藤枝かえで誕生日記念・特別短編小説2013
「君想ふ花」その1
平盛時代。私達が生きていた太正時代から100年以上の歳月が流れた未来…。
バブル崩壊をきっかけに経済は落ち込み、世の中に溢れ返った失業者は思うような職にありつけず、凶悪犯罪に手を染める者も少なくない…。
希望に満ちた未来を夢見ることも困難な若者は爆発的に普及したSNSに日々の恨みつらみを書き込む…。
十分な年金制度と介護保障の整備が整えられないまま増え続ける高齢者達は『日本はいつからこんな国になったのか』と皆、口を揃えて嘆く毎日…。
人は皆、己以外の人間を誰も信用できなくなり、今日も学校や会社の屋上から身を投げる者は後を絶たない…。
誰もが心に闇を抱え、社会という戦場で必死に生き抜こうとしている21世紀の帝都・東京…。
迷える兵士達の心を少しでも癒そうと、創立100周年を迎えた大帝国劇場では今日も4代目花組スタァ達が舞台に花を咲かせていた。
そんな美しい8輪の花々をまとめ、帝都に巣食う魔と戦っているのは大神一郎と藤枝あやめ・かえでのひ孫にあたり、祖父であり現在の帝国華撃団の司令・大神誠一郎の孫でもある大神敬一郎隊長見習いだ。
そして、彼を支える2輪の姉妹花は、藤枝さつきと藤枝ゆずき。藤枝の巫女を継いだ現副司令であり、彼女達の祖母でもある大神なでしこを師と仰ぎ、藤堂一族の本家である藤枝の姓を継いで巫女としての修行に励む美人姉妹の2人は敬一郎の親戚のお姉さんであり、今は大帝国劇場の副支配人&副司令見習いとして働いている。
両親を見殺しにしたと誠一郎に反発していた敬一郎だったが、過去からタイムスリップしてきた3人のご先祖様達の活躍でわだかまりも解け、現在は心を入れ替えて、帝都の平和を守る為に大帝国劇場のもぎりとして働いている。
新生・帝国華撃団の働きにより、最近では帝都の地下に渦巻く負のエネルギーも減ってきて、降魔の出現率も減ってきたように思えたのだが…。
「――大帝国劇場の公式フェイスブックとツイッターのフォロワー、順調に伸びてるわね!」
「この前ホームページに掲載した次回公演の予告動画も反響がすごいわよ!来年は海外からのお客様も増えそうだから、敬一郎もちゃんと英語勉強しておきなさいよね?」
「…へいへい。あ〜あ、今日も大した事件、起こんなかったなー」
「何言ってるのよ!世界には戦争と飢えで苦しんでる人達が大勢いるっていうのに…」
「そうよ?こうして一日を無事に終えられることがどんなに幸せか…」
「だ〜って、せっかく花組の隊長になったってーのによー。ご先祖様の言いつけを守って、ちゃんと真刀滅却まで継承したんだぜ!?なのに、たま〜に現れるのは乳くせぇ小型の降魔だしよぉ…」
「そんなに体を動かしたいなら、一緒に合気道の組手でもどう?」
「ケッ、だりぃ」
「…あら、そう。付き合ってくれたら、今夜デートしてあげてもいいんだけどなぁ〜?」
「えっ?マジでか、さつき!?」
「ふふっ!最近、誠一郎おじい様のお手伝いで忙しかったものね。お互いデスクワーク続きで体がなまってるだろうから、一緒に頑張りましょうよ?…でないと、今夜は途中でバテちゃうわよ♪」
「へへ、途中でヒィヒィ言う羽目になるのはどっちかな…♪」
――ビンッ!!
