藤枝かえで誕生日記念・特別短編小説
「紅葉の記憶〜初恋の君へ〜」その３
「〜〜きゃああ〜っ!!」
「〜〜うわ〜ん！怖いよ〜っ!!」
幼い私と男の子は泣きながら、私と大神君の後ろにそれぞれ隠れた。
けど、こんな化け物と遭遇したなんて、私の記憶にはないわ…！やっぱり、過去の自分と顔を合わせたことで、過去が変わってしまったの…!?
「〜〜あの井戸にあんな化け物が封じられてたなんてね…」
「きっと、ペンダントの力で封印の力が歪んでしまったんだと思います…。〜〜絶対にこの子達は守らないと…！」
今、ここで子供の頃の私が死ねば、未来の私は存在しないことになり、私自身も消えてしまうだろう…。
私と大神君は、二剣二刀の神剣白羽鳥と真刀滅却を鞘から抜こうと腰に手をかけたが、ハッとなった。元の時代の楽屋に置いてきてしまっていたことに気づいたからだ…！
仕方なく、私はベルトを巻いた太ももに隠し持っていた小刀を、大神君は拳銃を取り出した。
「その子を連れて、早く逃げなさい！」
「わ、わかった…！」
『逃ガサヌゥゥ…！』
化け物の低い声が響いた直後、神社の鳥居の結界が闇の黒い結界で覆われた。
「〜〜しまった…！」
『ソノ力…、百年前ニ我ヲ封ジタ力…！〜〜許セヌゥゥゥ…ッ!!』
化け物の素早い鎌の振り下ろしを何とか切り抜け、大神君と私は体勢を整え、一緒に向かっていく。
「〜〜く…っ、――大神君！」
「了解！」
私の小刀と大神君の放った銃弾が同時に化け物の左胸に命中した。その手応えを確かに感じたが、小刀と銃弾は奴の体をすり抜けてしまった。
「〜〜攻撃が効かない…!?」
「かえで、聞いたことある…！昔、悪い力を使って、たくさん人を殺した奴をかえでのご先祖様がこの井戸に封印したって…」
「悪い力って…、もしかして闇の霊力のことでしょうか…!?」
「だから、肉体が滅んでも悪霊として活動を続けられるのね…。〜〜まったく、厄介なんだから…」
『クククッ、ドウシタ？モウ終ワリカァ…!?』
化け物は鎌を振り回し、猛スピードで間合いを詰めてきた。私と大神君はそれぞれ左右に散って避けたが、化け物は間髪容れず、両腕から包帯を飛ばしてきた。
「きゃああっ!?」
包帯は私の四肢に蛇のように巻きつき、磔にされたキリストの如く見せしめにされてしまった。
「〜〜かえでさん…っ!!」
『女…、我ヲ封ジタ奴ノ子孫ダナ…？コノ恨ミ、タップリ晴ラシテクレヨウ…！』
体を締めつける包帯の力が強まり、私は涙目になって、仰け反った。
「きゃあああっ!!〜〜は…っ、あぁっ、いやぁ…っ！」
包帯はさらに私の乳房に巻きつき、さらに両太ももの間に入り込んで、股間を擦るようないやらしい動きで巻きついてきた。
「あんっ、こ、こんな…はぁ…んっ、〜〜や、やめなさ…ああああん…っ!!」
『ククク…、罰トシテ、我ノ子ヲタップリ孕マセテヤロウ。オ前モ井戸ニ封ジ込メテクレル…！』
化け物は井戸に私を引きずり落とそうと包帯を引っ張り始めた。
「いやああああっ!!やめてぇぇっ!!」
「〜〜かえでさん…っ!!」
大神君は私の小刀を拾い、化け物を再び攻撃し始めた。しかし、どんなに刺しても切り裂いても、悪霊である奴の体に傷をつけることができない。
『フフ…、馬鹿メ。何度ヤッテモ同ジコ――!?』
化け物は大神君に気を取られている隙に後ろに倒れそうになった、幼い私と男の子が化け物の袖から靡く包帯を思い切り引っ張ったのだ。
「こんのぉ〜っ!!」
「おばちゃんを放せぇ〜っ!!」
