藤枝あやめ誕生日記念・特別短編小説2013
「君偲ぶ日に」その4



「――はーい、スイカが冷えましたよー」

「わ〜いっ!スイカ、スイカ〜♪」

「いっただっきま〜す!」


大きな木の桶に冷水を満たして冷やしておいたスイカを民宿のおばさんが切ってくれて、なでしこ、ひまわり、誠一郎の子供達はその桶に足を入れながら元気にスイカにかぶりついた。

「うふっ、あっま〜い!」

「ひんやりしてて美味しいわね〜!」

「おばちゃん、どうもありがとう!」

「すみません。庭までお借りしてしまって…」

「いいんですよぉ。せっかく来たのに海に入れないなんて可哀想だからねぇ…。――今、砂糖を入れた麦茶も持ってきてやるねぇ」

「わ〜い!」「わ〜い!」「わ〜い!」

「ふふっ、よかったわねぇ」

「雨も止んだみたいですし、食べ終わったら、墓参りに行きましょうか?」

「そうね。梨子さんと桃花さんに一郎君と誠一郎達を紹介してあげたいし」

「な、なるべく明るいうちに行こうね!?〜〜夜になると、お化けが出るかもしれないし…」

「えー?暗くなってからの方がいいよ!肝試しできるじゃ〜ん♪」

「〜〜えぇ〜っ!?」

「肝試しをやるなら、やっぱり夜じゃないとね!」

「そうね。私達の一族は皆、霊力が高いから、嫌でも本物が見えてリアリティ出るだろうし♪」

「〜〜うわああ〜ん!!何でもう肝試しをやる方向に話がいってるのさ〜!?僕、お化けに会うなんて絶対やだからねっ!?」

「なっさけな〜い!誠一郎ったら男のくせにほんっと怖がりなんだから」

「〜〜幽霊を怖がって何が悪いんだよぉ!?それに、お墓で面白がって遊ぶと祟られるって、この前テレビでやってたんだからねっ!?」

「はいはい、喧嘩はそこまで!肝試しはまた今度ね?」

「え〜っ!?」

「誠一郎も死んだ人を悪く言ったり、怖がったりしたら失礼だろう?」

「〜〜で、でもぉ…」

「お墓参りというのは亡くなった人にご挨拶に行く為のものなんだから…。それに、もし幽霊が出てきても、知ってる人のお化けなら怖くないでしょ?」

「そうね。むしろ、私達に会いたくて出てきてくれたんだなって思って、感謝しなくちゃ!」

「ひまわり、梨子叔母ちゃんと桃花叔母ちゃんのお化けなら出てきても怖くないよ!」

「僕も!〜〜なるべくなら、おとなしく眠ったままでいてもらいたいけどね…」

「ふふっ、大丈夫よ。梨子叔母さんも桃花叔母さんもとっても良い人なんだから、私達を困らせるようなことなんてするわけないわ。――ね、姉さん?」

「え、えぇ…」


かえでの言う通りよね…。一連の奇妙な出来事は第三者によるものか、全て私の思い過ごし…。

〜〜そう信じたい…。



――ミーンミンミンミン…。

雨が上がったばかりで、まだ湿り気が残る木の幹にセミがとまって鳴く中、私達は墓地への緩やかな坂を水たまりをよけながら上っていく。

「こういうセミの声を聞くと、田舎に来たって感じがしますよね」

「そうね。今は帝都じゃ、あまり聞けなくなってしまったし…」

「お墓って、緑がいっぱいある綺麗な所にあるんだね!」

「ジャブジャブジャブジャブ、水たまり〜♪」

「〜〜やめてよ、ひまわりっ!!泥が跳ねて、お洋服についちゃうじゃな〜い!!」

「広がって歩かないの!!車が来たら危ないでしょう!?」

「はぁい…」「はぁい…」

「あ…!墓地が見えてきましたよ」


――『藤倉家之墓』…。

久し振りに来たけど、すでに墓石とお墓の周りが綺麗に掃除されていて、まだお線香の匂いも残っていた。

ついさっき、親戚か分家の人でもお参りに来たのかしら…?

