大神一郎誕生日記念・特別短編小説
「未来への絆〜21世紀の子供達へ〜」その2



「――さぁ、ここが21世紀の大帝国劇場ですよ」

さつきさんに言われ、俺は建物を見上げた。建物自体は少し古ぼけたが、そんなに変わってないな…。切符売り場も昔と変わらない盛況ぶりだ。

「へぇ、新春公演は『愛ゆえに』をやるのか…!」

「えぇ、いつもなら新春公演はコントを交えたライブをやるのですが、今年は劇場設立100周年を迎えるので…」


ポスターには、『真宮寺さゆり』と『ユリア・タチバナ』という名前と共に、さくらとマリアによく似た女優が写っている。

「二人とも、さくらさんとマリアさんのひ孫なんですよ。他にも『神崎れんげ』『アリス・シャトーブリアン』『李桃蘭』『桐島アンナ』『ソレッタ・乙姫』『レミ・ミルヒシュトラーセ』…。今、花組に所属している者達は皆、あなた方の時代の花組さんのひ孫にあたる者達なんです」

と、ゆずきさんは『新・愛ゆえに』のパンフレットを見せてくれた。見れば見るほど、さくら君達によく似ているなぁ…。

「そうか…。じゃあ、皆、結婚を…?」

「えぇ。さくらさんはお医者様になった幼馴染のたけしさんと、すみれさんは鹿沼子爵と、マリアさんは紐育で知り合った人気舞台俳優さんと、アイリスさんはフランスの名家のご子息と、紅蘭さんは花やしき支部の研究員の方と、カンナさんはお父様の道場のお弟子さんと、織姫さんはお父様の画家仲間の方と、レニさんはドイツ人の軍人さんとそれぞれご結婚されたみたいです。皆さん、結婚後も女優を続けて、霊力が尽きるまで光武に乗って戦い続けたそうです。帝国華撃団の礎を築いて下さった初代花組の皆さん、そして、あなた方スタッフは私達の憧れであり、目標なんですよ」


何だか照れるな…。でも、嬉しいな、子孫の皆が俺達をそんな風に思ってくれてるなんて…。

「――あ、さつきさんにゆずきさん…!戻ってらしたんですね」

受付には、かすみ君と由里君にそっくりな女性が座っていた。

「えぇ、ついさっきね」

「あら、そちらの方は…?」

「大島一郎さん。奏組の新米隊員候補者よ」

「か、奏組…って何だい…!?」

「ふふっ、イケメンばかりの戦闘部隊ですわ」


そ、そんな部隊があったとはな…。面白そうだから、今度、俺達の時代にもつくってみようかな。

「まぁ、そうでしたか。――申し遅れました。大帝国劇場で事務を担当しております、加山かりんと申します」

「受付の榊原由良で〜す!よろしくね、大島さん!」

「加山…!?もしかして、君のひいおじいさんとひいおばあさんの名前って雄一さんとかすみさんかい…!?」

「はぁ…、おっしゃる通りですが…。何故、それを…?」

「〜〜いや、はは…。俺のひいおじいさんが彼らの知り合いでね…」


加山とかすみ君のひ孫にまで会えるとはな…。

――よかったな、加山!お前はちゃんとかすみ君と結ばれるぞ…!

