大神一郎誕生日記念・特別短編小説2013
「愛の魔法」その4



「――ここが雨宮子爵のお屋敷ね」

子供達に危機が迫っているなど知る由もない俺とかえでさんは、『papillon』の商品を回収しに新宿にある雨宮子爵の屋敷にやって来た。

「〜〜あ、あのぉ…、かえでさん…?」

「ん…?どうかした、一郎君?」

「〜〜本当にこの格好で参加するんですか…?」


俺はスカーフの生地でくすぐったい首を掻きながら頬を赤らめた。

子爵のお屋敷にお邪魔するのだから、いつものもぎり服じゃ失礼なのはわかる。…が、この『愛ゆえに』の貴族衣装はやりすぎだと思うんだが…?

「ふふっ、なかなか似合ってるわよ、一郎君♪」

と、かえでさんは同じ『愛ゆえに』の貴族のドレスと扇子をなびかせて、『少年レッド』の予備の仮面をつけ、しとやかに高貴な笑みを浮かべた。

「ふふっ、どう?決まってるかしら♪」

「よ、よく似合ってますけど…。〜〜潜入するのは新年会…ですよね?」

「新年会は新年会でも、西洋かぶれの雨宮子爵が主催の『仮面新年会』よ?――周りを見てみなさいな」


〜〜確かにかえでさんの言うように、他の参加者達も同じような西洋の中世貴族っぽい格好をしているが…。

「〜〜何かコアなコスプレパーティーみたいじゃないですか?」

「私達は体張って商品を回収しに来たのよ?たとえ乱交パーティーだろうと勧んで参加しなくっちゃ♪」


〜〜乱交パーティーって…、そんなはっきり言われると自重した意味ないんだけどな…。

「安心してくれていいわ。欧州星組時代、こういうパーティーには出資を募る為によく顔を出してたから」

「〜〜えっ!?乱交パーティーにですか!?」

「〜〜違うわよ!社交パーティーにっ!!」

「あ、あぁ…、〜〜はは…、そっちですか」

「まったくもう…。ふふっ、やっぱり、あなたは私がついていないとダメね。リードしてあげるから、足引っ張らないようについてらっしゃい!」

「は、はい…♪」


頼もしく顔を近づけてきて、ちょっと背伸びして俺に仮面をつけてくれたかえでさん。

仮面の奥から覗く美しい瞳に吸い込まれそうになるな…♪

「〜〜コホン!…では、行きましょうか、マダム藤枝♪」

「ふふっ、エスコートよろしくね、ムッシュ大神♪」


ドレス姿の美しい貴婦人・マダムかえでと腕を組んで屋敷に入っていく。

――前言撤回!たまにはコスプレもいいものだよな…♪



「――失礼。招待状はお持ちですかな?」

「あぁ…、――これかしら?」

「――確かに。ようこそお越し下さいました。こちらへどうぞ」

「ふふっ、ありがとう。――参りましょう、あなた♪」

「はっはっは、待ってくれよ、ハニ〜♪」

「〜〜ご、ごゆっくり…」

「――ふふっ、潜入成功ね♪」


〜〜少し芝居がわざとらしくなってしまったが、なんとか第一関門突破だな!

――それにしても、さすがアンティークマニアの雨宮子爵のお屋敷だなぁ!まるでおとぎ話に出てくるお城だ。

奥には白雪姫を映す魔法の鏡があって、その横に眠り姫が眠っているベッドでも置いてありそうだ。この階段なんか、シンデレラのガラスの靴を王子が拾う場面が目に浮かぶようだ…!



「――こちらが会場となっております。ごゆっくりお楽しみ下さいませ」

係の者に案内されて会場へ入ると、オーケストラが生演奏する優雅なクラシック音楽が聞こえてきた。

談話する者、食事する者、演奏に聞き入る者…、皆が俺達と同じ中世の貴族の格好をしている。

〜〜屋敷に入るまではマニアックなコスプレ乱交パーティーを予想していたが、まさかここまで本格的な社交パーティーとはな…!金持ちの道楽とはいえ、まるで中世ヨーロッパにタイムスリップした気分だ!