『〜〜イタタタ…!?ナ…ッ、何ヲスルゥゥ!?』
包帯が緩み、束縛から解放された私は地面に落されたが、すぐに大神君が駆け寄ってきて、抱き起こしてくれた。
「大丈夫ですか…!?」
「えぇ、何とかね…。……それよりさっき、おばちゃんって呼ぶ声が聞こえたけど…？」
「〜〜今はそんなこと言ってる場合じゃないですって…！奴をどうにかする方法を考えないと…」
「そうね…。〜〜くっ、やっぱり神剣と真刀がないと…」
「ですが、あの包帯を狙えば勝ち目はあるかもしれません。唯一ダメージを与えることができるようですから…」
「――うわああ〜っ!!」
私と大神君は悲鳴が聞こえた方を振り返った。化け物は今度は子供達にターゲットを切り替えたようで、鎌を振り回しながら、包帯で捕まえようとしていた。
「〜〜うわああ〜ん…！姉さぁん、助けてぇ〜…!!」
「んもう、男の子でしょ!?〜〜あっ、あんたなんか怖くないんだからね…っ!?かえでは藤枝の一族だもん！ あんたみたいな変態、また封印してやるんだからっ!!――たああああっ!!」
と、幼い私は啖呵を切って、木の棒で悪霊に殴りかかった。
「〜〜やめなさい…っ!!子供が敵う相手じゃないわ…!!」
『ソノ霊力…、貴様モアイツラノ子孫カ…!!』
悪霊は怒りと闇の霊力を込めた鎌を子供の私に向かって振り上げた。
「きゃ…っ!?」
「〜〜かえでちゃん…っ!!」
鎌が振り下ろされる直前に、男の子は幼い私を抱えて、横にダイブした。鎌はギリギリのところで二人をかすめたので、男の子の髪が数本切れた程度で済んだ。
先程まで怯えるだけだった男の子から感じられる強力な光の霊力…。あの霊力の感じ…、まさか…!?
「かえでのこと…、守ってくれたの…？」
「当たり前だよ。だって、かえでちゃんは僕の大事な友達なんだから…！」
「そっか…。えへへっ、ありがと…！」
と、幼い私は頬を紅潮させ、嬉しそうに微笑んだ。
だが、呑気に喜んでいる暇はない。化け物はわなわな体を震わせ、さらに怒りと憎しみで闇の霊力を強くさせた。
『〜〜オノレェェ…ッ！』
「かえでさん、よそ見している暇はありませんよ…！」
「ふふっ、了解、大神司令見習いさん！私達も負けてられないわね…！」
悪霊が子供二人に気を取られている隙に、私は小刀を振り回し、大神君は銃を靡く包帯めがけて連射させた。
『グワアアアッ!!〜〜ク…ッ、コノ程度デェェ…ッ！』
だが、いくら切っても焼き払っても包帯はどんどん伸び続けた。包帯は闇の霊力のオーラで靡き続け、悪霊の強さを物語っている。
「〜〜くっ、やっぱり倒すのは無理みたいね…。もう一度封印するしか…」
「〜〜しかし、お札も神剣もないのにどうやって…!?」
私が動揺した隙を化け物は見逃さなかった。
『抵抗スルトアラバ仕方アルマイ…。――貴様ヲ殺シテ、ソノ力ヲモライ受ケルトシヨウ…!!』
戦場ではいつ戦況が変わるかわからない。私は軍人のくせに無防備をさらし、敵に攻撃のチャンスを作ってしまった。
「かえでさん…!!」
鎌が振り下ろされる直前に、大神君は私を抱きしめ、先程の男の子と同じように横にダイブした。
「お…、大神君…」
「無事でよかった…」
大神君は私の無事に安堵して、優しく微笑んだ。
この感じ…。いつも私を命がけで守ってくれる大神君…。いつも感じている嬉しさの他に、どこか懐かしさも感じられるような…？
「〜〜う…っ、ひっく…、こ、怖いよぉ〜…」