「梨子姉さん、桃花さん、暑いでしょう?お水、たくさんかけてあげるわね…」

毎日太陽の光にさらされて、触れるだけで火傷してしまいそうな墓石に柄杓で水をかけ、菊の生花と2人が好きだった葛餅を供えてやった。

「うん、こんなとこかしらね?」

「それから、これも…」

「…?ビーズでできた指輪…ですか?」

「えぇ。子供の頃に梨子さんから作り方を教わってね、かえでと桃花さんも入れて、4人でよくビーズのアクセサリーを作って遊んでいたの。せっかくだから、これもお供えしようと思って、昨日作っておいたのよ」

「私達の思い出の品ですものね。二人も喜んでくれると思うわ」

「ふふっ、だといいんだけど…」


梨子さんには青と紫の大人っぽい配色の指輪を、桃花さんにはピンクと白の可愛いブレスレットを…。

おもちゃのアクセサリーなんて今となれば子供っぽいかもしれないけど、お二人とも懐かしがってくれるといいな…♪

「はい、手と手を合わせて…」

「何をお祈りすればいいの?」

「梨子叔母ちゃんと桃花叔母ちゃんが天国で幸せに過ごせますようにって…」

「うん、わかった」

「梨子叔母さん、桃花叔母さん、これからも天国から私達を見守ってて下さいね…」


心を静め、瞳を閉じて家族皆で合掌すると、柔らかくて生温かい風が頬を撫でていった。

昨日の同窓会の時とは違う、心が穏やかになって温かくなるような…、まるで梨子さんと桃花さんが顔を見せに来た私達と会えて喜んでいると伝えてくれているような、優しい風だった。

――梨子さん、桃花さん…、あなた達のことは私もかえでも一日だって忘れたことはないわ。

あなた達がいなかったら、今の私達はなかった…。本当に感謝してるのよ?

お二人の分まで私とかえでが巫女として藤堂一族を後世まで繁栄させてみせるから、ミカエルから転生の時を伝えられる日まで天国で安心してお休み下さい…。

「――さぁ、帰りましょうか」

「はーい」「はーい」「はーい」

「桶と柄杓を返してきますから、先に降りてて下さい」

「えぇ。よろしくね、一郎君」


私とかえでで子供達と手を繋いでやって、同じ坂をゆっくり下っていく。

いつの間にか水たまりも小さくなっていて、空を見上げると、美しい青空に大きな虹がかかっていた。

「わぁ〜、虹だ〜!」

「綺麗ねぇ…!」

「あの虹を渡れば、梨子叔母ちゃんと桃花叔母ちゃんのいる天国まで行けるかなぁ?」

「ねぇお母さん、天国ってどんな所なの?」

「そうねぇ…。お母さんも行ったことがないからわからないけど…、天使様がいて、綺麗なお花畑がある、とっても楽しい場所なんですって」

「へぇ〜、ひまわりも行ってみたいな〜!」

「でも、天国へ行くには死んで皆とお別れしなくちゃならないんだよ?」

「そうね。死んだ人の魂は生まれ変わらない限り、あの世から戻ってこられないんですもの…」

「梨子叔母ちゃんと桃花叔母ちゃんみたいに事故で死んじゃうのが一番嫌だよね…。だって、皆とお別れする間もなく天国に逝っちゃったんだよ?」

「そうね、二人とも若くして亡くなったんですもの…。愛する人と結婚して子供を産んだり、おばあさんになるまで夢中になれる仕事を見つけたり…。普通の人みたいに、もっと人生を謳歌したかったでしょうね…」

「〜〜ひまわり、天国には行ってみたいけど…、死んじゃうのは嫌だなぁ…。まだパパとママとお別れしたくないもん!」

「私も…。〜〜そう考えると、梨子叔母さんと桃花叔母さんって可哀想よね…」

「……そうね…」


……彼女達が今も生きていたら、どんなによかっただろうって思うことは今まで何度もあったわ。

それから…、もし、さっきのフラッシュバックで見た映像みたいに、あの事故に巻き込まれたのが桃花さんじゃなくて私だったら…、梨子さんと桃花さんは亡くならずに、私とかえでのような幸せな人生を歩んでいたかもしれないって…。

〜〜そう思うと、藤堂の血を引く優秀な人材を潰してしまったことに対する申し訳なさと同時に、死への恐怖で体が震えあがってきてしまう…。

そして、考えてしまうの…。もし、あの時死んだのが私だったら…、私が陸軍士官学校に入学せず、対降魔部隊にも所属せずに帝国華撃団設立にも携わらない運命だったとしたら…、今頃、帝撃は…、一郎君とかえでと子供達はどうなっていたんだろうって…?

