藤枝かえで誕生日記念・特別短編小説2013
「君想ふ花」その5



私達が帰ると、劇場内はP.A.S.S.の話題で持ちきりだった。

夕刊や蒸気テレビジョンとラジヲの夕方のニュースも、どの局を回しても桃花社長と胡桃ちゃんの名前と顔写真が出てきて、『正義のニューヒロイン誕生!』『帝国華撃団の時代は終わった』などと皆、好き勝手なことを言ってくれちゃっている…。

中には私達に同情してくれるコメンテーターもいるようだが、わざわざマスコミを呼びつけておいた甲斐があり、宣伝効果は抜群のようだった。

「――ハァ〜…」

長い一日を終え、一郎君は長い息を吐きながら大浴場の浴槽に浸かって、ゆっくり体を伸ばした。

「見て見て、父さん!僕ね、一人で頭洗えるようになったんだよ!」

「はは、そうか。偉いぞ、誠一郎」

「えへへ〜♪」


ただ今、息子の誠一郎と二人、大帝国劇場で暮らす唯一の男同士で入浴中。

一郎君は誠一郎の短い手じゃ届かない背中を洗ってあげながら今日、桃花さんから言われたことを難しい顔をして思い返していた…。

『――明日にはすっかり私のことを思い出してるはずよ?』

初めて出会ったはずの桃花さんのことが頭から離れない…。

(――由里君が貸してくれた雑誌には確かに『藤倉社長は海軍士官学校を卒業したという意外な経歴が持つ』と書いてあったが、俺は彼女が在籍していたことすら知らないし…。〜〜ましてや恋人だったなんて…!)

「…?どうかしたの、父さん?」

「あ…、いや…。冷えるといけないから、そろそろお湯に浸かろうか」

「はーい!」

『――今日がP.A.S.S.デビューの日か…』

『きっとうまくいくわ。お腹にいるこの子が大人になったら帝都で平和に暮らすことができるように私達で頑張らないと…!』

『あぁ、そうだな。もう名前は決めてあるんだ。――そうだよな、『胡桃』?』

『ふふっ、可愛い名前ね。――あ…!今、お腹を蹴ったわ。この子も名前を気に入ったみたいよ、ふふふっ♪』

『ははは、そうか。――お父さんとお母さんはここで待ってるからな。元気に生まれてこいよ、胡桃…』


桃花さんの大きなおなかに優しく呼びかける一郎君…。

(〜〜ありえない…!一体何なんだ、この記憶は!?――だが、この感じ…、夏に梨子さんと戦った時と同じだ…)

少し年上の頭が良くて活動的な女性…。記憶の中の一郎君は私ではなく、桃花さんに憧れを抱いている。

そして、一緒に士官学校で学ぶうちに愛が芽生え、二人は…。

……桃花さんの柔らかく、細い体を抱いた記憶も感覚も一郎君の肌に染みついて離れない…。

(――あの胡桃って娘は、もしかして俺の…?――いや、そんな馬鹿なことあるわけ…)

「――父さん、大丈夫…?さっきから、ずっと怖い顔してるけど…?」

「…え?あ、あぁ…、ごめんな、何でもないんだ…。そろそろ上がるか?」

「…ううん、まだいい。…もしかして帝国華撃団のお仕事のこと?」

「あぁ、まぁな。お前は何も心配しなくていい」


一郎君に優しく頭を撫でられ、誠一郎は嬉しそうに笑いながら照れ隠しで顔半分まで湯船に浸かった。

「父さん、毎日ご苦労様!疲れてない?『そうしれい』って大変なお仕事なんでしょ?」

「はは、まぁな。誠一郎こそ毎日お稽古事尽くしで疲れないか?大変なら、やめてもいいんだぞ?」

「ううん、僕なら大丈夫!僕が大きくなったら立派な帝国華撃団の司令になれるようにって、母さんが一生懸命考えてくれてるんだもん。期待に応えられるよう頑張らなくちゃ!」

