大神一郎誕生日記念・特別短編小説2013
「愛の魔法」その7



所変わって、天雲神社。境内からは琴と笙の荘厳な音色が聞こえてくる。

そんな日本の正月らしい演奏に合わせ、仮設舞台の上で華麗な舞を披露しているあやめさん。本番前に感じていた緊張や不安を微塵も感じさせぬその堂々とした姿は、さすが大帝国劇場の副支配人といったところか!

神に仕える巫女だけあって、あやめさんの神がかり的な美しさに参拝者の誰もが見惚れていた。長ったらしい儀式に文句を言う者など一人もおらず、老若男女、皆、現実から離れた神秘の世界に魅了されていた。

「綺麗な舞〜♪さすが、あやめさんですね!」

「まさにジャパニーズ・ビューティーデ〜ス!」

「もう少しで儀式終わっちゃうね…。アイリス、もっとあやめお姉ちゃんの踊り見ていたいなぁ〜」

「二十番まであるって聞いた時は驚いたけど、見てるとあっという間だったよね」

「でも、リハーサルの時間、大丈夫かしら?予定より、だいぶ長居してしまったけど…」

「少しくらい遅れても、どうってことねぇって!どうせなら最後まで見ていこうぜ♪」

「その通りですわ、マリアさん。途中で抜けたら興ざめするというものです。…カンナさんと同じ意見になってしまったのがほんの少しシャクですけれど」

「〜〜ケッ、儀式が終わったら、その面に拳をめり込ましてやらぁ…!」

「〜〜ほほほほ…、その前にその空っぽの頭を長刀で串刺しにして差し上げますわ…!」

「〜〜まぁまぁ、お二人はん。神さんの前で喧嘩はアカンと思うで?」

「ふふふっ、でも、儀式が無事に終わりそうでよかった…。――あやめさん、頑張って!あと少しですよ…!」


あやめさんは舞いながら参拝客の顔を一人一人見渡し、俺とかえでさんを探しているが、未だに見当たらず、表情に出さないように落ち込んだ。

(まだ戻ってきていないのね…。〜〜一郎君にも儀式、見て欲しかったのにな…)

『――美貴…』

「え…――っ!?」


俺に似た男の声で囁かれた瞬間、あやめさんの胸を突如、激しい痛みが襲った…!

「〜〜う、うぅ…っ」

「あやめさん――っ!?」


苦痛に顔を歪め、舞台上でうずくまってしまったあやめさんに駆け寄ろうとしたさくら君の袂をアイリスが引っ張った。

「どうしたの、アイリス…!?」

「あやめお姉ちゃんから怖い力を感じるの…。〜〜何で…?あやめお姉ちゃんは人間に戻ったはずなのに…」

「え…?」

「――キシャアアアッ!!」


すると、あやめさんの目に見えない負のオーラに惹かれるように、たくさんの降魔達が天雲神社の境内に集まってきた!!

「何故、降魔が…!?」

「〜〜うわあああーっ!!」

「〜〜化け物よーっ!!」


突然現れた異形の化け物達に参拝者達は慌てて逃げ出したが、降魔達は普通の人間には目もくれず、あやめさんの近くにばかり集まっていく。

「い、一体…何が…?」

異常を察知したあやめさんは胸を押さえ、やっとの思いで体を起こしたが、降魔の怖ろしい顔がすぐ目の前にあった為、恐怖で顔が引きつった!

「〜〜ひ…っ!?」

「いかん…!待っておれよ、あや――!!」


――グキッ!!

