大神一郎誕生日記念・特別短編小説2013
「愛の魔法」その2



その頃、巫女装束を着たあやめさんは、神社の敷地にある舞踊場で『幸舞の儀』のリハーサルを行っていた。

練習用の蒸気カセットテープの音楽に合わせ、参拝者一人一人の幸せを願いながら伝統的な舞の一つ一つの動きを丁寧に舞っていくあやめさん。黄金地に椿柄の扇を持つ指先をしなやかに伸ばし、普段使わない筋肉も含めた全身で繊細に、時にダイナミックに舞台の上で舞を披露する。

素人から見たら、その演技は完ペキと言ってよいものだったが、本人は納得がいかないみたいで、ため息をついて蒸気カセットテープを止めた。

(〜〜こんなんじゃ駄目だわ…!本番前なのに、こんなに心が乱れてしまうなんて…。……この胸のざわつき…、まるで…あの時みたい…)

「――お疲れ様です、あやめさん」


神官に案内されて俺が舞踊場に入ってくると、あやめさんは暗かった表情を一変させて、ホッとした笑顔を見せてくれた。

「一郎君…!来てくれたのね、嬉しいわ」

「あやめさんの晴れ舞台ですからね。――これ、差し入れです」

「まぁ、竜屋のあんみつね。丁度、甘い物が食べたかったところなのよ」

「はは、それはよかった」


…そういえば、巫女さん衣装のあやめさんを見るのって初めてだな。神聖な職業のはずなのに、あやめさんが着ると何かエロチックというか…♪

「…?どうかした?」

「いぃっ!?〜〜いや…その…、巫女さんの衣装、似合ってるなって…♪はははは…」

「ふふっ、ありがとう。よかったら、お稽古見学していかない?改善点があったら指摘してほしいんだけど…」

「わかりました。俺でよかったら力になりますよ」

「ふふ、頼むわね、大神支配人見習い君♪」


あやめさんは再び蒸気カセットの音楽に合わせて、華麗な舞を披露してくれた。汗の玉を飛ばし、踏み込んだり回ったりする度に鮮やかな紅袴がふわりと風に舞い、扇で円を描いては色っぽい流し目を決める…♪また、黄金の扇と儀式仕様の派手な化粧がマッチして、舞に彩りを添えている。

これが『幸舞の儀』というものなのか…!見ているだけなのに、不思議と心に潜む穢れと闇が払われていくようだ。この舞を見た者は一年を幸せに過ごせるという言い伝えがあるのもわかる気がするな。きっと、藤堂家を先祖に持つ藤枝家の人間にしかできない、特別な儀式なんだろう…!

『――冬牙様…』

「え…?」


あやめさんの美しい舞に目を奪われていたその時、あやめさんによく似たか細い声が耳元で聞こえた。

辺りを見回そうと顔を上げると、目の前にあの女性がいた。夢に出てきたあやめさんにそっくりの『彼女』が…。

『――ふふふっ、こっちよ、冬牙様…!』

その美しい人があやめさんの代わりに『幸舞の儀』を舞って、俺に微笑みかけている…!?いっ、いつの間に入れ替わったんだ…!?

『――愛しいあなた、今宵も私の舞に酔いしれて下さいまし…』

突拍子もない出来事のはずなのに、何故か俺は落ち着いて『彼女』の存在を受け入れていた。しかも、一瞬たりとも目を離せないでいたのだ…。

顔はあやめさんと瓜二つだが、雰囲気で別人だとすぐわかる。あやめさんよりどこか影があって、寂しそうな…今にも消えてしまいそうな儚い『彼女』が舞う度、『彼女』が抱えている負の感情と訴えが俺の心に響いてくるような気がして…――。

「――ろう君…?一郎君?」

「――ハ…ッ!?」


心配そうに覗き込んできたあやめさんに話しかけられて、俺はようやく我に返った。

「ボーッとしてたけど、大丈夫?」

「あ…はは、すみません。あやめさんの美しさに見惚れてしまって…」

「ふふっ、一郎君ったらお世辞が上手いんだから…♪」

「ははは…」


――今のは何だったんだろう…?幻覚?夢の続き…?それとも、『彼女』があやめさんに憑依したのか…?

