紐育星組ショウ2013〜ワイルド・ウエスト・希望〜開催記念・特別短編小説
「ラブソングを君に」
その1



「『――愛しのオーロラ姫、私と結婚してくれるかい?』」

「『はい、フィリップ王子様』」


今年のリトルリップシアターのサマーステージは『眠れる森の美女』。私・ラチェット・アルタイルもフィリップ王子役で出演することになったの。

そして、私の相手役として主役のオーロラ姫を演じることになったのは…。

「――カット、カ〜ット!プチミントさん、ダンスがぎこちないです〜。もっとおへそに力を入れて!重心は真ん中!指先までエ〜レガントにっ!!」

「は…、はいっ!」

「あははっ!頑張れ、新次郎〜♪」


そう、今回の舞台『眠れる森の美女』の主役はプチミントこと大河君!

振付のラッシー先生に指導された大河君ことプチミントは、先輩女優のスターファイブと私に見守られながら、もう一度最初から踊り始めた。

いくら女装に慣れているとはいえ、丈の長いドレスとヒールが高い靴を履きながらだから、ちょっと動きづらそう…。

「――ダメダメダメッ!!発声の基本がなってないわよ、プチミントさん!?」

「〜〜すみません!もう一回お願いします…!!」


ドラゴンに姿を変えた魔女・マレフィセントを倒したフィリップ王子がオーロラ姫にキスをして、呪いが解けるラストシーン。その山場で、私と大河君は舞台のトリを飾る大事なデュエットを歌うことになった。

…のだけど、新人女優のプチミントさんにはちょっと荷が重いみたい。

帝国華撃団の紅蘭さんが発明したボイスチェンジャーのお陰で女性の声を出せるようにはなったのだけど、実力が伴わないせいで、せっかくの美しい声を生かし切れてないのよね…。

「――ステップが不安でも足元を見ない!背筋を伸ばしてお客様を見るっ!!」

「は、はい…っ!!」

「〜〜んもう!どうしてそこで音を外すのっ!?――そこ!ステップ、ステップ、ターンで見・つ・め・合・うっ!!」

「えっと…ステップ、ステップで…〜〜うっ、うわああ〜っ!?」


――ゴチンッ!ドタドタドタ…ッ!!

