藤枝かえで誕生日記念・特別短編小説
「紅葉の記憶〜初恋の君へ〜」その1



私は運命というものをあまり信じていない。

運命の出会いだとか赤い糸で結ばれた相手だとか…、一般的な女性なら喜びそうな類の話だが、私は少し苦手だ。だって、そんなことってどうせ、小説やお芝居の中でしかありえないことに決まってるから…。

『――ピピピピ…!朝やで〜!朝やで〜!』

今日も6時30分きっかりに紅蘭特製の目覚まし時計が部屋に鳴り響いた。〜〜二日酔いでガンガンする頭には堪える…。

私はボーッとした頭で裸の上半身を起こして目覚ましを止め、また横になった。昨日遅くまで晩酌をしていたせいだろう。体がだるくて仕方ない…。

私は寝返りを打ち、隣で眠る大神君に助けを求めるように寄り添った。二日酔いの私とは反対に、気持ちよさそうに寝息を立てる大神君。こうして彼の寝顔を見るだけで癒されて、心なしか二日酔いがおさまる気さえする。

私は微笑み、甘えるように大神君の腕の中へ入り込んだ。すると、大神君も目を覚ましたらしい。薄ら目を開け、照れくさそうに微笑んでくれた。

「おはようございます、かえでさん」

「おはよう、大神君。ふふっ、さっき寝たばっかりだけどね」

「はは、そうですね」


と、大神君は私におはようのキスをしてくれた。寝る前と起きた時の2回のキスは、今ではすっかり私達の日課だ。

「ふふっ、ねぇ、今日は何の日か覚えてる?」

「もちろんですよ。――誕生日おめでとうございます、かえでさん」


大神君は微笑み、私の頬を優しく撫でてくれた。

そう、今日・10月21日は、私・藤枝かえでの誕生日だ。

ふふっ、嬉しいな。大神君ってばちゃんと覚えててくれたのね…!