「〜〜あ…いたたた…。こ、腰がぁ…!」

「〜〜おいおい、大丈夫かよ、先巫女のばあさん…!?」

「アイリス、先巫女様をお願いね!?」

「うん!あやめお姉ちゃんを守ってね…!?」

「当ったり前田のクラッカーデ〜ス!」

「皆、行くわよ!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」


意気込んで舞台に駆け上がった花組だったが、降魔達はあやめさんを襲うどころか、敬意を払ってひざまずいているのを目にし、呆気に取られた。

「えっ?」

「ど、どうなっとるんや…?」

「『――さすがは最終降魔。覚醒せぬうちから降魔共を従えるとはな』」

「…!誰…!?」


地面に出現した魔法陣から現れたのは、中世ヨーロッパの貴族風衣装を身に纏い、アモス達小精霊がつけていた仮面を被った男だった。

「何者だ!?」

「〜〜コスプレ男のくせに危険な妖力がビンビン伝わってきますわ…!」

「――…っ!?あなたはまさか…!」

「『会いたかったぞ、藤枝あやめ。我が妻・美貴の生まれ変わりよ…!』」


地面に捨てた仮面を踏み潰した男の顔に、あやめさんと花組は驚愕した。

「お、大神…さん…!?」

「〜〜違うよ!アイツはお兄ちゃんじゃない…!!」

「だったら、な〜んで『愛ゆえに』の衣装を着てるデスカ〜?」

「『…この衣服は趣味に合わんな』」


その男・冬牙は魔術で生前愛用していた和服に一瞬で着替え終えた。

「これは闇の霊力…!?」

「『霊剣荒鷹か…。お前は真宮寺鷹見の子孫だな?』」

「えっ?どうしてそれを…!?」

「…あなた、隼人冬牙ね?〜〜大神君に何をしたの!?体を乗っ取って、何をするつもり…!?」

「『…乗っ取ったのではない、奪い返したのだ。この体は本来、私の物なのだからな…!』」


冬牙が少し霊力を解放しただけですさまじい霊力波が発生し、あやめさん以外の花組は皆、舞台下に吹き飛ばされてしまった!

「きゃあああーっ!!」

「皆…!!――あぁ…っ!?」


冬牙はあやめさんの手首を掴んで抱き寄せると、静かに耳元で囁いた。

「『――出てきておくれ、美貴。お前もその女の中で目覚めているはず…』」

「〜〜く…っ!一郎君の体から出て行きなさい!!」

「『私が出て行けば、こやつの肉体は腐敗するぞ?それに、もう大神一郎は存在しない。私の魂と融合したことで消滅したのだからな…!』」

「な…っ!?〜〜はぁ…んっ!?」


冬牙はあやめさんの巫女装束の隙間から手を入れて左胸を揉みしだくと、心臓に向かって闇の霊力を注入し出した…!!

「んんっ!んはああっ!?〜〜きゃああああああ〜っ!!そこはダメぇ〜!!」

「あやめさん…!!」

「いやあああああ〜っ!!壊…れ…るぅ…っ!!あはあああ〜っ!!」

「『これほどの力を受け止められるなら、美貴を覚醒させても大事ないだろう。――もう我々を分かつ者は誰もおらぬ。私の元へ来るのだ、美貴…!』」


――バチィッ!!

その時、あやめさんの体が光を放ち、周りに天雲神社の紋が描かれた光の結界が発生して、冬牙を俺の体もろとも弾き飛ばした…!!

その瞬間を駆けつけたばかりの子供達とラチェット、新次郎も目撃した。

「ママ…!?」

「あの結界は…!?」

「ハァハァハァ…、美貴…さん…?」


美貴さんからお守りだともらってつけていた髪留めは冬牙の気配を感知しなくなると、光を消して普通の髪飾りに戻った。

「『〜〜何故だ、美貴…?何故、私を拒む…?来世で愛の契りを交わそうと約束したではないかっ!?』」

「…彼女はあなたが極楽へ逝けるよう力を貸して欲しいと言ってきたわ。自分のせいであなたが悪霊になってしまったと、とても心を痛めてるの…」

「『……お前はいつもそうだな、美貴…?闇の力を得たお前と生きていけるよう、私は自ら闇の住人になったというのに…。私の幸せの為などと抜かしては、この腕から離れていくのだ…。〜〜だが、もう綺麗ごとはたくさんだっ!!お前なしで私は幸せになれるわけがない!!――必ずこの手で貴様をもう一度…っ!!』」


あやめさんの心臓にもう一度闇の霊力を注入しようとした冬牙だが…、

「――はあああああっ!!」

頭上から斬りかかってきたかえでさんに冬牙が気を取られた隙に、双葉姉さんは自力で立てないあやめさんを素早く舞台下に避難させた!