「ははは、お前は偉いな。でも、無理に帝撃を継がなくてもいいんだぞ?他に夢はないのか?野球選手とか警察官とか…」

「ううん。僕はね、父さんみたいになりたい!この大帝国劇場で花組のお姉ちゃん達と素敵なお芝居をいっぱいやって、お客さんに喜んでもらいたいんだ!それからね、もっと強くなりたい!空手と合気道をいっぱい特訓して、悪い奴らが現れても父さんや母さんやあやめ叔母ちゃんみたいに戦って、帝都を守るんだ…!!」

「誠一郎…」

「僕はなでしこみたいに頭が良いわけじゃないし、ひまわりみたいに運動が得意なわけじゃないけど…、僕にだってきっと2人には真似できない得意分野があるはずなんだ!それを見つける為に今は色んなお稽古事を体験してるって感じかな?あははは…」

「はは、そうか。まだ小さいのに誠一郎は立派だよ。父さんの自慢の息子だ」

「えへへ…♪…でも、ちょっとは遊ぶ時間も欲しいかな?せめて、ゆっくりウルトラライダーを見れるぐらいはね」

「ははは、そうだよな。後で母さんに言っておくよ」

「うん、ありがとう!――あ、そろそろお部屋に戻らなくちゃ…!」

「まだ勉強やるのか?」

「〜〜えーっと…、そ、そんなとこ!じゃあ僕、先に出るねー!」

「…?それにしてはゴキゲンだな…?」




脱衣所で体を拭いてパジャマを着た誠一郎は、ルンルン気分でタオルを頭を拭きながら子供用蒸気携帯電話を持って屋根裏部屋へ戻ってきた。

「ただいまー!」

「お帰りー」「お帰りー」


一郎君と誠一郎が入る前に私とあやめ姉さんと一緒にお風呂に入ったなでしことひまわりがパジャマを着て、寝る準備を始めているところだった。

「今日は残念だったわね?」

「せっかく合格したのに、契約してこないなんてもったいな〜い」

「いいんだ。父さんと母さんが言うには、あんまり良くない事務所みたいだし…」

「ふ〜ん…」

「織姫お姉ちゃんから蒸気ドライヤー借りてきたんだけど、使う?」

「ううん、僕はいいや」

「寒くなってきたんだから、ちゃんと乾かさないと風邪引いちゃうわよ?私が乾かしてあげるわね――!」

「あ…、〜〜ちょ、ちょっと待って!これだけ…――あ…!来てる〜♪」


携帯を嬉しそうにいじっている誠一郎に、なでしことひまわりは不思議そうに顔を見合わせた。

「…来てるって何が?」

「あんたがメールなんて珍しいじゃ〜ん。誰からー?」

「〜〜わあっ!?か、勝手に見ないでよぉ…!!」

「あ〜っ!女の子からだ〜!!『くるみちゃん』だって〜♪」

「え〜っ!?」

「わあっ!?〜〜ちょ、ちょっとぉ〜!!」

「何々〜?『――今日は絵をほめてくれてありがとう。またお話ししましょうね…はぁと』だって〜♪」

「まぁ!誠一郎ったら、いつの間にガールフレンドなんて作ってたの?」

「〜〜そ、そんなんじゃないんだってば!うわああ〜ん!!携帯返してよ、二人とも〜!!」




その頃、メール相手の胡桃ちゃんは『今度はゆっくりお話ししようね』と書かれた誠一郎の返信を読むと、頬を赤くして幸せそうな顔になりながら蒸気携帯を胸に抱いて、自慢のクィーンサイズのベッドに横たわった。

――コンコン。

「…!ど、どうぞ…」

胡桃ちゃんが慌てて蒸気携帯を枕の下に隠すと、母親の桃花さんが厳しい目つきで入ってきた。

「…お部屋に戻っていいって誰が言ったの?まだお仕事は終わってないのよ!?」

「〜〜ご、ごめんなさい…。……今行きます…」


胡桃ちゃんはビクビクしながら桃花さんの後をついていくと、いつものように実験室のようなたくさんの機器が置いてある部屋のベッドに横たわり、体中にコードをつけられた。

「あなたの霊力は皆の希望なの。辛いかもしれないけど、それが藤倉家に生まれた者の宿命なの!あなたが頑張れば、それだけ帝都は平和な都市になるのよ?…わかるわよね?」

「……はい、お母さん…」


桃花さんが装置の電源を入れると、胡桃ちゃんの体に軽度の電流が走った!