「――あれ…?お客様ですかぁ?」

今度は椿ちゃんにそっくりな娘がやってきた。

「あら、翼。新しいブロマイドの入荷準備は終わった?」

「はいっ、今日の夕方に届くそうですよ〜!はぁ〜、デジカメって便利ですよねぇ〜!プリントも早いし、綺麗だしっ!」


翼ちゃんか…。今までの流れからして、椿ちゃんのひ孫なんだろうな。

「それでは、そろそろ支配人室にご案内致しますね」

「あなた達は引き続き、公演の準備をお願いね」

「は〜い!」「は〜い!」「は〜い!」


21世紀の三人娘と別れ、俺は、さつきさんとゆずきさんと共に支配人室に向かった。

「――失礼します。大神一郎さんをお連れしました」

支配人室には、この時代の帝撃の司令と副司令と思われる白髪の優しそうな男性と老齢の美しい女性がいた。

「おぉ…!成功したか…!!さすがは桃蘭の発明品だな…!」

「お父さん…、あぁ…、またこうしてお会いできるなんて…!」

「もしかして、誠一郎となでしこか!?はは、二人ともすっかり年取って…」

「ははは…!何だか不思議な気分だよね」

「ところで、ひまわりはどうしたんだ?」

「〜〜あの子は…、その…新しい花組隊員候補を探しに飛行機に乗って…」

「〜〜ま、まさか、その飛行機が墜落して…!?」

「はは、違う違う!今も元気に世界中を飛び回ってるさ。あのひまわりがそう簡単に死ぬはずないだろ?」

「はは、確かに自分の娘ながら…な…」

「昔から自由気ままな性格だったでしょう?劇場に閉じこもってるのは苦痛だとか言って、隊員探しを口実に半分家出したようなものなの」

「はは、ひまわりらしいな。でも、連絡は取り合ってるんだろう?」

「あぁ、今はスカイプでパソコンを通じて、顔を見ながら話ができるしね」


〜〜ま、また知らないカタカナ用語が出てきたぞ…。

「ひまわりはね、一時期は花組隊長に就任して、舞台でもトップスタァの座に君臨していたのよ」

「へぇ、あのひまわりがなぁ…!なでしこは花組に入らなかったのかい?」

「私も若い頃は入ってたわ。けど、女優の仕事は苦手でね…。私はスポットライトを浴びるより、裏方で皆を支える方が性に合ってるみたい」

「僕も支配人になる前は、父さんみたいに花組の隊長をしながら、もぎりをやってたんだ。あ、よかったら、舞台観ていってよ…!さくらさんとマリアさんの黄金コンビは超えられないかもしれないけど、今の花組もなかなかだからさ――」

「――大神支配人、感動の再会を果たしているところ申し訳ありませんが、そろそろ本題の方に…」

「あぁ、そうだったね…!ごめんよ、すっかり話に夢中になっちゃって…」

「俺が来ることをわかっていたってことは、呼び出したのはお前達か?」

「あぁ。最近、新たな闇の霊力を持つ組織が現れたようでね、降魔の活動が活性化してきているんだ…」

「さつきさんとゆずきさんから話は聞いたよ。その為に真刀滅却の継承者の力が必要なんだな?」

「あぁ。今は僕が継承しているけど、もう80近いし、思うように体が動かなくてさ…。本当は敬一郎に真刀を継承してほしいんだけど、僕達の言うことなんて、ちっともきかなくて…」

「敬一郎はああ見えてね、とても優秀な霊力を持っているの。花組の隊長になって、光武に乗ってくれれば、帝撃の心強い戦力になってくれるはずなのよ」

「昔は素直な良い子だったんだが、両親を亡くしてから、少しひねくれてしまってね…」

「両親を…?」


すると、話の途中で、なでしこの携帯が鳴った。

「――えぇ、わかったわ。――司令、お車の用意が整ったようです」

「あぁ、わかった。――ごめんよ、これから、なでしこと賢人機関の会議に行かなきゃならなくてさ…」

「そうか。二人ともすっかり司令と副司令らしくなったな」

「はは、父さんと母さん達の仕事ぶりを見てたからね。手本が良かったんだよ」

「これが誠一郎の家の住所よ。申し訳ないけど、会議が終わるまでそこで待っててもらえるかしら?終わったら、続きをお話しするわ」

「あぁ、わかった。頑張れよ、誠一郎、なでしこ」

「ふふっ、ありがとう、お父さん。――さつき、ゆずき、家までご案内してあげて」

「了解しました、おばあ様!」「了解しました、おばあ様!」


誠一郎となでしこ、ピッタリのコンビネーションだな。この二人がトップでやっているなら、帝撃も安泰だ。

俺はゆずきさんの運転する車に乗り、銀座の一等地に建つ豪邸に到着した。

「こ…、ここが誠一郎の家なのか…!?」

「えぇ、支配人は化粧品産業の事業に成功した実業家でもありますからね」


あの泣き虫の誠一郎がこんな金持ちになっていたとはな…。

――ピンポーン…!