恐怖のあまり、泣き出してしまった子供の私の前に立ってかばい、男の子は小さな体を広げて、化け物を睨みつけた。
「〜〜く…っ、来るなら来いっ！かえでちゃんは僕が守る…っ!!」
大神君は微笑むと、男の子の背の高さに合わせて屈み、頭を撫でた。
「その意気だ。男なら、好きな娘を全力で守らなくっちゃな…！」
「うんっ！」
「行くぞ…！――うおおおおおっ!!」
「でりゃああああっ!!」
大神君と男の子は息ぴったりで、合気道で化け物を古井戸まで追い詰めていく。
『〜〜ナ、何ダ、コノ力ハ…!?タカガ人間ノクセニ――!?』
「――今よ…!!」
「え〜いっ!!」
『何…ッ!?〜〜グワアアア…ッ!!』
大人と子供の私二人に包帯を引っ張られ、化け物がバランスを崩した。
「かえでさん、お願いします…!!」
「わかったわ…！」
この好機を逃すまいと、二人の私は奴を古井戸に押し込み、蓋を閉めた。だが、お札が破れてしまった為、完全に封印することができない。
『〜〜開ケロォォォ…ッ!!』
化け物も諦めが悪く、内側から蓋をバンバン押し上げてくる。それを押さえているだけでもこちらは必死だ。
「〜〜く…っ、突破されるのも時間の問題ね…」
「〜〜いや〜ん、おとなしくしなさいよぉ〜！」
「僕達も手伝うよ…！」
大神君と男の子も押さえつけるのを手伝ってくれたが、闇の霊力を使う悪霊相手には、やはり限界があった。
「〜〜く…っ、一体どうすれば――!?」
「――下がって…！」
凛とした声が聞こえた刹那、ぼたんお母様が神剣白羽鳥と封じのお札を手に古井戸の蓋の上に飛び乗った。
「臨・兵・闘・者・戒・陣・烈・在――全…っ!!」
お母様はお札に膨大な霊力を込め、神剣の剣先でお札を蓋に押さえつけた。
『〜〜コノ忌々シイ力ハ…、モシヤ…アノ時ノ…!?――ギャアアアア…!!』
お母様の圧倒的な光の霊力に化け物の闇の霊力は抑え込まれ、底なしの井戸に落ちていったのか、断末魔の叫びもフェードアウトしていった。どうやら、無事にまた古井戸に封印されたようだ。
「〜〜た…、助かったぁ…」
安堵感から急に力が抜けたのか、大神君と男の子は同時にへなへなと座り込んだ。私もどっと疲れが出て、地面に座り込んだ。
だが、お母様の方はあれだけ霊力を使ったにも関わらず、ピンピンしていた。それに、あれ程の化け物をあんな簡単に封印できたなんて、さすがは藤枝の巫女ね…！さすが、私の自慢のお母様だわ…！
「〜〜ひっく…、お母様ぁ〜…！あ〜ん…!!」
「ふふっ、よしよし、怖かったわねぇ。もう大丈夫よ」
泣きじゃくる幼い私をお母様は優しく抱きしめてくれた。
「でも、遠くへ行かないってお母様と約束したわよね？どうして約束を破ったの？すっごく心配したんだから…」
「〜〜うぅ…、ごめんなさぁい…」
「あの…、かえでちゃんを怒らないであげて下さい…！迷子になった僕を助けようとしてくれて…」
「そうだったの…。でも、もう黙ってお母様の傍から離れちゃ駄目よ？困ってる人を助けてあげるのはいいけど、その時はお母様も協力してあげるんだから…」
「えへへっ、わかった…！ありがとう、お母様」
お母様と再会できた私を見て、きっとお姉さんが恋しくなったのだろう。男の子も泣きそうになった。それに気づいたのか、大神君は屈んで、男の子に囁いた。
「大丈夫。もうすぐ来るぞ」
「え…？」
「――お〜い、一郎〜っ!!」
急いで神社に駆け込んできたのは…、何と双葉お義姉様だった…！
「〜〜お、お義姉様…っ!?」
それに一郎ですって…!?