「〜〜…っ!!く…うぅ…っ!!」

苦しみの表情を浮かべる胡桃ちゃんから水蒸気のようなピンクがかった煙が発生して、コードを伝ってどんどん装置の中に吸い込まれていく…!

どうやらこの煙は視覚化した霊力らしく、霊力が溜まっていくと装置のメーターが振り切れて蒸気を噴き、同じコードに繋がっているP.A.S.S.の蒸気甲冑や武器に胡桃ちゃんの霊力が流れ込んで、美しく光り輝き出した…!!

「うぅ…っ!く…っ!!〜〜ああああ…!あぁ…っ!!」

全員分の蒸気甲冑と武器の霊力が充填し終えると、桃花さんは満足そうに装置の電源を切って、胡桃ちゃんの体に流れる電流を止めた。

「はぁはぁはぁはぁ…」

「…今日はこれぐらいにしておきましょう。大事なデビューを控えてるんだから、体力を温存しておかないとね?」

「……はい、お母さん」

「フフフッ、あなたは今や、日本中が注目するトップスタァよ?誠一郎君…だったかしら?あんな男の子よりあなたの方がずっと優れてるとわかれば、お父さんもすぐに私達の元へ帰ってきてくれるわ。…それまで頑張れるわよね?」

「……はい、お母さん」

「フフフッ、良い子ねぇ。その調子で今夜も頼むわよ?奴らから私達の居場所を奪い返せるのも最早、時間の問題!フフフフ…ッ♪」


蒸気甲冑を撫でながら悪い顔で笑う母親を見て、胡桃ちゃんは悲しそうにうつむきながら、ゆっくり起き上がった…。



「――う〜ん…っ!ハァ…、やっと終わったわ〜…」

その頃、私は自分の部屋で今度の賢人会議で提出する報告書を書き終えて、机に向かいながら背伸びをした。

――11時か…。まだあやめ姉さん、起きてるわよね?

今日のこと、一応姉さんにも報告しておいた方が良さそうだわ。クロノスのこともあるけど、P.A.S.S.がこれからどんな手を使って妨害してくるかわからないものね…。

私は部屋を出ると、隣のあやめ姉さんの部屋のドアをノックした。

――コンコン。ガチャ…!

「――姉さーん、いるー?」

「ああああ〜ん!一郎くぅ〜ん♪」

「〜〜んなぁ…っ!?」


部屋に入るなり、私の目に飛び込んできたのは、布団の上で淫らに絡んでいる一郎君とあやめ姉さんの姿だった…!!

「あああっ!!ダメよ、一郎君…っ!ハァハァ…、5回も続けて出されたら…♪ん…っ、あああああああ〜んっ!!」

「はぁはぁ…、すみません、あやめさん。疲れていたので紅蘭のドリンクを飲んだら、ムラムラが止まらなくなって…!――う…っ、おおおおおお…っ!!腰が止まらないんですぅぅ〜っ!!」

「きゃ…!?ああああああああ〜っ!!そんなに動かさないで、一郎君…っ!!ま…っ、またイッちゃう〜っ♪」


一郎君は正常位であやめ姉さんに覆いかぶさったまま、敷き布団のシーツにはみ出るほど姉さんの中にこれでもかと射精した!

「はぁはぁはぁ…、すごぉい…。でも…、ちょっとだけ休みましょ…、ね…?」

「あともう一回だけ…♪」

「えっ!?ダ、ダメェ!やめなさ…っ!!――んん…っ、ん…♪」

「はぁはぁ…。可愛いです、あやめさん…♪――もっと俺の前で壊れて下さい…っ!!」


――ズン…ッ!!