……いや、きっと無意識にあの夢を気にしてるだけなんだろうな…。あれはただの夢なんだ。早く忘れてしまおう…。

「それで、どこか直した方がいいところ、あった?」

「特に見当たりませんでした。さっきのままで十分だと思いますよ」

「そう?でも、一週間しか練習できなかったし、不安なのよね…」

「音楽は単調ですけど、舞は結構複雑ですしね…。でも、それだけの期間でそこまで踊れるようになるなんて、さすがあやめさんですね…!普通の人なら覚えるだけでもやっとですよ」

「ふふっ、自分でも驚いてるわ。子供の頃にちょっと教わっただけなのに、音楽を聞くと自然に体が動いちゃうのよね。踊っているうちにね、ずっと昔からこの舞を舞っていたような懐かしさが込み上げてくるの…」

「デジャヴー…ですか?」

「ふふっ、かもね。〜〜でもね、同時に深い悲しみに襲われるのよ…。どうしてだろうって考えようとすると胸が苦しくなって…。不思議よね…」

『――冬牙様…』


舞の途中で現れた『彼女』…。あやめさんのデジャヴーと何か関係があるんだろうか…?

「でも、一郎君が褒めてくれたお陰で自信がついたわ。どうもありがとう」

「本番はかえでさんと子供達と客席で見てますから、頑張って下さいね」

「えぇ。ふふっ、やっぱり、一郎君ってすごいわね。傍にいてくれるだけで、こんなに力が湧いてくるんですもの」

「あ、あやめさん…♪」

「――しばらく…こうしててもいい…?」


瞳を閉じて、静かに俺の背中を抱きしめてきたあやめさん。強張っていた顔は穏やかになったが、まだかすかに体が震えている…。

普段なら、決して弱みを見せないはずなのに…。今日の出来で帝都に幸福か災いをもたらすかが決まると思うと、緊張してるんだろうな…。

――こういう時、俺がしてやれることって何なんだろう…?歯が浮くような下手な励ましは、かえって逆効果だろうしな…。

「――あやめさん…」

「あっ、一郎君…!」


だから、俺はあやめさんを抱きしめ返してやった。

あやめさんの力に…支えに少しでもなりたいこと、どんな時でも傍にいるから安心してくれていいってことを口ではなく、真摯な態度で伝えてやりたくて…。

「一郎君…。ふふっ、ありがとう♪」

あやめさんにその気持ちが伝わったのか、一生懸命励まそうとしている俺を可愛く思ったようで、犬を可愛がるみたいに頭を撫でてくれた。

「〜〜俺のこと、ペットと思ってません?」

「あら、そんなことないわよ。――そんな関係なら、こんなことまでできないでしょ…?」


と言いながら、あやめさんは俺の唇にフレンチキスをした。

「〜〜巫女衣装でされたら、ムラムラしてくるんですけど…?」

「ふふっ、不意打ちのキスで照れてるようじゃ、まだまだお尻が青いわね、大神司令見習い君♪」


唇を押さえて目を泳がせる俺の額をあやめさんは小悪魔のように笑いながら小突いた。

そうやって、あやめさんはいつも俺の一枚上手を行く…。帝撃の司令となって、あやめさんとかえでさんと結婚した今でも、花組隊長だった頃と同じように藤枝姉妹にからかわれっぱなしだし…。

〜〜なんかこのまま終わったら、今年もやられっぱなしな気がするな…。

「きゃ…!〜〜んむ…っ!」

俺はあやめさんの手首を掴むと、木製の壁と俺の体とであやめさんの体を挟むように押さえつけて、真っ赤なルージュを塗った唇を強引に奪った。

フッ、どうだ!?今年こそ、あやめさんをあっと言わせるような大人の男になってみせるぞ…!!