『――見つけた…』

「――!?」


ふと突き刺さるような視線と殺気を感じて、とっさに振り返ってみた。

……けど、誰もいない…。私を見ているのは、木の枝にとまっている不気味なカラスぐらいだ…。

「…?姉さん、どうしたの?」

「〜〜何だか妙な視線を感じて――!」

『――運命に逆らいし子よ…』

「――っ…!?」


何…!?今の声ははっきり聞こえたわ!〜〜まるで体の底から重く響いてくるような荘厳な声…。

ざわざわざわ…っと木々が風も吹いてないのに不気味にざわめいている…。〜〜こんなに暑いのに、まるで雪原をさまよっているように寒気と震えが止まらない…っ!!

「どうしたの、お母さん…!?」

『――神に背きし哀れな子よ…』


〜〜この声は誰…!?どこから聞こえてくるの!?どこから私を見ているの…!?

「姉さん…?」

『――神の定めに逆らいし子よ、真の運命を受け入れよ…!』


真の…運命…?

その時、背後に誰かが近づいてきて腕を掴まれたような気がして、私はとっさに振り返った!

「〜〜ひ…っ!?」

そこには大きな杖を持って、黒いローブと頭巾を被った初老の男が立っていた。

『抗うな、人の子よ。我がいる限り、運命から逃れることはできぬ…!!』

黒頭巾の男は音も立てずに私の目の前まで迫ると、ヌッと腕を伸ばして私の顔を鷲掴みにしようとした…!

「いやあああああああ〜っ!!」

この男は誰なの…!?どうしてこんなに体が震えあがるの…!?

〜〜怖い…!怖い…!!怖い…っ!!!

「――あやめさん…っ!?」

その時、一郎君の声が聞こえて、黒頭巾の男は私を掴む寸前で姿を消した。

同時に、私もふっと全身から力が抜けて、その場に倒れ込んでしまった。

「あやめさん、どうしたんですか!?」

「姉さん、しっかりして…っ!!」

「〜〜うわああ〜ん!ママぁ〜…!!」


駆けつけてくれた一郎君に抱き起こされた感覚に安堵感を覚えながら、私の意識はそのまま眠りにつくように遠のいていった…。



『――あやめ…』

『――ハ…ッ!?』


それから、どれくらい時間が経ったのかはわからないけど、亡くなった母の声が聞こえてきて、私は深い眠りから目を覚ました。

『お母…様…?――っ!?』

ここはどこ…?まるで深海のように仄暗く、寒い所…。

風もなく、音も聞こえず、人の気配がしない空間を見下ろす形で、私は裸の状態で高い塔のような場所に黒い蔓のようなもので縛られていた。

これは夢…。だから目が覚めれば、またあの幸せな日々に戻ることができる…。

……そうはっきりとわかるのに目が虚ろになって、不安が襲ってくる。〜〜もしかしたら、もう私はここから永久に出られないんじゃないかって…。

『――聞こえますか、あやめ…?』

『お母様…?そこにいらっしゃるのですね!?どうか姿を見せて下さい…!!』


すると、目の前に神々しい光の球が現れて、現在は大天使ミカエルとして天上界で務めを果たしている、私とかえでの母・ぼたんが姿を現した。

『お母様…!』

『時神神社に近づいてはなりません。かえでを連れて、すぐ帝都へお帰りなさい…!』

『え…?どういうことですか…?』

『藤倉家とは縁を切りなさい。さもなくば、あなた達はクロノスに――!?』


その時、お母様の説明を阻止するように、私を縛っているのと同じ黒い蔓が底が見えないはるかかなたの地面から生えてきてミカエルであるお母様の体に巻きつくと、そのまま暗闇の底へ引きずり込んでいった…!!

