藤枝かえで誕生日記念・特別短編小説2013
「君想ふ花」その3



翌朝、子役養成所の入所説明会に参加することになった誠一郎に付き添い、私と一郎君も『ももたろう』のレッスン場までついていくことになった。

ここの養成所は同じ系列の芸能プロダクション『MoMo』の社屋と隣り合わせ。…そして、狙ってかは知らないが、私達の大帝国劇場と同じ銀座4丁目に建っている。

「――大神誠一郎君ですね?審査が始まるまで控え室でお待ち下さい」

受付でもらった養成所のパンフレットに同封されていたスケジュール用紙によると、この後すぐにオーディション形式の面接審査があるみたいで、それに合格した子だけが入所資格を得て、その後に行われる説明会と体験授業に参加できるらしい。

〜〜ただの説明会なのに…、大手だか何だか知らないけど、横柄な事務所だこと!

「すごい人だね…。この子達…、皆、入所希望者なのかな…?」

「気後れしちゃ駄目よ、誠一郎!?あなたも他の子に負けないくらい魅力的なんだから、もっと自信を持ちなさい!?」

「う、うん…!」

「もし不合格になっても、気にすることはないんだからな?オーディションは初めてなんだし、落ちて当然――」

「――駄目よ!やるからには合格を目指すこと!!いいわねっ!?」

「〜〜あ…はは…。まぁ…、母さんの言う通りだな。男ならベストを尽くしてこい!」

「うん、わかった!」

「いざとなったら、お父さんとお母さんがついてるわ!しっかりね!?」

「りょーかいっ!」

「――それでは審査を始めます。受付番号31番〜40番のお子さんは――」

「始まるみたい…。…じゃあ僕、行ってくるよ!」

「あぁ、頑張れよ、誠一郎!」

「名前を呼ばれたら、大きな声でお返事するのよ!?いいわねーっ!?」

「はーいっ!」


誠一郎は気合十分で控え室を出て行ったけど、…大丈夫かしら?

「ハァ…、上手く受け答えできるといいんだけど…」

「付け焼刃とはいえ、今朝あれだけ練習したんですから大丈夫ですよ。誠一郎を信じて待ちましょう」

「ふふっ、そうね。たまにはこういうイベントに参加させるのも度胸がついていいだろうし…。…あの子は一郎君に似てナヨナヨしてるから」

「〜〜うっ!そこは俺、謝るところなんでしょうか…?」

「ふふっ、冗談よ♪」


すると、私達と同じように控え室で待機しているステージママ達が急に黄色い声をあげ始めた!

「きゃ〜!!本物の藤倉桃花よ〜っ!!」

「えっ?」


私と一郎君も教壇に注目すると、ボディコンスーツに毛皮のコートを羽織り、羽のついた大きな帽子を被った女性がハイヒールを鳴らしながら控え室に入ってくると、サングラスをはずして営業スマイルを浮かべた。

「本日は当養成所の入所説明会においで頂き、ありがとうございます。プロダクション『MoMo』社長兼『ももたろう』所長の藤倉桃花でございます」

「きゃああ〜!!桃花様ぁ〜♪」

「いや〜ん、顔小さ〜い!足長〜いっ!!」

「やっぱり芸能人はオーラが違うわよねぇ〜♪」

「〜〜何なの、あの成金セレブは…?あれが人に挨拶する服装かしら?」

「〜〜か、かえでさん、聞こえますって…!」


桃花さんは自分に興奮しているステージママ達を気分良く見渡した後、目が合った私と一郎君に向かって、意味深気にニコッと笑った。

「…では皆さん、また審査の方で♪お子様の合格を心よりお祈り申し上げますわ」

「きゃあ〜♪桃花様ぁ〜、こっち向いて〜!!」

「うちの子を合格させて下さ〜い!!」


本心なのかヨイショなのか…、はたまたサクラを仕込んでいるのかはわからないけど、ステージママ達は裏口で待ち伏せしているアイドルの親衛隊みたく、控え室から出ていく桃花さんに黄色い声援を送りながら見送った…。