「きゃあっ!!大河君っ!?」

「〜〜新次郎〜っ!!大丈夫〜!?」

「〜〜えへへへ…。な、なんとか…」


大河君はヒールで滑ってステージから転げ落ちると、たんこぶのせいでウィッグがズレた状態で這い上がり、苦笑するのだった…。



「――はい。終わりましたよ、大河さん」

「ありがとうございました、ダイアナさん」


休憩に入り、大河君は医務室でダイアナに怪我の手当てをしてもらった。

「明日には腫れが引くはずですけど、念の為に今日は安静にしてて下さいね?」

「〜〜はぁい…」

「大丈夫か、新次郎?」

「泣いちゃダメだぞ、しんじろー!あとでリカのおやつ分けてやるからな♪」

「はは、ありがと、リカ。サジータさんも心配かけてすみませんでした…」

「まったく…、君という奴にはいつもハラハラさせられる」

「ほ〜んと!新次郎ってドジっ子だよね〜♪」

「…ムッ!ジェミニに言われるのは心外だなぁ」

「ははっ、それは言えてるな♪」

「〜〜あ〜っ!それどういう意味〜っ!?」

「そのままの意味だろう」

「〜〜うわあ〜ん!皆、ひどいよぉ〜!!」

「あははは…!」

「――あ…!そろそろ休憩が終わる時間ですね」

「そんじゃ、ステージに戻って稽古を続けるか!」

「はーい!――それじゃあ新次郎、また後でね〜!」

「リカ達が終わるまで、ご飯食ったらダメだからな〜!?」

「あはは、わかってるよ。頑張ってねー!」


大河君はスターファイブの皆を笑顔で見送ると、一転して暗いため息をついた。

「皆、歌もダンスも上手くていいよなぁ…。〜〜それに比べて僕ときたら…」

「――あら、大河君だって上達してきたと思うけど?」

「〜〜うわあっ!?ラ、ラチェットさん…!皆とステージに行ったんじゃないんですかぁ!?」

「フフ、私が出るシーンのリハーサルは午前中に全部終わっちゃったもの♪不安がってる暇があるなら、お稽古しなさい!ベッドの上でも歌の練習ぐらいはできるでしょ?」

「はい…。……けど、さっきの稽古で自信なくしちゃって…。〜〜本当によかったんでしょうか、僕みたいな新人が主役をやったりして…?」

「可憐なオーロラ姫の役、プチミントにはピッタリだと私は思うわよ?それに、主演は初めてじゃないじゃない。私が出張してる間、クレオパトラをやったんでしょ?」

「あの時は皆と一緒のシーンが多くて伸び伸びできましたから…。〜〜けど、今回は糸車のシーンまでソロパートがほとんどですし…」

「先生方が厳しく言うのだって、あなたに期待してのことよ?スターファイブの皆だって応援してくれてるんだし、チケットが完売するほどお客様だって楽しみにして下さってるんですもの。心配することなんてないはずでしょ?」

「でも、僕みたいな未熟者が主役じゃ、きっと反感をかっちゃいますよ…。さっきのデュエットだって足引っ張ってばかりでしたし…。ラチェットさんと一緒に舞台に立つと、実力の差がはっきり出ちゃうから情けなくて…」

「大河君…。〜〜私とお芝居するの、楽しくない…?」

「そ、そんなことありませんよ…っ!!ただ、僕が失敗すればラチェットさんのステージが台無しになってしまうので、責任重大というか…」

「フフ、大河君ってば深刻に考え過ぎよ?確かに努力した分だけ結果はついてくるだろうけど、あまり自分を追い込みすぎるのもどうかと思うわよ?」

「そうですよね…。〜〜ハァ…、ラチェットさんとの差が少しでも縮まるように、もっとたくさん練習しないとな…」

「心配しないで!なんなら本番まで私がつきっきりで指導してあげるから…ね?」

「でも、僕なんかの為にご迷惑じゃ…?」

「迷惑なわけないでしょ?そしたらレッスンの間ずっと一緒にいられるし…。ふふっ、むしろ嬉しいぐらいだわ♪」

「ラチェットさん…♪あはは…、そうですね。では、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします!」

「フフ、よろしい!早速、今夜シアターに残ってレッスンしましょ!」

「イェッサー!」



「『――オーロラ姫は16歳で死ぬ…!私の呪いは絶対なのだぁっ!!』」


ステージで順調にリハーサルをこなしていくスターファイブ。

懸命に稽古に励む彼女達をシアターの清掃員達が仕事をサボって双眼鏡で覗いている…。

「うっひょ〜♪見ろよ、サジータさんの胸!」

「あのドレス、最高だよなぁ!エロエロボディのラインがくっきりだぜ♪」

「お前らばっかズリぃぞ!?俺にも見せろよっ!」

「――あ、あの…」


そこへ、清掃員の服を着たおとなしそうな青年が恐る恐る彼らに話しかけてきた。

「…あ?誰だ、コイツ?」

「この間入った新人じゃなかったか?確かウィルとかいう…」

「は、はい!ウィリアム・タナーです…。担当エリアの掃除が終わったので報告に伺いました…」

「あっそ。じゃあ、ついでにここも掃除しといてくれよ」

「えっ?で…でも僕、シフトでは5時あがり…」

「何だよ?新入りのくせに先輩より早くあがる気か!?」

「〜〜い、いいえ…」

「へへっ、わかりゃーいいんだよ♪」

「その辺にしておけよー?こいつの傍いると田舎臭いのがうつっちまうぜ?」

「はははっ!そういやお前、ネブラスカ出身っつってたっけ?」

「だはは!マジかよ!?はるばる紐育までご苦労なこって♪」

「こっち来んなよな〜。俺らまで牛糞の臭いが染みついちまう♪」

「あはははっ!そんなこと言っちゃ可哀想っしょー♪」

「〜〜……」

「そんじゃ、俺らはあがるから。後はよろしくな、お百姓さん♪」


臭いのきつい生ゴミがパンパンに詰まったゴミ袋を渡し、笑いながら出て行った先輩達にウィルさんはイライラしたが、低レベルな人達を本気で相手にしてしまった自分に嫌気が差して、おとなしくゴミを焼却炉に入れた。

(〜〜どうせ僕は田舎者さ…。馬鹿にされるのも慣れてきちゃったよ…)