私以上に驚いた男の子はお義姉様を見て、慌てて頭を下げた。
「〜〜は、はぐれちゃってごめんなさい…！でも僕、名前教えないって約束、守ったよ…！」
「馬鹿！そんなことはどうだっていいんだ…。お前が無事ならそれでいい…！〜〜心配したんだぞ〜？もうこの姉を心配させるな…!?馬鹿者…！」
「姉さん…。――うんっ！」
男の子・一郎君は双葉お義姉様にぎゅっと抱きしめられ、嬉しそうに笑った。
そうだ…、この男の子の名前は…！
「大神君、あの…」
大神君は私に微笑むと、一郎君の頭を撫でた。
「これからもかえでちゃんを守ってやるんだぞ？」
「任せてよ！僕とかえでちゃんは、これからもず〜っとお友達だもんね！」
「ね〜！」
と、一郎君と子供の私は仲良く手を繋ぎ、微笑み合った。
「ハハ…、友達…ねぇ」
「ハハハ…！旅先でガールフレンドを見つけるとは、子供のくせにマセた奴め！」
「お友達ができてよかったわねぇ、かえで」
「うんっ！」
「あなた方がこの子達を助けて下さったのですね？本当にどうもありがとうございました…！」
「あ…、いえ…、俺達は…その…」
「うちの一郎が迷惑をかけたな。何か礼をさせてくれないか？」
「私からも是非…！」
お母様に手を握られ、懇願された。
――お礼なんていらない。お母様とこうしてもう一度話せて、触れ合えただけで満足ですもの…。
「お気持ちはありがたいのですが、私達、そろそろ帰らないと…」
「それは残念だわ…。けれど、本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません」
お母様の温かいぬくもり…。私、一生忘れないわ…。
「――かえでちゃん、これ…」
と、一郎君は子供の私に庭に落ちていた紅葉を手渡した。
「ごめんね、僕、何も持ってなくて…。これ、友達になった記念に…。それ見て、僕のこと思い出してね…！」
「うんっ！どうもありがとう…！」
「えへへっ、僕、今日のこと一生忘れないよ…！かえでちゃん、これからもずっと仲良しでいようね！」
「うんっ！約束ね…！」
子供らしい小さくて短い指同士でのゆびきりげんまん…。
今、はっきり思い出した。どうしてもっと早く気づかなかったのかしら…？この初恋の男の子が大好きな彼だって…。
「私達も戻るか。父さん、お前が来るのを楽しみに待ってるぞ〜！」
「本当〜!?わ〜い！早く会いたいな〜！」
「行っちゃうの…？」
「あ…、〜〜うん、ごめんね…。――あ、そうだ…！姉さん、かえでちゃんはお友達だから…、いいよね？」
「あぁ。教えてやれ」
「うん！――僕の名前は大神一郎！かえでちゃん、また一緒に遊ぼうね！」
「うんっ！また会おうね〜っ！」
無邪気に笑い合う子供二人を背に、私と大神君は神社を後にした。
「俺達、こんなに昔から出会ってたんですね」
「ふふっ、そうね。でも、あの小さな男の子がまさか大神君だったなんてね…。ふふっ、何だか不思議だわ…！」
「はは、そうですね。俺もまさか、あのおてんばな女の子がかえでさんだったなんて思いもしませんでした」
子供の頃、偶然出会った初恋の男の子…。その子と10年以上経って再会して、夫婦として結ばれて、子供まで作ったなんて…。
『運命の赤い糸』なんて、正直馬鹿らしいと思ってたけど、大神君と私が目には見えない何か不思議な強いもので結ばれていると思うと、何だか嬉しくなっちゃう…！
「――帰りましょうか。私達の家に…」
「そうですね…」
私と大神君は子供の頃より大きくて長くなった指同士を絡め合って、手を繋ぎ、肩を寄せ合った。