「〜〜すごいカリスマ性ですね…。『元祖トレンディ女優』と同性から支持を得ているのもわかる気がします…」

「…人気があるのはわかったけど、あんな女優、やっぱり初めて見たわ」

「実は俺も昨日までそんなに意識して見たことなかったんですよね。ずっと前から芸能界の第一線で活躍していたはずなのに…、…何でなんだろう?」

「それに近くで見ると、ますます私や姉さんにそっくりだし…。〜〜何だか気味が悪いわ…」

「――う…っ!?」

「…!〜〜どうしたの、一郎君!?大丈夫…っ!?」

「す、すみません…。桃花さんのことを考えたら、急にめまいが…。――そういえば俺…、前に桃花さんとどこかで会っていたような…?」

「え…?」


一郎君の言葉を聞いて、私はひどく胸騒ぎがした。〜〜昨日、クロノスと呼ばれる男の夢を見た時と同じくらいに…。

「――ふふふっ、焦らなくてもすぐに思い出すわよ、大神君…♪」

その頃、監視室に移動していた桃花さんは蒸気防犯カメラで控え室にいる私と一郎君を見て、白い子犬型の召喚獣を膝に乗せて撫でながら妖しく微笑んでいた…。



一方、誠一郎は冷や汗ダラダラで心臓をバクバクさせながらも、何とか堪え、パイプ椅子に座って審査の番を待っていた。

(〜〜ハァ…、もう帰りたいよぉ…。で…っ、でも、父さんと母さんと約束したんだから!最後まで頑張らなくっちゃ…!!)

親から離れ、いつも一緒にいるなでしこやひまわりも今はいないのだ。

孤独に慣れてなく、普通の子以上に人見知りが激しい、心配性な誠一郎にとっては、今のこの時間は苦痛以外の何物でもないのだろう…。

「――君も入所希望者?」

「え?」


そこへ、隣に座っていた同い歳くらいの眼鏡の男の子が誠一郎に話しかけてきた。

「ど、どうなのかな…?母さんは僕を入れたがってるみたいだけど…」

「実はうちもなんだ。僕の父さんは発明家なんだけどね、研究にお金がかかりすぎて、家計が火の車でさ…、うちを助ける為だと思ってって、母さんが無理矢理応募しちゃったんだよね…」

「そうなんだ…。君も大変だね…」

「はは、まあね。でも、父さんには貧乏に負けずに頑張ってもらいたいからさ。僕は松井一平。君は?」

「僕は誠一郎。大神誠一郎だよ!」

「誠一郎君か。君となら、いい友達になれそうだな。一緒に合格できるといいね!」

「うんっ!頑張ろうね、一平君!」

「――それでは、31番〜40番の人、こちらへどうぞ」

「は…、はいっ!!」

「行こう、誠一郎君!」

「うんっ!」




その頃、私と一郎君は父兄席に座って、舞台上で審査を受ける子供達を見守っていた。

ダンスに歌唱に演技…。皆、大人顔負けのパフォーマンスを披露し、拍手喝采を浴びていく…。

「はぁ〜…。今の子役を目指してる子ってすごいんですね…」

「…呑気に感心してる場合!? うちの誠一郎だって、ここに通うようになれば、すぐに追いつくわよっ!」

「〜〜す、すみません…。でも、誠一郎には少し場違いなような気がして…。……アイツ、大丈夫かな…?」


私達の心配をよそに、誠一郎が一平君に続いて、スポットライトが当たっているステージに上がってきた。

「あっ、誠一郎の番みたいですよ!」

「本当だわ…!一郎君、蒸気ビデオカメラっ!!」

「は、はい!!」


……でも、誠一郎ったら右手と右足が同時に出ちゃってるわ…。〜〜案の定、大緊張中って感じね…。

「い、いよいよだね…。〜〜うぅ…、ドキドキするよぉ…」

「立派な舞台だよねー。最新の設備が整ってるってパンフレットに書いてあったのも頷けるよ」

「〜〜あうぅ…。ひ、人がいっぱいだよぉ…、一平くぅん…」

「あははは、平気、平気。皆、ジャガイモだと思えばいいんだよ♪」

「〜〜そ、そんなの無理だよぉ〜…!」


自分の子供達の番になると、父兄席にいるステージパパとママ達は大きな声で応援し、ステージは大規模なコンテストみたいな盛り上がりを見せている!