「〜〜ってぇっ!!――ゆずき!てめぇっ!!」
「フン!さつき姉さんを口説く前に仕事を終わらせたらどうなのよ!?終業時間になると、いっつも私に押しつけて帰っちゃうんだからっ!」
「〜〜だからって、付け爪でデコピンするなっつーの!…ったく、せっかくさつきと同じ顔してるんだから、黙ってりゃ可愛いのにな…」
――むにゅっ♪
「〜〜きゃあ…っ!?」
「…おっと、性感帯もさつきと同じだったっけ?確かこことここと…♪」
「〜〜いやああ〜んっ!!あ…っ、んもう…!信じらんない、馬鹿ぁ〜っ!!」
「へへっ、もう降参かよ、ゆずき?昨晩みたいに猫撫で声で俺を求めてくれたら、許してやってもいいぜ♪」
「あっ、ああああっ、やめなさい!敬一郎ぉっ!!はぁはぁ…、いやあっ!!そこ…弱…っ!んん…っ、ズっ、ズルいぃっ♪」
「ハハハ!今度俺に生意気な口をきいたら、もっとすごいことしてやるからな?」
「〜〜何よ、もうっ!私の方があんたより上官なんだからねっ!?」
「ふふふっ、今日も帝撃は平和ねぇ♪」
ソファーに押し倒されたゆずきさんが敬一郎に仕返ししようと、ソファーから起き上がろうとしたその時!
――ゴゴゴゴゴ…!!
「きゃあああっ!!」「きゃあああっ!!」
「〜〜わぷ…っ!?」
突然、大きな揺れが大帝国劇場を襲い、ゆずきさんだけでなく、さつきさんもバランスを崩して、敬一郎の顔を胸で圧迫して抱きつきながらソファーに3人一緒に倒れ込んだ。
「…ホッ、止まったみたいね」
「〜〜地震か…。今のちょっと大きかったわよね…?」
「あぁ、確かにでっかい…♪」
――もみもみもみ…♪
「え…?〜〜きっ、きゃああああっ!!」
「〜〜どさくさに紛れて、どこ触ってんのよ、変態っ!?」
――バッチーンッ!!
「〜〜痛ってぇなぁっ!!お前らが先に抱きついてきたんだろうがよっ!!」
「〜〜んもう…。顔は一郎ひいおじい様とそっくりなのに、どうしてこうも性格が違うのかしら…?」
「ケッ、お前らも顔と胸だけは、あやめとかえでってばあちゃん達とそっくりなのにな。…けど、さっきのはマジでヤバい気がしたぜ。ここも老朽化してるからな…。明日にも業者を呼んで、補強工事をしてもらおうぜ」
「そうね」
「ふふっ、なんだかんだ言っても、敬一郎君も隊長さんらしくなってきたわよね?」
「そ、そうか?さつきに言われると何か照れるけど…♪」
――ぐりぐりぐりぐり…!!
「〜〜いててててっ!?」
「〜〜いっつもさつき姉さんにばっかりデレデレして…!!倍返しだぁ〜っ!!」
「〜〜バ…っ、やめろって!ヘアースタイルが崩れるだろうがっ!!この髪型はご先祖様から代々伝わる由緒正しいツンツン頭なんだぞぉっ!?」
「いい加減にしなさいっ!!今日は和葉お義姉様からディナーに誘われてるんだから、早く仕事を終わらせちゃわないと!……遅れたら、それこそどうなるか…」
「……了解」
「…チッ、わーったよ。ったく…、ちゃんと残業代出るんだろうな?」
「ふふっ、かりんちゃん、しっかりしてるものねぇ」
と、その時だった!
パァ…ッ!!と銀座の美しい夜景が広がっていた隊長室の窓が突然、夜が明けたのかと錯覚するくらいの強い光に包まれたのである…!!
「〜〜うわあっ!?今度は何だよっ!?」
「これは…!――姉さん!」
「えぇ!――気をつけて、敬一郎君!何か…、とても高い霊力の塊が近づいてくるわ…!!」
「〜〜いぃっ!?何だよ、それ!?」
すると、忽然と光は消え、窓の外もいつもの夜の風景に戻っていた。
「消…えた…?」
「でも、まだ強い霊力を感じるわ。それも、この部屋の中に…!」
「…!!何かしら、あれ…!?」
「え――っ!?」
ゆずきの反応に敬一郎とさつきも後ろを振り返って驚いた!
何と隊長室のベッドの上で、体を抱えて眠っている少女が先程見たのと同じ光に包まれて浮いていたのである…!
