藤枝かえで誕生日記念・特別短編小説
「紅葉の記憶〜初恋の君へ〜」その2



「〜〜いたたた…、大丈夫ですか、かえでさん――!」

互いの顔がさっきより間近にあることにハッとなり、私と大神君は照れて赤くなった。機体が揺れた際、二人とも座席から投げ出され、床に転がったみたいだ。しかも、丁度、大神君が私の上に乗って押し倒す形になってるし…。

「も、もうそんなに揺れないみたいですし…、ここに座ってた方が楽かもしれませんね…」

「そ、そうね…。じゃあ、座りましょうか…」


自分で言っておきながら、大神君は動こうとせず、真顔で私を見つめてくる。私は頬を赤らめ、同じように彼を見つめる。

「お、大神…君…?」

「もう少し…このままでいていいですか?二人っきりになれる時なんて、劇場ではほとんどありませんし…」

「大神君…」


今は二人っきりだし、邪魔される心配はない。

私は胸の鼓動が高まるのを感じながら静かに目を閉じ、唇を少し突き出した。大神君もそれに応えるように、自分の唇を重ねようとした…その時だった。

『――やっほ〜、お二人は〜ん!機械の調子はどないでっか?』

突然、モニターに紅蘭が映ったので、大神君は慌てて私の体から下りた。

〜〜もう…、これで今日、2回目よ…?

「〜〜や、やぁ、紅蘭。今のところ、特に問題はないよ」

『ホンマでっか?ひゃ〜、よかったわぁ〜!人間乗せるの、初めてやったさかい。ホンマは少し不安やったんやけどな〜』

「そ、それはよかったな…。〜〜あまり聞きたくない事実だったけど…」

『お兄ちゃん、お姉ちゃん、やっほ〜!』

『お〜い!二人とも、酔ってないか〜?』

『私もタイムマシーン、乗りたいデ〜ス!!中尉さ〜ん、とっとと帰ってきて、かえでさんの代わりに私を乗せるといいデ〜ス!』

『織姫、貴重な電波を無駄遣いしないで!――紅蘭、例の話をするんでしょ?』

『あ、せや。帰る時の再起動方法、説明するの忘れてたさかい。今、しとくな?』

「あぁ、頼むよ」


大神君は通信を介して、紅蘭から熱心に教わっている。

私は欲求不満のまま、ゆっくり体を起こした。〜〜せっかく二人っきりになれたと思ったのに、すぐこれですものね…。

『…3つ目のブラックホールを通ると、通信できなくなるらしい。気をつけて?』

「わかったわ。ありがとう、レニ」

『まぁ、無事に戻ってこられるようお祈りしてますわ。せいぜい時空の狭間に取り残されないよう、注意して下さいまし』

「〜〜ふ…、不吉なこと言わないでくれよ、すみれ君…」

『大丈夫ですよ。すみれさん、本当は心配してるだけですから!』

『〜〜さくらさんっ!?余計なこと言ってないで――』

『あははは…、それじゃあ失礼しま〜す!――あ、お土産買ってきて下さいね〜!』


さくらの言葉を最後に、通信がぷつりと途絶えてしまった。

「電波が飛ばない…。どうやら、3つ目のブラックホールを過ぎたみたいですね…」

「そうみたいね…。到着までどれくらいかかるのかしら…?」

「さぁ…?」


窓の外を見ると、街灯のない田舎町みたいに真っ暗だった。まるで宇宙空間を漂っているみたいだ。時々、流れ星のようなものが過ぎていく。あれはそれぞれの時代の入り口みたいなものなのだろうか…?

「わぁ…!本当に時空を飛んでますね」

「まるで宇宙旅行してるみたいね。ふふっ、何だかロマンチック――!」


すると、再びタイムマシーンが大きく揺れ出したので、私達は必死に座席にしがみついた。その刹那、タイムマシーンの操縦席から火花が飛び散った。

「〜〜いぃっ!?こ、これはまさか…うわあああ…――!?」

「きゃああああ…!!」


機体がまっさかさまに落ちているのか、私達の体が無重力状態のように浮かび上がる…!