『きゃああああああ…!!』

『〜〜お母様ぁっ!!』

「――ハ…ッ!?」


ミカエルが捕らわれると、代わりに私を拘束していた蔓の力が緩み、私は目を覚まして現実世界へ戻ることができた。

「あやめさん…!」「姉さん…!」「あやめおばちゃん…!」

「あ〜ん、お母さ〜ん!!」「よかったよぉ〜!!」

「皆…」


布団から体を起こした私に泣きながら抱きついてきたなでしことひまわりに私は微笑み、ぎゅっと抱きしめながら頭を撫でてやった。

「なでしこ、ひまわり…。〜〜ごめんね、ビックリさせちゃったわね…」

「ぐすん…、よかったぁ…」「目を覚まさなかったらどうしようって…、ほんとに心配したんだからねっ!?」

「ふふっ、ありがとう」


開け放たれた窓に目を見やると、もう外は暗くなっていた。あれから随分眠り込んでしまったみたいね…。

「倒れたのが皆でいる時でよかったわ。この暑さですもの、一人の時だったら助かるものも助からなくなってたわよ…」

「医者によると熱射病だそうですから、水分を取って安静にしていれば明日には良くなるだろうって」

「そう…。〜〜ごめんなさいね…、せっかくの旅行なのに迷惑ばかりかけちゃって…?」

「そんなに気を遣わないで下さいよ。俺達は家族でしょう?」

「家族…か。ふふっ、そうだったわね…♪」

「えへへっ、ちょっと待っててね〜!」

「民宿のおばさんに言って、冷やし粥を作ってもらうよう頼んでくるわ!」

「あっ、僕も行く〜!」


子供達が元気に部屋を出て行くと、一郎君は私の傍に近づき、心配そうに私の手を握って、おでこに手を当ててくれた。

「熱は下がったみたいですけど…、まだ気分悪いですか?」

「いいえ、だいぶ楽になったわ」

「今から子供達を連れて夏祭りに行こうと思うんだけど、姉さんはどうする?」

「夏祭りって時神神社の…?」

「はい。混み合うでしょうから無理強いはさせたくないんですけど、気分転換にはなるかなと思いまして…」

『――時神神社に近づいてはなりません』


……ミカエルはああ言ってたけど、捉え方を変えれば、そこに一連の出来事の答えがあるかもしれないってことよね。

ミカエルとなったお母様は娘の私とかえでの身を案じている…。でも、このまま放って逃げても解決はしないわ。

命と引き換えに私とかえでを守ってくれたお母様のように、私も大切な家族を守りたいもの…!

「――私も行くわ」

「えっ?でも、体の方は…?」

「それは大丈夫よ。それに桃花さんの事故以来、一度も参加してなかったから懐かしくて…」

「そうだったわね…。ふふっ、こんなこともあろうかと浴衣を持ってきて正解だったわ♪」

「はは、そうですね。――無理をしないで、疲れたらいつでも言って下さいね、あやめさん」

「えぇ、ありがとう、一郎君…♪」


たとえ相手が誰であろうと私は戦うわ!愛する人達を…、やっと手に入れたこの幸せを守り抜く為に…!!



――ピーピーピーヒョロロロ…♪

私達は去年買った浴衣をそれぞれ着て、近くにある時神神社の夏祭りにやって来た。

「わぁ〜、お店がいっぱいね〜!」

「あっ、あっちにプリティーマミーのお面売ってる〜!ねぇパパ〜、買って〜♪」

「僕、ウルトラライダーのうぐいす笛がいいな〜!」

「よーし、じゃあ行こうか!」

「えへへ〜♪」「はーい♪」


一郎君がひまわりと誠一郎にプリティーマミーとウルトラライダーのイラストが描かれた綿菓子もせがまれている一方で、なでしこは一人、金魚すくい屋さんの金魚をじっと見つめていた。

「なでしこ、金魚さん欲しいの?」

「は、はい…♪〜〜でも、金魚すくいなんてやったことなくて…」

「かえで叔母さんに任せなさい!毎年、ここのお祭りで店のおじさんを泣かせるほど金魚をいっぱいすくってたんだから♪」

「本当ですか!?すっご〜い!」

「ふふっ、じゃあ教えてあげるから一緒にやってみましょうか」

「はい、お願いします!」


ふふふっ、子供達はそれぞれ初めてのお祭りを満喫してるみたいね。

――それにしても『時神神社』…か。藤倉家が絶えた今、分家がこの神社を治めているそうだけど…。

もう二度とここのお祭りに来ることはないと思っていたけど、今も昔と変わらず、人がいっぱいで賑やかで…。

そういえば、ギリシャ神話に出てくるクロノスも時を司る神様…、『時神』なのよね。お母様が夢で言っていた『クロノス』と何か関係があるのかしら…?