「今日の公演が終わったらパーティーしようって、さくら君達も昨日から張り切ってましたよ」

「そう、それは楽しみだわ。ふふっ、今日は一日のんびりしちゃおっと…!」

「そうして下さい。俺も今日は支配人業務と訓練がありますけど、できるだけ一緒に過ごせるようにしますから」

「ダ〜メ!今日はずっと一緒にいてもらうわよ?あやめ姉さんの誕生日の時は執事としてずっと姉さんの傍で仕えてたじゃない…!」

「あれは休演日だったからできたんですよ。しかも、今日は2回公演の日なんですし、支配人見習いの俺がサボってたら、花組の皆に示しがつかないでしょう…?」


と、大神君は口では真面目なことを言ったが、手の方は正反対な態度といったところで、慣れた手つきで私の胸を揉み始めた。

「あん…っ!」

不意を突かれ、私の口から悲鳴に似た嬌声と甘い吐息が漏れた。

「その代わり、一緒の時間はうんとサービスしますから…。それでいいですよね?」

「ふふっ、夜、あんなにしたのに元気ねぇ…」

「かえでさんのそういう反応見ると、何度でもしたくなっちゃいますよ」

「ふふっ、もう…馬鹿」


起き上がった大神君が私の上に乗り、キスしようとしたその時だった。

――バンッ!!見計らっていたようなバッドタイミングでドアが開き、ニコニコ笑いながら、あやめ姉さんが入ってきた。

「おはよう、二人とも。ほら、早く起きて!今日もいい天気よぉ…!」

と、姉さんはそのままズカズカ部屋に入ってきて、シャッとカーテンを開けた。刺すような朝日の眩しさが夜更かししていた目にはきつく、大神君と私は目を眩ませた。

「〜〜あ、あやめさん…」

大神君は苦笑し、ゆっくり私の上から降りた。私は不満気に頬を膨らませ、姉さんを睨んだ。

「〜〜せっかくいいとこだったのに、邪魔しないでくれる…?」

「あら、私はただお寝坊さん達を起こしに来ただけよ?――ほぉら、あなた達〜。お父さんとかえで叔母さん、起きたわよ〜!」

「わ〜いっ!!おはよ〜っ、パパ〜ッ!」

「おはよう、母さん!」

「おはようございます、かえで叔母様」


開いたドアから、大神君とあやめ姉さんの双子の娘・なでしことひまわり、大神君と私の息子・誠一郎の子供達三人がわあっと入ってきた。

「何で裸なの〜?もう秋だから、風邪引いちゃうよ?」

「〜〜そ、そうだな…。今着るから、ちょっと待っててくれ…」


〜〜あ〜あ…、せっかく良い雰囲気だったのに…。こういう時、姉さんって必ず邪魔してくるのよね…。……まぁ、大神君があやめ姉さんの部屋で寝る時は、私も似たようなことしちゃうから、偉そうなことは言えないんだけど…。

「今日の副支配人業務は私一人でやるから、かえではゆっくりしてて?せっかくの誕生日なんだし」

「〜〜フッ、邪魔しといてよく言うわね…」

「ふふっ、根に持つ子ねぇ。わかったわ。お詫びに今日一日、大神君を独占していいから。私の誕生日の時もあなた、そうしてくれたものね?」

「ふふっ、そういえばそうだったわね。大神君が執事になった時でしょ?」

「ふふふっ、そうそう!――」


私は姉さんと話しながら、顔を洗って支度を済ませ、食堂へ向かった。

「――それでね、大神君の机の引き出しから春画本が何冊も出てきたのよ?」

「ふふっ、大神君も男の子ねぇ。私達だけじゃ満足できないってこと?」

「〜〜そっ、それは加山に借りたのを返しそびれたやつで…!〜〜って、話してばかりいないで、少しは子供達の世話、手伝って下さいよ…」

「ふふっ、知らないの?『イクメン』って言って、今は男も育児を率先してやる時代なんだから」

「それに、三人全員の親はあなただけでしょ?」

「〜〜う…、わかりました…」

「父さ〜ん、早くお魚とって〜!」

「はいはい、順番になー。〜〜あっ、こら、ひまわり…!なでしこのおかずを取るな…!!」


子供達の食事の世話を大神君に託し、私はあやめ姉さんと思い出話に花を咲かせながら食事する。平和な世の中になって、子供の時みたいにこうして姉さんと仲良く話ができる日が来るなんて、昔は想像できなかったな…。

幼少時代、姉さんは巫女の修行で忙しかったからあまり一緒にいられなかったし、お母様が亡くなった後は私達二人共親戚を転々として、呑気に過ごせる状況ではなかった…。

お母様が亡くなった後、本当はあやめ姉さん一人が神社に残って、おばあ様の下で巫女の修行を続けることになっていたが、姉さんは『私一人が預けられるのは可哀相だ』と言って、一緒についてきてくれた。本当は先巫女のおばあ様の世話になって、神社で暮らせれば一番良かったんだけど、またいつ巫女の力を狙う輩が現れるか、おばあ様は心配だったみたい…。意地っ張りだから、そういうことはちっとも話してくれなかったけどね…。

だから、姉さんは平日は意地悪な親戚の家で肩身の狭い思いをしながら女学校に通って、週末は実家に戻って厳しいおばあ様の下で巫女の修行をしたわ。その生活がどれだけ大変だったか、私には想像もつかないけど…。

けれど、努力家の姉さんは見事、陸軍の士官学校に入学して、優秀な成績を修めた。そんな姉さんに憧れて、私も同じ陸軍士官学校に入った。姉さんの力に少しでもなりたくて、憧れの姉さんに少しでも近づきたくて…。

だけど、私も思春期という難しい年頃だったせいか、士官学校に入ってからは姉さんに対する思いが激変した。女性であるにもかかわらず、常にトップクラスの成績を誇るあやめ姉さんに教官も同級生も皆、姉さんを褒め称え、妹の私はいつも比較された…。私だって別に成績が悪かったわけではない。あまりにも姉さんが優秀すぎたのだ…。