「かえでさん…っ!!」

大神君が座席にしがみつきながら、私の手を掴んだ時、タイムマシーンが光で包まれた…と思ったら、強い衝撃の後に私達は床に叩きつけられた。幸い、無重力状態で浮いていたので、大した怪我はなかったけど…。

「〜〜つ、着いたのか…?」

扉を開け、大神君は外に出た。

青い空と綺麗な紅葉の絨毯が敷かれた公園…。ここは確か、実家の近くの公園だわ…!

「本当に過去の世界なのかしら…?何だかあまり実感が湧かないわね…」

私が呟くと、大神君はタイムマシーンの具合を確かめた。

「〜〜参ったな…。メインエンジンが壊れたみたいですね…」

「直せそうにない?」

「紅蘭と連絡が取れれば何とかなるかもしれませんが…、〜〜キネマトロンも繋がらないみたいだし――」


と、その時、タイムマシーンの非常用ボックスから5匹のちびロボ達が出てきて、私達の周りをフワフワ浮いて囲み始めた。

「ちびロボ達…?もしかして、直してくれるのか?」

ちびロボ達は元気に頷くと、小さな体で忙しく動き始め、手際良くタイムマシーンを修理し出した。

「紅蘭の言っていた非常時用の機能ってこのことだったのね…」

普段は見過ごしがちだけど、紅蘭って実はものすごい発明家なんだなって、この時ばかりは気づかされたわ…。

「修理が終わるまで、その辺ブラブラしていましょうか?せっかくタイムスリップしてきたんですし…」

「そうね。銀座に行けば、本当に過去に来たのかわかるかもしれないわね」


ちびロボ達に修理を任せ、私と大神君はイチョウの並木道を並んで通った。

黄色く色づいたイチョウが舞う中を人々が往来する。言われてみれば、洋服を着ている人より銘仙等の和服を着ている人の方が多い気がする。やっぱり、ここは本当に過去の世界なのかしら…?

しばらくすると、私の実家の天雲神社が見えてきた。

「あ…っ!煉瓦道がない…!!」

神社の石階段の前の通りは煉瓦道ではなく、でこぼこの整備されていない道で、目の前には広い田んぼが広がっていた。確か、煉瓦道ができたのは私が成人する頃…。それがないということは…。