…子供を応援する親馬鹿のステージパパとママは、私達も例外ではない。

「お〜い、誠一郎〜っ!!」

「ここで見てるから頑張るのよ〜っ!?」

「あっ、父さんと母さんだ…!お〜いっ!!」


客席に私と一郎君がいることがわかってホッとしたのか、涙目になっていた誠一郎の緊張が少し和らいだみたいだわ。

すると、派手なコートの代わりに今度は毛皮の襟巻を巻いてきた桃花さんが審査員席から立ち上がり、手を叩いて自分に注目するよう合図を送った。

「皆さんには、これからそこのステージで自己紹介と特技を披露してもらいます。――じゃあ、そこでパパとママに元気に手を振っているあなた」

「…え?〜〜あ…」


桃花さんにふられると客席からどっと笑いが起こり、誠一郎はもじもじと恥ずかしそうに顔を伏せた。

「ふふっ、お名前は?」

「〜〜は、はいっ!えっと…、38番・大神誠一郎です!!ごっ、5歳です!!」

「ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ?何か自慢できる特技はあるかしら?」

「あ…、はい!とっ、特技は父さんに教わったジャグリングですっ!!」


誠一郎は倒れそうなほど顔を真っ赤にしながら、言われた通り大きな声で答えると、肩掛けバッグにしまっておいたジャグリング・ボールを3つほど取り出した。

「いいぞ…!行け、誠一郎!」

「頑張って…!!」


誠一郎は祈るように見守っている私と一郎君を舞台上から見て深呼吸すると、お手玉の要領で上手にボールを3つ掌の上で回し始めた!

「おぉ〜っ!!」

「――はいっ!」


ボールを掲げる決めポーズでパフォーマンスを終えた誠一郎に、客席と審査員席から拍手が起こった!