燃えていくゴミの煙にむせながら、ウィルさんは溜息混じりにゴミを次々に燃やしていく…。

(――やっぱり父さんの言う通り、家業の小麦農家を継いだ方がよかったのかな…?歌手になるアメリカン・ドリームを叶えたくて紐育まで来たのはいいけど、どのレコード会社にデモテープを持ち込んでも断られてばかりだもんなぁ…。憧れのリトルリップシアターで働けるようになったのは嬉しいけど、こんな裏方の仕事ばっかりだし…。〜〜スターファイブさんみたいにステージに立つなんて夢のまた夢か…)

「――あっ、ウィルさーん!」


そこへ、稽古を終えたジェミニがウィルさんに元気に駆け寄ってきた。

「え…?ジェ、ジェミニさん!?」

「いつもお掃除ご苦労様〜!稽古終わったから、ボクも手伝うよ!」

「えっ?で、でででも…っ!スターファイブさんにやらせるわけには…!!」

「いいの、いいの!ボクも下積み時代は清掃員をやってたから、モップ掃除はお手の物だしさ♪」

「ジェミニさん…。あ、ありがとうございます…♪」

「えへへっ!それで、どこ拭いてくればいいかな?」

「じゃ…じゃあ、楽屋前の廊下をお願いします」

「オッケ〜!助太刀致す〜♪〜〜って!?うっ、うわああ〜っ!!」


――バッシャ〜ンッ!!

「ジェ、ジェミニさんっ!?」

「〜〜あいたたたぁ…」


ジェミニは置いてあったバケツに足を引っ掛けて転び、モップが頭に乗った状態で中の水をかぶってしまった!

「〜〜オーマイガーッ!!シャワー浴びたばっかなのにぃ…」

「だ、大丈夫ですか!?」

「えへへ…。ゴメンね、ウィルさん?仕事増やしちゃって…」

「い、いえ…♪」

「〜〜はうぅ…。やっぱり、ボクってドジっ子なのかなぁ…?」


バケツを一緒に片づけるジェミニをウィルさんはチラチラ見ては頬を赤らめた。

(――ジェミニさん、今日も可愛いなぁ…♪スタァなのに全然気取ってないし、田舎者の僕の気持ちもわかってくれるし…)



仕事が終わると、ウィルさんは誰もいなくなった清掃員の控え室に残り、ギターを弾いて楽譜に曲を書き始めた。

(――タイトルは『僕の太陽』。明るい太陽を浴びて育つ小麦のように、テキサス生まれのカウガールは僕にいつも元気をくれる。振り向いてくれなくてもいい。君の太陽のような笑顔を見ているだけで僕は幸せだから…)

「〜〜ハァ…、何やってるんだろ…。僕みたいな男がジェミニさんと釣り合うわけないじゃないか…」


せっかく書いた楽譜を丸めてゴミ箱に捨てようと、ウィルさんが立ち上がったその時…、

「――加山さん、どうしたんです、その怪我…!?」

「いやぁ、参ったよぉ――」

(…ん?こんな時間まで、まだ誰か残ってるのか…?)


廊下から話し声が聞こえてきたので、そっとドアに聞き耳を立ててみた。

「――聞いてくれよ、プラム君、杏里君!紐育の平和の為、今日も俺は真面目に情報収集に励んでいたわけよ!そしたらさ〜、ポケットに入れてたパンを狙われて鳥に襲われたわけ!そしたら屋根から落ちちゃってさぁ〜…」

「それは災難だったわねぇん…」

「だろだろ〜!?幸い大した怪我はなかったものの、飛んできた女物の下着が顔に引っかかって下着ドロに間違われて、ソルト警部に追いかけられるしさ〜。散々な目に遭ったからプチミントさんになぐさめてもらおうと思ってキャメラトロンをかけたら、間違って、かすみっちにかけちゃって喧嘩になるし…。心身共に満身創痍でROMANDOに帰ったら、手を滑らせて店で一番高価な特大招き猫を割っちまうし…。〜〜もう最悪な一日だったよ…」

「〜〜そんな漫画みたいなこと…本当にあるんですねぇ…」

「でも、わかるわ〜。悪いことがとことん続く日ってあるわよね〜ん?」

「〜〜うぅ…、昨日までの俺は絶好調だったはずなんだ…!それがこのギターを買ったせいで…っ!!」

(――ギター…?)