『優秀な姉と普通の妹』…そんなレッテルを貼られるのが嫌で、いつからか姉さんの存在が疎ましくなっていた。姉さんに負けないよう、私も勉強と訓練を頑張った。だけど、どんなに頑張っても姉さんに追いつけない…。〜〜悔しい…!!気難しく、反抗的な態度を取るようになった私を、いつしか姉さんも避けるようになっていた…。

そして、姉さんは対降魔部隊へ入隊し、私は欧州へ派遣されて、欧州星組の司令を任ぜられた。姉さん達対降魔部隊は日本橋で巨大降魔を討ち、一躍英雄に。…けれど、私の欧州星組は行き過ぎた制裁により、列強各国の反感を買って、強制解散…。〜〜またしても姉さんに敵わなかった…。

それから、私はますます姉さんを憎むようになった。そして、どんどん姉妹の仲は悪化していった。私が霊力を奪われた姉さんの代理として、帝撃に来て、大神君と出会うまでずっと…。

もし、私がここへ来て、彼と出会っていなかったら、私と姉さんの関係は修復不可能な所までいっていたかもしれない…。だから、大神君と花組…、そして、帝撃の皆にはすごく感謝している。

帝都を狙う悪者がいなくなって、平和な世の中でこうして旦那の話で盛り上がることができている今が私の人生の中で一番幸せなのかもしれないわね。

「〜〜うぇ〜、僕、ピーマンきら〜い」

「〜〜ひまわりも〜」

「〜〜わ、私も…」

「コラ!何でも食べないと大きくなれないぞ?」

「ひまわりとなでしこは女の子だから別にいいもん!パパが代わりに食べて〜?ね?」

「〜〜こっ、こらっ!」

「ふふっ、ひまわりもすっかり女の子ね。男の扱い方がよくわかってるわ」

「そういえば、大神君もピーマン苦手だったわよね?私があ〜んって食べさせるようになってから、ようやく――」

「〜〜あ、あやめさん!子供達の前でその話は…!!」

「あははははっ!な〜んだ。父さんもピーマン、嫌いだったんだ〜!」

「だったら、パパも一緒に食べて〜!そしたら、ひまわり達も食べるから!ね?」

「はは…、参ったな…」

「ふふっ、仕方ないわねぇ、お父さんったら。仕方ないわ、またお母さんが食べさせてあげる。――はい、あ〜ん…」

「あ、あーん…」

「うふふふっ、お父さん、偉〜い!」


子供達の笑顔に囲まれ、大神君は照れながら、あやめ姉さんにピーマンを食べさせてもらって、姉さんと笑い合った。

父親の大神君と母親のあやめ姉さん、そして、子供達…。私を除けば、普通の家族だ。……私が誠一郎を妊娠しなかったら、大神君と姉さんは普通の夫婦でいられたはずだ…。一夫多妻制なんて取らない、どこにでもいる普通の…。

〜〜そう考えると、やっぱり罪悪感にさいなまれる…。その証拠に、姉さんの指で光る結婚指輪は、私にはない…。私は大神君の第二夫人…。あやめ姉さんのような正式な奥さんではないから…。

〜〜私…、このまま大神君の奥さんでいていいのかしら…?時々、そんなことを考えてしまう…。今後もこうして三人でうまくやっていければベストなんでしょうけど、本当は大神君もあやめ姉さんも私のこと、邪魔に思ってたらどうしようって…。

朝食を終え、大神君とあやめ姉さんはスタッフ業務に就いた。誠一郎達も中庭で花丸達子犬と楽しそうに遊んでいる。

自分の部屋に戻ってきた私はため息をつき、デスクの椅子に座った。

そういえば、一日中暇な日なんて、帝撃に来てから初めてかもしれない。だから、何をしたらいいかわからない…。本当は大神君と一緒にいたいけど、支配人業務と訓練で忙しそうだし…。

「……暇だわ…。誠一郎達と遊んでこようかしら…?」

席を立とうとした時、ふとデスクに収納されていたアルバムが目に入った。そのうちの一冊を取って、見てみる。大神君、そして、花組の皆との色々な思い出を語る写真がたくさん収められていた。