タイムマシーンが落下した公園に戻ると、すでにちびロボ達の修理も終わっていたらしく、タイムマシーンはすっかり元に戻っていた。
私達は再びタイムマシーンに乗り込み、元の時代へ戻る為の時間旅行を始めた。不思議な時空空間の歪みを私と大神君は寄り添って眺める。
「ふふっ、大変だったけど、結構楽しかったわね。子供の頃のあなた、誠一郎にそっくりだったわよ？」
「はは、かえでさんだって、ひまわりそっくりでしたよ」
このままずっと彼の温もりを感じて、他愛ない会話を続けていたい…。けれど、もうすぐ元の時代に帰ってしまう…。それは同時に、二人っきりでいられる時間の終わりを意味する…。
「やっぱり…、まだ帰りたくないな…」
眉を顰める私を抱き寄せ、大神君はポケットから小さな箱を取り出した。
「それは…？」
「俺からの誕生日プレゼントです。開けてみて下さい」
私は言われるままに包装を取り、箱を開けた。そこに入っていたのは、あやめ姉さんがしているのと同じ結婚指輪だった…！
「これって…！」
「まだ、ちゃんと渡せてませんでしたよね？遅くなってすみません…」
と、大神君は私の左手の薬指に指輪をはめてくれた。信じられない嬉しいサプライズに私の目から涙が溢れた。
「あ…、私…、いいの…？これからもあなたの奥さんでいて…？」
「当たり前じゃないですか。あやめさんと同じく、かえでさんも俺の大事な人なんですから…。指輪を渡すの、あやめさんも快く同意してくれましたしね」
「ふふっ、ありがとう、大神君…！こんな…、こんな嬉しい日はないわ…！」
初恋の相手が大神君ってわかって、ずっと欲しかった結婚指輪をもらえて…！本当に今日は最高の誕生日だ…！
私は嬉し涙を流し、大神君を抱きしめた。
「子供の頃、助けてくれたお兄さんに言われましたからね、『これからもかえでちゃんを守ってやれ』って」
「ふふっ、それはあなたが言ったんでしょ？」
「ハハ…、そうでした」
「でも、今まで曖昧だったけど、私の記憶にも確かに残ってたわ。子供の頃のあなたと、あなたそっくりのお兄さんが子供の私とお姉さんを命がけで守ってくれたこと…。これって過去が変わって、新しく作られた記憶…？それとも、元々眠っていた記憶なのかしら…？」
「新しく作られた記憶でも、それが嬉しい記憶なら、少しくらい過去が変わってもいいじゃないですか。俺達の仲はあの頃と少しも変わってないんですから」
「ふふっ、大神君ったら…。――これからもずっと私の傍にいてくれる？」
「えぇ。改めて…、――俺の妻になって下さい、かえでさん」
「えぇ、もちろんよ…！」
私達は愛しく見つめ合い、そのまま唇を重ね合った。
その後、タイムマシーンは無事に元の時代に到着した…が、着いて早々再び爆発したので、今、紅蘭が泣きながら修理しているところよ。
元の時代は、幸いにもタイムマシーンに乗る前と何も変わっていなかった。どうやら、あの事件も未来を変えるまでには至らなかったみたいで、少しホッとしたわ。
さくら達の話によると、私達が行って戻ってくるまで、こちらの時代では１分とかからなかったそうだ。たったそれだけの時間であんなに貴重な体験ができたなんて、何だかとっても得した気分。後で紅蘭にもちゃんとお礼を言っておかなくっちゃ…！
楽しかったパーティーも終わり、なでしこ、ひまわり、誠一郎を屋根裏部屋で寝かせた後、私は自分の部屋で、もらったばかりの結婚指輪を眺めていた。あの男の子が、大人になって私にくれた永遠の愛の証…。
すると、あやめ姉さんがからかうように、後ろから抱きついてきた。
「ふふっ、随分楽しんできたみたいねぇ」