「ホッ、これならこの衣装でも目立ちませんね…!」

「えぇ、思わぬセレブ気分が味わえてラッキーだわ♪」

「――麗しのマダム、お一ついかがですかな?」

「まぁ、ホホホホ…!お上手ですこと♪」


かえでさんは俺と腕を組みながら、セレブの奥様のように優雅な物腰でキャビアが乗ったクラッカーとシャンパンをウェイターから受け取った。

「Bonne anne!」

「えっ?〜〜ボ…、Bonne anne!」

「ハッハッハ、今年もお互い良い年になるといいですなぁ」

「あ…ははは、そうですね」

「ふふっ、日本にいながらフランス旅行が楽しめるわね」

「そうですね。――この雰囲気…、巴里の社交パーティーを思い出すなぁ」

「一郎君、参加したことあるの?」

「はい。帰国前、グラン・マ司令とメル君とシー君から招待されまして」

「そう…。私の知らない一郎君の思い出…か。ふふ、ちょっと寂しいな…」

「かえでさん…」

「ふふっ、ごめんなさい。今さら巴里の娘達相手に嫉妬しても仕方ないのにね…」


そうか…。あの頃は巴里から帰国してすぐ、ブレントや大久保長安との戦いが待っていたから、あやめさんとかえでさんにゆっくり土産話を聞かせられる余裕なんてなかったからな…。

「――この事件が一段落したら、留学中の思い出、ゆっくり聞かせてあげますよ」

「えっ?」

「はは…、胸を張れる武勇伝ばかりじゃありませんけどね。俺もかえでさんが欧州星組にいた頃の話、聞いてみたいな」

「ふふっ、いいわよ。私もあの頃は人としても司令官としてもまだまだ未熟だったけど、私しか知らないラチェット達の話、たっぷり聞かせてあげるわね♪」

「はは、それは楽しみですね――」


オーケストラが演奏している曲がワルツに変わると、周りの参加者達はペアを組み、優雅にステップを踏んでダンスをし始めた。

「〜〜いぃっ!?ど、どうします…?」

「こぉら、男の子がうろたえないの!――私がリードするから合わせてね?」


仮面をつけているかえでさんはウィンクすると、俺の腰に手を添え、手と手を握って社交ダンスを踊り出した。

「ステップは同じように動いて合わせればいいわ。ターンの時は合図するから」

「は、はい…!」


さすが、かえでさんだ。欧州星組の女司令として、よくこういうパーティーで踊ってたんだろうな。

……今まで社交場で、どういう男と踊ってきたんだろう…?それを考えると、さっきのかえでさんじゃないが、嫉妬してしまう…。

「…怖い顔してどうしたの?」

「……かえでさんは欧州にいた頃、どれくらいの男とこうして踊ってたのかな…って」

「それはもう星の数ほど!星組だけにね♪」

「〜〜いぃっ!?ほ、本当ですか…!?」

「ふふっ、冗談よ。いちいちカウントしなかったから覚えてないわ。誘ってきた相手とは一曲踊ってあげたりはしたわね。その後、よく夜の方も誘われたけど…」

「〜〜いぃっ!?そ、そうですか…」


やっぱりか…。こんなに素敵な女性がいたら、男が放っておくはずないもんな…。

〜〜ハァ…、何だか落ち込んじゃったよ…。余計なこと聞かなきゃよかったな…。

「…でも、そっちの方はずっと断ってたわよ?」

「えっ?」

「ダンスはあくまでも仕事上のお付き合いであって、下心があって踊ったわけじゃないもの。まぁ、女だから体を武器にのし上がることもできたかもしれないけど、私はそういうやり方、嫌いだし」

「そういえば、かえでさん処女でしたもんね?」

「当たり前でしょ?初めては将来を誓った人に捧げるって子供の頃から決めてたんだから…♪」

「かえでさん…♪」

「社交ダンスだって、短い間でここまでステップが合う人は他にいなかったもの。やっぱり、一郎君は私の最高のパートナーね♪」


――ダンスの途中に見つめ合うと、何だか照れくさいな…♪

曲が変わったので、俺はひざまずくと、シンデレラにダンスを申し込む王子のように手袋をはめたかえでさんの手の甲にキスをした。

「美しい人、私と踊って頂けませんか?」

「ふふっ、喜んで、王子様♪」


さっきのダンスでステップの要領は大体掴めたからな、今度は俺がかえでさんをエスコートして、ダンスをリードするとしよう…!