「〜〜おわっ!?な…っ、何だよ、アイツ!?」
「お、女の子…よね…?」
3人の声を確認したように少女を包んでいた光は点滅しながらゆっくり消えると、少女は静かに敬一郎のベッドに横たわった。
「眠ってるみたいね…」
「マジかよ…。〜〜まさかエイリアンとか言うんじゃねぇだろうな…!?」
「そんなわけないでしょ?どこからどう見ても地球人じゃない!」
「でも、この霊力といい、さっきの光といい…、普通の女の子でないことは確かだわ…」
敬一郎達の声が騒がしかったのか、少女は目を覚ますと、ゆっくり体を起こした。
「〜〜うわ!起きやがった!?」
見た目からすると7歳くらいだろうか、まだあどけない顔と大きな瞳で3人をじっと見つめている…。
「〜〜な、何だよ…?やる気かっ!?」
「しっ!…何か言おうとしているわ」
「く…ろ…」
「え?」
「くろ…のす…、くろのす……」
「はぁ?」
「クロ…ノス…?」
『――死の世界の未来へ流れ着きよったか…』
少女が未来の世界で目覚めた気配を感じて、普段は微塵も動かないクロノスの眉間に少しだけしわが寄った。
「…あのおちびちゃんがそんなに怖い?」
『……警戒するに越したことはない。だが、今のあやつは何の力も持たぬただのガキだ』
「フフフッ、そうだったわね♪」
平盛のバブル時代を彷彿とさせる派手なボディコンスーツで着飾っている『桃花』は、時を操る杖を携えて玉座に座っているクロノスに、まるで会社の重役に甘える水商売の女のように流し目を決めながら寄り添った。
「ね〜ぇクロノス様、そろそろ出撃しましょうよ〜。今度の行き先は?かえでちゃんを殺すなら1901年がオススメだけど♪」
『…いいや。向かうのは前回同様、太正20年だ』
「え〜!?何でよぉ〜?あやめちゃんとかえでちゃんが赤ん坊の時の方が楽じゃな〜い?」
『奴らが死ぬのは1912年7月31日の午後9時13分だ。その事実と過去の歴史を変えるのは神の命に背くことになる』
「んもぉ、神様ったら頭固すぎよね〜。自分は天上界に引きこもって、な〜んにもしないくせに――っ!?」
神様の悪口をこぼした桃花さんをクロノスは睨みつけると、瞬時に時の杖の尖った先端を桃花さんの首にあてつけた。
『……神を貶める不届き者は容赦せぬ。たとえ誰であろうとな…』
「〜〜ご、ごめんなさい…。そんなつもりじゃ…」
『……気をつけるがいい。神がいなければ今、我々はここに存在しないのだ』
「そ、それはわかってるけど…、でも、何でそんな太正20年にこだわってるの?1912年7月31日の午後9時…13分だっけ?その時に刺客を送っちゃえば一発で任務完了なのに〜」
『…今にわかる。桃花、お前は私に言われたことをやっていればよいのだ』
「わ、わかったわよ…、もう…」
クロノスは不敵に笑うと、大帝国劇場で働くおじいさんと2人のおばあさんをモニターとして空間の壁に映し出した。
「…?誰よ、このじいさん・ばあさん?」
『大神誠一郎と、なでしこ・ひまわり姉妹…。太正時代に生まれ、後の平盛の世で帝国華撃団・総司令と副司令に就任する者どもだ』
「ふーん、あのお子ちゃま達の未来の姿ねぇ…。まさか、こいつらが例のパラドックスの原因とか?」
『そのきっかけとなるのは間違いない。母親だけ殺しても、帝国華撃団が後世に受け継がれればイタチごっこに過ぎん…』
「帝国華撃団が帝都に存在し続ける限り、世界は滅びの運命から逃れることはできない…。なら、それに取って代わる正義のニューヒロインが必要よね♪」
『まずは子供3人からだ。藤枝家が絶え、藤倉家が藤堂一族の頂点に返り咲くことができれば、全ての世界に永遠の安息と繁栄が約束されたも同然…!――その為には桃花、お前が梨子と共にこの世界に甦ることが絶対条件なのだ』
「フフッ、わかってるわよ。優秀な芽は早いうちに潰しておくに限るものねぇ。…あー、わかった!だから、こいつらが子供だった太正20年に向かうわけね!?」
『…フッ、そういうことにしておこう。――今回は子供が相手だ。神の意思に従い、楽に死なせてやれ』
「この藤倉桃花にお任せを、『お父様』。――全ては藤倉家再興の為に…!」
『期待しているぞ、『我が娘』桃花よ…!』
「――ハ…ッ!?」
黒い頭巾を深く被っていたクロノスが顔を上げ、その素顔が見えた瞬間、私・藤枝かえでは全身に衝撃が走って、一郎君のベッドから飛び起きた…!!