「や…、やったぁ!」

「ふふふっ、とっても上手だったわよ。審査が終わった子は結果が出るまで控え室に戻って待っててね」

「はっ、はい!」

「じゃあ、次は…そうねぇ。隣の眼鏡をかけた子」

「はい!」

「頑張って、一平君!」

「うんっ!――37番・松井一平です!父が発明家なので、教えてもらった元素記号を全て暗唱したいと思います!――」



「〜〜ハァ…、緊張したぁ…」


審査を終えて、私と一郎君も誠一郎と一緒に控え室まで戻ってきた。

「よく頑張ったな、誠一郎!偉かったぞ!」

「やればできるじゃな〜い♪今日はかすみお姉ちゃんに頼んで、誠一郎の大好きなハンバーグを作ってもらうわね〜!」

「わ〜いっ!かすみお姉ちゃんのハンバーグ、大好きなんだ〜♪」


すると、間もなくして養成所の事務員がホワイトボードに紙を貼りに来た。

「こちらに番号が書かれているお子さんは合格です。そのままこちらの控え室でお待ち下さい」

ホワイトボードの前に群がるステージママ達に紛れて、私達も番号を確認しに行く。

えっと、誠一郎は38番だから――。

「あ…、ありましたよ、かえでさん!」

「やったわ!合格よ、誠一郎〜っ!!」

「わ〜い!やった、やった〜!!――あ、そうだ!一平君は!?」

「――不合格だよ、残念だけど…」

「あ…、〜〜一平君…」

「あはは、やっぱり特技がいけなかったのかな?でも僕、それしか取り柄ないんだよね、父さんと一緒で…」

「〜〜ご、ごめんね、僕…」

「どうして謝るのさ?おめでとう、誠一郎君。あはは、そんなに落ち込まないでよ。僕の分まで喜んでくれないと!」

「でも…」

「帰るわよ、一平」

「…うん。――じゃあね。君がスタァとして活躍する日を楽しみにしてるよ」

「一平君…」


一平君の母親は私達に会釈すると、一平君を連れて、静かに控え室を後にした…。

「……せっかく友達ができたのにな…?」

「うん…。〜〜一緒に通いたかったな…」

「誠一郎…」

「――合格された皆さん、おめでとうございます。ただ今から30分ほど休憩を挟みまして、1階のレッスン室にて説明会とプログラム体験会を開始致します――」

「…本番はこれからよ!一平君の分まで頑張らないとね!?」

「うん…!絶対頑張らなくちゃ…!!」


――ぐ〜…きゅるるるる…。

「〜〜う…っ!?プ、プレッシャーを感じたら…、急にお腹が…」

「えぇっ!?大丈夫なの!?」

「〜〜う、うん…。ごめん…、ちょっと…トイレ…」

「父さんもついていこうか?」

「だっ、大丈夫…っ!〜〜すぐ戻るから待ってて〜っ!!」

「あ…っ、誠一郎ーっ!?……大丈夫でしょうか…?」

「ふふっ、緊張すると胃腸が弱くなるのはお父さん譲りね♪」

「〜〜う…」




どうにか間に合ってトイレに駆け込んだ誠一郎は、フラフラとゲッソリしながらトイレから出てきた。

「〜〜うぅ…、まだお腹がグルグルいってるけど、早く戻らなくっちゃ…。えーっと、控室って確か…こっちだったよね…?」

誠一郎がトボトボと一人で廊下をさまよっていると、どこからか女の子の美しい歌声が聞こえてきた。

「綺麗な声だなぁ…。誰が歌ってるんだろう…?」

まるで天使が歌っているかのような透明感のある歌声に導かれるように進んでいくと、レコーディング室でボイストレーニングを一人で行っている少女…、誠一郎と同じか少し年上だろうか?お人形のように肌が白く、長い黒髪と整った顔立ちが美しい少女を見かけ、誠一郎は一目見て、その娘に釘付けになった。

(――わぁ、綺麗な子…!あの子も養成所に通ってるのかな…?)

「…!だぁれ…!?」

(〜〜わっ!?や、やばい…!)


すると、視線に気づいたのか、少女は細い肩を震わせて、少し怯えながら振り返った。

「あ…、ご、ごめんね!?邪魔しちゃったかな…?」

「…!!あなたは…!」

「…え?」

「あ…、〜〜ううん、何でもない…。あなたもこの養成所に?」

「うん、できたら入りたいと思ってるんだ。君はここに通ってるの?」

「えぇ、お母さんがここで働いてるから…」

「そうなんだー。僕は大神誠一郎。君は?その…、よかったら名前を教えてくれないかな〜なんて…♪」

「私は胡桃…。大神…胡桃よ」

「へぇ、君も苗字が大神っていうんだ?すっごい偶然だね!」

「〜〜そ…、そうね…」

「…?胡桃ちゃん…?」

「――胡桃っ!!何サボってるの!?」


そこへ、目を吊り上げた桃花さんがレコーディング室に怒鳴り込んできた!

「あ…!〜〜お母さん…」

「えぇっ!?それじゃ、ここで働いてる胡桃ちゃんのお母さんって…!?」

「…ここは関係者以外立ち入り禁止よ!?出て行きなさいっ!!」

「〜〜ひぃっ!!ご…っ、ごめんなさぁ〜いっ!!」


審査の時の優しい口調と笑顔とは正反対の冷たい目つきで桃花さんに睨まれ、誠一郎は足をもつれさせながら急いで廊下へ逃げていった…!

「……私がいいと言うまで、あの子とは接触するなと言ったわよね?」

「〜〜ごめんなさい…」

「…くれぐれも余計なことは話さないようにね?――お父さんをあの子から取り戻したいのなら…」

「……わかってるわ、お母さん」




……休憩時間が終わろうとしてるのに、一向に誠一郎は戻ってこない…。

もしかしたら先に来ているかもと、私と一郎君は次の会場であるレッスン室まで来てみたんだけど、ここにも誠一郎の姿はなかった…。

「ここにもいないなんて…。〜〜本当にどこ行っちゃったのかしら…?」

「トイレにもいませんでしたしね…。〜〜誠一郎の奴、迷子になって泣いてないといいですけど…」


〜〜んもう、誠一郎ったら!もうすぐ説明会が始まるのにどうしちゃったのよ…!?

「――審査に合格された皆さ〜ん!ようこそ、『ももたろう』へ〜!!」

すると、先程よりさらに装飾品できらびやかに飾った桃花さんが仮組のステージのせりからセンタースポットを浴び、扇子をあおいで腰をくねらせながら上がってきた。

「桃花社長、また出てきましたね…」

「…売れっ子って割にはよっぽど暇なのね」

「〜〜まぁまぁ、かえでさん…」

「これより、あなた達・タレントの卵さんには当養成所自慢の育成プログラムを体験して頂きます。ここにいるあなた方は選ばれたのです!すなわち、いずれは日本の芸能界を背負って立つ人材であり、未知なる輝きを秘めているということっ!!お手持ちの資料にある通り、我が『MoMo』プロダクションは幅広いジャンルで活躍するタレントを多数抱えております。いずれは皆さんも当事務所に所属し、その者達と一緒に仕事して頂くことになりましてよ♪」