気になったウィルさんは、話している加山君とワンペアに見つからないように少し開けたドアの細い隙間から加山君の持っているギターを覗いてみた。

「昨日、かすみっちへ送るラブソングを作ってたら急に弦が切れたもんだからさー、朝一番に楽器店に行って買ってきたわけよ。そしたら、こいつに一目惚れしてさ…。中古品だったから安く買えたには買えたんだが…」

「〜〜中古品って前の持ち主の負の念が憑いたままのこと、多いですもんねぇ…」

「う〜ん、呪われたギターねぇ…。私達にはただのギターにしか見えないけど?」

「けど、こいつは本物なんだよ!このギターは昔、とあるミュージシャンの男が使っていたビンテージものらしいんだ。男はスーパースターになることを夢見て、このギターで毎日毎日曲作りに明け暮れていたが、ある日、暴走した馬車にはねられて還らぬ人となったらしい…。志半ばでこの世を去るのがよほど心残りだったんだろう…。歌に対する執念で男の魂はこの世に留まり、今もこのギターに取り憑いているそうだ…。そして、このギターを手にした者は皆、何かしらの不幸に見舞われるらしい…」

「〜〜やだぁ…。そんな変な物、シアターに持ち込まないで下さいよぉ!」

「〜〜俺だって持ってきたくはなかったよっ!!けど、サニーサイド司令に現物を見せたら有名な霊媒師の一人でも紹介してくれると思ったからさぁ…」

「…それで、そのゴーストバスターズは紹介してもらえたのん?」

「〜〜いいや。笑い飛ばされて、取り合ってもらえなかった…」

「ハァ…、それもそうですよねぇ…」

「〜〜なぁ頼むよ、ワンペアの諸君っ!君達から言えば、司令も動いてくれると思うんだ!かすみっちと喧嘩したまま死にたくないんだよぉ〜!!同じ紐育華撃団の仲間だろ!?なっ!?このと〜りっ!!」

「わ、わかったわ…。一応、言ってはみるけど、あまり期待しないでねん…?」

「OH〜、サンクス!そう言ってくれると思ったよ、プラム君!!――こうしちゃおれんっ!かすみっちと仲直りする為のラブソングを速攻で作らなくては…!!」

「あ…!〜〜加山さん、上っ!!」

「――え?」


――ガァァァンッ!!

「〜〜いってぇ…っ!!」

シアターの廊下に飾ってあったサニーの肖像画が何の前触れもなく落ちてきて、加山君の頭に額の角が直撃した!

「だ、大丈夫ですかー!?」

「〜〜フフ…、ドントウォーリーだ!この程度のかすり傷…、かすみっちとの遠距離恋愛の辛さに比べれば――」


――ツル…ッ!

「〜〜どわあああああ〜っ!?」

――ドタドタドタドタ…!!

「〜〜きゃああっ!!今度はバナナの皮に滑って、階段から落ちちゃったよ〜っ!?」

「…きっとリカね。さっき差し入れのバナナの房を抱えて食べてたもの」


――むくっ。

「…あ」

「生きてた…」

「〜〜ふははは!上等じゃないかぁ〜!!呪いごときで俺とかすみっちの愛を止められると思うなよぉ〜!?――Hahaha!待ってろよ〜、かすみっち〜♪」

「ニンジャの生命力ってすごいね〜、プラム♪」

「でも、サニーサイドの絵が落ちてくるなんて…、なんか不吉じゃなぁい…?」

「…だね。やっぱり、ちゃんとお祓いしてもらった方がいいんじゃないかな?公演を控えてる大事な時期なのに事故でも起こったら大変だもん!」

「フフン、なんてったって今回は愛しのプチミントが主役ですものねぇん♪」

「〜〜んもう、プラムっ!?またそうやってからかう〜!!」

「フフフッ!杏里こそ、いい加減素直になったらどうなのよ〜♪」

「――あ、あの…」


そこへ、控え室で話を聞いていたウィルさんがプラムと杏里に話しかけた。

「…あら?」

「あなたは確か清掃員さんの…?」

「ウィリアム・タナーと申します。すみません、話を聞いてしまって…。よかったら、そのギター僕が預かりましょうか?ルームメイトに見習いのエクソシストがいるもので…」

「でも、エクソシストって悪魔祓いでしょ?悪霊は専門外なんじゃないかしらん…?」

「どっちも大して変わらないって!せっかく言ってくれてるんだから、早く持っていってもらおうよ〜!」

「そ、そう…?――じゃあ…悪いけど、お願いできるかしらん?」

「は、はいっ!」


ウィルさんはプラムからギターを受け取ると、アパートに持ち帰って部屋に閉じこもった。

(〜〜嘘ついちゃった…。でも、こんなに良いギターそうそうお目にかかれないもんなぁ…。ははっ、呪いなんて、どうせただの噂だろうし…――)