「母さん!」

「かえで…!無事で何よりだわ」

「ふふっ、あなた達もね…っ!」


かえでさんは冬牙に刀身を弾かれた勢いを利用して宙返りすると、あやめさんと双葉姉さんの横にストッと着地した。

「『――隼人の霊力を感じる…。貴様らも私の子孫だな?』」

「あぁ、そうさ。なんなら、私を器にしてみるかい?そうすれば、この巨乳を揉み放題だぞ〜♪」

「〜〜母さん…、こんな時に下ネタはやめて下さい…」

「『フフッ、先祖を愚弄するとはいい度胸だ。――ピエール!』」

「――お呼びかな、マスター冬牙♪」


怪人の体を手に入れた純ことピエールは、マジシャンのような長いマントをなびかせて瞬間移動してくると、アモスが被っていたのと同じパリシィの仮面を外して、不気味に笑った。

「あの人、『ぱぴよん』の店長さんだ…!!」

「気をつけて下さい!あいつが黒魔術を使う『悪い魔法使い』なんです…!!」

「わかったわ。あなた達はアイリスお姉ちゃんの所へ避難してなさい!」

「はい!」「うんっ!」「わかった!」

「『――こやつらを痛めつけてやれ。そして、美貴の『器』を奪い返すのだ!』」

「了か〜い♪怪人の力を試せる良い機会だもんねぇ」


ピエールは不気味に笑うと、マントを地面に残して姿を消した…!

「消えた…!?」

「フフン、きっと恐れをなして逃げたのですわ♪」


すると、ピエールを悪く言ったすみれ君はいきなり突き飛ばされたように前に倒れ、顔面で着地した。

「〜〜ふぎゃっ!?」

「すみれさん…!?」

「馬鹿も休み休み言いなよ。こんな素晴らしい能力を授かったのに、試さずに帰るわけないじゃんか♪」

「〜〜くそっ、声はするけど、姿が見えない…!」

「…多分、自分の体色を周囲に合わせて変えてるんだ。きっと奴はカメレオンの怪人だよ!」

「〜〜カメレオンでもカルメンでもどっちでもいいデ〜ス!見えない敵とどうやって戦うデスカー!?」

「適当に武器を振り回しときゃいいんだよ!こっちはこれだけ人数がいるんだ!一人ぐらいまぐれで当たるって…!!」

「――無駄だよ♪」

「きゃああああーっ!!」


ピエールの見えない舌が鞭のようにかえでさん達を素早く叩いて攻撃する!

風を切る音はするが、その方向を狙う間に別方向から舌が飛んできてしまうのだ。

「〜〜く…っ、姿が見えないと狙いようがないわね…」

皆、辺りを見回すだけでほとんど動けず、見えないピエールのされるがままに甚振られていく…!

「〜〜男のくせに金玉の小せぇ野郎だぜ…。――やい、カメレオン野郎!男なら正々堂々、正面から…――おりょ?」

「カンナ…!?」

「〜〜どわあああ〜っ!?」


ピエールはカンナを舌で巻くと、体格差を物ともせずに豪快に振り回し、他の人達にぶつけてダメージを与えていく!

「きゃああああっ!!」

「〜〜うわあああっ!?すまねぇ、皆ぁ〜!!」

「カンナはん、今助けるでー!――『追跡くん2号』〜っ!!」


紅蘭が発明したバズーカからカラーインク入りのボールがカンナめがけて飛び出してきたが、舌を操るピエールはギリギリのところでよけた。

「あ〜ん、惜しい〜!」

「諦めるんは早いでぇ?ここからが科学者の意地の見せ所や…!」


外れて壁にめり込んだはずのボールは、ターゲットのカンナをロックオンし直すと、おのずと向きを変えて加速し、カンナめがけて突撃した!

「何…!?」

「〜〜ぶっ!?」


ボールが顔面に命中し、カンナがピンクのインクまみれになると同様にピエールの長い舌にもインクの飛沫がかかり、舌がどこから伸びているかが見えるようになった!

「すごいわ、紅蘭!」

「へっへ〜ん、ど〜んなもんや!非科学的な魔術に科学が負けるわけないで〜♪」

「なかなかやるねぇ、サイエンティストのお嬢さん。――なら、こちらの非科学的な現象はいかがかな?」


観念して姿を見せたピエールはカンナを解放した長い舌を口に戻すと、今度は忍者のように自分の分身を量産し、花組を囲った!

「〜〜今度は分身の術かいな…!?」

「体を分裂して仲間を増やすなんて、まるでアメーバの怪人だね…!」

「まさか怪人の種類が変わったってこと…!?」

「えぇっ!?複数の能力を持つ怪人なんているんですか!?」

「これが科学を超えた魔科学さ!死んだ怪人の遺伝子を魔術で体内に組み込むことにより、僕はどんな怪人にもなれるのさ…!!」


ピエールは分身達に混じり、花組に襲いかかった!