「やっぱり、ここは過去の世界なんだわ…!」

「確かにあんな立派な煉瓦道が突然消えるなんて思えないですしね――」

「――ほら、こっちよ、かえで!」

「待って〜、お姉ちゃ〜ん…!」


私と大神君は子供達の声が聞こえてくる方へ顔を向けた。

小さい女の子が姉と思われる女の子を無邪気に追いかけていた。鬼ごっこだろうか?ふふっ、とても楽しそうだ。

「ふふふ…、そんなにはしゃいでいると転ぶわよ?」

女の子二人を優しく見守る女性…。その顔を見て、私は驚愕した。

「――お母…様…」

「あの方が…?…ってことは、あの子達はあやめさんとかえでさん…!?」


幼い頃の私とあやめ姉さんは、落ち葉をふざけてかけ合っている。

そういえば、姉さんは忙しい修行の合間によく私の面倒をみてくれてたんだっけ…。そんな私達姉妹をぼたんお母様は優しい顔で見守っている。

ずっと会いたくて仕方なかったお母様…。まさかもう一度元気な姿を見ることができるなんて、思ってもいなかった…。

目を潤ませる私を大神君は優しく抱き寄せた。

「よかったですね」

「ふふっ、えぇ…!」

「――あやめ、修行の時間じゃぞ」


そこへ、先巫女のおばあ様がやってきた。20年近くも前というだけあって、今よりまだ髪も黒く、しわもそんなに見当たらない。

「……はい…」

「え〜?もうちょっと遊ぼうよ〜」

「出来損ないは黙っとれ!無能なお前さんと違って、優秀な姉さんは忙しいんじゃ」


おばあ様に怒鳴られ、子供の私は泣き出してしまった。〜〜まったく…、昔から意地が悪いんだから…。子供にも容赦ないものね…。

泣きじゃくる私の頭をあやめ姉さんは優しく撫でてくれた。

「ごめんね…。また明日遊んであげるから…」

「本当…?」

「うん!だから泣かないで?」

「えへへっ、お姉ちゃん、だ〜い好き!」

「ほれ、さっさと支度せんか!」

「〜〜は、はい…っ!」


姉さんは背筋をピンと伸ばし、おばあ様の後を追って、急いで神社の本殿へ入っていった。

「…仕方ないわ。お母様と遊んでいましょ?」

「うんっ!じゃあ、お手玉しよ!」

「いいわよ。じゃあ、もみじおば様からもらったものでやりましょうか?」


お母様がお手玉するのを私は子供の頃の私と同じように見つめた。

「優しいお母様だったんですね…」

「えぇ、とっても…ね…。私とあやめ姉さんを平等に愛してくれた、唯一の人だったわ…」


いつも優しく私の名前を呼んで、抱きしめてくれたお母様…。私の大好きな美味しいコロッケを作ってくれたお母様…。〜〜今も生きていたら、きっと誠一郎達を可愛がってくれたでしょうに…。

「――そろそろ、ケーキ、買いに行きましょうか?今日はかえでのお誕生日ですものね?」

「わ〜いっ!かえで、いちごのがいい〜!!」

「ふふっ、かえでは苺が大好きですものね」


〜〜それにしても、私にもこんな純真無垢な時代があったなんてね…。自分で見てて、恥ずかしくなってくるわ…。

手を繋いで銀座の街を歩くお母様と幼い私の後を、私達はこっそり尾けることにした。

4丁目を通っても、あの大きな大帝国劇場は見当たらない…。少し寂しいけど、過去の世界なんだから当たり前よね…。

「活気はあるけど、今と比べるとまだ店の数が少ないですね…」

「そうね。この辺も太正時代になってから急速に発展したみたいだし…」

「――あっ、あった〜、ケーキ屋さん!」


お母様達が洋菓子専門店に入っていったので、私と大神君も隠れながら様子を見ることに…。

「ショートケーキのホールを一つ頂けるかしら?娘の誕生日なの」

「かしこまりました〜!」

「ねぇねぇ、お外で遊んでてもいい?」

「いいけど、あまり遠くに行かないようにね?」

「は〜いっ!」


ケーキができるのを待つ間、幼い私は店の外で童歌を歌いながら毬を突いて遊ぶことにしたらしい。お母様は店員と楽しく喋っているようだ。

「……声かけるくらいなら大丈夫ですよ。あなたが未来から来たかえでさんだってバレなければいいわけですし…」

「でも、それでもし、未来が変わってしまったらどうするの?紅蘭も過去には干渉するなって言ってたじゃない…」

「〜〜それはそうかもしれませんが…――!」


急に強い風が吹き、遊んでいた毬が飛ばされてしまった。

「あ〜ん、待ってぇ〜…!」

幸い、毬はケーキ屋の角にいた小さな男の子の足にぶつかって止まった。

「よかったぁ…!――ねぇ、それ、取って〜!」

「〜〜う…っ、ひっく…、……え…?」


うずくまって泣いていたその男の子は、子供の私に呼ばれて、涙と鼻水でぐしょぐしょになっていた顔を上げた。

その子を見た瞬間、私の中で記憶が甦ってきた。

アルバムに挟んであった紅葉…。あれをくれた男の子だ…!