「は〜い?」

「さつきとゆずきです。大神一郎さんをお連れしました」

「は〜い、ちょっと待ってね〜」


門が自動で開き、メイド達を連れて中から出てきたのは、双葉姉さんにそっくりの女性だった。

「〜〜ふっ、双葉姉さん…!?」

「双葉?う〜ん、ちょっと惜しいわね〜。私は大神和葉よ。よろしくね〜」


ということは、誠一郎の娘か…。この人は誠一郎の娘で、敬一郎の姉さんってわけだな。

〜〜けど、このおっとりした口調…。乱暴者で豪快な姉さんと比べると、違和感ありまくりだが…。

「あら〜、あなたが私達のひいおじい様ね〜。いらっしゃ〜い!さつきちゃんとゆずきちゃんもゆっくりしていってね〜」

「ありがとうございます。――敬一郎君はいらっしゃいますか?」

「う〜ん、敬一郎ちゃんはね、いるにはいるんだけど〜、『さつきちゃんとゆずきちゃんが来たら、いるって言わないで追い返してくれ』って言われちゃって〜」

「〜〜何正直に教えてんだよ、バカ姉貴っ!!」


と、敬一郎が2階の部屋から身を乗り出し、怒鳴っていた。

「ふふっ、やっと見つけたわよ〜、敬一郎君!」

「〜〜や、やべ…っ!!」

「あら〜、敬一郎ちゃん、や〜っとお顔を見せてくれのね〜。姉さん、嬉しいわ〜」

「…お邪魔します、和葉さん。敬一郎君と大事なお話があるので」

「あらあら、皆、と〜っても仲良しさんで、姉さん、嬉しいわ〜」


敬一郎が部屋の鍵をロックする前に、さつきさんとゆずきさんは足でドアが閉まるのを防ぎ、部屋に無理矢理入った。

「西村さんの彼女と浮気したそうね。その前は若い女の子のお客様にも手を出したそうじゃない?」

「チッ、お前らには関係ねぇだろ?」

「んもう、いつまでそうやってダラダラしているつもりなの…!?あなたは大神家の長男なんだから、いずれは花組の隊長になって、真刀滅却を継承することになっているのよ!?」

「せっかくそんな優秀な霊力を持ってるのに、もったいないと思わないの?あなたの力が人の…、いえ、この帝都東京を守る助けになるのよ…!?」

「フン、知るかよ、そんなの」


〜〜本当に生意気な奴だなぁ…。一体誰の遺伝子が出たんだ…?

「ともかく、敬一郎、今の帝撃には君の力が必要らしいんだ…!さつきさんとゆずきさん達と一緒に光武に乗って戦ってやってくれないか?」

「何で見ず知らずの奴らの為に俺が命をかけなきゃなんねぇんだよ!?〜〜っていうか、お前、誰なんだよ?俺のドッペルゲンガーか!?」

「ご先祖様に向かって、その口のきき方は何なの…!?あなたの為に、わざわざおじい様が呼び寄せて下さったのよ!?」

「ケッ、ご先祖様が一族の恥である俺に説教…か。あのクソジジイ、余計な真似しやがって――」

「――あら、ベッドの下にこんな物隠して…。おぼっちゃまはいけない子ですわね〜」

「え…?」


メイド服を着たあやめさんとかえでさんにそっくりな女性二人が敬一郎のベッドの下を探っていた。

「こ、この人達も君達の姉妹かい?」

「い、いえ…、姉妹は私達二人だけですわ」

「じゃ、じゃあ、この人達は…?」

「――『女教師のアブない個人授業』ふふっ、さすがは大神君の子孫ね。春画本の好みもおんなじなんだから」

「も、もしかして…、本物のあやめさんとかえでさんですか…!?」

「ふふっ、ご名答!」


あやめさんとかえでさんは、パソコンという機械で春画本に描かれていそうなようないかがわしい映像を流した。

「〜〜か、勝手に再生してんじゃねーよっ!!」

「んもう、敬一郎君ったら…。こういうのが好きなの…?」

「〜〜最っ低…っ!!こんなの捨ててやるわっ!!」

「〜〜あぁ〜っ、何すんだよ、ゆずきぃっ!!」

「ふふっ、血は争えないわね〜、大神君」

「〜〜あははは…」


〜〜俺もついこの前、ベッドの下に隠しておいた春画本をあやめさんに見つかって、かえでさんに捨てられたばかりなんだよな…。他人事とは思えない状況だよ…。

「まぁまぁ、楽しそうな敬一郎ちゃんを見られて、姉さん、嬉しいわ〜。――あなた達、皆さんにお紅茶を振る舞ってやってくれる?」

「かしこまりました、お嬢様」

「あん、ダメよ〜。家政婦のミトさんみたいに『承知しました』って言わなくっちゃ〜」

「しょ、承知しました…。〜〜何で私がこんなこと…」


あやめさんとかえでさんがメイド服を着て、双葉姉さんにそっくりな和葉さんにこき使われている…。何とも不思議な光景だ…。

「それにしても、二人とも、どうしてここに…!?」

「あなたがこの娘達に21世紀に連れ出された時にね、私達も巻き込まれちゃったみたいなのよ」

「それで、2012年の帝都をさまよい歩いていたら、双葉お義姉様そっくりの和葉さんをたまたま見かけて、ここに連れてこられたってわけ。お嬢様の趣味で家政婦ごっこもやらされてるのよ」

「あら〜、だって、あやめちゃんもかえでちゃんも、と〜ってもメイド服が似合うんですもの〜」


〜〜メイド服といっても、かなりスカート丈が短い気もするが…。

「ふふっ、似合うかしら?ちょっと恥ずかしいけど…」

「えぇ、お二人とも、よく似合ってますよ」

「ヒュ〜♪さつきとゆずきにそっくりだけど、そっちの二人の方が俺、タイプだな〜」

「〜〜敬一郎っ!?」

「〜〜敬一郎君っ!?」


と、さつきさんとゆずきさんは同時に敬一郎の額にデコピンした。俺とあやめさんとかえでさんの関係とよく似た三角関係らしいな…。

そういえば、この3人っていとこ同士なんだよな?なら、結婚はできるのか…。さつきさんとゆずきさんは敬一郎のことが気になっているみたいだが、敬一郎の方はどうなんだろう…?