「〜〜く…っ、こんなにいたら、どれが本物か…」

「構いやしないさ。一人残らず叩きのめしゃいいんだからな!」

「ふふっ、単純ですが、最も効率的な戦法ですわね」

「皆、一対一になって戦うのよ!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」


かえでさん達は本物と偽物の区別がつかないピエール達と一対一で挑むことにしたが、さくら君と戦っていたピエールの分身は2人に分裂すると、それぞれの戦いでかえでさんと双葉姉さんが気を取られている隙に、ぐったりと舞台に寄りかかっていたあやめさんを誘拐した!

「え…?――きゃああああーっ!!」

「ハッ!?しまった…!!」

「〜〜あやめ…!!」

「――はい♪今度は逃げられないように鎖で繋いでおくことだね」

「『フフ、さすが百獣の怪人だな』」

「〜〜いやぁ…っ!」


あやめさんはピエールの分身の腕の中で抵抗するが、体内で闇の霊力が増加している為に思うように力を出せない…!

「〜〜あやめさんを返しなさい…!!」

「『…うるさい虫けらどもめ。これ以上、邪魔をしないでもらおうか…!!』」


冬牙の合図でピエールは分身達を体に戻すと、今度はシゾーにそっくりなうさ耳とはさみを頭と腕から生やし、ロケットパンチのように両腕のはさみをブーメランのように飛ばして、かえでさん達を切り裂いた…!!

「きゃああああああーっ!!」

「皆ぁっ!!〜〜もうやめてぇ!!私の体は好きにしてもらって構わないわ!だから、もう皆を傷つけないで…っ!!」

「駄目よ、姉さん…!〜〜きゃあああっ!!」

「かえでさん…!!」

「『仲間の為に自身を犠牲にするか…。――やはり貴様は美貴の生まれ変わりだな…』」

「ん…っ!?――ん…んぅ……っ!?」


――ごく…っ!

冬牙にキス越しで悪魔の種子を飲まされ、あやめさんは目を見開いた。

「『――再びその体で目覚めるがいい、最終降魔…!』」

すると、あやめさんを守っていた結界が消えて、髪飾りも光を失った。

その瞬間、あやめさんの瞳が血のように赤くなると、背中から生えた黒い翼が羽根をまき散らしながら暗がりの空に広がった…!

「あれは殺女…!?」

「〜〜そんな…!?あやめはんは魂の因縁から解放されたはずやのに…!」

「……違うわ。あれは殺女じゃない…!」

「『――美貴…、やっと私の元へ帰ってきてくれたのだな。帝都をさまよい続けて数百年…、この瞬間をどれほど待ちわびたことか…』」

「『……冬牙様…』」


冬牙の腕に抱かれるも、あやめさんの体を器に覚醒した美貴さんは複雑そうだった…。

「美貴さん…?〜〜あなた…、あやめ姉さんじゃなくて美貴さんなのね…!?」

「『……ごめんなさい…、お姉さんとご主人を守れなくて…』」

「〜〜そ…んな……」

「『たとえ極楽へ逝けても、お前がいなければ地獄も同じだ…。――美貴、もう二度とお前を離すまい。共に参ろう、二人だけの極楽へ…!』」

「『……』」

「〜〜一郎君っ!!姉さぁぁぁん…!!」


美貴さんを抱きしめ、ピエールと共に消えた冬牙に伸ばした手を、かえでさんは震わせながら静かに下ろし、その手で血が滲むほど神社の砂利を握り締めて嗚咽を漏らした…。

「〜〜逃がしたか…」

「皆〜っ!」「大丈夫でしたか〜!?」

「〜〜姉さん…、一郎…君……」

「母さん…」


手当てするアイリスの声も、心配する誠一郎達の声も今のかえでさんの耳に入らない…。子供達は何と声を掛けたらいいかわからず、先巫女様と顔を見合わせ、暗くうつむいた…。

「――ご安心下さい。彼らの行き先は、おおよそ見当がついています」

「え…?」


声がした方に目を向けてみると、二人の欧州人のメイドが鳥居を背景に立っていた。

「あなた達は…!」

「ヒュ〜ヒュ〜♪落ち込んでる暇はありませんよぉ〜!」

「敵は巴里へ向かったはずです。私達・巴里華撃団も力をお貸し致します…!」


そう言って、かえでさん達を激励すると、メル君は凛々しく、シー君は明るく微笑んだ。



――ここはどこだ…?