「ふふっ、予想通り♪一郎君の行動パターンは今年も変わらないわね」

〜〜うっ!完全に読まれてる…!?まさか、俺の男心をくすぐって楽しもうとわざと誘ってきたのか…!?

「興奮しちゃって可愛いわ♪巫女さんの衣装でするの、初めてですものね」

〜〜く…っ、またしても、あやめさんにしてやられたというわけか…。

「ふふ、『幸舞の儀』が成功するように一緒に霊力、高めてくれるわよね?」

う…っ♪しかも、あやめさんのテクニックが去年よりレベルアップしている…!?〜〜くそっ、今年こそはエッチの時ぐらい、あやめさんの上に立ってやるからな…っ!!

俺はやけくそになって、あやめさんに激しいキスをお見舞いしながら舞踊場のかんぬきを掛けると、舌を絡ませながら紅袴の帯をほどき、白衣と襦袢を脱がせたあやめさんの肩と首筋に舌を這わせた。

「はああああんっ!!一郎君、そんな…!激しく…しないでぇ…っ!!」

雪のような色白の肌が俺のキスマークで赤くなっていく度、あやめさんの顔も恥ずかしそうに火照っていく。

あやめさんの下半身が湿り気を帯びてきたら、こっちのものだ…!ここから一気に優位に立つぞ…!!

「んんっ、一郎君、もっと…!離れないようにもっと抱きしめていて…!!」

「あやめさん…?」

「……ごめんなさい。何でもないから続けてくれる…?」


あやめさん、どうしたんだろう?いつもより苦しそうに喘いでいるが…。

「はぁっ、はぁ…っ!愛してるわ、一郎君…!!早く一つになりましょう…!!」

今のあやめさんの反応は、まるで、あの頃みたいだ…。

黒之巣会の陰謀で最終降魔に転化しようとしていた頃、少しでも苦しみから解放されたいと毎晩、俺の体を求めていたあの頃に…。

「んああっ!!あああああああ〜んっ!!」

隼人の当主となった俺は、最近では光と闇の霊力の区別がつくようになった。1回のセックスであやめさんとかえでさんの霊力をどこまで上げられるか、どのくらいまで上げれば二人が霊力を有効に使えるかもわかって調節できるようになってきた。

だから、今の俺には抱いているあやめさんの霊力が高貴な光のものであるのは容易にわかる。わかってるんだから、余計な心配は必要ない…。〜〜必要ないはずなのに、この胸騒ぎは何なんだ…?

「あああああっ!!一郎君、早く…っ!!私の中に全部出してぇ…っ!!」

あやめさんは俺が傍にいることを触れることで確かめるように、乳房にしゃぶりつく俺の頭を掻き乱し、二度と離すまいと決意を固めたように、両足で俺の下半身を挟む。

……もしかしたら、あやめさんもこの何とも言えない不安感を不快に感じているのかもしれない…。

「はぁはぁ…、その調子よ、一郎君!いい具合に霊力が高まってきたわ…!!」

「あやめさん…っ!!〜〜ぐ…っ!!」

「はあん…!!あっ、またイッちゃう…っ!あはっ、ああああああああああ〜んっ!!」


俺はディープキスしながら喉を鳴らし、要求通り、あやめさんの中に全部出してやった。

「はぁはぁはぁ…。ふふ、とっても素敵だったわよ、一郎君…♪」

あやめさんは俺のよだれの糸を引いている口元を満足そうに緩ませると、細い指で俺の頬を優しく撫でた。

…だが、俺はあやめさんの体に覆いかぶさったまま動こうとしない。

「…一郎君?」

『――美貴…』

「――っ!?」


射精を終え、おどろおどろしく顔を上げてきた俺に、あやめさんは目を見開いた…!

『――お前は永久に我の物だ。前世の契り、忘れたわけではあるまいな?』

ギョロッと血走った目に高い鉤鼻、とんがった耳に、のこぎりのような鋭い歯が生えて大きく裂けた口…。

あやめさんの瞳には何故か俺の顔が悪魔のように怖ろしい異形の物に映っていたのである…!