「えぇ、とっても…！今までで最高の誕生日だったわ」
「それはよかったわ。――指輪…、もらえてよかったわね」
「えぇ。――ありがとう…。私にあげるの、許してくれたんですってね。大神君から聞いたわ」
「ふふっ、これであなたも正式に大神夫人となったわけね」
「そういうことになるわね。ふふっ、これからも姉さんには負けないわよ？」
「ふふっ、望むところよ。――そういえば、私からのプレゼント…、まだ受け取ってなかったわよね？」
「え…？そ、そうだけど…、〜〜ちょ…っ、姉さん――!?」
私の耳元で妖しく囁きながら、あやめ姉さんは私をベッドに押し倒した。
「うふふっ、お誕生日おめでとう、かえで。姉さんからのプレゼント、受け取ってもらえるわよね？」
「〜〜プ、プレゼントって…、何する気よ…っ!?〜〜あぁんっ！」
「ふふっ、子供達も寝たことだし、旦那様に抱かれる前に姉さんがう〜んと可愛がってあ・げ・る！」
「〜〜んもう、絶対酔ってるでしょ…!?〜〜い…っ、いやああん…っ！」
「うふふふっ、可愛いわぁ、かえで…！姉さん、ゾクゾクしちゃう…!!」
お酒が入ってるからか、それとも降魔に転化した時の後遺症か…。あやめ姉さんってこういう時、時々、人が変わったみたいになるのよね…。
「――見回り、終わりました…〜〜って…、んなぁぁ…っ!?」
「あら、ご苦労様、大神君！」
「〜〜お、大神くぅん…、助けてぇ…」
姉さんに責められて喘いでいる私に、部屋に入ってきた大神君は案の定仰天した。
「ふふっ、遅いから先に始めてたのよ。ね〜、かえで？」
「〜〜あ…っ、ね、姉さん、それ以上は――ひああっ！そ、そこイイ…っ！」
姉妹の濃厚なラブシーンに大神君は息を呑み、興奮したのか、少し乱暴にキスしてきた。
「エロすぎですよ、かえでさん…。そんなの見たら、イジメたくなっちゃうじゃないですか」
「きゃ…っ!?〜〜お、大神く…――ふああぁ…っ！」
「うふふっ、今夜は三人で…ね！」
「そ、そんな…！両方でされたら…私、おかしくなっちゃ…〜〜いっ、いやああっ!!ダメぇぇぇぇ〜…!!」
女の弱点を知り尽くしているあやめ姉さん。そんな姉さんに加勢している大神君…。二人のテクニックに、私が昇りつめるまで、そう時間はかからなかった。
「…あら、気絶しちゃったわ。ふふっ、ちょっと刺激が強すぎたかしら？」
「フフ…、まだまだ寝かせませんよ、かえでさん…！」
「――っ…!?〜〜んあああああ…っ！も、もう休ませてぇ…」
「駄目よ。これはあなたへのプレゼントなんだから」
大神君が私とキスしながら一つになって激しく腰を振っている間に、あやめ姉さんが絶妙な指遣いで私の敏感な部分を触ってくる…。
姉さんと大神君、二人の息ぴったりの責めに私はその晩、何度も達した。私の嬌声は朝が来るまで廊下まで響き渡ったという…。
『――ピピピピ…！朝やで〜！朝やで〜！』
いつものように鳴り響く目覚ましに、眠ったばかりの大神君とあやめ姉さんは、けだるそうに寝返りを打った。仕方ないので、今日も私が止める。
「まったくもう、変態夫婦なんだから…。――ふふっ、でも、お陰で結構楽しめたけど…！」
「――パパ、ママ、おはよ〜っ！」
「朝よ〜！早く起きて〜！」
なでしこ、ひまわり、誠一郎がいつものように元気に部屋に入ってきたので、姉さんと大神君も起きざるをえなくなってしまった。
うふふっ…！こうして今日もまた新しい一日が始まる。
支度を終えた私は、アルバムに大切に挟んである紅葉を目を細めて眺めた。また大神君との思い出の品が一つ増えた…。それが嬉しくて…！
「――じゃあ、食堂に向かいましょうか」
