だよ…。自分の命捨ててまで、こんな街を守ってよ…。こんな街にそこまでの価値なんてあるのか?帝都から人がいなくならない限り、降魔は増え続ける…。〜〜だったらこんな街、滅んじまえばいいんだよ…っ!!」


――パァン…!!俺は誠一郎の頬をひっぱたいた。

「〜〜チッ、2度目かよ…」

「本当にそんなことを思っているのか?亡くなったご両親が命懸けで守った街が滅んでも、本当に平気でいられるのか…!?」

「〜〜それは…」

「俺はこの帝都を憎み、滅ぼそうとした人を何人も見てきた…。〜〜だが、彼らは全員、心の闇を野望に変えた、悲しい人達だった…。彼らだって、一概に悪人とは言えない…。何が正義で何が悪かなんて、誰にも決められないからな…」

「……何だよ、それ…。正義の味方とは思えねぇ言葉だな」

「正義がどういうものかなんて、俺も未だにわからないよ…。ただ、これだけははっきり言える。ご両親はただ任務遂行の為だけに命を懸けたわけじゃない。この街を…、この街で暮らす君達を守りたかったからじゃないかな…?」

「〜〜だからって、命まで懸けるなんて馬鹿げてるぜ…」

「それだけ、彼らにとっては大切なものだったんだよ。…君には守りたいものはないのか?」

「命懸けでだろ?…そんなもんねぇな。くだらねぇ」

「そうか。俺はたくさんあるぞ。自分の暮らす街、そこで生活する人々の笑顔、そして、帝撃の大切な仲間達…。全てこの帝都で培ってきたものだ。君だって、この街で生まれて、ずっと暮らしてきたんだろう?だったら、いつか君にもご両親の…、そして、帝撃の皆の気持ちがわかる時が来るさ」

「……」

「〜〜はっくしょん…っ!!」

「ぷ…っ、あはははっ、せっかく格好良く決めたのに、情けねぇの」

「ハハ…、そうだな」


〜〜そういえば、タオル巻いただけで裸同然だったな…。早く部屋に戻って温まろう…。

「それじゃあ、俺はそろそろ戻るよ。明日、ちゃんと二人に謝るんだぞ?」

「――おい」

「ん…?何だ?」

「あんた、死んだ父さんに似てるよ…。同じ血が流れてるんだから、当たり前だけどさ…」

「敬一郎…?」

「…そんだけ。じゃあな」


敬一郎は照れた顔を隠すように顔をそむけ、足早に自分の部屋に戻っていった。もっと素直になれば、自分も楽だろうに…。何であんなに反抗するんだろう…?

「――すみません、遅くなりまし…〜〜いぃっ!?」

「ふふっ、遅いわよ、大神君」

「あぁん、姉さん、もっとぉ…っ!」


俺が敬一郎と長く話していたせいで、あやめさんとかえでさんが二人だけで楽しんでいた。

「ふふっ、ほら、大神君も…!」

「早く来なさい!ずっと待ってたんだから」

「わ…っ!〜〜ちょ、ちょっと待って下さいって…!」


あやめさんとかえでさんは俺をベッドの上に引っ張り上げた。

『――あんたに抱かれてる時…、あんたと一緒にいる時のあの二人の顔、すげぇ幸せそうだからさ…』

『――さつきとゆずきは…、俺にあんな顔を見せてくれたことはねぇからよ…』


――俺は幸せ者だ。妻であるあやめさんとかえでさんから愛され、花組や帝撃の皆との強い絆を築けて、子宝に恵まれて…。

望んでいても、そう簡単に手に入るものじゃないのに…。〜〜望んでいても、手に入れられない人だっているのに…。

「…どうしたの、大神君?」

「――いえ…、何でもありません」


俺は喜びを噛み締めながら、再びあやめさんとかえでさんを抱き始めた。こんな俺を愛してくれることに感謝しながら、優しく、深く愛して…。

――翌日。和葉さんにつれられ、俺とあやめさんとかえでさんは、秋葉原にやって来た。

誠一郎となでしこ、さつきさんとゆずきさんは新春公演の準備と降魔からの防衛対策の手伝いで忙しい為、劇場に行った。その間、和葉さんは俺達に21世紀の帝都東京を紹介すると言ってくれたのだが…。