「どうして泣いてるの?お腹痛いの…?」

「〜〜ひっく…、ううん…。姉さんと…っ、うぅ…はぐれちゃったんだ…」

「じゃあ、迷子なのね?かえでが一緒に探してあげるよ!だから、もう泣かないで?ね!」

「本当?えへへっ、ありがとう…!」


男の子は私が微笑むと、自分も安心したように笑った。

幼い私はちり紙で男の子の涙と鼻水を拭ってやっている。…自分で言うのも何だが、子供の頃からしっかりしていたものである。

「……あの子…」

「…大神君?」

「あ…、〜〜いえ…。あの子のこと、今でも覚えてますか?」

「えぇ、ほんの少しだけど…ね。私の初恋の相手だから…」

「え…っ?」

「ふふっ、あら?ヤキモチ?」

「え?〜〜え〜と…」

「ふふっ、安心して。あの子とはこの日以来、一度も会ってないわ。……今頃、どこで何してるのかしらね…?」


大神君は黙って男の子を見つめている。私の説明も上の空みたいだ…。

「…大神君?どうしたの、さっきからボーッとして…?」

「あ…、いえ…。――あ、移動するみたいですね。俺達も行きましょうか」


どことなく落ち着かない大神君に私は首を傾げた。自然体を振る舞ってはいるが、何かを考えている様子だ。一体どうしたのかしら…?

「――お姉さんとはどこではぐれたの?」

「あの神社だよ…。あのね、僕、父さんに会いに姉さんと帝都に旅行に来たんだ。それで、待ち合わせ時間までまだ早いって言うから、この公園で遊んでたんだ。そしたら、急に姉さんがいなくなっちゃって…。〜〜ひっく…、僕、この辺の道とかよくわかんないし…。このまま一生姉さんに会えなかったらどうしよう…?」

「こぉら、めそめそ泣かない!男の子でしょ?」


と、子供の私は男の子の額を指で小突いた。どうやらこの仕草は、私達姉妹に昔から染みついているものらしい…。

「大丈夫だよ。かえで、この神社に住んでるから、道とか詳しいよ!お姉さんなんてすぐ見つけてあげるよ!」

「ほ、本当…?」

「もちろんっ!――あ、ブランコ、空いてる!乗ろっ!」

「え…?さ、探すのは…?」

「少し遊んでからでも大丈夫だよ!ほら、早く〜!」

「〜〜う、うん…」


子供の私は半ば強引に男の子を誘い、うちの神社にあるブランコに乗り始めた。

「私はかえで!あなたは?」

「僕は…、〜〜えっと…」

「…??」

「……ごめんね…。名前、教えちゃいけないんだ…」

「え〜?何で〜?」

「むやみに知らない人に名前を教えちゃ駄目だって、姉さんに言われてるんだ…。僕の家、変な力を持った人が多いって有名だからさ…。名前教えちゃうと、その家の人だってバレちゃうだろ…?姉さんなら大丈夫だけど、僕だとトラブルに巻き込まれちゃうかもしれないからって…」

「ふ〜ん…。その変な力って…?」

「よくわからないんだ…。姉さんが言うには、僕にもあるみたいなんだけど…」

「ふ〜ん。うちの家もね、み〜んな不思議な力を持ってるのよ!おばあ様もお母様もそうだし、お姉ちゃんにもとっても強い力があるんだって!えへへっ、お姉ちゃんね、将来は巫女さんになるんだよ!」

「みこさんって…?」

「う〜ん、よくわかんない…。けど、とってもすごいことなんだって!『お姉ちゃんは、とってもゆーしゅーでれーりょくがきょーりょく』だって、いっつもおばあ様が言ってるもん!それにね、と〜っても優しいんだ!」