やけに明るいな…?確か俺、冬牙に魂を吸収されて、闇に堕ちていったはずなのに…。

それにこの暖かさ…、まるで太陽の光を浴びているようだ…。

変だな…、俺、死んだはずなのに…。――あぁ、そうか。ここ、天国だから暖かいんだ…。

『――大名行列を横切るとは、この無礼者が…!!』

…天国にも大名なんているんだな。思ってたより堅苦しそうな場所だ。

風景ものどかな農村や山々が広がってて、まるで戦国時代みたいだし…。

『異人でも例外は認めぬ!――冬牙様、どうかこの不届き者に厳重な裁きを…!!』

…ん?この侍、今、俺のこと『冬牙』って呼ばなかったか…?

〜〜いぃっ!?しかも俺、やたら豪華な甲冑を着て、馬に乗ってるし…!?

天国のお迎えって、もっとこう…ラッパ拭いてる天使が引っ張るソリに乗ってー…的なものじゃなかったっけ?

『――顔を上げよ』

〜〜おわっ!?くっ、唇が勝手に動いて、妙な台詞を言い始めたぞ!?

『…怖れることはない。私はお前と話がしたいだけだ』

『……』


異人と呼ばれる少年はひれ伏していた顔を恐る恐る上げ、馬上の俺を見つめた。その少年の顔に、俺は驚きを隠せなかった。

(――アモス…!?)

俺は彼が本当にアモスかどうか聞いてみたかったが、何故か唇も声帯も動かせない…。ちゃんと肉体があるのに、だ。

だが、そんなことよりアモスがどうしてここにいるんだ…!?パリシィの魂は死んだらオーク巨樹に還るとヴァレリーは言っていたはずだが…?

しかも、精霊装束じゃなくて、何で戦国時代の農民が着るような、みすぼらしい服を着てるんだ…?

『――思った通りだ。その瞳、美しい瑠璃色をしておる』

俺の体は意思と反して勝手に馬から降りると、正座しているアモスと瓜二つの少年の目線に合わせてひざをつき、頭を撫でてやった。

『噂に聞く通り、欧州人とは美しい黄金色の髪をしているのだな…。ははは、すまぬ、異国の者を見たのは初めてなものでな。名は何と申す?』

『……』

『日本へは布教活動しに参ったのか?日本人の中には異国の文化を受け入れようとせぬ頑固者も多い。苦労するだろう?』

『〜〜っ!!』


少年は下唇を噛み締めながら戦慄くと、懐から出した小刀の刃をとっさに冬牙に向けた…!

『〜〜冬牙様…!!』

『フゥー、フゥー、フゥー…』


ギラギラ充血し、警戒心むき出しで睨んでくるその目は、まるで縄張りを荒らされて怒り震える獣のようだ…。

『〜〜この小僧…っ!!』

『――まぁ待て。…こやつは人を信じることを忘れた悲しい目をしておる。異国の地に住まうのは難儀であるからな、たいそう苦労してきたのだろう…』

『……』

『お主、なかなか剣術を心得ておるな。私の家臣にでもならんか?』

『…!?』

『〜〜と、冬牙様…!正気でございますか!?』

『〜〜こやつは大名行列を妨害した挙句、あなた様に刃を向けた不届き者でございますよ!?しかも、日本の武士道など心得ていない異国の――!』

『異人だろうが女だろうが、私は腕の立つ者全てを称賛する質でな。――お前は良い瞳をしている。私の下で働けば、立派な侍になるだろう』


意外な展開に少年はしばらく呆気に取られていたが、冬牙の笑顔が青い瞳に映ると、込み上げてくる涙を見られぬよう、ひざまずいて頭を下げた。

――これで確信が持てたぞ…!ここは冬牙の記憶の世界…、冬牙がアモスと出会った頃の記憶なんだ。

きっと俺と冬牙の魂が一つになったから見られるようになったに違いない。

今の俺は隼人冬牙として、生前の冬牙の記憶をバーチャル体験してるんだ…!


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