「こ、こんな感じですか…?」

「そんなに固くならないで。ダンスは楽しむものよ?」

「そ、そうですね…!リラックス、リラックス…」

「ふふっ、その調子、その調子♪――」


その時、俺とかえでさんは同時に殺気を感じると、同じ一点を睨みつけた。

「この妖気…」

「えぇ…、――あれが例の柱時計みたいね」


俺達の視線の先には、天使が描かれた趣深い光沢を放つ柱時計があり、少しさびれて金メッキがはがれた振り子をゆっくり揺らしていた。

「ダンスが終わったら、自然を装って近づいてみましょうか」

「了解です…!」


曲が終わるのを見計らって、俺達は柱時計の近くでダンスを終え、怪しまれないように対象物に近づいた。

「――間違いないわね。この闇の霊力…、山本大臣が持っていた眼鏡チェーンに宿っていたのと同じものだわ」

「あとはどうやって運び出すかですが、思っていたよりでっかいですね――」

「――ほぅ、この時計に目をつけるとはお目が高い」


すると、葉巻をふかし、ダリのような独特なひげを生やした雨宮子爵が俺達に話しかけてきた。

気の合うコレクターを見つけたと思ったらしく、ニコニコしていて機嫌が良い。

「〜〜め、珍しい品をお持ちだなと思いまして…。日本ではあまり見かけないデザインなものですから…」

「ほっほっほ、そうでしょうとも。『時の番人』との異名を持つ倫敦の時計職人・アルマンが生涯最後に作った一級品ですからなぁ。いやはや、手に入れるのに苦労したんですよ。この時計を求めて欧州中を駆け回ったのですがね、どれもアルマンの技法を真似た偽物ばかりで…。まさか市場を流れて日本の…、しかも、ここからほど近い銀座のアンティークショップで売られていたとは驚きでしたよ。いやはや、灯台下暗しとはまさにこのことですな。はっはっは…!」

「ほほほ…!どおりで普通の時計と違うと思いました。素晴らしいコレクションをお持ちで羨ましい限りですわ」

「はっはっは!いやいや、世界にはまだまだ上がいるものですよ」

「…ところで、この時計を買われたアンティークショップの店名をお覚えですか?こんな一級品を売ってる店です。私共も是非一度行ってみたいと思いましてね」

「店名…。……はて、何といったかなぁ…?」

「…もしかして、4丁目の『papillon』…では?」

「う〜む…、そんなような響きだったような気もするが…。ははは、まったく…、これだから年は取りたくないものですなぁ」

「――雨宮子爵!」

「おぉ、これはこれは鹿沼子爵!――では、私はこれで。指紋をつけない程度に観察してくれて構いませんからねぇ。ほっほっほ…♪」


会釈して子爵仲間の元へ向かった雨宮子爵を見送った俺とかえでさんは、黒魔術の呪いにかかっている柱時計を再度見上げた。

「…完全にクロね」

「えぇ。ですが、子爵は相当なコレクターです。交渉して譲り受けるのも無理そうですね…」

「そうね…。〜〜それに、こんなに大勢招待客がいちゃ、持ち出すのも壊すのも至難の業でしょうし…」

「この場で壊して無効化してしまいましょう。招待状に書いてある名前は偽物ですし、警備員が来る前に逃げてしまえば…」

「でも、あちこちに警備員がいるのよ?それに、こんな大きなお屋敷じゃ防犯設備も整ってるでしょうし…。〜〜どうにかして皆の気をそらせればいいんだけど…」

「そうですね…。――ベタだけど、この方法しかなさそうだな…!」

「…?」




「――ふわあああ…。〜〜ったく、ガラクタの警備なんてやってらんねぇぜ。金持ちの道楽なんぞにいちいち付き合ってられるかってんだ…」

パーティー会場の入口であくびをしながら立っている警備員に腰をくねらせながら近づいていく一人の美女…。

「――んふふ…♪お兄さんも暇そうねぇ?」

「ふわ…?」


仮面の奥に見える流し目を決め、セクシーに唇に指をあててくる仮面の貴婦人に思わず警備員はゴクッとつばを呑んだ…!