「――うふふっ♪かえで叔母さん、どうもありがとう!」

「どういたしまして。よかったわねぇ、可愛いペットができて♪」

「はい!あとでひまわりと一緒に名前つけようっと♪」


なでしこが金魚が入った袋をかえでと一緒に嬉しそうに見ていると、プリティーマミーとウルトラライダーのお面と綿菓子とうぐいす笛を完全装備した上機嫌なひまわりと誠一郎君が一郎君と一緒に戻ってきた。

「見て見て、なでしこ!プリティーマミーだよ〜♪」

「可愛いお面ねぇ!とっても似合ってるわよ、ひまわり♪」

「ふふっ、思わぬ出費になっちゃったわね♪」

「〜〜そう思うなら、もっと小遣い増やして下さいよ、あやめさぁん…」

「あら、それとこれとは別よねぇ、姉さん♪」

「ふふふっ、そうね♪」

「――あっ、見て、父さん!ヨーヨー釣りだってー!」

「おっ、懐かしいなぁ。父さんも子供の頃、よく双葉叔母ちゃんにすくってもらったよ。〜〜千円払っても取れないから、最終的にいつも出店のおじさんが脅されてな…」

「ふふふっ、双葉お義姉様らしいわね」

「〜〜子供ながらに恥ずかしかったですよ…。でも、それだけ弟の俺を喜ばせたくて一生懸命だったんでしょうね…」

「そうね…」

「パパ〜、ヨーヨーとって〜!」

「あぁ、いいぞ!何色のがいい?」

「ひまわり、黄色いの〜!」

「僕、緑のしましま〜!」

「私はそこの、ピンクのお花のがいいわ!」

「よ〜し、待ってろよー…」

「お父さん、頑張って〜!」「パパ、頑張れ〜!」「父さん、ファイト〜!」


子供達に応援されて、やる気十分でヨーヨー釣りに挑む一郎君!

ふふっ、こうしてると昔、梨子さんにヨーヨーを取ってもらった時のことを思い出すなぁ…。

『――はい、あやめちゃんとかえでちゃんの分。帰ったら、かえでちゃんも入れて遊びましょうね…!』

秋になるとしぼんでしまうヨーヨーだけど、毎年梨子さんは私とかえでと桃花さんの為にヨーヨーを取ってくれて…。

懐かしいなぁ…。まるであの頃に戻ったみたい…。

『――あやめちゃん…』

「――っ!」


〜〜風が急にざわめいたと思った途端、また梨子さんの声が…!?

『――こっちに来て一緒に遊びましょ…』

「梨子さん…!?」

「…!あやめさん…?」

『――ふふふふっ、こっちよ、こっち…』


〜〜どこにいるの…!?

私は人混みの中で神経を集中させ、梨子さんの声と気配を頼りに辺りを探してみた。

すると、亡くなった日と同じ浴衣を着た梨子さんの亡霊が人混みをすり抜けるようにして立っていて、私に微笑みかけていた…!

「梨子さん…!」

『……その人達が今のあなたの家族なのね…』

「えぇ、そうよ。〜〜ずっと会いに来れなくてごめんなさい…。でも、梨子姉さんと桃花さんのことを忘れた日は――!」


私が言いかけると、梨子さんの亡霊は悲しそうな笑みを浮かべながらフッと消えてしまった。

「〜〜梨子さん、待って…!!何か私に言いたいことがあるんでしょう!?」

一人で叫んでいる私をすれ違いざまに不思議そうに見る人達をかき分けて、かえでが駆け寄ってきた。

「姉さん、どうしたのよ…!?また倒れたらどうするの!?」

「梨子さんが…!〜〜さっきそこに梨子さんがいたのよ…!!」

「だから、それは熱射病の幻覚だって――」


その時、かえでの後ろに見えていた石階段がポゥ…と蛍のように淡い紫の光を放った。

生前、梨子さんが放っていたオーラと同じ強い霊力を感じる…!あそこの階段を上った先で梨子さんは待っているのかもしれないわ…!!

「あ…!ちょ、ちょっと姉さん!?」

「すみません、かえでさん!子供達をお願いします…!!」

「えっ?一郎くーん…!?」


私が何やら追い詰められた顔で下駄を鳴らしながら石階段を上っていくのを見た一郎君は、取った子供達の水風船3個をかえでに預けると、急いで私の後を追いかけていった…!

「んもう…、何なのよ、二人とも…?」

「――母さ〜ん、焼きそば食べた〜い!」

「――ひまわり、チョコバナナ〜!」

「――私、りんご飴〜!」

「えぇっ!?〜〜コ、コラ!勝手に離れるんじゃありませ〜んっ!!」


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