「きゃあああああああ〜っ!!」

その瞬間、あやめさんの中で何かを守っていた壁が崩れた。そして、触れてはいけない領域に触れられたように半狂乱になると、馬乗りになっていた俺を恐怖と憎しみを込めて突き飛ばした…!!

「わ…っ!?あ、あやめさん…!?」

「〜〜いやああああああっ!!奴が来る…っ!!冬牙様ぁっ!冬牙様ぁぁぁっ!!」


冬牙だって…!?それって、夢に出てきた『彼女』が口にしていた…!?

「あやめさん…!?〜〜しっかりして下さい、あやめさん…っ!!」

〜〜くっ、完全に取り乱しているな…!――仕方ない。荒療治だが、ここは…!

――パァン…!!

「…っ!?――あ…、一郎…く…ん…?」

俺に頬を叩かれると、あやめさんは悪夢から覚めたように頬を押さえながら我に返った。

「すみません、こうするしか思いつかなくて…。大丈夫ですか――!?」

俺が触れようとすると、あやめさんはビクッと体を強張らせた。

「〜〜あ…、ご、ごめんな…さい…、私…」

あやめさんの体は依然として恐怖に震え、大粒の涙を流しながら自分の身を守るように縮こまっている…。

「あやめ…さん…?」

「〜〜私、どうしちゃったのかしら…?最近ね、おかしな幻覚ばかり見るのよ…」

「幻覚…?それって、まさか――!?」


――ドンドンドンッ!

「パパ〜、ママ〜、いる〜!?」

「ひまわりだわ…!」


半裸のあやめさんが巫女装束を着終えたのを確認してから、かんぬきを抜くと、なでしことひまわりが元気に飛びついてきた。

「わ〜い!やっぱりここにいた〜♪」

「神官のお兄さん達がお雑煮を作ってくれたのよ!儀式まで時間あるから一緒に食べましょうって」

「そ、そうね…」

「…ママぁ?」

「どうかしたの?」

「…ううん、何でもないわ。さ、早く行きましょう。せっかくのお雑煮が冷めちゃうわ」

「うんっ!ひまわりもお腹ペコペコだよ〜」


あやめさんは何とか落ち着きを取り戻したみたいだな…。

『――奴が来る…っ!!冬牙様ぁぁぁっ!!』

……さっきの取り乱しよう…、普通じゃなかったな…。一体、あやめさんの身に何が起きてるんだ…!?

「えへへっ、パパも早く行こ〜!」

「あ、あぁ…」


俺はあやめさんの手を繋いだ左手を力を込めて握った。〜〜こうでもしなければ、あやめさんが離れていってしまうような気がして…。

「一郎君…?」

「…儀式が終わったら話があるんです。時間作れますか?」

「えぇ、私も確かめたいことがあって…。さっきの幻覚はきっと…――」

「ねぇ、何のお話ー?」

「ふふっ、パパとママだけの秘密のお話よ」

「きゃ〜っ!ヒミツだって〜♪」

「なんかエッチぃね〜♪」

「ふふふっ、二人ともおマセさんねぇ」

「はははは…」


子供達と笑いながら、俺の手をぎゅっと握り返してくれたあやめさん。

あやめさんとの絆も隊長としての経験も浅かったあの時と違って、今はあやめさんから頼りにされている…。あやめさんも一人で抱え込まず、悩みを打ち明けてくれている…。それがとても嬉しかった。

――サタンと最終降魔…。あんな悲劇が二度と繰り返さないよう、俺はあやめさんを守ってみせる…!絶対にこの幸せを失ってなるものか…!!