「ハァハァハァハァ…ッ」
〜〜何だったの、今の夢…?クロノスの顔が針之進叔父様…、梨子さんと桃花さんのお父様に見えたなんて…。
私のただならぬ様子に一郎君も心配になったのか、隣で寝ていた体を起こしてきた。
「かえでさん…?どうかしたんですか?」
「あ…、起こしちゃった?ごめんなさいね、ちょっと変な夢を見て…」
「夢…?どんな夢ですか?」
「んー…。あやふやでよく覚えてないんだけど…、黒い頭巾を被った男がいたのよ。名前は確か『クロノス』って…」
「クロノスですって…!?」
「ふふっ、でも、ただの夢に決まってるわ。私はクロノスを見たわけじゃないんだし、そいつが本物かどうかは…」
「でも、あやめさんも誕生日を迎える前にクロノスの夢を見たそうなんです。明後日は、かえでさんの誕生日ですよね!?〜〜だったら、次はかえでさんを狙ってくる可能性も…!」
「私なら大丈夫よ。――いざとなったら一郎君が守ってくれるんでしょ♪」
「かえでさん…」
心配そうにうつむいて、誰にも渡すもんかって想いで裸の私を強く抱きしめてくれた一郎君。
そんな彼の反応に嬉しくなって、私はペットみたいに一郎君の頭を『いい子いい子』してあげた。
「ふふふっ、ありがとう。まだ夜明け前だし、もう少し眠りましょ?こうやってたら、良い夢を見れそうだから…♪」
「…はい」
私が一郎君の厚い胸板に頬をくっつけると、一郎君は私の背中に腕を回して、優しく抱きしめてくれた。
ふふっ、一郎君の体、あったか〜い♪最近冷え込んできたから、ぬくいわぁ…。
――むにゅ…っ♪
「う…っ!?」
私が寝やすい体勢を探って体を動かす度に、私の大きな胸が一郎君の胸や腕をこすっていくので、純情な一郎君の頬が狙い通りだんだんと紅潮してきた…!
「……かえでさん、その体勢だと眠れそうにないんですけど…」
「…あら。じゃあ、ぐっすり眠れるように、ちょっとだけ運動してみる?」
「はは、了解です…♪」
一郎君はシーツを頭まで被って、ベッドに横たわっている私の上に乗って唇を重ねると…、
「あんっ!?」
私の足にキスしながら足元へと移動して、自慢の長い指とぬるっとした生温かい舌で私の敏感な下半身を愛撫し始めた。
「ひあっ!?あっ、あふ…っ!はぁはぁ…、ふおぉ〜っ!?んぉ…!ま、待って…!一郎く――!」
「かえでさん、まだ始まってすぐなのにもう濡れ濡れですよ?もしかして失禁しちゃったんですか?」
「ち、ちがぁ…っ!〜〜いやああああああああっ!?」
舐めやすいように膝を抱き寄せて足を大きく広げてやると、一郎君の舌が奥まで入ってきて、私のアソコがジンジン熱くなっていく…♪
「ふあああ…、もう…ダメぇ…。お願い、早く…!早く挿入れなさい、一郎君っ!!」
「了解です、かえでさん。その前に俺のも…」
「んふ…っ、んんん…っ!一郎くぅん…。ふふっ、胸で挟んであげるわね…♪」
「う…っ!行きますよ、かえでさん…!!」
「あああああああああ〜っ!!一郎くぅぅぅんっ!!」
昨日も寝る前に何回も一郎君とセックスしたはずなのに腰が止まんない…っ!
もっと大好きな一郎君と気持ち良くなりたい…!!離したくないの…っ!!