「え…へへへ…♪奥さん、何か用ですかい?」

「いえね、私もなんだか退屈しちゃって…。よかったら、向こうで大人のお話でもしませんこと…♪」


色っぽいため息をつきながら、チラリズムでスカートから美脚をのぞかせてきた貴婦人に、警備員はだらしなく鼻血をたらした。

「は…ははは…♪いやぁ〜、警備員という仕事上、困ってるご婦人を放っとくわけにはいきませんからなぁ〜♪」

完全に貴婦人の色香の虜になった警備員はヘラヘラしながら持ち場から離れると…、

「〜〜ぐえっ!?」

柱に隠れていた俺に真刀滅却で峰打ちされ、無様に気絶した。

「うまくいきましたね!」

「ふふっ、こういう囮作戦は得意中の得意よ♪」


警備員をたぶらかしたセクシーな貴婦人・かえでさんによって柱に縛りつけた警備員からはぎ取った制服を俺は着用すると、顔を見られないように深く警備帽をかぶった。

「この姿なら怪しまれずに電源供給室に入れるはずです。俺がブレーカーを落としたら、その隙に柱時計をお願いします…!」

「わかったわ!気をつけてね?」

「はい。作戦後、裏門で落ち合いましょう…!」




パーティー会場に再潜入したかえでさんと別行動を取ることになった俺は、顔を伏せがちに電源供給室に入った。

「ん…?もう交代の時間かい?」

「〜〜あ…、あぁ、庭に変質者がいたみたいでな、直ちに出動せよと連絡が入ったんだ」

「〜〜何ぃ!?不審人物だと…!?わかった、俺もすぐ向かおう!」

「あんたが不在の間、ここの監視役は俺が務めることになったから、心置きなく任務を遂行してきてくれたまえ!」

「あたぼうよ〜!――へへっ、待ってろよ、変態め〜!!」


やる気満々に腕まくりした江戸っ子警備員が出て行くのを確認すると、俺はすぐにドアを閉めて鍵をかけた。

「〜〜人を騙すのは良心が痛むが、これも帝都の平和の為だからな…。――かえでさん、聞こえますか?電源供給室に潜入できました」

「了解!こっちも準備完了よ」

「では、今から実行に移ります!」


この部屋は、屋敷の至る所を24時間見張っている全ての蒸気監視カメラの映像をモニターで切り替えて見られるみたいだな。これを見ながら、キネマトロンでかえでさんに指示を出すとするか…!

「――壱番エリアに警備員がいます。脱出の際は五番通路を通って下さい」

「わかったわ。そっちはどう?ブレーカーは見つかった?」

「これみたいですね…。――では、行きますよ!せーの…!!」


スイッチを手前に引いてブレーカーを落とすと、屋敷の電気が供給されなくなったことで全ての部屋の明かりが消えた!

「〜〜きゃああっ!!停電…!?」

「〜〜ど、どうしたんだ…!?」


今は冬だから日が沈むのも早いので、窓からも太陽光は降り注がない。

予測通り、会場は急に真っ暗になってパニックになってるみたいだ。

「第一段階、成功よ!」

「今のうちに柱時計を…!」

「了解…!!」


かえでさんはドレスに忍ばせていた神剣白羽鳥で柱時計を斬ろうと構えたが、刃が時計盤に触れる直前に突然、会場の電気がついた…!!

「〜〜え…っ!?」

「――こんなこともあろうかと、予備電源を用意しておいたんですよ。私のコレクションをどうされるおつもりかな、マダム?」


辺りを見回すと、すでに多くの警備員が銃を構え、かえでさんを取り囲んでいた…!