「へぇ、いいなぁ…!僕の姉さんもすっごく強いけど、僕のことすぐ怒って殴るんだ…」

「あはははっ!うちのおばあ様みた〜い!こ〜んなおっかない顔で怒るんだよ〜!」

「あははは…!変な顔〜!」


お姉さんを探すという目的もすっかり忘れ、子供の私と男の子は呑気に喋り続けている…。その様子を私と大神君は木の陰から見守っている。

「〜〜まったく、何やってるんだか…」

「ハハ…、でも、かえでさんらしいですね。困ってる人を見かけたら放っておけないところとか、今と変わってませんよ」

「ふふっ、この頃はまだ…ね…。……あの頃の私は普通の子と同じ、汚れを知らない子供だったから…」

「…この頃が一番幸せでしたか?」

「ふふっ、確かに幸せだったかもしれないわ…。でも、一番はやっぱり今かしら?可愛い誠一郎も授かったし、何より大神君…、あなたがいてくれるしね」

「かえでさん…」

「ふふっ、もう戻りましょうか?お母様の元気な姿が見られただけで、満足だわ」

「そうですか…。ちびロボ達の修理はどうなりましたかね――?」

「――ちょっと、あんた達っ!」


突然、威勢の良い声が私達の会話を遮った。いつの間にか、幼い私が足元にいて、腰に手を当てて、私達を睨みつけていた。

「〜〜いぃっ!?」

「〜〜み…、見つかっちゃったみたいね…」

「さっきからコソコソ尾けてきて…。この私が気づかないとでも思ったの!?誘拐するならしてみなさいよ!私とこの子には超〜強い力があるんですからねっ!!」

「自分に対して言うのもなんだけど…、〜〜なっっまいきなガキだこと…っ!!〜〜お嬢ちゃ〜ん、大人をナメたら、痛い目見るわよ〜?」


怒りのオーラを纏った私の迫力に、子供の私もさすがにたじろいだみたいだ…。

「〜〜あ…、相手は子供なんですから…。――大丈夫だよ〜?お兄さん達、す〜ぐ帰るから…」

「〜〜うぅ…、怖いよぉ〜、かえでちゃあん…」

「〜〜だ、大丈夫よ!かえでが守ってあげるからね…!!――さぁ、観念なさいっ!かえで達をどうするつもりっ!?かえでが本気出すと、すっごいんだからね…っ!?」


と、子供の私は落ちていた木の棒を拾い、少し震えながら構えてきた。

「〜〜いぃっ!?だ…、だから誤解だって――!」

すると、大神君の持っていた私のペンダントと、幼い私の持っていた同じペンダントが共鳴するように光り出した。

「こ、これは…!?」

『――愛する人にそのペンダントをお渡しなさい。神が未来永劫、あなた達を守って下さるでしょう…』


藤枝家に生まれた女性が将来を添い遂げたいと決めた相手に渡すペンダント…。

そうだわ…!丁度この日の朝、誕生日を迎えた私にお母様がくれたんだった…!

「〜〜な、何で持ってるの…!?それ、お姉ちゃんとかえでしか持ってないってお母様が言ってたのに…」

「〜〜そ、それは――!」


私が口ごもったその時だった。

ペンダント同士が共鳴して発生した光が天雲神社の鳥居に向けて走り、境内に祀られていた神鏡が共鳴して、カタカタ揺れ出した。

その異変を本殿にいたおばあ様と姉さんもすぐに察知した。

「〜〜な、何でしょう、この力は…!?」

「〜〜ぐぬぬぬ…!襖が開かん…っ!!一体、何が起こっておるのじゃ…!?」


不思議な力のせいで、姉さんとおばあ様は修行の場である試練の間に閉じ込められたらしい。おばあ様も感じたことのない異変に戸惑っているみたいだ。

まさか、大人になった孫がペンダントを渡した相手を未来から連れてきたなんて、夢にも思わないでしょうけどね…。

「このペンダントは普通、一つのはず…。それが同じ次元で二つ存在したことによって、ペンダントに集約されていた巫女の力が暴走したんだわ…!」

「じゃあ、俺達が元の時代に帰れば、収まるんですね…!?」

「〜〜ど、どうしよう…!?おばあ様に怒られちゃうよぉ…!!」


その時だった。

何か邪悪な…、この世のものとは思えない異質な気配を感じ、私と大神君は振り返った。私達の視線の先にあったのは、子供の頃、決して近づいてはいけないと言われていた古井戸だった。

「〜〜な、何だ、あれは…!?」

「あれは…確か…――!」

『――ソノ力…、忘レモセヌ…憎キ力ァァ…!!』


お札が貼られていた古井戸の蓋が外れ、先が見えない真っ暗な底から包帯で全身を巻き、鎌を持った黒ずくめの化け物がぬうっと姿を現した。


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