「きゃあああああああ!!」

一郎君はあやめ姉さんに償いのキスをして、うつ伏せにさせると、手首を掴んだままバックで犯し始めた。

「あっ、あああああああ〜っ!!お、奥…まで…っ!きて…るぅ…っ!!あはあああっ!!」

「う…っ!あやめさあああ〜ん!!」

「あっ、あっ、愛してるわ、一郎君!あっ、あっ、もっと!あっ、あああっ…!!すっごく気持ちいい〜〜っ!!」


あやめ姉さんは連続で絶頂を経験しているのか、目が虚ろだ。

「…一郎くーん?そんなにヤると、あやめ姉さん本当に壊れちゃうわよ?」

「え…?〜〜うわああっ!?か…っ、かえでさん!いつの間に…!?」

「〜〜ご、ごめんなさいね!?全然気づかなくて…」


…あれだけお互いセックスに興じていたら、そうでしょうね。〜〜まったく、隣の部屋で妹が真面目に仕事してるっていうのに何やってるんだか…。

…まぁ、私も日頃から一郎君といつでもどこでもヤっちゃってるから、偉そうには言えないけどね…♪



「――P.A.S.S.について話を聞かせてもらおうと思ったら、一郎君ったら部屋に入るなり押し倒してくるんですもの…」

「すみません。湯上がりのあやめさんを見たら、我慢できなくて…♪」

「ふふっ、もう。一郎君ったら私の部屋に入るとケダモノになるんですものね…♪」

「〜〜はいはい、続きは終わってからね!?――それより、藤倉社長のことだけど…?」

「えぇ。正直言うと、私も今日まで藤倉桃花なんていう女優は聞いたことがなかったわ。…けど、おかしいのよ。桃花さんがずっと前から芸能界で活躍してたって話を聞いたら、確かにそうだったかもって納得できちゃって…」

「さくら君達に聞いても、桃花さんはもちろん、今日出撃したタレント達も皆、当たり前のように知ってましたし…。……やっぱり、これってあの時と同じ…?」

「…おそらくね。化け猫に体を乗っ取られた梨子さんが時空の壁を超えたパラレル・ワールドからクロノスの刺客として連れて来られた時に、かえでと子供達の記憶が書き換えられたのと同じ現象だと思うわ」

「そう言われても、私はいまいちピンと来ないんだけど…?」

「…じゃあ、これはどう?今の私の記憶によると、夏祭りの日に事故に遭って亡くなったのは梨子さんだけ。桃花さんは車に当たる直前に梨子さんに助けられて生き延びたってものに変わってるんだけど…?」

「えぇっ!?〜〜そんなはずないわ!確かに桃花さんはあの日、梨子さんと一緒に…!!」

「…これが記憶のパラドックス。今、私達の頭の中で起こっている現象よ」

「つまり、過去の歴史を変えようと、クロノスが時空を操っている証拠でもあるわけですね?」

「えぇ。つまり、突然現れたのに何の違和感もなく世間に受け入れられているMoMoプロダクションの藤倉社長は、私達のよく知る桃花さんと同一人物になるということよ。娘さんの胡桃ちゃんから梨子さんとよく似た霊力を感じたのも頷けるわ…」

「胡桃ちゃん…ですか…」

「考えたんだけど、あの胡桃って娘は降魔を何らかの方法で操ることができるんじゃないかしら?だとしたら、説明会の途中でタイミング良く…、しかも、降魔がボスなしで群れを成して現れたのも納得がいくわ」

「…P.A.S.S.の名を世間に知らしめる為の自作自演ってことね?確かにあの娘からは裏御三家クラスの霊力を感じたわ。それも、隼人と藤堂の力が入り混じった、…とても強力なね」

「隼人って…、まさか一郎君の!?」

「…だと思います。藤倉社長と会った後、まるで魔法にかかったようにどんどん桃花さんと胡桃ちゃんとの思い出が頭の中に浮かび上がってきたんです…。その世界の俺と桃花さんは士官学校の同級生だったみたいなんですけど、卒業したら一緒にP.A.S.S.をつくって帝都を守っていこうと約束していたみたいで…」