「――ウィル…?電気も点けないで何やってんだよ?」

「〜〜ジョージ…!!べ、別にっ!?こうしてると良い曲が浮かびそうでね…」

「ふぅん…、まぁいいけど。仕事終わったばっかりなんだろ?少し休んだらどうだ?」

「ぼ、僕なら大丈夫!ジョージの勉強の邪魔にならないようにするからさ。司法試験の模擬試験、来週なんでしょ?頑張ってね!」

「サンキュ!ウィルも早くレコード会社と契約できればいいな。お互い夢が叶うように頑張ろうぜ!」

「あ、あぁ…!」


エクソシストではなく、弁護士を目指すルームメイトのジョージさんが隣の部屋に行ったのを確認すると、ウィルさんはため息をついて安堵した。

「〜〜勝手に名前を使ってごめんよ、ジョージ…。――でも、見れば見るほど良いギターだよなぁ…!こいつとなら良い曲を作れそうだ♪」

ウィルさんが真っ白な楽譜を広げて、チューニングして弦を弾き始めると、ギターに宿っていた悪霊が真っ黒なもやとなって、ウィルさんの体にスゥッと入っていった…!

「…っ!?な、何だ!?」

『――ヒヒヒッ!邪魔するぜぇ〜!!こんなに負のフィーリングが合う奴は初めてだからなぁっ!!』

「〜〜な、何で…!?指が勝手に…!」


ウィルさんはギターの悪霊に体を操られているせいで、いつも弾く癒し系の音楽ではなく、激しいヘビメタロックをジャンジャン演奏する…!!

「〜〜嫌だぁっ!僕はこんな曲、弾きたくないのにぃ…!!」

『ヒャーッハァーッ!!乗ってきたぜぇ〜!!俺様がお前をスタァにしてやるぜ、ベイビー!才能のある奴らを蹴散らせ!お前の手でチャンスを掴むんだぁっ!!』

「う…っ、うわああああああ――っ!!」

「――おい、ウィル!?さっきからなんて曲弾いてんだよ、うるせぇなぁ!!」


文句を言いに来たルームメイトのジョージさんは、変わり果てたウィルさんを見て目を丸くした!

ウィルさんは普段の真面目な青年の雰囲気とは打って変わって、闇の炎を身に纏いながらパンク衣装とド派手なメイクでゆっくり振り返ると、真っ赤な舌を出して中指を立てながらジョージさんを笑いながら威嚇した。

「ウィ…、ウィル…?」

「『ヒョオオオオッ!!俺様の歌声で昇天しちまいなぁ〜っ!!』」


悪霊に取り憑かれてヘビメタ歌手へと変貌したウィルさんは闇の霊力でギターを蒸気エレキギターに変えてかき鳴らすと、ジョージさんに向けて強力な霊音を放った…!!

「うわああああっ!!」

霊音に吹き飛ばされて壁に激突して気を失ったジョージさんをウィルさんは高笑いしながら足蹴にした。

「『ケッ、俺様の才能を認めない凡人めが…!』」

――ドンドンドンッ!!

「――ちょっとー!?子供が寝てんだから静かにして頂戴っ!!」

「――今、何時だと思ってるんだー!?」


どうやら、さっきからガンガンにかかってるウィルさんのヘビメタロックに苦情を言おうと、マンションの住人達が部屋の前まで集まってきたらしい。

「『ケケケッ!皆、俺様の歌が聞きたくて仕方ねぇみてぇだなぁ!?いいぜぇ!てめぇらに地獄のロックステージをたっぷり味わわせてやるよぉっ!!』

「〜〜な、何じゃ、貴様は…!?」

「『ヒャーッハハハハ…!!俺様こそ天下無敵のスーパースタァだぁ!!お前ら全員、俺様の歌にシビれちまいなぁっ!!』」

「きゃあああ〜っ!!」

「〜〜助けてくれぇ〜っ!!」

「『ヒャーハハハッ!まだまだ物足りないぜぇ〜!!俺様に似合うもっとでっけぇステージはねぇのかぁーっ!?』」


ウィルさんはマンションの住人達の霊力を奪ってギターに込めると、闇の霊力を増幅させて、紐育の夜の街へと飛び出していった…!


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