「ふふっ、懐かしいわねぇ…!――あ…、これは出産した時の…」

産まれたばかりの誠一郎を抱く私と、隣でなでしことひまわりを抱くあやめ姉さん。そういえば、数時間しか出産時間が違わなかったのよね…。

……その時、また不安になった。大神君は本当は私が誠一郎を産んだこと、迷惑に思ってるんじゃないかって…。〜〜妊娠がわかった時、本当に彼の幸せを願うなら、中絶した方がよかったんじゃないかって…。

私は続けて、一際古ぼけた背表紙のアルバムを手に取った。それには私と姉さんが子供の頃の写真がたくさん収められていた。大好きなお母様も一緒に写っている…。〜〜お母様、天国で怒ってるかしら…?姉さんの好きな人を私も好きになって、彼の子を出産したなんて…、許されることじゃないもの…。

すると、同じ場所にパリパリになった紅葉が写真と一緒に貼られていることに気づいた。

「これは…」

思い出した…!これは子供の頃、ある男の子からもらったもの…。

『――かえでちゃん、これからもずっと仲良しでいようね!』

顔は覚えてないけど、私より背が小さかったから、きっと年下の子だったんだと思う。過ごした時間はほんの少しだったけど、今でも忘れられない色褪せない思い出…。いわば、私の初恋だ。ふふっ、こんなこと話したら、大神君は嫉妬しちゃうかもしれないけど…。

「――お誕生日、おめでと〜っ!!」

さくら達が引っ張ったクラッカーが綺麗な弧を描いて、一斉に飛び出した。夜の部が終わって疲れているはずなのに、皆は楽屋で私の誕生日会を開いてくれた。

「お誕生日おめでとうございます、かえでさん!これ、プレゼントの髪留めです!今、人気の柄なんですよ〜!」

「私はペアのワイングラスです。隊長と一緒にお使いになって下さい」

「まぁ、ありがとう、さくら、マリア…!」

「はい、注目〜!私のはすごいデスよ〜?本場イタ〜リア製の超高級腕時計デ〜ス!!かえでさんはちょっち地味ですカラ〜、目立つようにぜ〜んぶ金で統一してあげたデ〜ス!!」

「フフン、さすがは織姫さん。相変わらずお下品な趣味をしてますこと」

「〜〜ムッ!?」

「ご覧下さいまし、代理!私のは超高級なハンドバッグですわ〜!特別にオーダーメイドで、表面をダイヤモンドで埋め尽くしてみましたの!私みたいにキラキラ輝いてますでしょう?お〜っほほほほ…!!」

「フン、さすがはすみれさんデ〜ス。超〜悪趣味ってカンジ〜」

「〜〜何ですってぇっ!?」

「〜〜ありがとう、すみれ、織姫。……持ち歩くのに勇気がいりそうだけど…」

「へへっ、あたいのはマイ箸さ。知ってるか?今、エコなんとかっていうのが叫ばれててよ、外で食べる時も箸持っていく奴が多いんだぜ?」

「フフン、貧乏人のチョイスですわね」

「〜〜何だとぉ!?一番実用的でいいじゃねぇか!なぁ、かえでさん!?」

「ふふっ、そうね。ありがとう、カンナ」

「はいっ!アイリスはうさちゃんのぬいぐるみ、あげるね〜!えへへっ、可愛いでしょ〜?ジャンポールともすぐお友達になったんだ〜!」

「…僕のはこれ。ドイツ製の万年筆。仕事の時に使って」

「まぁ…!アイリスとレニもありがとう。大切に使わせてもらうわね」

「お誕生日おめでと〜、かえでおばちゃん!」

「これ、母さんの似顔絵とお手紙だよ。あやめおばちゃんの時も同じ物あげたんだ。えへへ、うまく描けてる?」

「えぇ、とっても上手よ。ありがとう、誠一郎。なでしことひまわりもありがとう」

「えへへっ、褒められちゃった…!」

「ね〜ね〜、紅蘭姉ちゃんのプレゼントはどんなの〜?」

「フッフッフ…、見て驚くなや〜!?うちのはほんまにすごいで〜!なんせ、この日の為に1ヶ月間、ほとんど寝ずにつくり上げた物やさかい…っ!――チャララチャッチャチャ〜ン…!!」