「なるほどね…。〜〜フッ、違う世界線から来たんだか何だか知らないけど、私と姉さんの存在を消して、一郎君の奥さんの座に転がり込もうだなんて上等じゃないっ!!」

「…でも、随分回りくどいやり方をしてくると思わない?わざわざ違う世界から刺客を呼ばなくても、この世界の梨子さんと桃花さんを生き返らせて、まっすぐ私とかえでを消しに来ればすぐに済む話だと思うんだけど…」

「それもそうですよね…。確か桃花さんは『もうすぐかえでさんはクロノスによって帝国華撃団と一緒に消える』って…?」

「奴らは私達だけでなく、帝国華撃団も消したがってるってこと…?」

「だとしたら、一番の狙いはあやめ姉さんね。対降魔部隊に所属していた姉さんが消えれば、帝国華撃団は設立されない運命になる可能性が高いもの」

「そうね…。――ふふふっ!」

「〜〜ちょ…!?…姉さんたら、こんな時に何笑ってるのよ?」

「ふふふっ、ごめんなさい。何だか急に子供の頃のあなたと桃花さんを思い出しちゃって…」

「え?」

「確かお母様が亡くなった後、あやめさんとかえでさんは梨子さんと桃花さんの家で世話になってたんですよね?」

「えぇ、そうよ。歳が近かったせいか、かえでと桃花さんは喧嘩ばっかりしてたわね…。お菓子をどっちが多く食べたとか、買ったばかりのおもちゃを取られたとか…。ふふふっ、それはもう毎日大騒ぎで…!」

「ははは、そうなんですか」

「〜〜だ…っ、だって桃花さんたら、年上のくせにちっとも大人げなかったのよ!?」

「ふふふっ!でも、なんだかんだ言ってもあなた達、仲が良かったじゃない。飼っていた犬が死んだ時も二人して泣きながら庭に埋めたりして…」

「……そうだったわね…」


藤倉家の庭で飼っていた愛犬のタロウ。桃花さんも私も犬が好きで、よく一緒に世話してたっけ…。

当時は子供だったこともあって、くだらないことでいちいち桃花さんと張り合ったりしてたけど、……今はもう喧嘩をすることもできないのよね…。

「…彼女は私達の知ってる桃花さんとは違う人よ?」

「…そうかもしれないけど、形式上は昔の家族と戦うことになるのよ?クロノスの刺客である以上、いずれ必ずね…。…そうなっても、あなたは平気なの?」

「……仕方ないわ。奴らの狙いが本当に帝国華撃団の崩壊なら、副司令として守り抜く他ないもの!」

「かえでさん…」


別人と割り切ってしまえれば楽なんだろうけど、桃花さんと戦うのはやっぱり辛いわ…。〜〜でも、このままじゃ私と姉さんは…。

一郎君と花組と子供達、そして、同じ帝国華撃団の仲間達…。今の私の大切な家族は彼ら…、やっとできた私と姉さんの居場所なんですもの!

この幸せを誰にも邪魔はさせない!必ずこの手で守ってみせるわ…!!

――ビーッ…!!ビーッ…!!

「――ハ…ッ!?」「――ハ…ッ!?」「――ハ…ッ!?」

そこへ、緊急招集を促すブザーが深夜の大帝国劇場に鳴り響いた!