「おぉ〜っ!!」

「…で・も〜♪残念ながら、それができるのはこの中のほんの一握り…、つまり、とびきり優秀な成績で当養成所を卒業できた者達に過ぎません。すなわち、共に学ぶクラスメート全員がライバルだということ!もうこの瞬間から戦いは始まっているのです…っ!!」

「おぉ〜っ!?」

「ざわざわざわざわ…」


〜〜何なのよ、あのくさい演説は…。入所式でもないのに大袈裟な…。

「当所は他の養成所に比べ、カリキュラムは厳しいものになるかもしれません…。ですが、お約束致しましょう!お預け頂くお子様の健やかな成長を!そして、輝かしい芸能生活を送る為のバックアップをっ!!」

「おぉ〜っ!!」

「さっすが桃花様だわぁ〜♪」

「俺んとこの坊主もスタァにしてくれ〜!!」

「〜〜い…、異様な盛り上がりですね…」

「〜〜まるで危ない宗教ね…」


――ピーッ!ピーッ!ピーッ!

「…ん?キネマトロンが…!」

「さくらからだわ…!何かあったのかしら?」

「――そこのあなた達!蒸気携帯電話の電源はお切り願えます?」

「あ…、〜〜すみません。ちょっと失礼します…」


廊下に出て一時退席する私と一郎君を見て、桃花さんは何故かしたり顔で笑みを浮かべた…。



「――さくら、何かあったの!?」

廊下に出て、それぞれの携帯キネマトロンに応答すると、何やら不穏な顔つきのさくらが戦闘服の姿で映った。

『大帝国劇場付近に降魔の群れが現れたみたいなんです!〜〜でも、変なんですよ!いつもみたいに群れを指揮している中型種が見当たらなくて…』

「そう…。それは確かに不自然ね…」

「とりあえず、俺がそっちに向かうよ!近くにいるから、すぐに合流できると思うんだ」

『わかりました。お待ちしてますね、大神さん!』


一郎君はキネマトロンを切ると、走りやすくする為に脱いだジャケットを私に預けて、ネクタイを緩めた。

「すぐに戻りますから、かえでさんは誠一郎についててやって下さいね?」

「わかったわ。気をつけてね、一郎君?」

「はい!」


と、その時…!

――ウウウウ〜ッ!!

「えっ!?」

「な、何だ…!?」


けたたましいサイレンが施設中に流れた刹那、廊下に並んでいたフロアー全てのドアが一斉に開くと、見慣れない甲冑を纏った大勢の者が刀や機関銃を持って出てきて、廊下に立ち尽くしている私達を次々に追い抜いていく…!

「い、一体何なの…!?」

「さ、さぁ…?でも、あの人…、受付にいた事務員さんでしたよね…?」

「――父さ〜ん、母さ〜ん!!」


すると、その人混みから逃げるように(…といっても、押し流されているようにしか見えないけれど)、誠一郎が私達の元へ駆け寄ってきた。

「誠一郎…!」

「今までどこにいたの!?心配したのよ!?」

「ご、ごめんなさい…。〜〜よくわかんないうちに迷子になっちゃって…」



「お…、おぉ〜…!?」

「今の集団は一体…?」


一方、説明会に参加している父兄や子供達も口をあんぐりさせて私達と同じ反応を取っていたが、壇上に上がっている桃花さんが部下のイケメン2人に先程の者達と同じ甲冑をつけられ、そこから勢いよく蒸気を噴射させると、一斉にそちらに視線が集まった。

「な、何だ!?」

「何が始まるの…!?」

「タイミングの悪いことに、たった今、この銀座4丁目付近で降魔の群れが破壊活動を行っているとの連絡が入りました」

「えぇっ!?」

「こ…、降魔って、帝都に現れるあの化け物のことかい!?」

「その通り!――ですが、ご安心を!この蒸気甲冑の開発に成功した私達『MoMo』プロダクション…、またの名を対降魔戦闘企業『Peach All Star Soldiers』(通称『P.A.S.S.』)がいれば帝都の平和は約束されたも同然ですっ!!」

「P.A.S.S.…!?」


私と一郎君と誠一郎がひとまず会場に戻ると、両手を高々と掲げて高笑いしている桃花さんのスポットライトを残して室内が暗くなったところだった。

「こ、これは…!?」

「百聞は一見に如かず♪――まずは、こちらのモニターをご覧下さいませっ!!」


桃花さんのフリを合図に巨大スクリーンが降りてくると、レッスン室はたちまちシアターと化した…!


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