紅蘭は眼鏡のフレームを光らせ、自信満々に何かを覆っていた布を捲った。

「これぞ世紀の大発明!タイムマシーンの『クロノス君』や〜っ!!」

「たいむましーん…って、SF活動写真によく出てくる、あの…っ!?」

「せや!過去や未来の好きな時間に行ける、夢のような乗り物やさかい!!」

「確かクロノスって、ギリシャ神話に出てくる時間の神様だったよな?」

「さすがは大神はん!物知りやなぁ〜!」

「でも、本当に完成してたら、すごいわね…!本当に世紀の大発明よ?」

「フフン、紅蘭の発明品ですのよ?どうせいつものように即爆発ですわよ」

「〜〜失礼やなぁ。いざって時に非常時用の特別機能も備えてあるさかい、大丈夫やて!――さ、かえではん、はよう乗ってみて!大神はんも一緒に行くやろ?」

「あぁ、〜〜ちょっと不安だけど…」

「パパが行くんなら、ひまわりも乗りた〜いっ!」

「私もで〜す!」

「アイリスも〜!!」

「〜〜そ、そんなにたくさんは乗れないと思うぞ…?せいぜい二人ぐらいしか…」

「えぇ〜っ!?ひまわり達、子供だから三人とも乗れるよ〜!」

「駄目よ、ひまわり…!今日はかえでおばさんとお父さん、二人っきりにさせてあげましょ?」

「そっか…。えへへっ、その方が母さん、喜ぶもんね…!」

「〜〜むぅ〜…」


誠一郎は快く同意したが、ひまわりはまだ不満そうだ…。子供達が話している間に大神君は紅蘭から操作方法を教えてもらった。

「――ここでダイヤルを合わせて、このボタンで時空の裂け目に移動するんや。帰りはうちがフォローでけへんさかい。気ぃつけてな!」

「あぁ。任せてくれ!」

「まぁ、大神はんなら大丈夫そうやね〜!行き先は…、そうですなぁ…。――かえではんは何かリクエストありまっか?原始時代、戦国時代、はたまた21世紀…!どんな時代にでも行けるでぇ!!」

「う〜ん、そうねぇ…」


ふと、私の脳裏に先程のアルバムがよぎった。もし…、本当にもう一度お母様に会えるんだったら…。

「――お母様に…、亡くなったぼたんお母様に会いたいわ…」

「かえで…」

「了解や!せやけど、直接会うんは無理や。その時代に今のかえではんは存在せぇへん。せやから、過去の人物や事件に干渉すると、未来が変わってまうかもしれへんさかい。遠くから顔見る程度になってまうけど、それでもええでっか?」

「えぇ。お母様の元気な顔が見られたら、それでいいわ。――姉さんも一緒に行く?」

「私は遠慮しておくわ。子供達は私に任せて、大神君と二人、楽しんでらっしゃい!」

「そう?ふふっ、ありがとう、姉さん」

「ふふっ、可愛い妹の為ですもの。――大神君、かえでのこと、頼んだわよ?」

「了解しました!」

「ほんじゃ、乗って、乗って〜!少〜し狭いけど、我慢してな?」

「〜〜た、確かにね…」


一人用と思われる座席に私と大神君は体を密着させ、何とか座ることができた。

「きつくありませんか?もっとこっちに…」

と、大神君は私の肩に手を回し、抱き寄せた。

大神君の吐息と心臓の鼓動を近くで感じる…。抱きしめられるのは慣れているはずなのに、未だに顔が赤くなって、ドキドキしちゃうのよね…。いい歳してウブかもしれないけど…。

「ほな、いくで〜!――スイッチ・オ〜ンッ!!」

紅蘭がスイッチを押すと、タイムマシーンの機体が大きく揺れた。

「うわあああっ!?」

「きゃあああっ!!」


タイムマシーンは大きく揺れながら浮遊し、私達を乗せて瞬間移動した。


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