『――浅草に降魔の大群が発生!至急、作戦指令室へ集合して下さい!!』

「また降魔の群れが…!?」

「俺達も行きましょう!」

「了解!!」「了解!!」




部屋を飛び出した私達はダストシュートに飛び込むと、一郎君は海軍の、私とあやめ姉さんは陸軍の軍服にそれぞれ着替えて、花組が待機している作戦指令室へ降り立った。

「大神司令、帝国華撃団・花組8名、全員集合しました!」

「夜分遅くにすまないね。昼間と同じ規模の降魔の群れが浅草に現れたようだ」

「へへ、夜食の後の運動にはちょうどいいぜ!」

「ふわああ〜…。カンナさんはお元気デ〜スネ〜。私はお稽古でシエスタできませんデ〜シたから寝不足デ〜ス…」

「夜間だから街の人達の避難も遅れているわ。アイリスとレニは別働隊で避難の誘導を頼むわね?」

「りょ〜かいっ♪」「…了解!」

「他の者は各自、降魔の殲滅に専念してくれ!それでは帝国華撃団、出げ――!!」

「――あぁ〜っ!?」

「…っ!?ど、どうした、由里君!?」

「〜〜大神司令、大変ですよぉ〜!」

「P.A.S.S.がもう現場に到着して、交戦してるみたいなんです…!」

「何だって!?」


風組の三人娘に言われるままモニターを見ると、『P−Boys』という男性アイドルグループが所属している第二部隊のメンバー達が蒸気甲冑をつけて、すでに降魔達と戦っていた。

『グッド・イブニング、子猫ちゃん達♪』

『可愛い君達は僕らが守るからね!』

『きゃああ〜!!こんな近くでP−Boysが見られるなんて〜♪』

『憧れの優君に守られるなんて夢みた〜い♪』


華麗に戦うイケメン俳優達に浅草にいる女の子達は危機感を忘れ、避難するどころか彼らをもっと近くで見ようと警察や軍の制止を振り切って、その場に留まり、黄色い声援を送っている…。

その様子をマスコミの記者達が熱心に取材しているのも見える。説明会の時と同じように桃花さんがまたうまいことを言って呼びつけておいたのだろう。

そうやってまた自分達の名声を高める気なんでしょうけど…。〜〜まったく準備がいいんだから…。

「フフン、ポッと出の集団がいつまで持ち堪えられるか見ものですわねぇ」

「でも、何であんなに早く駆けつけられたんでしょう…?」

「…おそらく胡桃ちゃんを使って、自分達が待機している場所に降魔が集まるよう仕向けたんだわ」

「えっ?それって、どういうこと〜?」

「詳しくは後で説明するよ。まずは野次馬の人達を避難させないとね…!」

「私達も急ぐわよ!あなた達も早く光武の準備を!!」

「りょ、了解ですっ!!」

「…ちょっと待って!今、私達が向かえば向こうの思うツボじゃないかしら?」

「え?」

「降魔を操れる胡桃ちゃんがいる以上、戦況は向こうの方が有利なはずよ?それに下手に対抗意識を燃やして行けば、マスコミの前で実力の差を見せつけられることになって、ゴシップ誌に面白おかしく記事を書かれることにもなりかねないわ…」

「それに、2つの大隊でやり合えば甚大な被害が予想されます。俺達は出撃せずに住民の避難にあたった方が…」

「相手に不戦勝を送ることなんてないわよ!ふふっ、こうなったら私も出撃してやるわ…!!」

「〜〜いぃっ!?か、かえでさんも行くんですか!?」

「部隊に一人でもいる方が奴らより一匹でも多く降魔を倒せるでしょ?――紅蘭!私の光武のメンテナンスは完了してる!?」

「はいな!いつでも出撃できまっせ〜♪」

「〜〜一匹でも多くって…、倒した数が多けりゃ勝ちというものでも…」

「かえでったら、桃花さんが相手だから熱くなっちゃってるのよ…。…あの娘が暴走しないよう、見張っててあげましょ?」

「〜〜そ、そうですね…。――ゴホン!では、気を取り直して…。帝国華撃団、出げ――!!」

「――帝国華撃団、出撃っ!!何としてでもP.A.S.S.より多く降魔を倒すわよっ!?」

「〜〜りょ、了解!」「〜〜りょ、了解!」「〜〜りょ、了解!」「〜〜りょ、了解!」「〜〜りょ、了解!」「〜〜りょ、了解!」「〜〜りょ、了解!」「〜〜りょ、了解!」

「ハァ…。…皆、無茶しないでね?」

「……出撃命令は俺の十八番なのに…。〜〜がっくし…」


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