「母さん、早く早く〜！」
「ふふっ、はいはい」
私は微笑み、子供の頃の大神君そっくりの誠一郎と手を繋いだ。
誠一郎と手をそれぞれ繋ぐ私と大神君の指で光るお揃いの指輪。念願だったあやめ姉さんと同じ結婚指輪をはめることができて、すごく幸せ…！
またいつ帝都を狙う敵が現れるかわからないけど、しばらくは大神君の隣でこの幸せをかみしめていよう。
『――かえでちゃん、これからもずっと仲良しでいようね！』
これからも、この初恋の男の子の隣でずっと…。
終わり
あとがき
スペシャル小説・第３弾は、10月21日が誕生日である、当サイトのもう一人のヒロイン・藤枝かえでさんのバースデー特別記念短編小説でお送りしました！
短編っていうより、もうほぼ長編になってます…（笑）
本当は21日に更新予定だったのですが、その日は急用で一日出かけてしまうことになったので、ちょっと早いですが、アップしちゃいました。
今回のテーマは『初恋』と『運命』でした。
「結婚相手が子供の頃に出会っていた初恋の人だったら…」っていうシチュエーションは、女性は結構グッとくるんじゃないかなって思うんですが、男性はどうなんでしょう…？
そして、「タイムマシーンに乗って過去に行く」というアイディアは、茶々様より頂きました！茶々様、リクエストと応援メール、どうもありがとうございました！
また、大神×あやめ×かえで３人での甘々ラブラブなシーンが好評なので、今回、ラストに入れてみました！
いつも読んで応援して下さっている皆様への感謝を込めた、かえでさんのサービスシーンです！（笑）
かえでさんが大神さんとあやめさんに具体的にどんなことをされているかは…、皆様で妄想を膨らませて下さい（笑）
さて、話は変わりますが、今月の７日にサクラ大戦の武道館ライブに行って参りました！
織姫を入れて全員揃った帝都花組さんを観たのは初めてだったので、大感激でした!!
かえでさんがヒロインの所に入ってあんまり歌わなかったのがちょっと残念でしたが、その分、大神さんとの絡みが多かったので、すっごく嬉しかったです!!
大神さんとかえでさんのツーショットがモニターに映し出された瞬間、「萌え〜」ってなりすぎて、『キャ〜ッ!!』と嬉しい悲鳴を連発しました!!
それから、新次郎とラチェットさんの絡みもあって、よかった〜!!
私達「大神×かえでを愛でる会」のライブ当日の様子については、シーラ様のブログ『大神かえで日和』をご覧下さいね！
さて、次回の更新は11月中です。
内容は「来場客数1000人突破記念・特別短編小説」を予定しております！（すみません、私も仕事をしている身なので、どうしても制作が遅れてしまって…、お待たせしてしまって、申し訳ないです…!!）
ちょっと予告しておくと、「大神とあやめ・かえでダブルヒロインの新婚旅行ｉｎ南の島」みたいな感じですので、楽しみに待っていて下さいね！
さて、お陰様で『１年花組 藤枝先生』の方も大好評のようで、今後の展開に関するご感想やリクエストがたくさん届いております！
皆様、いつも温かいご声援、本当にありがとうございます!!
それから、「あやめさんヒロインの短編をもっと作って〜!!」というご意見も多数寄せられておりますので、あやめさんヒロインの新作短編小説も複数制作中です！
さらに、黒之巣会編の長編リメイク小説も制作中ですので、もう少しお待ち下さいね！
それでは、次回更新時にまたお会いしましょう！
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