「――ほれ、ひいばあちゃんからお年玉じゃぞい」

「わ〜い!!」

「ありがとうございます、おばあちゃま!」

「わぁ〜!1円札だぁ〜!!」

「ほっほっほ!それでな〜んでも好きな物買ってもらうんじゃぞい?」

「はーい!」「はーい!」「はーい!」


先巫女様からお年玉をもらい、なでしこもひまわりも誠一郎も上機嫌だ。クリスマスプレゼントとお年玉がもらえる年末年始は、子供には天国だよな。

「すみません、こんな大金を3人分も…」

「なぁに、老い先短い年寄りの気まぐれじゃよ。……あやめとかえでにしてやれんかったことを、せめてひ孫達にしてやりたくてなぁ…」


そうか…。あやめさんとかえでさんがなでしこ達ぐらいの頃には、もう巫女の修行を始めてたんだよな。二人とも若くして亡くなった先代のお母様の後を継ぐ立派な巫女になる為に先巫女様の下で厳しい修行に耐えて…。

「まさか二人とも巫女の素質があったとはのぅ。口うるさいばばあと恨まれようとも、手塩にかけて育てた甲斐があったものじゃ。わしが生きている間は天雲神社も安泰じゃな」

「何言ってるんですか。先巫女様にはまだまだ元気でいて頂かないと」

「そうよ、おばあちゃま。私達が大人になるまで長生きして下さいね!」

「〜〜大好きなおばあちゃんがいなくなったら僕、悲しいもん…」

「お前さん達…。〜〜ぐす…っ、長い気はするもんじゃなぁ。今日は大盤振る舞いじゃ!お布施で頂いた10円札もくれてやるわいっ♪」

「わ〜い!だから、おばあちゃんって好き〜♪」


〜〜ははは…、先巫女様はなでしこ達を溺愛してるからな…。昔の威厳が嘘みたいだ…。

「ねぇパパぁ〜、ひまわり、リコちゃんハウスが欲しいな〜♪」

「僕は新しいグローブ!」

「私は夏目漱石先生の『坊ちゃん』がいいわ」

「はは、わかった、わかった。じゃあ帰りに買って行こうか!」

「わーい!」「わーい!」「わーい!」

「――は〜い、お雑煮出来たわよ〜」

「わ〜い、お餅お餅〜!」

「コラ!食べるのは皆揃ってからな?」

「ふふっ、――はい、一郎君。熱いから気をつけてね?」

「は、はい…♪」


あやめさんって何着ても似合うよな…♪さっきの巫女装束も素敵だったが、この割烹着もなかなか…♪

「――ただいまー」

「お帰りなさい、かえで。お守りは売れた?」

「えぇ、バッチリ完売したわ!しわくちゃの年寄りより、若くて美しい巫女が売ると売り上げも違ってくるわよね〜♪」

「…フン、正月早々、年寄りを馬鹿にすると罰が当たるぞい?」

「ふふっ、じゃあご褒美にお餅一枚追加してあげるわね」

「俺も手伝いますよ」

「私なら大丈夫だから。お正月くらい一郎君もゆっくりしてて、ね?」


……あやめさんはあれから忙しく動き回っているが、特に変わった様子はなさそうだな…。今のところ、幻覚も見えてなさそうだし…。

「母さん、すっごく綺麗〜!」

「私達も巫女さんやりたいです〜」

「ふふっ、もう少し大きくなってからね」

「〜〜ちぇ〜」

「…あら?おせち、まだ持ってきてないの?」

「あ、俺が持ってきますよ。玄関に置いてあるんでしたよね?」

「えぇ。ついでに清酒も一升瓶お願いね〜♪」


〜〜ハハハ…、今年も『うわばみのかえでさん』は健在みたいだな…。

えっと、おせちの重箱は…っと?

「――旦那様、おせちならここに…」

「あぁ、ありがとう――!」


重箱を受け取ろうと神官の顔を見た俺はハッとなり、正月の家族団欒で緩みつつあった顔を引き締めた。

「…宍戸だな?正月からご苦労様」

「はははっ、俺の完ペキな変装を見破るとは、さすが大神司令だねぇ〜」


と、神官に扮装した男・宍戸光星は銀髪のカツラを取って、ニッと笑った。


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