「はぁっはぁっ…、朝からすごいわね、一郎君…♪」
「はぁはぁ…、愛してます、かえでさん。可愛いあなたをもっと見せて下さい…♪」
「んはぁ…はぁ…、私も愛してるわ。ねぇ、もう一回キスして…♪」
「はい…♪」
んふふっ、こうやって一郎君に『愛してる』って囁かれながら、キスされてる時が一番幸せ…♪
「――明日の誕生日、楽しみにしてて下さいね。今年も素敵なプレゼントを用意しますから」
「ありがとう。でも、私は一郎君がいてくれれば、それで幸せよ…♪」
「かえでさん…」
――こりこりこり…♪
「…きゃあっ!?ま、待って、一郎君っ!ちょっと休ませて〜!!」
「そんなこと言って…、勃起乳首が震えっぱなしじゃないですか。かえでさんの母乳、また飲ませて下さい…♪」
「いやああ〜んっ!!朝から何回イカせる気なのよぉ〜!?」
――こりこりこりこり…♪
「くぅぅぅぅ〜ん…っ!!」
「かえでさん、今度はバックでしますね♪」
「きゃああああああっ!!あっ…すごぉいっ!一郎君っ、もっとぉ…っ!!あっあっあっあっあっ…♪また…イクゥゥゥ〜ッ!!」
気がつくと、いつの間にか窓から朝日が差し込んでいた。少しだけのはずが、セックスに夢中になりすぎちゃったみたいね。
「〜〜うぅ…、腰痛ぁい…」
「でも、気持ち良かったでしょう、かえでさん?」
「ふふっ、もう…。一郎君ったらエッチすぎ♪ふふふ…っ!」
そろそろ起きる時間だけど、もうちょっとだけ一郎君を独占してたいな…♪
あやめ姉さん、ごめんなさい。明日は私の誕生日だから大目に見てくれるわよね…♪
「――『ごきげんよう、ジェニファーちゃん。今から私のおうちでお茶会しませんこと?』」
「『まぁ、素敵〜!それでは、ルカちゃんのおうちに参りましょう〜!』」
隣のあやめ姉さんの部屋から、なでしことひまわりの声が聞こえるわ。ふふっ、二人とも、この前買ってもらったお人形に夢中ですものね。
ん〜っ、そろそろ誠一郎も起きた頃かしら…?
「……ん?…ねぇ、ところで今何時?」
「えっと…、7時半ですね」
「〜〜えぇっ!?もうそんな時間っ!?」
――ガバッ!!
「うわあっ!?きゅ、急にどうしたんですか、かえでさん!?」
「〜〜のんびりしてる場合じゃないのよっ!!9時から誠一郎にピアノのレッスン受けさせなきゃいけないのに…!!」
「えっ?いつの間にピアノ教室になんて通わせてたんですか!?」
「お教室じゃなくて音子さんに習ってるの!〜〜あぁ〜っ、早く支度させなくちゃ!その前に、そろばん教室の予習もさせないと…!!」
「〜〜そろばん教室も初耳ですけど…?」
「ああん、後で説明するから!ありがとね、一郎君!お陰でエネルギー満タンよ!!ん〜チュッ♪」
「……何だかなぁ…」
一郎君は私にキスされた唇を指で撫でながら、慌ただしく隊長室を出て行った私をベッドの上から呆然と見つめるのだった…。
ハァ…、私としたことが…。すぐに終わらせるつもりが3時間以上もエッチしちゃってたなんて…!!
本当はもっと一郎君とゆっくり過ごしていたいけど…、これも息子の将来の為ですものね!
「――誠一郎ー?いないのー?」
子供部屋に改造した屋根裏部屋に行ってみたけど、誠一郎がいないわ…。もう起きて違う所に行っちゃったみたいね。
「――あっ、かえで叔母ちゃんだー!」
「おはようございます、かえで叔母さん」
「おはよう、二人とも」
お人形遊びを終えたらしく、なでしことひまわりが着せ替え人形を抱えながら屋根裏部屋に帰ってきた。
「ねぇ、誠一郎どこにいるか知らない?」
「誠一郎なら舞台にいたよー?」
「お母さんと一緒に花組のお姉ちゃん達のお稽古を見学してました」
「そう、ありがとう」
「見て見て〜!ひまわりね、ジェニファーにドレス着せたの〜!」
「あ〜、可愛いわね〜!…じゃ!」
ジェニファーちゃん人形をうわべだけ褒めて、忙しく一階へ降りて行った私にひまわりは不満気にぷくっと頬を膨らませた。
「〜〜ぶ〜…。せっかく遊んでもらおうと思ったのにな〜」
「大人って忙しいのよ。…特に母親になると色々とね」
かなで寮に行く前に、朝ごはんを食べさせて支度させなくちゃ!あ〜、その前に華撃団関連の書類に目を通して、賢人機関の年度末報告会用のレポートも作っておかないと…!!
〜〜ハァ…、仕事と子育ての両立って本当大変だわ…。
「君想ふ花」その2へ
作戦指令室へ