「〜〜しまった…!」

「〜〜かえでさん――!!」


助けに行こうと席を立った俺の頭にも冷たい銃口が突きつけられた。

「――へへっ、兄ちゃん、お人好しだなぁ。キョドってるのバレバレだったぜぇ?」

と、庭に向かったはずの江戸っ子警備員は落ち着いてキセルをふかしながら銃口で俺の頬をぐりぐりとえぐってきた…!



一方、警備員に囲まれているかえでさんも神剣を床に落とし、おとなしく手を挙げた。

「〜〜たかだか柱時計で、大袈裟すぎじゃありません?」

「ほっほっほ、これだから素人は困りますなぁ。アンティークの価値もわからぬまま、闇市場で換金することしか考えておらんのだから」

「〜〜誤解ですわ!私達はあそこの柱時計を壊しに来ただけです!信じられないかもしれませんが、あの柱時計には強力な魔術がかけられていて、あなたの命を――!」

「ハッハッハ…!魔術だとぉ?寝言は寝てから言いたまえ…!!」


雨宮子爵が合図すると、警備員は捕まえた俺をかえでさんの近くに突き飛ばした。

「うわ…っ!!」

「〜〜一郎君…っ!!」


〜〜うぅ…、やっぱり作戦がベタすぎたかな…?

「とぼけても私はごまかせんぞ?――お前達の真の目的はこれだろう!?」

雨宮子爵が手を叩いて合図すると、警備員は押してきた台座に被せていた布を取った。

「そ、それは…!」

台座に乗っていたのは、アモスが着けていたのと同じデザインの9個の仮面が保管されたガラスケースだった…!!

「今日の新年会で披露するつもりだった私のコレクションだ。これはパリシィと呼ばれる民族が祭事の際に利用していた希少な仮面でな、現存する10個のうち、やっと9個を収集し終えたのだよ。残りの1個を手に入れるまでは何が何でも手放すわけにはいかないんだ…!どこで嗅ぎつけたかは知らんが、私の貴重なコレクションを狙う悪党を許すわけにはいかん!――さぁ、その安っぽい仮面を取りたまえ!その額に鉛の銃弾を撃ち込んでくれよう…!!」

「…くだらないわね。そんなお面の為に人の命を奪うつもり?」

「貴様らにはくだらん物に映るかもしれん。だが、私にとっては命より大事な代物なのだよ…!」

『――ならば、その命…、我々に授けてもらおう…!』

「〜〜な…っ!?ぐわああああ…っ!!」


おどろおどろしい声が仮面から聞こえてきた刹那、闇のオーラを発した仮面の一つが雨宮子爵の顔に吸い寄せられるように貼りついたのである!!

「〜〜ぎゃあああああ〜っ!!い…、息がぁ〜っ!!」

「〜〜子爵殿…!?」

「〜〜な、何が起こったというのだ…!?」

「顔が…顔が焼けるぅ〜っ!!〜〜ぐあああ!!熱い…っ!た、助けてくれぇ〜っ!!」


雨宮子爵は苦しそうに床を転げ回り、必死に仮面を剥がそうとするが、強力な接着剤でつけられたように仮面は子爵の顔から剥がれない…!!

「――ハ…ッ!?この霊力…!」

「何か知ってるの…!?」

「えぇ、これはオーク巨樹が復活した時に巴里で感じた…――う…っ!?」

「〜〜一郎君…!?どうしたの!?大丈夫…!?」


かえでさんの腕に抱かれながら、頭の中にあるヴィジョンが流れてきた。

広大な草原にそびえ立つオーク巨樹が外来の民族達によって焼かれ、まるで巨大な松明のように燃え上がっていく…。

その時に大樹が感じたであろう怒り、悲しみ、憎しみ、絶望、無念、後悔…、様々な負の感情が俺の心に流れ込んでくるのだ…!

『――パリシィではない貴様が仮面の主になれると思ったか…?』

再び仮面から声が聞こえてくると、同じ仮面からアモスと同じ格好をした精身体が頭からぬっと現れた…!

「〜〜君はまさか…!?」

『――僕と同じ霊力の波長を持つ君…、僕を受け入れておくれ…』


かえでさんと入れ替わる前の日の夜、俺の肉体と同化しようとしていた仮面の精霊・アモスにそいつはそっくりだった…。


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