「〜〜メ、メイド喫茶『にゃんにゃんCHU』…?」

「私、この店のオーナー兼店長なの〜。メイド服がと〜っても似合うあやめちゃんとかえでちゃんにお手伝いしてもらおうと思って〜」

「〜〜えぇっ!?ま、またあの服を着させるつもりなの…!?」

「私達はいいわ。こういうのって、若い娘が着た方が似合うでしょうし…」

「あん、そんなの関係ないわよ。年上のお姉様キャラが好きなお客様だって、いっぱいいらっしゃるんですから〜。――ほら、早く着替えさせて〜」

「――承知しました」

「〜〜ちょ…っ、ちょっと…!?」


家政婦のミトさん似の無表情なメイドさん達があやめさんとかえでさんを裏まで連れて行ってしまった…。

「〜〜きゃあっ!!ちょ…っ、どこ触ってるのよ…!?」

「〜〜わ、わかったわ…!自分で着るから、そこは…――あぁ〜んっ!」


〜〜どうやら、無理矢理メイド服に着替えさせられてるみたいだな…。まぁ、俺はその姿でも嬉しいけど…。

――カランカラン…。

「ほらほら、お客様が来たわよ〜」

「〜〜お、お帰りなさいませ、ご主人様〜…」「〜〜お、お帰りなさいませ、ご主人様〜…」


メイド服に着替えさせられたあやめさんとかえでさんが奥から出てきた。しかもネコ耳をつけたカチューシャまで…。

「うお〜、同じ顔のお姉様が二人いる〜!」

「姉妹キター!!」

「〜〜なっ、何なの、この人達…!?気持ち悪いわねぇ…」

「〜〜か、かえで…!」

「おぉっ、ツ、ツンデレ…!!ハァハァ…、萌え〜!」

「まぁ〜、すごいわ、かえでちゃん!太正時代の方なのにツンデレの極意をご存知だなんて」

「〜〜な、何よ、ツンデレって…!?」

「和葉た〜ん、俺、スタンプたまったお〜!」

「まぁ、おめでとうございます、ご主人様〜!スタンプが10個たまったご主人様には、当店のお好きなメイドとツーショットチャンスが与えられま〜す!」

「うぉぉぉ〜っ!!キター!!」

「では、ご主人様のお好きなメイドをお選び下さ〜い」

「そうだな〜、う〜む…、この『あやめ』たんにする〜!」

「え…っ?わ、私…?」

「かえでたんもいいんだけど〜、メイドとしての色気がどこか足りないんだよね〜」

「〜〜こんな男に言われたのが屈辱だわ…っ!」

「〜〜かえでさん、抑えて、抑えて…!」

「では、あやめちゃ〜ん、ご主人様とジャンケンしてあげてね〜」

「あ…、え〜と…、じゃ〜んけん――」

「あ〜ん、ダメよ、そんなんじゃ!このお店独自のやり方があるのよ。私の真似してね〜!『萌え萌えCHUCHU、にゃんけんぽ〜ん』!ちゃんとネコちゃんの手も忘れずにね〜?」

「〜〜わ、わかりました…。えっと…、じゃあ、行きますよ?」

「うおおおおっ、あやめたんとのツーショット…!!ハァハァ…」


〜〜たかだかじゃんけんなのに異様なまでのこの熱気は何なんだ…!?

「――『萌え萌えCHUCHU、にゃんけんぽ〜ん』!」

「やた〜っ!!あやめたんに勝ったにょ〜っ!!」

「おめでとうございます、ご主人様〜!――じゃあ、あやめちゃん、ご主人様と記念撮影してあげてね〜」

「〜〜は、はぁ…」

「ね〜ね〜、あやめたんは彼氏いるの〜?」

「えぇ…、結婚して、子供もいます…」

「うおおぅっ!!ひ、人妻キター!!」

「人妻萌え〜!!」


〜〜何だか個性的な客が多くて、大変そうだな…。俺も手伝ってやりたいが、ブルーメール家でメイド体験した時の苦い記憶が蘇ってきてしまうしな…。

そこへ、また客がやって来た。カランカラン…。

「お帰りなさいませ…――あら〜、敬一郎ちゃんじゃないの〜」

「〜〜ゲッ!?何でお前らがいるんだよ…っ!?」

「〜〜それをそっくりそのままお前に返したいんだが…?」

「うふふっ、敬一郎ちゃんはね、メイドさんが大好きなのよ〜。だから、この店の常連さんなのよね〜」

「〜〜店の売り上げに貢献してやってるだけだよ…!いいから、さっさとオムライス持ってこいっ!!」

「うふふっ、かしこまりました、ご主人様〜!」


席に着くなり、敬一郎は暗い顔で携帯を操作し始めた。

「〜〜ハァ…、また駄目だったか…」

「何がだ…?」

「就活。今は2年のうちからやんねーと間に合わねーんだとよ。就職氷河期だからさ…。〜〜ハァ…、帝都大でもやっぱ一流企業は厳しいか…」

「わざわざ他の会社に行かなくても、劇場を継げばいいじゃないか。誠一郎…君のおじいさんだってそれを望んでるんだろ?」

「あのクソジジイの下で誰が働くかよ…!?……まぁ、別に芝居が嫌いなわけじゃねぇけどよ…」

「え…?」

「俺、本当は脚本家になりたいんだ。舞台っていうか、テレビドラマとかの。高校の演劇部で賞とってさ、俺って結構才能あるじゃんって思って…」

「へぇ、そうなのか…!俺も帝撃に入ったばかりの頃、支配人に頼んで、『真夏の夢の夜』っていう舞台の脚本と演出を担当したことがあるんだ」

「へぇ、あんたも?」

「あぁ、俺も花組みたいにお客様を感動させてみたいって思ってさ…。そしたら皆、喜んで協力してくれたよ」

「へぇへぇ、よかったね〜。美しい友情物語だこと」

「何でそのことを素直に言わないんだ?おじいさんも皆も絶対喜ぶぞ?」

「んなこと言えるかよ…!俺はただ脚本を書きたいんであって、帝劇に貢献するつもりはねぇ。〜〜あんなクソジジイ…、絶対に許すもんかよ…」

「敬一郎…」


その時、敬一郎の携帯が鳴った。

『――もしもし?敬一郎さんですか…!?』

「あぁ、かりんか。何だよ?今、飯食おうと――」

『〜〜大変です…!さつきさんとゆずきさんがさらわれました…!!』

「〜〜な…っ、何…!?」

『申し訳ありません…!お昼時で人が出払っていたものですから、、私達だけではとても敵わなくて…』

「〜〜んなことはどうだっていいんだ…!それより、どこに連れて行かれた…!?犯人の顔は…!?」

『犯人は戦前の陸軍の軍服を着た男でした。顔は確か――』


そこへ、突然ノイズが入った。

「おい…!〜〜どうした、かりん…!?」

その直後、メイド喫茶の窓にひびが入り、入口のドアが自然に開いて、寒い風がビュービューと吹き込んだ。

『――久し振りだな、大神一郎』

「お、お前は…、〜〜天笠少佐…!?」


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