「――すみません、私達までお呼ばれしてしまって…」

「あー、いいんだよ。なでしこもさつきちゃんもゆずきちゃんも、いつもよく頑張ってくれているからね。夕食ぐらい、ごちそうさせてよ」


俺達は誠一郎の豪邸で、夕飯にお呼ばれすることになった。

「ごめんね、母さん、あやめおばさん…。和葉も悪気があるわけじゃないんだよ…」

「ふふっ、いいのよ、メイドごっこくらい。可愛いひ孫の頼みですもの」

「その服、今日は絶対脱がないでね〜」


〜〜和葉さん、マイペースなところも双葉姉さんにそっくりだな…。

それにしても、あやめさんとさつきさん、かえでさんとゆずきさん…。同じ顔が4人いるなんて、不思議な光景だよな…。四つ子だと、こんな感じなんだろうか…?

「すごいごちそうだな…!いつもこんな料理、食べてるのか?」

「今日は父さん達が来てくれた記念だよ。一流ホテルで修業したシェフが作ってくれてるから、味はイケるだろ?」

「あぁ、こんな美味い料理、初めて食べたよ…!」

「この味噌汁とぬか漬けはね、私が作ったのよ〜」

「まぁ、和葉さんが?」

「えぇ、ご先祖様秘伝のレシピなの〜。うふふっ」


どおりで、双葉姉さんと同じ味のはずだ…。ふっ、懐かしいあの味が21世紀になってもまだ残ってるなんて、何だか感動的だな。

「敬一郎君、さっきは思い切りデコピンしちゃって、ごめんなさいね。痛くない?」

「あ、あぁ、別に…」

「そう…、ふふっ、よかった」


額をさつきさんに優しく撫でられ、敬一郎は顔がにやけている。そんな敬一郎のすねをゆずきさんがテーブルの下で蹴飛ばした。

「〜〜って〜な…!!何すんだよっ!?」

「フン、食事中に大声出さないで頂戴」


元々上官だったこともあるし、俺だったら、絶対かえでさんにあんな口はきけないな…。〜〜っていうより、きいたら殺されるな、確実に…。

その時、敬一郎となでしこの携帯が同時に鳴った。

『――銀座に降魔が出現しました!至急、劇場の作戦指令室へお越し下さい…!!』

「わかった!すぐに向か…〜〜ごほっ、ごほっ…!さ、魚の骨が喉に…」

「〜〜いぃっ!?だ、大丈夫か、誠一郎…!?」

「んもう、誠一郎は昔っから抜けてるんだから…。――大神君、姉さん、私達も行きましょう!」

「そうですね…!――ほら、敬一郎も手伝ってくれ!」

「やだね。俺はそんなくだらないことで命を捨てたくない」

「〜〜くだらないとは何だ!?多くの帝都市民の命がかかってるんだぞ…!?」

「チッ、偉そうに…。――無能な政治家を助ける代わりに、大事な家族を見殺しにしたくせによぉ」

「え…?」

「〜〜そ…、それは…」

「…とにかく、俺は行かねぇからな!」


敬一郎は誠一郎に背を向けると、自分の部屋に戻っていってしまった。

「〜〜あんなワガママな奴、放っておきましょう。今は私達だけで何とかしないと…!」

「…気にしないで、誠一郎。いつか、敬一郎も使命に目覚めてくれる時が来るわ」

「あぁ…、そうだね、なでしこ…」


俺達が駆けつけた時には、すでに花組が8割方、降魔を殲滅していたので、俺達は残りの降魔を倒す程度で、事態は収拾した。幸いにも降魔の数は少なかったようだが、肝心の黒幕は姿を見せなかった…。

「〜〜こんな時代にもまだ降魔がいたなんてね…」

今も昔も変わらぬ降魔の不気味な死体に、あやめさんとかえでさんは眉を顰めた。人が都市に集まり、負の感情を抱き続ける限り、降魔は永久に消えないのだろう…。

俺達が誠一郎の豪邸に帰ってきた時には、すでに深夜の1時をまわっていた。なので、別宅があるなでしことさつきさんとゆずきさん、そして、俺達はその家に泊まることになった。


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